アスカの一人称。
昔書いたもののアーカイブです。
pixivにも投稿しています。
もう、どうでもいい。何もかも、全部、どうだっていい。
一秒後に世界が滅んだとしても、私はきっと後悔しない。ううん、むしろそうなってしまえばいいのに。
真っ暗な部屋の中、ベットの上で膝を抱えて座ってる。もうどれくらい、こうしているんだろ。忘れちゃったわ。
床には、物がめちゃくちゃに散乱しているはずで、迂闊に下りられたもんじゃない。
物にあたることにも、大声で叫ぶことにも、とっくに疲れて、今はただ時間が肌を撫でていく不愉快な感触にじっと耐えてる。
シンクロ率、ゼロ……エヴァに乗れない私。笑っちゃうくらい、何も残らない。
選ばれた子供。私は、特別。だから、誇らしい気持ちでいられたのに。今まで胸を張って生きてこられたのに。
それがなくなった私は――何も無い私は、こうして闇の中でうずくまることしかできない。
〝昨日まではお姫様。でも今は、ギロチン台の上〟そんな心境。
でも、私の場合はもっと悪い。私には、生を断ち切ってくれるギロチンの刃さえ無いんだから。
と、部屋の扉が遠慮がちに叩かれた。誰かは分かっている。けれど私は、何も答えなかった。
「……アスカ、起きてる?」
予想通り、シンジの声。やっとこちらに聞こえるくらいの小さな声。私は、やはり返事をしなかった。
「開けるよ……?」
宣言してから、だいぶ間を置いて――開けていいのか、迷ったんでしょうね。まったく意気地のない。鍵が付いてるわけじゃなし、さっさと開ければいいのに――扉が開かれる。
差し込んでくる光に、私は目を細めた。
「ご飯、作ったんだけど……」
入り口に立つシンジの姿。手に持ったお盆に食事を載せている。
「いらない……」
私は、ほとんど口を動かさずにつぶやいた。
「気に入らないなら作り直すよ。何が食べたいの……?」
私の機嫌を伺うような言葉と、表情。なんなんだろう、こいつ? いつも、いつも他人の目ばかり気にして。「せっかく作ったんだから、食べろ」くらい言えないの。
「何も食べたくない……」
食欲も、どこかに消えてしまったみたい。まるで湧かない。
「でも、何か食べないと……もう何日もまともに食べてないじゃないか……」
こちらの様子を見ながら、途切れ途切れに言うシンジに苛ついて、私は叫んでいた。何日かぶりの大声だ。
「食べたくないって言ってるでしょ!」
シンジは、体をびくりとさせたが、
「けど……」
それでもなお食い下がってくる。その私を見る悲壮な表情から、自分がどれほど酷い顔をしているか想像できた。
シンジは私を見て――けれど目は合わせずに――反応を待っている。
苛々する。こいつを見ていると、苛々する。
持ってるくせに、私が必死に守ろうとしたもの、今でもちゃんと持ってるくせに。抜群のシンクロ率。輝かしい戦歴。エヴァのエースパイロット。無敵のシンジ様。
だったら、持ってるんだったら、もっと堂々としてればいい。私を見下せばいい。屈服させればいい。私が憧れてしまうくらいに、強く。
なのに、なのに、こいつは――
「僕が作った物が嫌なら、何か買ってくるけど……」
そんな情けないことを言う。
「いいから、ほっといてよ!」
私は腕に顔を押し付けた。このまま何も食べず、何も飲まず、何もせずに消え去ってしまいたい。
そろそろシンジも諦めるころだろうし。私が嫌がっているならしかたない、とか言い訳して。
けど、
「ほっとけないよ」
シンジの小さいけれどはっきりした声が聞こえて、私は顔は上げた。へえ、珍しく粘るじゃない。
「なんでよ?」
私は苦笑して聞く。ほっとけない理由なんてありゃしないだろうに。
「なんでって……だって、僕たち、か、家族みたいなものじゃないか」
「家族? 馬鹿じゃないの。ただ一緒の家に住んでるってだけの他人じゃない。何の繋がりもない、赤の他人じゃない」
シンジの答えがあまりにもおかしくて、笑ってしまう。まさかシンジだって、本気で思っていやしないでしょ。返答に困って、適当に口に出しただけに決まってる。
「そうかもしれない……けど、他人でも僕はアスカのことが好きだから、心配で」
「何?」
今こいつなんて言ったの?
「え……? だから、心配で――」
「そうじゃない! その前よ」
私が問い詰めると、シンジは顔を真っ赤にして繰り返した。
「ア、アスカのこと好きだから……」
「嘘よ!」
ベット下りて立ち上がる。運良く、何も足には刺さらない。
「あんた、恐いんでしょ? 他人が恐いんでしょ? でもその中で、私といるのが一番傷つかないから、一番ましだから側にいたいって思うんでしょ? 都合良く寂しさを忘れられるから」
一歩、一歩、散乱した物を踏み分けながらシンジに近づく。身動きしないシンジの前にたどり着いて、
「それが好き? そんなわけないじゃないっ!」
腕を振るい持っているお盆を弾き飛ばす。派手な音を立てて食器が散乱する。割れた物もあったかもしれない。
「ア、アスカ……あっ」
シンジは、驚いて後ずさった。廊下に出て、足を滑らせて尻餅をつく。
私は、倒れたシンジの上にのし掛かった。
「だったら見せてみなさいよ。好きだって証拠。今すぐ」
後悔させてやる。私のこと何も知りもしないで――今まで知ろうともしなかったくせに、好きだなんて口から出任せ言ったこと、絶対後悔させてやるから。
「証拠って……どうしたら……」
「そんなの自分で考えなさいよ!」
許しを請うような目を向けてくるシンジを、上から怒鳴りつけてやる。
シンジは眉を八の字にして、何度も瞬きして、声とも息ともつかない音を口から漏らす。どうしていいのかまるで分からず、困り果てた様子だ。
本当に、どこまでも情けないやつ。
「分かんないの? 私のこと好きなんでしょ? だったら――」
私は、頭突きをするみたいな速さで顔を降下させて、唇をシンジの唇に重ねた。つまり、キスをした。
安直な表現だと、我ながら思う。でもきっと、言葉以外で好意を表す方法は、そんなに多くない。
もちろん目なんか閉じてやらない。シンジも、びっくりして目を見開いてる。
意地になって、ぎゅっと強く押し付ける。
私はできるだけ長い間そうしていたつもりだったけれど、実際には数十秒程度のことでしかなかったはず。
唇を離すと、シンジは苦しげに大きく息を吐いた。私も幾分、鼓動が速まっている。口づけをしたまま鼻で呼吸するのは、なんとなく躊躇われて、ほとんど息を止めてしまっていた。
「アスカ……」
「ほら、例を見せてあげたわよ。あんたも、やって見せなさいよ。好きだって証拠。別のやり方で」
睨んでやる。強く、強く、瞳に力を込めて。
シンジは、ゆっくりと身を起こす。上目遣いでこっちを見て、私の背後に手を回す。
抱きしめられた――わけじゃない。ただ背中に触れられているだけ。腫れ物に触るみたいに、まるで力がこもっていない。向き合った体も、随分と離れている。
恐いんだ。こいつは人に触れることを、どうしようもなく恐れている。そのくせに好きだなんて――。
怒りが湧いた。
「馬鹿にすんじゃないわよ!」
激情に任せて、シンジを突き飛ばす。
「うわっ」
シンジは廊下に背中を打ちつけて、顔を歪めた。
立ち上がって、倒れているシンジの胸ぐらを掴んで起き上がらせる。そのまま――
「こっち、来なさいよ」
シンジを部屋の中に引きずり込んで、ベッドの方に突き飛ばした。
私は、タンクトップとスパッツ、それにブラとショーツ、次々に脱ぎ捨てる。ふと見下ろした自分の体は、想像以上にやつれていて、苦笑してしまった。肋骨が、はっきりと浮き出てしまっている。
「な、なにするの……?」
ベッドに半身を乗せて、完全に怯えた様子でシンジが聞いてくる。
「決まってんでしょ。セックスよ」
「セ、セックスぅ」
答えてやると、シンジは上擦った声で繰り返した。
「そうよ。これ以上分かりやすい証拠はないでしょ? 好きだったらできるわよね?」
言いながら、自分の嘘に呆れてしまう。セックスが愛情の産物だなんて信じてるほど、私はイノセントじゃない。
「えっ、そ、それは……で、でも……」
「今更、がたがた言ってんじゃないわよ」
狼狽えるシンジの上に覆い被さって、服を剥ぎ取る。
「や、やめてよ」
今にも泣きそうなシンジの懇願はもちろん無視して、私と同じ裸にしてやる。シンジの性器は、もう大きくなっていて――
「なによ。あんたも、すっかりその気なんじゃない」
嘲笑ってやると、シンジは顔を真っ赤にした。私は内心で、ほっとする。今の痩せこけた身体では――いや、以前のいくらかは自信のあった体型の時でさえ、シンジにとって魅力が無いのではないかと怯えていたから。
一緒に暮らすようになって、私は何度となくシンジを挑発した。けれどいつだって、こいつは誘いに乗ってはこなかった。そんなことをするのは、大抵一人でいるのが堪らない時なのに――もちろん相手は誰だってよかった。たまたま、そこにシンジがいただけのこと――本当にこの世界で一人きりになってしまったようで、苦しい思いをした。寂しさを見透かされているのではないかと疑いさえした。
けど違った。こいつ他人に触れられないだけ。許可を貰わなくちゃ、肩に手を掛けることも、握手も、抱きしめることも、口づけも、身体を重ねることも、何一つできない。ただ待ってるだけの臆病者。最低の卑怯者。
身を寄せ合うことでしか、生き物は相手の温もりを感じることができない。例えそれが、鋭い棘で互いにその身を傷つけ合う行為だとしたって。それを恐れて後ずさりばかりしているやつが、人を好きになれるわけがない!
「本当は嫌いなんでしょ、私のこと?」
「えっ?」
ぽつりと言うと、シンジは間の抜けた顔を見せた。すっとぼけてんじゃないわよ。
「わがままで、高飛車で、生意気で、乱暴で、口汚くて、傲慢で、エリート面してて、口だけで実力が伴って無くて、いけ好かないやつだって思ってんでしょ!? エヴァに乗れなくなって、ざまあ見ろって、そう思ってんでしょ!?」
一気にまくし立てる。自分の短所、無自覚じゃない。けど、直すつもりなんか無い。だって、これが私だから。これまで生きてきた、私だから。
「言いなさいよ、ホントのこと。好きじゃないって、嫌いなんだって。そしたら、やめてあげるわよ。こんなこと……」
嫌いって、早く言って欲しい。そしたらきっと、楽になれる。だって、はっきり嫌われてるって分かれば、もう嫌われてるのかも? って、びくびくする必要なくなるじゃない。
私が、じっと見下ろす中でシンジは、
「嫌いなわけないじゃないか……好きだよ、ほんとに……」
まだ欺瞞を続ける。
私は、かっとなる。せっかく素直に認めるなら、許してやろうと思ったのに。
「そう……。だったら、行動で示して見せなさいよ!」
私はシンジの顔に、股間を押し当てた。
「舐めなさいよ、私のまんこ! 好きだったらできるでしょ!?」
息ができないくらいに強く、口元に押し当ててやる。
「うぅっ」
シンジは苦しそうに呻いた。顔を動かして逃げようとするので、手で押さえつけてやる。
「臭いでしょ? 汚いでしょ? 三日もお風呂入ってないんだからさぁ」
私は、汚れてしまっている。腐ってしまっている。それはもう、洗い流すことなんてできない。だから、お風呂にも入らない。意味がない。面倒なだけだから。どうだっていい。
私は、汚れた性器を何度もシンジの顔に擦りつけた。
「ほら、さっさと舐めなさいよ。犬みたいに、舌出してさ。好きなんでしょ、私のこと?」
そろそろシンジも、私の醜さを思い知っただろうか。悪臭と嫌悪で、涙を流して許しを請うなら許してやろう。仕方のないことだから。そう思う。
なのに――
「あっ」
暖かな感触を性器に受けて、私は声を漏らしてしまった。
見下ろすと、シンジが性器に舌を這わせている。子犬が皿のミルクを飲むみたいにチロチロとだけれど、上目使いで私を見て健気に舐めている。
「な、や――」
やめなさいよ、そう叫びそうになるのをぐっと堪える。動揺してしまっている心を、なんとか落ち着かせようとする。
こいつは、言われたことにただ従っているだけ。状況に流されているだけ。私の汚れを受け入れてくれているわけじゃない。
そう、こいつは――シンジは、ただ馬鹿なだけだ。
「なによ、そのしみったれた舐め方は? もっと強く舐めなさいよ。そんなんじゃ、ちっとも気持ちよくなんてなれやしないわよ」
シンジは、私の言った通りに舌の動きを大きくさせる。顔と舌を必死に動かして、ほんと犬みたいだ。
「う、うぅっ」
クリを舌に撫でられて、出そうになった嬌声を噛み殺す。気持ちいい……。けど今は、感じてる場合じゃない。そのためにさせているわけじゃない。シンジを試すため。私のことを好きじゃないって分からせるため。
「もっとよ! 奧まで舌を入れんのよ!」
叫んで命令する。
シンジは、さすがに躊躇したのか、動きを止めた。
ほら、やっぱりできないんじゃない。油断していると、
「ひゃっ、あぁぁ」
尖らせたシンジの舌が膣内に差し入れられて、私は成すすべなく悲鳴を上げてしまった。そんな、信じられない。
「あ、あんた…汚いとか思わないの……? ずっと洗ってないのよ」
思わず聞くと、
「そんなこと思わないよ。アスカのだもの」
シンジは――生意気に微笑なんか浮かべて――当たり前のように答えた。
シンジの舌の動きは段々と大胆に――激しくなる。
「んぅっ、はぁ、あぁっ」
もう声が抑えられない。腰が浮いてしまいそうになる。
「アスカ……」
「な、なによ?」
名を呼ばれて、天井に向いていた視線を下すと、シンジは遠慮がちに口を開いた。
「……濡れてるよ」
顔が一瞬で真っ赤に染まった。火が出そうなほど熱い。
「ば、馬鹿言ってんじゃないわよ! あんたの唾液でしょ! こんな下手くそな愛撫で、私が感じるわけないじゃない!」
私は否定の言葉を畳み掛けて、立ち上がった。すると、粘度のある液体が糸を引いて股間から垂れ下がる。もちろん唾液じゃない。
は、恥ずかしい。シンジは、今にも笑い出しそうな顔をしている。こいつぅ。
「もういいわ。するわよ、セックス」
私は軽く頭を振って気を取り直すと、意味もなくシンジに指を突きつけて宣告した。
「ほ、ほんとにするの?」
シンジの返事。予想していたこととはいえ、少しだけ残念に思っている自分がいることが悔しい。
そんな心境は欠片も出さずに、シンジを罵倒する。それくらいの意地は、まだある。
「はん、とうとう本音が出たわね。嫌なら、嫌って、最初から言いなさいよ!」
「違うよ! 僕はアスカのこと好きだし、その……できるなら、嬉しいけど。けど、アスカは、それでいいの?」
シンジの言葉に、ぽかんとなってしまう。そう言えば、私のことを好きだと言ったシンジの発言を撤回させることにばかり気を取られて、自分がシンジとセックスしたいかどうかなんて考えていなかった。でもどうせ、今の私には何の希望も、欲求もありはしない。
「――いいのよ。これは、あんたを試すためにするんだもの。あ、もちろん私は、あんたのこと大嫌いだけど」
「そんなの、おかしいよ……」
悲しそうなシンジの顔。それは、好きでもない相手とセックスするなんて間違ってると、訴えている。こいつらしい、ガキっぽい考え――ガキっぽくて、純粋な思い。
その顔を見ていると、私はなんだか居たたまれなくなって、
「あぁ、もうっ! うだうだ言ってんじゃないわよ。あんたの〝ここ〟は、さっきからやりたくて堪んないって言ってんじゃない」
目を逸らすために、シンジの性器を鷲掴みにした。ついでに、擦り立ててやる。
「あっ、あぁぁっ」
シンジは、女みたいな声を上げる。なによ、ちょっと触ってやっただけで、もう我慢できませんって顔になってるじゃない。
「これで最後よ。あんた、私のこと――」
「好きだよ、アスカのこと。嫌われてても、僕は好きだよ」
私の問いを先回りして、シンジは妙にきっぱりと言い切った。なによ、らしくないじゃない。生意気。
「じゃ、いくわよ」
「うん」
シンジが頷くのを確認して、私は狙いを定めて腰を落とした。
充分に濡れていた秘所は、亀頭を簡単に飲み込んだ。けれど、そこで止まってしまう。
このまま進めてしまってよいものなのか、それともやり方が間違っているのか。不安と恐怖で動きが止まってしまう。
「アスカ……?」
シンジが心配そうに見つめてくる。
冗談じゃない! こいつに心配されるなんて、耐えられない。
私は、一気に腰を落とした。痛みは完全に無視する。
「あぁぅぅっ」
シンジのペニスを完全にくわえ込んで、私は荒く息を継いだ。シンジの性器と私の性器は、完全に結合している。これがセックス? 快楽、高揚、達成感、どれも感じない。
あるのは、秘所を押し広げ侵入している異物感。それに痛み。
「だ、だいじょうぶ?」
癇に障る、シンジのいたわりの声。きっと、眉間に皺が寄ってしまっているに違いない。
「……平気よ。平気に決まってんじゃない。ほら、なにぼさっとしてんのよ! さっさと突き上げなさいよ!」
私は歪んだ顔をなんとか直して、言い放った。
「で、でも、そんなことしたらアスカが――」
「好きなんでしょ、私のこと? だったらしなさいよ。あんたも、このままじゃ蛇の生殺しで辛いんでしょ?」
「う、うん……じゃあ、痛かったら言ってね。すぐにやめるから」
言って、シンジが腰を動かし始める。それはほんの僅かなものでしか、なかったけれど――
「あぁぁっ!」
裂けるような痛みに、私は悲鳴を上げてしまう。
それ聞いて、シンジはすぐに動きを止める。
「ア、アスカ」
「馬鹿っ! なに勝手にやめてんのよ。続けなさいよ!」
「で、でも――」
「いい、もう一度勝手にやめたりしたら、あんたが私のこと好きだって言うの、嘘だってことだからね。私のこと嫌いだってことよ」
そう言ってやると、不承不承といった様子ながら、シンジは無言で頷いて腰の動きを再開させた。
その振動は、相変わらず微かなものでしかない。けれど、痛みは容赦なく私の神経を襲う。
痛い、痛い、痛い、痛いっ! なによ、これ。ちっとも気持ちよくなんてないじゃない。こんなのを、皆好きでしてるっていうの? 信じらんない……。
感じないのは、きっと相手がこいつで、こんなみみっちい動きしかしていないからだ。そうに決まってる。
「馬鹿シンジ! あんたの好きって、こんなもんなの? ほんとに私のことが好きなら、力いっぱい突き上げてみなさいよ! 私のこと、よがり殺すくらいの気持ちでさ」
シンジに向けて叫ぶと腰の動きが急に激しくなり、私は身体を仰け反らせた。
「ひゃぁ、あぁぁっ」
シンジのやつ、馬鹿正直に懸命に腰を動かしてる。『好きだよ。本当に好きだよ』って。好きの大きさを表すために、強く、強く、突き上げてくる。
「あっ、あぁ、あぁっ」
心底馬鹿だ、こいつ。そんなことをしたって、私は痛いだけ。気持ちなんか伝わらないし、ぜんぜん感じない。
ただ痛いだけで――
「あぁっ、はぁ、あぁ」
なのに気がつくと、いつの間にか私の口から出るのは悲鳴ではなくなっている。
必死に腰を上下させるシンジの姿を見下ろす。うっすらと汗さえかいている。きっと、こいつの滑稽な姿を見ている内に痛みを忘れてしまったに違いない。
代わりに感じるのが気持ちよさ――かどうかは、はっきり分からない。ただ、シンジが私の奧を突く度に、何かが頭をかすめる――ううん、むしろ、頭の中から何かを消し去っていくような。
不確かな、曖昧な感覚。けれど、私はそれに身を任せてしまおうと思った。〝任せる〟なんて、私らしくない。けれど、そうしてしまいたい――そんな気分だった。
シンジの突き上げに合わせて、私も腰を動かし始める。
「ア、アスカ……?」
それに気づいたのか、シンジが驚いた顔で私を見る。
「なに見てんのよ。言っとくけど、まだこの程度じゃ好きだなんて認めてやらないわよ。好きだって証明したいなら、もっと、ずっと、私が壊れるくらいに突き上げんのよ、分かったわね!?」
「うん、好きだから――好きだからするよ、思いきり」
シンジの動きは一段と激しくなって、私の頭の中を白く染めていく。
「もっとよ、もっとっ!」
がらくただらけの、頭の中を空っぽにして欲しい。過去を消して、未来を思考することも止めて、今この瞬間だけを感じたい。
「ア、アスカ、僕、もう……」
切羽詰まったシンジの声。もう限界みたいだ。せっかく乗ってきたってのに。
「なによ、情けないわね。いいわ、出しなさいよ」
そう言うと、
「えぇっ、なに言って……」
シンジの目は点になった。
「あんたの精子、私ん中に出せって言ってんのよ。好きだったらさ、当然でしょ?」
馬鹿なこと言ってるって、自分でも思う。でも、ここまできたら意地だ。最後まで、とことんまでやってやる。
「だ、駄目だよ、そんなの!」
シンジは、猛然と制止してくる。こいつの倫理観じゃ、この年齢で女の子を妊娠させちゃうなんて、酷い大罪なんでしょうね。
「あんた馬鹿ぁ? あんたに拒否権なんて、はなっから無いのよ」
私は動きを止めてしまったシンジの代わりに、身体を跳ねさせた。自分だけで動くというのも、悪くない。快楽だけを巧く享受できる。
「あっ、だ、駄目だったらぁ、はうぅ、出ちゃうよぉ」
シンジの嬌声と一緒に、私の興奮も高まっていく。頭の中を白く、白く塗りつぶすために、私は動きを限界まで早めた。
「あぁっ、あぁあぁぁぁっ!」
「はぁ、はぁっ、あぁぁっ!」
シンジが私の中に精液を放った瞬間、私も絶頂に達して、シンジの胸へと倒れ込んでいた。
真っ白だった。何も無かった。
達した瞬間、全ての束縛から解き放たれた気がした。これを求めて――この一瞬を感じるために人間はセックスをするだろうか。だとしたら、なんとなく分かる。
けれど終わってしまえば、すぐに虚しさと自己嫌悪がやってくる。きっとたぶん、みんなそうだ。そして、それでも一瞬のために異性を求めるのだ。刹那の解放のために。
私はシンジの薄い胸板に顔を乗せて、ぼんやりとそんなことを考えていた。
おずおずと、シンジが話し掛けてくる。
「……アスカ。好きだっていうの、信じてくれた?」
私は少し考えて――正確には考える振りをして、答えた。
「ぜんぜん。信じらんないわよ、あんたの言葉なんて」
「そう……」
残念そうに、シンジがつぶやく。
すぅっと、シンジの腕が動いて、私の背中に回った。最初に命令した時よりは、幾分強く抱かれる。それでも、かなり遠慮しているのが分かる。まあ、自主的にしるってだけで、好印象だけど。
「信じてもらえなくても、好きだよ。本当に……神様に誓ってもいい。アスカに気に入ってもらえるように努力するし、役に立てるなら何だって――」
恐らくは必死に考えながら口にしているだろうシンジの言葉を、私は手の平を口に押し付けて遮った。
「黙んなさいよ。あんたの言葉なんて何度聞こうが、信用できないんだから」
言葉なんかよりも今は、もっと強く抱きしめて欲しい。
窒息するくらい強く抱いて――確かに、ここにいるって――私の存在を確かめて欲しい。
そんな思いを込めて、シンジを見つめる。
けど、この馬鹿は、きょとんとした顔をするばかりで、ぎゅっとなんて抱きしめてくれない。
まあ、仕方がない。馬鹿シンジだし。過剰な期待ってやつだ。
仕方がないから、私はシンジの後頭部を腕で抱いた。
しかし汗くさい。シンジでも臭うのだから、私の臭いは相当なものだろう。さすがにシャワーくらい浴びないとまずい。
それに、お腹も空いた。食欲が湧くなんて、何日振りだろう。
私が腕に力を込めると、私を抱くシンジの腕の力もわずかに強くなった。
そっか、そういうことなんだ。
「あのさ、シンジ。明日の朝ごはん――」