カテゴリーG
一般的にはモンスターと呼ばれ、幾つかのカテゴリーに分類されている。
カテゴリーGはラテン語の【Goetia】から来ており、殆どの名前にはゴエティアの悪魔から命名されている。
「………マジかよ。コイツ成体でも上位個体だぞ?」
数時間前、頭頂部から腹部までを巨大な切削痕が見える遺骸を前に調査員の一人が呟く。
彼等は【
探索者、もしくは
同時に、未だに動く警備機械や兵器と相手をする為、殆どが武器携帯し、荒事も出来るように訓練される。
しかしながら、半分近くが食い詰め労働者が多く、危険と隣り合わせでもある為、初めて向かった仲間が半分死亡も珍しくはない。
機械のみならず、数千年の間に凶暴化したモンスターや金銭となる同業との争いも
そんな探索者達の身分登録を行うのがこの探索者協同組合であり、依頼の受注から初心者向け講座、引退時の再就職先や業務委託など幅広く仕事の支援を行う。
「…カテゴリーG、サレオス…地獄の公爵様だとさ」
「自走城丸呑みに出来るクラスは初めてだな…」
職員の2人は頭を上へと向けて見てみるも、その巨体の前では離れなければ全体像を確かめることは難しい。
「何使ったらこんな馬鹿デケェ穴開くんだよ?」
「自走城の警備員曰く…『男が跳んで錐揉み回転しながら蹴ったらドリルみたいに貫通した』って?」
「何だよそれ…」
調書原文そのままに話すと同僚の顔は疑問の表情となる。
ちなみに読んでいる本人も同じ表情であった。
「カテゴリーGって言ったら、
「分からねぇよ。倒したらそさくさと乗って寝息立ててたらしいし、直ぐに降りてどっか行ったとさ」
「ますます訳分からん」
倒せる者が限られる厄介な存在を前に誇らず謙虚な態度で居なくなった存在に呆れるしか無い。
尚、どちらも想像してみると、大分化け物めいた顔つきをする偉丈夫を考えるのだった。
アウターリムに隣接する
アビスは標高4,000m級の山を登り、中のカルデラ*1に都市が建造されている。
そして、アビスの名の所以たる物が、中央部に出来た大きな穴。
奈落の底とも呼ばれ、その世界に足を踏み入れたものは死を覚悟すると言われている。
「ってね?ヴァンガードは基本的にアビスの"ass"に突っ込むって言われてるんだよね〜〜」
「
宿に隣接するパブの席にて、彼女は自身の顔一つ分あるドデカイジョッキに入ったエールを飲み干す。
口元に白い泡を付けた姿は何とも滑稽さを演出した。
「貴方だって
「まぁ、それは間違ってないが…」
名前の酷さには理由がある。
アビスは深度が存在しており、一挙に下へと落ちようとすれば瘴気によって重汚染状態になる。
というより、そもそも
降りるのではなく、"進む"のが正しい。
彼女、〔イリヤ〕は笑みを絶やさずに語り続ける。
束ねられたまっさらな銀色の長髪。
赤を基調とする服は少々丈の短いスカートで男を誘う様子が見える。
「君も見た所、同じヴァンガードだろ?恐らく
「わぁ、大正解。とはいえ三角帽子やら分厚い本は持ち合わせてないけどね?」
クスリと不敵な笑みをこぼす。
大きく見開いた目とカラリと笑う明るい女性らしさが思わず見惚れてしまうだろう。
本来はその気など無かったものの、少しくらいは男気というものを発揮してみたくなるが。
ふと思い出して問いかける。
「ということは、今誰かと組んでるのか?」
「うん。前衛役と二人組でね?そろそろ帰ってくると思うんだよね?」
「おいおい」
まさか同室が居るのかとは思ってもみなかった。
安全性を考えるに確実同性だとするならば、外に蹴り出されても文句は言えない。
容姿端麗な美少女を前にお預けを食らった気持ちではあるが、ここはグッと堪える事が吉と言える。
「……凍え死にしなければ部屋の隅でもいい」
「ええ〜?どうせなら私と
「とても有り難いしとても嬉しいけれど生存確率を踏まえて考えた結果、遠慮しておこう。今度は俺の部屋用意して誘うから待っててね?」
「うーん。次の機会を愉しみにしてよう」
この際SM趣味は無いけれど全身捕縛されることを覚悟しておこう。
とりあえず、エールを一気に飲み干し、突き出しの豆菓子を食べる。
「おかわり!!」
「あっ、ラムコークお願いします」
「かしこまり!!」
何だろうか。
青っぽい髪をした顔長の人間?が空のジョッキを回収し、いつの間にか現れた金髪ツインテールの人間?が注文したエールとラムコークを置いていく。
「早いな」
「早さがウリらしいよ?」
本当にそうなのかと思ってしまうが、いつの間にか出来立ての料理が湯気を立ててテーブルに置かれていたから驚いた。
「それそれドンドン飲もうよ!駆け付け一杯!!」
「一応マイペースで飲ませて貰うよ」
イリヤの飲むペースは相当早く、もうジョッキは空になっていた。
其処からテキーラに変わっており、ライムと塩を舐めて互いにどちらが潰れるか勝負に変わってしまう。
「っ…!!5杯目!」
「はい、ライム」
「んっ〜〜!!酸っぱっ!!」
彼女が飲んだので此方もショットグラスを一気に傾け、喉へ流す。
成る程、これは随分と効くな。
時間が経つにつれて空のグラスは10杯目を突破。
気が付くと彼女は頭が揺れ始め、メトロノームを見ているようだった。
「……ま…まだぁ…いけ…るぅ…」
「もうマズイだろ?会計頼む」
「かしこまり…!!」
金のコインを店員に渡し、会計を済ませる。
こうでもしないと大惨事になるまで飲みかねないと思ったからだ。
「ふへへぇ…もう…いっぱい〜…」
「急性アルコール中毒で死ぬのは御免だ。部屋の番号は?」
「くけけけ…お尻のポケット……」
「………他意は無いからな?」
こればかりは不可抗力と思って欲しい。
触りたいと思える丸みを帯びた尻肉を我慢し、ルームキーの入っているポケットへ親指人差し指で摘み、手にする。
若干温もりが感じながらも邪な考えを振りほどいてからイリヤを背負う。
「……クカァ…グォォォオオオ…グォォォオオオ…」
本格的に寝ている。
酒場の隣、宿屋へと向かい、ゆっくりと歩き続けて出来る限り振動を与えないよう動くも。
「…ぐっ…ぎもぢわるっ゛…!!」
「止めるんだ。光とか虹で覆われる行為は止めっ「グエッ!オボボボッ…!!」」
「ギャアァアアア!!?」
乙女の尊厳の為に伏せておくが、右肩から全体的に生温かい酸味の効いた物にまみれた。
【コンコンッ……】
「ん?アーチャー?」
部屋のドアからノック音が響き、中に居た少女がドアノブに触れようとしたとき。
「………アーチャー?」
ふと彼女は手を止め、不審に感じ取る。
普段から何方かが部屋に居る際は合図としてノックの仕方を共有している為、アーチャー=イリヤがする筈のリズムでない事に気がついた。
「アーチャー?貴方なの?」
再度問いかけてみるも、イリヤから返事は帰ってこない。
何かがおかしい。
そう考え、ベッドのサイドテーブルに置いてある
薬室内に銃弾が装填されている事を確認し、右手で構えつつ、ドアの鍵を開ける。
「…まあいいわ。入って」
本来であれば宿の中で発砲はご法度。
しかし、女の身である以上ある程度の用心と警戒が無ければ食い物にされかねない。
何者かを確認し、場合によっては撃つことも念頭に置く。
ドアノブが回り、ゆっくりとドアが開かれた瞬間に。
「…動かないで」
現れた人物の頭部へ狙い定める。
「………別に怪しい者じゃない」
「其れを決めるのはコッチよ?」
「其れは確かに」
納得した表情の男、ミヤモトは少々考えてから背負っている人物の姿を見せた。
「……グゥ…」
「…アーチャー?一体何が?」
「テキーラ10杯飲んで酔い潰れて致し方なく連れてきて途中で乙女の尊厳的に言えない状況でかつ、今正しくエンガチョしたい気持ちでいっぱいいっぱいです」
「……あぁ…」
早口で状況説明を伝えられると、少女も理解出来た。
少なくとも何か邪な事をするつもりは無いらしい。
「………そっち寝かせて。一応自己紹介とコートの洗濯。あとシャワーも貸してあげる」
「ありがとう。あと、とても図々しいお願いなのだが、部屋の隅でも良いから寝床を貸して下さい誠にお願いします」
「………アーチャー……」
仕事仲間の同居人の仕業だと直ぐに気が付き、怒りを見せるも、大の男が頭を下げて願う姿は少々滑稽さが勝る故に思わず笑ってしまった。
「あっははっ…!貴方大の男が女に頭下げるなんてどうかしてるわ?」
「外で凍え死にするよりはマシだと思うがね?」
「ふふっ、それもそうね…。後どうせ寝るなら毛布とかあげるわよ?」
肩をすくめるミヤモトに少女も笑みを見せる。
先程までの緊張感も薄れ、ようやく一息つくことが出来た。
「じゃあ、俺はミヤモトだ。一晩だけだが宜しく」
「ええ。私は〔シノン〕。アーチャーとはコンビを組んでる」
「そう…」
2人は互いに握手をかわし、軽い自己紹介を行う。
「その前にシャワーに入りたいです」
「うん。その酸っぱい臭いは不味いわね」
部屋にあるシャワーを借り、何とかコートの汚れを落とすことが出来た。
約10分程、汗等を洗い流してから着替えとして持っていた下着類及びカーゴパンツを着てからシャワールームを出る。
短めの頭髪はある程度タオルで擦れば乾燥するのも早いのが利点であり、側面横一線の傷となったツーブロックがよく見えた。
「ふーん。中々鍛えてるのね?」
シノンの視線は二の腕辺りに向いている。
「少なくとも鍛えとくべきだと俺はおもうがね?」
「確かに言えてるわ。ヴァンガードであれば尚更」
ミヤモトは手を握り、腕の筋肉を盛り上げて見せる。
命を担保にする稼業ゆえに鍛えることは必須であり、シノンもまたそれを熟知していた。
若いながらもシノンも無駄に年を食った同業よりも知識や姿勢の持ち主であることを理解し、これからも付き合えそうだとミヤモトは考えた。
が…唯一、問題があるとすれば。
「すまないが、部屋ではその格好がデフォ?」
「ええ、そうだけど?」
着ていたであろうジャケットはハンガーに掛けて壁に吊り下げ、ホットパンツも同じく吊っている。
問題なのはその格好である。
カウボーイスタイルと思われるズボン等も股の部分は空いており、際どさを演出。
ジャケットがないとアンダーウェアのみとなり、少々目のやり場に困るものである。
「流石に男の前でそれは不味いと思うが?」
「あら?アーチャーに手を出さない紳士には難しかった?」
「一応スるかヤるかでも時と場合は選ぶよ?」
流石に手を出すのは不味い。
一応は自制という言葉も持ち合わせているミヤモトも悶々としつつ目を閉じ、脳内の煩悩を鼻で一息吐き出す。
「ふぅ〜ん?そう…」
どういう目で見ているのか、少し呆れなのか傍観の意味なのか、ため息を吐いて何かを諦めた様子を見せる。
「??」
助かったのか、何なのか。
シノンの麗しい肢体を目に入り掛けそうになりながら、息を整えてはシーツを敷いた床へ寝転がる。
少しばかり硬い床も暖房器具の揃ったアビス内であれば温もり抜群の寝具に変化させた。
「………ねえ。普通に寝ないの?」
もう少しで眠れそうと思った時、シノンから声がかかり、口を開く。
「普通…って?」
「それは普通……"ココ"でしょ?」
と指差す方は自身の寝るベッド。
隣に一人分は寝れるスペースを作り、誘ってみせる。
これはどんな意味であろうとも、同衾であることは間違いない。
「確かに普通ならね?」
と普通を強調した言い方をしつつミヤモトはそのまま目を閉じ、寝息を立て始めた。
「……ふぅん。顔だけじゃなくてスタンスも結構好みね」
何処でも寝れるらしいヴァンガードの素質、そして相手に対する律儀さを持つミヤモトにシノンは少し羨ましさを覚える。
その律儀さでもう少しからかっても見てみたかったものの、明日が早いのは自身も同じく、寝ることとした。
泥の匂い。
血の匂い。
錆の匂い。
事様々な匂いが鼻孔を突き、食べたコンビーフが胃から再会しそうになる。
山と山の間にあるどんな街だったか分からない廃墟群の中。
狙撃用に設計された小銃でターゲットへと狙いを定める。
小銃のバイボットで体勢を取りつつ、身を隠しながら此方の動向を探る敵に対し、ライフル弾を撃ち込み、倒す。
これだけ汚れた中に倒れれば破傷風は免れず、出血も止めづらいであろう。
確実に仕留め、それでいてまだ息があることを確認できる位は生かすことで他の仲間が助けに行く様に促せる。
ボルトを後退させ、新しい銃弾を薬室に送り込む。
敵は此方側に発砲。
若干明後日の方角に撃ち続け、その間に味方を助けに行くのが作戦なのだろうか?
ならば此方も一つ。
遠隔操作で連動する自動擲弾発射器を動かし、風の流れと湿度を考慮しながら位置を確認。
狙い定まった所で、スイッチを押し、40mm
シュポンと筒から放たれる金属製の弾頭にはこれでもかと爆薬が詰まっており、弧を描いてそのまま敵が隠れ潜む陣地へ着弾した。
結果は上々。
スコープ越しに敵兵だった一部がそこらじゅうに散らばり、左右の腕や足から人数を割り出す。
小隊に属していた隊員の数は10人前後。
地上へと降り、周りを探索していると、辛うじて生きているらしい敵が1人。
下半身が全て失くしながら此方を拳銃で狙おうとするも、一発も撃つこと無く事切れた。
生きている者はもう居ない。
確認をし終えた後、小隊が後生大事に持っていた物を手に取る。
運んでいた物は旧世界の遺物。
どんな物なのかは知り得ないが、これが依頼内容に入っていた以上回収するのが目的だ。
数km先の回収地点へ向かう為、遺物をポーターケースへ入れ、固定を行い、背負う。
軽い山越えをしなければならない。
そう思いながら、持っていた通信端末の通話を押し、耳元へつける。
「仕事を終えた。ランデブーポイントに迎えを寄越してほしい」
『了解。直ぐに向かう』
長々と通話をすることも無く、直ぐに切る。
背負った重みを感じ、後処理をしては足を進める。
次の仕事は何であろう。
奇妙な高揚感が脳内に駆け巡っている。
自分の中にまだ
もう少し落ち着きを取り戻したいが、中々難しい。
その中で、また端末に文章が送信された。
面倒だと思いつつも仕事は受けなければならない。
端末を開き、内容と添付された写真を見た。
「……この男は?」
左右の瞳の色が違う男の写真。
左眼が蒼く、深い海の底を思わせる色合いをしている。
名前は不明。
何をしたのかも不明。
どれも不明と記された男だが、妙に惹かれた。
まるで街歩く混雑の中で出逢った運命の人の如く、一目惚れをした。
「………ああ。会ってみたい」
思わずペロリと舌舐めずりをしてしまい、はしたなさを覚えるがこの獲物を前にして漏らさなかっただけマシかも知れない。
股間の反り立とうとする分身に抑えるよう鎮めながら回収地点へと急ぐ。
朝日が一向に昇らぬ日が続く極夜の時期故に慣れない人は鮫の肝油を飲む習慣がある。
原因としては日差しを浴びないことによるビタミンD不足が起こり、うつ病や心身疲労になりやすい。
比較的悪辣な環境に身を投じていたミヤモトであるが、早速目覚ましとなる日差しの恩恵の無い日を過ごすこととなった。
「……ふぅ…」
左手首の腕時計を見る。
一応朝の6時を指してるが、外は暗い。
これが数ヶ月続くと言うことだろう。
出来る限り早めに慣れなければと思いつつ、まだ寝息を立てるイリヤとシノンを一瞥。
彼女達に感謝の念とメモ帳代わりにチラシの裏側、白い部分に感謝とまた後でと書き記す。
置き手紙を書き終え、サイドテーブルに乗せておくと、静かに動きながらゆっくりと忍び足でドアを開け、外へと出ていくのだった。