精豪ぐだおくんがマシュを守るために自分を邪魔する他のマスターたちからサーヴァントを寝取って更に最強になっていくお話 作:LLLSTAR
「お疲れ様です、先輩! お飲み物をどうぞ!」
「マシュ! わざわざありがとう、嬉しいよ!」
シミュレーションルームで日課の戦闘訓練を終えた立香は、外で待っていたマシュに声をかけられ、顔を綻ばせた。
笑顔で自分に飲み物を差し出す相棒に感謝を伝えた彼は、そのまま二人きりで話をし始める。
「訓練、見学させていただきました。その、すごかったです! アルトリアさんとクー・フーリンさんに的確な指示を出してましたし、初めてのレイシフトの時よりも大きく成長なさってることがわかりました」
「あはは、褒めてくれてありがとう。人類と世界を救うための戦いに挑むんだし、いつまでも新米マスターのままじゃいられないしね。俺だって、成長するよ」
「……こんなことを言ってはいけないのでしょうが、少し寂しいです。先輩は目覚ましい勢いで成長しているというのに、私はまだまだで……なんだか少し、置いていかれてるような気がしてしまうんです」
立香のマスターとしての成長を褒め称えつつ、寂しそうに本心を吐露するマシュ。
命を預け合う相棒として共に戦った冬木での一件から、立香は大きく成長した。
できることならば、マシュも彼の隣で一緒に戦い、共に歩んでいきたかったのだが……強引なマスター権限の剥奪という形で契約が解除されてしまったことで、それも叶わなくなってしまった。
アルトリアという強力な英霊と契約した立香を見ていると、彼にはもう未熟な英雄もどきである自分など必要ないのではないかと、そう不安をこぼすマシュに対して、立香が言う。
「置いてなんか行かないよ。俺にとってマシュは、何よりも大切な相棒だ。強くなろうと頑張っているのも、誰の目から見ても俺がマシュに相応しいマスターだって思ってもらえるようにするためだし……俺にはマシュが必要なんだよ」
「先輩……!!」
ドキッ、と立香の真剣な言葉にマシュの心臓が高鳴る。
明確に、はっきりと、厳しい訓練を重ねているのは自分のためであると、大切な存在であると、自分が必要であると言い放った立香の言葉に、マシュは声を赤らめて慌てた反応を見せた。
「あ、あの、そ、そう仰っていただけて、とても嬉しいです! わ、私も、先輩に相応しいサーヴァントになれるよう、一生懸命努力しましゅ! あっ……!!」
慌て過ぎたせいで噛んでしまったマシュが、更に顔を真っ赤にする。
クスクスとそんな彼女を笑いながらも立香がフォローする中、カルデアのスタッフがマシュに声をかけてきた。
「マシュ~、シミュレーターの準備終わったよ~! 訓練するから、入っておいで~!」
「はい! ……そろそろ行きますね。先輩とお話できて、嬉しかったです」
「俺もだよ。訓練、頑張ってね」
「はいっ! あ、そうだ。最近、体調不良を訴えるマスターが多くなっているとドクターが仰っていました。先輩も体調には気を付けてくださいね?」
そう言って、ぺこりと頭を下げたマシュがシミュレーションルームへと入っていく。
サーヴァントに変身し、召喚したエネミーと戦いを繰り広げ始めた彼女の姿を見守りながら、久しぶりにマシュと会話ができたことを喜んでいた立香であったが……その爽やかな気持ちをぶち壊すように、唐突に姿を現したワイが声をかけてきた。
「どうも、藤丸さん。楽しそうにあのデミ・サーヴァントとお話してましたね? 何を話してたんですか?」
「ああ……ワイくん、こんにちは。何か用かな?」
不躾に声をかけてきたワイへと、柔和に対応する立香。
子供らしい我がままさと、魔術師らしい倫理観の無さを併せ持つこの少年のことをあまり好いてはいない立香であったが、ぶっきらぼうに接して敵を増やす必要もないとばかりに、当たり障りのない態度で接する。
そんな立香に対して、ワイはどこか悪感情を滲ませた笑みを見せながらこんなことを言ってきた。
「ええ、今日は立香さんをちょっとしたゲームに誘おうと思って声をかけたんですよ」
「ゲーム? いったいどんなゲームなのかな?」
「すご~く簡単なゲームですよ。それに、いい訓練にもなるって他のマスターたちにも評判なんです。みんなこぞってこのゲームをプレイしてるんですよ」
絶対にろくでもない内容だと、立香は確信した。
楽しそうに語るワイは意味深な笑みを浮かべているし、彼はこのゲームを通じて自分を陥れるつもりなのだろうと立香が考える中、ワイがゲームの内容を説明し始める。
「本当に簡単ですよ。二人のマスターがそれぞれ所有しているサーヴァントを戦わせる……それだけです」
「へえ、なるほど。いい訓練になりそうだね」
「でしょう? でも、面白いのはここからなんですよ。こうして勝負して、負けちゃったマスターには罰ゲームがあるんです。その内容は――」
ニタァ、と邪悪な笑みを浮かべたワイが立香の目を見つめる。
とびきりのサプライズをするかのように間を置いた彼は、最悪の罰ゲームを立香へと告げた。
「――自分のサーヴァントを1騎、勝利したマスターに貸し出すこと。まあ、わかりやすく言っちゃえば……負けたマスターは勝ったマスターに女サーヴァントを貸し出して、肉便器にされちゃうってことですね」
「………」
やっぱりか、と内心でうんざりしつつもそれを表に出さずに立香が思う。
同時に、こんな話を自分に持ち掛けてきたワイの狙いがアルトリアであることを理解した彼は、僅かに視線を逸らして息を吐いた。
大方、魔術師としての才能も何の後ろ盾もない上にどの派閥にも所属していない立香相手ならば、簡単にサーヴァントを奪い取れると思ったのだろう。
流石に自分がムノーからアルトリアを寝取ったことは知らないだろうが……ワイは立香と同じようなことをしようと、この話を持ち掛けたわけだ。
「肉便器とか、そういうのは感心しないな。ワイくんはすごい魔術師なんだろうけど、まだ子供でしょ?」
「僕を舐めないでもらえますか? 立香さんより年下ですけど、立香さんよりもずっと経験豊富ですよ? 今まで何人もの女たちを便器や奴隷にして、コレクションしてきましたし……他のマスターたちのサーヴァントの中にも、僕のおちんちんにメロメロになっちゃった人がいたりするんですよ?」
子供らしい自慢だなと思いつつ、それを聞き流す立香。
くだらない勝負の申し出を受けるつもりなんてない彼に対して、ワイは楽しそうな口調で言う。
「ねえ、やりましょうよ~! 僕、ランサーのアルトリアみたいな綺麗なお姉さん、大好きなんです。ああいう澄ました顔の女をぶち犯して、おちんちんのことしか考えられないような便女に堕とすのって最高に楽しいんですよ! うっかりやり過ぎて壊しちゃったり、僕のコレクション入りしちゃうかもしれませんけど……勝負の結果なんですから、仕方ないですよね? ねっ?」
「……悪いけどやめておくよ。俺は、そんなことしたくない」
「あはっ! 立香さん、僕に負けるのが怖いんだ? 自信がないから、戦いたくないんでしょう?」
「それ以前の問題だよ。アルトリアは大切な仲間であって、道具じゃない。そんな賭けの対象にするような存在じゃあないんだ」
「ふ~ん……そうですか。なら、仕方がないなぁ」
毅然とした態度でワイからの勝負の申し出を断った立香が、この場を立ち去ろうとする。
だがしかし……ワイの邪悪さは、彼の想像を遥かに超えた、あまりにも危険なものであった。
「あれれ~? 魔術師の直感が騒いでるぞ~! このままだと……あのデミ・サーヴァントがひどい目に遭う気がするな~!」
「……!?」
わざとらしいワイの叫びを聞いた立香がぴたりと足を止める。
振り返り、自分の顔を見つめる彼に対して、一層邪悪さを深めた笑みを見せたワイは、続けてこう言った。
「立香さんも御存じでしょう? あの爆発事故を生き延びたマスターたちは、全員が全員このカルデアで一番のマスターになろうとしてる……手柄を、利権を、栄誉を求めて、僕たちは仲間を作った。僕たちはマスター同士で同盟を結んだだけじゃなく……職員たちも抱き込んであるんですよ」
「っっ……!!」
そう言いながら視線をシミュレーションルーム内に向けたワイが、先ほどマシュを呼びに来た職員を見やる。
戦闘訓練を行うマシュの代わりにシミュレーターを操作する彼もまたその視線に応えるようにこちらに目を向ける様を見た立香は、そこで全てを理解した。
「立香さんが僕の誘いに乗ってくれなかったら……理由はわからないけど、不幸な事故が起きちゃう気がするな~! シミュレーターが誤作動を起こして、強いエネミーが召喚されて……あのデミ・サーヴァントを襲う、そんな事故が起きる気しかしませんね~!」
「お前……っ!」
ワイの言葉を聞いた立香が目を見開きながら彼を見つめる。
マシュを人質に取り、彼女の安全を取引材料として脅しにきたワイは、邪悪な笑みを更に強めると立香へと言った。
「不審な真似はしないでくださいね? そんなことしたら、すぐにでもあのデミ・サーヴァントがボロ雑巾になっちゃいますよ?」
「ぐっ……!」
「あはは、いい顔になりましたね……! 安心してください、命を落としかねないエネミーと対峙なんかさせませんから。実験台と研究サンプル、あと……孕み奴隷として必要な機能は残しておかないと、もったいないですからね~! あははははははは……!!」
立香が選択を誤れば、マシュは死ぬよりもひどい目に遭うと脅すワイ。
怒りで握り締めた拳を震わせる立香に対して、彼は煽るような口調で問いかけてきた。
「ほら、どうするんです? 大事な大事なサーヴァントを守るために、あのデミ・サーヴァントを見殺しにしますか? それとも、デミ・サーヴァントのために僕にアルトリア・ペンドラゴンを差し出します? 好きな方を選んでいいですよ、藤丸さん!」
……随分と小賢しい子供だ。マシュを人質に取りながらも、直接アルトリアを渡すように言わないところに賢しさが出ている。
何の予兆もなく、急に立香がアルトリアを彼に差し出せば……ダヴィンチたちがそれを不審に思うだろう。
そういった事態を避けるために、ワイは立香が自らの意志でゲームに乗ったという形を作らせた。
これならば一応は理由ができるし、立香が愚かにも無謀な賭けに乗ってしまったという体を装えると……そう考えているのだろう。
頭の回るワイのことだ、きっと戦いのルールも自分に有利なものにするに違いない。
立香からアルトリアを奪い、彼女を抱き潰すためにあの手この手を尽くすつもりだろう。
それをわかっていながらも……立香には、ワイの要求を拒むという選択肢はなかった。
マシュを守るため、彼は悪辣な子供が持ち掛けてきた勝負に乗る決断を下す。
「……わかった。君との勝負に乗るよ」
「あはっ! いいお返事ですね~! それじゃあ、対戦カード成立ってことで……詳しいルールを決めていきましょうか」
想定通りの展開になったことを喜ぶワイが、声を弾ませながら更なる優位を握るための交渉を始める。
彼がマシュの安全を握っている以上、立香には彼の要求を拒むことはできない。どんどんとワイに有利な勝負の条件が決められていく。
「サーヴァントの数は戦闘で使役できる最大数の6騎まででいいですよね? 概念礼装は自由に装備していい。あと、サポートサーヴァントを借りるのは禁止で! え~と、あとは……」
「……令呪は使わないようにしよう。使ったことが証明されたら負けってことで」
「ああ、そうですね! こんなことで令呪を使ったら、上の人たちに怒られちゃいますもんね! それで、一番大事な部分ですけど……僕が勝ったら、あなたのサーヴァントであるアルトリア・ペンドラゴンを一晩貸してもらいます。その時は何をされても文句を言わない……それでいいですよね?」
「……ああ」
立香が自分の出した条件を受け入れた瞬間、ワイは口を歪めて最高に邪悪な笑みを浮かべた。
ゲラゲラと声を出した笑った後、彼は立香へと再確認するように言う。
「決まりですね。この内容は契約の魔術で拘束するんで、すっとぼけても無駄ですからね? 僕が勝ったら、あなたのアルトリア・ペンドラゴンは僕に犯し潰されて、僕のコレクションになる! ああ、最高に楽しみですよ! 色欲に狂った豚になった騎士王を見るのも、そんな彼女と対面して涙を流すあなたの姿を見るのもね!」
既にワイの頭の中では立香に勝利した後の展開が繰り広げられているのだろう。
あの騎士王を好きに調教できるという喜びに打ち震える彼であったが……そんなワイに向け、立香が静かに尋ねる。
「……ねえ、質問なんだけどさ。俺が勝負に勝ったら、ワイくんはどうするんだい?」
「はぁ? ……ふ、ははっ! 面白いことを言いますねぇ! まさか本当に僕に勝てるとでも思ってるんですか?」
あまりにも身の程知らずな立香の発言に、ぷぷぷと煽るように笑うワイ。
プライドを守るためのちんけな挑発なのだろうなと思いながら、彼はその質問にこう答える。
「もちろん、僕も自分のサーヴァントを賭けますよ。立香さんが勝ったら、アルトリア・ペンドラゴンと同等以上の女性サーヴァントをあなたに一晩貸し与えます。まあ、あなたが手を出すとは思えませんが……玩具にでも、便器にでも、奴隷にでも、好きなようにしてやってください。あ、そうそう! このことを他の誰かに相談することも禁止します。いいですよね?」
「ああ、いいよ。誰にも相談しないさ」
これで準備は整った。魔術の効果で立香は誰にもこのことを相談できないし、勝負から逃げることもできない。
彼は明日、敗北が見え切っている勝負の舞台に進んで上がり……負ける。そして、大事なサーヴァントを肉便器として自分に差し出すのだ。
負けるはずがない。所持しているサーヴァントや概念礼装の種類はこちらが上だし、立香は2騎しかサーヴァントを戦いに出せないが、ワイは6騎の枠をフルに使えるのだから、負けようがない。
決戦は明日、夜には立香から奪い取ったアルトリアが自分の雌奴隷コレクションの一員として加わるだろう。
その未来を想像したワイは、大口を開けて最高に楽し気に笑い始める。
「あはははは! あははははははっ! 楽しみですよ! 本当に楽しみだ! あなたが無様に敗北し、騎士王を僕に差し出す瞬間が待ちきれません! ああ、早く明日にならないかな? それで、僕は……あはははははははははっ!」
そんなふうに調子に乗って笑うワイのことを、立香はただ黙って見つめていた。
その瞳に、煮え滾る怒りと決意を浮かばせる彼は、絶対にこの少年を許すわけにはいかないという想いを抱き、そして――
―――――――――――――――
「は? はぁ? は、あ? はぁ……!?」
……翌日、シミュレーションルームにて、ワイは大口を開けてポカンとした表情を浮かべ、困惑していた。
目の前に広がるのは信じ難い光景、自分が用意した6騎のサーヴァントが、地べたに倒れ伏す様だ。
ぴくりとも動かない彼らは、完全に戦闘続行が不可能な状態になっている。
状況を理解できずにいるワイがただただ間抜けな声を漏らす中、2騎のサーヴァントを引き連れた立香が淡々と彼へと言う。
「勝負ありだ。この戦いは、俺の勝ちだね」
「う、うそだ。こんなの……こんなのありえない! この条件で、僕が負けるはずがない!!」
勝利宣言をする立香へと、昨日の余裕を完全に打ち砕かれたワイが大声で喚く。
自分の負けを認められずにいる彼は、この戦いを最初から振り返り、突破口を探し始める。
(こいつらが来た時から何かおかしかったんだ。そう、違和感があった!)
そう思いながら、その違和感を探るワイ。
最初に思い至ったのは、シミュレーションルームに立香たちが姿を現した時……アルトリアとクー・フーリンの霊基が、自分の想像以上に育っていることを知った時だ。
ワイが用意したサーヴァントたちは、全員がレベル20~30程度まで育成された状態だった。
支給された種火を分割し、再臨ができない状況ながらもバランスよくサーヴァントたちを育てたワイの判断は、1騎のサーヴァントに素材を集中させたムノーとは真逆の優れたものだったと思う。
扱いやすい戦闘用のサーヴァントたちを数多く育てることで、マスター適正の低さを補おうと考えたワイは、ある意味では自分の身の程を知っていたのだろう。
彼の不幸は立香の力量とその裏に控えるルーンの魔術師、クー・フーリンを侮ったことにあった。
専用コマンドコードをアルトリアに刻印することで裏霊基を作り上げ、
信じ難いことに、英霊である彼女を冗談抜きで気絶するまで愛し続けられる立香の精豪っぷりのお陰で彼女は期待以上の経験値を稼ぎ、あっという間にレベル上限に達することができたのである。
手に入れた種火は全てクー・フーリンに注ぐことで、効率的に2騎のサーヴァントをレベル上限まで育てることに成功した立香は、次なるステップに進むために再臨素材の確保に移った。
幸いなことに、一回目の再臨に必要な素材は各クラスのピースのみ。それも、それぞれ片手で数えられるほどの個数しか必要としない。
その程度ならばダヴィンチに頼めば用意してもらえる。
かくして、他のマスターたちに悟られぬように手勢を強化した立香は、ワイとの決戦前夜にサーヴァントたちの再臨を行い、万全の状態で戦いに臨んだのである。
だが、それだけならばまだワイにも勝機はあった。
向こうのサーヴァントたちが想像以上に育っていたことには驚いたが、まだこちらには数の有利がある。
戦いが長引けば魔力も溜まって、宝具を撃てるようになるだろう。そうなった時、サーヴァントの数が多いこちらの方が攻撃力は高くなるはずだ。
だから大丈夫、絶対にどうにかなる……そう考えて戦いに臨んだワイであったが、その期待はあっさり裏切られた。
勝負が始まってすぐ、アルトリアが自身の宝具を解放したのである。
ワイが指示を出す前に、彼のサーヴァントたちが何か行動を起こす前に、何の前触れもなく飛び上がった騎士王が聖槍を構えて突貫してきた。
全ての守りを穿ち、回避すらも許さない攻撃範囲を誇る聖槍の一撃を受けたサーヴァントたちは成す術なく倒れ伏し……こうして、ワイの手勢は全滅した、ということである。
「お、おかしい! あんなに早く魔力が溜まるはずがない! 令呪を使ったな!?」
「俺は何もしてないよ。アルトリアの調子が良かっただけさ」
「嘘をつけ! お前がズルをしたんだ! 禁止されている令呪を使った! だから反則負けだ!!」
「だから令呪なんて使ってないって。ほら、見てごらんよ」
明らかに不自然な魔力の溜まり方をしたアルトリアを見ていると、どう考えても立香が令呪を使って魔力を充填させたとしか思えない。
それは反則だと訴えるワイであったが、立香は冷静に自分の手の甲に浮かぶ令呪を見せ、その画数を彼に数えさせた。
「どう? ちゃんと三画あるでしょ? もしも君の言う通りなら、ここには二画しか令呪が残ってないはずだけど?」
「ぺ、ペンか何かで書いたものだ! それは偽物だ!!」
「本物だって……ほら、この通り」
なおも言いがかりをつけるワイに対して、立香が自分の手の甲をごしごしと擦ってから令呪を見せる。
そこに浮かぶ令呪が一切歪んでいないことを確認させ、それが落書きか何かではないことを確かめさせた立香は、何だったら今から三つの命令権を行使してみせようかと視線で彼へと問いかけた。
「う、うそだ、こんなこと、あるわけが……」
立香の自信満々な態度に、顔を青ざめさせたワイががっくりと項垂れる。
あり得ない奇跡を起こしたように見える立香であったが……しっかりとこの勝負に際して、イカサマを仕込んでいた。
立香はワイの言う通り、確かに令呪を使用してアルトリアの魔力を急速充填した。
ただし、使用した令呪は彼の物ではない。以前にムノーから奪い、使わずにいた三画の令呪だ。
本当に単純なトリックだが、令呪は三画までしか保有できないという魔術師たちの思い込みを利用したこのイカサマは効果抜群で、ワイはこのからくりに気付かずにいる。
項垂れる彼を見つめ、敗北を認めるよう視線で促す立香に対して、ワイは駄々をこねながらそれを拒む。
「僕は負けてない! お前は絶対に令呪を使った! ルールを破ったんだからお前の反則負けだ! アルトリアを寄越せ寄越せ寄越せ寄越せ!!」
「……何か、勘違いしてるみたいだね。この戦いのルールに、令呪を使ったら負けだなんてものは存在してないよ?」
「ある! そのルールを出したのはお前自身……あっ!?」
立香が令呪を使ったと、決闘のルールに反したと、それを理由に負けを認めずにいたワイであったが……あることを思い出し、目を大きく見開く。
そんな彼に対して、立香は静かに、そして淡々と、自分が出した正しい決闘のルールを言ってのけた。
「令呪を使ったら負けだなんてルールはない。俺は、
「あぅ、あ、ぁぁ……!?」
――この言い分を聞けば、間違いなく立香がイカサマをしていることは確信できる。
しかし、それを証明できない以上、彼を反則負けにはできない……ワイが何も考えずに頷いてしまったルールが、立香を守っているのだ。
そして、それ以外のルールも当然ながら執行される。
状況を見れば、勝者は立香だ。彼が勝利した場合……ワイは、アルトリアと同等かそれ以上の女英霊を彼に一晩貸し出さなければならない。
自信満々に策を弄し、悪い子供として相手を嵌めた気になっていたワイであったが……蓋を開ければ、それ以上に悪い立香に逆に罠にかけられていた。
自身が仕組んだ契約に則り、立香にサーヴァントを差し出さなければならなくなったワイは、暫しの間、予想外の敗北を喫したことに対する屈辱に呆然としていたが……不意に声を上げて笑い始める。
「あは、あはははは……あ~っはっはっはっはっは!!」
その姿だけ見れば、彼が壊れてしまったようにしか思えなかった。
絶対に勝てると臨んだ勝負に敗北し、プライドが崩壊したことで精神がおかしくなってしまったようにしか見えない言動を見せるワイは、笑いながら立香の方を向くと、口を開く。
「どうやら僕の負けのようだ。ええ、認めますよ。僕も男、そして名門魔術師であるショウ家の人間です。約束は守りますよ。すぐにあなたの部屋に……アルトリア・ペンドラゴンにも劣らない女英霊を向かわせます」
堂々と宣言してからシミュレーションルームを出て、自室に向かうワイ。
その途中で悔し気に地団太を踏んだ彼であったが、マイルームの前に立つ頃にはどうにか荒れに荒れる感情を静め、平静を保った状態で中に入ることができた。
「ナイチンゲール……出番だ。君の治療を待つ患者がいる」
「またですか。このカルデアという組織は随分と病人が出ますね……」
部屋に入るや否や、中で待機していたナイチンゲールへとワイがそんなことを言う。
一糸纏わぬ裸体を晒し、その状態をまるで変だと思っていない様子の彼女が呆れ気味に感想を呟く中、ワイはナイチンゲールの機嫌を取るように言う。
「そう言わないでよ。病の根絶には、君の力が必要なんだ。今日も頑張って
「無論です。全ての命を救うため、私は全力を尽くしましょう。休息など不要、すぐに患者の下に向かわせていただきます」
「ああ、ちょっと待って。少しやることがあるから」
「……?」
裸のまま、部屋を出ていこうとしたナイチンゲールを止めたワイが、自身の令呪を輝かせる。
きょとんとした表情を浮かべる彼女に対して、ワイはもう何度目かわからないくらいに下した命令を令呪を用いて告げた。
「令呪を以て命ずる、ナイチンゲール……不感症になれ。何をされても快感を覚えず、興奮もしない状態になれ。重ねて令呪を以て命ずる、今回の治療行為に全身全霊で取り組め。更に重ねて令呪を以て命ずる、この命令を忘れろ」
「………」
ワイの命令を聞いたナイチンゲールの瞳が、一瞬だけぼうっと焦点が合わなくなる。
すぐに元の状態に戻った彼女は、苛立ちを滲ませた表情でワイへと言った。
「……もう、よろしいでしょうか? 一刻も早く患者の下に向かいたいのですが」
「ああ、いいよ。呼び止めてごめんね。治療……頑張って」
裸の状態で部屋を出て、すぐに霊子化して姿を消したナイチンゲールを見送るワイの顔には、あの邪悪な笑みが浮かんでいた。
どうやら彼はまだ何か企んでいるらしい。ワイは喉を震わせて笑い声を搾り出しながら、部屋の中で独り言を呟く。
「これでいい。これで藤丸もお陀仏だ。素直にアルトリアを僕に差し出しておけば、命は助かっただろうにな」
意味深な呟きを漏らしたワイが天井を見上げてニンマリと邪悪な笑みを強める。
その強い愛を歪んだ形でぶつけたナイチンゲールを、立香を追い詰める刺客として送り込んだ彼は、明日に起きる出来事を想像して、楽し気に笑い続けるのであった。
―――――――――――――――
・ナイチンゲール 状態
バッドステータス
『不感症』……肉体に触れられても性的な快感を覚えず、興奮もしない。
ただし、反応として現れないだけで肉体は性交に慣れていく。
累積して使われた令呪の画数は十を超えており、この状態のナイチンゲールは性的な刺激に対して『無敵』状態になっている。
『常識改変』……病人の治療=セックスであると令呪の命令で認識を改変されている。
彼女が常に裸なのは、これが治療行為を迅速に行える看護師に相応しい格好だと思い込まされているから。
【狂化】スキルの影響が加わることで、ナイチンゲールは治療のために感じない体で全力のセックスを患者と行う。
また、ナイチンゲールはこれらの命令をワイから下されていることを自覚していない。
?????(秘匿状態)
ナイチンゲールの??には????が????ており、彼女が????を行った時、その相手に?を??する。
この情報は秘匿されており、上記二つのバッドステータス同様にナイチンゲール自身ですら閲覧することはできない。
彼女の警戒が0以下の数値になった時、秘匿されている情報を閲覧できるようになる。