アイマスのアイドルが童貞をもらってくれるシリーズ 作:ふりーじ屋/家庭内禁書
有償依頼40件目です。ご感想くださるとうれしい です。
ご依頼は http://skeb.jp/@freege_affected か、 http://twpf.jp/freege_affected からどうぞ。
「よろしくお願いします」
「こちらこそよろしく……なんで教えて下さる側が頼んでいるんですか?」
「取り消したほうがいいかな」
「いいえ。私、そういうきちっとしてるほうが好きですよ。こちらこそよろしくお願いします」
アイドル・橘ありすと、彼女の担当プロデューサーは、事務所の休憩室でかしこまってヒソヒソ話をしていた。
某芸能プロダクションの“休憩室”は、アイドルやプロデューサーが“親睦”を深めるための打ち合わせによく使われている、とのウワサがある。
休憩室にはダブルベッドがある。いつもシーツが清潔でノリもきいている。そのダブルベッドから引き戸2つ向こうに据えられている某社製のユニットバスは、家族風呂にも使えるほど面積が広かったり、浴室床が滑りにくくヒヤリとしない感触だったりで、レッスンルーム併設のシャワー室より評判が良い。スターリースカイ・ブライトやアクロス・ザ・スターなど、共通衣装が収められたクローゼットもある。
これらは使用後、できる限り原状回復をするのが暗黙のマナーとされている。
そういう休憩室なので、ありすとプロデューサーが2人きりでいるのは、その事務所内の人間にとってはさして不自然ではない。2人の服装も可もなく不可もなし。プロデューサーはジャケットをハンガーにかけて、ワイシャツ、スラックス、ネクタイなど、事務所の執務室に座っているのと同じ格好。一方ありすは、オープンショルダーにワンピースドレスと、年齢よりやや背伸びしたコーディネートだった。
「向かい合って、というままだと、私も少し緊張してしまいますね」
「お見合いみたいだもんな。ご趣味は? なんて」
「お見合い?」
「昔、年ごろの男と女が……いや、俺の親ぐらいの世代の話だ。正直、俺もよく知らない」
「あとは若いお二人で、ってあれですか」
「よく知ってるな」
「昔の小説とかドラマとか見ますと、ね」
ありすはダブルベッドの白いシーツに腰掛けて、自分の太腿の右隣を手のひらでぽんぽんはたいた。
「隣、来て下さい」
「失礼しますよ、お嬢さん」
「ふふ、かしこまっているのがプロデューサーさんのお好みなんです?」
プロデューサーもベッドへ腰を下ろした後、左肩を退いてありすに視線を向けた。
「そんな目を皿のようにされても……変なところはないはずですよ」
肩甲骨ぐらいまで伸びたストレートのセミロングに、紫レースのヘアリボンがあしらわれている。大きく目尻が吊り気味で意思の強そうな瞳は、少しとろんと細められ、プロデューサーの顔を見上げている。頬がほんのり赤らんでいる。対して鼻とくちびるは控えめでおとなしい。それらが彼の肩ぐらいの高さにある。
アイドル・橘ありすのプロフィール上だと、身長は141センチ、体重は34キロしかない。成長期なので、以前の計測より多少は大きくなったかも知れない。それにしても、成人男性として中肉中背なプロデューサーから見ると、ありすの体躯は縦にも横にもひどく小さい。この柔らかいベッドで自分と肘どうしがぶつかりそうな隣に座っているのに、ベッドの天面が沈んでいるのかいないのか、彼女の体重をろくに感じられない。
「あ、脱がせ方がわからないんですか? 配慮したつもりなんですが」
「ありすをこんな近くで見るの、初めてかも知れなくって……つい、見惚れた」
「あらら、お上手ですね……プロデューサーさんが童貞さんというのは、私の見込み違いだったんでしょうか」
アイドルとその担当プロデューサーとして――同時に、女子●学生と成人男性として――明らかに異様なやり取りを、ありすは平然と続ける。
「私としては、見込み違いでも一向に構いませんけれどね」
ありすはくちびるの前で指を絡めながらクスクス笑っていた。アイドルの仕事で見せるのと変わらない営業スマイル。背伸びしたクール・タチバナの味を含みつつ、少女のころころした響きと所作を前にして、プロデューサーはどきりとする。
ありすは白いオープンショルダーのトップスをまとっていて、鎖骨の中心から端あたりまでのデコルテを見せていた。トップスの生地は淡い紫ベースに、薔薇の花弁と蔓の柄があしらわれている。鎖骨と肩甲骨の重なるあたりに、紫色のストラップが引っ掛けられていて、その紫はトップスの内側を通ってワンピースドレスに続く。ドレスのスカートが彼女の両膝までをひらひら覆っている。
ありすの年ごろにしては、爽やかながら落ち着いた組み合わせだった。彼女が姉のように憧れている鷺沢文香や速水奏なら、もっとしっくりと着こなせるだろうか。
とにかくありすの体躯は――まだ二次性徴が終わっていないとは言え――小さい。細い肩など、プロデューサーの片腕でもすっかり一回りできてしまえそうだった。ウエストでトップスの裾を結んで軽く引き絞っているあたりなら、確実に腕を回せてしまう。
ありすの体は、そういう見た目相応に軽い。その軽さだけなら、プロデューサーの体は何週間か前に知っていた。
※
「プロデューサーさんの背中、大きくて、男らしいですね」
「ありす一人背負うぐらいなら余裕だな。ありす2人だと厳しいかも知れない」
「私は一人しかいませんから安心して下さい」
何週間か前、プロデューサーはありすを背負って山路を下っていた。
その日ありすは、朝から教育番組のロケに出ていた。日本の山奥で珍しい野鳥や植物や奇岩に触れ、岩肌を鎖にすがりながら登り降りし、山頂の絶景を望み……輿水幸子より少し生易しいぐらいの収録を終えて一息ついたところだった。プロデューサーがありすを迎えに行くと、疲れ切ったらしきありすから「背中、貸して下さい……私を背負って下さい」とねだられ、返事もさせてもらえず彼女を背中におぶって歩く羽目になった。
背負って立ち上がってみるとありすがあまりに軽い。「しょうがないな」の一言さえプロデューサーは忘れ去った。
「ありす。手、俺の前で組んだほうがいいぞ」
「そうしたら……首、苦しくありませんか?」
「苦しかったら言うさ」
ありすが背中からプロデューサーに聞かせたところによれば、彼が下っている山路は、彼女がロケで奮闘していた山の奥よりも足元がだいぶマシで、ハイキングコースぐらいに整備されているらしい。マシ……と聞かされた彼だが、革靴ではいささか不安に思えて、「こんなことなら、もうちょっと歩きやすい靴にしたのに」とぼやいた。
もともとプロデューサーは、駐車場やらお土産屋やらがある登山道入り口でありすたちを待っているつもりだったが、彼女たちの収録が押していると連絡を受け、ぼうっと待っているのが手持ち無沙汰で、連絡を返しつつちょっとした差し入れを持って途中の休憩所まで迎えに……やっぱり山歩き用の靴と服装にすればよかった、と嘆息する。
「足、くじいたり痛めたりしてないか」
「ええ。疲れてるだけです」
プロデューサーとありすは、ロケ隊の最後尾にあとから従ってのんびりと下りていた。ふと彼は、もし自分がここまで迎えに来ていなかったら、ふもとの駐車場まで彼女はどうやって下りたんだろうか、と考えた。前を行く何人かのスタッフの誰かの背中を代わりに借りていたのだろうか。もし足首をくじいたり靴ずれを起こしていたりしたら、やむを得ずそうしていたかも知れない。それとも自分の足で山路を下りただろうか。子供扱いを嫌うありすなら、疲れていないふりをしていたかも知れない。
「ふぁ~、あ、ん……あ、すみません、つい」
「眠いか? ものすごくハードだったって聞いているが」
プロデューサーは首の後ろが一瞬くすぐったくなった。ありすにあくびの端っこでも浴びせられたか……と思うと、急に気恥ずかしくなった。彼女の顔が近くに寄せられているらしい。汗臭いとか整髪料がきついとか、彼女から思われていないか心配になった。
「眠くはありません。おかげさまで」
「乗り心地のよくない背中でごめんな」
「そんなことありませんって」
「人を背負うなんて何年ぶりだか忘れてしまった。部活以来かも知れない」
ありすは誰かに背負われた経験があるのだろうか、ふとプロデューサーは考える。どこぞの文豪が小説の冒頭で書いたように、山路を歩いていると、ふと、ふと、と取り留めなく考えが湧いてくるらしい。彼女も、父親か母親かに背負われたことがあるだろう。彼は橘家親子にちょっとしたすれ違いがあったことを知っているが、それ以上に円満な家庭だということも知っている。もしかして父親あたりに背負われて、こうやって山路を――
「プロデューサーさんの背中、男らしいですね」
ありすの内肘が、プロデューサーの肩へ食い込むように引っ掛けられる。姿勢が不安定になってしまったのか、と彼は足を止める。
「もう歩いていいか?」
「……ちょっと、興奮して、ドキドキしちゃうかも知れません」
風も足音も聞こえない山の静けさに、ありすの声が染み入ってくる。下り山路の前を行くスタッフたちの気配が、ふうっと遠くなる。
「興奮? 誰が」
「私が、ですけれど。おかしいですか?」
ぎゅう、と何か軽く柔らかいものを背中に押し付けられる。ささやきが、耳裏を舐めるようにしっとりと迫ってくる。
「プロデューサーさんの男らしいところ感じちゃって、私が興奮しちゃってる……って言ってるんですよ。わかりますか」
「み、耳……息、かけられると、くすぐったいんだが……」
軽く柔らかいものを、ずりずりと改めて押し付けられる。
「こっちは、どうですか? 最近、ちょっとは膨らんできたと思うんですけど」
「こっち、って」
「胸が……おっぱいが、ですよ」
※
「えいっ」
「うぉっ!? あ、ありす」
「……黙っちゃ、いやです。もう、見惚れてるって目つきでもありませんでしたし」
プロデューサーの意識が、数週間前の山路からきょうの仮眠室に引き戻される。ありすの服越しの胸は、彼の背中ではなく彼の手のひらに押し付けられていた。
「あ、わかるな……膨らんでる気がする」
「気がする、じゃありませんっ」
「背中におぶってた時は、わからなかったけど」
「……あぁ」
ありすはプロデューサーの手首を握りながら、彼がぼうっとしていた理由に思い当たったようだった。
「プロデューサーさんは、女性の扱いに慣れていないようですね……なんて、言ってあげましたっけ。あの帰りの山路で」
「そうだな」
「もしかして、童貞ですか? なんて質問も」
「まさか、そんな質問を山の中でぶつけられるとは思わなかったよ」
「私からは、いつか他の場所で聞かれると思ってたんですか」
「いいや。ありすが、そんな……まぁ……」
「言いにくいんですか」
ありすがプロデューサーの左手首を握ったまま、それをぎゅうと胸に押し付け直した。手のひらでふつふつと感じられるリズムが彼女の拍動だったらどうしよう、と彼は思った。そうじゃなかったらどうしよう、とも思った。
「ありすの年ごろで、セックスなんて話題……なぁ」
「そんなに珍しくないと思いますよ。わざわざ大人に言わないだけです」
「そっか、興味が出てくる年ごろかぁ」
「興味があると言うより、正確に言えば……私はシてますけどね、セックス」
「……いや、ダメだろ、ふつうに」
「それもそんなに珍しくないと思いますよ。わざわざ大人に言わないだけです」
凍りついたプロデューサーのくちびるに向かって、ありすが首をつっぱらせて顔を近づける。まだ彼の手のひらを胸に押し付けさせたまま。
「だからあの時も言ったんですよ……私がめんどう見てあげましょうか? って」
2人が接吻できるまで、あとイチゴ1粒2粒ほどの距離だった。
「プロデューサーさんは、女性の扱いに慣れていないようですね。童貞さん、ですよね? って」
またプロデューサーの中で、山路での記憶と仮眠室にある意識が交差する。どちらも、ありすと2人きりだった。どちらも、ありすから思っても見なかったセックスの提案をされた。
「ダメですか? ふつうに……と言われましても。ふつう、ってどんな感じなんでしょうね」
橘ありすの目つきが、プロデューサーへ挑むように光っていた。かつてウェディングドレスを着せた時、ありすから“待てますか”と問われた時の表情が彼の後頭部に過ぎった。今の彼女は、“待てますか”から真剣味を薄めて色気を足した表情をしていた。
「私がセックスをするのは、ふつうの子供らしくありませんか?」
「ふつうとか、ふつうらしくないって話じゃないよ」
ふつうの女子●学生はセックスをしないし、成人男性に向かって積極的に話題にも出さない。そこは2人のあいだで一致しているらしい。
では、橘ありすはふつうの女子●学生なのだろうか。アイドルという時点で一般の●学生ではない、としても……プロデューサーはすべての女子●学生が橘ありすと化した日本を想像した。未来が今より明るくなりそうで、現在の大人の神経が今よりきつくなりそうでもあった。そのぐらいありすはできた子供である……“子供”である、と彼は彼自身に言い聞かせる。言い聞かせなければいけなかった。
「プロデューサーさんが言い出したんですよ。“ダメだろ、ふつうに”って」
「子供らしくない、というか、子供がすべきでない、って言ったほうが良いかも知れない」
男性の手を握って乳房に押し付けさせる動作はまったく橘ありすらしくないのに、言葉尻をとらえて論難してくる口調が橘ありすらしすぎて、プロデューサーはめまいがした。
「プロデューサーさんは、私に子供らしくしてほしそうなフシがありますね。つい子供っぽくはしゃいでしまう仕事を持ってきたり、文香さんや奏さんにお世話を頼んだりするのも、そのせいでは」
「お世話されてる、って自覚はあるんだな」
「ええ。あなたはそうやって、私を子供らしく素直にさせるの、お上手です」
「ありがとう……嬉しがっていいよな、それ」
「それにしたって、まさか……えっちしたい、って私に言わせるほどとは思いませんでしたが」
それは嬉しがってよくない言葉だった。
「まぁ……子供がセックスすべきでない、って考えはわかりますよ」
「そうかい。安心したよ、ちょっとだけ」
大人から性的な行為をされる体験は、おそらく子供にとってこれ以上ないほど残酷で理解しがたいもの――仕事でありす以外の子供とも深く付き合う大人として、プロデューサーはそう理解している。子供は基本的に大人を信頼する“しかない”存在で、子供にとって性的な行為はその最も基本的な信頼を裏切られる体験で、しかもそれを他人に言いつけて助けを求めるのも難しい問題で、ひとたびそうなれば汚れた秘密の記憶を刻まれて無邪気さを奪われてしまう。
子供は、されたその場で性的行為の意味がわからなくても、それが隠さなければならない行為だとは察する。子供の中には――特に芸能界には――わかっていないし察していないふりを“させられている”者もいる。自分でもよくわかっていない恐れやら混乱やら罪悪感やらを隠して演技する日常を強いられている者もいる。
プロデューサーは、自身が担当している橘ありすはそうでない、と信じたかった。
たとえ今、ありすの乳房を手のひらに押し付けられているとしても。
「しかしプロデューサーさんは、私のおっぱい触ってる反応からして……セックスできるけどしてはダメ、って相手だと私を思ってますね」
“セックスできる”けどなんて知るかよ――と言いかけて、プロデューサーはぎりぎりで噛み殺す。彼が童貞、というありすの指摘は図星だったのだ。“セックスでき”ないから童貞なのだ。“セックスできるけどしてはダメ”なんて話は埒外だ。
「ところが私は、今さらダメと言われても遅いのです。もう前にシたものはシたのです」
「いや、話をすり替えるなよ、問題は……」
橘ありすがセックスを経験している……それはそれとして、プロデューサーとは未経験のはずだ――そう言い聞かせなければならないほど、彼は混乱していた。
今考えるべき問題は、ありすとプロデューサーがこれからセックスするかどうか、のはずだった。
「私がセックスしてたら……不潔、ですか?」
「それ、は」
混乱したプロデューサーの頭に悪い妄想が湧き出してくる――ありすは誰かからセックスを強要されていたのか。そのせいで、ありすは自分を汚されてしまったと思って――プロデューサーが“ふつう”の大人で、橘ありすが“ふつう”の子供であれば一笑に付す妄想が、どうしても離れない。妄想は彼にとって、今彼の手首を握っているありすの手に似ていた。振り払える振り払えないなんて論外の、振り払ってはいけないものだと感じられた。
「いずれにせよ、私はもうセックスをしてるんですよ。そこで……プロデューサーさん、あなたが大人で私が間違った子供だとしたら、大人として私にすべきことはなんですか?」
「なんですか、って」
女子●学生から非処女を告白された時に“すべきこと”ができるのが大人の条件なら、日本に大人なんて1割もいないだろう……と、プロデューサーは心中で嘆息する。
そう考えて現実逃避できたのも一瞬だった。
「大人として、正しいセックスを教えることではないのですか?」
「ど、童貞がなんでセックスを教えるんだ……?」
「あ、やっぱり童貞なんですね」
実に、いつも正面から論戦する橘ありすらしくない搦め手の尋問だった。
プロデューサーは体でも大いに嘆息した。
ありすはプロデューサーの無礼をさらりと流して、追撃を放ってくる。
「プロデューサーさん、私が間違ったセックスをシている、と主張するなら……プロデューサーさんは自分が正しいセックスを示すべきです。たとえプロデューサーが童貞であっても」
「正しいセックス、ってなぁ」
プロデューサーはありすにオウム返しするのがせいいっぱいだった。彼女が“セックスをシている”こと自体が間違いだろうが、そうでなかろうが、どちらと答えてもセックスに持ち込まれる構えに誘導されている。わかっていても逃れられない。
「プロデューサーが童貞だってのはいいんですけどね」
「あぁ、うん、それならよかった」
「別に一生童貞を貫くつもりではなかったんでしょう?」
これも既に反論を封じられている。事務所の仮眠室で2人きり、今すぐセックスできる状況が、プロデューサーの口をふさいで舌を凍りつかせている。この状況が不適切だと言うなら、彼女を置き去りにして逃げればいい――逃げられない話だった。
「あなたが童貞卒業の時にしようと思っていた正しいセックス、私に教えて下さいよ」
この状況は、プロデューサーがありすに“教えて下さる”ためのものだった。
「それとも童貞を捧げるのは……清い処女じゃなきゃ、お嫌ですか?」
「……ありす」
「なんですか」
「そういう言い方。お前、味をしめただろ」
「はい。さっき私が“不潔、ですか”って聞かせた時のあなたの顔、見ものでしたよ」
プロデューサーから詰られたのに、ありすはとろとろと酔っ払ったように目元も口元も緩ませた。頬はイチゴより少し薄い赤で、ダークブラウンの瞳が黒みがかって潤んでいた。
「……やっぱり、私のこと汚いって言いたいんですか」
プロデューサーは、これからありすがとどめを刺してくる、と察した。察しても逃れられない。彼の理性は半死半生。
ありすの手も言葉も、振り払ってはいけない。
「傷つきます……あなた相手だと、特に」
手を握られたまま。
流すことも許されない。
「汚くない、ありすはきれいだ……って言って。そう扱ってもらえなかったら……私、立ち直れないかも」
せいいっぱい構えて受け止めるしかない。
「立ち直れるよ、ありすは……必ず」
「何を言ってるんですか、童貞なのに」
「おい」
ありすが、ベッドからプロデューサーの膝上に乗りかかってきた。
プロデューサーにとって、ありすに上から瞳を覗き込まれるのは初めてだった。
「あなたを童貞じゃなくしてしまいます。それから、もう一度聞かせて下さい」
ありすの手で、プロデューサーのネクタイがするりと抜かれてしまった。
※
「ありす」
「なんでしょう」
「リボンは、そのままでいいか?」
プロデューサーの手が、ありすの頭髪をそわそわ撫でながら、不意に止まる。彼自身もなぜ手が止まったのかわからない。
ありすのストレートヘアはアイドルらしく入念に手入れされていてサラサラしていたが、プロデューサーが手を止めていくらもしないうちに、サラサラの中へしっとりをにじませてくる。
ありすのセミロング。サラサラさせて空気を含んでいなければこんなものか……どうなのか、プロデューサーには判断がつかない。彼女の頭を撫でるのからして初めてだった。
「……お好みで、どうぞ」
「それじゃ、つけたままで」
リボン以外、ありすは体に一糸もまとっていなかった。
ありすが“配慮したつもりなんですけど”と言ったとおり、彼女の着衣は結び目をほどくと上下ともするりと落ちた。あまりあっさり済みすぎて何か忘れていないか心配になったプロデューサーが着衣を畳んでやろうとすると、ありすに上下とも奪われた――「服より、私を見なきゃ失礼でしょう」「それは、ごもっともで」――彼女の手によって、飾り気のないブラとパンツがベッドへぱさりと放られてしまった。
「きれいだよ、ありす」
「もっと、じっくり見て下さってもいいんですよ」
プロデューサーの言葉の端が、唾液でにちにち粘っていた。ありすは声でそれを中和するようにからから笑ったあと、見せつけるようにベッドの上でゆったりステップを踏んだ。
肌は胸も背中もヴァージン・スノーに似て――プロデューサーは自分で思いついた直後、くだらない冗談だと呆れた――シミひとつない。橘ありすという生きた少女の体なのに、まるで人間の手が入っていない天衣無縫じみた美しさだった。信じられなくてもっと目を凝らす。せいぜい、ブラとパンツの食い込んでいたあとが薄っすら見受けられるぐらいだった。
肉体の輪郭は、まだ少女か少年か、といったところ。ほっそりした骨組みに弾力のある肉がついているけれど、ボリュームが“女”と比べると心細い。
「きれいだけど、やっぱりまだ子供に見えるなぁ」
「もう! プロデューサーさんっ、やる気があるんですかっ」
ありすがわざとらしく頬を膨らませ、くちびるを尖らせた。可愛らしいが、あざとい――子供っぽい、ではなく――プロデューサーは自分の感覚に驚く。
手を、ありすの頭髪から頬へ。
「キス、したいな。ありす」
「唐突ですねー。雰囲気、もっと大事にしたほうがいいと思いますー」
間延びさせた抗弁も可愛らしい。可愛らしく思う感情が募るほど、本当に誰かとこの少女が既にセックスしているのか、今から自分がこの少女とセックスするのか、とプロデューサーは疑いたくなる。
「……自分は山の中で“童貞ですか?”なんて聞いてきたくせに」
「だって、あの時プロデューサーさんちょっと汗ばんでて」
「汗ばんでて?」
「む、ムラムラ、シちゃったんですもん」
ありすの細い肩を抱き寄せた。
裸のありすに手を這わせる。傷一つないどころか、プロデューサーの手のひらに吸い付いてくるようだった。細いくせに、彼女の肉も骨もゆったりと構えて彼の腕に身を任せている。男の腕に抱かれたことぐらいある、と無言のうちに主張している。
「軽いなぁ」
「子供って言われるよりは、そう言われたほうが良いです」
「……あったかいな」
「ぞくぞくしますよ、プロデューサーさんの、手」
丸いか平らかで言えば明らかに平らなありすの胸が、そろそろと触れてくるプロデューサーの指先をぷりぷりと押し返す。これから花開いて発展する可能態の何かが内在している。それをいくらかでも現実にするのが、彼女のために彼が引き受けた仕事のはずだった。
「ありす」
「はい」
「キス、したい」
「どこでも構いませんよ」
「……くちびるに」
「奪ってくれるなら、どうぞ」
「女って複雑なんだなぁ」
触れるか触れないか、粘膜でささやきあうようなキス。本当のおしゃべりが長かったせいか、ありすもプロデューサーもくちびるの表面がかさついていた。ふわふわとした吐息がくすぐったかった。
「ぷふ、んんっ……んふ、はふふっ」
上くちびる、下くちびる、左右の口角。文字通りのくちづけ。ときどき、アゴや頬までずらしてみる。ありすがくすくす笑ったら、そのえくぼにもプロデューサーがくちびるを押し付ける。えくぼの凹みに吸い寄せられるようだった。
「あぁ、ありす」
「どうしました?」
「ありすが笑うたびに、思い出しちゃうかも知れない」
「何をですか」
「今シてるキスのこと」
ありすのくちびるが、プロデューサーの頬につねるように吸い付いた。
チュっ、と音も散らしてたしなめる。
「プロデューサーさんって……キスは、へたっぴですけど」
「何だよいきなり」
「口説きは、いい……いや、私の好きな感じです。さすがプロデューサーさん」
「そうかな。自分では、言っちまった瞬間……キザかなぁって気がしたけど」
ありすがくすくす笑いながら、膨らみ始めたかどうかの乳房を手の指でわざとらしく隠す。
着衣ごしに触らせたのと逆だった。押してもダメなら退いてみろ、とプロデューサーを釣りにかかる。
プロデューサーの手が、のろのろとありすの乳房に迫る。彼女の指を一本ずつずらして、小さな肉突起に向けて指を這わせる。
「ん、ぅ、ゃあっ……は、あっ……」
「なんだか……」
「ぇ、あっ、んくっ……どうし、ました……?」
「……あ、なんでもない」
「なんですか。言いかけてやめないで下さい、気持ち悪い」
ありすの胸乳の素肌に触れている。温かくて、なめらかで、舐めてもいないのに甘ったるい味がプロデューサーの舌に広がる。果物か砂糖菓子のようにムシャムシャ食べたくなってしまう。恐ろしくて言葉を奪われる。
「心臓と、肺が、ある」
「さっきは感じられませんでしたか?」
「さっきより、ずっと」
「……どきどき、してますもん」
ふっくらと温かい。心地よい。堅くて脆そうな胸郭も察せられる。そのすぐ奥に、とくとく忙しない鼓動と、ふわふわした吐息の気配がある。
肉突起に指先を押し付けてやる。
「きゃんっ……!?」
「あ、ごめんっ」
「いじわるな指、ですっ」
ありすがプロデューサーの頬を人差し指でつついてきた。乳首をくすぐられた反撃にしては朗らかすぎて、つつかれるがまま作り笑いを返すのがせいいっぱい。
「ん、んぁ、ふ、ぁ……ん、んぁ……っ、そぇ、は……くすぐ、った……っ」
「……っ、ぁ、はぁ……」
「プロデューサー……黙っちゃ、いや」
「ありす……」
「名前だけでも、いいです、から」
小さくとも突起らしい乳首に対して、乳輪は乳房の中で縮こまっているように小さい。そこに指を寄せたり、指のあいだで軽く圧したり。ありすの声は鈴が転がるように小さくて色めいている。くすぐったいなんて言いつつくすりとも笑わず、“いじわるな指”をせがんでいる。
「プロデューサーさんも……おちんちん、盛り上がってきているようですね」
「へぇ、ありすって……おちんちん、って言うのか」
「……なんて呼ぶと思ってたんですか」
口を尖らせたありすが、プロデューサーのスラックスごしの太腿をべしべしと叩く。腰を浮かさせて、スラックスどころか下着まで引っ剥がしてしまう。彼のペニスは彼女の片手でちょうど握れるぐらいの大きさ……だったが、そのとおりに彼女の片手でぐにぐにと無遠慮に握られてしまうと、じりじり熱や硬さを増していく。
男根の勢いが増していくほどに、その持ち主は気まずそうに顔を伏せた。
「あぁ、まだ本調子ではないんですか、それだと」
「まぁ、そうだな……じゃなくて」
「何が違うんです?」
「俺ってさ、ロリコンだったんだなぁ、って」
「ははぁ、イケない感じがしますか、ロリコンだと」
「……イケないだろ」
「イケない~先へ――」
「――仕事を思い出させるなよ」
「もうすぐ忘れさせちゃいますよ」
ありすの処女を奪った男はロリコンだったのだろうか。逆に男がありすと大差ない少年であったらそれでもロリコンと呼ぶべきなのか……と、プロデューサーは悪い妄想をつとめて茶化した。
「……あの、文香さんに教えてもらったのですが」
「待ってくれ、ここで言うようなことを教えてもらったのか?」
「『ロリータ』の作中で初登場した頃の彼女は、ちょうど私ぐらいの年齢の少女だったようですね」
「きみら、何を話してるの」
「『ロリータ』は、れっきとした文学作品ですー」
ありすから、ペニスを通して思考まで読まれてるかも知れない……と、プロデューサーの妄想がまたあらぬ方向へ飛んだ。
「あ……ぇ……ぷろでゅ……さー……?」
プロデューサーは腕でありすの体を支えながら、姿勢を低くする。ベッドの上にひざまずいて背を丸める。
「いじられるよりは、いじりたい気分でさ」
ありすにいじられたままでいると、そのまますべての精神活動を彼女に持っていかれそうに思えて、プロデューサーは半ば逃げるように彼女の秘所へ迫っていた。
「ひぁ、ふっ……、そ、そこ、は……」
ありすの太腿のあいだに顔を近づける。大人より浅く見えるヘソのくぼみ。細い腰に対して目立つ恥丘――鼻先でこする。つるりとした女陰、爪先ぐらいチラつく粘膜――無造作にくちづける。生兵法が丸出しのクンニリングス。
「き、きたない、ですよっ」
「え……そうかぁ?」
「そこ……あの、おしっこの……」
「そうかなぁ」
「ひや、あっ……そ、そっちは、くり、です……クリトリスっ、ですからっ」
さらにプロデューサーは視線を下げた。ありすの赤みの強いサーモンピンクが、恥じらうように奥側へひくついて見えていた。今彼女が本心から恥じらっているならば、童貞にも伝わるほど露骨なボディランゲージだった。さっきの自分もそれぐらいわかりやすかったのか、それならありすからペニスを触られて内心を読まれたのも……などと頭をかすめる。
「そっとしておいたほうがいいかな、ありすのここは」
「プロデューサーさんなら触ってもいいですけど……触りたいなら、触りたいって言って下さいよ、先に……びっくりしちゃいます」
「触りたい」
「あーもーっ……! 寝転がっていいですか……?」
ありすがベッドに腰を下ろして、ゆるゆると両腿を開いてみせた。プロデューサーはありすの爪先から腿の付け根まで何度か視線を往復させて、不可侵のはずの領域を許されている気分に浸った。御開帳とは実に言い得て妙な言葉遊びだったのか、と感心した。
「ほら……こうしたほうが、クンニリングス、シやすいでしょう……? 本当は、もっとしゃべりたいんですけど……」
「童貞なもんで……女のあそこ、まじまじと見るのも初めてなんだ」
「あとで入れる時に見ればいいじゃないですか。ちゃんと見ながらじゃないと入りませんし」
「それは、それとして」
「……まったく」
プロデューサーは拝むようにありすの秘所へ頭を垂れ、クンニを再開する。ありすが誘導してくれていても、女陰がただの筋になってしまったようにか細くて、くちびると舌先を触れさせるだけでも勇気がいった。
「ふ、ひゃんっ……!? は、あ、んあ、あっ」
ありすが身をよじる。それでいて、両膝やふくらはぎでプロデューサーの腕だか肩だかを挟み込む。くすぐったがっているのに、せがまれている。
「ふ、ぁ……は、ぁはっ……ま、まぁ、悪い気はしない、ですよ……? プロデューサーさんが、私のあそこに顔を埋めて……っていうのは……」
硬い膝と柔らかいふくらはぎを何度も押し付けられて、プロデューサーは拍車をかけられた馬のように、愛撫を一段と積極的にできた。指も伸ばす。太腿と下腹を撫でる。こりこりしたところを摘み、粘膜どうしをこすり合わせ、ずるずると唾液を塗りつけ舐め回す。細いありすの太腿で、筋のくぼみが濃くなったり薄くなったりしていた。
「ん、ダメ、ぇ……んっ、はぅ、んっ……んぅうっ……!」
「……ありす?」
「あ……えぇと、その……ダメってのは、雰囲気、と言いますか……」
「あまり煽らないでくれよ」
「煽るって、なんですか」
「シちゃいけないって思うと、正直、興奮する……おかしく、なるほど」
「はぁ、おっぱいの時といい……プロデューサーさんって人は」
ありすの両膝とふくらはぎが、プロデューサーをはっきりと拘束するように絡みつく。
「ダメ、ですっ」
「う、ぐ……あり、す……ふあぁぷっ、んぐっ……!?」
「ダメ、ダメなんです、もう……!」
“ダメ”の響きがもう何度か繰り返された後、プロデューサーはベチャベチャと行儀悪くありすの秘所を貪りだした。緊張と興奮で、彼の指が彼女の柔肌に食い込んでしまう。ちょっと尖って不規則な圧迫をずりずり重ね合う。
「あっ、ああっ!! はぁあっ、あ、あっあ……!」
童貞らしく稚拙で、遠慮がちで、やけっぱちで、それでもそばにいてくれる……ごちゃごちゃと錯綜した彼のクンニで、ありすは何度も嬌声を跳ねさせ、やがて腰も浮かせて、愛液までしっかりと彼に飲ませてしまった。
「なぁ、ありす」
「ふふ、くちびる……ちょっと、ふやけてますね」
くったりとベッドに脱力したありすの両腿から、プロデューサーが顔を上げた。
「これ……俺がありすにシたいことやってるだけ、じゃないかなぁ」
「そうですね。私も、そうさせてますもん」
「……いいのか?」
「そんなものでありませんか。正しいセックスって」
もう、ありすが“正しいセックスを教え”てくれるらしい。ついにあからさまに名目がひっくり返され、プロデューサーは苦笑いするしかなかった。
「言葉の綾じゃありませんよ。セックスって学校では教えてもらえませんし……どうするかと言ったら、こうやって互いに、してもされてもいいことから、好きなことを探すだけ」
プロデューサーはありすの口ぶりを耳のあいだで反芻した。彼女の語る“正しいセックス”は、ふだんの彼女らしく理性的で、ふだんの彼女とは程遠いほど享楽的だった。ありすと肌を重ねる前なら、セックスはもっと本能的で衝動的な行為だとばかり信じ込んでいた。
ありすがまさしく男の本能に訴えかける体へと成長していったら、その時のセックスは違ってくるのだろうか。
「こんどは、私があなたにシたいことをシても?」
ありすの手が、プロデューサーのあいかわらずな勃起をつかむ。彼の言語野や声門より先に、男根が返事のように震えてしまっていた。
「んちゅ……あむ、れろぉ、れぅ、んく、んんーっ……ぷはあぁっ、あは、はぁ……」
間近で見るありすのくちびるがギラギラしていて、プロデューサーにはうるさいぐらいだと思われた。控えめにした仮眠室の照明下なのに、くちびるのツヤがいやに目立つ。くちびるに塗るグロスってオーラルセックスの暗喩だったのか……などと勝手に納得した。
キスではあるが、童貞のプロデューサーでもわかるほどあからさまなオーラルセックスでもあった。橘ありすが“ふつうに”経験していそうな甘酸っぱいキスとは、とても言えない。
「ふふ、シちゃいましたねぇ、さっきまでプロデューサーさんが、私のあそこ舐めてたのに」
「あ、そういえば」
「嫌がる人もいますから、私以外とする時は気をつけて下さいね」
これから自分が童貞を卒業するとして、以降すべてのセックスが橘ありす基準になるのか……プロデューサーは、自分のものだかありすのものだかもわからないツバをごくりと飲み込んだ。
「でも、私は、ディープなの、シたかったんですっ。あなたに、私……今の私以外すべて忘れさせちゃうぐらいの」
考えをあっという間に破られる。
プロデューサーが舌をくちびるで挟まれ、引っ張られ、その舌を伝って擦ってしながらなありすの舌先に入り込まれる。くちびるの裏。歯列を超えて口蓋。アゴや鼻の裏がぐずぐず痺れて蕩ける。唾液で糸が引くぐらい、深く、しつこく。気圧される。退きかける。止めないでと言わんばかりに、ありすの手に小さく鋭くすがられる。
「上に……こんどは、プロデューサーさんの正面に……ふふっ、背中に負けないぐらい、いい気分になっちゃいます」
「いい気分、って」
「興奮させられちゃうんですよ、あなたに」
ありすから、ワイシャツとインナーシャツを指先でいじくり回される。両手でじりじりとくすぐられる。神経が直に撫でられているかのように痺れる。
「ネクタイは練習できますけど……ここまでは、なかなか」
「ネクタイは練習したのか、そうかぁ」
「ほらっ、脱がされるの、手伝って下さい。肩を浮かせて、腕も」
下着よりもさらにあっさりと脱がされる。
「あなたの肌がほしい、です」
ありすにこの調子で促されたら、着衣どころか皮まで脱がされて理科室の人体模型のようになってしまうのでは、なんて与太が飛んだ。
「……緊張、されてます? ほら、びくって」
ありすの鼻息がくすぐったい。山路を下っていた時にうなじに浴びたそれより、ずっと。
「特別に匂いが好き、ってわけじゃないです、たぶん……志希さんじゃああるまいし。たぶん、匂いをかがせてもらってる、って距離が……もっと」
「あぁ、さっき……俺も、ありすにそう思った気がする」
くちびるか舌先かがぴりぴり震えた。ありすがてれてれと――いたずらを見つかったような、何かを誤魔化した――微笑む。
「おしゃべりになっちゃってますね、私。これから、お口でシてあげるつもりなんですが……ままならないです」
言いながら、ありすの手のひらと指がペニスへ攻め寄せる。陰茎の根本から張り出しまでをこする。彼女の手は身長相応に小さいのに、プロデューサーの陰茎は彼自身が驚くほど勢いよく勃起して、摩擦に抗っていきり立つ。
「ちょっとだらしないですけど……よだれで、濡らしてあげます。ローションじゃ、味気ないですもの」
ペニスの裏筋――プロデューサーの両膝から迫るありすから見れば、表筋と言うべきか――ありすが舌で舐める。くちびるで甘く噛み付く。
「しょっぱくて、ツンとキちゃって……あふれちゃいますよ、もう。ちょうどいいですね……♥」
口中で舌にじゅくじゅくと何度もまぶしてから、亀頭の張り出しに糸を引くよう垂らす。白くだらだらと泡立つ橘ありす謹製ローション。アイドル・橘ありすの不健全なファンなら、牢屋に打ち込まれるとしても飲みたがるであろう液体が、プロデューサーのペニスを気持ちよくさせるために供されている。
「優しくねっとりシますか、それとも激しくぬちゅぬちゅって……あぁ、私が好きにシちゃうんでしたっけ。じゃあ、両方しますよ」
ありすの口中は、せいぜいプロデューサーのペニスの半分ぐらいまでが際目のようだった。ぬるく狭くぬめった彼女のフェラチオ。舐めて擦りながら、空気を無理やり吸い込む。頬裏まで震わせる。頬まですぼめて、カメラに映してしまったら放送事故モノの表情。触覚と視覚とをまとめて犯される。
そんなに追い込まれているにもかかわらず、プロデューサーから見たありすのアゴは小さくてたまらない。口まわりが小さいと女ではなく幼女に見えてしまう。ギャップで網膜と脳髄のあいだを往復ビンタされているようにクラクラする。
「んあ、ぅ、う……ありす、それ、ぇ」
「はぷっ。えぅ、んぢゅ、ちゅちゅ……んふ、なんですか? プロデューサーさん……」
「き、気持ち、いぃ」
「本当ですか? 苦しそうなお顔ですけれど」
ずちゅ、ぬちゅ、ずるずる……と強くペニスを吸い込まれる。すっぽり覆われているのは亀頭ぐらいなのに、ありすの口中がぐいぐいと吸ってきて、根本までやられて――プロデューサーはようやく気付く――根本側は彼女の指がぬちゃぬちゃと刺激されていた。あまりに自然な連携で、感覚の弁別から解きほぐされてしまう。
「もう一回、言いますけど……“してもされてもいいことから、好きなことを探す”んですからね?」
ありすの口の中をペニスで犯している体勢なのに、プロデューサーは彼女に口の中でペニスを犯されている、と感じてならなかった。少なくとも思考は完全に犯されていた。
ぢゅるぢゅる、と呼吸で部屋中に響き渡るほど音を立てられる。ぴちゃぴちゃ、と淫液で何本も糸を引くほど粘膜をくっ付けられたり離されたりする。優しいねっとりと激しいぬちゅぬちゅが、一定のリズムでひらひら切り替えられる。
「も、もうなんだか……ありすに、何をされても……」
「プロデューサーさんったら、のぼせてますね。私に」
「う、ぅう……反論できない……」
「……そうあっさり認められると、それはそれで……っ」
ぢゅるぢゅる、ぴちゃぴちゃ。ありすの口から鳴ってはならない音を聞かされ続ける。どことなく“ぢゅるぢゅる”が強くなった。追い込まれているのか、照れ隠しされているのか。
「くぉ、うぉ、うぁ……!?」
「ずっ、じゅずずっ、れろろっ、んぷっ……っ!」
プロデューサーのペニスがますます硬く勃起する。ありすにのしかかられている腹筋や太腿の筋肉も強張る。
対するありすは、口腔粘膜もくちびるもノドも柔らかい。骨のある細指だってペニスの硬さに伍するかどうか。けれど主導権が疑いなくありすにあった。
「あ、ありす、もぅ、で、出る……!」
「んぐっ、ぐぽっ、ぐぽっ……んぷっ、ふっ……飲んじゃいましょうか? 精液……っ♥」
「ぇ……い、いや……その……」
「遠慮しないで下さいよ、ここまできて」
プロデューサーは勿体ぶるように目を左右に泳がせた後、ぼそぼそとこぼした。
「い、イクのは……ありすの……そ、その、おまんこが……」
ありすが、きょうはじめてプロデューサーへ渋い面を見せた。
「え……遠慮しないでって言いましたけど、中出しは、そ、その、さすがに……っ」
「ナマとは言ってないつもりだったんだが」
プロデューサーは、ペニスの根本にありすの歯を立てられた。残された歯形は、甘噛みと言うにはいささか深かった。
※
「プロデューサーさんのゴムなんてこれでじゅうぶんですよっ」
なぜかご機嫌斜めらしいありすが、仮眠室備え付けのゴムからいちばん小さいサイズを取って勝手に開封した。
「というか、おちんちんの大きさとコンドームの大きさなんて関係ないんですよ。みんなイキがって大きいの着けようとしますけど」
「は、はぁ……」
プロデューサーは、ありすから聞かされた“みんな”から悪い妄想ができなくなっている自分に驚いた。
「小さいのだって、よっぽどの粗悪品じゃなきゃ、私の手首をぴっちり覆えるぐらい伸びますよ」
「試したことがあるのか」
「え? ……ま、まぁ。遊びじゃありませんよ、実験として……」
「手術室のメス握ってるお医者さんみたいになってそう」
ありすの手でプロデューサーのペニスにゴムが装着されたあと、彼女の手がすぐそれを外してしまう。今度は別の一封を開けて彼自身にゴムを装着するよう促す。手本を見たらすぐ実践、らしい。
「あ、いったん着けちゃったら、中に射精していないゴムでも捨てて下さいね」
「お、おう」
「さっきプロデューサーさん外科医さんの手袋みたいって言いましたけど、それと同じです。ディスポーザブルなんです」
いきなり橘ありすらしい真面目な性教育をされて、プロデューサーはいよいよ彼女で童貞を卒業する実感が湧いてくる。ほとぼりの冷めかけたペニスが、本調子の勃起に戻っていた。
「じゃあ、そこ座って下さい。私が上から入れますので」
「ありすが入れてくれるのか?」
「……まぁ、そういう気分になったんですよ」
上から見下ろしてくるありすの表情が、プロデューサーには一瞬だけ大人に見えた――すぐに見えなくなってしまう。
表情が見えないほど、ひどく近い。
「……童貞をとられちゃう瞬間のプロデューサーさん、近くで感じたいですし」
「ぁ、ありすっ」
「入れちゃいますよ?」
にちゅ、ずぷり、つぷ――ありすに素肌を寄せられて、結合部が目視できなくったってわかる――焦れていたらしき雌肉に容赦なくしゃぶられる――子供みたいな体のくせに、プロデューサーのペニスを圧倒するほど成熟している。
「う、あぁっあっ……ぁ、あ……!」
「んぁ、ふ、んんっ……どうです……? 私と、橘ありすと、今、えっちシちゃってるんですよっ……♥」
ありすの膣が小さい入口を目いっぱい開いて、勃起しきったペニスをしごいている。ペニスとともに、腹の底から胸にかけて何かが迫ってきて、プロデューサーは思わず天井を仰ぐ。
「こっち、見て下さいっ♥」
「あぅっ……!? あり、すっ」
「私を、見て……ねぇ、プロデューサーさんの童貞を奪ったのは、この、私っ♥ 目にも焼き付けてっ」
もう上体や四肢ですら、ありすの思い通りにされてしまう。オスとして、メスに貪られている。そうだ、食われてやらなければならない、メスは母親となって子を育てるために栄養が必要なのだから……あらぬ妄想が、女の締め付けの行ったり来たりのあいだに流れた。
「ふぉ、ぅ、あ……っ!」
「ねぇ、プロデューサーさん、どうですか……? 橘、ありすの、おまんこは……♥」
「あ、ありすの……ぁ――ふぁ、ぉ、あ、め――っ」
「名前もっと呼んで、ありすって……!」
プロデューサーの意識が飽和する。ありすが腰を浮かせてから沈めて、その一往復がセックス一回のような気分だった。一生一度であるはずの童貞卒業で、もう何度童貞を奪われたかわからない。
「それから、それからっ……頭も撫でて、肩もぎゅって……苦しくなっちゃうぐらい……っ♥」
「ありす、あり、す……っ!」
「プロデューサーさんの、私には大きすぎるぐらいで……おまんこ、くるしい、です……でも、もっと、だから、腕でも、ぎゅってっ、シて、ぇ……っ♥」
プロデューサーがありすの肩と胸をかき抱くと、それに倍するほどみっちりとペニスをやり返された。されるがままに射精する。どくん、どくん、どくんっ、と精液を放出しているのに、逆に泣けてきそうな何かを充填されている錯覚が催された。
「ふふ……ご卒業、おめでとうございます、プロデューサーさん……♥」
ありすをかき抱いたまま離せない。少女の肉体は、熱くて柔らかくて小さいままふるふると細かく鼓動していて、その一拍一拍にプロデューサーが溺れていく。
「じゃあ、私も、もっと好きにしちゃいますね」
ありすが四肢をもぞつかせて体重を揺らした。
※
「私……こんどはプロデューサーさんから、シてもらいたいです。ちょうどいいですよね、さっきは私が入れて差し上げましたから」
「なんだかもう、何から何までって感じだな……」
「至れり尽くせり、ではありませんか?」
ありすは、騎乗位の余韻も醒めやらぬプロデューサーのペニスに有無を言わさず新しいゴムを被せて、ベッドにだらりと大の字で寝そべっていた。
プロデューサーに思考が戻ってきていた。そういえばありすは、卒園したことはあっても卒業は未経験なのか……と考える。休んでいたほうが上等かも知れない考えぶりだった。
「……あんまり、ジロジロ見ちゃイヤですっ。焦れちゃうじゃないですか」
「え、えぇと、今、入れるから……わっ、ずらさないでくれよっ」
「ふふーん、です。ほら、ちゃんと押さえ付けて、おとなしく入れられてくれる女の人ばかりじゃあないですもん……♥」
プロデューサーがありすの細い腰をつかんでやる。1時間前であったら後ろめたくてとてもできない手付きだった。無理やり挿入する動作が――ありすに“無理やり”を望まれているにしても――妙に馴染んだ。
「んあっ、あっ……♥ ああ、捕まっちゃいましたぁ……」
「もう二度と、ありすを子供扱いできないな」
「……へぇ、良いこと、聞かせてもらいましたっ」
「そうか……?」
ありすが笑っていた。仕事中でも滅多に見せないぐらい、屈託なくニヤニヤと頬を緩めていた。
「入れて、早く、それから、さっきよりぎゅって」
「……大人扱いされたそばから、退行してないか……?」
「大人も甘えるものですよね。ねっ」
「あぁ……そりゃ、そうだな」
ありすの期待を浴びながら、切っ先の照準を合わせる。線のようだった女陰がほろほろと多少ほろこびていて、思ったよりスムーズに膣口へ添えられた。
「入れるぞ」
「入れて、下さいっ」
プロデューサーは、ありすの目を見ながら告げる。声が震えていた。自分の顔が真っ赤になって、ありすの濡れた瞳に映っている気がした。
「んっ、うっ、あ、あっ……♥ あはっ、はぁぁぁぁ……!」
ありすの膣内に、亀頭まで収める。さっき射精したばかりなのに、この時点で睾丸に射精衝動がうずうずしてたまらない。膝や腿や尻に力を入れていなければ、もう射精できてしまう。
「や、やぁ……あさい、の……もっと、ぜん、ぶっ……♥」
ありすが着衣を脱ぎ去った時と別人のように、ヌードの肌と肉がしなやかにプロデューサーへ絡みついた。それに触れながら、それを眺めながら、彼は改めて息を呑む。
人間のそれが果実のように色づくものだ、と見紛わせるようだった。子供のように華奢な下っ腹が、円錐状の異物をねじ入れられて薄っすら盛り上がったり、さらなる挿入をねだってかヘコヘコと挑発的に波打ったりしている。薄い胸肉は、大儀そうに呼吸する肺に合わせてかすかに上下していた。
「は、あ、はひゅっ!? ぉ、おっぱいっ♥ こりこり、しちゃ、あ……あっ、ゃ、あ、んんっ……ひぁ……!」
勃起した乳首を指先で軽くひねってやる。細くて小さくて、いじるだけで罪悪感を抱かせる……のに、甘く上擦った声を聞かされて煽られる。
「ありす……どこもかしこも物欲しそうで、迷う……」
「やぁんっ……ぜんぶ、シて下さいっ♥ ひゃんっ、あ、あっ……はぁっ!」
プロデューサーが腰に力を入れる。ゆっくりと、断固として、ペニスを突き入れられるところまで突き入れる。
「お、お、く……ぁ、あ、い、イ……ぅ、ぁ、ああぁあっ」
その嬌声は、直前に比べると甘さも熱っぽさも控えめだった。
橘ありすが、全身で搾精にかかっていた。
「んひゅ、かは、ぁ、あッ、は、ぅ、ぁあぅ……っ!」
上半身が仰け反って痙攣し――痙攣のように不随意で不自然な震戦を起こしているのに――断固としてオスから搾精しよう、という意思を帯びていた。プロデューサーは縛り付けられるがママになった。
悩ましく見せる半開きの目に、涙が溜まっていた。それらが痙攣で揺れるうちに、演技のようにぽろぽろと丸い雫として、あとからあとから目尻から耳へ落ちていった。
ありすは初潮を迎えているのだろうか……と場違いな疑問を浮かべたまま、プロデューサーはゴム内射精まで導かれていた。
※
「お背中、流しましょうか?」
事後、バスチェアに座りながら腕を泡立てていたプロデューサーは、ありすから声をかけられて面食らった。
一瞬、本当にありすか? と疑う。黙ってしまう。
「プロデューサーさんっ」
「お、おう」
休憩室から引き戸2つで隔てられたユニットバスに再び響いた声は、どう聞いても橘ありすの――ちょっと不機嫌そうに尖った――呼びかけとしか聞こえなかった。
「……お言葉に甘えて、お願いするよ」
「ふふっ、お任せ下さいっ」
プロデューサーの脳裏に、山路でありすを背負っていた記憶が変にオーバーラップして、まるでソープ嬢のように柔肌で背中を洗ってもらう想像までしてしまった。もちろん口の端にも出せなかった。
ありすが洗い場用の手拭いでボディソープを泡立てていた。“ふつう”に背中を流してくれるらしい。シャワーを止めてしまったせいか、クシュクシュした泡立ち音がやけに耳へ絡みついてくる。
「後悔、してます?」
「そんな、まさか」
「……浮かない顔してらっしゃるので」
「男が射精し尽くしたらこんなもんだ……そうじゃないか?」
「まぁ、そっけないですよね」
ありすに背中を擦られる。鏡を見るが、彼女の表情はプロデューサー自身の体で見えない。
「プロデューサーさんの背中、男らしいですね」
「興奮するか?」
「今は……そういう気分じゃないので」
洗い場用の手拭いで背中を洗ってもらう行為が、さっきまでの性行為と比べてやけに健全で、言い訳がましいとさえ思えた。セックスの現実感と比べてしまうと、ごっこ遊びのように薄っぺらくてたまらない。
アイドル・橘ありすとプロデューサーとしての芸能活動まで薄っぺらくなってしまったらどうしよう、とさえ思ってしまう。
「正直に、言うと……人の親から預かった娘を、という感じはある」
「プロデューサーさんったら、私を子供扱いできる立場ですか」
「俺の立場がなくったって、世間的にはありすは子供だよ」
「ふーん……」
ありすはプロデューサーから“子供”と言われても、さっぱり本気にしなくなっていた。
「他人に言っちゃいけない関係って、気持ちよければ気持ちいいほど後ろめたいですよね」
「そうだな……ズルい感じ、引き立っちゃう気がする」
「自分がズルして、いい思いをして、汚い人間になってしまった……って罪悪感、こびりつきますよね」
そういう罪悪感は、ありすから“ふつう”に背中を流してもらっても、さっぱり落ちそうになかった。
「逆に言えば……今後ろめたいってことは、あの時気持ちよかったってのと同じことです」
「……そうかなぁ」
「先達の言うことが信用できないですか?」
「先達、ねぇ」
「もうっ!」
ありすは“子供”と呼ばれても気にしないのに、“先達”と呼ばれないのは気になるらしい。
「プロデューサーさんは大人なんですから、後ろめたくても自分でなんとかして下さい。でも……」
「でも?」
「私はダメです。子供だから。プロデューサーさんが責任とって」
「そりゃ、俺にとれる責任ならとるが」
「私、後ろめたいですよ、気持ちよくされちゃいましたもん」
「……ありすは、きれいだよ」
プロデューサーが気づく前に、彼の口を衝いて出ていた。鏡の向こうで、ありすが破顔した。
「あぁ、ちゃんと覚えてたんですね」
「いや、いいや、忘れてた」
「矛盾してますよ……見え透いた照れ隠しですっ」
あれが『鏡の国のアリス』――じゃあ自分は、ハンプティ・ダンプティのように落っこちて、誰の手にかかってももう戻れない――処女雪よりはマシな洒落だ、と彼も笑った。
「きれいってだけじゃない……もっと、ありすはきれいになれる」
「俺がもっときれいにシてやる、って言って下さい。プロデューサーさんなんですから」
「それだと、キザを通り越して上から目線な感じで」
「……今なら。今なら」
ありすが、口や頬の端に泡が付くのも構わず――男にシてあげたんですから、少しぐらいイキったらどうです――プロデューサーの肩にあごを乗せて微笑んでいた。言葉にされていないのに、彼にはそう聞こえた。
「もっと、ありすをきれいにシてやるよ」
「たいへんよろしい。でも、まだ、もっと……」
ありすの声の続きは、妙に力の入った背中への摩擦と泡立ちに紛れて、もう誰にもはっきりとは聞き取れなかった。
(おしまい)