蘇芳パヴリチェンコ
年齢13歳
身長138cm
地下街路地裏出身のプアガール。
スリや置き引き等で生計を立てていたが、摘発等を考えてから足を洗い、探索者に登録。
探索者の集めた収集品を運ぶ背子役を行っていたものの、豹型モンスターによって負傷、囮として置いてけぼりを食らうもミヤモトに助けられる
装備は短機関銃のUMP9とポリマーフレームのベレッタM9A2
ギャアギャアと亜熱帯地方に居そうな鳥類が飛び交ういつも通りのある日。
銃火器と簡易的な装甲板を着けた俺達はまだ未発見の遺構を探すべく、
「聞いたか?最近モンスター共が騒がしいって話」
「いつも騒がしいだろ?これ以上何を騒ぐんだ?」
仲間4人と他愛のない話をしながら進む。
とはいえ、警戒を怠るほど熱中する訳でもなく、あくまでも互いの状態確認と疲労感を紛らわせる事が目的だ。
外との寒暖の差は激しく、アビス内は雪おろか着ている服を脱ぎ捨てたいと思いたくなる気温だ。
其れでも、脱げば何に刺されて死ぬかも分からぬ危険地帯のこの中では会話しながら留まらずに歩く方が正しい。
「ただ騒がしいんじゃねぇ。いつもより凶暴だったり、手負いだったりするって話だ」
「だとしたら、気を付けなきゃな」
噂の真偽は兎も角、今は借金と今後の生活のためにも稼ぐことが最優先事項だ。
歩き続けてから一時間。
廃墟群の中で此処一週間前に見つけた遺構の入口に到着。
銃口を空になぞらせ、異常が無いか隈なく調べてから。
「…入り口に敵影無し」
確認を取る。
薄暗い建物の中で何かに襲われる可能性を視野に入れると、念入りなチェックが必要になる。
仲間の1人が腰の横に着けたポーチから数本の色の付いた棒を折り、投げ入れる。
しばらくすると徐々に小さな光を発していく。
電気を使用しない蛍光塗料を使うケミカルライトは、出入り口を把握しておく道標とマッピングに利用される道具だ。
同時に、何らかの理由で火花などを発する道具が使えない場合にはこのライトで照らす。
「さて。生きて稼ぐぞ」
「おう」「了解」「イェェヤーー」
良くも悪くもノリの良いメンバーの俺達が中へ入っていく。
まだマッピングが済まされていない以上、リスク管理を怠らずに、手に入るリターンを想像しながら向かう。
一時間後、悲惨な目に遭い、後悔するまでは。
朝、と言っても極夜になるこの時期で漸く慣れたミヤモトは目を覚ます。
「……んっ…朝か」
時計が無い時代で極夜の時期はどうしていたのだろう?
そんな素朴な疑問を思いつつ、ベッドから起き上がり。
「……zzz」
「スゥ…スゥ…」
ベッド両隣に眠る一糸まとわぬ姿の女性と少女の2人の存在を一瞥。
────そう言えば。
昨日の晩、酒場にて意気投合した探索者〔イモータン・ジョー〕君とお持ち帰り式娼婦の話をしていた。
『お持ち帰り式の利点はやはり擬似的な恋人関係にある』
ドクロを模したガスマスクから覗く何とも言えない笑みには奇妙な説得力があった。
その理由もあり、ジョーと共に色街で散策しつつ一晩6,000ガルズという高級娼婦を2人ずつ見繕って貰った後、解散したのだった。
「流石に一週間割と生真面目に稼ぎしてたらハッスルしてしまったな」
新たなお気に入りが出来てしまった事で紳士も野獣へと変貌してしまう。
そんな因果か、歴戦の娼婦と新人の少女も深い眠りに落ちるほど疲れ果てさせていた。
「…で、今日はどうするの?」
「この廃墟で狭い通路での戦闘を想定したCQB訓練だ。その装備の重さも今後は慣れないとな?」
「うへぇ…」
食後、娼婦2人を見送った後に蘇芳と共に東区の使われなくなった建物の1つへ入り、戦闘訓練を行う。
探索者組合で用意された訓練所であり、UCF各軍でも採用されているキルハウスという物だ。
中には人一人分の大きさのターゲットボードが様々なシチュエーションで飛び出し、覆面を被った敵性戦闘員と非戦闘員が入り混じって設置されている。
今回使うのは拳銃とナイフのみで、背には重り代わりのリュックサックとバックパックを装備。
シチュエーションとしては収集物を持った状態でレイダー*2と遭遇。
小銃は使い切った状態という不利な状況で活動する。
「弾は?」
「装填したよ」
「じゃあ、スタートラインについてくれ」
キルハウスのスタートラインは1階にあり、2階から状況を伺える。
2階の操作盤を使えばある程度パターンを変えてターゲットを出現させる事が出来る。
「準備は出来たか?」
「…出来た」
「……はじめ」
蘇芳が拳銃を構え、内部へ侵入。
いきなり現れたターゲットに驚き、撃っては次に行く。
最初で大分ロスタイムが出るのも想定ではあるが、2人非戦闘員を撃ったので減点は多いだろう。
最後のターゲットをナイフで倒し、一直線に全速力で走り切るとゴールした。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
「うん。初回にしてはなんとやらだな」
「はぁ……これ…普通なの?」
「一応な」
水準的にはこれくらい出来なければならない。
今自分が居るとしても、場合によっては彼女1人で生きていくには必要になる。
「今日の所は流れを見てもらうだけだ。後はいつも通りトレーニングと格闘術を行おう」
「…りょ…了解…」
まだまだやることはいっぱいある。
必要な事を彼女に教え、反復運動を心掛けるようにとりあえずマットの上に投げる。
半日が過ぎた所で、訓練を止める。
オーバーワークは身体になんの意味も無く、むしろ成長期の身体を壊しかねない。
居なくなってからも続けられる様に全てを叩き込みたいとは思ってはいても、まだこれからの彼女に其れを行うのはエゴでしか無いだろう。
「はぁ……ぁぁぁ…」
「お疲れさん。背中乗るか?」
「…………」
もう無言で背に乗る辺り相当疲れているのがよく分かる。
「筋は良いよ。少なくとも覚えが良いと張り切って本気出しそうになった」
「………」
褒めてみるも声を出すことはしない。
もしかすると寝ているかも知れない。
うむ、まぁいい。
教え甲斐は間違いなくあるから。
眠る彼女をベッドへと寝かせ、そっと家を後にする。
ちらつく雪と白い息が夜空に映るとやはり寒さを覚える。
「……寒いな」
こういう時は食事をしよう。
お土産に幾つか頼んで包んでもらえば良いと考えてから辺りを見回す。
「九龍料理に…グラエキア…レッドウィンター?」
胡麻油と醤の匂いがする店や、チーズとトマトの焼ける匂いの店等を見るものの、どれも腹の虫が横に振る。
トマトなのは間違いないが、少々異なると見る。
「……ん?」
ふと鼻孔をくすぐる1つの匂いを感じ取った。
ニシュタマリゼーションというアルカリ性水分で粘りを出したトウモロコシ粉を練って薄く伸ばし*3、焼いたものをトラシュカリと呼び、其処にトマトの薄切りや煮込んだ牛ひき肉と生玉ねぎ等を挟んで作るタコスが有名だ。
タコス…久々にエスタドス料理というのも良い。
ライムを絞って振ったステーキやソパ・デ・トルティーヤも悪くない。
蒸したジャガイモとサルサソース、ワカモレサラダだって良いと思う。
腹の虫がサムズアップしてくれたので入るとしよう。
店の扉を開ければ、ギターと弦楽器がリズムを鳴らして場を盛り上げつつ、多くの客が瓶とジョッキを片手に踊り、口笛を吹く。
マリアッチをこうして聴くのは初めてだが中々にノリに乗れる曲だと思う。
「いらっしゃい。今日は一杯で相席でも良ければ?」
「ああ。迷惑かける前にそさくさ食って出てくさ」
店員の女性から案内され、丸テーブルの席へと座る。
「相席ごめんなさいね」
一言謝りを入れ、同席の人物達を見ると。
「あっ!ミヤモトじゃない!」
「ああ、イリヤちゃんか」
「どうもですミヤモトさん」
イリヤちゃんと〔アルト〕君の2人だ。
この間美女2人に挟まれてて羨ましいと思うが其処は言わないでおこう。
…………。
「行方不明の探索者グループ?」
「そうそう。中堅の鉄級チームが忽然とね?」
注文したタコスと食べ、ジンジャーエールを飲みつつイリヤからの話を聞く。
どうにも遺構へ向かったとされるチームが1つ消えて失せたと言う。
死亡であれば珍しくない危険度ではあれど、認識票すら見つかっていないとなれば話が異なる。
まだ生存している可能性もあるが、獰猛な肉食モンスターが跋扈する中で生きていられるわけもない。
故に、ボードに依頼が貼られたとのこと。
「行方不明になったのは鉄級探索者グループ【STARS】ですね。全員が元軍人から構成されてます」
「なら練度が低いってのは無いだろうな…」
「ええ。少なくとも」
一緒に頼んだフライドポテトにケチャップとマスタードをかけては口に放り込むアルト。
「武器も基本共用の突撃銃とランチャーとか大型倒せる対物ライフル装備してたから【グリフォン】とかに負ける訳無いと思うけど?」
「だが、帰還の兆しも無い以上確認してみないことにはなぁ…」
同様に、サーバーから汲まれたと思われるホップサワーを飲みつつ揚げられたソーセージを串で刺しては口に運ぶイリヤ。
2人の話から要約すれば翌日になっても帰って来ず、残った交渉役の女性が捜索依頼を直ぐに出し、約一週間が経過している。
「まだ依頼は貼られたままか?」
「だね。依頼金もショボいしリスクからして流石にキツイかなぁ…」
誰も危険だと分かる物に触れるものは居ない。
火中の栗を拾うにもその栗が虫食いだらけとなれば拾う者が居るはずもない。
但し。
「依頼者は女性だっけ?」
「ええ。向かい側の席に座ってる人です」
「ん〜?ほぅ…」
どうやら近くに居たみたいだ。
身体を左斜めに傾けてから覗いてみる。
プーアール茶を思わせる薄茶色の髪と傍目から見えるぱっつん前髪の少女と女性の間の娘が1人でいる。
「……ちょっと行ってくる」
「寂しい女子に口説くのは良くないと思うよ?」
「それは仕事を終えてからの楽しみに取っておく」
(あっ、口説くつもりなのか)
用事が出来たので一旦席を立つ。
先ず、グラスと瓶に並々入ったテキーラを片手に歩彼女の元へと歩く。
一つ一つどんな決め文句を作ろうか考えつつ隣の席が空いている事を確認。
ゆったりと座り、彼女の前でグラスにテキーラを注いだ。
「やぁ、お嬢さん。この寒空の下に居ると心身共に冷えて困るねぇ」
サッと入れてサッと飲む。
テキーラの度数の高さはよく知られているが喉の奥がチリリと焼けたような感覚がある。
「………」
彼女も置いたグラスを手に取り、口に付けて一気に傾ける。
中身は小さな雫を伝うのみで、中々飲めるタチの様だ。
「俺はミヤモト。君の名前は?」
相手の名を聞くために一旦隣に座り、新しく注いでいく。
「……〔岸波白野〕」
注いだ瞬間、奪うようにグラスのテキーラを全て飲み干した。
速い。速すぎる。
俺も急いで傾けて全てを口に収める。
「…ふぅ。ちょっと飲むペースが速いぜ?もう少し抑えめに…」
「私のペースは私が決める。分かる?」
少し棘のある言い方で攻めてくる。
気持ちは分からなくもない。
自分の仲間が死んだとされている以上どうも出来なくて地団駄踏んでいるような物だからだ。
だからグラスに新しく注ぐ。
「俺の奢りだ。今日は徹底的に飲もう」
「………その後は?」
「"君次第"だ」
飲み干す。
俺は言葉通り、こういう時ほど飲むべきだと思う。
傷ついて、涙も見せられないなら流したいと思う分まで飲んでしまえば良いと。
「………頂きます」
同意してくれたと見るか、彼女はグラスを傾けて飲み干す。
本当に強いな。
私は突然現れた男に誘われるまま、テキーラを飲み干した。
泣きたくても泣けないなら酒を理由にすればいい。
周りの下手な慰めよりも最低だけれど嫌悪感は特に感じられなかった。
よく見れば割と好みのタイプな顔つきしている。
細いようでガッシリとした筋肉質の身体に腕は大小様々な傷が見える。
恐らく、
最初の軽薄そうな様子とは裏腹に、飲み進める間に男の雰囲気が変わりつつある。
奇妙。
その言葉に尽きる。
「いきなり目が覚めると妙な鋼鉄の箱に入れられてな?酸欠になりながら外に出てみたら全く記憶がなくて困ったんだ」
少し自分の話をするように男にが喋る。
聞いてみれば、今から2年半前以前の記憶はなく、この街の診療所に居る〔ドクターノイ〕の治療でも難しいと判断されたとか。
所持していたものもポケット内に小銭が少々とクシャクシャの紙に名前の入った認識票しか無かったらしく、ミヤモトだけを名乗って居るとか。
「其れからは文字通り自分探しの旅って訳だ」
「未だに分からないの?」
「分からない。思い出す素振りも見られなくて悲しい」
段々愚痴っぽくなってきたのはお約束というのだろうか。
飲み続けた事でテキーラのボトルは空になり、綺麗さっぱりとなる。
流石に酔いが回ってきた。
「大丈夫?」
大丈夫じゃない。
頭がぐわんぐわんに回ってる。
ああ、このまま送っていくと言ってお持ち帰りされた後に頂かれてしまうのだ…。
「せめて優しくね?」
「何が…!?」
一応乙女の尊厳を守るために一言述べた後に意識がブラックアウトした。
「……はっ!?バージン美味しく頂かれちゃった!?」
起きた。
起きて直ぐに身体を見てみると、普通に着ていた。
「服は着てる。ガビガビもしてないしうん」
何かされた様子もなく、とりあえずは安心していいと思う。
「………ここは」
どうやらミヤモトの住まいらしい。
ベッドと箪笥くらいしか無いけれど、まぁ短期で住むなら十分過ぎると思う。
皺が寄るのはあれだがまぁ其処はそれとして。
「目が覚めた?」
「うぇぁああ゛あ゛!?」
いきなり後ろから声をかけないでほしい。
大分びっくりしてベッドからずり落ちてしまった。
「大丈夫?」
「鼻打った…」
「それは良かった。ゲロまみれになったミヤモトに何か言うことあるかな?と聞いても大丈夫そうだし」
ゲロまみれ?ちょっ、それは聞き捨てならない事だけど?
「運ぶ時に黄色めの【乙女の尊厳】がびっちゃびちゃに出されて酷い姿になったから今身体洗ってるよ?」
「うええぇ…まじかぁ…」
もう既にお寿司だったわけか。
ロストバージンでは済まされないレベルかも知れない。
「兎に角謝ってくるなら今のうちだと思うけど?」
「あっ、はい」
────では急ごう。
「あっ、ちょっ…」
ベッドから飛び出し、部屋から出て直ぐに下へと降りる。
一軒家の構造上1階にシャワールームがあると見立てつつ、小走りで向かい。
「………ん?」
「………あっ!?」
見てしまった。
服で隠れていた筋骨隆々たる肉体。
幾つか怪我をしたであろう跡。
そして少女が居る中で覆うことをしない下半身。
普通に考えても、鉢合わせするタイミングが宜しくないと思われるだろう。
今まさに、裸族が見えてはいけない部分まで晒し、見せられてしまった私は。
「中々ご立派ですね!!」
「いや何の事!?」
思わず言わんで良いことを言ってしまった。
to be continued