※この作品はR-18です。

えっちで妙な力を持っていて食欲旺盛な依田芳乃さんが攻めるお話   作:ふりーじ屋/家庭内禁書

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ひょんなことから岡崎泰葉さんがほんのりオカルトえっち依田芳乃さんに焦らされたあとイカされまくるお話です。



岡崎泰葉さん編

「おーとまとん? ですか」

「はい。日本語では“状態機械”というらしいです」

 

 岡崎泰葉・16歳。子役時代から数えて10年以上の芸歴を持つ彼女は、346プロダクション事務所内の一角へ特別に設置されていた和室で、同い年の同僚アイドル・依田芳乃と2人きり、ざぶとんを並べて煎茶とおやつのお団子に舌鼓を打っていた……はずだった。

 芳乃が聞き返し、泰葉が補足した単語は、彼女らがふだん使う語彙からはだいぶかけ離れていた。

 

「日本語で言っていただいても、わたくしはよく飲み込めませぬが……ともかく、機械なら、感情はないのでしてー?」

 

 芳乃の腰まで伸ばしたストレートの後ろ髪へ、不穏な波紋が流れた。毛先がくるくるとひとりでにカールして、畳の目の上でとぐろを巻いた。

 芳乃がわざと見せつけていた。

 

(……これぐらいでは、顔色も変えませぬか。さすがの役者ぶり、でしてー?)

 

 それをちらりと、それでいて露骨に見せつけられた泰葉は、怪奇現象一歩手前のそれを視界に収めながら、平然としたふうでお茶をすすった。

 

 

※

 

 この異様な光景のきっかけは、泰葉と、彼女を担当するプロデューサーだった。

 

「聞いてくださいよ……私に、ドラマで……スチームパンクのオートマトンっていうか自動人形っていうか、そういうメインキャストのオファーが来たのに、プロデューサーさん私に相談もせず断ろうとしたんですよ?」

「す、すちーむぱんく……おーとまとん……?」

 

 泰葉は、やはり346プロダクション事務所内の一角へ特別に設置されていた和室で、同年齢の同僚アイドル・依田芳乃相手に、常ならぬくだけた口ぶりと顔つきで担当プロデューサーの愚痴をこぼしていた。

 

「そりゃあ私も……人形? 役ってのに思うところがないわけでもないですけど、でも……その、あの……相談ぐらいあったって……うぅうぅ」

「泰葉さんは、お人形がおきらいでしたか。けれど、確かご趣味が」

「あぁ……まぁ、その……そのあたりは……」

「言いにくいことであれば、聞きませぬが」

「……本題から逸れるので」

 

 芳乃は煎茶を噴き出しそうになった。

 

(ほ、本題……? それを泰葉さんがプロデューサーどのにあらかじめきちんと説明していないから、わたくしがいま駆り出されているのでは……)

 

 芳乃は、泰葉の担当プロデューサーから「泰葉が最近ご機嫌斜めなんだが、俺では理由をうまく聞き出せなくて、聞き出してくれないか」と依頼を受けて、泰葉をお茶に誘い、さりげなく理由を聞き出そうとしていた。

 お茶に誘った和室は、事務所内にオフィス用の会議向けブースを据えて、さらに畳を敷いたり、土壁や板を模したパネル建材を張ったりして改造した特注だった。芳乃が提案して事務所に作らせたもの……だが、彼女が何かの特権を持っているわけではない。

 芳乃はプロフィールの趣味欄に「悩み事解決」と記し、ラジオで人生相談を受けるほどカウンセラー向きの物腰と自他ともに認められている。それを活かして、『事務所内でも、軽いご相談に乗ることができれば、わたくし、もっと役立てるのでしてー?』と提案し、急ごしらえのカウンセリングルームとして和室を手に入れ、実際はお茶を飲みながらくつろぐスペースとして活用していた。

 ところが昨今の社会情勢から、芳乃・泰葉の所属する346プロは、リモートワークやサテライトオフィスを使うなどして、事務所の空間的な規模を縮小するよう検討しているらしかった。

 

(泰葉さんったら「私って……プロデューサーさんから、『泰葉に人形役なんて提案したら、気を悪くしないだろうか。子役時代のいやな思い出を蒸し返すことになりはしないか』って心配されたの……?」などと思って、プロデューサーどのから見くびられたようなのか、あるいは子役時代の経験を否定されたようなのかで、癪に障っているのでして……)

 

 その雰囲気を察した芳乃は、自分の手に入れたスペースを守るべく、悩み事解決にもそれなりに真剣に取り組んでいる。

 芳乃にとって、泰葉のプロデューサーからの依頼は造作もなかった。煎茶を一杯飲み干すころには、泰葉の“理由”を聞き出していた。

 

(けれど、「プロデューサーさんのそれが善意だともわかっているし、癪に障るって自分の感情も子供っぽいなぁ」と思ってしまって、プロデューサーどのへ告げられないのでしてー……おのろけ、では?)

 

 せんべいを2枚食べ終わるころには、泰葉の口ぶりも顔つきもすっかり遠慮がなくなっていた。

 

(そういう話なら、女子寮の食堂とかお風呂とか寝る前の相部屋でしてほしいのでしてー。わたくしは仕事の一環でやっているのですから、おのろけに付き合っているひまは……)

 

 ふだんの芳乃であれば、この程度の痴話でイラ立ちを抱えない。

 だが、なかなか外出できず仕事にも支障が出ている社会情勢やら、“すちーむぱんく”だの“おーとまとん”だの耳慣れない話をされるやらで、ふだんほどの余裕がなかった。

 

「そもそも……おーとまとん? の演技とは、どうやるのでしてー?」

「機械人形で、しかも近未来じゃなくスチームパンクだから……そうですね、たぶんレトロフューチャー的な感じで、本当に機械っぽく無機質に、それでいて廃棄物って設定らしいから儚げに……」

「れ、れとろ、ふ、ゅ……難しそうなのでして……」

 

 泰葉がその饒舌さを担当プロデューサー相手に発揮すれば、あとは時間いっぱい茶をすするだけでいいのに、と芳乃は心中でぼやいた。

 

「だいたい、血の通った人間が、血の通わぬ人形の真似など、無理なのでしてー」

「……へぇ。無理?」

 

 泰葉の声音が低くなった。うっかり泰葉の担当プロデューサーと似たようなかたちで神経を逆撫でした……と、芳乃は気づいた。

 

(あ……もう良いのでしてー。わたくし相手に口に出してしまえば、ご担当プロデューサー相手に黙っていてもしょうがない、と考えてくれるでしょー)

 

 気づいて、すぐに開き直った。

 

「無理ではありませんか? もしかして……『機械になってごらんなさい』って言われて、石を投げつけられて『機械が顔をしかめますか! 悲鳴をあげますか!』って怒られたり、体に骨折の添え木みたいな竹竿を縛られて固定されたりするのでしてー?」

「芳乃さん、変な漫画でも読みましたね……」

「泰葉さんのプロデューサーどのが蹴ったのは、そう思ったからなのでは?」

 

 芳乃はわざと察しの悪いふりをして、泰葉を怒らせにかかった。カウンセリングのはずが、傾聴もどこへやら。

 

「芳乃さんまでそんな……わかりましたよ。そうまで言われたら、女優・岡崎泰葉、あとには引きませんっ。オートマトンのお手本を見せて差し上げます!」

 

 そう泰葉が言い終わるか終わらないかのうちに、芳乃が腰まで伸ばしたストレートの後ろ髪へ、不穏な波紋が流れた。毛先がくるくるとカールして、畳の目の上でとぐろを巻いた。

 

「泰葉さんが“おーとまとん”の演技を見せてくださるなら、わたくしは代わりにお菊人形の演技を見せて差し上げましょー」

 

 芳乃の姿から、怪談にも負けない不穏な“氣”が渦巻いた。

 

 

※

 

 期せずして、機械人形のふりをした泰葉と、日本人形のふりをした芳乃が対峙する。

 

「泰葉さん泰葉さん……と、そういえば、おーとまとんにお名前はあるのでしょうか?」

「誰かの声……認識しました……私を……呼んでいた……?」

 

 芳乃は体内で“氣”を操り、髪の毛などを手足のように動かすことができた。それを佐久間まゆに伝授しようとして一騒動起こしたこともあった。

 

(……泰葉さん、目の色が変わりましたね……演技、ですか。自分の体や心を、ふつうならありえない姿に似せる技。それなら、“氣”を操るのとかなり似ているかも、でして)

 

「お名前がないのでしたら、僭越ながらわたくしが命名いたします……“ヤスハ”にしましょう」

「ヤスハ……記憶、しました。私の名前は、ヤスハ」

「ご加減はよろしいのでしてー?」

「あなたのお名前は?」

「わたくし、依田は芳乃でしてー」

「よりたはよしの……初回起動フローに従い、彼女を主人と定義。以後、マスター・ヨリタハヨシノと呼称します」

「その融通のなさ、確かに機械っぽいのでしてー……訂正です、わたくしのことは、“ヨシノ”とお呼びください。“ますたー”もいりませぬ」

「了解、ヨシノ、さん」

 

 機械人形の演技をする少女に向かって、怪異人形の演技をする少女が、ぞろぞろと髪を伸ばしていく。

 

「……あなたは、廃棄されてしまっていた、と聞きましたが」

「はい。いまの私は、ヨシノさんに仕えるヤスハ、です」

「では……お体におかげんの悪いところがないか、確かめてあげましょー」

 

 芳乃の格好は、肩まで広がる襟、スカーフ、プリーツスカートだけが濃紺のセーラー服姿だった。目一杯伸ばせば膝下まで届いてしまうストレートヘアは、つむじとうなじの近くの2箇所に赤いリボンで結ばれていて、リボンの先からぞろりぞろりとゆらめいている。格好のせいで、和室で正座していてもいまいち日本人形らしくない。

 いっぽう泰葉は白地に青のワンポイントが入ったスクールブラウスをまとっていた。泰葉はスカートも青で、プリーツが芳乃のそれより少し細かく、オーバーチェックの柄つき。こちらもスチームパンク世界のオートマトンからはかけ離れていた。

 

「ん、っ……!?」

 

 スカートの裾に半分隠れた泰葉の膝へ、芳乃の髪がツタのように絡みつく。

 

「おや、ここがいけないのでして」

「……いいえ。異常ありません、ヨシノさん」

「もしかして、くすぐったいのでして? でもわたくしは日本人形です。人間のようなくすぐったさなど、あいにく存じませぬー」

 

 芳乃が見る限り、泰葉は表情を変えなかった――しかし、体内の“氣”が一瞬だけ尖った。

 

(……日本人形が知らぬ“くすぐったさ”を、機械人形が感じるわけがない……そうでしてー?)

 

 機械人形の演技ができるなら“くすぐったさ”を感じないふりもできるだろう……泰葉ならすでに察してあまりあるであろう言外のプレッシャーを、芳乃は瞳と毛先からめいっぱいぶつけてやる。

 それでも泰葉は動じたように見えない。息を潜めているのか、首筋をじっと見ていないと呼吸をしているかどうかもわからない。

 芳乃は泰葉をもっと見る。くちびるはお茶が乾いてかさつき気味。顔には汗の一滴もない。眉もまぶたも平らだった。瞳の光を覗き込んでも、どこか蛍光灯じみた涼し気な無機質さに見えてくる。

 

「おきれいですよ、ヤスハ。いったい、どこの誰が捨ててしまったのでしょう」

 

 泰葉の耳元へ顔を寄せる。芳乃と泰葉は身長も数センチしか変わらず、芳乃がざぶとんから片膝をはみ出させるだけで、泰葉にささやける距離となる。

 

「……ヨシノさん以外の所有者の情報は、すべて抹消が完了しております……ひっ……!?」

「おやおや。やはりどこかご加減が……?」

 

 芳乃と泰葉の顔が近づく。芳乃の後ろ髪ばかりか、横髪や前髪までが、泰葉の肌を射程に収める。

 

「っ……ん、っ……ヨシノ、さん」

「わたくし、かなり集中しないとならぬので……なるべく静かにしていただけると、ありがたいのでしてー」

 

 うなじ。鎖骨。芳乃の毛先が羽箒よりもふわふわと泰葉を撫でる。

 泰葉はデコルテの薄い肌に骨と肉が浮き沈みさせる。芳乃が透かしてみる“氣”の流れがざわついている。しかし呼吸と声は乱さない。肩や膝の関節はおとなしくさせている。

 

(見られなければ、と高をくくっておいでですかー。わたくしの髪の毛で触れられ放題、ですのに)

 

 芳乃はなんとなく泰葉に張り合いたくなった。自分も人形になったつもりで端座に戻り、髪の毛だけで泰葉の体にちょっかいを出す。

 

「ヤスハ。そなたの体は、わたくしと違って、温かいのですね」

「……それは――んっ、っ……――それは、電気、いや、蒸気機関が……っ……」

 

 泰葉のスクールブラウスは、しっかり第一ボタンまで留められていた。そのボタンとネクタイを乱さないまま、芳乃の髪の毛がするするとブラウスの内側へ入り込む。人間の手ではできない真似。

 

「蒸気機関……とは、なんでしてー? わたくし、名前はともかく、実物を見たことがないのでしてー」

「え、えぇと、その……っ! じょ、蒸気を……ボイラーで水を熱して、膨張した蒸気で……ひ、っ……!」

「もっと、ヤスハをよく見せていただけますか」

 

 泰葉の服や下着と肌のあいだで、芳乃の頭髪がうごめく。脇腹。肋骨。腋窩。肩甲骨。泰葉の“氣”が動揺する……ものの、彼女はその動揺をなんとか服の下に押さえつけている。溢れ出る声も細かった。

 

(……むー。泰葉さん。意外とがんばりますね……意地っ張りとも言えますが。それなら、これはどうでしてー)

 

 へその周り、少し下――臍下丹田――さらに、脊柱の下でお尻と骨盤が膨らみはじめる――仙骨――もっとも“氣”の流れで重要なあたりまで、頭髪を伸ばす。泰葉の前後から髪の毛をぞろぞろさせてやる。

 

「ふっ、っ、よ、ヨシノ、さんっ」

 

 細くて軽い頭髪が、泰葉の敏感な肌をさらさらと撫でる。力加減は優しげだが、ひどくくすぐったく、まったく慣れが来てくれない。下手な痛みより辛いかもしれない。

 それでも泰葉は、いまだオートマトンの演技を続けていた。

 

(これぐらいなら耐えられると? 役者修行10年は伊達ではないのでしてー……どうしましょー。もっと責めて音を上げさせても、お悩み解決にならないのでは、さっぱりでして)

 

 そもそも泰葉の担当プロデューサーが……泰葉の迫真の演技をプロデューサーに見せてやったら……芳乃に妙案らしきものがひらめいた。

 

「んっ!? ふ……ぅ、っ……」

「もうしばらく、おーとまとんの演技を続けられますか?」

「……芳乃さんがご納得するまで、どうぞ」

「わたくしよりも、もっと納得させるべき人がいるのでしてー」

 

 芳乃の頭髪の一房が、細く長く部屋の片隅まで伸ばされ、銀色の薄く四角い板と、イヤーマフのような大型のヘッドセットを畳に引きずってくる。

 

「見せて差し上げましょー。泰葉さんのプロデューサーどの、へ……」

 

 

 

 

 芳乃に引きずられてきた銀色の板は、泰葉も知る有名メーカーのタブレット端末だった。電源の入っていないモニタが黒い鏡のようになって、モノクロームな芳乃と泰葉を映していた。

 

「……芳乃さん、リモートでお悩み相談もされるのですか」

「意外でしょうか?」

「い、いぇ」

 

 表情は否定していたが、“氣”は肯定していた。

 

(……ほー。わたくし、そんなに機械に弱そうに見えるのでして。否定はしませんが)

 

「わたくしもぜんぜん詳しくなかったのですが……この場所の、おかげさまで」

「場所が……?」

「人目は避けられるうえ、音も漏れない……りもーと会議とやらに、とても向いているらしく、みなさまが使いたがるのです。わたくしも、見様見真似でがんばったのでしてー」

 

 芳乃は頭髪をしゅるしゅるさせてタブレットの電源を入れた。さらに頭髪でタップしようとしたが、何度か失敗したあと、黙って手元にタブレットを引き寄せた。

 

「これから、これで泰葉さんのプロデューサーどのを呼び出します。りもーと会議、します」

「えっ、そんな急な」

「あらかじめあのかたには、このぐらいの時間に……わたくしの報告のために時間をちょうだいする、と申しておりますゆえ、ご対応いただけるかと」

「……あぁ、やっぱりプロデューサーさんが、芳乃さんに何か……ねぇ」

 

 芳乃は泰葉の訳知り顔でいら立って、つい毛先が……となりかけ、ゆっくり深く息を吸って吐いた。

 

「……泰葉さんは、さっきまでわたくしにしていただいたように、プロデューサーどのを説得すればよろしいでしょー。おーとまとんの演技をされるかどうかは、おまかせしますが……わたくし、それを横でお邪魔いたしますー」

「邪魔、ですか……ひゅっ、あっ!? そんなとこ、いきなり……って、芳乃さん、文字通りの邪魔をするんですか……」

「わたくしの邪魔を暖簾に腕押し、と受け流せたら、そなたのプロデューサーどのも認めるしかないのでしてー」

「……ええ、そうですね。わかりましたよ」

「へっどせっと、よくお似合いでしてー」

「はいはい、オートマトンらしい格好になったかもしれませんね」

 

 もうどうにでもなれ、という表情と声音が浮かんでいたが、それらは芳乃がビデオ会議アプリを立ち上げるわずかなあいだに、泰葉の肌の下へ引っ込められた。

 

(……ここまでの口ぶりでは、泰葉さんはプロデューサーどのを憎からず思っているようですが……お悩み解決のためですから、肌と“氣”にも聞いてみましょー)

 

 芳乃はプロデューサーを呼びつけるメッセージに、こっそり『泰葉さんのようすがおかしいと思っても、絶対にそれを指摘しないように』と書き添えた。書き終えて、それだけではあんまりだと思ったので、泰葉が彼にへそを曲げた理由もうっすらほのめかしてやった。

 

 

 

※

 

「で、ですから……私が、プロデューサーさんに言いたいのは……んっ!? くっ……人形の役がいけないってわけじゃ……んんんっ! ひ、ぁ……な、なんでも、ないですっ」

 

 芳乃はお茶とおせんべいをちゃぶ台の端へ寄せて、泰葉の正面にタブレットをスタンドで立ててやると、自分は彼女のすぐ横に座り直した。ウェブカメラごしに見るプロデューサーからは、芳乃の顔がぎりぎり見きれるかどうか、という位置取り。

 芳乃の髪の毛が泰葉を弄んでいても、それが肘より下の後ろ髪であれば、彼からは目視できない。芳乃の“邪魔”にとっては申し分ない。

 

「……ここ、でしてー」

「ょ、よし……んんっ!?」

「静かに。プロデューサーどのに、怪しまれてしまいますゆえ」

 

 泰葉が装着したヘッドセットのイヤーマフの下に、芳乃のささやきが入り込む。マイク越しにプロデューサーへ伝わらないよう、ぎりぎりまで声を落として滑り込ませる。

 

「お胸、ですか。先が……それとも、まわりが……」

「や、ぁ……んんっ!?」

「それとも……ともあれ、さきほどよりだいぶ敏感になっておられるようですが……おーとまとん“ごっこ”は、もうおしまいでしてー」

「ごっこなんかじゃ……! んきゅっ、ふ……!? くっ……あっ、あー……ぷ、プロデューサーさんっ、これは、その……」

 

 いくら泰葉がぴったりした下着をつけていても、その下に潜り込むことなど、芳乃の頭髪ではたやすかった。

 乳首。陰核。膣口。泰葉は露骨な場所に露骨な刺激を与えられ、噛み殺すのもやっとなほどの悶絶に襲われる。

 

(好いた殿方のお声を聞きながら……だからでしょうか。“氣”が、もう体の奥までその気になっておりますよ、泰葉さん)

 

 頭髪をうごめかせながら、芳乃は口でも泰葉にプレッシャーをかける。

 

「……泰葉さん」

「な、なんです……」

「早くプロデューサーどのを説得しないと、オートマトンのふりが、馬脚をあらわしてしまいませんかー?」

 

 プロデューサーを説得しようとする泰葉にオートマトンの演技もなにもなかったが、芳乃はしれっと蒸し返す。

 

「い、いらぬお気遣いですっ……んひっ!? あ、プロデューサーさんっ、違います、私そういう意味で言ったんじゃ、べっ別に、勝手に断ったのを責めてるんじゃなくって……ん、んぅっ……」

 

 泰葉の陰核も乳首も、指先より小さく繊細な突起だったが、芳乃の頭髪で“氣”を入れて刺激するにはにはちょうどいい具合だった。

 

「わたくしが意地悪しているのだから、早く言えばよろしいのに……わたくしの意地悪がお気に召されましてー?」

「ま、まさかっ……」

「だから、おーとまとんの役を勝手に断るなんて、私のこと、わかってくれない、なんて」

「訳知り顔を……!」

「それとも……好きな殿方には、他の人では察せられない自分の心も察してほしい……とか」

「……お悩み相談が聞いて呆れますね」

「ほー。をとめ心は不便でして」

 

 芳乃は、プロデューサーならそれを知ったとき泰葉を可愛いと思ってくれそう……だと考えた。芳乃自身は特にときめかなかった。

 

(……ますますおのろけ、でして)

 

 芳乃の髪の毛が、泰葉のクリトリスをとらえながら、その膣壁側の根本――Gスポットをちくりとつつく。

 

「は、ぉ、ァ、あ……ッ!!」

 

 不意打ち過ぎて、ついに泰葉の声色が変わる。ふつうのウェブ会議では出さない、腹の中からノドと舌が突き上げられるような声。

 プロデューサーの表情も明らかに曇った。

 

「泰葉さんは、敏感なたちのようでしてー。想い人に捧げる夜では、くれぐれも優しく、優しく……と、ねだらねばなりませんね」

「わ、私、こんな……いつもは、こんな……」

「へぇ、いつも?」

「よ、芳乃さん、私だって怒りま――ンああぁああ……っ!? あ、ぅ、あぁああぁっ……」

 

 両の乳首をきゅるきゅると引き絞られ、泰葉は痛ましくもどこか艶っぽい悲鳴をくちびるから吹き散らす。

 

「ほら、プロデューサーどのが心配されてしまっているようです」

「くひぃっ……!! ハッ、はァッ……ぷ、ぷろでゅ……わ、わたし、ぃ……」

 

 なんとなくプロデューサーがいる状況を口にして、それをきっかけに芳乃が泰葉の異変へ気づく。

 

(プロデューサーどののことを耳に聞かせながら……そうすると、泰葉さん、“氣”色というか、色“氣”というか、ますます濃くなってしまうのでして……)

 

 気づきが確信に変わるまで、芳乃は頭髪による陰核・乳首責めと、言葉責めを交互に繰り返して確かめる。泰葉の頬にさしていた赤みが、額や首筋までにじんでいく。

 陰核と乳首に血流が流れ込んで、ぷりぷりと弾力を帯びてくる。小さなペニスのように勃起し始める。クリトリスの甘皮がほころびる。芳乃がその先端を、毛先を束ねて刷毛のようにしながら掃いてやる。タブレットがタップとして認識できないほどの刺激がどんどん積み重なっていくと、泰葉がきりきりと歯を噛みしめる時間も増えていく。

 

「はぁぅ、う……ぷろでゅ……っ、お願い、します……私の、言うこと、聞いてぇ……ひふっ、きゅ、ぅ……っ!」

 

 泰葉には、もう“他の人では察せられない自分の心も”などかなぐり捨てていた。

 芳乃が見る限り、もうプロデューサーもオートマトン役を再検討してやるつもりらしかった。

 

(けれど、なかなかそう言ってやってビデオ会議を終わらせようとしないのは……むしろ、プロデューサーどのが泰葉さんのおかしな様子を気にして捨て置け無いから、でしょうか。まぁ、わたくしが聞くな、と釘を差してしまったので、聞くこともできないのでしょうが)

 

 プロデューサーとの会話を続けながら嬌声を抑えるのは、いかな岡崎泰葉とて苦しいのか、半殺しに潰した嬌声が、奇声じみた響きとなって漏れる。

 くちゃ、にちゃ、にちゃ、くちゃ、くちゃ……という水音まで交じる。泰葉のスカートの下でさざめく。プロデューサーの耳には届いていなくても、芳乃の耳には明らかだった。

 

「……中座、いたしましてー?」

「んは、ぁ……け、けっこう、です、ぅ……も、もうすこしで、ぷろでゅ……ぁ、あっ……!」

 

 芳乃の髪の毛が鳴らしているのではなかった。髪の毛では細すぎてろくに響かない。泰葉の内腿がぴくぴくと痙攣したり、擦り合わされたり、プリーツスカートに隠した下半身がもぞついて、その摩擦で鳴いていた。

 とっくに正座が崩れていて、泰葉の下着ごしの秘所が、ざぶとんへすがるようにこすられる。

 

「物足りない、ですか」

「どうし……!? そ、そんなわけないでしょうっ」

「でしょうねー。わたくし、お邪魔をしておりますから。まさか、もっとしてほしいなどとは……ねー」

 

 ついに泰葉が目を閉じる。眉根に明らかなシワがよってしまう勢い。タブレットに映るプロデューサーが、戸惑いの色を隠せない。

 

「……泰葉さんのプロデューサーどのは、この色を察してくださるでしょうかー……」

「ぷろでゅっ!? だ、だめっ……そんなの、私……恥ずかしすぎて、しっ、死んじゃ……っ」

「泰葉さん?」

「あっ、ちが……違いますプロデューサーさんっ、私そんな思いつめてないからあっ……そ、そう、斟酌です、しんしゃく……っ、ぁ!? くっ、ふぅぅう……っ!」

 

 泰葉の発情は、肉眼で見れば確実に察せられる色合いだった。鼻でも少し色ごとに通じている男女なら嗅ぎつけられる濃さだった。

 泰葉自身も理性では思い知らされている。しかし彼女のプライドがそれを認めない。

 

(気をやらせてしまうと、泰葉さんもさすがにおつらいでしょう……おはなしの腰を折っているわたくしが言うのもなんですが、早く、おはなしがまとまりませんかねー……)

 

 芳乃が、髪を束ねていた赤いリボンをほどく。タブレット越しのプロデューサーを必死に説得していても、泰葉はその気配を感じ取ってしまう。

 

「ひっ……よ、よし……」

「この意味が、おわかりで……泰葉さん、お覚悟はー?」

 

 泰葉の肌に迫り、肉に絡む髪束が増えてしまう。

 

「ク、っっっ……! だ、だいじょうぶ、です……ぷろでゅ……わ、わたし、できます、やって、みた――」

 

 泰葉のへそ周りと仙骨。3つの性感突起を責める毛先もそのまま。

 

「……そんな………ぁあ、そんなっ……わた、し……っ」

「泣き落としですかー。人形らしくはありませんが、さすがは役者でしてー」

 

 芳乃がほんの少し“氣”を入れるだけで、泰葉を悶絶させる――おそらく高い絶頂まで押し上げてしまうてっぺん、あるいは奈落の底に叩き落としてしまう崖っぷちに――寸前で、とどめられたまま。

 泰葉が沈黙した。不意の静けさが和室に降りた。

 泰葉の頬を一筋二筋と雫が伝っていた。

 

「……プロデューサーどのが、心配されてますよー」

「ひぅぅ……っ! こ、こんなの、む、り……」

「無理?」

「わああっ!? だ、だから、おーと、まとんは、できますって! 私は、だから……その、あのっ」

 

 芳乃の毛先はゆったりと、悠々と泰葉を撫でる。そうでなければ、快楽をめいっぱい注がれた泰葉から、絶頂が溢れてしまうだろう、と言葉なしに煽っていた。

 

「“氣”の集まる臍下丹田や仙骨まわりは、独りではいじらないでしょうねー」

「や、ぁ……な、なにが言いたいんです、か……っ」

「感じ方からいって……泰葉さん、ご自分でも、お胸やお陰核(さね)なら可愛がられてるようでしたが、しかしこちらはどうでしょうか」

「か、勝手に判断、しな、い、でぇ……わ、わた、し……っ」

「どこがお好きなのでしてー?」

「そ、そんなの、答えるわけ……えひゅっ!? ぴぃっ……」

 

 泰葉は、何かに怯えるように肩を縮こまらせた。そこをプロデューサーに見られていると知っていても、もう隠せない。

 

「ふーっ……」

「あひゃっ!? やめっ、よ、よしのっ、さ、ぁああ、や、やめっ……」

 

 プロデューサーもいい加減に猜疑心が一線を超えたのか、芳乃の忠告をついにやぶって、泰葉の挙動不審を指摘したらしき顔つきを見せていた。しかし芳乃は知らんぷり。実際、プロデューサーの声はほとんど泰葉のヘッドセットから漏れておらず、聞こえていなかった。

 

「泰葉さんのどこでも、お好きなところをして差し上げます……手加減は、お任せくださいね」

「あぁ……ぁぁぁ……ぉ……んぉ、いや、ぁ……ぉお、ッほおぉ……」

 

 快楽と羞恥で悲痛なほど歪んだ泰葉の上まぶたが、半分ほど彼女の瞳孔を隠してしまっていた。髪が勝手に伸びる日本人形の怪異に怯えるさまとしては、大げさすぎるリアクションだった。

 それでも泰葉は、両手や両足で芳乃を払いのける動きはしなかった。オートマトンがマスターにするにはふさわしくない、という最後の意地か。もう抵抗する余裕さえないのか。芳乃が“氣”で観てもわからない。

 

「お陰核の裏も……まだまだ髪は残っておりますので、ご心配なく……」

「ひぅ!? く、んんっ、おほっおおぉおおォっ……!」

 

 芳乃が深い快感の呻きを聞いたとき、ビデオ会議アプリでプロデューサーからのチャットが入った。

 

「……おやおや、泰葉さん」

「な……なんです、かぁ……っ……」

「このままでは、プロデューサーどのが納得されないようですねー」

 

 いつのまにかプロデューサーが、芳乃をチャットごしに制止してきた。書き方がぼかされていたのは、芳乃による陵辱に確信が持てないからか、確信していて触れるのをはばかったのか。

 

「やはり、わたくしに邪魔される程度の演技力では、おーとまとん役に力不足、と」

「ぜ、ぜったいそれいま関係な……ンああっ!? ふひゅ、そ、そぇ、だめ、だ、めぇ……も、もう、いっ、いっちゃ、ぁ」

 

 肌のどこをどうくすぐられても、限界寸前の泰葉には耐え難いらしかった。

 

「ですって、プロデューサーどの。もう、それを言ってはだめ、と……」

 

 芳乃が泰葉のあごに口元を近づけて、わざとマイクに聞かせた。釘を倍にして刺し返す。プロデューサーが唖然としたのは、スピーカーが聞こえない芳乃にも察せられた。

 

「んひゅっかは、ぁ、あッ、は、ぅ、ぁあぅ……っ!」

 

 プロデューサーが沈黙に追いやられているあいだに、芳乃から泰葉への責めが、もう一撫で、二撫で。泰葉の曲線を描く女体のあちこちに、つづら折りのように描かれた芳乃の髪束が、さらに責めを繰り返す。しかし髪の毛より細いその道を上り下りさせられて、いつ達するのか。

 

「い、言って……」

「泰葉さん?」

「言って……ください、ぷろでゅ……さん……泰葉なら、できるって……い、いま、すぐ……っ」

 

 プロデューサーの前で、芳乃から女の絶頂へ追いやられる辱めを受け入れがたい。しかしこのままでは、いつそうなってしまうか、どこまで芳乃を拒めるのか……。

 

「早く言ってぇ……! できるって、泰葉、が、ぁ、あっ……プロデューサーさんっ、早く、私に、ぃ……!」

 

 泰葉のただならぬ剣幕に押し負けてか、ついにプロデューサーが泰葉の主張を容れた。

 

 

 

 

「……おつかれさまでして」

 

 泰葉の震える指がタブレットをタップして、ビデオ会議アプリの通信を切った。

 

「……せて……」

「ほー?」

「イカせて……イカせてよ……わかって、いるでしょ……? 私が、いま、どんな状態か……」

「それは、泰葉さんの演技やお悩みと関係あるのでしてー?」

 

 関係あるはずがなかった。

 ついさっき、泰葉はプロデューサーに『岡崎泰葉がオートマトン役のオファーを受ける』ことを呑ませた。プロデューサーや芳乃にオートマトンの演技を見せてやる理由が、実質的にも名目的にもなくなってしまっていた。

 

「そぅ、よ……関係、ない、わ……」

「わたくしより演技に詳しいそなたがそう言うのであれば、関係ないのでしょうねー」

 

 芳乃の髪が“氣”の抜けたようにぐったりしているのに、泰葉の細い腰がぴくりと跳ねた。

 

「イキたい、です……イカせて……お願い、おねがいします、よしの、さんっ……!」

「……プロデューサーどのには?」

「やっやだ、だめ、ぜったい、だまっててぇ!」

「しかし、これはもともと泰葉さんのプロデューサーどののご依頼で……」

「あの人にだけは……お願い、だから、ぁ……しんじゃう、よぉ……」

 

 芳乃から見ると、懇願する泰葉の目は、オートマトンの演技をしていたときよりもさらに虚ろだった。

 

(さすがに……しかし、わたくしもお仕事ですから、何か報告書は上げないと……)

 

 泰葉の虚ろな瞳を見るうちに、さすがに芳乃もかわいそうに思えてきたが、さりとてただで言い訳を考えてやるのは口惜しかった。髪の毛でタブレット端末をちゃぶ台の端においやり、代わりに食べかけのせんべいとすっかり冷めきったお茶を引き寄せる。

 

(……あぁ)

 

 お茶でくちびるを濡らしてから、芳乃が口を開いた。

 

「あの……泰葉さんは、確かお国が長崎とうかがっております」

「そ、そうですけど、それが……」

「わたくしは鹿児島の出ゆえ、長崎のことも少しだけ存じ上げております……」

「あ、あってるから……だから、はやく、いかせ、てっ」

「福砂屋のかすてらが食べたいのでしてー」

「ふくさ……え、あれ、を……?」

 

 発情で塗りつぶされかけた泰葉の脳裏に、懐かしい味と匂いがかすかに蘇った。カステラで有名な長崎の中でも、もっとも老舗と言っていい味。子役時代の泰葉が仕事で上京する際、よく手みやげとして母親が持たせてくれた。

 

「長崎みやげの定番、とうかがっておりますが」

「そ、そうですけど……んひあっ!? うはぁあ、あッ、ほぉおおお゛ッ……!」

 

 乳首も、陰核の先と根本も、こりこりと締め付けられ、ねじられ、絶頂寸前へ置かれる。体からほんの少し飛び出た突起をいじられているだけなのに、腹の底をがっしりと握りしめられたかのような狂おしい感覚が走る。

 それこそ泰葉が求めてやまないものだった。

 

「あぁあ゛……よ、よしの、さんっ……やだ、やめないで、もっと、ぉ……うはぁ!? ぁ、あァ、ぉおおお゛っ……!」

「かんころ餅が食べたいのでしてー」

 

 泰葉は10回以上も息を吸って吐いてから、やっと芳乃がねだっている“かんころ餅”が、五島列島のさつまいもを使った郷土菓子だと思い出せた。

 

「は、はやく……ど、どうしてぇ、イケない、のぉ……!?」

「だから、かんころ餅も……」

「じ、実家に頼んで送ってもらいますから……へひゅっ!? く、んひぃっ、やぁ、あァ……な、なんで、イケない、のぉ……!?」

 

 臍下丹田と仙骨もぐりぐりと圧迫され、絶頂に堕とされ――寸前で、芳乃の“氣”に縛られる。

 

「もう、もうむぃ、むりぃぃいっ、おかじぐなるっ!! イカせっ、イカせて、イカせっ――……っ」

「一〇香(いっこっこう)もできれば……」

 

 絶頂に相当する快楽が、いつまでも発散されず滞留する。泰葉の限界をゆうに超えて渦巻き苛む。

 

「ぁ……だ、めぇ……も……っお、っ……!」

「あ、ぽるともほしいのでしてー」

 

 泰葉の下腹と尻が、耐えきれない量のアクメを絞り出すように何度も収縮するが、膣口からとろとろと白濁液がいくらか漏れたきり。絶頂が遠ざかったしまう。

 

「やら゛ぁあっ……! よしのさんのいじわるっ! わからずや! おやつの食べ過ぎでころころになっちゃえばいいんだ!」

「んー、おたくさもほしいのでしてー」

 

 芳乃のおねだりは、長崎銘菓を年配向けから子供向けまで一通り網羅していた。

 

「……じ、地元のお菓子なら、なんでもあげますから!」

「太っ腹でしてー」

「だっだから、早く……あぁあ゛っ、へぇうっ!?」

 

 芳乃が、自分のプリーツスカートごしの膝こぞうに当てていた手のひらをぬらりと上げて、泰葉の頬を包んだ。

 

「……そんなにたくさんいただけるのであれば……わたくしも応分のおかえしが、必要でして」

 

 泰葉の潤みと熱が伝染したように、芳乃の目と肌もとろけていた。

 

 

 

※

 

「……もはや、日本人形のふりもしなくてよいのですが……おからだに傷がついてはことなので……」

 

 そう言いつつ芳乃は、髪の毛を絡めたままの泰葉を畳へ仰向けに転がし、彼女の四肢をその頭髪で縛ってしまった。

 

「か、かみで、もっと、も゛っと、シて、ぇえ゛ぇ……っ!」

「手でお相手します。こちらのほうがわたくしの得手でし……洒落ではありませんよ。あと、お声はご自由に……おそらく、漏れないはず、でしてー」

「も、もういいから……わたし、は――……いっ、っっうぅーっ! あ、ァア、あ゛……っ♪」

 

 ブラウスの裾を引き出され、はだけられ、喘ぐ泰葉の臍下丹田の素肌が、芳乃の小さいてのひらで圧迫される。

 それだけで、泰葉はのけぞりながら、失禁のような勢いで愛液を噴出させ、下着もプリーツスカートも濡らしてしまう。

 

「っ……! い、っくぅうううううっ!! いっちゃっ……っく、イク、いッぐううう゛っ!」

「“氣”を、中に……いつプロデューサーどのに捧げてもおかしくないでしょうから、困らずに済むようわたくしがほぐして差し上げるのでして」

 

 処女膜が無傷のまま、泰葉の膣奥が、子宮口も子宮もまとめて不可視の力で蹂躙される――もっともしている側の芳乃に“蹂躙”という意識がなかった。ふつうなら動かせないはずの髪の毛を“氣”で動かしたのと同じように、ふつうなら触れられないはずの泰葉の女性器奥へはたらきかけて、さっきまで泰葉が溜め込んだアクメをしっかりなじませる。

 しいてたとえるなら、助産師や看護師が、お産前後の母親の母乳がスムーズに出るようマッサージしてやる……ぐらいのつもりだった。

 

「あああイグッ、いぐいぐイグイグッ、い゛っちゃううう゛ぅーイグ、うゥ゛……っ! はぁっ、あっ、はぁっ……まって、ぉほッ、おなか、ら゛め゛ぇ、これ、お、覚えちゃ、いけないの、ぉ」

「遠慮なさらずー。わたくし、泰葉さんにたくさんごちそうしていただくのですからー」

 

 有り体に言えば、芳乃は泰葉の子宮を開発して“やって”いた。

 

「んひぃっ、お゛っ、おっぐ、んんっあ……あ、いぐっ!! んっ……あ、はっ…………んぐうっ、あお゛……ぉお゛イグ……ぅ…………っ!!」

「ほら……せっかくの機会ですから、ちゃんとどう感じるのか、しっかり覚えてください……泰葉さん、プロデューサーどのへのおねだりが、あまりうまくないようなので……」

「よ、よけいなお世話……いっ、っっうぅー……ぅ、ゥ、ぉ、っ……」

 

 芳乃が指先で泰葉の臍下丹田をくるくる撫でてやると、一周ごとに泰葉の子宮がアクメにぱちぱちと弾けてしまう。

 

「本当によけいなお世話だったのなら……泰葉さんは、わたくしに長崎銘菓を振る舞うはめになっていないのでしてー?」

 

 もし物理的に弾けていたのなら一瞬で終わっていたが、芳乃の手管のおかげで弾けているのは“氣”だけなので、泰葉はまだまだもだえ続けるはめになる。プロデューサーと話していたころが生殺しなら、いまは殺し続けられているようなものだった。

 

「おォおお゛……ッ!! ふかいっ、ふかい゛いィイっ!! いや、いや……これい、や……ああァああ゛っ!! だ、だめ、も、もう、おねがい、わらひ、い、イッて――あああっ……はあっ!! んあァぁああアあ゛あ゛あ゛っ……」

「ほら……いっぱいごちそうしていただけるのですよね? そのぶん、たっぷりと……」

「も、もういいっからっ、あ、こっ、これだめ、だめだって言ってるじゃない、ど、どうし、っ……っっうぅー……ぅ……!」

「ご遠慮、なさらずー」

 

 泰葉の嬌声が、首を絞められたように潰れていた。舌、ノドか、声門のまわりで筋肉が痙攣し、奇声も叫べなくなったらしい。

 

「あ、呼吸ができないのは、よろしくありませんね……」

 

 芳乃は頭髪をごそごそと駆り出して、“氣”で泰葉の呼吸器あたりの痙攣をほぐしてやった。

 

「ぷはっ!? ハッ、ハッ、はっ、ハッ、はぁっ……!」

「“氣”を確かにもってくださいましー」

「ひっ……ま、まだぁ……もう、や、あ……い、っく、いく……ぅ、ううっ、イクうっ……ま、まらっ、っく、いく、いッぐううう゛ッ!!」

 

 もしプロデューサーが聞かされていたら、とっさに耳を塞いでしまったであろうほど、鋭く痛ましい悲鳴だった。が、芳乃は意に介さない。

 

「あ゛っぉおっ!? だ、だめ、なの……い、息、できな……ひぬ、し、しんじゃ……んひぃっ、お゛っ、おッぐ、んんっあ……っ!」

「心配ご無用ですー。息はさせますので。泰葉さんほどご健康であれば、気を遣りすぎて死んでしまう、などありえませんし」

「あ、いぐっ!! んっ……あ、はッ、アッアッ、アッ……んぐうッ、あお゛……ぉお゛イグ……ぅ……っ!」

 

 声に劣らず、スカートと下着の内側で泰葉の膣口も喘いでいた。腟内が、芳乃の髪の毛より激しい勢いで蠕動して肌をゆらめかせている。侵入を一度も許していない男性器を必死でつかもうともがいていた。

 

「ふかいっ、ふかい゛のぉおっ……! いや、いやこれいやあ゛ッ! あああっ……だめ、だめだから、あ、あんあ、あァ、あッ、あああ゛あオッ……!」

「お陰核と、乳首も……なるべく同時に達するのがよろしいかとー。慣れれば、さきっぽをいじられるだけで、なかまで……」

「そっぞんな゛のっ、や、め゛ぇ……イクーッいーっ、ひぃ、ひっ……う、う゛……ウっ……う゛……ッ……」

 

 膣アクメをなじませながら、髪の毛を束ねた先で陰核と乳首もしゅるしゅると刺激する。膣口がまた叫ぶように喘いだが、潮吹きもできず潰える。

 芳乃は気にせず追撃を加える。

 

「……っく、く…………くううう、うう゛ぅっ……!」

 

 泰葉は嗚咽を垂らしながら、地団駄を踏むようにがたがたとお尻を畳に何度か叩きつけ、ついにはっきりと白目を剥いて失神した。あまりに強すぎる快楽から、泰葉の本能が彼女の意識を守ろうとしたらしかった。

 

「……あ」

「ぁ……ぉ……ッ、っ……」

 

 芳乃が時計を見る。プロデューサーへの事後報告を前倒ししたせいで、時間があまっていると気づく。

 

「……たっぷりごちそうしていただくのでしてー」

 

 泰葉の着替えを用意しなければ……と芳乃が気づくまで、泰葉はあと3回失神させられた。

 

 

 

※

 

「おーとまとん、とは……けっきょく、なんだったのですか」

「……芳乃さん、見ていただけたのですよね? あれを」

「それはご承知でしょう? わたくし、ここで泰葉さんの横から、直におーでぃおこめんたりーをいただきながら拝見しましたので……泰葉さんのファンに知られたら、うらやましがられるでしょう」

 

 泰葉と芳乃は、346プロダクション事務所内の一角へ特別に設置されていた和室で2人きり、ざぶとんを並べてお茶をすすっていた。茶葉は芳乃が取り寄せた種子島の日本一早い新茶で、お茶請けはあじさいの花びらをかたどったパイ生地の“おたくさ”――シーボルトのひいきだった遊女・お滝さんにあやかった銘菓――だった。

 

「おはなしはとても感動的だったのですが……本題の、演技が」

「え、なにか? ……かなり自信あったのになぁ」

「まったく人形らしくなくない気がしたので……“クズ鉄ドクター”どのに拾われてすぐはともかく、種をもらったあたりから……」

「それは……え、エンフォーサー部隊の演技なら、最後まで人形らしかったもん!」

「……まぁ、泰葉さんの演技がご好評だったのだから、それがみなの求める演技だったのでしょー」

 

 泰葉が“オートマトン”としてメインキャストを務め上げたドラマは、『クロックワークメモリー』として公開されて人気を博し、女優・岡崎泰葉の名声をますます高めた。

 いっぽうで芳乃の“和室”は、“お、お茶をこぼしてしまったのでして……”とやたら多くの洗濯物を出すなど、不審点を指摘され風前の灯火となっており、泰葉らの口添えによって、社外や支社とのビデオ会議用スペース兼用となって、なんとか存続していた。

 

「それにしても、泰葉さんの演技力はすごいのでして」

「初めて芳乃さんに、素直に褒めてもらった気がしますけど」

「いまおいしそうにおやつを召し上がるお顔を見ると、同一人物とはとてもとても……」

「演技というと、よく役に心から入り込むスタニスラフスキー・システムだって思われてますが……もちろんそれだけじゃありませんもん。機械になりきるなんて無理……って私に教えてくれたの芳乃さんじゃないですか」

「す、すたにす……?」

「だから役へのアプローチを変えました。外見だけなりきって、中身は“なーんちゃって”みたいなアプローチもあるんですよ。ブレヒトとか」

「……ともあれ、わたくしが微力ながらお役に立てたのであれば」

 

 芳乃がもう一つおたくさの個包装を開封した。

 

「お気に召されましたか?」

「ええ、何枚でも食べてしまえますー」

「ほかにも……まだまだ、お菓子、ありますよ?」

「おおーっ……」

「だ、だから、その、また……」

「……これでは、ころころまっしぐらでして」

 

 芳乃はきょうも“お、お茶をこぼしてしまったのでして……”と苦しい言い訳をするはめになった。

 

(おしまい)

 

 

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