ダンまち 静寂IF 作:ショタ、コン?
エレボスがアルフィアを連れてオラリオへやってきた。そこで闇派閥の様子を見て、オラリオ自体の様子も見てオラリオを落とす方法を考えようとしていた。まずは外部と繋がっている通路を通ってソーマ・ファミリアへ案内されていた。
そこで神と女は悪とも呼べない人間の愚かさを目にすることになった。
ソーマ・ファミリアのホープとも呼べるザニスが首輪を引いて一人の少年を連れてくる。体自体は綺麗に整えられている。髪も顔も傷がなく、だが瞳に正気がなく、ただ生きているだけの人形のように見えた。
その少年の容姿を見て、愛しい子から引き継いだ白髪と忌まわしい赤目を宿した、妹にそっくりな愛らしい子。
見た瞬間に神も女も、その子供がどういう存在か一瞬で理解した。ザニスは何も理解しないまま卑下た表情を隠そうともしない。
「長旅でお疲れでしょう?どうぞ、この子はあなたへの労いの証です。お生憎女性へ出せる報酬はこの子一人でして……。神エレボスには専用の部屋を用意しております。選り取り見取りですよ」
「ほう。そうかそうか。どうする?アルフィア」
「……エレボス。前言撤回だ。私は必要悪にはなれないらしい。これから私が進む道は絶対悪だ。下界を見捨て、ただ一人の子のためにこの生涯を使う」
「ああ、それでいい。祝福しようアルフィア。悪よりは愛に生きる方が健全だろうさ。冥界の加護をくれてやる」
「感謝する。【
たった一言。
それだけでベルに付けられていた首輪と鎖は粉砕し、鎖の先を掴んでいたザニスと近くにいたソーマ・ファミリアの団長は吹き飛ばされ。壁に激突した後に肉塊に変わり果てていた。
ベルは何が起きたのかわからない。魔法なんて教わっていない上に、首輪がなくなった理由がわからないのだ。
アルフィアはそのままベルを抱き留める。膝まで付いて全身で彼を掬い上げた。ここからは自分が守ると誓った母親の姿だった。
「全部破壊する。この雑音は聴くに耐えん」
「俺も同感だ。あ、ソーマはまだ殺すなよ。ヴィトーも呼んで撤退準備を完璧にしてから送還する。目立ちすぎるんだよなぁ、アレ」
「撤退準備?」
「その子と同じ境遇の子がいくらかいるだろ。ここを全部破壊して生き残った子供は同じ目に遭うぞ。ベルだけを救って終わりにしたら
「……まずここの構成員を潰してからだぞ」
「それで良い」
最初の魔法の轟音で襲撃に気付いた構成員たちが集まってきたが、アルフィアが音の魔法で全部を蹴散らす。生きている人間はベルのように奴隷にされていた幼い少年少女だけ。奴隷リストが顧客用に作成されており、そして奴隷にも恩恵が施されていたので背中を確認して保護すべき人間を選定していた。
リストにはなかったものの助けた人間もいる。その筆頭はリリルカだ。ベルの記憶に残っていて助けてもらったことをアルフィアに伝えたために助かった。そしてリリルカから被害者側の人間を聞き出してその人物も助けることになった。
助けた人数は総勢三十人。オラリオから連れ出すには闇派閥が使う隠し通路を使うしかないだろう。
交渉をするために外で待機していたエレボス唯一の眷属であるヴィトーが中で轟音がしたために合流していた。そして事情を知って彼は主神の手助けをすることにした。
「良いのか?お前は暴れたいから付いてきたんだと思ったんだがな」
「我が神が魅せる破滅を特等席で見たかっただけです。そのパーティーがなくなるのであれば眷属として尽くしましょう。私の欠陥はいずれ答えを見出せば良い」
「ふうん?じゃあヴィトー。ソーマはお前が殺して良いぞ。神殺しなんて貴重な体験だろ」
「ありがたき幸せ」
ヴィトーと動ける人間で台車にヴァリスの入った麻袋や神酒を積み込んでいく。これからの食い扶持になる子供たちを生かすために必要な資金をもらっていくだけだ。この子たちで稼いだお金なのだから良いだろう。
ソーマは既にエレボスが足の腱を切って縄で拘束済みだ。悪の自覚がなく眷属たちが悪に染まっていたなどと神として失格だろう。
エレボスの美学に掠りもしなかった趣味神を逃げるための餌にすることに何も罪悪感を抱いていなかった。
「……どうしてこうなった」
「どうしても何も、お前が何もかもを放り投げたからだろ。自分の在り方に則って悪に染まるなら何も言わないが、酒だけに執心して眷属に与える恩恵なんて適当。そのガキが死んでも振り返ることのなかった親なんて自業自得だろ。金だけ受け取って良い酒は作れたか?作れないだろ。汚い金で作る酒なんて汚水と変わらないからな」
ソーマとの問答はそれだけで終わり、エレボスとしては落胆が大きい。ソーマと言えばインド神話でも有数の神で彼の作る酒は好きだった。それが下界に降りてこうも堕落してしまうのかと。
そういう神が多いために下界は劇物だなと溜息をついていた。
「エレボス。終わったらしいぞ」
「おう。じゃあこのまま地下通路だ。ヴィトーは数時間経ったら適当にソーマを殺してくれ。お前一人でもこの都市から脱出できるな?」
「ええ。ついでに他の地下通路の存在も示唆しましょうか?」
「それくらいサービスを与えてやらないとダンジョンの蓋が捲れるか。まだその時じゃない。そうしてくれ」
「かしこまりました」
アルフィアとエレボスは来た道を大集団を率いて逆走。見かけた闇派閥はついでのように魔法で吹っ飛ばし、地下通路での暴虐から三時間ほどしてからヴィトーがソーマを殺害。神が送還されたことでオラリオでは騒動になった。
オラリオで捜査が始まった隙を見てガネーシャ・ファミリアの目を掻い潜ってヴィトーは正門から脱出した。神の送還を見て商売をしにきた商人が恐れをなして逃げようとしたことに乗じて逃げるのは簡単だった。
ソーマが殺されファミリアも壊滅したことは調査でわかったが、それ以上に困惑したのはソーマ・ファミリアが闇派閥と繋がっていた証拠の数々だ。オラリオ外へ繋がる地下通路の存在、人身売買や闇派閥へ卸していた酒の証書など出るわ出るわ。
この証拠を使っていくつかの闇派閥を襲撃することに成功。オラリオの治安は若干良くなった。闇派閥としてもまさかの裏切りと期待していた邪神と最強の女がオラリオに来なかったことで規模が縮小の一途を辿った。
後々この件については闇派閥から追求されるが、それはアルフィアが一蹴する。
子供が多い中、進行も遅く長い旅路の果てにエレボスが下界で唯一信用するという神の元へやってきた。途中でヴィトーが合流したために道中は安全だったが、子供たちの精神的疲労は凄まじかった。
神がいる村に着くとその眷属たちが率先して子供たちを癒してくれた。食事なども振舞ってくれて匿うことも了承してくれた。
アルフィアはそんな豪胆な女神に覚えがなかったが、会えばすぐにその神のことがわかった。というかよく知っている神だった。その神にアルフィアは会おうとは思っていなかったことから珍しく目を丸くさせる。
こんな慈善活動をしていることにアルフィアが驚き、その神も恩恵からアルフィアのことを知っていたが自分の村に来るような人物ではないと思っていたので驚いていた。
「……まだ生きていたのか。アルフィア」
「ヘラ……。それはこっちのセリフだ。ゼウスはもう……」
「ああ、知っているさ。だが、まだお前とその子がいる。あの人とメーテリアが残した最後の希望を残して天界に戻る気はない。どうせ私たちにはいくらでも時間がある。……エレボス。その子らに恩恵を与えればいいな?」
「確認を取ってだ。アルフィアの更新だけしてくれれば今はいい。後はこの村で世話になる」
「ああ。ここの守りは私の眷属に任せておけ。オラリオの雑魚どもが来てもある程度は守り切れるぞ」
そこはヘラがオラリオを追放されてから開拓した一つの村。女性の比重が多いその村は傷心の子供たちを癒すにはうってつけの場所だろう。
子供たちは徐々に社会復帰をしていく。他の村や町に出ていく者。その村に居着いて仕事に従事する者。恩恵を貰って眷属として修行する者。
恩恵を貰った者の中にはベルとリリルカも含まれていた。彼らはアルフィアを師匠として揉まれていき、時にはモンスターを狩りに出かけ、他のファミリアと協力して周囲の村へ危険が及ばない様に仕事をしていた。
それは昔のベルを取り戻すために必要なことだった。昔夢見た、祖父と誓った夢。
英雄になる。その夢をもう一度燃やして彼はオラリオの外では破格の冒険者として成長していった。
その途中で出会った女神アルテミスと、アルテミス・ファミリアと一緒に討伐した大蠍。そんな冒険も果たしたかつての奴隷。
ベル・クラネル十二歳。
レベル三。