聖騎士イズヴァルトの伝説 第六部 『戦旗編』 作:CHACOとJAGUAR
その逆もしかり。
真っ白な視界はほんの少しの間だった。突然引っ張られる感覚とともに眼下に広がるものをイズヴァルトは目に焼き付けていた。
曇天だ。礫が転がる岩山の様な風景。いいや、廃墟だ。ことごとく焼き尽くされ壊し尽くされた大きな街だった。
在りし日の費府
まるで見たことが無い、広大な瓦礫の大地だ。イーズモーの暗黒卿が築いたマツエスコーの旧市街地など比べるべくもない。いいや、あのエーゾエルフ達の『聖域』だって、小さな盆地の中のちょこっとした茂み程度だ。
「これが、ヘラが元いた世界でござろうか。いや、マイヤやシオリどのの……」
------イズヴァルト、多分そうだ。あの町は、フィラデルフィア!
「ふぃらでる……どこの国にある町でござろうか?」
------アメリカだ。エーゾエルフ達の先祖の国だ。あちらはまた別の時間の流れの世界ではあるがな。そしてこの空気。まるで薄い魔力への抗力。確かにそうだ!
この世界と時間軸は存じている。一度か二度やって来たことがあると髭切は言った。大噴火によって一瞬で滅びかけていた都や大津波にのまれた人々を救い出し、違う世界へ導いてやったことがある。
「信じてよいのでござろうか?」
------ああ、信じろ。ただ、マイヤの魂がこの世界にいるかどうかまでは判別できん。ここは賭けてみよう、イズヴァルト。
「そう致す」
重力はイズヴァルトを引きずり降ろそうとし続けていた。髭切が呼びかける。不得意な飛翔魔法を使え。お前の技量でもすいすいと空が飛べるぞ。やってみせろ。
「わかったでござる!」
イズヴァルトは印を切った。途端、引き込む力がイズヴァルトから離れた。念じて逆をいってみようとする。急上昇を。とても速く感じられた。
「軽いでござる! 気の疲れや身体のしんどさが全く感じられぬ!」
------そういうことだ、イズヴァルト。この世界はおそろしく魔法抗力が低い。だから気をつけろよ。いつもの力の入れようで炎の玉を作ろうと念じたらたちまち火の海だからな。
迫っていた瓦礫の大地はあっという間に黒いぼやけた面であった。しかしとても寒く感じられる。雪こそ舞っていなかったが氷点下をいくらかさげた寒空だった。
いったん降りてみよう。瓦礫だが誰かが住んでいるかもしれないだろうとイズヴァルトは思った。ゆっくりとさがっていく間に、何故フィラデルフィアなのかと髭切に尋ねた。
------この世界では異界への扉が生じやすい場所の1つだ。確か、この街の名前を冠した空間転移実験があったらしいな。
聞いたことがあるとイズヴァルトは答えた。ジャン=ギャバンが話してくれた。軍艦をワープさせる実験をアメリカはやったそうだ。エルドリッジ、という名前の小さな軍船が実験台となったらしい。実験は失敗に終わったそうだが。
------聞いていたのか。エーゾエルフ達の時間軸でもあれをやっていたらしい。科学者の中に転移魔法の再現を目論んでいた者がいたそうだ。
「成功したのでござろうか?」
------滅ぼされる前に理論だけは出来上がっていたそうだが、試してはいなかったようだ。奴らと一緒にお前の世界に運んでやった兵器の中に、その為の機関を積んだ船が1隻あったそうだ。が、『絶の牙』であとかたもなく消えた事だろう。
大体、瞬間移動ができる船なんぞ、古代ムサシノ帝国やサキュバスの転移魔法を研究した亜人らが造っていたはずだと髭切は言った。今はもう無いだろうが。
「あったほうが便利に思えるでござるが?」
------何かの理由で禁じ手になったに違いないだろうな。あるいは魔法主体で作ったものなら転移先に結界を張られたら、失敗するか消失してしまうだろう。転移魔法は便利ではあるがややこしい。
それに瞬間移動は風情が無い。歩いたり空を飛んだり、船で海を渡る方法に比べて意識や感動というものに乏しくなる。無味乾燥なものだから情緒を好む生物はすぐに飽きて放り出すだろうと髭切は論じた。
「さようでござろうか……」
地上に降りた。割れて朽ちたアスファルトの上に立ったイズヴァルトはため息をついた。生きている者の気配を感じられないからだ。
風化して崩れてしまっているコンクリートの壁。溶けてぐにゃぐにゃになってからだいぶ経つ錆びた鉄骨。肌寒さと曇天とが不気味さともの悲しさを引き立たせていた。
------ヘラのやつに滅ぼされたのだろうな、この街は。あるいは戦争のせいか。でもしかし、戦争であればフィラデルフィアぐらいの都なら、復興が為されるはずだが……。
「では、やはりヘラによってでござるか?」
------かもしれんな。とりあえず、ヘラが一度来た後の時代でありそうなのは、確かだな。
ではヘラはいったいこの世界のいつ頃にやって来て、数々の都市を炎の海にしたのだろうか。
もっと詳しく調べてみようと髭切が呼びかけようとした時、イズヴァルトは背中の剣を鞘から抜いた。ミスリルの刀身は赤く輝いていた。
------相当強く輝いているな。
「つまりは厄介な魔族か何者かが、近くにいるということでござるよ。髭切、もう少し周囲に気を配るべきでござる」
------気づいちゃいたさ。四時の方向だ。至極面倒くさいぞ。覚悟しておけ。
その剣では傷1つつけさせてくれない相手だ。今の剣は所詮は予備。イズヴァルトが愛用していた覇王の剣より二段落ちする『そこそこの名品』だ。魔の力も無い。
------魔蜂の突針を落として見失ったのが悔やまれる。あれだったら深手は無理だろうがビビらせるぐらいはできるだろう。
突如として、地面の至る所に炎が噴きあがった。揺れ動く炎がイズヴァルトに迫る。それを剣で横薙ぎすると瞬く間に消えてしまった。
「おられるのであれば姿を見せよ、魔竜!」
「そんなびびらせるような声で呼びかけなさんな。うちは逃げも隠れも致しまへん」
四時の方向、瓦礫が山の様に積まれているその上に魔竜はいた。紅い服をまとい、くどい顔立ちのシマーヅ人女性の姿だ。魔族ではなくニンゲンのそれに変えていた黒い瞳は、イズヴァルトを冷ややかに見ていた。
「もしやと思い入ってみたけど、あんさん、うちに黙ってこっちに来るとは、えらい水臭いどすなあ?」
魔竜は言った。向こうの神の使いとは話をしたが魔界の関係者としては正式な手続き無く渡航した者は容認できない。連れ戻す。
「あの嬢ちゃんに会いたいから、あんさんはヘラをわざと逃がしたんどす?」
「かの女が拙者の想像以上にしぶとかっただけのこと……決してわざと仕損じたわけではござらん」
「嘘言いなさんな。あんさんの顔には、手ぇ抜きましたって書いとるでぇ?」
間延びしたねちっこいしゃべり方。声の響きは優し気ではある。しかし魔竜の身体から立ち上る強い気配をイズヴァルトは意識していた。やるつもりだ。
------先手必勝でいくか?
その前に聞きたいことがある。イズヴァルトはサイカノマゴイチに尋ねた。
「この世界は……ジャンどのとシオリどの、マリィどのらの前世の世界でござろうか?」
「……かもしれへんなあ。とだけは言うておくでぇ」
「承知したでござる。では、拙者は……」
ヘラとマイヤを探しに向かう。やはりそれ目当てだったのかとサイカノマゴイチは失笑した。
「やっぱりなぁ。あんさんはあのちんちんちゅーちゅー狂いの嬢ちゃんに首ったけっちゅうことやな」
そうはさせない。魔竜は宙に浮いて念じ始めた。この魔法に脆い世界をいたわりながら、イズヴァルトを止めるのだ。細心の注意が必要だった。
イズヴァルトは動いていた。鞄を地面に投げ捨て、飛翔魔法であっという間に魔竜の懐に潜り込む。背負った剣を抜きながら横薙ぎの一撃を。浅かった。手ごたえはあったがうっすらとだ。
とっさに退いて避けた魔竜だが、腹から血しぶきがあがっていた。
「とっさに避けるとは!」
「いったいわあ! あんさん、いきなり襲うとは卑怯やでぇ!」
髭切の力は使っていない。何故ならそれでもやれるだろうと本人が言ったからだ。サイカノマゴイチは魔力こそヘラを遥かに凌ぐが、戦うことに関しては慣れていない。むしろ性格的に無理がある。
------魔竜は本陣でふんぞり返って武将に指図する女王の駒だ。斬り込まれたらあわてふためく。
「なぜ知っているでござる?」
------知り合いだからさ。容赦するなイズヴァルト。彼奴は魔族の中でも最上位だ。腕や首を吹っ飛ばしても死にはせん。女だからと思って手加減するな。
その通りだった。サイカノマゴイチは防戦一方だ。イズヴァルトが繰り出す神速の斬撃を結界魔法ではじき返しては来るが、反撃をしてこなかった。絶望的に闘争心が無いのだ。
一撃一撃を弾かれるのも癪だが、イズヴァルトはしつこい連撃で魔竜を辟易させて疲れさせる算段だった。真上からの一撃で結界の手ごたえを感じたらすぐに剣を引いて突きを繰り出す。触れたら切っ先をすべらせて結界の隙を伺う。
剣士達は感嘆するだろうが、魔竜にとってはえげつないほどにいやらしい剣さばきだ。彼女は魔法合戦であれば闘志を燃やせるが、武術での争いにはどうにも本気が出せなかった。たじろぐばかりだ。
(ヤギウセッシウサイめぇ……。)
魔竜は焦っていた。ここまで回り込まれたらまるで敵わない。今の姿ではイズヴァルトを止めるのは絶対にできないだろう。ドラゴンの姿にならなければ。いや、それでもやっぱり危うい。
「あんさんを止めるには、本気をださなあかんやろな! あがっ!」
魔竜は右肩をバッサリとやられて悲鳴をあげた。イズヴァルトは油断しない。押して押しまくる。本気を出される前にこてんぱんにしておかなければ仕方がない。
「サイカノマゴイチどの! タンバレーネで見せてくれた禍々しい龍の姿にはさせぬ!」
「アホぬかせ! あんさんの様なきんたまと殺しのバケモンなんぞに、『だいにけいたい』じゃどうにもならんわ!」
もう本気の本気出す!
今更謝ってもどうなるか知らへんでぇ!
そう叫んでサイカノマゴイチは姿を消した。転移魔法で逃げたのだ。イズヴァルトは髭切に尋ねた。『だいにけいたい』とはなんぞや?
------あの女の龍としての姿のことを言う、はずだったかな。
「全力を出すとおっしゃっていたでござるが、龍の姿では出せなかったということでござろうか?」
------イズヴァルト。あの女が全力を出す時は魔界での姿になった時だ。つまりは本当の姿を見せてくれるというわけだ。
見ただけで卒倒するような、恐ろしく醜い姿だぞと髭切は言った。どうにも諧謔の声色に聞こえてしまうものだから、イズヴァルトは疑うことにした。容姿については。
------ここからは俺も手を貸そう。なに、サイカノマゴイチは胴体を引きちぎっても首を刎ねても死にはせん。思念体もヘラみたいな『
但し、今までよりも段違いに素早く、魔法も強力になっているから気をつけろと髭切は注意する。攻撃術式の封印や転移魔法での奇襲はかならずあるからな、と付け足して。
「出てこい、魔竜! そなたの真価を見せていただこう!」
イズヴァルトは挑発をかけた。誰もいない瓦礫の山に向けて。しかし魔竜は聞こえているはずだ。そう遠くに逃げてはいないだろう。
「今からあたしの本気を見せたる!」
念話魔法による返事だった。その声を届けた魔力は、イズヴァルトがちょうど叫んだ方角から発せられていた。隠れてはいるが背中を見せてはいなかった。
「あんさん、ほんまもんのあたしと戦うなんて、ニンゲンとしては初めてやで。誇りに思いなはれ!」
瞬時。イズヴァルトの周囲に紅く輝く術式の円陣がいくつも取り囲んだ。最初は四方と頭上と足元を取り囲む6つの円陣であったが、いつのまにかそれらが、200も300も重なっていた。
戦いの魔法を封じる術式だろう。強力な結界だ。こうも重ねがけをされるのは自分を恐れているからだとイズヴァルトは思ったが、魔竜はそれだけ本気だという意思表示だとも考えた。
「いくでぇ! へん、しん!」
その声に思わず闘志が抜けそうになった。妙に芝居がかっていたからだ。しかしその後に感じ出した圧倒的な魔の気配に、イズヴァルトは余裕を感じられなくなっていた。
以下、イズヴァルトの伝説関連のリンクです。
ハーメルンにて掲載
聖騎士イズヴァルトの伝説【新編】・前半まとめ
https://h.syosetu.org/novel/427506/
聖騎士イズヴァルトの伝説【新編】・忠烈編
https://h.syosetu.org/novel/363415/
読み飽きた人向けの最終回
https://h.syosetu.org/novel/428929/
豚小屋
https://h.syosetu.org/novel/429382/
ひよこ芸術
https://h.syosetu.org/novel/429966/
アルファポリス版です。バックアップ兼保管用
(本編と外伝を分けての掲載です。)
☆本編
聖騎士イズヴァルトの伝説 〜無双の武と凶悪無比なデカチンを持つ英雄の一大叙事詩〜
https://www.alphapolis.co.jp/novel/872528745/934913837
☆外伝
前世の記憶を持つ神業尺八使いの狸系美少女の妹と、女帝サキュバスの祖先の才を受け継ぐ清楚ビッチな姉の2人で、搾精の王国を建てちゃいます☆
https://www.alphapolis.co.jp/novel/872528745/779914728
転生したらあたし、セックス教団の教主の養女でいつでもどこでもエッチがしたくなっちゃう、レベル999のビキニアーマーの美少女魔法戦士でした!
https://www.alphapolis.co.jp/novel/872528745/959004604
旧版のイズヴァルトの伝説です。ノクターンにて掲載
ストーリーの細かいところがかなり違っておりますが、大まかな筋はおんなじです。
エリクサーみたいに栄養満点の精液を放つ絶倫聖騎士は、転生美幼女淫魔にまとわりつかれておちんちんをチューチュー吸われる。(旧題・聖騎士イズヴァルトの伝説)
https://novel18.syosetu.com/n3094lt/