学校に行って、生徒会長の伊藤幸助を倒した後、特に何も起こらなかった。
というより械遊としてもいろいろ『直感』を働かせているため、学校内部で、生徒の誰かがアリの巣に関わっていると予測していたが、まさか『生徒会長』という、生徒の中で一番上がいきなり来るとは思っていなかった。
そして当然、一番上が急に倒れたら、その下としても動きようがない。
結果的に、『特に何も起こらなかった』という状態になる。
もちろん、これからも何も起こらない。ということにはならないが、とりあえず放課後である。
「んー……コンビニの中で作られたものにしては美味いな」
アリの巣のショッピングモールの大通り。
械遊は愛智を連れて、フードコートでクレープを食べている。
「表ではなかなか流通しない食材も集まりますから」
「まっ、集まるところには何でも入ってくるってことか。3000アウェアっていうのがなんともアレだが」
アウェアはこのアリの巣の独自通貨である。
価値はわかりやすく。1円=1アウェアだ。ただし円とアウェア間で交換はできず、アウェアの役割はアリの巣での支払いに関してのみである。
アリの巣でデュエルをすると、デュエル前とデュエル中に生成、回収されていた欲望のエネルギーを集計し、『デュエルファイトマネー』としてアウェアが支払われる。
いろいろおかしい点を述べるならば、『デュエルファイトマネー』はどの国に行っても超低税率である。
何かの報酬として日本円以外で支払われた場合、多くの場合は『日本円相当額』を割り出して取り立てようと画策するが、それが『デュエルファイトマネー』として扱われれば、国税庁ですら低い税率で呑みこむしかない。
ファイトマネーから税率分を抜き取った額が振り込まれることがほとんど。
もちろん、独自通貨故に、生み出せる通貨の量はCCの加減次第だ。
「……スタジアムとショッピングモールでのファイトマネーで、300万アウェアが振り込まれた械遊様が言うと、なんだかモヤっとしますが」
「それは俺の欲望が大きいというだけの話だな」
クレープを食べ終わって満足そうな械遊。
……そう、すでに械遊は300万アウェアというマネーが振り込まれており、愛智が『モヤっとする』と言っているのだから相当な額だ。
ちょっと金を出して買った。くらいの感覚だと、クレープの値段は大体500円程度と考えれば、ちょっとした贅沢品の値段が普通の6倍という意味の分からん領域に達してはいる。
そう計算したとしても、50万円相当の額なのだから、確かにモヤっとする。
「ふぅ……」
「ところで械遊様」
「ん?」
「いろいろな企業から『お誘い』が来ていますが、どうしますか?」
「お誘いってなんだ?」
「端的に言えば、『スレイブヒロインを利用した事業』です」
「はぁ、なるほど……まあ、来るとは思ってたけどな。確か、スレイブヒロインじゃないと実体化しないし、そうなると突っ込めないし触れないからって理由だったか?」
「おおむねそのような形ですね。デュエル中のカードによるプレイで『鑑賞』する程度が限界であり、入れられませんし触れません。ただ、それだと満足しない方もいるという訳で」
「だろうな」
仕様をおさらいすれば。
①:スレイブヒロインになっていない場合、デュエル中しか立体映像で出てこない。
②:スレイブヒロインになった場合、オーナーズエリアでのみ実体化する。
以上の二点が基本だ。
ルックスもスタイルもいい美少女のコアカードがアリの巣には数多く出回っているが、それらがスレイブヒロイン化しない限り、『自由に遊べる』とはならない。
言い換えれば、『身内デュエルで、一定時間プレイしなかった場合の強制相手ターン移行のタイマーを解除し、あの手この手で楽しむ』ということはできないのだ。
出来たとしても、特定のカードを使ったプレイを見るという程度。
より厳密に言えば、『妥協点』はあっても『裏技』はない。
そしてスレイブヒロインになった場合、基本的に価値が上がりすぎて表に出回らない。
既に存在するスレイブヒロインは、大企業が絡んだ『事業』で使われることが多く、デュエルに出てこないのでアンティルールで動かない。
卑怯というより、『合理的』と表現するべきだろう。
一刻も早く抱えておきたいと考える組織は多く、当然、アリの巣の世間的には五枚のスレイブヒロインを持っていることが確定している械遊に接触するのは目に見えている。
※エスデスは手に入れてはいるが世間で出してはいない。海賊の三人はそもそも持っていることが知られていない。
「で、お誘いの話か……全部断っておいてくれ」
「ぜ……全部ですか?」
「そうだ。一切のプレゼンを聞くつもりはないし、交渉に応じるつもりもない。俺からスレイブヒロインが欲しいなら、奪い取ることだと、そう返信してくれ」
「……どれほどの悪意に襲われるか、想像もできませんよ?」
「それで俺が理不尽を感じたら、ぶっ潰したいって欲望が大きくなる。そうなればもっと強くなれる」
席を立ちながら、械遊は愛智を見下ろして言う。
「愛智が俺をどう思ってるのかは知らん。ただ……あまり俺を理性的な人間だとは思わないようにな」
テーブルから離れる械遊に、愛智もついていった。
フードコートから離れて、人がいないエリアに向かって歩く。
「械遊様。今日はこれからどのように……」
「ちょっと待ちなさい!」
「「!」」
愛智が械遊に聞くと、遠くから女の声が響いた。
何かの施設の中というのなら、防音性能が高い部屋が多いので良いとしても、こんな通路で大きな声を出すというのはなかなか珍しい。
械遊と愛智が振り向くと、赤い長髪の少女が大股でズカズカ歩いてきた。
「愛智ぃ……テメエ何のつもりだ!」
「何がですか?」
「ノーマルランクの事前評価Dが、幸助に勝てるわけない! お前が何かやったんだろ!」
「……」
械遊は高校地下のことを愛智に話していない。
ただ、愛智は情報として、『高校地下という舞台設定』は理解している。
その上で『ノーマルランクの事前評価Dが、幸助に勝てるわけがない』と言われて、状況を察した。
「今日という今日は絶対に許さない! 裸に剥いて焼いた鉄板に磔にして、猛毒を塗った鉄釘で全身を穴だらけにしてやる!」
「……朋夏っていうのはお前だな?」
械遊は愛智の前に出ると、迫ってくる朋夏の前に立つ。
「誰よアンタ」
「俺は六車械遊。そうだな……今日の朝。君の婚約者を後攻ワンパンした男だ」
一気に表情が消えた械遊。
しかし、朋夏は気にしていないようで……。
「幸助から奪ったのはお前か! 返却しろ! いやそれだけじゃない。お前が持っているコアカードを全部差し出せ! 確かスレイブヒロインになってるのが何枚もあるはず。それでお前の罪は帳消しにしてやるわ」
「罪?」
「はぁ? 何とぼけてんの? 幸助はグッドゲットグループの御曹司。私は大企業である『ホワイトサービス社』の社長令嬢。わかる? アンタみたいなカス一人なんて、私たちからすれば人権なんてないの」
「……」
械遊は溜息すらつかなかった。
「俺が持ってるコアカードが欲しいなら、俺にデュエルで勝つことだ」
「はっ? そんな正論が通ると思ってるの?」
「通るさ」
「はっ! 馬鹿ねぇ。制服着てるってことは学校に行ってるんだ。それでその脳みそなの? やっぱりあんな無駄なモノに時間を使うなんてカスの極みね」
朋夏の婚約者である幸助も学校に行っていたが、あれは勉強のためではなく『事業』のためということだろう。
スレイブヒロインを使った事業を誰もが欲しがっているが、別にそうでなくとも、事業と呼べるものはたくさんある。
「アンタは行ってたのか?」
「行くわけないじゃない」
「そんなんだから愛智に成績で抜かれたんだろ」
械遊は『ブチッ』という音が聞こえた気がした。というか聞こえた。
「ふざけんなああああああああああああっ! 絶対許さないわ。コアカードを全部差し出すのなら許してやろうと思ってたけど、もう絶対に許さないわ」
朋夏はデュエルディスクを取り出して、腕に付ける。
そして、黒く、表面にCCのロゴが刻まれたデッキケースを取り出すと、中からデッキを出してディスクにセットした。
「ククク、この特別なデッキで相手してあげるわ」
「……そのデュエルディスク。幸助のものか」
械遊もディスクを取り出して腕に付ける。
すると、ドームが作られて、天井に『オールイン』と表示された。
「そうよ。CCがオーナーに配布するデュエルディスクは、担当するコンシェルジュも使えるのよ」
械遊は愛智の方をチラッと見た。
「事実です。しかし……それで負けた場合、大きなペナルティが発生します」
「ペナルティ? 減給とか?」
「いえ、CCにおいて、社員に対するすべての報酬は『スコアの加点』で、ありとあらゆる罰は『スコアの減点』になります」
何かの義務が発生するわけではない。
ただ、『スコア』が変動する。
要するに、社員にとってスコアの変動はとても大きいということだ。
「その上で、コンシェルジュは担当するオーナーのカードをある程度扱える権限を持っていますが、特定のデッキケースに入れられたカードを使った場合、敗北ペナルティはより多くなります」
「そうか」
先ほどの黒いデッキケースは、その『特定の』に分類するのだろう。
「加えて、コアカードが奪われた際、その枚数に応じてさらに減点が……」
「……」
械遊は上を見る。
思いっきり『オールイン』と書かれている。
ルールブックを読む限り、ディスクの格納スペースやデッキに入れているカードすべてがアンティの対象になるルールだ。
ディスクに入れていないカードは対象にならないが、『あえて使わない』ことでアンティを回避するという方法がとれないことを意味する。
拒否する場合はオーナーランクが設定した側『以上』の必要がある。
ただし、械遊のデュエルディスクに拒否選択が出てこないので、幸助のランクであるゴールドが今の朋夏にも適用されているようだ。
「何をゴチャゴチャ言ってるのよ! さっさとカードを五枚引きなさい! ククッ、このデッキに投入されているコアカードは2枚。だけどとても強力なのよねぇ」
「……」
械遊はカードを五枚引いた。
朋夏も怒りの形相のままでカードを引く。
「「デュエル!」」
械遊 LP4000
朋夏 LP4000
「さて、私の先攻よ。ま、どうでもいいわね。さっさと降参しなさい」
「……はぁ」
械遊は溜息をついた。
「何ため息ついてんのよ。いい? アンタはカスなの。ゴミなの。もう一度言うわ。さっさと降参しなさい!」
「……養殖の魚は人間の家畜だが、別に自分からまな板の上に行くわけじゃない。俺を捌きたいなら、自分でちゃんとつかむんだな」
「あっそ、なら、このデッキの恐ろしさを、テメエの身をもってわからせてやるわ」
朋夏はカードを使い始めた。
「手札から魔法カード『精錬された強欲な壺』を発動。デッキからカードを3枚ドロー」
「んなっ!」
驚いたのは愛智。
「愛智、何故驚いてるんだ?」
「あ、あんなカード。見たことが……」
「そりゃそうよ。アリの巣の観客席はオーナー担当にならないと入れないし、担当になれたとしても、オーナーがノーマルランクじゃ権限が足りないスタジアムもある。これが『アリの巣』よ」
「……表社会に出回っていないカードに関しては、デュエリスト本人がサポートカードを生み出すが、中には『汎用カード』も生み出され、それが結果的に出回ることもあるわけか……」
傾向を見る限り、デュエリストとデッキに適したコアカードの変貌やサポートカードの生成が行われるのが主流である。
ただこれだと、他のデュエリストはそれらのカードを手に入れても使いにくい上に、倒した相手から奪ったコアカードは一度まっさらになるのだから、『変貌後のコアカードを対象とするサポートカード』は軒並み使えないのだ。
7枚になった手札を見て上機嫌な朋夏。
なにやら、良いカードを引いた様子。
「手札から『魔界発現世行きデスガイド』を召喚して、効果発動、デッキから『彼岸の悪鬼 ガトルホッグ』を特殊召喚!」
魔界発現世行きデスガイド ATK1000 ☆3
彼岸の悪鬼 ガトルホッグ ATK1600 ☆3
「……彼岸デッキか」
「私はデスガイドとガトルホッグでオーバーレイ。出てきなさい。『彼岸の旅人 ダンテ』!」
彼岸の旅人 ダンテ DEF2500 ★3
「手札から永続魔法、『ダンテの神曲』を発動! このカードが存在する限り、私がコントロールする『彼岸の旅人 ダンテ』は、デッキトップから3枚墓地に送る代わりに、デッキから任意の彼岸カードを3枚墓地に送る効果になり、エクストラデッキ以外から特殊召喚された場合、デッキトップ1枚をエクシーズ素材にできる! 当然、ターン1はないわ」
強い……というか、強すぎて扱いきれない印象を受けるのは械遊の気のせいではないだろう。
「ダンテの効果発動。私がデッキから墓地に送るのは、『彼岸の悪鬼 スカラマリオン』と『彼岸の悪鬼 グラバースニッチ』……そして、『彼岸の生贄 胡蝶しのぶ』!」
「何?」
「素材として使ったのはガトルホッグよ。その効果で、胡蝶しのぶを墓地から特殊召喚! さらにグラバースニッチの効果で、デッキから『彼岸の生贄 甘露寺蜜璃』を特殊召喚よ!」
フィールドに特殊召喚されたのは、『大』の字に人を固定する鉄のフレームと、そこに鉄の枷で縛られた裸の胡蝶しのぶと甘露寺蜜璃。
口にはテープが張られており、声は聞こえない。
彼岸の生贄 胡蝶しのぶ DEF0 ☆3
彼岸の生贄 甘露寺蜜璃 DEF0 ☆3
「……」
械遊としては、『
「フィールド魔法、『彼岸の怨恨』を発動! 永続効果で、自分フィールドの『彼岸の生贄』モンスターは、相手の攻撃と効果の対象にならない。そして発動時の効果処理として、自分の墓地に存在する『彼岸の悪鬼』モンスターの数、自分フィールドの『彼岸の生贄』モンスター全てに、『生贄』カウンターを置く!」
彼岸の生贄 胡蝶しのぶ 生贄カウンター 0→3
彼岸の生贄 甘露寺蜜璃 生贄カウンター 0→3
朋夏が宣言すると、墓地からガトルホッグ、スカラマリオン、グラバースニッチが出現。
ただし……その股間には、イラストには描かれていない『長さ40センチの男根』が存在する。
「ふっ、ぐっ……」
三体の悪鬼は蜜璃に近づき……口のテープを外した。
「ぷはっ……はぁ、はぁ」
悪鬼たちはどこかから、大型のレバーが付いた直方体と、長いコードでつながれている二本の鉄の棒を取り出す。
二本の棒を、蜜璃の膣と口に挿入し……レバーを倒す。
バヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂッ!
「~~~~っ!」
蜜璃の体が暴れまわる。
だが、彼女の力をもってしても、枷はびくともしない。
「アハハハハッ! 全身に流れる電流。それで暴れるゴミ。サイコー!」
朋夏が喜んでいる間に、三体の悪鬼はしのぶを取り囲み……口のテープを外すと、胸を掴み、男根をしのぶの膣と口に挿入する。
「うぶうううっ! ごっ、おおっ」
そのまま、口と膣で40センチの肉棒がピストンされ、胸は形が変わるほど力強くもまれる。
「げひゃひゃひゃひゃっ! こんな長いのが口と股間から! 体の中でちんことちんこがコンニチワしてるんじゃない? あははははっ! あははははっ!」
朋夏は腹を押さえて笑う。
「ふぅ、さて、フィールド魔法『彼岸の怨恨』には第三の効果がある。私のフィールドの『彼岸の生贄』モンスター以外の『彼岸』モンスターの攻守は、私の『彼岸の生贄』に乗せられている生贄カウンター1つに突き500ポイントアップする!」
彼岸の旅人 ダンテ DEF2500→5500
「さてと、私はカードを1枚セット。これでターンエンド! スカラマリオンの効果で、2枚目の『魔界発現世行きデスガイド』を手札に加えておくわ」
「俺のターン。ドロー」
械遊はカードを引いた。
そして……しのぶと蜜璃を見る。
しのぶは口と膣に40センチの肉棒をピストンされ、胸が力任せにもまれ、体が痙攣している。
蜜璃は口と膣に電極が刺さり、高圧電流で暴れているが、枷はびくともしない。
「ぐふふふっ、ねえ愛智。無表情を貫こうとしてるけど無駄よ! だってアンタ、されたことあるもんねぇ!
40センチの鉄の棒に高圧電流を流しながら、何度も何度も口と膣からぶっさしてやったんだから。
ねえ。覚えてるでしょ!
メディカルポットに使われる治療液を点滴と注射で大量にぶち込みながら、大勢の資産家に囲まれて何度もアンコールされたのよ!
1セット5分の1000万円で稼がせてもらったのは記憶に新しいわねぇ!
そうそう、その時に稼いだ金でアリの巣の利権を買いあさって、私は社員スコアが上位50位になったのよ!
このデュエルに勝ったら、またアンタをぶっ壊してやるわ。あはははっ!」
「……すうう……はああ……」
械遊の後ろで、愛智が自分の体を抱きしめて震えている。
「はぁ、はぁ、あっ、がっ、ぎいっ」
頭を押さえてかきむしり……
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛アアアアアアアアアアッ!!!」
地面に倒れて、大粒の涙をボロボロと流しながら頭をおさえて絶叫している。
「げぼっ、ごほっ、ご、おおおっ」
口から吐しゃ物をぶちまいて、それでも脳の混乱が収まらず震えている。
「うわ、きったな。まっ、社員スコアによって要求できる予算はそれ相応にあるけど、ぜーんぶ精神安定剤に使ってるもんね。知らないと思ってた?」
「やめろおおおおおおっ! それ以上何も言うな! 言うな! 記憶が、ぎっ、ア゛ア゛ア゛ア゛アアアアッ!」
「あ、記憶処理剤まで使ってたんだ。それでよく廃人にならなかったわねぇ。じゃあ、今度は廃人になるまでボロボロにしてやるわ! あはははっ! あははははははっ!」
楽しそうに笑う朋夏と、特濃のトラウマで悶える愛智。
それに対して械遊は……。
「おい、愛智」
「がっ、か、械遊、様……」
械遊は愛智に近づくと……。
自分ができるすべてをもって、眼力で愛智を威圧した。
「ヒッ――」
体が震えていたのが一転し……脳内が、『それ以上の恐怖』で塗りつぶされる。
そして、愛智は、『とある幻覚』を見た。
械遊の黒髪に混ざる赤色のメッシュが燃え上がり、その背中から、見たこともない燃える翼が伸びているのを。
そして、何も持っていない械遊の右手にリングがあり、そこから鎖が伸びて、愛智の首にある首輪に繋がっている。
遠くにいる朋夏が、とても、それはとても『矮小』な存在に見えて……。
「自分が誰の所有物なのか理解しろ。アイツが、誰の所有物に手を出したのか理解しろ。いいな?」
「……あ、はい……」
瞬き一つすれば、燃え上がる赤い髪も、炎の翼も、鎖も首輪もない。
だが愛智には、それが『幻』のようには感じなかった。
ただ、そう、強引に表現すれば、『自分が、人知を超えた幻獣の所有物になったのだ』という、自覚があるだけ。
「はっ? 一体何?」
ただ、その光景が理解できない朋夏からすれば、眉をしかめるだけ。
「ふぐっ、ぐううっ」
「ううっ、おおっ!」
そして……しのぶと蜜璃も、刺激によって呻きはするが、どこか先ほどまでとは雰囲気が違う。
「さてと、どうするかな」
「何考えてんのか知らないけど、もうアンタは終わってんのよ! 罠カード『彼岸の劣情宴会』を発動! 自分フィールドの『生贄カウンター』1つにつき、相手の手札をデッキに戻してシャッフルする! これに対してチェーンはできないわ!」
「なっ……」
倒れている愛智が驚愕している。
「なるほど、それがアリの巣の『上位ランク』ってわけか。幸助はそんな強さではなかったような……」
「そりゃそうよ。このデッキは、幸助の父親、オーナーランクがプラチナであり、グッドゲットグループ会長の執務室に置かれていたデッキをパクってきたものなんだから。アンタのカスデッキとはわけが違うのよ!」
「「……」」
すごくヤバいことを聞いたような気がする械遊と愛智だが、何も言わないことにした。
「……はぁ」
ため息をつきつつ、械遊は手札を全てデッキに戻す。
いずれにせよ、カウンター1つにつき1枚なら、現在カウンターはしのぶと蜜璃に3個ずつ乗っているので6個であり、6枚になった手札を全て戻さなければならない。
「さあ、これでアンタはターンを終了するしかない。次のターン。ダンテでダイレクトアタックをすれば私の勝ちよ!」
「エクストラデッキの『SH・エスデス』は、自分フィールドにモンスターがおらず、自分のフィールドと墓地のカードの枚数よりも、相手フィールドのカードの枚数が多い場合、特殊召喚できる」
SH・エスデス ATK2700 ★6
「なっ……こ、この状況でモンスターを!?」
「厳密に言えば特殊召喚した後、手札のカードを全て捨てる必要がある。が、まあ手札はないからいいか」
胸元と絶対領域できれいな肌を晒す軍服の美人。
何より勝ち気な視線で、朋夏を射抜く。
「ぐっ……だけど、そんなモンスター1体じゃ、何もできない!」
「エスデスは特殊召喚に成功した場合、デッキからカードを1枚ドローできる」
「ハッ! たった1枚で何が……」
「1枚? さっき『良いカード』を使ってくれたじゃないか。アリの巣は、『そういうのも許される』んだろ?」
「何を言って……」
「ドロー! よし、手札から『精錬された強欲な壺』を発動。デッキからカードを3枚ドローだ」
「はああああああっ!? ふざけんじゃないわよ! 取り消しなさい!」
「別にチェーン不可とかついてないぞ。『マジック・ジャマー』で防げるくらいのカードだ。対策してない方が悪い」
3枚になった手札を見て、械遊は頷く。
「手札から『ブリキンギョ』を召喚して、手札から『グリーン・ガジェット』を特殊召喚だ。デッキからレッドを手札に加える」
ブリキンギョ ATK 800 ☆4
グリーン・ガジェット ATK1400 ☆4
「2体でサーキットコンバイン。LINK2『プラチナ・ガジェット』をリンク召喚!」
プラチナ・ガジェット ATK1600 LINK2
「効果で手札から『ゴールド・ガジェット』をリンク先に特殊召喚。効果で『レッド・ガジェット』を特殊召喚して、イエローを手札に加える」
ゴールド・ガジェット ATK1700 ☆4
レッド・ガジェット ATK1300 ☆4
「レベル4のゴールドとレッドの2体で『SH・薙切えりな』をエクシーズ召喚!」
SH・薙切えりな ATK2000 ★4
「に、2体目のスレイブヒロイン!? 欲しい! 欲しいわ! 今すぐ降参しなさい!」
「誰がするか。えりなの特殊召喚に成功した場合、素材を1つ使って2枚ドロー」
これでまた手札は3枚。そのうち1枚はイエロー。
「そして、エスデスのさらなる効果。1ターンに1度、自分フィールドのモンスター1体を破壊し、そのモンスターと同じ種族のモンスターを手札から特殊召喚する。俺はプラチナ・ガジェットを破壊して、手札からイエロー・ガジェットを特殊召喚! どっちも効果発動。プラチナ・ガジェットの効果でシルバー・ガジェットを特殊召喚して、イエロー・ガジェットの効果でグリーンを手札に加える」
イエロー・ガジェット ATK1200 ☆4
シルバー・ガジェット ATK1500 ☆4
「シルバーの効果は使わない。グリーンを捨てて魔法カード、『ワン・フォー・ワン』を発動。デッキからレベル1モンスターを特殊召喚だ」
「ガジェットでレベル1ですって?」
「俺はデッキから、『フォーマッド・スキッパー』を特殊召喚!」
フォーマッド・スキッパー ATK0 ☆1
「効果発動。エクストラデッキのリンクモンスター1枚を見せて、リンク素材にする場合に、そのモンスターと同じカード名、属性、種族として扱える。俺が見せるのは『転生炎獣パイロ・フェニックス』だ!」
「なっ……サラマングレイト!?」
「魔法カード『おろかな副葬』で『帝王の轟毅』をデッキから墓地に落とし、除外して効果発動。全モンスターを炎属性に変更だ。現れろ。全てが集うサーキット! 召喚条件は、炎属性の効果モンスター2体以上、俺はえりな、イエロー、シルバー、フォーマッド・スキッパーの四体をリンクマーカーにセット!」
頭上に浮かんだサーキットに、4体が接続。
「サーキットコンバイン! リンク召喚! リンク4『転生炎獣パイロ・フェニックス』!」
転生炎獣パイロ・フェニックス ATK2800 LINK4
「な……バカな」
「パイロ・フェニックスは同名カードを素材にリンク召喚した場合、相手フィールドのカードをすべて破壊する!」
パイロ・フェニックスが飛び上がると、炎を纏って朋夏のフィールドに突撃する。
一応、しのぶや蜜璃は耐性があるが、それは対象を取る場合のみ。
全体破壊は受け付ける。
ダンテも、永続魔法『ダンテの神曲』も、フィールド魔法も、しのぶも蜜璃も、全て、破壊された。
「あ……ありえない。一枚もカードがない状態から、ここまでできるはずがない! 嘘よ!」
「バトルフェイズ。パイロ・フェニックスで、ダイレクトアタック!」
口に炎をチャージして、それをブレスとして一気に放った。
「くっ……」
朋夏 LP4000→1200
「まだエスデスの攻撃が残ってる」
「ま、待って! ここで私が負けたら、私のスコアは!」
「……まあ、スコアはともかく、ちょっと待つ必要があるな」
「そう、そうよね。よくわかってるじゃ――」
「エスデス。ちょっとそのサーベル、触らせてくれないか?」
械遊はエスデスに近づきつつ、エスデスのサーベルに触れる。
結果は……しっかりと触れた。
械遊は頷いて、先ほどの位置に戻った。
「なあ、このエスデスはスレイブヒロインで、ここはオーナーズエリアなんだ。わかるな?」
「はっ? え、え、ちょ、ちょっと待って」
「モンスター越しの超過ダメージなら衝撃だけで済む。というか、オーナーズエリアであっても、出した場合に実体化するか立体映像かは、その都度切り替えられるらしい」
「も、もちろん映像よね。立体映像よね! ねえ! そうでしょ!」
械遊は朋夏から顔をそらして、愛智の方を向く。
「なあ、愛智。どうする?」
「え、私が決めるんですか?」
「決めていいぞ」
「へぇ……そうですか」
愛智の顔にとんでもない形相が浮かんだ。
それを見て、朋夏は理解したようだ。
「ね、ねえ愛智。私たち、同期よね? 対等な関係よね。今なら何もせずに許してあげる。だから……」
「まあ、ここでどちらを選んでも、朋夏さんのスコアがヤバいことになるのはわかりきったこと。私からの最初で最後の慈悲です。この場は立体映像で済ませますよ」
「わかってるじゃない!」
朋夏は笑顔になった。
ただ、常識に対してどこかズレがある。
何か、社員スコアを弄る手段があるとしか思えない。
「そうか……」
「見なさい。私と愛智は同期なの。友達なのよ!」
「エスデス、実体化したまま攻撃だ。愛智が許しても俺は許さん」
次の瞬間、朋夏に肉薄していたエスデスが彼女を蹴り倒すと、そのまま腹にサーベルを突き立てて地面に縫い付ける。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
そのままグリグリと腹に刺したサーベルをひねって腹を抉りだす。
「やべでえええええ! いだいいだいいだいいだいっ! 死ぬ、死ぬってあああああああっ!」
ひときわ高い叫び声が響いた後、エスデスはサーベルを抜いて鞘に納めて、朋夏の胸ぐらを左手でつかんで持ち上げる。
そのまま、右手の人差し指と中指を揃えて、彼女の口に突っ込んだ。
「おごっ、がっ!」
突っ込まれた朋夏は悲鳴を漏らし……エスデスは獰猛な笑みを浮かべる。
「っ! ひゃ、ひゃめ!」
反応が変わり、ジタバタともがく朋夏。
だが、次第に動きが鈍くなり、ピキピキと音が鳴りだした。
「や……め……」
次第に朋夏の声も小さくなる。
やがて……完全に声が聞こえなくなった。
「……体の内側から凍らせたか」
エスデスは氷の人形になった朋夏を立たせたまま、にやにやと笑いつつ消えていった。
朋夏 LP1200→0
デュエル終了と同時に、朋夏のディスクから2枚のコアカードが出てくる。
械遊はどちらもディスクの格納部に入れた。
「……はぁ、械遊様。知ってたんですね。私のこと」
「今日、学校に行ったときにな。ある程度は想定できた」
「そうですか」
その場を後にする械遊と愛智。
朋夏に関しては……まあ、後で誰かが拾いに来るだろう。
「……知られたくはなかったですねぇ。ただ、械遊様の勘の良さを考えると、最初からそれは無駄だったかもしれません」
「かもな。とはいえ、俺も不用心だったよ」
「そんなことはありません。ただ……私が弱かった」
「そうでもないと思うがな」
「そうでしょうか」
ある程度歩いたあたりで自販機を見つけた。とりあえず止まった。
「……械遊様」
「ん?」
愛智はまだ優れていない表情で械遊を見る。
ただ、その瞳の色は普通ではない。
恋という訳ではない。
もっと近い表現をすれば、『依存先』として、械遊を求めているように見える。
「械遊様……」
近づく愛智に対し、械遊は彼女の額を人差し指で押して、そのまま壁に押し付けた。
「あっ……んぶっ!」
驚いていると、愛智の唇が械遊の唇でふさがれる。
「んっ、んっ!」
抵抗しようとした愛智だが、すでに両手が恋人つなぎのように絡まった状態であり……そのまま、腕と腕が重なるほど体が密着して、愛智の体が壁と械遊に挟まれる。
「!」
少し開いた愛智の足の間に械遊の右足が入ってきて、そのまま彼の足が愛智の股間に強く当たって強く固定する。
「んっ! んんっ! あっ! うっ!」
人間の触覚の中で、最も敏感なのは手で、次は口回りだ。
その手は恋人つなぎのように絡まり、口はディープキスでふさがれる。
械遊の体で愛智の体は壁に押し付けられ、彼女の眼をそらすことなくまっすぐ見てくる。
「あっ、あうっ! あっ……あぁ……」
……刺激が強すぎたのか、愛智は気を失った。
「……さて、帰るか」
愛智の体を姫様抱っこで持ち上げると、そのままハイヤーを捕まえに行った。