聖騎士イズヴァルトの伝説 第六部 『戦旗編』 作:CHACOとJAGUAR
ズルイルが放った『
この技は高い圧力を用いて高速回転をし、殺傷力を増した空気の投擲針を繰り出すものだ。威力は鉄の投げ槍を超える。しかも軽いから遠くまで飛ばすことができる。有効射程距離はおよそ1キロである。
ズルイルはもとの世界ではこれを一度に放てるのは2,3本ぐらいだった。しかし魔法抵抗の少ないこの世界では、その数百倍も超える。
威力もそうだった。針ではなく投擲槍の大きさそのものだった。
「……!!」
イズヴァルトはその威力に驚愕していた。半人半神と化していた彼は『
イズヴァルトが護ろうとしていた電車内の、生き残っていた乗客たちが晒されることとなった。
車内にいたのは背広服の者。
余所行きの服を着ていたり、隣駅からラフな格好で乗って来た親子連れ。
若い肉体の魅力を引き出す様な服をまとった女達に、彼女達の気を引こうと「センスの良い服」に身を包んでいた男達。
はたまた、老人や子供達、赤ん坊に至るまで、大怪我をして隣人たちに介抱される者達もだ。
まず彼等は、あちらこちらで火の手があがり、黒煙があがる北千住の街に驚いた。それからイズヴァルトが叩きつけられて電車の重い車体が脱線するほど衝撃を受けたことだ。
そして初めて見る、魔道による氷壁。もはや思考回路はショートしていた。理性が働かなくなってしまった者は、スマホを取り出して目の前の光景を録画し、友達に共有しようとしていた。
そして死の危険に対して本能が機能しなくなった彼等彼女等に、容赦ないとどめが刺されることとなる。
『
胴にぽっかりと穴があく。スマホを持った細い腕が吹き飛ばされ、赤ん坊をあやしていた両親と小さなそれの上半身が、赤い飛沫を伴いながら消し飛んだ。
風撃は貫いた者だけを殺さなかった。当たると横に拡散し、周囲の者も巻き込んだ。
列車はこの時密集状態だった。沢山の肉が爆ぜた。骨が砕けた。血が飛んだ。
そして悲鳴が起こる。窓ガラスは黒い紅に染まる。車内は死が充満し、空いた穴から血臭と屍臭とが外に漏れ出た。
そしてイズヴァルトは、突然の死への
(ここまでとは……!)
守り切れなかった。いつも自分はこうだ。勇者などと名乗るに相応しくない、ただの殺し屋だ。そう自分を罵った。
------落ち着け。どうせこいつとやり合うからには、沢山の犠牲が生まれることを覚悟せねばならん。できるだけ少なくするなら、早めに決着をつけろ。
(わかっておる!)
イズヴァルトは動いた。慈悲を捨てる、決着を早くつける。ただただそう思い、ズルイルを塵にする為に飛び出す。
あっという間に目と鼻の先となった。イズヴァルトが持つ剣とそれを握りしめる拳に、一撃滅殺の気配があるのをズルイルは察した。
あの剣には、強固な精霊人の肉体も容易に斬り裂く事だろう。素直の受けたら列車を棺桶にした連中と同じ道をたどる事になる。
(早い! だがな!)
ズルイルは後ろに飛びながら魔法をかけた。この世界ならはっきり言って魔法印は要らない。ただ念じれば良かった。
ほんの一瞬で発動した。イズヴァルトの身体の真下から、防ぎきれない強烈な風が吹き込んで来た。
「おおっ!!」
彼の身体は跳ね飛ばされた。天井のコンクリートは鋼材にも亀裂を生じさせる強烈な風で叩きつけられる。
風の勢いは止まらず、イズヴァルトの身体に叩きつけられた駅の屋根が崩れ出した、そのまま駅舎の中に押し込まれてしまいそうだった。
------何をぼやっとしている!
『髭切』に励まされるとイズヴァルトは印を切った。たちまちぶ厚い氷の壁が真下に現れ、風の魔法を封じ込めた。
降り立つとズルイルはいなかった。隠れてしまった。奇襲をまた狙っているようだ。
「どこにござろうか……」
目を閉じて印を切る。索敵の術式。相手の魔力を探知して居場所を掴む魔法だ。
ズルイルは、暗殺に従事してきたエルフと聞いたことがあった。かつてはケノービ=スカルファッカーの下で働き、彼の敵対勢力の排除に力を振るったと聞いている。
そういう者は気配を殺すことに慣れている。相当精神集中を行わないと見つけ出せないだろう。イズヴァルトはもっと深く術式に意識を込めた。
だが、新たに現れた強大な『闘気』がズルイルの居場所探しを邪魔した。真上。駅の上空。巨大かつ凶悪きわまりないパワー。この感覚に覚えがあった。
「……
その波動の源、エルフのリシェナは豊満過ぎる乳房を揺らしながら、眼下にある北千住の駅に向かって右腕の拳を突き出していた。
駅ビルごと、駅舎は一瞬にして瓦礫と化した。無数の建材の破片と中にいた人々の屍が駅の外に飛び、いくつものビルや建物の壁に叩きつけられたり崩したりしていった。
「やったか、リシェナ!」
ズルイルからの念話を聞いたリシェナは怒鳴った。
「そんな訳が無かろう! おんしは逸り過ぎちや! 居場所を気づかてしまうぞ!」
呼びかけたと同時に、リシェナは身体をすくめて手甲で覆った両腕を交差した。
青く輝く剣の切っ先が、彼女の乳房の狭間を狙うかのように止まっていた。その先には憤怒の形相を向けるイズヴァルトの姿があった。リシェナは彼が着ていたトレーナーに目を向けた。『ソウルジェム』に目を付けた。
「……おんしも、あのアニメを好いておったか?」
「なんでござるか?」
「知らんかったか。残念じゃ」
リシェナは剣を弾いた。空の白兵戦が始まった。
本気になったイズヴァルトは桁違いだった。リシェナの拳は破壊力こそあったが、イズヴァルトの回避力には敵わなかった。
その一撃一撃が分厚い鋼鉄の板をも貫く程であったが、イズヴァルトは全てかわした。ナハリジャーヤの戦闘力を舐めてかかってはいなかった。一度でも喰らえば骨が砕ける程だと知っていたからだ。
「……やりおる!」
リシェナは意を決して構えを崩して飛び込んだ。抱き着いて背骨をへし折ろうと考えたからだ。避けられてもまたすぐに構えて連打することは可能だった。
だが、イズヴァルトはもっと速い。剣がきらめいて風を起こしだした時にリシェナは避けようとしたが、遅かった。
「……!!」
黒髪エルフの右腕が、二の腕からばっさりと斬り飛ばされた。だが超回復能力があれば2秒も絶たずに傷口ぐらいは塞ぐことができる。斬り飛ばされた腕が残っていれば1日で接合できるだろう。いや、半日でだ。
彼女がそう考えているのを、感じているのを、イズヴァルトは相手の表情で読み取っていた。余裕がある。ならばだ。治せないように壊さねば。
「その余裕などござらぬよ!」
弓なりの残像を描きながら剣がきらめく。彼女の左腕が甲ごと断たれた。同じミスリルの手甲なのに。イズヴァルトが剣に籠める闘気にリシェナは戦慄した。
(まずい。これでは……!)
彼女は咄嗟、自分の前に闘気を放って後ろへと飛んだ。イズヴァルトがそれを追うと横から渦巻く風の槍が迫ってくるのを感じ、剣ではじいた。
「そこにおられたか、ズルイルどの!」
ズルイルは宙に浮き、湾曲刀を持っていた。風の力を込めていた。イズヴァルトに襲い掛かり刃を鳴らし合う。
「これ以上の抵抗をやめよ! 早くカヅノ=セイジの元に案内いたせ!」
「……カヅノ? 居場所など知るか! この北千住がお前の墓だ、イズヴァルト!!」
2人の腕が動く。斬り合い鳴らし合う。数回でズルイルはリシェナの恐れと同じものを感じた。湾曲刀がぽっきりと折れていた。カヅノの神聖魔法で硬度と強度を増した代物が。
「くそっ。ここまでか!」
ズルイルは終わりを見てしまった。イズヴァルトがそっと言う。
「決して逃さぬ」
その一言とともに剣が、ズルイルの脳天から足元にまで振り下ろされた。血しぶきと共にズルイルの身体は塵となった。
「……さて」
イズヴァルトは真後ろ、火の手があがる飲み屋街のほうに目を向けた。両腕を切り落とされたリシェナの姿があった。
彼女は斬られて血に染まっていた左腕をあげ、懸命に何かを唱えていた。
その遥か上空には、途方もない大きさの水の渦があった。ぐるぐると回転しながら水しぶきをあげ、その周囲に強い引力を帯びていた。
「『ナハリの大時化』でござるか?」
リシェナがにひ、と笑う。ほほえみとは違う、男の情欲をかきたたせる種の笑みだった。
「うちと共に散れ、聖騎士イズヴァルト」
巨大な水の渦が降りて来た。おおよそ北千住の街をすっぽりと覆うぐらいの水塊は、防ぐ間もなく2人にぶつかり、街に叩きつけられた。
ありとあらゆる建物が飲み込まれて打ち砕かれていった。水没させその中にあったものを、物から命から全てをかきまわして滅ぼしていった。
そしてしばらくのうちに水が引いた。リシェナの魔力が尽きたか、あるいは、彼女が命を落としたかだ。
北千住の駅とその周囲に、立っているものを1つも残さずに、ただの瓦礫の山となって、冬の風に吹かれていた。
□ □ □ □ □
その瓦礫の中からイズヴァルトは這い出た。あたりを見渡し、息をしている者がいるかと探る。
最初の探りで、皆無と見た。静寂があたりを包んでいた。
------駄目だろうな。
「言うな、髭切」
だが、生きている者はともかくいつの間にかいなくなったポリメコフィアンナや、クワン=ダッタを探そう。ラッドや他の魔族達はどうしているのだろう。東口はどうなっているのだ?
そう思った矢先、別の索敵術式が反応を示した。
彼が立っていたところの近く、たった1つ蓋がのぞいていた路上のマンホールの下に、『神聖術式』の反応を確かめたからだ。
「……誰でござろうか?」
------捕まえておこう。カヅノ=セイジの居場所を突き止められるかもしれないしな?
イズヴァルトは近づいて行って、マンホールの蓋を斬った。きれいに切断されたそこから臭いにおいが漂い出した。奥に流れているのは下水だった。
梯子に手をかけて下にくだった。トンネルは割合と高かった。そして彼は『神聖術式』の防護術式を張っていた人物の姿を目にした。やや歳がいっている日本人の中年男だ。
顔立ちには険があり、世の中への絶望と敵意とを抱いている者にありがちの、昏さというものがあった。あまり運には恵まれていない様子だった。体つきは骨太だったが。
「貴殿が、この神聖術式の使い手でござるか?」
剣の切っ先を向ける。相手はびびらなかった。胆力を感じた。こうなったら殺せ、という覚悟が感じられた。男の声を聞いた。
「おい、外国人。地上はどうなっているんだ?」
「すまぬ。拙者は守れなかった。外は誰一人として息をしてはござらぬ。やったのは拙者と同じ世界から来た、ズルイルとリシェナというエルフ……」
そう聞いて男は叫んだ。
「クソ! 芳村の話に乗った俺が馬鹿だった! こんなとんでもねえことに巻き込まれるなんて!」
イズヴァルトは耳を疑った。ホウムラという名前の人物なら知っている。東口でわめいて泣いていた男のことだろう。
「もしや、貴殿はホウムラどののご友人でござるか?」
「ああそうさ! サキュバスとかいうやつを捕まえて家ん中に閉じ込めて、散々楽しんだのさ!」
イズヴァルトは男の胸元を掴んで引き寄せていた。とはいえ殺さないように加減してある。この世界のニンゲンは、あまりにも脆いからだ。
イズヴァルトの目に殺気が籠っていたのを見て男は思った。工場派遣で知り合った前科者など、比べ物にならない何かが潜んでいた。
(ああ、こいつは、数万もの人間を殺したことがありそうだな。大量殺人鬼の目をしてらあ。)
男は殺さないでくれ、とイズヴァルトにせがんだ。彼は手の力を緩めた。但し決して逃さぬという意志を目に籠め、不吉なにおいがする日本人の顔をじっと見ていた。
「洗いざらい白状致せ。貴殿は誰でござる? 何故、神聖術式を扱えるでござるか?」
男は白状した。まずは自分の名前から告げることにした。
「金目純だ。芳村のやつに誘われて『カント教会』っていうインチキくせえ教団に入信した……若くていい女とやりまくれるから所属しているようなもんだがな?」
次回もございますので、よろしくお願いいたします。
以下、イズヴァルトの伝説関連のリンクです。
ハーメルンにて掲載
聖騎士イズヴァルトの伝説【新編】・前半まとめ
https://h.syosetu.org/novel/427506/
聖騎士イズヴァルトの伝説【新編】・忠烈編
https://h.syosetu.org/novel/363415/
読み飽きた人向けの最終回
https://h.syosetu.org/novel/428929/
豚小屋
https://h.syosetu.org/novel/429382/
ひよこ芸術
https://h.syosetu.org/novel/429966/
アルファポリス版です。バックアップ兼保管用
(本編と外伝を分けての掲載です。)
☆本編
聖騎士イズヴァルトの伝説 〜無双の武と凶悪無比なデカチンを持つ英雄の一大叙事詩〜
https://www.alphapolis.co.jp/novel/872528745/934913837
☆外伝
前世の記憶を持つ神業尺八使いの狸系美少女の妹と、女帝サキュバスの祖先の才を受け継ぐ清楚ビッチな姉の2人で、搾精の王国を建てちゃいます☆
https://www.alphapolis.co.jp/novel/872528745/779914728
転生したらあたし、セックス教団の教主の養女でいつでもどこでもエッチがしたくなっちゃう、レベル999のビキニアーマーの美少女魔法戦士でした!
https://www.alphapolis.co.jp/novel/872528745/959004604
旧版のイズヴァルトの伝説です。ノクターンにて掲載
ストーリーの細かいところがかなり違っておりますが、大まかな筋はおんなじです。
エリクサーみたいに栄養満点の精液を放つ絶倫聖騎士は、転生美幼女淫魔にまとわりつかれておちんちんをチューチュー吸われる。(旧題・聖騎士イズヴァルトの伝説)
https://novel18.syosetu.com/n3094lt/