聖騎士イズヴァルトの伝説 第六部 『戦旗編』 作:CHACOとJAGUAR
今度は絶対に手加減無用だ。存分に暴れろと髭切が言う。そんなことはわかっているとイズヴァルトは鞘を抜いた剣の先で印を切り、まじないの言葉を唱えた。
「ヤルダバオトを信奉し、預言の聖者の名を汚す邪法を編み出した裏切り者よ。汝に問う」
あのからくりの魔物たちを動かす動力源と機巧とをつなぐ術式を断ち切る魔法のそれだ。イズヴァルトは適性こそ良くなかったが、唱える事で用いることが出来た。
「使徒ペテロとパウロ。師らの伝道が私欲を満たさんと欲す邪悪に染めたのは貴殿らか?」
とはいえ身体に負荷はかからなかった。あちらの世界で用いた時よりもすんなりと発動している。剣に彼の世界には無い言葉が光って浮き出る。青色のミスリル銀が紅色に変わっていた。
「贖罪による救世は、人を奇蹟で騙す悪の栄華に堕した。デミウルゴスの神殿と淫らな祀りで惑わせ、サタンの徒を野に増やし、悪魔の王国を築く汝らよ、メギドの炎で焼き払われる恐れを持たぬ不忠者たちよ」
この魔法は亜人は扱えない。ニンゲンだ。ニンゲンの血が濃く無ければだめなのだ。
「子羊らが正道に戻る為、破邪顕正をせしめん。我はその為の剣であり使者なるぞ!」
イズヴァルトが飛び上がった。そのままからくりの天使たちに襲い掛かる。彼の剣には1度触れただけでその術式を打ち破る力が備わっていた。
この呪文によって発すのが神聖魔法破り、である。魔界では『天使長の弾劾』というれっきとした名前が出回っているのだが、マハーヴァラ神を主神とする世界には天使と呼ばれる存在は無い。神の子ら、天人天女という概念のみだ。
------征け!
髭切が呼びかける。イズヴァルトは空を舞っていた。黙示録の騎士達が一斉にイズヴァルトのほうを振り向いた。
イズヴァルトの全力での飛翔魔法はあたりに嵐を巻き起こした。飛鳥山公園の木々に悲鳴をあげさせ、公園内にいた人々は、突然の烈風に驚いた。爆発音の次は竜巻なのか?
緑地に人がいるぐらいイズヴァルトもわかっていた。本当なら魔法に加減をしたい。けれどもあのからくりの魔物らは必ず容赦なく巻き込む。もし、あれを動かす命令を下している者が、あれらを生きた人間に見せたくないのなら。
「そなたらが狙うのは、拙者のみでござるぞ!」
叫びながら最初の1体を兜割りで真っ二つにする。機巧の内部の、左胸の奥に真っ赤に染まった球体の水晶があった。動力源であり魔蓄だ。イズヴァルトの世界では間引いた胎児の身体や、死にかけの者の脳と心臓を用いて造っていた。それらには呪いがあったから、強い力を発する事ができるのだ。
イズヴァルトは素早く印を切り、重圧の術式魔法を残骸に加えた。真っ二つになったからくりは一点に収れんされるように集まって押しつぶされ、爆散した。
血の匂いを嗅いだ。『魔蓄』が崩れると発するにおいだ。玉石に加工されたそれは砕けると魔力を失い液体となるのだ。
(……!)
大きな違和感を感じた。これまで嗅いだことがあるそれとは違った。何か甘い、その上に艶めかしい気分になる魔の性というものを感じられた。普通のニンゲンを結晶にしたものではないようだ。
(亜人か、魔族のものでござろうか……!)
この世界に亜人が? いいや、違うと思った。魔族かもしれない。特にサキュバスのだろう。この世界に魔物や魔族に準ずる存在があればまた別だが。
黙示録の騎士達が艶めかしい肢体を躍らせて飛び掛かって来た。魔法攻撃こそ厄介だが、これらのからくりの近接戦闘はそれ程でもない。四方から突きかかって来る穂先を剣で打ち払い、右にいた一体に横薙ぎの必殺を加えてバラバラにしてやった。
数は残り5体。とにかく速度が大事とイズヴァルトは猛攻を加える。敵が自爆必至の魔法をかけようとすると突っ込んで阻止する。1体。2体。もう1体。とにかく攻撃あるのみだ。からくりの魔法結界を容易に砕く、神聖魔法破りの効果がなくなる前に決着をつけたい。
「あと1体!」
7体ものからくりをものの2分で打ち壊したイズヴァルトは、目の前に残るもう1体に狙いをつけた。刹那、真下にある緑が広がる公園のあちこちから悲鳴があがった。
(……何事でござろうか!)
見切れなかった。しくじったと髭切が嘆く声が聞こえた。飛鳥山公園のあちこちに炎が起こっていた。その発火元には必ず焼け朽ちようとしてる人々の死体があった。
炎は公園の中の数百か所で起きていた。緑地内の建物でも。外に出て逃げる人々が飛んで来た光に当たり次々と発火し、もがき苦しみながら焼け骸となっていった。
その光はまさに、黙示録の騎士が放つものと同じだった。もう何体か潜ませていたとは。イズヴァルトは己の不明を恥じた。まさか敵がこんな無意味な殺戮も為すとは想像できなかった事にだ。
「おのれぇッッ!」
最後の黙示録の騎士を叩き潰すと、イズヴァルトは地上に降りた。赤ん坊を抱き抱えながら死ぬ両親や、愛用の自転車とともに焼け朽ちる若者の遺体があちこちにあった。初春の乾いた風に乗って火の粉が木々の葉に燃え移り、真昼にそぐわない激しい輝きを灯そうとしていた。
「……このあたりで、生きている人の気配はござろうか?」
------無い。この世界の住人のは、だがな。
「どういうことでござる?」
もうそろそろお目見えしてくれそうだ。髭切が答えるとイズヴァルトは後ろを振り向いて剣を舞わせた。何かを弾いて高い音が鳴った。投げナイフだった。
「何者でござるか!」
イズヴァルトが呼びかけると彼等は姿を現した。5人。誰もが真っ白な貫頭衣と帽子をかぶっていた。銀の首飾りをかけていた。
ただ、そのうち1人は日本人ではなかった。この世界でのアングロ=サクソンという人種によく似た金髪の男である。背は165も無いが横幅は広く、筋肉によろわれていた。目は鋭く顔のあごはいかつい。
「やはりお前か、ホーデンエーネンのイズヴァルト!」
黄色い歯を見せながらエチウの国の言葉で男が呼びかける。使い慣れている響きがした。彼がまとう気配と漂う魔力を感じ、この世界のニンゲンではないということがわかった。周りの日本人たちは彼をじろと見ていた。どこの言語で呼びかけているのかわからなかったからだ。
「エチウ諸島の共通語でござるか。貴殿は何者ぞ! 拙者の名を知り、その言葉で呼びかけられる者は、拙者がいた世界と同じ者でござるな!」
「ああそうだ! 俺はアサークラントのジル=ドッレ! 元は『吸血姫様』の同郷ってところだ!」
吸血姫。その名前を聞いてもしやと思った。ヘラには股肱とも呼べる部下達がいた。パラッツォを乗っ取った彼女に忠誠を誓った猛者達だ。誰もが残忍かつ非情。強大な彼女の背中に隠れて様々な悪事を引き起こした。
そして同郷である。ヘラはイナーヴァニアの寒村で生を受けたと聞く。ただその村はいわくつきの人種が住んでいた。
「貴殿、もしや、あの……」
「そうだ。いくさと破壊の精霊の末裔、ゴールだ!」
ゴール。イズヴァルトの世界で『食人族』と仇名される亜人種。人食いの邪霊の末裔であり、イズヴァルトよりいにしえの時代には人を食う悪魔としてニンゲン達から恐れられた者達だ。
寿命はニンゲンの長生きできる者と同等ぐらいだが、男も女も老けるのが遅かった。寿命の10年前ぐらいまでは壮年の容貌で男女とも子を為せたり、たとえ際の頃となっても戦いでは下手の戦士を余裕でいてこます力がある。
イズヴァルトの仇敵、『吸血鬼』ことヘラもまたゴールの一族であった。彼女は数々の人々を喰らって祖先の力を得て、そして世の中に恐怖を撒き散らした。そして彼女には『姫』とあがめてひざまづき、つき従ってくれていた故郷の者がいたという。
「俺達は吸血姫様より一足先にこの世界に降り立った! この世界を征服する為にだ!」
「何を言う! ばかなことでござるッ!」
「で、『同志』となりうる者達を見出した! こいつらだ……」
ジル=ドッレは日本人らに呼び掛けた。黙示録の騎士を出せ。彼等は首飾りを手に持った。
パラッツォ教と同じものだった。茨の冠をかぶせられ、十字架にかけられたやせ衰えた裸の男の像。精巧に造られたそれの、剥きだされた亀頭が見える股間に口づけた。
「エイメン!」
彼等が唱和するとイズヴァルトの前方に黙示録の騎士が現れた。その数4体。用い方があるだろうにと髭切がつぶやくが、それよりもなぜ、この世界の者達が神聖術式を用いられるのかだった。
「なにゆえっ、なにゆえこの世界の者達が!」
ジル=ドッレは笑っていた。
「わからんのか! この世界こそが神聖魔法のふるさとなのだ!」
そしてパラッツォ教団の枢機卿と呼ばれた者達にとって、ゆかりのある世界でもある。
「神聖術式の源流はな、このニホンという国で発展を遂げたらしいのだよ!」
頭が追い付かぬ。イズヴァルトはそう思いながら飛び込んでくる黙示録の騎士達を迎撃した。この4体は姿かたちは同じだが、さっきのとはまるで動きが違った。一太刀をひらりと身をかわしてしまう。
イズヴァルトも一直線に攻めるのではなく、飛翔魔法を止めて身体を伏せ剣を振って見たり、背後に回り込んで一撃を与えようとするが、なかなかに刃は当たらなかった。とにかく素早いのだ。
-----やるな。この世界のニンゲンどもは。
髭切の読みはこうだ。1人が1体を操っている。いや、魔法で命令をからくりらにかけている。誰もが一度に複数体を操れるようだが、1体にしたことで精神の負担が軽くなった。だからその分リソースが増えた。
(わかった。防げばよいのでござろう?)
からくりの穂先を避けながら指先で印を切った。ジル=ドッレと日本人らは、白く冷たい風に吹き付けられて手で顔を覆う。気づけば目の前に山の様に大きな氷塊が現れた。『氷雪の栄光』から学んだ氷の魔法だ。
操縦者達は戸惑ってしまった。それで黙示録の騎士達の動きが緩んだ。この機会をイズヴァルトは逃さない。腹に力を込めて闘志を高ぶらせると、刃の嵐でことごとく叩き切った。
「やるなあ!」
巨大な氷の塊の向こうでジル=ドッレが満面の笑みを浮かべていた。彼は後ろに控える4人に目を向けた。怯え始め、今にも逃げようとしているのを感じられたので怒鳴った。
「おいッ! 持ち場から離れるなよッ!」
刺々しい害意を感じられる殺気だった声であった。その響きに思わず理性をうしなった1人の男が、1歩後ろに後ずさったのをジルは見逃さなかった。
「オマエラ! 連帯責任だッ!」
4人にジルは飛び掛かった。いつの間にか彼の手には剣が握れられていた。銀色に輝くロングソードだ。金色エルフの伊達者が持っていそうなものだった。
つばにあたる部位が、リアルに形づくられた女の陰となっていた。クリトリスから蟻の戸渡りのあたりまでの、ぱっくりと口を開けた肉裂だ。つまりは膣口から剣をはやした女陰というわけだ。北のエルフにはこういう悪趣味を好むものが多かった。
イズヴァルトが気づき、助けようとする前に4人は切り刻まれた。まさかの同士討ち。いや、これは処刑であった。いとも簡単に部下を殺せるということに、あの男がどのような立場にあるのか推測できるだろう。
「ジル=ドッレ、貴殿は……!」
「なあに。こいつらはただの消耗品。下っ端の中の下っ端さ。もしもの時にはこの俺の為に、死んでもいいぐらいの代物なのだよ」
返り血を浴びたジル=ドッレが遺体の中から1本の右腕をつかむ。大きく口を開け、切断面にかぶりついた。頑丈な歯でもって皮膚と肉を食いちぎり、さも美味しそうに咀嚼した。
「……人食いめ」
「ふん。くそまずい。この世界のニンゲンはどこもまずい肉ばかりをつける。特に男だ。脂が薬臭くてかなわん」
ふん、と鼻息を鳴らすとジル=ドッレはイズヴァルトに目を向けた。彼の目は血走っていた。いや、それだけではなかった。先程よりも禍々しい圧を全身から発し始めていた。彼の身体から急激に魔力が増大するのを髭切は感じ取った。
-----どうやら、人食い鬼とやらの本領発揮、というところだな?
ゴール→グールと読み替えていただければ。
以下、イズヴァルトの伝説関連のリンクです。
ハーメルンにて掲載
聖騎士イズヴァルトの伝説【新編】・前半まとめ
https://h.syosetu.org/novel/427506/
聖騎士イズヴァルトの伝説【新編】・忠烈編
https://h.syosetu.org/novel/363415/
読み飽きた人向けの最終回
https://h.syosetu.org/novel/428929/
豚小屋
https://h.syosetu.org/novel/429382/
ひよこ芸術
https://h.syosetu.org/novel/429966/
アルファポリス版です。バックアップ兼保管用
(本編と外伝を分けての掲載です。)
☆本編
聖騎士イズヴァルトの伝説 〜無双の武と凶悪無比なデカチンを持つ英雄の一大叙事詩〜
https://www.alphapolis.co.jp/novel/872528745/934913837
☆外伝
前世の記憶を持つ神業尺八使いの狸系美少女の妹と、女帝サキュバスの祖先の才を受け継ぐ清楚ビッチな姉の2人で、搾精の王国を建てちゃいます☆
https://www.alphapolis.co.jp/novel/872528745/779914728
転生したらあたし、セックス教団の教主の養女でいつでもどこでもエッチがしたくなっちゃう、レベル999のビキニアーマーの美少女魔法戦士でした!
https://www.alphapolis.co.jp/novel/872528745/959004604
旧版のイズヴァルトの伝説です。ノクターンにて掲載
ストーリーの細かいところがかなり違っておりますが、大まかな筋はおんなじです。
エリクサーみたいに栄養満点の精液を放つ絶倫聖騎士は、転生美幼女淫魔にまとわりつかれておちんちんをチューチュー吸われる。(旧題・聖騎士イズヴァルトの伝説)
https://novel18.syosetu.com/n3094lt/