ホワイトシティ改め、プロパティ・プリズン。
械遊が全権を握ったことで新しく手に入れた『アリの巣内部の私有地』である。
「手に入れたコアカードは28枚で、合計コアカード枚数は44枚。従業員の数は20人か」
「ノーマルランクの個人所有としては前例がないですね」
「……そういや中規模の私有地って、何アウェアだっけ?」
「2兆アウェアです」
「高いなぁ……」
「その分、様々な特権がありますから」
「だよなぁ……」
プロパティ・プリズン……『PP』で新しく建設された五階建ての邸宅。
木製のインテリアが並ぶ落ち着いた雰囲気の械遊専用の執務室。
タブレットを見ながら高級な椅子に座る械遊と、デスクを挟んで立つ愛智が話していた。
「さて、まずは基本的なことを決める必要があります。この私有地をどのように扱うのか。それを定めましょう」
「最初に言えるのは、俺が決めたやつ以外は絶対に入れない。それは確定だ」
「……独占欲が強いですね。械遊様」
「何を今さら」
独占欲という言葉に今さらと反応する械遊。
とはいえ、以前から械遊は『スレイブヒロインを利用した事業』の誘いを受けていたが、それを断っていた。
一切のプレゼンを見るつもりもなく、一切の交渉に応じるつもりもなかった。
スレイブヒロインが持つ価値はわかりきったことであり、需要に対して供給がまるで足りていないもの。
それを一切他人のために使おうと考えない姿勢に対し、『独占』という言葉はむしろ当然。
「ま、俺が関与する社員に対して、外部からの干渉は可能な限り抑えるつもりだ。と言っても……ここまで急にいろいろ手に入るとは思ってなかったから、どう煮詰めていくかはこれから考えるつもり」
「……確かに、私も、こんなことになるとは想定外でした」
ホワイトシティへの『招待状』を貰った時点で、関係者の中で強いデッキを持つものが相手になることは予想できていた。
しかし、この地にやってきた宝吾が、この町にあるコアカードを全て預かっていて、おまけに町の全権を握っており、そして全権に対して執着のない人間であるという。
そんな、カモがネギを背負ってきて、満足した後で寝ころんだら棚から牡丹餅のようなことが起こるとは思わなかった。
「……ただ、ある意味、これもアリの巣ということか。プラチナランク同士のぶつかり合いが普段どんなものなのかはわからないけど、きっと、今回俺が手に入れたものよりも多くのものが、一回のデュエルで移動することも珍しくはないはず」
中規模の私有地と30枚近いコアカードと20人の従業員。
これほどの規模が動くのは、アリの巣の中でも『深層』にいけば、頻度はともかく前例は多いだろう。
「いずれにせよ、立ち回り方は考える必要があります。その上で、この町……いえ、牢獄ですね。これをどのように運用するか……」
「うーん……俺としては、実戦データを取ってくれるのならなんでも構わないんだが」
「実戦データ?」
「所有するコアカードも増えたし、これらを研究する必要がある。が、さすがに44枚まで増えたカードの組み合わせなんて一々考えていられないからな」
「……どのみち、直感で選ぶでしょう」
「否定はしない」
械遊は視線をタブレットに固定したままだが、ちょっと揺れた。
「ただ、俺の担当社員は愛智でいいとしても、ここの従業員の代表を決める必要があるな」
「確かに、それを誰にするか――」
「失礼するわ」
扉が開いて、青井由香が、灰色スーツを着て入ってくる。
……黒髪ロングでGカップ。なおかつ表社会では『可愛すぎるデュエリスト』としてその地位を確立しており、背筋がいいので、何を着ても似合う。
ただ、股下がないマイクロミニスカートなのは、愛智を見て『械遊の趣味』がソレだと考えたからか。
上半身はシャツのボタンを二つ開けて胸元を晒しており、これは上半身はきっちり着ている愛智にプラスしたというものだろう。
「由香さん」
「この牢獄の従業員代表だけど、私に一任してほしいの」
「なっ……」
驚いている愛智。
「……」
タブレットを見ていた械遊だが、由香の方を見る。
彼女の自信にあふれた瞳をまっすぐに見て……。
「自主性を否定するつもりはないけど……原則、この牢獄の行く先は俺の勝敗によって決まると言っていい。その中で、実戦データを取るといったんだ。そこの代表になる意味は分かるな?」
「もちろん。加えて、私は表社会では『夢現』と呼ばれたデュエリスト。実戦経験もあるわ」
「……」
10万の観客席を満席するほどの美貌とデュエルの実力を誇る。
それを考えるならば、普通なら任せる。
だが、ここはアリの巣だ。
大切なのは表の実戦経験ではなく、『欲望』である。
「ダメだな」
「!」
その上で、械遊は却下した。
「な、なぜ……」
「まだわかっていない。行儀が良過ぎる。厚かましくない。なにより欲望が小さすぎる。『私が代表をする』と言い切るのなら任せたけど、『一任してほしい』なんて、俺を立てる言い方してる時点でダメだ」
「そ、そんなことをしてたら、折檻が待ってるはず」
「俺が決めたラインを超えるならそうだよ。ただ……アリの巣の中で後ろ盾がないCCの社員特有だと思うけど、ビビりすぎだ」
原則、オーナーの担当社員はオーナーの命令を聞く必要があり、私有地の従業員も同様だ。
白石朋夏の場合は、一応は父親が白石剛平という後ろ盾があったからこそ好き勝手にしていたという話であり、通常はどんな拷問だって罪にならないことを考えると、ビビるのはわかる。
械遊の思想がわからない以上、探ろうとするのもわかる。
しかし、蛮勇を示せない人間に、アリの巣のなかで何かしらに立場を与えるのは、良い悪いではなく滑稽だ。
何故なら、表社会で求められるバランス感覚で物事の基準を考えていると、アリの巣では一瞬ですべて奪われるからだ。
欲望が小さければ新しいサポートカードは生まれない。
そんな中で『実戦データ』など、いくら取っても意味がない。
二週間前に表舞台から姿を消してCCに入社したとのことだが、一応は研修を積んでいるはず。
しかし、まだ見えてはいないらしい。
「……では、どうしろと?」
「デュエルするか。俺も由香の腹の底は見えてないし」
械遊はデュエルディスクを取り出すと、格納スペースを開けてコアカードを取り出す。
44枚ある中から4枚。赤いメッシュが入った四人を取り除いて、あとはテーブルに置いた。
「この4枚は君が使うとろくなことにならないから俺が使うが……あとは好きに使ってデッキを組んでみな。デュエルで勝って奪わないとまっさらに戻らないからテキストはそのままだけど、デッキ構築の足しにはなるだろ」
「……」
40枚のコアカード。
それをいとも簡単に、テーブルに置いて視線から外す。
由香も研修の中で、コアカードの価値はある程度想定している。
だが、そもそも、中規模で代表者がシルバーランクだったとはいえ、『オーナーが集まる町』の共有財産が28枚だったのだ。
それを踏まえると、たった40枚のカードと言えど、その存在感は圧倒的。
由香はコアカードの束を手に取って、確認する。
「ぜ……全部、スレイブヒロイン……」
「!」
横で由香のつぶやきを聞いた愛智も驚愕している。
「……ほ、本当にこれで?」
「やらないならやらないでいいけど、その場合の評価はわかってるな?」
「! ……失礼します」
40枚のコアカードを手に、由香は執務室を後にした。
「……よろしいのですか?」
「何が?」
「あれほどのスレイブヒロインを貸し出すなど……」
「いいっていいって」
タブレットに視線を落とす械遊の眼に、ためらいはない。
ならば、愛智としては特に踏み込むものではないだろう。
★
「あははははっ! 理世ちゃん知ってる? 荻野宝吾が28枚もコアカードを取られて、『獄夜叉』の幹部候補から外されるかもってさ!」
アリの巣のショッピングモール。
その中にある小さな喫茶店の個室で、紅嵐と理世が座っている。
新聞を手に大笑いしている紅嵐に対して、理世は完全に無表情。
「それらしい噂は。ただ、候補からも外されると思っていました」
「ま、『宝吾が決めたタイミングで再戦』って形にしたから、ギリギリとどまったんだろうねぇ。それに勝てば、スレイブヒロインが6枚確定だ。ここまで挽回できるチャンスが明確になってるのは珍しい」
「とはいえ……勝てますか? アレほどの男に」
「さあねぇ。僕も、同い年でアレほどとは思わなかったなぁ。本当に16歳?」
「紅嵐様もあまり人のことは言えないかと」
出入り口付近で衝突したお互いの威圧。
それを考えれば、紅嵐もまた若さに適した強さではない。
「俺はいいのさ。しっかし、面白いことになったねぇ。仮に宝吾が勝っても私有地までは取れないが……まあ、宝吾は俺と同じプラチナランクだから、中規模の私有地くらい安いか」
「そこに様々なオプションをつけるとなると高くなりますが」
「だろうね。てか、ホワイトシティ……いや、ちょっと前に掲示板でプロパティ・プリズンって名前に変更されてたな。そこもさ。いろいろオプションが付いてなかった?」
「拷問ショーという見世物をする場所ですから、横やりを防ぐために色々つけていたはず。その中でコアカードがかなり『提供』されています」
「そうだったそうだった」
うんうんと頷く紅嵐。
「で、そこの全権まで取られちゃったし、そりゃ怒られるよね」
「プラチナランクにとって、普通の中規模私有地が安いことは事実。それで勘違いしたのでは?」
普通なら、2兆アウェアという価格の中規模私有地も、プラチナランクにとっては安い。
しかし、様々なオプションをつけて、その上でコアカードまで消費されていると考えると、そのコストは莫大なものになる。
とはいえ、誰かから引き継いだ物が、いったいどれほどのコストをかけて作られたものなのかなど、詳しく調べてみなければわからないし実感できない物。
械遊に対し、宝吾は躊躇もなく全権を渡したが、本来なら言語道断。
……もっとも、スレイブヒロインを44枚手に入れれば、獄夜叉がどういった組織なのかはともかく、幹部までいけるだろう。
いいのやら悪いのやら。
少なくとも、紅嵐視点では、宝吾は運が悪かったとしているようだ。
「だろうなぁ。いやー、脇が甘いね。3年くらい前もなんかすげえ凡ミスしてた気がするけど」
「……父親が獄夜叉と無関係ではありますが、プラチナの上位。配慮されているのでしょうね」
「アリの巣の『深層』で誰かに配慮する余裕があるか。実力は息子には引き継がれなかったのかなぁ。かわいそうに」
16歳の紅嵐が30代半ばの宝吾に対して遠慮がないという空気だが、理世としてもそこには何も言わない。
「……はぁ、まっ、アリの巣で、欲望が中途半端なやつが幹部候補になっても損をするだけだし、いいんじゃない?」
「……どこにも、ゴミ箱は必要だと思いますが」
「それも同意するけどね。ただ、『二世』ってのはやっぱりめんどくさいよなぁ。他人の欲望で作られた汎用性のあるカードで自分の欲望を埋められる。正直……見ていて滑稽だ。ぶっちゃけさ。宝吾よりも理世ちゃんの方が欲望が強いでしょ。特に性欲」
「……そうでしょうか」
「ここに来る前、バイブパンツ買って理世ちゃんにプレゼントしたけどさ。穿いてきてるんでしょ?」
「もちろんです」
「もちろん?」
「もちろんです」
「……そんなことになるのに、性欲が低いなんて思う?」
「……」
理世は答えなかった。
「……そういえば、何故バイブパンツを?」
「その質問、今します? プレゼントした時にされなかったのに」
「いえ、なんとなく」
「はぁ……まあ、アレだね。機械姦が械遊君の趣味だし、俺もその魅力を知っておいた方が、話が合うかなーって思ったんだよ。彼とはいい付き合いをしておいて損はないからね」
「いつ、それが趣味だと?」
「械遊君のスマホにハッキングしました」
「そうですか。いつも通りですね」
理世は諦めたようにそう言った。
「……っ!」
「ん? どうしたの?」
「ランダム設定ですから、今、動きました」
「へぇ……」
紅嵐は理世のミニスカートをめくった。
ごつごつした黒いパンツであり、股間にはつまみがある。
『止』『弱』『中』『強』『AI』となっており、今は『AI』となっている。
「なるほど」
紅嵐はつまみを取って、『強』に合わせる。
ヴィイイイイイイイイイイイイイイッ!
「んんんっ! ああっ!」
「声我慢しなくていいでしょ。防音個室なんだし」
「あっ、あっ、ううっ、あっ♡」
「フフッ、理世ちゃんが悶えているところを見ながら飲む酒は美味しいねぇ」
16歳だが、遠慮なくアルコールを飲む紅嵐。
……まあ、拷問した後でも完璧に治せる治療液があるくらいだ。アルコールの分解処理くらい造作もなく、何より酒は欲望を誘発しやすいため、アリの巣ではおとがめなしなのだろう。
「はっ、い、いくっ、いくっ! あああっ♡」
「お、イった? じゃあ、あと30分くらいは頑張って。俺はチビチビ飲んでるから」
「いくうううっ!」
絶頂から戻ってこられない。
女性にとってなかなかにキツイことを遠慮なく言いつつも、楽しそうに酒を飲み始めた。
★
プロパティ・プリズン中央にある広場。
そこでは、械遊と由香がデュエルディスクを構えて、相対していた。
その傍では、20人の従業員と愛智が観戦する。
「ねえ、このデュエルって何?」
「由香さんが、私たちの代表にしてほしいって械遊様に言ったらダメって言われて、械遊様が由香さんの腹の底を見るためにデュエルするって」
「……でも、戦績を考えたら、由香さんが一番のはずよね? 私たち、CCの社員になって研修が終わった後、すぐにこの町に連れてこられて拷問されたし」
「それはそうだけど……」
「誰も責任ある立場なんて立ちたくない。見世物になってない時も、点滴で治療薬を打たれながら三角木馬に乗せられてたし、デュエルのこともあんまり覚えてない」
「……仕方ないよ。だって、アリの巣で男が拷問されることなんてないもん。わかんないんだよ。代表にしてくれって言えるだけですごいってこと」
ざわついている。
ただ、械遊に対して、助け出されたことは感謝しているし、もしここを出たらまた苦痛が待っているかもしれないと考えて『出ていきたい』とはいわないが、だからと言って械遊に対して好意的かどうかとなると、それは別。
アリの巣には、女性のオーナーは存在しないし、なることはできない。
男尊女卑というより、『
ホワイトシティは、拷問ショーが行われる凄惨な場所。
拷問は、美しいものに行使されてこと映える。
言い換えれば、ここに呼ばれた従業員は、入社した中で見目麗しいものを選別されているということ。
10万人の観客席を埋めるほどの美貌を持つ由香を除いても、ルックスやスタイルが特に優れた美少女や美女が集められている。
平均の外見レベルがとても高い社員の中で、『特に』高いレベルのものが集められているのだ。
苦痛にしても快楽にしても、とにかくリミッターを外した『拷問』であるからこそ、見世物として高い価値を持つ。
言い換えれば、これほど厳選し、そして一切の容赦がなく責めるショーを行うからこそ、『上』からも女をよこせとは言われていない。
その上で、ここに集められた女性がどれほどの復讐欲を持ったとしても、彼女たちがオーナーになることはない。
オーナーになれるのは男性だけ。
ずっと拷問されるのは女性だけ。
それゆえに、『絶対に男とは価値観を共有できない』という、その意見を全員が共有している。
「わかる? この空気。そして、私がその中でどれほどの精神力を持っているのか。理解できる?」
「……」
結局、4枚以外のコアカードの回収はしていない。
その上でデッキを組んで、械遊はこの広場に来た。
械遊が先に来て、目を閉じて待っていたが、そこに由香がやってきて、械遊に語る。
「……なるほど、言いたいことはわかった。共感できないことを分かった。その上で言わせてもらおうか」
械遊は目を開いて、由香の眼をまっすぐに見る。
「下からマウント取るな。雑魚」
「!」
由香の体から怒りのオーラがあふれる。
いや、由香だけではない。全員から、悪感情のオーラがあふれて、械遊に突き刺さる。
ただ……その中で、愛智は何も変化はない。
「絶対にわからせてやる。私たちがどれほどの地獄を見てきたのか。絶対に!」
由香はカードを5枚ドロー。
それを見て、械遊もカードを5枚引いた。
「「デュエル!」」
械遊 LP4000
由香 LP4000
「先攻と後攻。どっちがいい?」
「後攻よ」
「なら、俺の先攻だな」
初手の五枚を見る。
「なるほど、さて、とりあえず……っ!」
次の瞬間、械遊から圧が放たれる。
……いや、圧というだけではない。赤いメッシュが燃えるように輝き、瞳は赤く染まり、背中からは赤い翼が姿を現す。
怪異と呼ぶようなおぞましさはない。
ただただ、幻想的で絶対的。
そんな力が械遊から放たれて、彼の前に立った由香はそれを正面から受けることになる。
「ぐっ……あっ、な、なにそれ……」
由香は見えた。
械遊のデュエルディスクから延びる鎖と、それにつながった、自分の首輪を。
「ん……」
首を触っても、そこには何もない。
「どうした? 苦痛を味わってきたんだろ? 地獄を見てきたんだろ? 精神力が自慢のようだが……どうした。この程度で戦意喪失か?」
「じょ、冗談じゃない」
絞り出すように言う由香。
そして、それに呑まれているのは由香だけではない。
人知を超えた威圧感に、傍にいる全員が震えている。
外であり、別に椅子も用意されていないので全員が立っていたが、何人かはもうすでに腰を抜かしたり、土下座しているほどだ。
「はぁ、じゃあ始めるか。俺は『ブリキンギョ』を召喚。『ゴールド・ガジェット』『シルバー・ガジェット』『グリーン・ガジェット』を出そうか。デッキからレッドを手札に」
ブリキンギョ ATK 800 ☆4
ゴールド・ガジェット ATK1700 ☆4
シルバー・ガジェット ATK1500 ☆4
グリーン・ガジェット ATK1400 ☆4
「い、一気に4体……」
「デッキから出してないから手札消費も激しいけどな。ブリキンギョとゴールド、シルバーとグリーンで、それぞれエクシーズ召喚。『SH・一色いろは』『SH・由比ヶ浜結衣』」
SH・一色いろは ATK2700 ★4
SH・由比ヶ浜結衣 ATK2600 ★4
出現したのは、総武高校の制服を着た二人。
髪には赤いメッシュが入っており、いろははシューターのキューブを手先で弄り、結衣はアイビスを握っている。
……それでどうしていろはの方が攻撃力が高いのか。械遊にもよくわからないが。
「いろはの効果。素材を1つ使い、自分フィールドの炎属性エクシーズモンスター1体につき1枚ドローできる。デッキから2枚ドロー。結衣の効果。素材を1つ使って、相手ターン終了時まで、自分フィールドの炎属性エクシーズモンスターは、相手の効果の対象にならない」
「ドローと対象耐性……」
「俺はカードを2枚セット。これでターンエンドだ」
手札は2枚でそのうち1枚はレッド・ガジェット。
場には2体のモンスターと2枚のセットカード。
それに対して由香は、なおさら、威圧感を感じた。
「私のターン。ドロー!」
由香はカードをドローして、頷く。
「私は手札から『氷水のエジル』を召喚!」
氷水のエジル ATK1000 ☆3
「【
「召喚成功時、効果発動。デッキから『氷水大剣現』を手札に加えてそのまま発動。デッキから『氷水艇エーギロカシス』を特殊召喚!」
氷水艇エーギロカシス ATK2000 ☆7
「私はレベル3のエジルに、レベル7のエーギロカシスをチューニング。シンクロ召喚! レベル10『SH・バンビエッタ・バスターバイン』!」
SH・バンビエッタ・バスターバイン ATK3400 ☆10
「はぁ、なーんか気分が乗らないデュエルで出されちゃったような……」
由香の方は見ずに、少しあきれた様子でフィールドに出現するバンビ。
「続けて、手札から『セリオンズ“リーパー”ファム』の効果! 墓地のエーギロカシスを素材に特殊召喚。さらに、装備状態のエーギロカシスは、特殊召喚できる!」
セリオンズ“リーパー”ファム ATK1400 ☆7
氷水艇エーギロカシス ATK2000 ☆7
「私はレベル7のファムとエーギロカシスでオーバーレイ! エクシーズ召喚。ランク7『SH・シノン』!」
SH・シノン ATK2800 ★7
「……」
へカートⅡを肩に担いだシノンが出現。
ただ、こちらもあまり真剣な雰囲気ではない。
「私はバンビエッタの効果発動。1ターンに1度、相手モンスターを、全て破壊する!」
「シンプルに強力な効果だが……永続罠『デモンズ・チェーン』を発動。対象はバンビエッタだ」
鎖が出現し、バンビエッタの腕や足に巻き付いて拘束していく。
「……なら私は、シノンのエクシーズ素材を使って、効果発動! 相手モンスター1体を破壊し、その攻撃力分のダメージを与える! この効果は対象に取らず、1ターンに1度の制約はない!」
「ほう? なら手札から永続罠、『デモンズ・チェーン・コネクト』を発動だ。自分フィールドに『デモンズ・チェーン』が表側で存在する場合、手札から発動可能。対象はシノンで、効果無効だ」
シノンの腕や足にも鎖が巻き付いて拘束していく。
「ぐっ、そんなカードで……私は手札から『アドバンスドロー』を使って、バンビエッタをリリースして2枚ドロー!」
バンビエッタがフィールドからいなくなる。
だが次の瞬間、バンビエッタに巻き付いていた鎖がシノンに巻き付き、胸周りや腰に巻き付いて拘束を強くしていく。
それだけではない。
数本の鎖が由香の方に飛んでいき、足や胸周りに巻き付いて締め上げていく。
「んぐっ……」
「あっ、ぐっ、い、一体何が……」
「『デモンズ・チェーン・コネクト』は、自分フィールドに『デモンズ・チェーン』が表側で存在し、その効果の対象になっているモンスターがフィールドにいない場合、追加効果が発生する。コネクトの方で対象にしたモンスターは効果だけでなく攻撃も封じつつ……相手はそのモンスターがフィールドにいる限り、特殊召喚できない」
「なっ……」
「嗅覚が弱いな。そして……これを超えられるか?」
由香は手札を見る。
苦い顔のままだ。
どうやら超えられないらしい。
「……私は、カードを2枚セット。これでターンエンド!」
「……エンドフェイズ。罠カード『スレイブサルベーション』を発動。自分フィールドにいるスレイブヒロインモンスターの数1体につき、墓地から、同じレベルと種族のモンスターを効果無効で特殊召喚だ。俺はゴールドとシルバーを特殊召喚」
ゴールド・ガジェット ATK1700 ☆4
シルバー・ガジェット ATK1500 ☆4
「さらに、いろはの効果発動。お互いのターン中に、自分フィールドのモンスター全てを炎属性として扱い、いろはを含めた素材でリンク召喚を行える」
「嘘……」
「召喚条件は、炎属性効果モンスター2体以上、俺は結衣、いろは、ゴールド、シルバーの4体を、リンクマーカーにセット」
上空のサーキットが出現。
ゴールドとシルバーは真っ先に突っ込んだが……結衣といろはの背中から翼が出現し、羽ばたいてサーキットの中心に飛び込んだ。
「サーキットコンバイン。リンク召喚! リンク4『転生炎獣パイロ・フェニックス』!」
転生炎獣パイロ・フェニックス ATK2800→4000 LINK4
現れるパイロ・フェニックス。
だが、表社会のカードであるにもかかわらず、見たこともない存在感を誇る。
表のプロの世界でもサラマングレイトは使用され、そしてパイロ・フェニックスを見たことだって、由香は当然ある。
だが、その時感じた存在感をはるかに凌駕するほど、圧倒的。
「な、なにこれ……って、攻撃力が4000?」
「結衣の効果だ。このカードを素材に転生リンク召喚したパイロ・フェニックスは、もともとの攻撃力が4000になる」
「て、転生……って、同名を素材に? え、一体どうし……まさか!?」
「そうだ。いろはと結衣は、リンク素材になるとき、名称を『転生炎獣パイロ・フェニックス』として扱い、転生リンク召喚したパイロ・フェニックスに対してバフをかける」
「それで、パイロ・フェニックスの攻撃力が4000に……って、転生ってことは」
「そうだ。パイロ・フェニックスの効果発動! 相手フィールドのカードを全て破壊する! いろはによる追加効果で、パイロ・フェニックスの戦闘と効果で相手モンスターが破壊される場合、墓地に行かず除外だ!」
パイロ・フェニックスが燃え上がり、由香のフィールドに突撃する。
そのまま、シノンとセットカード2枚を焼いて……そのまま除外ゾーンに消し飛ばした。
「……ば、馬鹿な……」
「俺のターン。ドロー……このままバトルだ。終わらせろ。パイロ・フェニックス」
パイロ・フェニックスが口に炎をため込むと、一気に放出。
そのまま由香に向かい……彼女のライフを消し飛ばした。
由香 LP4000→0
デュエルが終了すると同時に、械遊の赤いメッシュの輝きはおさまり、瞳は黒に戻り、翼も消えていく。
全ての威圧がとまり……由香は崩れ落ちた。
「はぁ、はぁ……」
「わかったか? 一体だれを相手にしたのか」
「……わ、わからされたわ。ははっ、共感とかそんなことをいう次元じゃない。か、体が服従を求めてる。存在として格が違いすぎる。な、なにこれ……」
自分の精神と感情が誤作動を起こしたかのように、両腕で自分の体を抱く由香。
械遊は彼女の歩いて近づくと、そのまましゃがんだ。
「由香。お前がどんな人間を相手にしてきたのか、ここでどんな地獄を見たのかは知らない。ただ、俺には関係ない」
械遊は由香の胸ぐらをつかむと、その顔を自分に向けさせる。
まっすぐに由香の瞳を覗き込んで、械遊は言った。
「自覚しろ。お前は、俺の所有物だ。いいな?」
「わ、わかった」
「ならいい」
手を放すと、械遊は立ち上がって、観客の方を向く。
「さて、代表の話だが、由香でいいだろう。俺から求めるのは、スレイブヒロインをデッキに投入した実戦データだけだ。それが用意できるなら、どんなやり方も認める。いいか? お前たちは俺の所有物だ。誰にも渡さない。それだけは覚えておけ」
そういって、械遊はその場を後にした。
ワンパターンと言えばワンパターンだ。
やったことと言えば、愛智の時と同じ。
ただただ自分の存在を相手に刻み付けて、威圧して塗りつぶして依存させる。
……もっとも、アリの巣において『ボス』に求められる資質を考えれば、珍しい事ではない。