アイマスのアイドルが童貞をもらってくれるシリーズ 作:ふりーじ屋/家庭内禁書
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学マスはいまのところ手毬がいちばん好きなんですけど、依頼オラァ! って何度も書かせてたら変わっちゃうかもしれません。シャニマスのふゆとかそんな感じで変わっちゃったので……。
「家族みんなで祝うの久しぶりで……あっこれ来いよプロデューサー! って意味ですから!」
「伝わっていますとも」
藤田ことねの担当プロデューサーはささやき返しつつ、もっと言いたいことを飲みこんでいた。
「ホントかなー?」
「本当ですって」
「家族水入らずにしたほうが~、みたいなこと顔に出てましたけど」
「……一瞬でしょう」
「やっぱりーっ」
担当アイドルの顔が近い。ささやき声でもしっかり会話できる。
体も近い。
明るい金髪からうなじ、デコルテにかけて桃に似た甘ったるい匂いがほんのり漂う。それが、春にしてはいささか暖かすぎる陽気に乗って迫ってきている。
汗臭くなりがちな男子大学生の自分と大違いだと思う。
「あくまで、プロデューサーに先約がなければ、ですけど。前倒しですし」
「……当日はもう埋まってますからね」
「おかげさまでぇ♪」
彼はことねから彼女の誕生日パーティーに誘われている。“前倒し”とは誕生日の4月29日(祝)にアイドルとしてイベントに出る仕事が入っていて、そのあともゴールデンウィークで書き入れ時が続くので先にパーティーを開く、という事情を指している。
そこまではすでに知っている。
「それともー、外出申請忘れてないか? とか思って……してますよ、ちゃんとー」
「それは結構なことで……ご実家のほうが羽を伸ばせますか?」
「まさかっ、ですよ。ちびたちがみんなしてねぇ……」
「お姉ちゃんが好きなんでしょう、みんな」
「その相手を手伝ってほしい気持ちも、ちょっとはあるかなぁー……なんて」
なぜか、と思うほどことねの距離が近い。
2人は初星学園キャンパスのカフェテリアのうち、パラソルつきの野外テーブルに席を並べて座っている。学校休みのうららかな陽気の午後で、ことねの定期テスト対策をプロデューサーが手伝う、という理由でそこにノートや参考書を広げていて、さっきひと区切りついて休憩することにした。
ことねが「飲み物もらってきますよ」と席を立ってカフェテリアの給茶機に向かい、コップ入りお茶を手に戻ってきたあと、さりげなく席を動かしてすぐ横に座った。
「自分で言っておいてなんですけど、そういうことならプロデューサーにも何か見返りがあるべきですね」
「見返り、と言われましても」
ほんの数十分前までは、数学の関数だの古典の敬語だの英語の文型だの、彼自身が高校時代に培った杵柄をどうにか引っ張り出してことねの勉強をサポートできていた。
いまは半ば上の空でことねと会話している。
「そもそも藤田さんの誕生日なんですから、俺も何かプレゼントを」
「い、いらない」
「えっ」
「プロデューサーが顔出して……くれることが、一番のプレゼント~っ!」
彼はパーティーに誘われるまで、ことねの誕生日については何をプレゼントしようかだけを考えていた。
一昨年の4月29日はことねと出会って間もないころで実用的・儀礼的な品物を贈った。去年はもう少し凝ったものを贈ったが、それからさらに親密になれた気がする。
誕生日以外に手がかりを求めて記憶を探る。もっぱらアイドルとプロデューサーとしての仕事にはげんだ思い出ばかり。前例として参考にしがたい。
「あと、お父さんお母さんも、娘がお世話になってるからお礼を言わせてもらう機会をつかんでこいって」
「ご家族から応援いただけているのは、何よりで」
ではいま、ことねと自分との関係はどうなのだろうか。
「なぁに他人事みたいに言ってるんですか~!」
「は、はい」
ことねが右手を広げて、ぺちぺち叩くよう手を振るまねをする。まねだけで、テーブルの上に投げ出されていたプロデューサーの手に重ねてくる。
手が小さい。指や手首が細い。またことねの肉体に意識を持っていかれる。
「……ちょっとはきれいになったでしょ」
「きれいになったと聞かれると、いろいろ思い当たりますけどね」
「うわぁ、怖いことを言うーっ!」
「怖い?」
「……もしプロデューサーに出会ってなかったら、って思うとね」
出会ったころのことねの手はこんなにすべすべしていなかった。寝不足がちだったのか、アルバイト先で調理や皿洗いなど手先にダメージが入りやすい作業をしていたのか。
「やだ、やだっ、いつもはこんなテンションじゃないです。ほら、春はプロデューサーと出会った季節だしっ」
「俺以外にも出会っているはずですが」
「それはいま言わなくったっていいかなぁ~って♥」
甘ったるい声音に彼女自身も照れたのか、ことねの手がぴゅっと離れてしまう。
彼の手がつられて浮きかけて、ごまかすために紙コップをつかんで傾ける。給茶機の冷たいほうじ茶の味もいつもと違ってしまった気がする。
ことねが自分以外のプロデューサーと出会っていたら、別のプロデューサーに手を重ねていたのだろうか。ことねの気さくな物腰なら、じゅうぶんありえそうに思えた。
自分以外のプロデューサーだったら、ことねの手をどう感じているだろうか。仕事の領域をはみだした、個人的な感情らしきゆらぎを覚えているだろうか。
「まぁ、うん、来れたら来てよってこと! 歓迎するからっ」
「行きますよ、ええ」
「ほほう、プロデューサーは押してもダメなら……ってのに引っかかっちゃうタイプかー」
「……藤田さん」
「来てっ、来てってば! 来てくれるんでしょ? やったー! ぷろでゅーさーしゅきぃ~♥」
声が響きすぎて周りの目を引いてしまい、もうテスト対策どころではなくなってしまった。
※
「いや~、嵐のようだったねぇ」
「それだけ、みなさんうれしかったんでしょう」
プロデューサーは悩んだ結果、瓶入りフルーツジュースの詰め合わせを手土産として持っていくことにした。見た目に色鮮やかで、味も飲み比べすれば楽しいし、誕生日ケーキなどに合わせてパーティー中に飲んでもよい。
重くて持って行くまでに手や腕が疲れたことだけは後悔した。
ことねの誕生日パーティーは始まって終わるまでお祭り騒ぎだった。ジュースは“ちびたち”にめでたく好評を博した。一番人気はブドウだった。果汁のほんのりした渋みが珍しかったのか、歯の色が紫になってしまうのが楽しかったのか。
時間が飛ぶように過ぎた。
遅くなったのでよろしければ……と、ことねの両親がプロデューサーに泊まっていくよう勧めた。それを遠慮するには、プロデューサーの気力がパーティー中に――『姉ちゃんが彼氏さん連れてきたーっ!』『担当プロデューサーだって言ってるだろーっ!』『ふじ……ことねさん、その』――持っていかれすぎていた。
「遅くまで付きあってもらっちゃって……よし、お床ができましたよ~っと」
「ありがとうございます、藤田さん」
「またことねって呼んでよ~。うちはみんな藤田だしっ」
ことねの弟妹たちが寝かしつけられると、居間が一気に静かになった。夜なら寮の自室もいつも静かだが、直前までとの落差のせいか、空気の肌触りさえ妙にしんみりしている。
ちゃぶ台を片付けたあと、ことねがプロデューサーぶんの布団を敷いて客用寝室に仕立てている。その衣擦れさえ意識してしまう。
「……プロデューサーって、慣れないところだとなかなか寝つけないタチかな?」
「そうでもない、と思っていましたが」
「思っていましたが?」
プロデューサーが布団に腰を下ろすと、からり、ふわふわとした感触で受け止められる。自分を泊める前提で準備していたのか。
ただ、まだ寝転がって目を閉じる気分になれていなかった。
「……女性のご自宅に泊まるのは、初めてなもので」
「えーと……女性の家って」
「違いますか?」
「違わないけどさぁ」
夜、ことねと部屋に2人きり、ふとんは一つ。
「いーんですよぉ別に~、意識しちゃったって~」
「これは、ただ、その……あくまで、初めてだから、その」
「プロデューサーもお年頃の男子だもんね……あーもーっかわいい~っ♥」
「かわいくはないと思いますが」
「男の子はたいていそう言うんだよーっ」
ことねの印象もふだんとだいぶ異なっている。
ヘアケアのためか、金色の三つ編みをほどいてヘアターバンにまとめている。額やうなじがあらわになっていると、少女から一気に“女性”らしくなる。すぐに寝られるくつろいだ格好も彼の背筋をざわつかせる。彼女から気を許されていると思えてしまう。薄布1枚向こうの素肌も、デコルテや太ももまでなら間近で見たことがある。
「まぁ、貴重な経験だと思っておきます」
「そんなに?」
「しばらく恋人ができるあてもありませんので」
ことねにからかわれて、ついやり返してしまう――『どうしたら許していただけますか?』『あたしがアイドル引退するまで、絶対恋人作らないでください!!!』――そのぐらい言ってもいいじゃないか、と開き直りかける。
「……撤回はしないからね、そんだけのことやってくれちゃったんだよ、あーたは」
「その前の、許してください……と言ったのを、俺が撤回したら?」
ことねも、ふとんにぽすんと腰を下ろす。すぐ腕を絡められる距離に並ばれて、彼の鼻腔にまた桃に似た匂いが忍び行ってくる。
「だめぇ~♥ 男に二言はないでしょ」
「そもそもなんで許してもらわなきゃいけないんでしたっけ、プロデューサーとしてベストを尽くしただけなのに」
「むしろあたしとしては、プロデューサーを男にしてあげなきゃなぁ~、と!」
会話のかすかなすれ違いを感じ取って、お互い沈黙する。気まずいわけではないが、むずむずくすぐったい。
「藤田さんがたくさん稼げるアイドルになっていただければ、俺も男が立ちます」
「どこの藤田さんのことかな~?」
「……ことねさんが、です」
「そうそう、ここにいるのはプロデューサー以外みんな藤田さんだもんっ」
「しょうじき、アイドルで大金持ちになるのはたいへんだと思います」
「でも~、あたしの魅力とプロデューサーの手腕があれば!」
「アイドルとして成功すれば多額の収入、というのはあくまで同世代のほかの働き口と比べて、という意味です。その稼ぎを元手に資本所得を増やしていくほうが、大金持ちへの道として現実的かと」
「そういう話かぁ……」
「例えば初星は、教育機関ゆえマネジメント料などを破格にしています。卒業したら、同じ仕事単価でもこちらの取り分が減ります」
「なるほど、伊達にあの学費とってるわけじゃないのね……あーっ」
「……夢のない話をしてすみません」
「いえいえ、お金はあたしの夢ですから」
何かを打ち消すように、プロデューサーは必要以上にまじめな話題をふっていた。
「それに、あたしのあまりのかわいさでプロデューサーの目がくらんでないようで、よかったな~って」
「それでいいんでしょうか、ことねさんとしては」
「だってね……出会ってまもないあたしに、素面でね、人類全てを魅了するでしょうとか言い出すヒトだもの……はい、はいっ、わかってますとも、あたしをノセようとしてくれてたんですよねっ」
「ご心配をかけていたようで」
「こちらこそ~♥」
プロデューサーの腕に、ことねの頭がこてん、と寄りかかってくる。彼は寄りかかられるがままになる。ことねの体が細くて小さい、といままでより強く感じる。
彼を物理的によろめかせようとすれば、ことねの体が2人ぶん必要だろう。
「お金はだいじだよ~。ジュースおいくらした? あたしの時給何時間ぶん?」
「お気持ちだと思ってお納めくだされば」
「ふふ、お気持ちか~、便利な言葉」
心理的によろめかせるには、まなざし、息遣いだけでも足りる。
ことねとひとつ屋根の下で一夜、と考えて眠れるだろうか、と彼は自身を危ぶむ。
「あー、寝る前のおしゃべりって、お泊り会って感じしちゃう~っ! 実はあたしも初めてだよ、小学生のときはちびたちがもっとちびだったし、中学からは寮生活だし」
「かわいい~っ、とかよくも言ってくれましたね」
「そう思ったんだもん」
ことねがプロデューサーからちらりと視線を外し、すぐぴょんと跳ねるように立ち上がった。外した先をなぞってみると置き時計が目に入り、彼が思っていたより1時間以上も進んでいて驚いた。
「あとね、お父さんがお酒に付きあってほしそうにしてたから、先に止めておいた。おやすみ、よい夢を~♥」
「……おやすみなさい」
ふとんに座っていたことねの体温と残り香を感じてしまい、彼はきょうじゅうに寝つくのを諦めた。
※
電灯を消して真っ暗となった居間で、すーっとふすまの引かれる音を聞いた。まんじりともできずにいたプロデューサーは、すぐに意識をそらした。目も開けなかった。
藤田家は和風の間取りだった。誰かが用でも足すときに居間をそっと通る必要があるのだろう、ぐらいに考えていた。
「……プロデューサー、まだ起きてますか」
「ことねさんですか……?」
目を開けた。
「藤田家の座敷わらしです~☆」
「ことねさんですね」
「……いるかもよ? プロデューサーと出会ってから、うちもだいぶうまくいくようになったし」
「そうですか。お世話になっております」
「いえいえこちらこそ~」
ことねは彼とおしゃべりしていた寝衣のままだったが、ふだんの三つ編みに髪型を戻していた。
ふとんを小さくめくってごそごそと入り込んでくる細い手を感じて、プロデューサーの心臓がどきりと跳ねる。
「ちょ、ちょっとことねさんっ」
「きょう、うちには誰もいないんですよ」
「……いましたよね、ホラーとかドッキリとかじゃありませんよね?」
「いないってことになってるんですーっ」
藤田ことねと同じ屋根の下で一夜を過ごす。そこまではともかく、同衾から先は彼の想像を超えている。
ごそごそが遠慮なく迫ってくる。敷きぶとんの中でことねと自分の匂いがこもって混ざった。鼻で感じてしまった。もう夜どころか朝までに寝つけないだろう。
「だから、プロデューサーとあたしが、こうしてたってだいじょうぶ」
「いったい何がだいじょうぶなのか……ぁ、うっ」
「うわやっば、プロデューサーの匂いが濃厚……ふぁあああぁ……♥」
まだまだ夜が彼を惑わせる。ことねの息遣いを肌のすぐそばで感じてしまう。寝つけずにダラダラしていた感覚がみるみる緊張させられる。
「俺、汗臭い、でしょう……ことねさん?」
「なぁに、照れちゃう? ……あたしも照れちゃうかなぁ、こんなに近いと……意識しちゃうし」
「意識、って」
あらためて彼が自身の状況を認識する。夜に担当アイドルと一緒に寝て――そういう行為に至っていないが、至ったと見なされても当然――藤田家の面々に見つかったらどう言い訳するのか。
「……恋人どうしじゃなきゃできないようなこと、いろいろと、ねっ」
「そんなことは」
「ふふふ、知らないって顔ーっ……って、あたしが絶対恋人作らないで、とかってワガママな約束させちゃったんだっけ」
藤田家はことねの学費を捻出するため、父親が出稼ぎに出ている。父親がどこで何をしているのやら、自分がアイドルになりたいとか言い出したせいで……などと、ことねが密かに気に病んでいると知ったプロデューサーが、“心労の原因を潰す”ためと密かに調査して、彼女の父親の居場所を探し当て、どうにかライブに招待した。
ことねには、ライブ直前まで内密にしていた。それを明かされたとき、驚愕のあまりことねが“絶対恋人作らないで”とプロデューサーへ口走っていた。
「だいじなことは、ギリギリまでこっそりするもんだよね、そしてサプライズでどーんと」
「ち、近い、ですって」
「いや?」
「好き嫌いの問題では……」
その意趣返しだろうか、と彼はまだ思っている。逃避に近い思考であった。ことねがこうやってからかって遊んでいるつもりなら、アイドルとプロデューサーとの関係として、年ごろの女性として、軽率すぎると言わなければならない。
「……では? へぇ、あたしがいまここでこうしているのが、好き嫌い以外の問題とでもおっしゃる?」
もし“好き”だから、そういう彼女の個人的な感情でこうしているのなら。
その可能性だけでも気になって仕方なくて、言うべきことと言いたいことが食い違って言葉に詰まらされる。
「好き嫌いだけの問題じゃ、ないんです」
すると、ことねが黙ってしまう。
すぅ、はぁと吐息がやけに大きく聞こえる。言葉を失っているのではなくわざと黙っているのでは、と邪推してしまう。近すぎて表情を視界から隠されてしまい、沈黙で何を語っているかわからない。
彼女といままでで一番近づいて、同時にいままでで一番抜き差しならない空気に肌と粘膜がさらされる。
「……あ」
「な……なんですか」
なのにことねが、まるでどこ吹く風の気ままなふうに、さらに手足をもぞもぞさせる。
彼の耳元にもったいぶって顔を近づける。
「おっきくなって、興奮しちゃってるね?」
彼は反応しないだけで精一杯になる。
「ふふ」
それでことねにはじゅうぶんだった。
「そりゃあ初めてじゃあ……もがっ、んぐぐぐっ」
「ちょっと口を閉じててくださいっ」
彼がカマをかけられたと気づくまでと、ことねが酸欠でクラクラしはじめるまでが、ちょうど同じぐらいだった。
「……ったく、童貞バレがなんですか。あたしなんかプロデューサーに世帯収入が万円か千円かの単位で把握されてるんですよ」
「そこまでは……それに、それだけでこんなに動揺してたわけでは」
「ほかに何か?」
「こんなに騒いでしまっているのに……やはりご家族が」
「言うな、言うんじゃない」
「つまり」
「いない、ってあたしさっき言ったでしょう、いいね?」
夜に薄明かりも消して、衣擦れも耳に残る静かな部屋。一つのふとんに2人きり。その状況は相変わらずだった。
「……藤田さんの個人的な事情にめちゃくちゃ深入りしてた、って、あらためて」
「いまさら?」
「俺が……できることをしようと思って、それで、こう」
「あたしのために、できることをしようと思って、ですよね~っ」
「それも……そう、ですが」
彼の心境は相変わらずどころではない。
「よし、あたしもプロデューサーのために、できることをしてあげようとっ」
「……できれば寝かせていただきたいのですが」
「寝られるの?」
「誰のおかげかと思ってるんです」
「あたしが近くにきてドキドキさせられちゃったせい~っ、んもう、男の子だねっ」
「深夜で変なテンションになってませんか」
「ええ、責任とってスッキリさせますともっ」
「あの、会話が」
「おしゃべりしながらでも、できるよ。むしろしゃべって、プロデューサーの初めての感想とか、聞きたいもん」
もう朝まで寝られない、と諦めた彼は、かけぶとんを剥いで敷きぶとんの上にあぐらをかいている。
そのヒザの上にことねがぐいぐい乗りかかってきている。“おっきくなって、興奮しちゃって”を嫌と言うほど自覚させられている。
「……ことねさんは、その、男の人と」
「プライベートな質問には答えかねますぅ~」
「俺だって、聞きたいわけではありませんが」
「恋人です~ってんなら答えなきゃかもだけど……あたしがプロデューサーに約束させてあたしが破らせちゃあ、ねぇ」
「……わかりました、聞きません」
ことねが寝間着の合わせ目を緩めて、指でつまんでわざとらしくパタパタさせている。至近距離で甘ったるい匂いに襲われる。暗くてほとんど閉ざされているはずの彼の視界に、ことねの素肌がちらつく。
「もっと気楽に構えちゃってよ……あたしの、日ごろお世話になってるプロデューサーへの感謝のお気持ちだと思って」
「……俺が先に言っておいてなんですけど、本当に便利な言葉ですね」
ことねがこれまで彼に思わせぶりな態度をとった覚えは、彼にまったくない。
ことねが彼に思わせたとおり、言わば恩返しとして“スッキリさせ”てくれるつもり、と考えてしまう。
都合が良すぎ、と自分の思考に突っこむ。
「まぁ、まぁ。心の準備ができるまで、あたしはこうしてプロデューサーを堪能してるよ」
「ん、うっ……!?」
恩返しならアイドル・藤田ことねが成功してくれるほうが正統であるし、こうしてコソコソしたりする必要もない。
「んふふ、ごめんね、くすぐったい?」
ことねの提案はご都合主義の極みである。お互い恋人になるわけにはいかないけど、恩返しなら恋人のするようなことをしてもいい。そんな無理が通ってたまるか、と思う。
「……俺の体なんて、べたべた触っても、面白くは……」
「プロデューサーの反応が面白いんですよ~♥」
思うだけで言葉にできない。
「逆に、プロデューサーがあたしの体をべたべた触ったら、面白いんですか?」
「面白い、と言いますか」
「触りたいですか?」
ことねの肩や腕の細さ、体重の軽さを服ごしに押しつけられている。それに比べると、彼の下腹部や足に乗せられているお尻が、それなりにむっちり弾力を感じさせてくれる。ほっとするやら、ムラムラさせられるやら。
「もう触って……っんっ」
「まだ、あたしが触ってるだけです。プロデューサーの手で……ここはまだ腕か……この手で、なめるように、むさぼるように……どうです?」
ことねの指先らしき感触が、彼のヒジ、手首から手の甲をなでて、それから指のあいだにも。
にぎにぎしてくる。
「あとさっきから……んうっ、とか、んっ、っとか……いきなり聞かせすぎないで、聞かされたあたしもくすぐったくなって」
「これは不可抗力で……! っぁあっ」
「もっといじりたくなっちゃうんですもんっ♥」
自分よりずっと細い指に絡め取られるがままにされる。ことねも自分も手がホカホカとしてどんどん熱くなる――『人間の手には、AVA血管というタイプの血管があります。体温調節のとき、ここに血液がいっぱい流れこんで体が体温調節しようとします。だから寒いとき手を温め、熱いときは手を冷やすと調節がはかどります』――あさり先生がいつか教えてくれた豆知識が思い浮かんで、すぐ吹き流される。
「いまプロデューサーの顔を見たら、真っ赤なのかな」
「……電気、点けてみますか」
「それは止めましょう。暗いってけっこう大事なんですよ、こういう雰囲気では」
「こういう雰囲気、と言いますと」
ことねの息遣いと、編んだ髪が垂れてこすって肌をくすぐってくる。またたく間にキスできる距離感だとわかってしまう。ことねが彼をなでる指が迷っているように止まる。
ことねが黙っている。キスしてしまおうかどうかうかがっているのか。衣擦れも身じろぎも一瞬ごとに意味深に彼をあおる。
プロデューサーがくちびるをかたく結ぶ。彼自身不自然に思うほど鼻息が荒くなってしまう。
キスなんて想像するだけで恋人になりたくなりすぎてしまう。
「ふふ……したいんですよね?」
ことねの言葉が、突き放しながら誘いこんでくる。
「……いいんじゃないですか、将来プロデューサーに恋人ができたときにうまくできるように……うわー、まるであたしが年上みたいだぁ……ふゃっ!? プロデューサーいま笑いましたね?」
「ど、どうして」
少しだけ緩められた空気の隙に、彼の手が引っ張られて、何かやわらかく温かいものに押し当てられる。
「さっきからプロデューサーの息で、くすぐったくさせられてるんですもん……えっち♥」
彼がそれを“何か”と呼んで思考をごまかせたのは、一呼吸のあいだだけだった。
※
「ええとね、プロデューサーがあたしの……おっぱいとか、あそことか、見たいって言うのは……理解します、はい」
「……もっと遠慮したほうが良かったでしょうか」
「そうは言ってない。で……暗いままのほうが、って言うのはあたしが言ったことです。当然わかっています」
「明かりを点けてしまったら、さすがにご家族が」
「ええ、はい、その通り……なんだけど、これはこれで恥ずかしくない?」
けっきょくほとんどボディーランゲージだけで性的同意に至ったことねとプロデューサーは、2人で一つの掛け布団をかぶってその中でもぞもぞしている。
明かりはことねのスマートフォンのライト一つきり。ことねの人に見せてはいけないところだけ照らしている。
「俺も、いけないことしている感じがします、すごく」
「でしょうね……っ」
ことねが上着をはだけて乳房をあらわにしつつ、それを手に持った明かりで照らしてプロデューサーに見せてやっている。ボリュームが控えめで、彼の手だとあっさりすっぽり覆われてしまうだろう、と彼は想像する。
ことねと目が合う。恥ずかしげに視線をさまよわせる。そのくせ明かりをチラチラ振って、控えめなふくらみに陰影を妖しげに行き来させる。
プロデューサーとアイドルとしての一線を越えるのは良くない、と思いつつ欲が出る。
「ことねさんの、もっとよく見たいです」
「素直になったもんですねぇ……♥」
彼が身を乗り出すと、明かりがあわてたように揺れる。ことねが口角を釣り上げながら平べったい吐息を漏らす。両ヒザを開いて、もっと近くまで招き入れてくれる。胴と太ももまで照らされる範囲が広がる。細いウエストが呼吸に合わせて肋骨の陰を浮き沈みさせ、その下は……彼がごくんと生唾をのむ。
「ご感想が、ほしいかなぁ……黙ってみてられると、こっちも緊張が」
「きれい、です、その、すごく」
「プロデューサーにしては、素朴な褒め言葉で」
「……ひねったほうがいいんでしょうか」
「ううん、いいから、もっと見て……触るのは、もうちょっとだけ待って」
ことねからすると、いまは彼の視線だけでいっぱいいっぱいだった。もとより彼とセックスするつもりであったが、ふとんの中で自分の恥ずかしいところだけ強調するように照らされていて、ひょっとするとスマホのささやかなライトがステージ用の大掛かりなライトよりも熱く感じる。
いっぽう彼は、ことねの裸身からすっかり目が離せなくなっている。明かりに浮き上がる肌は白く、乳房も小ぶりで控えめで、それが彼をいままでさんざん誘惑してきて、いまその肌が恥じらって上気して赤らんでいるのも見える。ますます興奮してしまう。
「あ、足とかは、そのっ、別に……触るの待って、っていうのは……そういうところで、ほかは別に……」
「……そういう、ところ、ですか」
「むむむ、プロデューサーったら、ぼーっとして……見惚れちゃうにしてもほどがあるぞーっ」
言うほどことねも冷静ではない。逆光で、座敷わらしがどうのとしゃべっていた直前よりも見えにくい彼の一挙手一投足から、濃厚な欲望を嗅ぎ取っている。
その続きまで彼女は想像できる。
「……いまは、見て聞いて楽しいだけのアイドルじゃないから」
プロデューサーの指をつかまえる。さっき握りあったときよりしっとりしている。手汗かな、と思ってニヤニヤ笑ってしまう。人の手汗に触れて笑う自分はどうかとも思う。
「ん、んっ……あたし、だってね……あるでしょ、ちょっとは」
「はい……ドキドキしてますね」
「そりゃあ……もっとあったら、プロデューサーにバレずに済んだかな」
「じゃあ、うれしいです……それに、あったかい……」
「あたしをもっと恥ずかしがらせようとしてる?」
「そんな……!」
「もっと触っちゃえっ」
意を決して両手とも乳房に触れさせる。まず手のひらがぴったりくっついて、それから五指がやわやわと食いこんでくる。彼の呼吸をことねは指から知る。力を入れすぎないよう深呼吸しているのだ、と察してこそばゆくなる。
もっと強くしていいよ、と言う代わりに彼の腕や胸板をつつく。明かりを持っていなければ両手が使えるのに、と少し惜しくなる。行儀悪く足を伸ばして探って彼の足か腰あたりをかかとを引っかけて手繰り(?)寄せる。
「わっ」
「あたしも、また触りたくなっちゃった……いいですよねっ」
愛撫と呼ぶには好奇心が勝りすぎて、じゃれ着くと呼ぶには意味深すぎて、不慣れでじれったくて、そのくせ他人事のように微笑ましくい。かけぶとんにこもった雰囲気まで火照っていく。2人がまだあずかり知らぬことだが、それはアルコールに酔っ払うときに似ていた。
「ん、ふふっ……あっ、ん……そんな触り方しても、おっぱい出ませんよ……♥」
「出たら……出たらどうしよう」
彼もだんだん遠慮が薄れてもにゅもにゅとことねを味わう。
「女の子のおっぱい、って意識しちゃうでしょ。鼻息荒くなってるっ」
「あの、その……つい……んんっふっ!?」
「プロデューサーがされたいぐらいの加減で、しちゃって?」
ついにスマートフォンを端に寄せ、畳んだ着衣を強引にスタンド代わりにして立たせ、照らされながら触ったり触られたりできるようにする。彼が横から3分の1だけ照らされて、いつもより3倍かっこいいようにもかっこつけすぎなようにも見える。自分の顔やスタイルもそう見えていたら、と想像が広がって気分が浮つく。
「あそこも……見えにくいかもだけど……そのぶん、指で、見て……」
「ことね、さ……んくっ……!?」
「もちろん、あたしもプロデューサーにそうしちゃいまぁす♥」
プロデューサーの下腹部を、足の付け根を、それから股間をまさぐる。もうことねが挿入される感覚を期待してそわそわしてしまうほど、大きく硬くなっている。指先でちょっと気をつければカリ首が張っているシルエットも察せられる。
指をかけてくるくるなぞると、ペニスがびくっとする。
「プロデューサーも、触ってみて……ん、そこは、ちょっとずれてるっ」
「……足ほっそいですね」
「いま気づいたわけじゃないでしょ、まぁそっちも触りたければ……」
彼の手つきはことねが思ったより焦れったい。人差し指だけほんのり指先から爪が出ていて、つけようと思えば引っかき傷をつけられるかも、といまさら気づく。そういうことをするつもりじゃなかったんだろうな、という指がデリケートゾーンにそろそろ近寄ってあちこち探ってくる。彼をリードしていると自覚してますますことねの肌も粘膜も敏感になる。
「ぁ! く、ぅ……ことねさんっ……」
「あはは、指もぴくって、なっちゃう……♥ いいんだよ、もっと……ねっ」
「ん、ぁ、はぁ……やって、くれ、ますね……」
指先と粘膜でぬるぬるを感じる。指ですりすり細かくこすってやると、ちゅく、ちゅく、という音が呼吸とシーツの衣擦れのあいまにわずかに響く。彼からもやり返してもらえる。手コキ、手マンらしくなってきたかも、とことねも陶酔する。
「クリ……だけじゃなく、ナカも……っは、はぁっ♥」
ぎこちなくて、おっかなびっくりで、優しすぎて、快感ならともかく絶頂に程遠い指先。それが物足りないどころか、いつまでも続けばいいのに、と願う。いつまでも触ってくれるためにこんな調子なんだろう、と都合よく考えてしまう。
「ことねさん……やっぱり、そこ、照らしていいですか……?」
「……うぇぇえ……! めっちゃ恥ずかしいんですけど……やっぱり、わざとあたしを恥ずかしがらせようとっ」
「……その、見たことが、ないんで……大事なところですし」
「あぅ、くっ……い、いいです、よっ……これが、女の子の……ええいっ」
こんどはことねのスマートフォンを彼が片手に持って、彼女の下腹部や秘所を照らす。もっとよく見ろ、と半ば開き直って足を開いて腰を持ち上げる。申し訳程度に光から顔を隠す。帯状に切られて視界をかすめる光のせいで、彼の表情がよく見えないのが惜しい。
「こうまでさせたんですから……入れるとき、穴を間違えたりとかしないでくださいね」
「うっ……やっぱり、そこまで……させてくれるんですよね」
「期待して……しててくれたんでしょう? んっ、ふ……」
「あ、しゃべってるときは、触らないほうが」
「優しくしてくれれば、いいです……ううん、もっとしゃべって、いじって」
しばらく彼に愛撫されるがままにさせて、ときどき口先でからかってやる。クリトリスが彼からすると一番触りやすい場所らしい。ことねからしても楽しませてもらえる、が――童貞さんから見るとあそこは触れにくいものか――と内心で密かにぼやき――この調子だったら自分から入れてあげたほうがいいかもしれない、リードしすぎな気もするけど楽しいし――と勝手に決める。
「ふ、ぁ……はふ、ん、ふっ……プロデューサー……楽しい? あたしの、あそこ、いじって」
「楽しい、です……ことねさんが……いやらしく、なってくれて……んっ!」
「こらぁ、女の子にいやらしいとかいきなり言うんじゃありませぇんっ」
「すみません……」
「……プロデューサーだけなんですからね、もうっ」
ちょっと媚びすぎたかも、と頭の片隅によぎったセリフも、お互い頭がゆだっているいまはちょうどいいらしく、愛撫が膣内もうかがうようになる。彼の指先でぬちゃ、にゅちっと鳴らされて、きゅっと彼の指を締めつけてしまって、ことねは思わず照れ笑いを漏らす。
「薬指なら……もう1本、入れても……だいじょうぶですって、だっておちんちんが入るんですよっ」
「ええと……」
「ちょっと意味深にとっちゃいました?」
「……しょうじき」
2本で膣口をなぞられ、広げられる。ちょっと童貞らしさが薄れてきたかもしれない。そんなに急いでうまくならなくてもいいのに、とお節介を言いたくなる。お金も介さず童貞に抱かれてあげる女なんて童貞が好みなのだから、と冗談めかせば言ってしまっても……どうにか口元までにとどめる。
「プロデューサーにいじられて、濡れてきちゃいましたよー……ふふふっ」
「ふ、ぅ、ぁ……ことねさん……」
「なんだか、プロデューサーもいじられてるみたいで」
「ことねさんの、ナカ、むにゅって……指で、感じてしまって」
「ぅっふふっ……こらぁ、笑わせないのっ」
彼を安心させるためか、自分の興奮をほどよく和らげるためか、単に気持ちが浮ついてたまらないためか、ことねの笑い声が彼女自身で思うより高くなる。ぬるぬるを親指にねっとりと広げながら、くいっくいっと下腹部を軽く揺すられる。自分が膣の奥に向かってきゅうっと切なくなるのを感じ取ってしまう。まぁまぁ童貞らしさが薄れてきたかもしれない。
本気の嬌声を漏らしてかけぶとんと壁の向こうの家族に聞かれてしまったら、という危惧に至ってぞくぞくする。
「っあ……!?」
「よーし、お預けにしちゃったけど、おっきいままで、これなら……ゴム、着けてあげますっ。プロデューサーってゴム着ける練習したことあります? ……ああ、いいです、その反応が見られれば」
言ってしまってどうしよう、という言葉まで口をついてしまう。キスしてもらえたら止めてもらえるだろうか。でも彼はキスしてこないはず、だって恋人を――着替えに忍ばせたゴムの包みを強引に引き裂く。彼にスマートフォンを返させ、腹筋にこすれそうなほど勃起したペニスを必要以上に明るく照らす。
「……ことねさん」
「ちゃんと見て、着けるところ」
「は、い」
「さっきのあたしの恥ずかしさがわかりましたか」
「やっぱり仕返しのつもりで……」
「分かち合いたかった、と言ってくれます~?」
ゴムを装着してやったプロデューサーの性器を見ていると、いよいよ自分に挿入できてしまう状態になった……と、ことねに調子外れの感慨を催させる。とりあえず彼の手にスマートフォンを押しつける。
「ちゃんと照らしててくださいね、じゃないと失敗しちゃうかも」
「失敗したら……どうなってしまうんでしょう」
「……ええと、まぁ、うん、とにかくっ……それまぶしい、ちょっとずらして」
「はい、はい」
彼をあお向けに寝かせて対面でその腰をまたぐ。彼が明かりを向けながら顔を起こして、まじまじと結合部を見ている。また恥ずかしくなって、必要以上に明かりにうるさく注文をつける。
どうにか割れ目に押し当てる。
「じゃあ……プロデューサーの童貞、もらっちゃいますが……心のご準備はいかがでしょう♥」
「……これでやっぱりなし、って言われたら、ことねさんのことちょっと恨んでしまうかも、ってぐらいには」
「やだやだ、そんな言い方、ちょっぴり恨まれたくもなっちゃ……冗談ですって、ほら、行きますよ」
ことねが腰を沈める。膣口が、指2本より太い亀頭をついばむように飲みこむ。彼の童貞最後の息遣いと、ゴムごしでも伝わる硬く熱い感触を味わいながら、根本までずぶずぶと挿入する。
「ん、くふ、ふふ……童貞卒業おめでとう、と言ってよろしいですか?」
「ぁ、ふあ、は……はい、ありがとう、ござい、ます……」
彼のペニスが膣にみっしり詰まって、自分の中を押し広げてくる存在感を申し分なく感じる。ふとんの内側に2人で体を寄せあっていると、全世界で2人だけでいる錯覚がやってくる。
「プロデューサー、顔、見せて……ほら、明かり」
「え……その、あの」
「あたしだけ見られてたら恥ずかしいです~っ♥」
体を前に傾けて顔を近づける。彼の表情より彼の汗の匂いが先にはっきり伝わる。
「む、ぐ……ふぁ、あぅ……!」
「こうやって、角度変えるだけでも……入っちゃってるなぁ、ってわかるでしょうっ」
ことねがゆったり腰を浮かせる。ペニスのカリ首で引っかかれるのを感じて、思わず膣に力を込めてしまう。彼が歯を食いしばっている気配を感じる。必死で射精をこらえているのか。
「ことねさ……は、ァ……く、そんな、うご……ぐう、う……っ」
「別に、出したっていいんですよ……? あたし、プロデューサーとこうしてるだけで、気持ちいいですしっ」
むしろ快楽や絶頂よりくせになるかも、と思うほど心地良い。彼の顔を見るたびにこれを思い出してしまったら幸せすぎて困って困ってしょうがないだろう、と半ば以上本気で悩む。自分が気持ちよくなると口やノドがカラカラになったり息が苦しくなったりして、いつまでもは勘弁願いたいけれど、こうしてプロデューサーの上に乗っているとどうだろう。まったく違う――ふとんの中でのぼせて倒れるまでこうしてたって――プロデューサーも一緒にのぼせて、そのまま朝になって家族からふとんをはがれる羽目になったら困る。気まずくて向こう1年は実家の敷居をまたげない。
もっと体を傾けて顔を寄せる。また彼の吐息を頬で感じる。うっかりキスしてしまったらどうしよう、と彼の首元に顔を埋める。
「……ぎゅってしててください、腕で」
「それは、いいんですか……?」
「してくれたら、好きなように動いていいです……抜けないでしょうし」
言いつつ、自分の腕も彼の肩と首に回す。明かりがどこかに除けられてしまったが構わない。もう暗くてもじゅうぶんすぎるほど彼を感じられる。
「それ、ぇあ、あっ、ことねっ……う、あっ!」
「ふふ、へへ……呼び捨てされちゃった……? 俺の女だ~とか思っちゃったり?」
「あ、うぁ、く……も、もう、で、る……!」
好きなように動いていいです、と告げた舌の根も乾かぬうちに自分がくちゅくちゅ好き勝手に動いて彼の棒をしごく。腰を行ったり来たりさせるごとに背筋も震える快感に見舞われる。彼も同じぐらい気持ちよくなってくれているだろうか。
彼のペニスの硬さと太さに、膣肉がどんどんぴったり合わさっていく気がする。彼の切羽詰まったうめきや震えが楽しくも名残惜しい。自分の中もきゅうっと締まってきて、彼のペニスがぴくぴくと震えているのをもっと鮮明に感じる。このあたりか、と膣をうねらせながら奥まで押しこむ。
「あっ……ぷろでゅ……ふ、ふふっ……♥」
その途端、彼がことねを一際強く抱きしめてくる。また名前を呼ばれた。呼び捨てだったかどうかまではわからない。息が苦しいのにうれしく感じて彼がもっともっと愛おしくなる。ゴムごしの射精を味わいながら、彼の塩辛い首筋をなめる。
ここならシャツで隠れるはず、と信じて吸いつきながら遠慮なく歯を立てた。
※
「きょうは、私のお味噌汁ですが」
「きょっきょうは……? ああ、いいえ、いただきます」
朝、どうにかふとんから這い出たプロデューサーは、ふとんを畳んだりちゃぶ台を戻すのを手伝って、藤田家の朝食の相伴に――「こら、寝ながら食べるんじゃないっ、こぼすぞっ」「終わったら早く歯を磨いて、あとがつっかえるから」――あずかっていた。
ことねの母がよそってくれた味噌汁が、“きょうは”の意味深さに気を取られてろくに味わえなかった。
「お母さんったら何言って……こんごともよろしく、プロデューサーっ♪」
もしごはんを噛んでいる最中でなかったら、恋人ではないとは何だったのか、などとプロデューサーは口走っていたかもしれない。
飲みこむあいだに、ちょっとした意趣返しのセリフを思いついた。
「ことねさんとは、末永くお願いできれば、と」
ことねにだけ、ぼそりと聞かせた。
「けほっごほっ!?」
「うわっ姉ちゃんいきなりなんだよっ」
ことねの背中をさすってやった。夜に味わった抱き心地を思い出してしまって、朝食がなかなかノドを通らなかった。
(おしまい)