聖騎士イズヴァルトの伝説 第六部 『戦旗編』 作:CHACOとJAGUAR
標的を殺れたはずだ。
はめていたゴーグルに映る、新型の小型ロケット弾がもたらした爆風と炎を眺めながら、ジョン=レスリーは手ごたえを感じた。隣でタブレットの画面を見て、ドローンから送られてくる映像を見ていたランディ=スピアーズもうなずいた。
4キロ離れた場所からの射撃は絶対に安全だと思われた。2人は民間軍事会社のアメリカ陸軍の元軍人達だ。彼等は既に退役だが、アメリカ政府から依頼を受けてこの仕事に加わった。この為に最新式の武器と弾薬が支給された。
レスリーが身に着けるゴーグルと、抱えていた筒状の射出機。それに現場で映像を送ってくれるドローンともども、日本の企業で開発されたものだ。ドローンはあの爆風に耐えぬき、揺れる事は無かった。
「すごいな。あっという間に直撃しやがった」
4発同時に発射されて、たった2秒で着弾した。これは避けられないだろう。これが『最低ランク』だとは恐ろしい。日本はどんな技術者を雇い入れたのだ?
「現場のトミー達に確かめさせよう。とっくに死んでいるはずだ」
「ああ。イズヴァルト=シギサンシュタウフェン。スイス人かな?」
「多分ドイツだろう。本国の連中の話だと、マッチョの色男らしいな。が、そいつも今ので天に召されたってわけだ」
まだ炎が上がる歩道橋に階段を、顔を隠せるヘルメットをかぶり、戦闘服をまとった数名の男達が駆け上がっていく。念のためにと退路を塞ぎながらだ。標的の着実な殺害が今回のミッションだ。
何名か巻き込まれた者もいたみたいだが、それは日本政府がもみ消してくれるだろう。国力が半分になったアメリカだが、日本はまだあれこれと都合をたててくれる『トモダチ』だった。
「ランディ。日本政府から返事はあったか?」
「マスコミや民衆を抑える準備はできているとよ。あと5分以内に終わらせろと、だ。巻き込まれた遺体の回収も含めてな」
「トミー達には、ジャップは時間に厳しいからってせかしとけよ」
「だから10人が歩道橋にあがったんだろ。それにトミーはユダヤ人だ。日本人並みにルールに厳しいぜ。3分もありゃ現場から撤収できるだろう」
その現場にいるトミー=ピストルは、手際よく指揮をとっていた。歩道橋の真下にトレーラーが潜り込んだ。屋根が半分開けられている。遺体を回収して袋詰めにし、それらを投げ込んだ後、彼等が飛び込むためだ。
役割は決めてある。先頭の南北からあがった先頭の4名が遺体の確認。次の2名が袋詰め。残りは歩道橋に誰かが入ってこないか確認する。道路は既に日本警察が交通整理を始めており、彼等の逃走経路の確保に動いてくれていた。信用していい盟友達だ。
まず向かう先は埼玉の蕨。そこにクルド人が経営している産廃業者がある。不法入国者の雇い入れを不問に付すのを条件に、日本とアメリカの『完全犯罪』に協力させている会社だ。トラックを引き渡したら、別の車に遺体を乗せて厚木に向かう。日本政府の優しさがあって初めてできる計画だった。
まだ炎と煙が上がる歩道橋の中間を目にして、トミーはヘルメットについた無線機に突入する4名に呼びかけた。
「必ず標的の遺体を回収しろ。この炎の中じゃ無事じゃいられまい。生身の人間。焼けない肉など無いはずだ」
ヘルメットに備えられていた生命反応感知機能は無反応だった。とっくに死んでいる。精度が優秀なとても便利な道具だ。これも日本の企業の最新技術である。どんな技術を用いているのかは誰も知らないが。
防火も兼ね備えた戦闘服に身を包んだ4名が、炎と煙の中に入って行った。彼等は背中に頑丈な酸素補給器をつけている。耐火性能に優れた装備は火をものともしない。しかし、やはり熱い。
(……ん?)
一番前を歩いていた者が待て、と皆に呼び掛けた。誰かいる。数名。うっすらと黄色ががかり、炎を跳ね返している透明の立方体の中にだ。男が2人で女が1人。それと……。
(なんだありゃ、着ぐるみか?)
狼がそのまま人型になった様な。人狼だ。
いや、薄茶色と乳白の毛並みは日本でしょっちゅう見たことがある。シバイヌだ。
彼は日本に来てから、柴犬に女以上の良さを感じて1匹飼っていた。ペット可の2DKのアパートで、別れた女房と子供以上に慈しんでいた。すっかり愛犬家である。
いずれは犬と一緒に暮す動画を出すことを夢見ていた。いつまで経っても給料があがらず、辛いミッションばかり寄越す民間軍事会社で働くのに絶望しながら、毎日の手料理や旅行の動画をあげるのだ。
タイトルの最初に絶望、とつくのがいい。仕事終わりは家でビールを乾杯、という流れでいこう。
が、この時彼は目の前にある非現実的な光景以上に、激しいぐらいの生への渇望を覚えていた。今すぐ逃げたい。おぞましい程に恐怖を抱かせる何かが、炎と煙の中に姿を隠して潜んでいたのだ。
------いろいろと文句を言いたい。1人ぐらいは生かしておいてやれ、イズヴァルト。
「こわいことを。みんな『おしりぺんぺん』で済ませて置くでござるよ」
聞いたことが無い言葉だった。それを耳にした直後に自分が宙を舞っている感覚があった。東京のどんよりとした空と雑然とした街並みに、オアシスのようにある飛鳥山公園の緑園が彼の目に移った。どれも目まぐるしく回転している。
いや、おかしい。なぜか自分の身体が軽くなったように感じた。腰から下の感覚が無かった。その男の身体は横から突き上げて喰らった一撃により、空にあがった直後に真っ二つに引きちぎられてしまったのだ。
血と臓物をまき散らしながら西の空へと飛びあがる真っ二つに裂かれて部下を見て、トミー=ピストルと数名は夢でも見ているのかと思った。撤退か。いや、生きている者は殺さねば。突入しろとトミーは無線機に呼びかけた。
「な、なんだったのでござるか!」
血漿と肉片がこびりついた剣の鞘を見て、イズヴァルトは驚いていた。しかし髭切が注意をかける。驚くのはみんな倒してからにしろ。
炎と煙で視界が遮られていた他の3名は、イズヴァルトに襲い掛かっていた。こんなに煙に巻かれているのになんて奴だと思いながらだ。
『おっちゃんはプリキュアなんだから!!』という文字がプリントされたピンク色のトレーナーは煤けていたが、彼がかけた防護魔法で燃えていなかった。
かかってきた3人の殺意を感じてイズヴァルトは動いていた。鞘はつけたままだ。これはおしりぺんぺんだからである。きわめて軽い、全力で手加減した一撃で向けた短銃の引き金をおろそうとした相手の頭を叩いた。
首があらぬ方向に向いて相手はそのまま倒れた。信じられぬ、と思いながらイズヴァルトは残る他の2人も打った。生卵を握って砕く様な脆さだった。
(……どう言う事でござるか!)
------それだけお前の力がとんでもないということだ。お前はあっちじゃ半ば神という存在だった。ならば、こっちの世界ではその験は薄くなるはずだろうが……。
どうやらこちらの神は、そこまで配慮してくれていそうでは無かった。あちらの力がそのままこちらでも発揮できるらしい。
-----あと、覚えておけ。魔族や精霊人種の血が混じっていないニンゲンは、恐ろしく弱い。
(精霊人種……)
------亜人達のことだ。お前の世界の他、他の世界のニンゲン達は、亜人とか神の末裔だかの血が混じっていて身体が丈夫になっている。お前の峰打ちで殺される事は無いだろう。が、この世界の連中はどうにも純血種に過ぎるのが多いようだ。
信じられない。でも、それならやり様がある。イズヴァルトは剣を捨てた。襲い掛って来る相手に素手で応戦した。
遠い幼年の頃には故郷の拳法師範から。そして近頃は鉄拳ばかりのナハリジャーヤのエルフに学んだ体術を学んでいたが、それで鎧われた相手を殺せるとは思えなかった。
が、その期待は焦りを覚えて突出してしまったジミー=ピストルの右顎をとらえたところで裏切られてしまった。イズヴァルトの拳は、彼の顔を守っているガードを砕いて顔面を捕らえると、相手の脳に修復不可能な致命傷を与えてしまったのだ。
□ □ □ □ □
生き残りにランディ=スピアーズからの連絡があった。作戦は失敗だ。構わず撤収しろ。彼等は身体こそ脆かったが逃げ足は早かった。
トレーラーが走り去るとイズヴァルトは数名の遺体が散らばっているのを見て怖気づいていた。なんてことをしてしまったのでござるか、拙者は?
「ポコリーヌどの……」
「イズヴァルトさんは我々が守ります。正当防衛だと日本政府には言い張りますから。あと、こいつらが何者かをはっきりさせる義務がありますからね。あちらには」
間違っても収監される事は無いはずだ。ポコリーヌ達にはアメリカよりはるかに上の権力があった。そもそも、この世界を監督する魔界からの監視官である。
その半ば客人であるイズヴァルトを襲う陰謀は容赦しない。しかし、これがモルフェットのお仲間なのかはわからなかった。
「モルフェット。あんた、こいつらのこと知ってる?」
お仲間じゃないでしょうね、と問いかけるとシバイヌの獣人は怯えながら首を横に振った。
「ち、ちがう。こんな奴ら全然知らねえよ。俺はただ、こいつをあるマンションに持っていけと頼まれただけだと言っているだろうがッ!」
モルフェットは抱え込んでいた紙袋をラッドに押し付けた。中には緩衝材に包まれた栄養ドリンクの小瓶がたくさん入っていた。
「こいつは?」
「知らねえって! 飲んで確かめてみろよ!」
ラッドがビニールを破って1本を抜いた。一度キャップを空けたことがあるリポビタンの瓶。しかし中身はきっちり入っている。透明がかった乳白色だ。
「そんなに言うなら確かめてみよう。ふむ、甘い……」
とろりとしていてヨーグルト飲料みたいだ。とてもおいしい。それが胃袋にまで入ると急に身体が熱くなって、前かがみになってしまった。
「どうしたんだよ?」
モルフェットが呼びかけるとラッドはいぶかしむポコリーヌをちらちらと見ながら、勃起が収まらないのだと恥ずかしそうに答えた。嗅ぎ覚えがあるにおいがすると思い、イズヴァルトはそこに残っていたものをひとしずく舐めた。
「……これ、『甘露(アームリータ)』でござらぬか?」
「イズヴァルト殿、なんだそれは?」
「拙者の世界でつくられているとんでもない精力剤でござるよ。パラッツォ教徒やおちんちんがなかなか元気になれぬ殿方がよく飲むでござる。しかしこれは、随分と効き目がきついように思えるでござるな」
イズヴァルトも勃起していた。ラッドはポコリーヌをちらちらと見て、我慢がならないと目で訴えていた。
「はいはい。あんたたちの下の世話係もやってますからね、あたしは」
嫌そうに言うポコリーヌだが、彼女もまんざらではなかった。イズヴァルトと行動をともにしてから、どうも子宮が疼いて仕方が無かったのだ。しかし彼の精液はやばい。一滴でも腹の中に入れたらまた育児休暇待ったなしだろう。
彼女はポケットから葉っぱをとりだして頭に置いた。へんげ! 狸の耳としっぽをつけた獣人の姿に戻ると、ラッドの手を取ってメサドとイズヴァルトに声をかけた。
「車の中でしばらくラッドのお世話をしているから、そいつからいろいろと聞きだしといて」
歩道橋から飛び降りて車の後部座席に飛び込んだ2人は、運転手を追い出すと狂ったようにさかりはじめた。ポコリーヌも魔界の女である。セックスが大好きな身体なのだ。
『甘露(アームリータ)』を飲んでしまったラッドの腰遣いは慌ただしかったが、子宮口を間断なくポコンポコンとつつかれて、ポコリーヌは可愛げたっぷりの喘ぎ声を車の外に漏らしてしまっていた。
「しかし『甘露(アームリータ)』を作っているとは。持ち込んだのは何者でござろうな?」
イズヴァルトは運転手に呼び掛けた。羊の獣人の魔族だ。この男はコンゴウアミダラデンで何度か見かけた。確か、パラッツォ教がホーデンエーネンと戦争を起こしていた頃にいたはずだ。
「少なくとも、うちのサキュバス連中やポコリーヌさんではないってことは確かですよ。けど、なんだか不思議な精力剤が世に出回っているらしいってのは、聞いたことがありますね」
ごく一部の間でだが、と前置きしながら羊の獣人がこう語った。主に金持ち連中の間で出回っているみたいだ。
「それ、マイヤどのが密造しているという線は考えられぬでござるか?」
「無いですよ。一番に疑われる人だろうし。今のあの人はサキュバスじゃないですからね……そうそう。ラプンツェルさんならきっとわかるかもしれない」
彼女は最近、友人のサキュバス達に調べさせているそうだ。この薬はこの世界のニンゲン達の一部にも、効き目ありと噂になっているそうだ。
「数百年前から錦糸町に住んでいるラーラ=ベルさんに、池袋界隈の調査をしているトレモクラッペヘン=ポプモパペプロンさん……」
「トレモクラッペヘン、覚えづらい名前でござるな……」
「最下層階級の淫魔ですからね。でも、なかなかに優秀な方ですよ」
2人とも監視役の最古参だ。東京が江戸と呼ばれた街だった頃から住んでいるという。2人とも副業をしながら生活しているらしい。
ラーラ=ベルは錦糸町や吉原でのバイトをサキュバス仲間にあっせんする仕事をしていて、トレモクラッペヘンは春画絵師やエロ写真のモデル、ボーイズラブ小説のイラストレーターでもあるという。すっかりこの街の生活に馴染んでいるそうだ。
「その2人がこの薬の出所を探っているはずです。マルッキュイナちゃんも確か、お母さんのお手伝いをしているんじゃないかな」
「またまた、覚えづらそうな名前でござるな?」
「とてもかわいい子ですよ。まだ子供なのにおっぱいがばかでっかくて。コミケで入れ食いしまくっているみたいですね」
「こみけ……とはなんなのでござるか?」
お祭りのようなものですよ。そう告げて羊型の獣人は、車から聞こえてくるポコリーヌのやかましい声を聞いてつぶやいた。そういや彼女、今日は排卵日だったかな。やけに声が艶めかしいぞ。
「最近調子悪いからと断って置いてよかったなあ」
「ん? なにがでござる?」
「あははは。今のは聞かなくて結構です。さて、モルフェット……」
彼はモルフェットに近づいて前かがみになった。そろそろ知っていることを全て白状しようか。
「だから知らねえってのに!」
「……どうも本当にそうみたいですね、残念」
記憶をたぐる魔法をかけようとしたが、近くに寄ってみてこれは見込み無しだと彼は諦めた。膝を上げたその直後、飛鳥山公園の方角から一筋の光線が飛んできて、この獣人の首から上を塵にした。
「……まさか!」
イズヴァルトは振り返った。髭切がしくじった、とつぶやく。どうやらあっちが、本物のモルフェットの味方のようだ。
飛鳥山公園の真上には誰かが空に浮かんでいた。女だ。美しいを通り越して不気味な艶めかしさがあった。
ひどく乳房と尻が大きな身体である。乳首や股が見えそうな、うっすらと透けている真っ白い薄衣で覆った、金髪の若い女だ。
頭の真上には薄く輝く輪っかが浮かんでおり、しかもその背中には純白の翼が生え、羽ばたいていた。右手に細身の槍を持ち、左腕に丸い盾を携えていた。
「あれは……黙示録の騎士!」
自分を何度も苦しめた、天のみ使い。あるいは、エンジェルという別名を持つ自動人形だ。ヘラと手を組んでいたカヅノ=セイジが駆使していた。それが槍の穂先を天に向けて掲げた。
「……来る!」
飛鳥山公園から幾体もの同じ姿かたちの人形が飛び上がった。イズヴァルトは鞘を抜いた。ここであいつらに出くわすとは、思ってもみなかった。
以下、イズヴァルトの伝説関連のリンクです。
ハーメルンにて掲載
聖騎士イズヴァルトの伝説【新編】・前半まとめ
https://h.syosetu.org/novel/427506/
聖騎士イズヴァルトの伝説【新編】・忠烈編
https://h.syosetu.org/novel/363415/
読み飽きた人向けの最終回
https://h.syosetu.org/novel/428929/
豚小屋
https://h.syosetu.org/novel/429382/
ひよこ芸術
https://h.syosetu.org/novel/429966/
アルファポリス版です。バックアップ兼保管用
(本編と外伝を分けての掲載です。)
☆本編
聖騎士イズヴァルトの伝説 〜無双の武と凶悪無比なデカチンを持つ英雄の一大叙事詩〜
https://www.alphapolis.co.jp/novel/872528745/934913837
☆外伝
前世の記憶を持つ神業尺八使いの狸系美少女の妹と、女帝サキュバスの祖先の才を受け継ぐ清楚ビッチな姉の2人で、搾精の王国を建てちゃいます☆
https://www.alphapolis.co.jp/novel/872528745/779914728
転生したらあたし、セックス教団の教主の養女でいつでもどこでもエッチがしたくなっちゃう、レベル999のビキニアーマーの美少女魔法戦士でした!
https://www.alphapolis.co.jp/novel/872528745/959004604
旧版のイズヴァルトの伝説です。ノクターンにて掲載
ストーリーの細かいところがかなり違っておりますが、大まかな筋はおんなじです。
エリクサーみたいに栄養満点の精液を放つ絶倫聖騎士は、転生美幼女淫魔にまとわりつかれておちんちんをチューチュー吸われる。(旧題・聖騎士イズヴァルトの伝説)
https://novel18.syosetu.com/n3094lt/