「初めまして。私はクリエイトコーポレーション特殊営業部、『オーナーズ666番ホテル』コンシェルジュを務めている
茶色のショートボブで怪しさ漂うアルカイックスマイルを浮かべた美少女。
スーツではあるが、股下がほとんどないマイクロミニスカートで、上半身はしっかり着ているがFはありそうな胸が存在を主張している。
身に着けているものが全体的に高級感があり、いでたちに一切の隙が無いという、まさにできる女性の姿を体現したような存在だ。
それに対し……。
「……ごめん、ちょっと着替えてきていい?」
械遊の方は、上下が寝間着で髪がぼさぼさだった。
というか、こんな姿でよく玄関のドアを開けたものだと感心されるレベルでダメな格好だった。
明らかに目の前の美少女、愛智とはその雰囲気が違いすぎて絶句するレベルである。
「もちろんです。六車械遊様」
そんな械遊を見ても眉一つ動かさない愛智。
どうやら、ダメ人間慣れしているらしい。
★
男子高校生の準備などそう時間がかかるものではない。
テキトーにその辺のシャツとジーパンを身に着けて、現代人なら誰もが持ち歩いているデュエルディスクとデッキ。そして『まあこれが目当てなんだろうな』と思われる『コアカード関連』をディスクの格納スペースに入れて、ドアを開ける。
「お待たせ。で……とりあえずこれを持っておけばいいのか?」
愛智にデュエルディスクを見せる械遊。
愛智は笑顔でうなずく。
「察しが良いですね。その通り、それではホテルに参りましょう」
ここまでの流れで、愛智は一度も『ホテルに行こう』とは言っていなかった。
だがある程度、械遊の情報を手に入れているのだろう。
ホテルに行こうと言って械遊が反対しないことがわかっているのか。
そにかく、アパートの傍のハイヤーに乗った。
後部座席の左側に械遊が座って、右側に愛智が座る。
運転席にいるサングラスをかけた女性がうなずいて、発信する。
「さて、ある程度、車の中で話せることは話してしまいましょうか」
「……まず、質問していいか?」
「もちろんです」
「『コアカード』って……なんなんだ?」
根本的なことだ。
まずそれを聞いておいた方が、ここからの話も聞きやすいだろう。
「クリエイトコーポレーションが開発した……そうですね。『とある文化圏』に存在するキャラクターたちの情報です」
「とある文化圏?」
「説明が難しいのでそこは省きますが、今お話しできるのは、『外見』だけの基礎部分が詰まった物だということ。これをディスクの格納スペースに入れてデュエルすることで、デッキの質に適したカードに変貌します」
「……なるほど」
例えば『閃光アスナのコア』であれば。
械遊がこのコアカードをデッキでもエクストラデッキでもなく『格納スペース』に入れていたことで、あのデュエル中、コアカードそのものが『SH・閃光アスナ』に変わったということだ。
「なら、サポートカードは?」
「キャラクターに対する欲望が強くなれば、キャラクター専用サポートが手に入ります」
「欲望で専用サポートか……」
械遊がアスナに対する強い欲望に反応し、『フラッシング・ペネトレイター』というカードが生み出されたのだろう。
まあ、発動条件が『SH』と『SAO』の両方を指定するというだけで、レイピアに限定されていない……言い換えれば、スレイブヒロインカードであれば、シノンであっても使えるテキストではあったが。
どこか聞いていて『解像度が低い』と思うのは械遊の気のせいだろうか。
「基本的にモンスターカードに変貌します。このモンスターは『クリエイト・ドーム』で行われるデュエルでしか立体映像になりません」
「『シークレット・ドーム』じゃなくて『クリエイト・ドーム』っていうのか」
「普通のデュエルディスクで使えるのはシークレットですが、特殊なデュエルディスクである『クリエイトディスク』を使うことでクリエイト・ドームを使うことができます。なお、外部から内部を見ようとする場合、『クリエイトディスク』が必要です」
「ふむ……ん? 普通のデュエルディスクでも、鑑賞モードとかあるよな」
「ありますが、そのモードにコアカード関連のカードは対応しません。クリエイト・ドーム内でも同様です」
「そ、そうか……」
要するに、『クリエイト・ドームの中』で、『デュエルをしているときだけ』出てくるということだ。
「で、『スレイブヒロイン』っていうのは?」
「キャラクターへの理解度が上がることで至れる『完成品』と言ったところでしょうか。この状態になりますと、『オーナーズエリア』であれば、デュエルディスクの格納スペースに入れておくだけで『実体化』します」
「実体化? 立体映像ではなく?」
「はい。その上で、所有者にとって都合のいい精神に調整されたものになるパターンが多いですね」
「ふーむ……」
昨日、山中はデュエル中、『スレイブヒロインになってくれれば、地下でいたぶってやる』と言っていた。
今向かっているのがホテルであることを考えると、山中にも同様の建物が与えられている可能性がある。そのホテルの全域、または地下は『オーナーズエリア』と言われる空間になっており、まあ『様々なこと』ができるのだろう。
所有者にとって都合のいい精神に調整されている。というのがどこか『モヤっとする部分』ではあるが、よくよく考えると、キャラクターによってはオーナー側が殺されかねない。
分かりやすい例で言えば、『原作そのままの我妻由乃』が出てきたら、いろんな意味でひどすぎる。
いや、何も知らない状態から、我妻由乃への理解度を高めることはできないだろうが。
ただ、スレイブヒロインになると調整されるということは、それ以前、デュエル中にだけ出てくる時は、本人に近いということなのだろう。
とはいえ、そもそもコアカードは『外見』の要素しか持っていないとのことなので、その本人らしさも高いとは言えないだろうが。
「……そういえば、昨日山中を倒した時、勝手にカードが俺のところに来たんだけど、アレは?」
「クリエイト・ドーム内でコアカードが変貌したモンスターを出した場合、負けたら相手に譲渡されます。これはデュエルディスクの機能です」
「……ん?」
「ただし、長年この界隈でデュエルをして、会社への貢献度が高いと評価された場合はグレードが上がり、デュエルで勝つと、相手がそのデュエル中にコアカードを1枚も出していない場合、任意のコアカードを一枚奪えます」
「ああ、なるほど」
一つ目の説明だけの場合、山中は昨日のデュエル中、どうにかして『械遊にアスナを召喚させる』必要がある。
その素振りがなかったので首をかしげたが、どうやら山中はそれ相応の経歴がある『オーナー』のようだ。
「あと、山中を倒して『薙切えりな』のカードを手に入れたけど、コアカードに戻ったんだが、これは仕様か?」
「はい。まあその……変貌後のカードによっては、『手足がない』こともありますので」
「……なるほど、一度まっさらな状態に戻ると」
「その通り。ただし、まっさらに戻ると言っても、『スレイブヒロイン化』した場合はその限りではありません。例えですが、『SH・薙切えりなのコア』となります。こうなったコアカードを奪った場合、一度テキストの情報がなくなり、自分のデッキに投入することでまた別のテキストになりつつ、『SH』の状態も保持されます」
「……自分だけの奴隷ヒロインってわけか」
「そういうことです」
完全にまっさらな状態に戻る場合、『SH・閃光アスナ』を出した瞬間に山中が元気になるはずがない。
スレイブヒロインという名前は、この『界隈』ではとても重要なのだろう。
「……そうだな。今の時点で、昨日の俺が感じた疑問はかなり解消されてると思う」
「それは良かったです。お、そろそろホテルですね」
「そっか……そうだな、愛智さんって……」
「呼び捨てで構いませんよ?」
械遊の見た感じでは、愛智は十八歳。
械遊の二つ上になるわけだが……本人がそれでいいと言っているので械遊もそれに乗ることにした。
「愛智はコアカードの情報をたくさん持ってるのか?」
「ええ、もちろん」
「なら『薙切えりな』の情報も?」
「山中様が使用されていたカードの中でも類まれなる美貌ですから、『薙切えりなに関する情報』であれば、クリエイトコーポレーションが持ちうる全てのデータを持っています」
「そっか。じゃあ、とりあえず質問」
ある意味、械遊にとっては、最も重要な質問になる。
「薙切えりなの特技ってなんだ?」
原作を知っていれば、誰もが知る情報。
そして愛智は、『薙切えりなの情報をすべて持っている』といった。
そんな彼女の返答は……。
「何もないでしょう」
……。
械遊は、何か、重要な要素にたどり着いたような、たどり着いていないような、どこかモヤモヤしている部分があるが……。
「そっか」
とりあえず、それだけつぶやいた。
★
ホテルは三十階建てであり、新品を思わせるキレイなものだ。
どこからどう見ても高級ホテルであり、圧巻である。
「……思うんだが、オーナーって、コアカードの所有者って意味だよな」
「そうですね」
「オーナーって、みんなこうしてホテルか何かに招かれるのか?」
「選別はしますよ。クリエイトコーポレーションがコア部分を作ったデュエルディスクにはすべて、所有者の『欲望の大きさ』を計測する機能があります。欲望の大きさが規定値に満たない場合はお金を与えてコアカードを回収し、規定値を超える場合はこうしてお招きします」
「俺ってどれくらい高いんだ?」
「全てのデュエルディスクに備え付けるとなると性能も低く、『規定値を超えるかどうか』しか私も聞かされていません」
「そうか」
とりあえず、ホテルの入り口に歩いていく。
第一階。エントランスに到着すると……。
「「「「おかえりなさいませ。ご主人様」」」」
若く、可愛らしい女性が並び、綺麗なお辞儀で械遊を出迎える。
制服だが、上半身はホテルのスタッフとして普通。スカートの丈は膝より少し下で、愛智のスカートの短さと比べてかなり健全的。
顔面偏差値は高く、胸が大きい者もいるが……言い換えれば『ため込んだ欲望はデュエルか地下で出せ』ということなのだろうか。
「……」
「さて、最上階に参りましょう。そこが械遊様のお部屋になります」
「わ……わかった」
というわけで、エレベーターを使って上に向かう。
「……」
なんとなーく。いろいろ考えている械遊だが、一応彼なりの分析はある。
山中の『地下でいたぶる』というセリフと、一階にいた健全な格好の美少女スタッフ。
言い換えれば、色欲を刺激するような『ヤバい物』が置かれているのは地下だけであり、要するにそこが『オーナーズエリア』となっていて、『地上階は健全なのでは?』と。
そして最上階。三十階に到達し、エレベーターが開く。
廊下はなくいきなりの大部屋であり、誰もいないようだ。
「……そういえば、オーナーズエリアの説明を聞いてなかったな」
「確かにしていませんね」
とりあえず近くにあるソファに座った。
愛智が指を鳴らすと、銀髪ロングでクールビューティの巨乳美女が白いミニスカスーツで現れて、械遊と愛智の前に紅茶を置き、礼をして下がっていった。
「……誰もいないわけではないんだな」
「当然です」
妖しく微笑む愛智。
「さて、オーナーズエリアですが、このホテルでは地下に存在し、デュエルディスクの格納スペースに入れられた『スレイブヒロイン』を実体化させることが可能です」
「ふむふむ」
「その他、械遊様の欲望……いや、性癖といった方が良いでしょうか。それにそった『環境』に作り替わります」
「そ、そうか……」
やはりそこは『欲望を刺激する』ということなのだろうか。
「さて……ここからは、我々から提示する械遊様への『義務』になります」
「義務?」
「はい」
愛智は頷く。
「ホテル地下のオーナーズエリアから、地下通路を使うことで、クリエイトコーポレーション本社地下の『スクランブル・アントネスト』に移動することができます」
「……『奪い合うアリの巣』?」
「はい。大規模なデュエルスペースがいくつも用意された空間であり、一週間に一度、誰かとデュエルをする必要があります」
「それは観客あり?」
「デュエリストの匿名希望は通りますが、観客はいますよ」
「そうか」
性奴隷ヒロインを奪い合う。
観客としても『魅力的』なのだろう。
「で、とりあえず、俺用のクリエイトディスクはあるんだよな」
「もちろんです。こちらをどうぞ」
黒い塗装のデュエルディスクを渡されたので、械遊は自分のデッキと格納スペースに入れていたカードをそちらに装填。
「……さて、向かいましょうか。『アリの巣』に」
「……わかった」
というわけで、地下に停められていたハイヤーに乗って向かうことにした。
実際にホテルがどういうものなのか。械遊がどのように扱うべきなのか。
何もわかっていないが、とりあえず愛智が考える『順序』というものがあるのだろう。
ハイヤーで後部座席に座って、何の変哲もない地下通路を通っていく。
「そういえば……愛智って、俺のことは何処まで知ってるんだ?」
「械遊様のことですか? コアカードを拾い、山中様を倒し、新しいコアカードを手に入れたこと。デュエルディスクによる欲望判定が規定値を超えていたこと。この二つしか知りませんよ」
「……そうか」
「何か?」
「いや……特に深い意味はないよ」
械遊は思うのだ。
おそらく愛智は、『昨日の時点で械遊がコアカードを二枚持っていた』ことは知っているが、『アスナのカードがスレイブヒロイン化しているとは知らないのだろう』と。
「では、アリの巣のスタジアムに向かいましょう。新人歓迎デュエル……『賭け』は発生しますし、『洗礼』と呼ばれることもありますが……到着してからのお楽しみです」
ハイヤーは、アリの巣のスタジアムへと向かう。