ヴァンガード
先鋒者、もしくは先駆けとも言われるアヴァンギャルドを語源とする言葉。
遺跡探索や未開拓地帯を先行する者達として呼ばれており、殆どが戦闘職畑出身である。
優秀な軍人だった経歴もあれば、裏路地のストリートチルドレンが一世一代の賭けに出る場合もあり、実力はまちまちである。
等級が記されており、身分証となるドッグタグの素材で分けられている。
駆け出し、ルーキーは【白磁】。
其処から【黒曜】【石英】【銅】【鉄】【鋼】【銀】【金】の順に上がり、ほぼ伝説レベルに言い伝えられている【白金】を最上位としている。
基本的には銃火器を利用するが、エンチャント技術に基づき、剣や槍等の武術も必須となる。
早朝から動く者達は少なからずいる。
市場関係者含めて土木建築労働を主とする者達は人々の活動が行われる前に進めなければならない場合があるからだ。
其れに、アビスでは本格的に外界との接続が切れる時期であるため、食料品の買い込みや納期の追い込み等で追われている。
冬籠もり。
ホットパイプが張り巡らせていない昔は雪が家を覆うほど多く降り積もる事が多く、物理的にも雪解けの時期まで待つしか無い風物詩と聞く。
故に食料が足りず木乃伊になって出てきた者も居れば、新しい命を拵えて出てくる者も居るそうだ。
尚、今はホットパイプの恩恵により、靴底以上に沈むほど積もることは無い。
但し、その習慣は残っているため、食料品の買い込み等は今でも行われている。
先ず、ミヤモトが向かうのはヴァンガード達が依頼を受けたりその他の業務を行う探索者協同組合の支部オフィス。
まだ開かれたばかりか、人はまばらに居るものの既に受付などで活動している同業者が依頼の受け取り等にサインを施している。
「えっ…と…彼処か?」
ミヤモトの目的は一つ。
このアビスで遺跡探索を行う為の許可を申請する事。
申請するには首にかけられたドッグタグが必要であり、これと本人の生体認証で身分証明及び報酬を管理する"グリンゴッツ銀行"の口座が紐付けられている。
絶対に失くすな?と言われる生命線の一つであり、生きるか死ぬかが決まる物でもある。
「次の方、どうぞ」
申請する方は人が並んでおらず、直ぐ窓口に向かう。
受付の女性が笑顔を見せながら用意された記入用紙をミヤモトの前へと出す。
「此方の書類に記入をお願いします」
申請用の紙には名前と等級、年齢等必要なプロフィールに前の所在地と移った理由等も記入が義務付けられている。
とはいえ、ヴァンガードであれば別の開拓都市に移動する事は珍しく無く、狩り場が無くなったとか掘り尽くしたとか言っておけば特に気にされるわけでもない。
むしろ、流動的な環境は街の活性化にも繋がるため必要であるとも言われている。
「えっ…と…名前はミヤモトと…年齢は……20…何歳?」
年齢の部分でペン先が止まる。
「あっ、正確な年齢が分からない方もいらっしゃいますので大体でも構いませんよ?」
「あっ、はい」
常日頃にそういった人物も居る為か、淀みなく答えられ、どうするかと考えた後に"29"と書いた。
その後は特に考えもなく、移る理由や今後の予定などを書き記し、申請書の必要項目を埋めることが出来た。
「ありがとう御座いました。それでは書類の方を纏めますので少々お待ち下さい。後、アビスはこれから3ヶ月程陸路が封鎖されますので短期賃貸契約が出来る物件でも見ていて下さい」
「分かりました」
受付の女性が会釈し、奥の方へと向かっていく。
彼女から言われた通りに待合所のボードに貼り出されている物件情報を眺めてみる。
「……結構高めだな」
流し目で追いながら見てみると、月額料金で6,000ガルズ*1が平均値と中々相場が高い。
他の物件情報でも、
「………ん?」
ふと目に入ったのはこのオフィスがある北区内にある物件。
家賃価格は3,000ガルズとだいぶ安くかつ、載っている写真等も其処まで悪く感じられない雰囲気がある。
「………ここにしてみるか」
とりあえず、一緒に付いている不動産屋の名刺を取り、後々で連絡を取ることにした。
書類や何やらの確認を終えると既に日雇い労働者の行列が出来上がっている。
冬籠もりに向けて貯めねばならない切羽詰まった状況下故に見開かれた目はだいぶ血走っている。
そさくさと縫うように行列を抜けてから、ミヤモトが辿り着くのは先程の物件。
大雪の名残が残る高床式の住居は3階建てで他とは離れた位置に建てられている。
「悪くないじゃないか」
外装も鈍色を基調とした北欧モダンテイストの造りで渋さを感じ取れる。
「さて…そろそろか?」
アポイントは既に携帯端末で取っており、早朝ながらすぐに向かうと言われている。
其処まで売りたい物件なのだろうか?と少々不思議に思いつつ待つ事3分程。
「おはよう御座います。当社営業の〔永井〕です。寒い中お待たせいたしました。どうぞ中をご覧になって下さい」
「あっ、はい」
早速、不動産会社から来た永井と呼ぶ壮年の男性が階段を昇り、鍵を使って玄関のドアを開ける。
どうやら会社自体が直接管理している物件らしく、普通であれば管理人等との話し合いで決めるものであるが。
「どうぞどうぞ」
外開きの玄関を開け、中へと入る。
中は土足で入る西洋式と思いきや、靴を脱いで上がる日式であった。
中を案内され、一つ一つ部屋を見ていく。
リビングは炬燵らしきものを中心に広めの室内が印象的。
ダイニングキッチンはカウンター席とテーブルに二重羽根のガスコンロや冷凍冷蔵車もプロ仕様の大容量サイズ。
トイレは男女別々に作られ、立ち小と便座2つがある。
「お風呂は大人5人まで入れる大風呂で、シャワーも3つ付いた大浴場式となっています。ボイラーも大火力、15分あれば溜められ、追い焚きなども自動で行う優れものです」
「ほぉ…」
中でも関心があるのが大理石で出来た大浴場風の浴室。
恐らく建てた当時は大家族で入ることが多かったかも知れない大風呂に洗い場とシャワーが3つもあるから交互代わる代わるしなくても良い設計だったのだろう。
水道は降りしきる雪の量からほぼタダに近いが、光熱費はだいぶ嵩んだ可能性はある。
とはいえ、足を伸ばせる広々風呂は心の洗濯にもなるストレス発散方法でもある故にミヤモトは気に入った。
「後は2階と3階に洋室和室共に二部屋ずつ、押入れや荷物運び用の昇降機もあります」
「成る程。此処に決めました」
「………えっ?」
即座に決めたミヤモト。
これには他の物件情報も含めて用意していた永井も驚いた。
「契約お願い出来ますか?早速今日から使いたいので」
「あっ、はい…分かりました」
すぐに契約書類へ記入。
妙に多い注意事項や同意書について疑問は感じるものの、ヤクザ稼業と変わりない職務故に詳細内容が必要と考えた。
「では。3ヶ月分まとめ払いが済みましたので心ゆくまでお過ごし下さい」
妙に素早く、逃げるかのように出ていった永井の背中を見送り、ミヤモトは玄関を閉めながら1つ思う。
「……掃除だな」
如何に人が住んでいない+不動産屋で定期的に清掃をしていてもやはり行き届かない部分も存在する。
先ずは掃除。
早速買い出しへと向かい、清掃用具を揃える。
古びたカーペットを剥がし、買っておいた敷物に変えて模様替えを行う。
他に重曹を溶かした水を霧吹きに入れ、掃除箇所全体的に吹いてからホコリに水分を吸着、箒で掃いて取る。
その後ウエットシートで拭い、壁紙等の古く湿った臭いを霧吹きを掛け、中性洗剤で拭き落とす。
其れを各部屋全て繰り返した後に銀イオンを含んだ消臭スプレーでコーティング効果を与えた。
風呂場の掃除は中性洗剤で一度洗い、クエン酸で水垢汚れを落とす。
隅にある黒カビも泡タイプの塩素剤をスプレーし、時間が経ったら洗い流す。
日頃は熱湯を掛けてからと冷水を掛けると発生しにくくなり、水気を拭えば更に抑えられる。
使った後のボロボロのタオルや雑巾であれば使用するにも後腐れは無いだろう。
「…ふぅ…終わった」
何と言うことでしょう。
使用してから放置した感が蔓延していた家屋は見事に綺麗な家へと変貌した。
しかし、問題は要らなくなった物は全て処分し、今度は必要な物が増えてしまう事。
「………買うか」
ボロボロのフライパンや使い方を間違えて破損したフライ返し等、前の住人が残した負の遺産を処分した為、色々と欲しくなってしまうのも人の心。
幸い、掘り出し物であった物件であるため、多少の予算を捻出出来る。
────ついでに食料品も買おう。
年甲斐もなくスキップしてしまいそうな勢いで外へと繰り出していく。
昼前時という事もあってか、食材を扱う店が所狭しと営業する市場内では穫れてすぐの新鮮な野菜や魚介、肉、その他香辛料や香草も豊富に取り扱っている。
極寒の地で野菜が採れるのか?と思われるだろうが、此処アビスの穴、一層目の入口付近で栽培が出来る程温暖な地帯が存在する。
野菜のみならず果物もエキゾチックな物からポピュラーな物まで幅広く栽培が行われており、他の地域よりも安価で仕入れ、提供されている。
甘味種に該当するトウガラシ属の野菜やナス科の赤い実の付く野菜等、豊富な野菜類に、ヴァンガードが狩猟したと思われる
「…マスか?」
しゃくれた口先と銀色に輝く体表。
既に腹が割かれて見える鮮紅色は紛れもなくマス科の魚と見て間違いない。
「"イクラ"抜きなら安くしとくよ?」
「ああ。じゃあ3匹お願いします」
「あいよ…!」
観察をしていたミヤモトは店主から3匹分のマスを新聞紙に包み、渡す。
「ほい、3匹で8ガルズね」
「ありがとう」
まずは1つ、献立が決まった。
途中、キューバサンドとコーラで腹ごしらえをし、必要な食材と調味料、フライパンを含めた器具を買い込んでしまい、大型のバスケット付き台車を借りたのであった。
「…さて、後は漬けておくだけだな」
たとえ世界が崩壊したとしても、炊飯器と冷蔵庫だけは壊れなかったのかもしれない。
と言わんばかりに二升炊き出来るガス炊飯器があったことをミヤモトは頷きながら感謝の念を贈る。
幸い、単純な構造であったことで直ぐに使える事と、不慣れ故に全く使った形跡もなく、プロ仕様キッチン同様無用の長物となっていた。
色々と勿体ないと考えつつもこれ幸いに使いたい放題と考えるほうが良い。
念入りに掃除した冷蔵庫の中身はまだ自分色に染め上がっておらず、これからどんな食材を入れていこうか己の心と向き合いつつ、次の工程を想像しながら次の料理へと向かう途中。
「ん?何だこれ?」
妙にキッチンとダイニングが離れていると気が付く。
見てみれば、薄っすらと何かの線が1つある。
「………おっ?」
静かにその線の部分をなぞってみると蓋らしくカチャリと音が鳴り、取っ手らしき物が現れる。
────とりあえず引っ張ってみよう。
上へと持ち上げてみる。
ゆっくりとだが想像より大きい扉が出てくる。
床下収納の物置とは考えられず、限界まで開けてみると。
「…階段か?」
地下へと続くコンクリート製の階段が現れる。
閉められると厄介である為、処分時にまとめる用に買っておいたロープで取っ手をくくり、一番頑丈な支柱にもやい結びにおく。
こうすれば、外れる事は早々無いと考えた。
「…狭いな」
この地下の入口はミヤモトの体格では少々狭く、少し頭を屈めて入るしか方法はない。
頭をぶつけずにゆっくりと下へ降り、胸ポケットに入れていたペンライトを点けて照らす。
一段一段、縫うように降りていくと、階段から一面床へと変わり、周りを見てみる。
どうやら、少しひらけた空間に出たらしく、ペンライト程度の光量では奥まで薄暗くしか確認出来ない。
口にペンライトを咥え、両手を広げてから辺りを摺り足で動いてみる。
剥き出しのコンクリートの感触が足の裏から伝わる。
屋内であるが、サンダルか軽めの履物を用意しておくべきだったと思いながら、壁に指先が当たる。
家の地下であれば電気も通っているはず。
安全上、階段すぐに存在する筈のスイッチを探し、其れらしきものを見つける。
「これか…」
電気が入り、部屋の照明である裸電球が2つ部屋の中を照らす。
「……ほぉ…」
其処にあったのは、壁一面に立て掛けられた自動小銃、ボルトアクション式、散弾銃、擲弾発射器、無反動砲らしきもの、拳銃等、様々な銃器がある。
右を見渡せば強固なロッカーが3つ。
鍵は開いていないが、軽く力を入れ、無理矢理開けると中からは壁の銃器に対応した銃弾が未開封の箱に入って仕舞われている。
ほか2つも中には
「……使えるか?」
試しに1つ自動小銃を手に取る。
AR-15系列の突撃銃に当たるライフルのレバーを動かし、動作を確認。
若干異音と動作がスムーズにいかない部分が見つかる。
「………再整備するか」
無反動砲までは難しいが、他の銃器であればこの地下室に残っている整備用具で手入れ可能。
両手で数えることが出来ない量の其れ等を見渡しながら、鼻を鳴らし、整備にかかった。
銃身内にクリーナーを差し込み、6回ほど往復。
余計なガンオイルを拭い、息を一吹きしてからバネをスライドを装着。
スライドの後退がスムーズに行えた。
他の銃に至ってはプラスチック製の部分が劣化で割れやすくなっていた為、全て交換を行う。
ステンレスに関しては錆を浮かせる薬剤を溶いた水に漬け、翌日磨けば使用できると判断。
既に分解し、清掃を終えてた銃器を元の部品と組み立て、保護用の油紙に包んでおく。
「……ん?しまったな…」
グリップ部分の調整をしようと研磨機に触れた際、壁に掛けられた時計を見る。
時刻は既に午後10時を回ろうとしていた。
「……夕飯作ろうとしたのが午後3時前後だとして…うむ7時間もぶっ通しか…」
時間を忘れ、整備に没頭する癖でいつの間にか就寝につかねばならない時刻となってしまった為、一旦銃を仕舞い、整備用具をロッカーへと入れ、地下室から出ていく。
腰を含め、身体中の節々に鉛を帯びたような重さが残る。
「風呂入って…ストレッチして…寝よう」
夕食は簡易的なプロテインバーで済ませ、浴槽で15分程浸かってからストレッチを入念に行い、居間のソファへ足を運ぶ。
まだ2階と3階は何もなく、今後の活動次第で追加していこうと考えつつ意識は睡眠へ移行し始めた。
「………あっ…」
────そう言えば、どうして妙に安い…。
「……zzzZ」
1つ疑問を思い浮かぶが、睡魔には勝てずそのまま夢の中に沈み、寝息を立て始めた。
唐突に目を開く。
視界に映るのは、
「…………」
誰なのかは分からない。
そもそも戸締まりをしっかりとしたことを確認済みであり、無理矢理開こうとすればすぐに目を覚まして其れなりの対応する。
しかし、音もなく、気配もなく出てきたこの存在にミヤモトはただ思考し、目で追ってから口を開く。
「やぁ、麗しのお姉さん」
出来る限りフランクに、相手を刺激しないように声を掛ける。
依然として覗き込む体勢は変わらないものの、首を傾げ始め何かアクションを取ろうとする。
「…えっと。御用は何か?」
『……………』
ミヤモトは自分の前に現れた人物が何者なのかを敢えて問うことはしない。
ゆっくりと上体を起こし、ソファから降りてからキッチンへと向かう。
時刻は午前3時。
少し眠気を覚えながら、買った牛乳をミルクパンへ注ぎ、コンロの火を点けて温める。
その間、マグカップを2つ用意し、キッチンテーブルへ置いてから温まった牛乳を注ぎ、シロップをスプーン一杯分入れて溶かした。
「さて、どうぞ」
居間のテーブルにホットミルクを置く。
女は黒く長い前髪で顔を覆い隠し、表情が読み取れない。
ただ置かれたホットミルクを見続け、手に取れないのか取らないのかずっとそのままで動かずに居る。
「………」
────普通に作ったが飲めなさそうだな。
ミヤモトも女がホットミルクを飲めないことに気が付いている。
しかし、自分だけ用意する気にもなれず、御供えをする気持ちで置いておいた。
とりあえず、このままでは埒が明かない為、意を決して問いかけることとする。
「……さて。君はどちら様?この家に住み憑いてる地縛霊か何か?」
『…………』
女は無言のまま首を横に振る。
一応コミュニケーションが取れることは分かった。
「喋ることは出来る?」
『………いち…おう』
「成る程。こう聴こえるのか…」
発声による物ではなく、脳内に直接届けるテレパシーモデルの会話に馴れておらず顔が強ばる。
「じゃあ、君は一体どちらから?この家は君が生前に住んでたのかな?」
『…そう』
今度は首を縦に振り、応答する。
短い会話であれば多少の揺れは少なくなり、ミヤモトも幾分楽に聞くことが出来た。
「成る程……俺にどうして貰いたい?」
『………』
「ん?キッチン?」
ミヤモトの質問に女は指を伸ばし、キッチンの方へ向ける。
直ぐに立ち上がり指差す方へ歩き、上の棚が目的である事がわかる。
「この中か?」
『………』
女は静かに首を縦に振る。
若干高い位置にある為、視界に映すことが難しく、左手で棚の中を触れながら探っていく。
すると、一番隅の方に何か硬いものが触れる。
薬指の先で感じ取れたのは、硬い表紙で出来た本らしき物。
もう少し手を伸ばし、掴んでから引っ張り出す。
「………これ?」
『………』
首を縦に振る。
目的の物は"日記"であった。
「君のかい?」
『………』
若干遅れたように身体が止まり、数秒後に首を縦に振る。
日記というものである為か、女も羞恥心に満ちた表情をしている風に見えた。
とはいえ、開かずには事は進まず、ミヤモトも一回断りを入れるように頭を下げ、日記を開いた。
「………6月〇〇日。ようやく互助会から抜け出せた。退会金に4,000ガルズは高過ぎる。まだ人生始まったばかりで越えなければならない山は沢山あるけど頑張ろう…〔文香〕」
ようやく、女の名前を知り、事満足げな顔になった。
「ころころ可愛らしい文字書くねぇ…」
『………///!!』
文字の愛らしさを褒めると恥ずかしい思いか文香はバタバタと両腕を振ってミヤモトへダメージを与えようとするも、抜けて当たることは無い。
「へぇ…趣味に小説を…だからポエムみたいな書き出しをしてるんだな…」
『〜〜〜///!!』
「そんなに悶えるなら何で見せたんだ…」
見られて恥ずかしいならば見せるなと感じる事は良くないのか。
ふと罪悪感を覚えつつ、ある程度読み飛ばしながら見ていくと。
「………」
| 1月〇〇日 |
|---|
| そろそろ一年が経ち、ようやくまともな家と生活基盤を得られた。もう行きずりの男と寝ることも、路地で咥え込む事もしなくていい。大きなキッチンとお風呂を新築し、母よりも多くの子に囲まれながら生きて御祖母さんになりたい。その前に大きな発掘を成功させれば一生困らずに生きていけるだろう。好きな人と結ばれる。そんな些細で幸せな夢を持って…。 |
|---|
「……そう思いながらの末路がこれか」
白いワンピースを除けば、手足の爪は割れ、赤黒く滲んだ指先と不健康そうな青白い肌色は、彼女が死者であることを示す。
最早生きてはいない。
死ぬ前の姿がこの場所でこびり付き、シミの状態に変わり果てた者が所謂【霊体】と呼ばれ、実際はその場で撮られた写真の如く其処にあり続ける存在と呼ばれている。
故に此れを解決するには、願いを叶えることが正当法と言われている。
「……それで?どうすればいい?」
『……まい…そう』
埋葬。
つまり、文香の願いは自身の遺体を埋葬してほしいということだ。
プロローグ終了 to be continued