「アスカったら、もうとりつくしまもないって言うの? 聞く耳なんて持ってくれないわけよ」
慣れた手つきでノートパソコンのキーを打ちながら、同僚の声を聞く。
「でさあ、シンちゃんと一緒にいたら殺しちゃいそうな勢いなわけ」
まさか本当に殺しはすまい。シンジがエヴァの操縦に支障が出る程度の怪我を負わされる可能性はあるが。
リツコは視線をモニターから動かさずに、ミサトに告げた
「いいわよ。シンジ君、家でしばらく預かってあげる」
「あは、ありがと。まあ、アスカも二、三日もすれば落ち着くだろうし」
それはどうだろう、と声には出さず思う。わだかまりは、時間を置いても容易に取り除かれるものではない。むしろその大きさを広げ、修復を困難にする。
いずれにせよ、概ね予想通りの展開になりつつある。リツコは、静かにほくそ笑んだ。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
どうにか部屋に荷物を運び終えて、シンジは一息ついた。
リビングに戻り、リツコに礼を言う。ミサトのマンションをアスカに追い出され、他にいく所なんてなかった。
「ありがとうございます、リツコさん」
「いいえ。部屋も空いていたし、ちょうどよかったわ」
言って、コーヒーを渡してくれる。
一口飲んで、シンジはリビングを見渡した。物がきちんと整頓されている。もちろんゴミなんか散乱していない。
「どうしたの? きょろきょろして」
「いえ――きれいにしてるんだなって、思って」
「そうかしら?」
「初めてミサトさん家に入ったときに比べたら、そりゃもう」
「ふっ、ミサトと比べられるなんて心外ね。あれはもう、一種の才能よ」
リツコは、珍しく笑った。
「そうですね」
シンジも笑みを返す。
それから、ちょっとあきらめが悪いかなと、思いつつも聞いてみる。
「で、あの……やっぱり直す方法は、ないんですか?」
「残念ながらね」
リツコの答えは予想通りで、シンジは肩を落とした。
「ひょっとして我慢できずに、クラスの子でも押し倒しちゃったのかしら?」
続いて出てきたリツコの言葉に、シンジはコーヒーを吹き出しそうになった。
「そ、そんなこと、するわけないじゃないですか!」
どもりながら慌てて、否定する。押し倒しなんかはしていない。倒れたところにのしかかられ、〝手伝って〟もらいはしたが。
「冗談よ。シンジ君に限って、そんなことはないわよね。でも、いくら立派だからって、見せたりはしないほうがいいわよ。年頃の子が今のシンジ君のものを見たりしたら、他のものになんて目がいかなくなってしまうでしょうから」
リツコは、本当に楽しげな笑みを浮かべて言った。シンジはリツコでもジョーク――しかも下ネタ――なんて言うんだなと無邪気に思い、愛想笑いした。
「えぇ、碇君、家追い出されちゃったの?」
シンジがミサトのマンションを出たことを伝えると、ヒカリは驚きの声を上げた。
昼休み。場所は体育館の裏。通路の縁に腰掛けている。事情を知っているヒカリには伝えておこうと、今日はシンジが呼び出した。
「うん……あんなところ見られちゃったんだから、しかたないけど」
アスカの立場で考えれば当然だとは思う。
「そっか。私も、なんかアスカに避けられてるみたい。ごめんね、私の所為で」
「そんな、悪いのは僕だし……」
ミサトは一週間もすればアスカも冷静になって許してくると言っていたが、シンジはそんな楽観をする気にはなれなかった。早く事情を説明したい。けれど、まともに話を聞いてもらうどころか、目さえ合わせてもらえない現状では到底無理だ。
そんなことを考えていて、沈んだ表情になっていたのだと思う。ヒカリに肩を叩かれた。
「安心して、碇君。アスカの誤解は私が解いてあげるから」
その微笑みと言葉に励まされる。彼女が学級委員に選ばれたわけが納得できた。
「ありがとう」
唐突に、ヒカリが話題を変えた。
「前の休み時間も教室にいなかったよね……?」
「え、うん」
確かに、三時間目と四時間目の間の休み時間も教室の外に出ていた。理由は――
「したの?」
はっきりと聞かれて、シンジはたじろいだ。が、
「う、うん」
今更、隠してもしかたがないので正直に答える。
ヒカリの視線が下がった。
「また、大きくなってるんじゃない?」
「ま、まだ平気だよ」
シンジは見られている股間を手で隠した。今は大きくはなっていない。しかし、ヒカリの視線を意識したら、すぐにでも勃起してしまうに決まっている。
「手伝ってあげる」
ヒカリが身を乗り出した。
「い、いいって、またアスカにでも見られたら……」
シンジは両手を前に突き出して、ヒカリを押しとどめた。またアスカに目撃されるようなことになったら、関係の修復など永久に不可能になってしまう。
「だいじょうぶ。誰もこないわよ」
ヒカリは根拠無く言って、シンジの股間に手を伸ばした。チャックが下ろされる。
「だ、だめだよ…だめだったら」
言葉で必死に否定するが、体ではほとんど抵抗できない。女の子に乱暴できない、ということもあるが。
性器が掴み出される。思った通り、晒されたそれは見る間に膨張してゆく。
「今日は口だけでしてみるわね」
ヒカリがペニスをくわえ込む。ヒカリの小さな口には、亀頭部分程度しか入らなかった。
ヒカリの濡れた舌が、亀頭の表面をなぞる。
「うぅ、あぁぁ」
口いっぱいにペニスを頬張り、上目遣いでシンジを見るヒカリの姿は、普段の真面目さとのギャップも手伝って、堪らなく淫らだった。
それがシンジの体だけでなく、心も興奮させていく。
(委員長が、僕のおちんちん舐めてるなんて……)
ヒカリの舌は、くびれの部分を重点的に責め始めた。
「あぁぁっ、はぁっ」
校内だというのに嬌声が漏れてしまう。快感だった。
絶頂が近付いてくる。
「い、委員長、どいてぇ……あぁ、出ちゃうから」
忠告するのに、ヒカリはペニスから口を離してくれない。どころか、首を左右に振って拒否する。
「あぁぁっ、ああぁぁぁっ」
シンジはヒカリの口内で、ペニスを弾けさせた。かなりの量が注ぎ込まれる。
射精が終わり、ようやくペニスはヒカリの口から解放された。
ヒカリの口の端から、白い液体が垂れる。
「だ、だいじょうぶ?」
聞くが、ヒカリは答えてくれない。
陶然とした表情で、口をくちゃくちゃと動かし、喉を鳴らして――そんなわけはないが――精液を味わっているようにも見えた。
口の周りの精液も舌で舐め取り、
「ええ、とっても美味しいわ」
ヒカリは微笑した。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
放課後、仏頂面をして早足で歩いていたアスカは、校門を出たところで後ろから呼び止められた。
「アスカッ」
ちょっと迷って、二、三歩進んでから立ち止まり、振り返る。
「ヒカリ……」
ヒカリは急いで走ってきたようで、息を切らせている。
「あのね、聞いて欲しいことがあるの」
シンジが泣きついたのか――いや、ヒカリのお節介な性格からして自分で進んできたのだろう。
「シンジのことだったら、知ってるわ」
アスカは、ため息と共に吐き出した。リツコからだいたいの事情は聞いた。ヒカリとのことも、二人の性格を考えればなんなく分かる。
それでもシンジを許せないのは――なぜだろう? 改めて考えてみると、自分でも理由は分からない。ただ、なんとなく面白くなくて、むしゃくしゃするのだ。まあ、一週間もしてシンジが心底懲りたころに許してやろうと、思っている。
「ううん、そのことじゃなくて――」
ヒカリに否定されて、アスカは首を捻った。じゃあ、なにを言いたいのだろう。
「私、碇君とつき合うことにしたから」
にっこりと笑顔で、ヒカリが言う。
「ごめんね、アスカ」
軽く頭を下げて、アスカの横を通り抜けていく。
その後ろ姿を、呆然と見送るアスカには、
「え? なに? なに言ったの?」
最後までヒカリの言葉の意味が分からなかった。