「えりな。俺思うんだよ。フードコートに弁当を持ち込むのって、なんだか背徳感を感じるって」
「……欲望のままに動けとされるアリの巣で、そもそも道徳に意味はないと思うけど」
「それは確かに」
アリの巣にあるフードコートにて。
枢木高校の制服を着た械遊と遠月学園の制服を着たえりなが、テーブル一つと椅子二つの席に座り、二段の見事な重箱の弁当を広げている。
中身のコンセプトは、『少量を多種多様』といえる。正直に言って一人分で作るとなると信じられないほど面倒だが、料理ステータスがオールジャンルでカンストしたえりなの技量なら何も問題はない。
「……そういえば、えりなは自分用には持ってきてないのか?」
「スレイブヒロインは、外部から何かを摂取する必要はない。嗜好品として楽しむことはできるけれど、食べないといけないわけじゃないから」
「……どういう体の構造なんだ?」
「……確認してみる? 隅々まで」
腕を組み、足を組み、どこか挑戦的な表情のえりな。
械遊は『えりなってこんな口調とキャラだったかな』と思ったが、よく考えればスレイブヒロインは所有者にとって都合がいいように改変されている。
械遊が思い描くえりなの姿がこのような形ということなのだろう。
一体えりなに何を求めているのだろうか。
「……随分美味しそうに食べるけど、今までは何を食べてたの?」
「うーん……長い間一人暮らしだったからな。肉じゃがとカレーとシチューをローテーションしてることが多かったな」
「具材全部一緒ね」
「ミートソーススパゲティとチャーハンを交互に作ってたこともあるな」
「……具材全部一緒ね」
いずれにせよ、えりなレベルを相手にするような話題ではない。
……その話題を振ったのはえりなだが。
「まあ、それが限界さ……ん、ごちそうさん」
「お粗末様」
弁当を食べ終わって片付ける。
そのまま椅子から立ち上がって、フードコートを後にする。
えりなも立ち上がってついてくる。
「……わかってはいたが、思ったより視線が強いな。スレイブヒロインを出して歩くなんて行為、やっぱり普通なら誰もやらないわけか」
「……なら、オーナーがする理由は?」
「正直に言えば煽ってるよ。今のところ、誰とも組むつもりはないし、誰にも譲る気はない。俺から奪いたければ、俺に勝て。それだけだ」
そう語る械遊。
「……」
えりなとしてはどうということはない。
というより、所有者がえりなを使うかどうか。そして使ったデュエルで負けるかどうかの話でしかない。
ただ……幻覚だろうか。
械遊の手にリングがあり、そこから延びた鉄の鎖が、えりなの首輪に繋がっているような、そんな感覚がする。
当然、えりなが自分の首を触っても、そこには何もない。
「……そういや、裏道があるって話だったな。ちょっと寄ってみるか」
ショッピングモールと言えど、あまり買われない物はある。
ただ、あえてそういうものを集中させることで、意図的に空白地帯を作ることもできるのだ。
欲望を優先するとはいえ、それでも大通りはある程度の清潔を保つことで、その裏に潜ませている劣情を刺激するというのも、よくある話。
欲望を駆り立てるのが目的ではあるが、CCなりに、欲望という言葉に対し解釈があるのだろう。
「……カードショップ。あるんだな」
裏道を通ると、カードショップがあった。
見た限り、どうやらパックは売られておらず完全にシングルで販売されているようだ。
テナントに入って見渡す。
「……表社会で有用なカードが安いな。『灰流うらら』のノーマルか……確か表だと50万はするけど、こっちだと1000アウェアか」
「単純に考えて、相場の50分の1ね」
1円=1アウェアなので、単純にというよりストレートにといった方が正しいかもしれない。
しかし、アウェアを日本円にすることはできるが逆はできないため、『単純に』と言った方がいいだろう。
「アリの巣の中で生み出されたカードに関しても置かれてるが、使いどころが限られたり、特定のカテゴリを指定するカードばかり……正直買おうって思えないな」
「採算がとれるのかしら」
「多分、CC側で運営してる店舗だ。採算が取れる取れないじゃなくて、こういう店が必要ってことなんだろうな」
ちらっとカウンターを見る。
レジの傍にいるのは、白いスーツを着た社員だ。
青い艶のある長髪をなびかせ、優しい笑みを常に浮かべる美貌と、Gはありそうな胸と細い腰という、女性として暴力的な魅力を持つ。
「……確認できる範囲だと、白服は『ルール側』だったな。黒スーツ着てる担当コンシェルジュや、灰色のスーツを着てる一般社員は、CC内では『プレイヤー』側らしい」
「……明確な違いがあるということね」
「そうだな……ただ、なにか……」
白服というと、械遊が初めて666番ホテルの最上階に入った時、愛智が指を鳴らして呼んでいた。
あの時は紅茶を持ってきただけであり、愛智が指示できる立場だったが、これは『ルール側』であるというだけで、何も要求できないわけではないのだろう。
コンシェルジュにとって部下がおらず、人数が足りないと判断されれば、白服を派遣してもらうことは可能。
その程度のレベルに見える。
「なにかとは?」
「白服は、何か違う。もしかして、アンドロ――」
次の瞬間、レジの傍に立っていた白服が械遊の前に立っており、械遊の唇に指をあてていた。
「!」
「六車械遊様。あまり踏み込まないようお願いします」
「……その踏み込んだ先だが、良いか悪いかで言えば、それ以前にどうでもいいと思うけどな」
「私にとってもそうですが、世間的にはそうではありませんから」
「まあ、気を付けるよ」
「そうですか。では、ごゆっくり」
次の瞬間、レジの傍に戻っている。
「……不思議な女」
「勘が鋭すぎるのも問題ね」
「そうかな? ……そうだな」
勘が鋭い云々というよりデリカシーの問題かもしれないが、械遊は特に気にしないことにした。
これ以上追及しても、誰も幸せになれないので。
「……ん?」
械遊の視界に、艶のある黒髪が目に入った。
それと同時に、レジの傍にいた白服が反応している。
「あら、美咲さん。お久しぶりですね」
「
顔見知りらしい会話。
「本日はどんなようで?」
「先ほど、コアカードの『提供』があり、一番近いこの店から市場に流すことになりました」
「なるほど、では、コアカードをお預かりします」
「ええ、よろしくお願いしますね」
美咲はそう言って、カードを1枚スーツのポケットから取り出すと、レジにいた白服、雅に渡している。
「……では、私はこれで」
「ええ、またお待ちしていますよ」
美咲はそういって雅に背を向け……最後に一度、械遊の方を見てほほ笑んだ後、店を出て行った。
(最後のアレは一体……)
全体か一部かは不明。
ただ、械遊という個人を気に掛ける存在がいることは事実。
そう捉えておいてよさそうである。
……いや、すでに話題に事欠かないか。
「おい、話は聞かせてもらったぞ。コアカードの提供があったそうだな。私が貰うぞ!」
そう言って横から声を出してきたのは、おそらく体重が100キロは超えているであろう赤い髪の男性だ。
店内の高級カードエリアにいたようだが、横から出てきて雅に話しかけている。
「……コアカードの市場放出には様々な手順があります。プラチナランクの方が『提供』されたカードには価値があり、新しく製造されたコアカードとは価値が大きく異なりますから、強制買取には高いコストが必要になりますよ?」
「私はシルバーランクだぞ! いいからそれを渡せ!」
「……ある程度、私にも権限がありますが……最低ラインで言いましょうか? この場で4億アウェアを用意できるのであれば、お渡しします」
「な……よ、4億だと!?」
言い換えれば4億円。
プラチナランクが持っていたコアカード。というだけで、それだけの価値がつく。
とにもかくにも桁がおかしいが……『そういうもの』なのだろう。
「ぼったくりだ! ふざけるな!」
「ふざけてなどいません。ただ……そうですね。イベントの景品。という形であれば、そのイベントにあなたが勝ち抜けばお渡しすることは可能ですよ」
「チッ、なら即席で何か考えろ!」
「そうですねぇ……では、こういうのはどうでしょう。『今』この店にいるお客様を対象に、提供されたコアカードの争奪戦を行いましょう」
雅が指を鳴らすと、出入り口の自動ドアがロックされる。
おそらくすぐに開錠されるだろうが、『確定』させるのにはこれくらいがちょうどいい。
「参加条件は、この場に持ち込んだディスク内のコアカード所有枚数の上位2名。皆さんのデュエルディスクに選択画面を送信しますので、参加する場合は参加を選んでください。ただし、参加する場合、所有するコアカードの枚数はレジ上の電光掲示板にテロップで公開されます」
全員のデュエルディスクに着信音が鳴る。
械遊もディスクを確認すると、【参加しますか? 『参加する』】の画面が表示された。
「もしもこの場で参加者があなただけの場合、それは私が設定したイベントに対する参加者の意思ですから、この場でお渡しします」
「なるほど」
男はディスクを操作して参加設定にすると、店舗を見渡し、大声で叫んだ。
「私は
剛平がそう言った瞬間、械遊は『参加する』のボタンをタップした。
「……では、表示します」
雅が指を鳴らすと、電光掲示板の画面が変わった。
【枚数1位 六車械遊 枚数11枚】
【枚数2位 白石剛平 枚数 4枚】
その画面を見て、剛平は目を見開いた。
「はっ? ……な、じ、11枚だと。誰だこれは! 私だって、社内のパワーバランスのために配って、所有できるのは4枚が限界だ。それのほぼ3倍だと! 誰だ!」
械遊はレジの近くまで歩いていった。
「貴様が六車械遊か」
「ああ。コアカードだが、俺が貰うよ」
「もうすでに勝ったつもりか! 青二才が調子に乗りおって。担当コンシェルジュに学生のコスプレをさせるような奴に……」
「械遊様の傍にいる金髪の子はスレイブヒロインですよ」
「……何? スレイブヒロインだと!」
剛平は雅に言われて、えりなの体を上から下まで眺める。
「ほう、ほうほう、いい、実に良い! おい、デュエルが始まったら降参しろよ! オールイン設定にして、お前のコアカードを全て奪ってやる!」
「……一応、『白服』に聞いておこうか。イベントって、上のランクの奴は相手に降参を強制させることができるのか?」
わかりきったことを雅に聞く械遊。
雅は微笑みながら言った。
「オーナーの方々の間の取り決めはともかく、降参の扱いに対し、我々が関与することはありません」
「そうか」
「ふざけるなよ若造が! まあいい。私の高祖父はプラチナランクだったのだ! その時の汎用カードが大量に投入された最強デッキで叩き潰してやる!」
「高祖父……って、4代前? まあいいか」
父→祖父→曽祖父→高祖父のはず。
剛平自身は40代半ばと思われるので、大雑把に見積もっても100年以上前なのは間違いない。
そして、その時代にプラチナランクだったのが、ゴールド、そしてシルバーに下がってきたと考えると相当である。
『過去の栄光』という言葉があるが、いくらなんでも風化しすぎだ。
「ふふっ、では、奥のデュエルスペースを用意しましょう。今回は秘匿ステージになります」
雅が先導する形で、剛平がズカズカと歩いていく。
その後ろを、ため息をつく械遊とあきれ顔のえりながついていった。
★
デュエルするためのスペースというだけあってある程度の広さと高さがあるが、観客席は最低限だ。
秘匿ステージであり、言うほど需要がないのだろう。
……もっとも、ホコリ一つ落ちていないが。
「では、審判は私が務めます。両者、デッキをシャッフルし、五枚引いてください」
指定位置に立った械遊と剛平は、お互いにデュエルディスクを構える。
「さてと、もどってくれ、えりな」
「はい」
えりなは姿を消して、デッキに戻っていく。
「グフフッ、プラチナランクが所有していたコアカードを手に入れ、オールインでお前のコアカードを全て毟り取る。しかもスレイブヒロイン付きだ! 檻の中で飼ってやるぞ。ガハハハハッ」
お互いのカードを5枚ドロー。
「「デュエル!」」
械遊 LP4000
剛平 LP4000
「私の先攻!」
強そうには見えないがシルバーランクなので、械遊よりもランクは上。
先攻後攻を決める権利は剛平にある。
「まずは手札から『精錬された強欲な壺』を発動。デッキからカードを3枚ドロー! フフッ、私は手札から、フィールド魔法、『ラビリンス・ウォール・シャドウ』を発動!」
「……【ゲート・ガーディアン】か」
「その通りだ! 続けて効果発動。デッキから『雷魔神-サンガ』を永続魔法扱いでフィールドに置くことができる!」
雷の箱がフィールドに設置される。
「手札から『迷宮の重魔戦車』をリリースなしで召喚!」
迷宮の重魔戦車 ATK2400 ☆7
「モンスター効果発動。デッキから『水魔神-スーガ』をフィールドに永続魔法扱いで置く!」
水の箱が設置。
「そして、永続魔法扱いのサンガとスーガを除外、エクストラデッキから現れろ。『水雷魔神-ゲート・ガーディアン』!」
水雷魔神-ゲート・ガーディアン ATK2550 ☆9
「……ここまでは普通か?」
「ぐふふ……ここからだ! 手札から魔法カード、『迷い人の捕獲』を発動! 自分フィールドに『ラビリンス・ウォール』カードが存在する場合、デッキから『迷い人』ペンデュラムモンスター2枚を手札に加えることができる!」
「迷い人……」
「私は手札から、『迷い人・雪ノ下雪乃』と『迷い人・由比ヶ浜結衣』を手札に加える。そして、スケール6の雪ノ下雪乃と、スケール8の由比ヶ浜結衣で、ペンデュラムスケールをセッティング!」
フィールドに出現したのは、裸に剥かれ、体のいたるところを針金で固定され、大の字になった二人だ。
口の中にも針金が入り込み、上手く声が出せないようになっている。
「ぐふふふっ、ペンデュラム召喚! 除外ゾーンから現れろ、『雷魔神-サンガ』と『水魔神-スーガ』!」
雷魔神-サンガ ATK2600 ☆7
水魔神-スーガ ATK2500 ☆7
「サンガとスーガが……というか、除外ゾーンだと?」
「『迷い人』ペンデュラムモンスターには、除外ゾーンの三魔神をペンデュラム召喚で呼び出す対象にできる効果が備わっている」
ニタニタと歪な笑みを浮かべる剛平。
「そして私は、サンガとスーガ、そして迷宮の重魔戦車を除外! エクストラデッキから、『迷宮の快楽魔戦車』を特殊召喚!」
迷宮の快楽魔戦車 ATK4000 ☆9
「重魔戦車の進化系か。しかも攻撃力が4000」
「このモンスターは、『迷宮』機械族モンスター1体と、三魔神たち1体以上を除外することで特殊召喚できる融合モンスターだ! そして、当時のプラチナランクに存在した特権により、ステータスを盛ることも出来たのだよ」
「当時の? ……今はできないってことか。まあ、そうだろうな」
「エクストラデッキからの特殊召喚成功時、効果発動! このモンスターを出す際に除外した三魔神1体につき、デッキから『迷い人』とテキストに書かれた永続魔法か永続罠をフィールドに置くことができる!」
デッキから2枚のカードをフィールドに置いた。
「私が発動するのはどちらも永続罠だ。『快楽の串刺し光線』と、『快楽の拘束光線』! さあ、アクメビームでイき狂え奴隷ども!」
結衣と雪乃の下と後ろから、レーザー光線銃が出現。
下の光線銃は、二人の股間に照準を合わせ、背後の光線銃は二人の子宮に照準を合わせる。
ビーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!
「「うぐううううううううううううっ!」」
股間から脳天にかけて快楽光線が貫通し、後ろからも放たれた光線と合わさって、二人の子宮の周りにある神経に焼けるほどのダメージを与えていく。
唯一動かせる首から上をぶんぶん振って、全身を痙攣させるが、それでも光線は止まらない。
「ふははははっ! 迷宮に迷い込んだ哀れなゴミどもは、こうして捕らわれて光線で貫かれるのだ! 『拘束光線』の効果により、自分のペンデュラムゾーンに『迷い人』ペンデュラムモンスターが存在する場合、その正面のモンスターゾーンと魔法罠ゾーンを相手は使用できない!」
械遊がディスクを見ると、メインモンスターゾーンと魔法罠ゾーンの両端が、縦に伸びた閃光によって封じられている。
「そして『串刺し光線』の効果により、自分フィールドの三魔神、またはその名称がテキストに1体でも記されているモンスターは、ペンデュラムゾーンの『迷い人』カード1枚につき、攻撃力が1000アップする!」
水雷魔神-ゲート・ガーディアン ATK2550→4550
迷宮の快楽魔戦車 ATK4000→6000
「私はカードを1枚セット。これでターンエンドだ!」
ペンデュラムデッキの常として、魔法罠ゾーンの圧迫が考えられる。
その上で、永続罠を使った戦術を組み込む以上、それ相応の戦術があるはず。
そもそもモンスターゾーンの封鎖など、直接的なアドバンテージとはいい難い。
何か、それをブーストするものがあるだろう。
そこまで械遊は考えつつ……。
「俺のターン。ドロー」
ドローしたカードを見て、何をするか決めた。
「俺は手札から、『シルバー・ガジェット』を召喚し、『無限起動ロックアンカー』を特殊召喚。さらに『爆走軌道フライング・ペガサス』を特殊召喚だ」
シルバー・ガジェット ATK1500 ☆4
無限起動ロックアンカー ATK1800 ☆4
爆走軌道フライング・ペガサス DEF1000 ☆4
「れ、レベル4を並べたか。しかもガジェットだと? ふはははっ! そんな初心者用のデッキでこのアリの巣にもぐりこんだのか! そんなデッキに勝てるはずがない。コアカードはどこかから奪ってきたのだろう。そんなことは許されない! 私が回収してやる!」
「……ロックアンカーの効果で、シルバー・ガジェットとロックアンカーをレベル8に。フライング・ペガサスの効果で、ロックアンカーのレベルに揃える」
シルバー・ガジェット ☆4→8
無限起動ロックアンカー ☆4→8
爆走軌道フライング・ペガサス ☆4→8
「レベル8の3体で、オーバーレイ! エクシーズ召喚、現れろランク8! 『SH・ボア・ハンコック』!」
SH・ボア・ハンコック ATK3000 ★8
現れたのは、紫色のドレス……すごく具体的に言えば頂上戦争編の物を着ているハンコックだ。
「お、おおおおおお! す、スレイブヒロインだと!? 2体目を持っていたのか! 欲しい、欲しいいいいいい! おい、今すぐ降参しろ! そうすれば、私に楯突いた罪を不問にしてやる!」
ワンピース作中において美人のキャラとして世界に知られる海賊女帝。
あの天才の原作者に対しデザインで困らせるほどの美貌は、現れればその影響力は絶大である。
ただ、歪んだ笑みの剛平に、ハンコックは蔑んだ視線を向ける。
その後、械遊の方を向いた。
「いつもはそなたがデュエルに集中するために妾たちは無駄口を叩かぬが、今回は構わぬな?」
「……好きにしろ」
次のカードを手に取りつつ、ため息をつく械遊。
「手札から魔法カード『スレイブネットワーク』を発動。スレイブヒロインエクシーズモンスターの素材を2体特殊召喚し、エクシーズ召喚を行う。フライング・ペガサスとロックアンカーを特殊召喚」
爆走軌道フライング・ペガサス ATK1800 ☆4
無限起動ロックアンカー ATK1800 ☆4
「エクシーズ召喚! ランク4『SH・胡蝶しのぶ』!」
SH・胡蝶しのぶ ATK1000 ★4
鬼殺隊の隊服を着た胡蝶しのぶが出現。
「ふおおおおおお! おおおおお! 3体目! 3体目か! これはいい。これはいいぞ。グフフフッ。速く降参しろ!」
「随分身勝手な人ですねぇ」
「妾たちには関係のない事じゃ。それより、足を引っ張るなよ小娘」
「一応デュエル中ですよ? あまり喋らないように。まあ許可を取っているだけ良いと思っておきましょうか」
「なんじゃと!? このちんちくりんめ!」
小柄な体にしては胸が大きめのしのぶだが、やはり胸のデカさに関してもハンコックは圧倒的。
……というより、ハンコックは身長191センチで。しのぶは151センチであり、設定的にもジャスト40センチの差がある。
ハンコック視点でちんちくりんと称するのも無理はない。
無理はないが……地下に出しているときに、彼女らの中で何かあったっぽい雰囲気はある。
「私語を禁止にされたくなかったら喧嘩するな」
「……そうじゃな。デュエル中はよそう。小娘と揃えることが戦略的に正しくとも、妾たちの関係を遠慮して負けたら話にならぬ」
「まあそこまで愚かなことをするつもりはありませんよ」
というわけで。
「ハンコックの効果発動。1ターンに1度。エクシーズ素材を1つ使い、相手モンスター1体の攻撃力を0にし、効果を無効にする。水雷魔神には黙っててもらおうか」
「させるか! 効果発……な、何故使えない!」
「しのぶに素材が2つ以上ある限り……俺のエクシーズモンスターの効果発動に対し、相手はモンスター効果を使えない」
「ば、馬鹿な……」
ハンコックが指先を唇に当てて、ハートの形の矢を作ると、そのまま発射。
着弾すると、その部分が石になって動かなくなった。
なぜかはわからないが、ハンコックのメロメロの力は無機物にも有効である。本当になんでかわからないけど。
水雷魔神-ゲート・ガーディアン ATK4550→0
「で、しのぶが相手モンスターと戦闘を行う場合、互いに戦闘で破壊されない。攻撃力0のゲート・ガーディアンに対し、攻撃力1000のしのぶと攻撃力3000のハンコックで攻撃したらどうなるか……で、何か申し開きはあるか?」
「何が申し開きだ! いいか! このデュエルは私が勝つと決まっているのだ! 罠カード『迷い人の盾』を発動。デッキから迷い人モンスターを2体、守備表示で特殊召喚する! 私はデッキから『迷い人・雪ノ下陽乃』と、『迷い人・一色いろは』を特殊召喚だ!」
迷い人・雪ノ下陽乃 DEF0 ☆4
迷い人・一色いろは DEF0 ☆4
フィールドに特殊召喚された二人だが、同じように針金で大の字で拘束され、口にも針金が入り込んでうまく喋れない。
「そして、この効果で特殊召喚されたモンスターしか、相手は攻撃できない! 除去すればいいのではないぞ。このモンスターたちしか攻撃できないのだ!」
「『仁王立ち』みたいなものか」
「そう、そして手札から罠カード『迷い人の快楽処刑』を発動。『迷宮の快楽魔戦車』がフィールドに存在すれば、手札からでも発動できる。これにより、自分モンスターゾーンの迷い人モンスターを全て破壊し、1体につき1枚ドローできる!」
剛平が宣言すると、陽乃といろはを拘束している針金が動いて、二人を仰向けにする。
そして……二人の上に、レーザーが密集してできたような刃を持つギロチンが出現した。
「超濃密なアクメビームだ! 通常なら貫通力のために『透過性』を確保しているが、莫大なエネルギーによって、レーザーで作られた濃密な刃が頸椎まで切断する!」
「……随分、説明が具体的だな」
「当然だ! デュエルの立体映像ではなく、実際にこの技術が存在し、何度も何度も刃が下ろされる処刑ショーを、私の娘がプロヂュースしていたのだからな!」
ギロチンの刃のロックが解除される。
テロップで『ロックが解除されました。音声認証で刃が落ちます』と表示された。
「ふーっ! ふーっ!」
「はっ、はーっ……」
二人の顔が青ざめ……。
「死ね! 奴隷ども!」
刃が落ちた。
神経にのみ痛烈な快楽衝撃を与えるそれが、首を貫通する。
「「――――~~~~~~~~っ!!!」」
二人は体のすべてが針金で固定されており、身じろぎもできない。
ただ……ブシャアアアッ! と、盛大に潮を吹いた。
しかも、何度も何度も。
股間からは汁がダラダラと流れ、全身が痙攣しているのがわかる。
上手く表現できない。
あえて言えば……『神経が誤作動を起こした』とでもいうべきだ。
「フハハハハッ! どうだ、凄いだろう。これが快楽処刑! これが奴隷どものあるべき姿だ!」
次の瞬間、いろはと陽乃がフィールドから消失する。
「ぐふふ、フフフッ、私はカードを2枚ドロー。さあ! これで貴様は攻撃できまい。ターンを終了……いや、降参しろ! もはや貴様にできることは――」
械遊の直感がささやく。
もう、彼にこれ以上の妨害札はないと。
「手札から『RUM-アージェント・カオス・フォース』を発動。ハンコックでネットワークを再構築。『CNo.15 ギミック・パペット-シリアルキラー』をエクシーズ召喚だ」
CNo.15 ギミック・パペット-シリアルキラー ATK2500 ★9
「……はっ?」
「シリアルキラーには、エクシーズ素材を1つ使い、相手フィールドのカードを破壊できる効果がある。モンスターを破壊すれば、もともとの攻撃力分のダメージを与えられるが……もう一度聞こう。申し開きはあるか?」
「……」
剛平は自分が出した『迷宮の快楽魔戦車』を見る。
今は攻撃力6000という超大型。
そして、もともとの攻撃力は4000という破格のステータスだ。
そう……当時のプラチナランク特権によって『盛られた』ことで手にした、圧倒的なステータス。
それが彼の身に降りかかれば、ライフは一気に0になる。
「ま、待て! こ、ここは貴様の降参で手を打とう。君はコアカードを全て差し出し、私は多大なメリットを得るのだ。どうだ?」
「言語能力がバグってるみたいだな。話にならん。やれ、シリアルキラー!」
シリアルキラーが動き出して、迷宮の快楽魔戦車に向かう。
「や、やめろおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
戦車が爆発し、その衝撃で、剛平が吹き飛んでいく。
「ぐあああああああっ!」
剛平 LP4000→0
「……なんか、後攻ワンキルが多いなぁ。というより、一瞬でも油断すれば負けることを理解してデッキを組める奴が『上に行ける』っていう、ただそれだけのことか」
とにもかくにも、械遊の勝ちだ。
「ぐっ……」
剛平のデュエルディスクから、4枚のコアカードが飛び出し……。
「ま、待てええええ!」
剛平は信じられない瞬発力で、その四枚のカードを掴んだ。
「ぜ、絶対に渡すかあああああ!」
「剛平様。諦めてください。使ったコアカードは、負けたら奪われる。これは覆ることのないルールです」
その『仕様』の力が強いのか、カードは体重が100キロを超えた剛平が握っても、彼の体を動かして械遊に近づいている。
「知るかああああああああああああっ! くそ、こんなものおおおおおおおおおおおっ!」
剛平は……両手でコアカードを掴み……ビリビリに破った。
「なっ!?」
雅は驚愕した。
ビリビリに破かれたコアカードたちに、もうルールの力は及ばない。
そのままひらひらと、剛平の近くの地面に落ちていった。
「ふはははははっ! あはははははっ! どうせ貴様にわたるくらいなら、こうして使えなくしてやればいい。これはもう貴様の物。お前の管理責任になる!」
「……あまりふざけないでいただきたい」
雅が怒りをにじませながらもつぶやくと、ポケットからスマホを操作する。
すぐに扉から白服が何人も出てきて、彼の関節を極めて拘束する。
「白石剛平。あなたのオーナー資格を剥奪します」
「かまわん! そしてそれ以上はできないだろう! 知っているぞ。白服はルール側だ。それは間違いないが、黒や灰色の社員たちにはスコアの減少しかできず、オーナーに対してはランクダウンか剥奪しかできない! 『それ以上のことはできない』のだ!」
「きさまぁ……連れていけ!」
怒声を出して命令する雅。
剛平を拘束している白服たちが彼を乱暴な手つきで連行していった。
「くそっ……械遊様。申し訳ございません。この埋め合わせは必ず……」
……部屋に、械遊と雅しかいない。
そんな中で、ビリビリに破けたコアカードたちのところに、械遊は歩く。
「それはいいさ。ただ……ここからのことは黙っててくれ」
次の瞬間、械遊の赤いメッシュが赤く燃えるように輝く。
「なっ……」
雅が驚いていると、炎から一枚の羽根が出現。コアカードのところに落下し……静かに、優しく燃え上がる。
……数秒後、完全に修復されたコアカードたちが械遊の傍に移動し、そのすべてを掴んだ。
「械遊様。今のは……」
「俺の力。としか言えないな。まあ、大したことはできないよ」
4枚のコアカードを雅に見せる。
イラストには、総武高校の制服姿で、十字架に鎖で拘束されている。
陽乃は19歳の大学生のはずだが、まあ、まだ着れる。大丈夫。多分。
なお……全員の髪に、本来なら存在しない『赤いメッシュ』が入っている。
「……で、提供されたコアカードは貰えるんだよな」
「え、ええ……その通りです。こちらを」
トレイに置かれたコアカード。
それを手に取って、械遊は頷いた。
「……じゃあ、俺はこれで失礼するよ」
そういって、械遊はその場を後にした。