「どうなってるんですか、いったい!」
シンジは精一杯肩を怒らせて、リツコに詰め寄った。
「どう、と言われてもね」
シンジの気も知らず、リツコは落ち着き払った様子でマグカップのコーヒーを啜る。
「アスカ、口聞いてくれなくなっちゃったんですよ。今朝だって、大きくなったままぜんぜんおさまってくれないし、だから――」
「だから、朝から自慰をしたの?」
シンジの声にリツコの声が被る。アスカに気づかれないように、声を押し殺すのは大変だった。それに朝からオナニーをするというのは、酷く罪悪感があった。なんに対してかと聞かれると、うまく答えられないが、たぶん世間やお天道様に対してだと思う。
「し、しかたないじゃないですかっ。大きくしたままじゃ、出掛けられないし。でも、それでももう……」
ほんの数時間前に〝処理〟したばかりだというのに、シンジのペニスはまた膨張してしまっていた。
リツコが、膨らんだシンジの股間を見つめる。
「確かに、また勃起してしまっているようね。脱いで見せて」
「えっ」
「え、じゃないわ。脱いで見せてくれないと、対処のしようがないでしょ?」
もっともなのだが、昨日も見られているとはいえ、勃起した状態の性器を女性の目に晒すのは、激しく抵抗がある。
(ま、まずいよね……)
「心配しなくてもいいわよ。私はアスカほど若くも純粋でもないから、勃起したペニスを見たからといって、あなたを軽蔑したりはしないわ」
「はい……」
諭すように言われて、シンジはズボンのベルトに手を掛けた。
ズボンとブリーフを下ろして、性器を露出させる。やはり完全に勃起している。またすこし大きくなったように思えるのは、錯覚だろうか。
「ふふ、ほんと、ちょっと見ない間にずいぶんと立派になったようね。こんなにすぐ、しかもこれほど効果が出るわけがないのだけれど。体質の問題かしら」
リツコは苦笑して見せた。
「笑い事じゃないですよ。どうにかしてください」
滑稽かもしれないが、シンジとっては切実な問題なのだ。
「……シンジ君、あなた、卵を割ることができるかしら?」
唐突に聞かれて、シンジは面食らった。
「できますよ……」
ほとんど毎日、食事を作る際に割っている。
「じゃあ、それを元に戻すことは?」
「そんなのできるわけないじゃないですか」
「そうね。できるわけがないわ。それと同じ。なにかできるからといって、その逆もできるとは必ずしも限らないのよ」
そこまで言われて、彼女がなにを言いたいのか、ようやく察することができる。
「つまり、僕の……これも元に戻せないってことですか?」
「まあ、端的に言えばそうね」
「そんな……無責任ですよ……」
シンジは、泣きたくなった。
「そう悲観する必要もないでしょう。すこし早く大人のペニスになったと思えば。昨日までの可愛らしいものより、素敵だと思うわよ」
そんな風に慰められたからといって、すぐに気を持ち直せるほどシンジは単純ではない。注射なんかするんじゃなかったと、後悔の念が胸中で渦を巻くばかりだ。
「ひゃぁっ」
突然、性器をむんずと掴まれ、シンジは悲鳴を上げた。
「なっ、なにするんですか!?」
「このまま、というわけにはいかないでしょ。この後テストだし。この状態でプラグスーツなんて着たら、大変よ」
「い、いいですよ。じ、自分でやります」
シンジはリツコの手を押しのけようとしたが、彼女は頑として性器を離してくれない。
「遠慮しなくていいわよ。私に任せてくれたほうが、ずっと早いから」
言葉通り、性感は急速高まっていく。リツコは性器を軽く握り、指をわずかに動かしているだけだというのに。
それは愛撫というよりも、家畜から精液を採取するための技術のように感じられた。感じさせるのではなく、ただ射精させるための。
「うぅっ」
「一分越えてしまったわね。あなたくらいの年の子だったら、三十秒を切る自信があったのだけれど。これも薬の効果のせいかしら。それでも、もう限界ね」
その通りだった。ペニスから、白い奔流が噴き上がる。
部屋の入り口の自動ドアがスライドして開き――
「リツコ、聞きたいことがあるんだけど――」
現れたアスカの表情が固まった。それはシンジも同じだった。このまま時が止まってしまえばいいのに、と思うが願いは叶わない。
「最低」
アスカの低い声を残して、すぐにドアは閉まった。
「なにか、勘違いされたみたいね」
リツコが片手ペニスを握ったまま、もう片方の手でマグカップを口に運んだ。
とりあえず、アスカには口を聞いてもらうどころか、目を合わせてもらうことも、もうできないだろうなと、シンジは絶望的に思った。ミサトのマンションを追い出される日も近いかもしれない。
「にしても、萎えないのね。もう一度、しておこうかしら?」
射精してなお勃起したままのシンジのペニスを見て、リツコが言う。
結局、あと三回、シンジは精液を採取された。
「はぁ…はぁ……はっ」
声を抑えて、右手で必死にペニスを擦る。
学校のトイレの個室。こんな所でなにをしてるんだろうと思う。でも、しょうがない。こうして処理しないと、授業中だろうがなんだろうがお構いなしに勃起してしまうのだから。
あの注射をされてから、一人でいるときはオナニーばかりしているような気がする。しないと勝手に勃起してしまう間隔も、だんだん短くなっている。このままいくと、ひょっとしたら四六時中自慰をしていなくていけなくなるかもしれない。
「なんで……こんなことになっちゃったんだろ……こんなになるんだったら、小さいままのほうがよかった……」
情けなくて、涙が出てしまう。シンジは涙を流しながら、休み時間中に射精するために右手を動かし続けた。
「碇君」
放課後。どうにか無事に授業を終えて急いで家に帰ろうとしていたシンジは、声を掛けられて振り返った。
「委員長?」
見ると、学級委員の洞木ヒカリが立っている。腰に手を当てて、なんだか怒っているようにも見えた。
「ちょっといい?」
普段なら簡単に「うん、いいよ」と言えるのだが、今はまずい。いつのまた、ペニスが勃起してしまうかも分からない。
「あ、あのさ、僕、ちょっと用事があって、すぐに帰らないといけないんだけど……」
慣れない嘘をついてみるが、
「いいから、きてっ!」
ヒカリはシンジの腕を掴み、強引に教室の外に連れ出した。
連れてこられたのは、体育館の裏だった。ヒカリの怒りは、もう気のせいではなく。シンジは呼び出されたいじめられっ子のような気分になる。
眼前に仁王立ちになって、ヒカリが口を開く。
「碇君、アスカになにしたの?」
「ええっ、な、なにって……別になにも……」
核心を突かれて、シンジは悲鳴を上げそうになった。しかしまさか自慰をしているところを、しかも射精の瞬間を二度も見られたとは言えない。
「うそっ! アスカはなにも言わないけど、女の子があんなに思い詰めるなんて、好きな男の子のこと以外無いんだから」
断言されて、シンジは後ずさった。
と、局部が、むくりと起きあがるのが分かった。
(あぁ、アスカに見られたときのことなんか思い出すから……)
鎮まれ、鎮まれと念じてみるが、まったくの逆効果でペニスはその大きさを増していく。どうしてこんなままならないものを与えられたのだろうかと、シンジは神を呪いたくなった。
ついには完全に勃起して、ズボンを下から突き上げた。
「い、碇君…あなた……」
ヒカリは驚きで目を見開いて、絶句している。彼女が息を吸う音が聞こえて――
「ま、待って、これにはわけがあるんだ!」
シンジは慌てて、こんなことになってしまっている理由をヒカリに説明した。こんなところで叫び声を上げられたら、明日から学校中で変質者扱いされることになりかねない。
こうなってしまったらしかたがないので、アスカに見られたこともすべて告白する。
「そ、そうだったの……」
ヒカリの表情は、信じられないといった感じだ。シンジ自身、まだこの事実を受け入れられていないのだから無理もない。
「分かってくれた? じゃあ、僕、帰るね」
シンジは、ヒカリに背を向けた。帰る前に、またトイレに寄って処理しなくてはいけないだろう。それを思うと、鬱になる。
「ま、待って」
「え、なに?」
呼び止められて振り返る。
ヒカリは躊躇いを見せてから。
「あ、あの私が手伝ってあげようか?」
「ええっ!?」
シンジは驚いて、声を上げてしまう。なにを言ってるんだろう。信じられない。
「だって、ほら、一人でするよりは、その方が、その――いいんでしょ? こんなになっちゃったのは、私にも責任があるし」
「い、いいよ、そんなの。自分でできるから」
両手を顔の位置に挙げて、首を振るが、
「ううん、手伝わせて。だって私、学級委員なんだから、クラスの子が困ってたら助けてあげるのは当然でしょ」
ヒカリは責任感に火が点いてしまったみたいで、シンジに歩み寄ってくる。
「だ、だめだよ。そんなことさせたら、トウジに怒られちゃうよ」
「なっ、なんで、鈴原が出てくるの!? 関係ないでしょ」
シンジはヒカリとの距離を取ろうと後ろに下がりながら言ったが、彼女は顔を真っ赤にして歩みを早めた。
その剣幕に押されて、シンジは小石につまずいて後ろ向きに倒れてしまう。
「あ――痛っ」
そこへすかさず、ヒカリが覆い被さってくる。
「いい、碇君。私は碇君の苦しさを取り除いてあげるだけなんだからね。怪我の手当と同じなんだから、変な風に考えちゃだめよ」
(そ、そんなの無理だよ)
そんな割り切った考え方なんて、できるはずがない。
ズボンのチャックが下ろされて、ヒカリの手がズボンの中――ブリーフの脇に差し入れられ、シンジの性器が外へ出される。
窮屈な思いをしていたペニスは、嬉々としてヒカリの眼前にそそり立った。
「す、すごい……」
ヒカリは目を丸くした。
「男の子って、みんなこんなに大きいの……?」
「わ、分からないよ……」
そう答えるが、たぶん違うと思う。いくらなんでも、これは大きすぎる。
ヒカリの細い指が、シンジのペニスを掴んだ。
「こう?」
上下にゆっくり動かし始める。
「気持ちいいの?」
「うん……」
多少もどかしくはあるが、十分気持ちいい。
「熱いね…碇君のここ……」
一定のスピードで、ヒカリの手は動かされる。
学校の敷地内、晴れ渡った空の下でクラスメートに性器をしごきたてられている。その異常さが、快感を高めている気がした。
「あ、あの、もうすこし強くしてくれると……」
気持ちいいことは気持ちいいのだが、ヒカリの優しい触り方では射精までいき着けそうにない。
「え、そうなの。これくらい?」
ヒカリが手の握りを強め、早さも上げる。が、
「あぁっ…も、もっと、強くしてくれていいよ」
まだ刺激が弱い。
「ほんと? だいじょうぶなの?」
「うん、だいじょぶだから」
心配そうに聞くヒカリに、シンジは頷いた。
ヒカリはおそらく精一杯の力でペニスを握り、できる限りの早さで上下に擦った。
「あぁ、うぅぅっ」
シンジの口から嬌声が漏れる。これなら、すぐに射精できそうだ。
「ねえ、こうしたらもっといい?」
不意にヒカリが言って、ペニスに口を付けた。
亀頭に唇が軽く触れただけだったが、絶頂寸前で一番敏感になった部分を責められて、快感が一気に弾ける。
「あぁぁぁっ、どいてぇっ!」
「え?」
シンジの絶叫を聞いて、ヒカリが口を離す。その顔へ、ペニスから精液が浴びせられる。
「きゃあ」
今日だけでももう四、五回目の射精であるにも関わらず、噴出する精液の量は多くヒカリの顔を白く染めた。
「ご、ごめん、委員長。だいじょうぶ?」
慌てて謝るが、ヒカリは呆然していて答えてくれない。。
と、なにかが地面に落ちる音がした。
倒れたままの体勢で視線を巡らせると、見慣れたキーホルダーの付いた鞄が落ちている。そこから上方に目をやると、
「アスカ――」
アスカが、きょとんとした瞳で立ちつくしている。
彼女は一瞬、鼻から息が抜けたような笑みを見せて、振り返ると、鞄を置き去りにして猛然と走り去った。
家に帰ると、シンジの荷物は全て玄関の前に投げ捨てられていた。