互助会
中堅探索者がルーキーを囲い、育てる制度として用意されたシステム。
住む場所や武装、果てはある程度の資金まで面倒を見る形でルーキー達は互助会に入る。
しかし、実態はルーキーを含め中堅も吸い取るように搾取が行われており、報酬の10%を納付や使用弾頭の詳細記載が無ければ実費支払い、果ては乗り物なども自分達で用意しなければならない。
最も問題は、互助会内でのレイプ事件を含めた強姦が横行するケースがあり、女性もしくは顔立ちが幼く女性めいた少年などもターゲットにされてしまう。
退会についても、高額で支払いを求めるケースが多く、払って互助会から出れた者は極少数に留まる。
私の子供の頃は、小さな本屋さんに居ました。
掘り出された本も再生技術で元に戻り、中央の大図書館に保管され、本屋さんでは複製品を売買出来ます。
父はこの仕事をとても誇らしく思っています。
母は探索者で遺跡から持ってきてくれた本を父が再生させ、其れを図書館へ送るのが使命だと言っていました。
過去の叡智は大半が失われてしまったけれど、本の中には其れが多く残されており、其れを引き揚げればよりよい未来に一歩近づけると父は信じていた。
私も、父のその思いを大変喜ばしいと思い、何時かは同じ様に本屋さんを営みたい。
そう思った矢先。
父は捕まってしまいました。
理由は唯一つ。
そんな物は初めて知った。
母も抗議し、そんな書物があるとは誰も知らず、父も其れを認識もしていないと。
そもそも、その書物とは何か?
私は密かにその本を読んだ。
内容は………。
ブーツの紐はしっかりと縛る。
防弾コート、耐衝撃ベスト、ケミカルライト、痛み止め等のアンプル、各様々な装備を着け、地下室から用意した
仕様弾頭は7.62mmNATO弾。
高速で飛翔し、ある程度のモンスターの頭部を撃ち抜ける強力な
他にもダットサイトに取り付ける倍率ブースターで簡易的な狙撃を行え、サイドにアイアンサイトを取り付け、不意の近接戦にも対応しておく。
肉厚に設計された銃身は悪環境下でも優秀な性能を見せてくれることだろう。
ボルトを引き、動作確認を行い、間違いなく武器として使える装備として、入念に見ていく。
「……さて」
バックパックにはチョコレート等の軽食を。
リュックには蒐集物を持ち帰る為のバックを折り畳んだものを数個入れておく。
これで準備は整った。
「………ちょっと欲張ったかもしれん」
大分嵩張ったなと脳裏に浮かぶ。
しかし、埋葬を約束した以上、其処にあると思われる遺体と周りにあるらしい蒐集物の回収も必要な為、ある程度は余裕を持っていくべきだと判断した。
数時間前。
「埋葬?坊さんに拝んでもらう方の?」
『……………』
首を縦に振る。
どうにも彼女は自分の身体をきちんと弔ってほしいそうだ。
世界には様々な葬送があり、山岳地帯では遺体を裸にし、其れを鳥類の巣近くに置いて鳥に啄ませる鳥葬という行為がある。
これらの行為は、言うであれば故人との負の繋がりを断ち切り、あの世へ旅立つ為に必要とされるアクションの1つ。
其れを行うことで地縛霊等も汚れを拭き取るように消えていなくなるとか。
「………それで報酬は?俺も流石にタダでは難しいが?」
『……しんだ…ところに。たくさん…』
「遺構の蒐集物がある?」
『………うん』
恐らく彼女が出る前まで手に入れた収穫であろう。
警備ロボットの部品から各種機械の中身等の過去の遺物は相場次第で高く売れる物が多い。
ただ、死人となった彼女には無用の長物であり、弔いをするための報酬にするならば充分だと判断したのだろう。
「……うむ。ただなぁ…」
ミヤモトの顔は少々不服さが伺える。
『………ふまん?』
「というより……そうだな…」
考え込むミヤモト。
対してどうすればいいかあたふたと困惑する姿に1つ何かを思い浮かばせた。
「依頼達成したら一晩君と"イチャイチャ"する権利はどうでしょうか?」
尚、半ば冗談めいた提案であり、これが拒否されても受けるつもりであるが。
『……///!!?』
「……あれ?」
顔を真っ赤にし、沸騰した湯のごとく蒸気が洩れているイメージが浮かび上がる。
この思っても見ない反応にミヤモトは目をぱちくりさせ、立ち尽くした後。
『……いい…です///そ…その…ま…マグロ…で良ければ…///』
「お…おぅ…最近ご無沙汰なので嬉しいです…」
想定外であったが、一応了承を得られた。
殆ど驚きと少々美人との逢瀬に対する喜ばしい気持ちの複雑な心境に包まれるものの、あっさりと承諾した。
と、此処までの経緯を語りながら、軍の照明機が照らされるゲート前へと到達。
街を突っ切り、金属のプレートが覆いかぶさった場所にあるアビスへの入口は【UCF北方防衛機動群第41機甲師団】と書かれた装甲車や
「…探索者か?」
「ああ。照合お願いします」
監視所に2人。
厚手のコートを羽織り、北方群仕様の突撃銃をベルトで肩に担ぐ姿は軍人らしさを表している。
ミヤモトのドッグタグを手に取り、裏面のレーザー刻印を読み取り機械に乗せ、解析を行っていく。
「……ん?」
照合をしていた兵士がドッグタグに記載されている経歴に1つ気になった部分を見つけ、ミヤモトへ問う。
「失礼ですが、貴方は第666機械化歩兵連隊に属していましたか?」
「ああ…そうみたいだ」
少し曖昧な返答をするも、兵士はそれを気にせず背筋を伸ばし、右手を斜め45度に構え、敬礼を行う。
「……!失礼しました!兄が同隊に所属、仲間の進路を確保する為に信管の作動しなくなった爆薬でトーチカを破壊し、名誉勲章を授与しました」
兵士の兄は恐らくミヤモトと同じ連隊に属していたらしく、悲しくも誇らしい顔を見せた。
「そうか。亡き同胞に敬礼」
ミヤモトも、同じ連隊の仲間として敬礼を返す。
数秒間、鎮魂の為に黙祷し、2人は同時に解いた。
「ありがとう御座いました。兄も喜んで居ると思われます」
「ああ。此方も同胞に会えて良かった」
「では、照合も終わりましたのでどうぞ中へ。
再度敬礼を行い、エールを送られる。
そんな不思議な縁を感じられながら、ミヤモトはアビスの中へと入っていった。
アビスは穴と称する者が居るが、実際は穴と言えるものではない。
入口を抜け、身体に奇妙な浮遊感を覚えた矢先、極夜で慣れた目には眩ませる程の光り輝く世界が広がっていた。
「……わぁ…」
潜るのではなく、"進む"。
広がる光景は、円柱状の大地にびっしりと敷き詰められた熱帯雨林のエリア。
様々な遺構や環境がそこにあり、目で見るには恐ろしく遠い存在。
地底世界【アビス】
発見されてから100年近く。
未だに踏破されず、旨味も危険もふんだんに用意された超ハイリスクスーパーハイリターンなデンジャラスワールドである。
「…成る程。この浮遊感は磁場の影響下にあるのか…」
重力制御、もしくは引力圏がこのアビスで働き、下へ向かう感覚ではなく、進むという考え方が正しい。
「…光源はこれか?」
上を見上げると、雲状の水蒸気と共に所々で光を放つ物が見える。
強烈な光源ではなく、あくまでも生き物達が暮らすに充分な光量を放つ其れは、特殊な"苔"である。
「ふむ…。光を放つキノコがある事は耳にしたが、まさか苔が光るとは思わなかった…」
熱帯雨林と言うだけあり、湿り気を帯びた空気が陸苔等の植物を育て、この熱気が成長を促進させる。
市場に出回っていた色とりどりの野菜や果物が収穫出来るのも恐らくアビス内で栽培している可能性がある。
他の場所にも入口が存在し、街の移動手段であるロープウェイや昇降機から廃墟群に入ることも出来るとのこと。
しかし、ミヤモトの目的はそこではなく、霊となった文香の遺体があるとされる地下道へ向かう事である。
「さてさて…行き先はそっちか?」
事前に地図でマッピングした場所へ歩を進める。
目指すは植物園の内にある管理施設。
この鬱蒼とした雨林の元は、閉所空間における植物療法を目的とした娯楽施設であり、今や交配による交配で多種多様な生態に変わり果てたキメラな異空間として畏怖を放つ。
それ故か、人の手のひらサイズのヒアリやカテゴリーCからEまでの危険生物が確認され、死因トップ5「起きてみたら身体半分むしゃむしゃされてた」がランクインされているほど。
尚、アビスの危険度はAAA+。
原生民族に首と脊椎抜かれてトロフィーにされたり、ロクに調べもせず食したら心筋梗塞になったや、猿人類らしき生物に遊び道具(撲殺)等も珍しくない。
その為、幾つかの農場は其れ等が侵入を防ぐ自動迎撃のターレットが設置されており、対空迎撃のメタルストームから12.7mm仕様の
「ん〜…何が居るな」
歩いてから10分程、ミヤモトは肩から417-G28を構え、倍率ブースターを着ける。
空気に漂う鉄錆の臭い。
耳に入る硬い物が鋭利なもので擦られる摩擦音。
それを意味するは唯一つ。
「…仲良く
肉を咀嚼。
腱や軟骨ごと噛み砕き、喉を鳴らして飲み込む。
大型の豹に近い肉食モンスターが武装していたらしい男の装備を剥ぎ取りながら、肉を引き千切り、食み、胃へと納めていく。
自然の道理であり、摂理でもあるその光景は致し方ないと諦める者も少なくはない。
ミヤモトもその1人であり、邪魔するつもりは一切ない。
が。
「……欲張りは身体に毒だぜ?」
一匹が気付き、視線を向ける。
口元に付いた鮮血が滴り、唇を震わせるように唸り声をあげ、ミヤモトへと近づいていく。
新たな獲物を見つけた猛獣達が徐々ににじり寄る姿はいつ殺されてもおかしくない状況を作り出す。
より新鮮な肉を喰らいたい。
そんな意志がひしひしと伝わり、ミヤモトもひきつり笑いでどうするべきか行動に示す。
「……恨みっこなし…だ…!!」
腰元からストラップに付いたM84フラッシュバンをモンスター達のすぐ上へ投げ、耳を塞ぎ、口を大きく開ける。
何を意味するか、モンスター達には理解出来ないでそのまま上へと投げた物体を目で追ってしまう。
フラッシュバンが破裂、全て真に受けてしまった。
強烈な可視光線と鼓膜を震わせる音は、野生動物として特化された聴覚と視覚を潰され、研ぎ澄まされた三半規管が揺らされる事で感覚の半分以上を使用不可能にさせる。
のたうち回り、身体をジタバタと跳ね回る姿は聴覚だよりにしていたモンスターを覆いに苦しめる。
対して被害を最小限に抑え、復活したミヤモトは小銃を構え、単発での指切り射撃を行う。
素早く2発、7.62mm弾が頭蓋骨を貫通させ、確実に絶命させていき、残り一体まで減らした。
「…おっ?」
聴覚が回復する前に、四肢を動かし、跳び退いては木々の根を越えて走り去って行った。
身の危険によって知性が本能に抗う。
唯の動物とは一線を引く考えられる獣、"モンスター"の存在は探索者からすれば厄介極まりない存在であると改めて考えさせられた。
「…まぁ、追い払えたのを幸いと取ろう」
深追いをするべきではない。
弾倉を新しく替え、当初の目的通り向かうポイントへと急ごうと足を踏み出そうとする前に。
「……ドッグタグだけは持ち帰るぜ」
餌に変わり果てた同業者の首から認識票を取る。
死亡判定が出れば多少なりとも組合から報奨金が出る為、これを回収する業者もいたりする。
吊り下がった票を眺め、色具合から"銅級"であることが分かった。
「……アーメンハレルヤピーナッツバター。運が悪かったな」
一応、他の遺品を探るために剥ぎ取られた防刃チョッキのポーチを調べる。
古びたジッポライターと萎びた紙巻きタバコ数本。
そして、先の曲がった万年筆が見つかった。
「……仲間が居たら渡しとく」
誰かからやれと言われた訳でも無く、唯の趣味に近い行動だが、いつしかこういった場所でくたばり、死体になった後に同じ様に遺品を纏めて届けられる事を想像した際、もしかしたらと思い立ったのが始まりである。
意味はないかも知れないが、自らが行うことで先に繋がるとほんの少し信じていたりしていた。
「さて、行くか」
寄り道はあったものの必要な事を済ませて足を前へと出し、向かっていく。
「…んん…?」
森を抜け、突如として現れた人工物であろう高層物体。
と言うよりも、森林が廃墟群を呑み込み、金属製の地面で構成されたこのエリアのみが維持されているに過ぎない。
環境保全能力が裏目に出たと言うべきか、どちらにせよ此処からがヴァンガードの仕事となる。
「……ポイントの誤差は数百メートル規模。話によれば地下だと言ってたな…」
地下に居るはずなのに地下に潜る。
不可思議な言葉遊びめいた事を考えつつ、高層物体の入口を見つけ、中へと入っていく。
苔は一切生えていない地下は照明器具や暗視装置を使わなければ視界を確保出来ない程暗い世界が広がっている。
しかし、ミヤモトは其れ等の装置を一切使わず、悠々と散歩気分で歩を進めていた。
「〜〜♪あいむしんかーとぅ〜とぅ〜とぅ〜とぅとぅ〜*1」
余裕綽々に銃口を流れるように向けては辺りの索敵を行う。
これは単に気を緩めたり抜いたりしている訳ではなく、歌を口ずさむ事でペースや配分を定めておくテクニックの1つを今行っている。
行軍や登山等では、無言で居続けると必要以上に神経を細める場合があり、会話を弾ませたり冗談を言い合うことで精神的な緩和ケアとして効果がある。
互いに言い合える人間が居るのと、たった1人では雲泥の差があり、励まし合うことで普通では辿り着けなかった場所にも到達するケースも存在している。
同時に敢えてたった1人の中でも心身的に余裕を見せることで万が一の
「………ここらか?」
とはいえ、警戒をしてみたものの、特段誰かの気配は無く、取り尽くされた遺構はある意味白骨化と言っても差し支えない。
依頼者のご遺体が持っていたとされる蒐集物以外は期待出来ないと判断。
潔く遺体の回収に切り替え、ポイントと思われる場所に到達した。
「………特に変わった所は無し」
遺体らしきものは見えず、既に風化してしまったのかと若干心配しながら周りを隈無く観察し、調べていく。
「………おっと」
壁に触れ、指先に触れた違和感をジッと目を細めて見る。
よくよく見続けていると、薄っすらと縦一本線がある。
「………ほう。隠し扉…もしくはトラップか?」
ミヤモトは此処へ来るまで、幾つか説を考え続けていた。
老朽化による天井崩落。
落とし穴等のトラップ。
警備システムによる死亡。
その他etc…。
まだ下から数えたほうが早いランクではあったが、互助会を退会出来る金額を用意し、其れなりに資金繰りも悪くなかった彼女が死ぬ理由がビギナーの死因とはとても思えなかったからだ。
とはいえ、彼女がソロデビューしたばかりだとその限りではなく、気を抜き過ぎて施設内の警備システムに引っ掛かり、低致死武装で身動きが取れぬまま、一生経っても来ないであろう過去の治安維持組織への受け渡しを無理矢理待機させて餓死という笑い事ではないケースも考えられる。
但し、今回の場合は其れに限らない。
地下には何らかのトラブルに対応する為、シェルターが置かれている可能性。
其れは、基本的には秘匿されているもので、普段は目に見えない箇所に入口があると想定出来る。
であれば、何処かに手動の開閉レバー等が絶対に存在する。
事が済めば一旦は地上へと出なければ、確認のしようがなく、電気が通っているとは限らない事から手で開けられる仕様でなけばならない。
「……ここにレバーが……ん、あった」
外からも開ける仕様と考え、壁を触れては押してみる。
経年劣化によるのか、蓋が割れ、油圧式の開閉レバーが現れる。
これを引き、縦に回してから押し込める。
すると、閉鎖されていた油圧ジャッキが下がり、ロックが解除、隠されていたドアが開かれる。
「………お初にお目にかかり、宜しく…〔文香〕ちゃん」
ようやく閉じ込められていた彼女の姿を見る。
シェルターの中は六畳一間分の広さにトイレやベッド、軽い調理を目的とした電熱器と洗面台がある。
少し広い独房をイメージ出来る空間に、ただ入口手前の壁際へ寄りかかった"死蝋"と化していた。
「すげぇ美人だな……生きてる内に逢いたかったぜ…」
木乃伊とは異なり、腐敗の元となる菌が繁殖せず、外気にも触れられなかったことで体脂肪等が蝋状に変化する現象。
実例では沼の泥炭層に沈んでいた死体が死蝋となっていたケースに、2,000年前もの死体が死蝋として発見されたケースも存在する。
どちらも、状態が良く、木乃伊よりもはっきりと故人の顔つきが分かり、人類史研究が進んだと言われている。
「……さて。運ぶ準備をするか」
一時、安らかな顔を眺め、運ぶための下準備を行う。
遺体保護用のフィルムを爪先から身体全体的に巻いていき、ズレや摩擦で損壊を防ぐ。
次に人一人分納められる大きく、分厚い素材の緩衝材とビニール袋で包み、口を閉じる。
これで上まで運び、葬儀屋へ納入が可能になった。
「…後は、報酬の蒐集物の方を…」
彼女が集めた遺構内の蒐集物は、反対側の壁際にバックごと入って置かれ、放置されている。
中を覗くと、多少損傷が見られる電子部品はあるものの、未だに動く本物のような腕時計や旧世界で利用されていた単分子高周波刀の柄等、部品交換用の物ばかりで、どれも脱出には向かない代物であった。
「………こればかりはホントご愁傷さまだな」
運の巡り合わせが悪い方に向かった事。
其れがツキに見放されたとも言える状況であろう。
自分もそうならない為にも賽の河原で石を積むように、善行を重ねていく気持ちで事に挑む事を改めて誓い、バックを肩に担ぐ。
「…じゃあ。地上に帰ろうか」
いわぬ仏に語りかけ、ミヤモトは遺体を背に担ぎ、えっちらおっちらと地上へと帰還すべく歩を進めていく。
割の良い仕事と喜んで向かうにもよくよく考えるべきであった。
アビスへ潜る行為自体が危ない事であり、農業従事者達は殆どの場合、警備ロボットやターレットの恩恵で安全地帯で従事できる事。
ただし、探索者の場合はその安全マージンを自らで確保しなければならない。
そして自分に関して言うならば、その仕事量と金額は割に合わず、ピンハネされていた事を理解し、しかめっ面をする羽目になる。
「はぁ…はぁ…いっっ…」
右足首に出来た裂傷が熱を持って痛みを生じる。
この痛さで一々原因を思い出されるとは思ってもみなかった。
アビスの中で何が起きるか分からない中でボクは中古品のライフルと拳銃、後は使えそうな消耗品を詰めたバックパックを持って路地仲間と仕事を振った男2人の8人で廃墟群の探索を行っていた。
ボク同様同じ様に慣れない銃を背負い、今回の仕事を出来れば家を手に入れることが出来る。
寒空の下で震えずに済む暖かい部屋。
いつ背中から襲われる恐怖に怯えない毎日。
語り尽くせない程良い部分がたくさん存在する家がある生活は、ボク等にとって、手に入れるべき夢の一歩であった。
が、そんな事も露と消える。
廃墟群で手に入れた収穫物を背負うと、ライフルが重たくて仕方がない。
男2人のどちらかが持ってほしいけれど、そもそも歩荷役として雇われていることから、ライフルを持たせるつもりは無かった可能性もある。
「ライフル、持つから」
1人、ボクよりも年上の青年がライフルを持って担ぐ。
彼は別の路地でまとめ役を務めており、ライフル等の撃ち方も学んでいるとか。
お陰で撃つ訓練等も覚えられ、アビスの中に入ることが出来た。
彼が他の仲間のライフルを持ちながら自分の荷物を運べている辺り、相当鍛えている事がわかる。
自分の身体では恐らく無理だと判断出来る身体能力の持ち主に少し羨ましくもある。
「…もうすぐだ」
そろそろボク等が乗ってきた昇降機が見えてきた。
其処で気が抜けていたのだろう。
「…えっ?」
仲間の1人が何かに襲われた。
「わあっ!?や、止めっ…ぎぁあっ!!?」
正体は、アビスの熱帯雨林を征している豹型モンスター。
其れが、摂理まだ子供と言ってもいい彼の首元に鋭く尖った犬歯が大きく刺さり、血を吹き出す。
獲物を弱らせる行動なのか、そのまま何度も身体を振り回し、地面へ叩きつけて動きを止める。
顔面がぐしゃぐしゃに叩きつけられ、元の顔が判別出来なくなるとそのまま引き摺って森の中へと持ち帰るのだった。
「クソッ…まだ居るぞ…!?」
1体だけな訳がない。
森の中からでは数えられない不穏な雰囲気が辺りを帯びる。
死ぬ。
このままでは同じ末路を辿る事となる。
「クソがっ!!」
「キャッ…!?」
ではどうするのか?
持っていた荷物を取られ、腹部に脚がめり込む。
身体が軽い故に1m程度飛ばされ、地面へと転がるとようやく気が付いてしまった。
ボク等が万が一の"餌役"であること。
同じ方向へ逃げようとすれば額に穴が開く事も理解してしまった事。
仲間も同じ様になりたくなくて、ボクを殺して餌にさせることも考えるだろう。
「あっ…グゥっ…!?……いや…だっ…!」
このまま死ぬのは嫌だ。
まだ食べたことのない物はいっぱいある。
安心して眠れる所も、いつか誰かに恋をすることも、やりたい事だらけ。
ボクはこのまま死ぬつもりは無い。
痛む腹をおさえながら足を前へと出しては進む。
幸いに追いかけてくる様子は見られずもしかしたら逃げれるかもしれない。
そう思った矢先。
「……あっ」
違った。
さっきの少年は哀れな姿に変えられ、内臓などの柔らかい身を貪るモンスター達がいた。
そう。
追ってきている訳ではなく、食事の真っ最中であり、足りなければ直ぐに追いつける余裕の現れでもあった。
「…はぁ、はぁ、はぁ…」
唯一持っていた拳銃を懐から抜く。
構え、狙いを定めてから一発撃つ。
だがそれで相手が怯える様子は見られない。
もう一度撃とうとした時。
「あっ…?あれ?」
撃てない。
よく見てみると、空の薬莢がスライドに噛み合い、装填不良に陥っていた。
「そ、そんなっ…!?嘘っ…!?」
何とかしてスライドを引き、薬莢を外そうと試みる。
しかし、思った以上に硬く噛み締められたスライドにくっついて離れる事は無い。
拳銃が使えなくなった。
もう身を守る物は無く、ただ後ずさって逃げるしか出来ない。
「あっ、うわっ!?」
背中側を様子見る事を忘れ、木の根に足を引っ掛けてしまい、そのまま転倒してしまう。
モンスターがしめたと言わんばかりに飛びかかり、木の根に引っ掛かる。
どうにか逃げ出そうと尻もちをついたままに這って逃げようとするも、泥濘んだ地面に倒れ、顔を打ってしまった。
「……っん…っ゛っ゛…!」
逃がすつもりは向こうに無く、鋭い爪を持って引き摺り出さんと足が振るわれる。
片足ふくらはぎに爪が引っ掛かると、引き裂かれ、鋭い痛みが押し寄せて来た。
「ッン゛ン゛ン゛ッ〜〜!!?」
死にたくはない。
でも、もう無理だ。
せめて思いっきりその顎で首の骨を砕いて殺して欲しい。
切な願いがモンスターに届くとは思わない。
其れでも。
そう思いながら、目を閉じ。
其れが一時間程前の出来事。
猟師だったのか、其れ共探索者だったのか。
どちらにせよ、その場を制した。
その姿は背中側しか見れなかったものの、立ち振る舞いと足遣いが熟練者そのものであった。
「……っ…!?」
頭がぼぅと考える事が難しくなっていく。
身体全体の震えや傷口からの熱が何を意味しているか理解できた。
"破傷風"。
怪我をした箇所から毒性の強い細菌が侵入し、体内悪さをする。
身体中が強張り、その窮屈さで死ぬ話を聞き、随分と怖がった記憶がある。
ボクは其れに感染した。
「…あっ…」
転ぶようなものはない筈の草むらに倒れる。
息を荒くしても肺に入っていかない。
歯を唇で噛み締めると徐々に血に滲ませ、口の中で鉄錆の味が広がりつつある。
ボクは死ぬ。
もう此処で終わってしまう。
そう思いながら、段々と力が抜けていき、意識が遠のいていった。
「………全く、こんな所で"ロリポップ"が死なれるのは御免だ」
to be continued