アイマスのアイドルが童貞をもらってくれるシリーズ 作:ふりーじ屋/家庭内禁書
ご依頼は http://skeb.jp/@freege_affected か、 http://twpf.jp/freege_affected からどうぞ。pixivリクエスト https://www.pixiv.net/request/plans/7443 も受け付けています。 ※pixiv、ハーメルンとくるっぷに転載しています。
美鈴さんのご実家については私の妄想です。
起きていようが眠っていようが、この娘はおのずから男を誘っていた。
――川端康成『眠れる美女』その二
※
「塩辛いですね。けれど、汗や涙にしては生臭い」
N.I.A最終オーディションで担当アイドル・秦谷美鈴とともに、月村手毬に苦杯をなめさせられた翌朝のことだった。
「美鈴さん」
「何か?」
「……なめるものではありませんよ」
「でしょうね」
何をわかりきったことを、と微笑む美鈴の口元から、担当プロデューサーの先走りらしき糸が引いた。わずかなそれを見てしまった。
そんな淫行に及ぶなどさすがの美鈴でもありえない、と彼は一瞬だけ現実逃避できた。
「あ、ぅううっ!?」
「わたし以外にそんな声を聞かせてはいけませんよ。このありさまでは人も呼べないでしょうが」
彼自身がベッドに寝巻きのままペニスを露出させられている状況と、それを美鈴の手で愛撫される感覚とが、彼を即座に引き戻した。
「以前、わたしにお部屋の鍵を預けてくださらなかったことがありましたね、ですからきちんと許可を取って」
「……どうやって」
「N.I.Aでわたしがまりちゃんに押し負けて、あなたが傷心になっていやしないかと、居ても立っても居られず、朝から……と、管理人さんに」
「役者さん顔負けの演技力ですね」
「言い方を工夫しただけです」
プロデューサーはたしなめようとするが、声がこもって言葉にならない。美鈴が身を乗り出してきて胸元が吐息でくすぐられてたまらない。
さらにペニスへのソフトタッチが重ねられ、歯を食いしばって声を殺す。
「声を出すの、恥ずかしいですか」
「……こうされている時点で」
「他人を呼べない格好ですね、寝ぎたないにもほどがあります」
「秦谷さんだって……あ、っ……!」
「まぁプロデューサー、あなたからいまさら他人扱いされるなんて、びっくりしちゃいます」
彼はオーディション結果に打ちのめされていたことと、そこまでのプロデュース過程で積み重なった心労――秦谷美鈴に最高のパフォーマンスをさせるために、月村手毬をわざわざ支援する――とのせいで、昨夜の長いあいだうつらうつらしていた。
いつもの起床時間をすぎても体も頭もぐったりした感覚のままだった。
そのくせペニスだけは寝床からむっくり起き上がって勃起している。美鈴の白く小さな手に握られているせいでいつもより大きいと錯視してしまう。
「わたし、他人だと思う相手に、こんなプライベートなスキンシップ致しません」
「プライベートにもほどがあるでしょう……」
「理由ですか?」
彼はいくつもの感覚に襲われ奇妙な気分に陥っている。ベストの結果を逃した悔恨。うまく寝付けなかった倦怠。美鈴に手コキをされている羞恥、快楽。彼女への困惑。
思考がとっ散らかって、刹那的な反応や返事が精一杯になる。
「……くずかごがいっぱいになっていたので、ゴミ袋にまとめようとして」
「あれが……そんなにご興味を」
「お疲れに見えたご様子がわたしの見込み違いだったのか、それとも」
美鈴が見つけてしまったのは、彼が疲労困憊になる前の、まだ〝発散〟する余裕があったころの残滓だった。
「あうっ!? あ、くぁ、あっ!」
「わたしも、あなたにこういった興味がありますよ。幻滅しました?」
美鈴の指と手のひらに絡みつかれ、転がされ、彼のペニスが脈打つ。美鈴の柔らかい手遊びに反発して、固くいきり立って鎌首をもたげる。恥ずかしくて熱いうちに、痛みや苦しみがうっすら混ざる。
彼が自慰で美鈴を、と彼女は一抹も疑っていないようだった。表情と声音からそう伝わってきた。信じる、という言葉が得てしてうっすら帯びる反実仮想すらなかった。
「くっ……は、秦谷さん、やめ……あ、ぅ、あっ、あっ」
「存じません。わたし、何でもお見通しとは参りませんから」
美鈴の手つきが探り探りなのは、慎重さより、彼の反応を見逃すまいという鵜の目鷹の目の表れらしかった。
「むしろ、プロデューサー、あなたのことを教えていただきたいのです」
「秦谷さ……ぅくっ、やめっぇ……!」
「どうして、あなたはこんなに興奮しているのですか?」
美鈴が手コキを続けながら顔を近づけてくる。吐息の気配、目の潤い、まつ毛の1本1本にも迫られる。その顔を〝売る〟仕事を引き受けている彼でも、こう近くなれば動揺してしまう。見慣れているはずの美鈴の表情がまったく違う。
その理由を美鈴は知っていた。彼は美鈴から近くで見つめ返されることには不慣れであった。
「ダメ、です、秦谷さん、こんな……!」
「プロデューサーなら、ダメではありませんよ」
「……お、俺にだって、性欲ぐらいあります……! っくっう!?」
「いまさら、何を」
裏筋を指先で軽くくすぐられる。竿は強く、亀頭は優しくしごかれる。一こすりごとに彼を効率よく喘がせる動きになる。寝返りを打って逃れようとしても、意外に力強く彼女から抑えつけられる。
「夢の中のわたしは、あなたのお望みどおりにしてくれたでしょう。ずるい」
「……ずるい?」
「そのぶん、わたしがお世話できる余地が減ってしまったではありませんか」
いつか美鈴から聞いた〝お風呂を沸かして夕食を作り……帰りを待って〟よりひどくエスカレートした〝お世話〟に、彼は興奮しつつ恐ろしくなる。どうしてこんなことになったのか。美鈴はサボり、居眠りの常習犯で〝悪い思い〟も抱いていて彼を時折からかうが、性的な悪さとは無縁だった。
だんだん昂る射精感が焦燥を煽り、美鈴の狙いを探ってもはかどらなくなる。
「うひゃぅっ!? む、ぐ……ふぁ、あぅ……!」
「夢の中のわたしは、あなたにどうしてくれたのですか。教えてくださらなければ……わたしの好きにしてしまいますよ」
止めてくれ、と目や仕草で訴えても美鈴に知らんぷりされる。蕩けるようでも押し付けがましい愛撫が、ペニスだけでなく陰嚢もうかがってくる。否応なく身震いしてしまう。
「気持ち良いのですか?」
「や、やめ、て……ひゃあぅ!」
彼の隙をどんどん大きくこじ開けるにつれ、美鈴の声も心なしか弾んで聞こえる。口元が緩んで白い歯が見える。べっとり甘い匂いが鼻腔をくすぐる。まさか彼女の唾液だろうか。
頭の中まで食らいつかれた錯覚に陥る。
「ずるい、ずるい、ずるい、わたしの知らないところで、勝手に」
「ああっ、はっ、はぅっ!」
「大人しくしてくださいっ」
美鈴のそれが強引でも恥ずかしくても気持ちいい。おかげで彼としても抵抗しきれない。抵抗している素振りをすればもっと続けてもらえる、と理性が堕落した発想に捕まる。
頭を振る。
美鈴に抑えつけられる。
「わたしの目を見て言ってください」
「何、を」
「わたしにこうされて、興奮していますね?」
目をそらさないで堪えるだけで歯を食いしばる羽目になる。
もう一度美鈴から無言で問われる。ほんの少し切羽詰まった懇願も裏写りして見える。
「……し、しています、けれども……ほぎゃっ!?」
「知りたいことがあります」
「む、ぐ……ふぁ、あぅ……! い、いきなりっ……」
「想像の中のわたしで致したときよりも気持ちいいですか」
美鈴がふだんとさほど変わらない、落ち着いた目つきや声音に戻る。彼の興奮と羞恥がふくらむほど、それがかけがえのないものに感じられる。彼自身ではさっきからの自分の無様っぷりが腹立たしく、情けなくてたまらないのに、彼女がそれをあっさり受け止めてくれる。それどころかせがんでくれる。
「あっ、くあっ……!」
美鈴がほんの少し目を細める。自分の何もかもを受け止めてもらいたくなる。
「もっと大きくなるのですね、わたし、気後れしてしまいそう」
彼の内心を知らぬように、美鈴が快楽ばかり的確につかむ。射精感そのものを手に取っているように、下から上に、緩めたり締めたり、撫でたりくすぐったりつねったり、手コキがどんどん上手になっている。自分の弱味を担当アイドルに暴かれるほどに、彼はいっそう甘く誘われる。
「……それとも、あなたは本当は苦しがっているのでしょうか」
「は、ァ……く、ぐう、う……っ」
「顔が真っ赤で、息を荒くして、汗もべとべと。触っていると熱くてやけどしそうです。お風邪を召されたのなら、あとで体を拭いて差し上げますし、おかゆか何かも作って……管理人さんへの弁明にちょうどよいですね」
そう認めたら、これを止めてくれるのか。そう言いかけてどうにか押し留める。この熱に浮かされた状態がもしただの体調不良だったら、ありえない問いかけだった。
「ああ、心配です、心配です、そんなに苦しそうに」
「はぁ、おおおっ……!? まっまだ俺は、何も言って……!」
「存じませんっ」
また美鈴の手のひらで転がされる。美鈴がもっと弾んで浮ついた声音でもう一度〝存じません〟とささやいてくる。それから顔を近づけたまま笑う口元だけ見せつける。
「はぁ、あ、ぅ、あっ、あっ」
「わたしのことを何でも知っているようにしていながら、自分はこんなところを隠していたのですね」
彼の葛藤が微塵も通じない。快楽がますます上げ潮になる。興奮で理性が溶ける。彼に射精をがまんさせる歯止めから倫理観がぽろぽろ落ちて、強引な彼女へのイラ立ちや困惑だけになりつつある。もてあそばれることを受け入れてしまっている。
「ダメ、です……これ以上は……汚してしまう、から……ぁ……っ!」
「その汚れは、わたしがさっき始末したものと同じですか?」
このままでは何を言わされるか、何をされるかわかったものではない。美鈴への焦燥が募る。
「……出るところも、見たい、ですね」
「で、出る、から、止め……ぅううあっ!? 止め、ぇっ、ぁああっ!」
せめて、美鈴が少しでもこちらを気持ち悪がるようすを見せてくれれば、少しでも引いてくれれば、彼も踏みとどまれる。美鈴の意に反してしまうぐらいなら、断腸の思いで後に引ける。
「存じませんって。ですから、あなたの気持ちいいところ、気持ちいいやり方を、教えてください」
「お願い、お願いです、これ以上はっ」
「隠さないで……恥ずかしいかもしれませんが、わたしだって、時折、無性に……」
その思いの余地を美鈴が、受け入れてあげましょうか、と期待させて埋めにかかってくる。
「それ、ぇあ、あっ、う、あっ」
「……魔法使いのようなあなたは、ご存じなのでしょう?」
担当アイドルの手でしごかれて射精する。成果を上げていたプロデュースは台無しになり、美鈴以外からの信頼も地に落ちて退学もありえる。この痴態が露見するかはともかく、理由不明でいきなりの契約解除となれば、美鈴だってこれから色眼鏡で見られてしまう。
それでも射精したい。もし美鈴さえ黙っていてくれれば、と自分勝手な期待がふくらむ。ひどいことであるほど、受け入れてもらったときの陶酔も深く強くなる。
「あなたに、ここまでしてもらったら、俺は……!」
「ええ、また、こういうことをしてもらいたくなって、しょうがなくなってしまいますね」
「何が、存じません、ですかッ」
美鈴がまた顔を近づけてきて、にっこり笑う口元を見せてくる。訳知り顔からさっきより甘ったるい匂いが漂う。自分は歯磨きもまだの臭い口なのに、と妙なことが気になる。
「……あなたはずるいんです」
「何が、何がっ」
「あなたのこの部屋は」
「秦谷さんっ」
「あなたは一人部屋で、わたしは相部屋です……くずかごに、あんな無造作に、入れて済ませられませんっ」
いつか堪えきれなくなる気はしていたが、その瞬間は気づかぬうちにやってきた。
「誘導しておいてなんですが、いいタイミングでしたね」
「……秦谷さん」
精液がべっとり絡みついている美鈴の右手を見せつけられた。
「ひどい匂いです。どうしてくれるんですか……プロデューサー?」
「……俺は、知りませんでしたよ、あなたが……」
その日の美鈴の達成感はそこが頂点だった。
「……プロデューサー?」
疲労困憊から強引に勃起・射精したあとの彼の倦怠感の重さは、美鈴のあずかり知らぬところだった。淫行を続けるどころではなかった。
抜け殻のごとく無力に成り果てた彼のため、美鈴は本当に体を拭いてやったり軽食を作ってやることになった。
※
「家族には『SyngUp!』が解散になってから心配をかけっぱなしなんです、それを晴らすお手伝いをお願いしたく」
「俺が、ですか」
知られてはならない朝からいくらか経ったころ、不意にプロデューサーは美鈴から里帰りへの同行を求められた。
「せっかくですから観光もしていきます? あるいは、もし近ければ、わたしもプロデューサーのご実家に、ぜひ」
彼は一回だけ訝しげに聞き返したあと、明らかに説明が不足していると思いながら、もう頷いた。
あの朝以来、彼の魔法使いのふりは鳴りを潜めた。美鈴がそんな彼をお世話しながらアイドル活動をどうにか続けている状態だった。2人以外誰も何も知らないままで、月村手毬だけ――『いつの間にか張り合いが無くなってるじゃない?』――しばしば不満を鳴らした。
「あと、あなたの訳知り顔、恋しくなりました」
それ以外の関係者は、かねて知られた美鈴の素行の悪さを彼なりに収めているのだ、と好意的に解釈していた。
美鈴の実家は、通りに面して並ぶ町家の一つに見えた。間口に対して奥行きが長い長方形の敷地に建物と庭が交互に配置されていた。いまはのれんもないが、江戸や明治のころ何か商いをやっていたらしかった。
「小さいころ、ここでよく昼寝していました」
「それは、すやすやとお休みになっていたのでしょうね」
「起こされた時、ほっぺたに畳にあとが残ってしまっていたのを笑われてしまったこともあります」
部屋の畳敷きの一室に、美鈴がプロデューサーを案内した。彼女はなぜかバスタオルのように大きくてふわふわした布を抱えていた。
「あなたもその心地を感じていただければ、よかったのですが。次は秋ですね」
「何度も押しかけて、俺がお邪魔でなければ良いのですが」
いまでも春や秋の昼なら、家屋で日陰になる中庭と日が当たる南庭のあいだに起こる微風が座敷の畳を這ってくるらしかった。文字通りの庭涼しとイグサの匂いとに浸って寝転がっていれば、座布団も敷かぬまま昼寝してしまうほど心地よいのか、と想像した。
彼が訪れたこの日は、その趣を味わうのに少し蒸し暑かった。現に美鈴は季節を先取りする朝顔柄の浴衣を着ていて初夏らしく、背広の彼をほんのり恨めしくさせた。
「ご家族は」
「夕方には戻るそうです。こんな門構えですが、祖父母の代からはふつうの勤め人ですよ」
「お休みの日にうかがえればよかったのですが」
「ふつうの人のお休みは、わたしたちの書き入れ時ですから」
彼は美鈴から座布団を勧められて座った。それから彼女自身も座るか、と思いきや件の白く大きくふわふわした布をぱらりと敷いてころりと身を伏せる。畳縁をまたぐのもお構い無しで、せっかくの浴衣もしどけなくほころびる。
「お休憩、しましょう」
昼寝をするにも少し寝苦しいだろう、と言う彼の視線を受け流したまま、美鈴が目を閉じる。表情も緩む。くちびるが爪1枚ほど開く。無心な寝顔に見える。つられて彼も気を緩めかける。
「お布団代わりには、いささか薄く狭くありませんか」
美鈴は彼の側を向いて、左を下に横寝している。左腕が折りたたまれて枕代わりになっていて、そのままではしびれてしまう、と心配になる。右手はあごの下に添えられ、指が本当に眠っているかのように脱力して心持ち内側に曲がっている。
背中は曲げられ、足は軽く折りたたまれている。大ざっぱには胎児を思わせる。下の左ヒザと上の右ヒザが少しずれて重ねられ、浴衣の生地がつま先にかけて花開くように乱れている。浴衣がヒザ下に引っ張られて、そのぶん太ももとお尻に生地がぴったり貼りついて、しなやかな曲線を浮きだたせてしまっている。
「俺は、そうすんなりと眠れません」
美鈴の表情は無心らしきままである。美しくかわいらしいが、見るほどに彼は脅かされた心地になる。彼女のこうしている顔が一番人の心を惹くとしたら、自分のプロデュースがまるで徒労である。
美鈴ににじりよって左肩を押して揺する。ほんのかすかに吐息が乱れただけ。肩と首を抱えあげる。美鈴の頭が、手にずっしり重く感じる。見ていて顔が小さい、と思っていたからなおさらである。
「……あなたは時々、学園のベンチやら、屋外でも平然と昼寝しますが……どうかと思います」
首が据わってないと、本当に美鈴が意識を手放しているのでは、と強く思わされる。あくまで振りだ、実写ドラマでも事切れることを示す定番の仕草として使われているぐらいだ、と言い聞かせる。
同じ部屋で、文字通りの意味で寝ることは、セックスよりハードルが高いと思った。振りだとしても、美鈴がすっかり無抵抗である。いま自分の気が変になったらどうするのか、と他人事のようにハラハラしてみせる。
「学園はいい人ばかり……ですけど、機会さえあれば……という人間もいるのですよ」
自分の口ぶりに、美鈴への恨みが出てしまった、と自覚する。あの朝の奇襲について美鈴を表立って責めていない。いない理由は、あのとき射精までした自分が何を、という死に損ないの羞恥心だけである。
「人が弱ってるところに、何もあんな強引に迫ってくることないじゃないですか、俺だって……少し夢見ることもあります、未経験なりに」
空いている手で美鈴のくちびるをなぞる。さらりと乾いている。リップクリームでも塗ってあげようか、とイタズラ心がちらつく。本当に力は抜けきっている。いつか美鈴とともに手毬から聞かされた、花海咲季の超人的な寝付きの良さを連想する。
美鈴が昼寝の常習犯とはいえ、こんな失神じみて唐突に寝入るものか。体温と緩やかな吐息とを感じていなければ、119番にかけていた。
「……このまま見ているだけでもいいんですよ。ご機嫌斜めの秦谷さん、とてもかわいらしいんですから」
挑発の中に、美鈴のご機嫌次第では見ているだけで済まさない、と出てしまった。それを彼は自覚しそびれるほど、美鈴の狸寝入りで理性を削られている。
美鈴の肉体は、童貞プロデューサーに対して刺激が強すぎる。無防備という体でいっそう強く迫ってくる。
「んっ……」
「秦谷さん?」
美鈴が抱えあげられたまま、彼のヒザに上体をごろりと転がしてくる。二度、三度ノド奥から小さく声を漏らしたあと、何事もないようにすぅ、すぅと寝息らしき呼吸を、彼のシャツの腹部へやんわりこぼしてくる。服越しにも彼女の吐息がくすぐったい。
「いまの俺、汗臭いでしょう」
美鈴から背中に手を回され頬ずりされる。もはや狸寝入りがどこまで本気か怪しい。
「こんなことなら、もっと……秦谷さんといると、そういうことしょっちゅう考えさせられる」
手コキで射精して、射精させてという行為にあの朝で及びつつプロデューサーは美鈴と最後までは未経験である。未経験でいれば、あの朝のことなしにうまくやっていけたとしたら、という空想が現実に近づいてくれると彼は願っていた。倫理観より未練がましさの印となっていた。
そうしたまねを続けていても、ちっともなかったことにできない。美鈴がそうさせてくれない。
「……んぅ」
「くすぐったいですか」
美鈴の黒いショートボブが幾分乱れて、ふだん隠れている耳殻が見える。色白の頬や首筋よりほんのり肌色が濃く、耳輪の端や耳たぶは赤らんでいる。そっと指先でなぞると、彼の腹部に向けて彼女がもぞつく。
浴衣が緩む。うなじと肩の輪郭線が、着衣の向こうへ誘うように伸びている。美鈴の図々しいところを知っている彼でさえ、とても初々しく感じるほど細くしなやかな線を描いている。ふだん隠れている後ろ髪の生え際で、とても細くて白く輝いて見える産毛がちらついてどきりとさせてくる。
「起きないおつもりですか」
美鈴の肩に腕を回してゆすぶる。この趣向が不愉快ではないが、まったく落ち着かない。昼下がり、美鈴の家で2人きり。美鈴が寝入った体ですべてをプロデューサーに委ねているようで、彼の言うことなどどこ吹く風で、彼女の狙いどおり動くまでちっとも相手してくれそうもない。
「もっとくすぐったくしてあげましょうか」
プロデューサーは必要以上にそうっと美鈴の頭、肩を白い布の上に横たえると、浴衣に包まれた肩、腰、太ももと順々になぞって、畳の上にはみだしている素肌の足首で手を止める。
「最近、秦谷さんの足に踏んでもらいたい、という声が聞こえてきます。〝悪い思い〟がよく伝わっているのでしょうか」
足首も首、肩に劣らずほっそりして肌が滑らかである。それでいてアキレス腱や両くるぶしの触り心地がずっと固くて、彼を安心させる。アイドルという〝総合芸術〟――歌手、ダンサー、モデルなど本来ならその道一つ極めるのに凄まじい努力が必要なパフォーマンスを、一人で引き受ける――を支えるならこのくらい堅固でなくては、とも思う。
つま先に手を添えて、あたかも透明なハイヒールを履いているようにさせる。伸ばされた足の甲のすべすべした肌からいくつもの動脈が浅く浮き出る。その一筋を指先でなぞる。抗議のように土踏まずがぐっと深くなって、そこも撫でる。撫でる先をかかとに移すと収まる。〝少しもガサついてなんていませんよね〟と幻聴が聞こえ得意顔が幻視できる。土踏まずはともかく、ふだん自分で手入れしている部分であれば触っても気楽に構えられるらしい。
「んっ……」
指の付け根にふぅと息を吹きかける。鼻を寄せる。畳のイグサから移ったらしき匂いが目立つ。それで美鈴の汗が隠れてしまったような、そうでもないような。
「よろしいんですか」
ここで美鈴が気分を害して一蹴りかましてくればこちらは鼻血を垂らす羽目になる。畳に血じみができたらどうしよう、と急に心配になる。もう一呼吸して顔を離す。
「秦谷さんったら、この有り様なのに、隙がありませんね。プロデューサーとしては助かりますが」
次に無沙汰に投げ出されている美鈴の手を取る。顔を近づけると左手、左腕から髪の残り香が立ってきて、さっき頭そのものを抱えてきたときより不思議と強く感じられる。
両手を握り直す。男の自分と比べて小さいが、指を曲げさせると節が出ていたり、皮膚から筋の浮き沈みが透けて見えたりする。彼女が初めてここで昼寝したころほど幼かったら、この手はもっと小さくもっとずっとぷくぷくした姿だったろう、と思った。
「あの朝には、この右手で、良いようにされてしまいました」
息を殺しつつ口づける。
「っ……」
美鈴が少しでも力めば、彼が頬かあご当たりに爪を立てられるはずだった。不意打ちへの反応は、彼の薄い汗を少し撫でるほどにとどまった。
「起きていたら、うんざりされてしまうことをしましょうか」
自分が暑気と緊張と興奮とで汗ばんでいるのに涼し気なままの美鈴が、ますます恨めしかった。全身に口づけて彼自身よりひどく肌をべとべとにしてしまいたい、とノドをカラカラにしながら思う。
浴衣をはだけてやる。横寝の上である左側は腕を袖から抜いて、肩甲骨やブラジャーまで露出させてしまう。二の腕をつんつんとつつく。見た目がほっそりしているのに触り心地がむっちりしている。
左腕を彼女の頭上まで上げさせる。腋を開く体勢になって、腕の肩側がますますむっちりする。反対にくぼんだ腋窩から甘ったるい匂いが鼻先を覆うように濃く彼へ届く。つるつるしている。美鈴が浴室の姿見前で処理している様子が勝手に想像される。
「ん、っ……」
腋へ顔を近づけていくとき、水中を平泳ぎで進んでいるときにも似た抵抗を感じた。腋は彼の意識になかったフェティシズムである。匂いに羽虫のように誘引されているだけ、と自覚しつつますます近づいてしまう。もし美鈴が嫌がったときに飛んでくるであろうヒジ打ちの角度をちらりと目測する。
もっと近くまで誘いこまれる。
「俺、だんだん添い寝では済まない気分に近づいてますよ」
警告の体で言い訳して、肩口やデコルテに息を吹きかけてさっきのくすぐりに報復する。
それから腕と腋のあいだに顔を埋める。
「んっ、ふっ……!?」
彼がすっかり顔を埋めきってから、美鈴がぱたりと腋を閉めてきた。もし端から見ていたらハエトリソウの捕食じみた動きだった。ふにゅり、と肌に挟みこまれる。むんむん濃い匂いが彼を襲う。汗ばんで濃厚に漂うフェロモンがずきずきするほど脳を煽る。距離を隔てたファンにはまったく届かない、ひょっとすると月村手毬や美鈴の家族さえ知らない匂い。
童貞には刺激が強すぎる。
「んっ、んっうぁ……はぅ、んぅっ……」
それでも美鈴をべとべとにしてやりたい気持ちが勝つ。美鈴の匂いが濃いほど、それを自分の唾液で塗り替えてしまいたくなる。くちびるを開ける前から唾液腺がとうにしびれている。ふにゅふにゅと押しつけられる二の腕や腋窩に、舌を這わせて反撃する。べったりよだれを塗りつける。匂いが混ざってごちゃついてしまうがお構い無し。ぴくん、ぴくんという舌触りから、美鈴の驚きか、皮膚と動脈から波及してきた拍動かと思う。
そうこうしているうちにペニスが勃起して、下着やスラックスがきゅうくつでしかたない。
「言いそびれてましたが……かわいらしい下着ですね」
美鈴の腋から顔を上げて、気も大きくなったプロデューサーが半笑いで言葉を放る。白く楚々としたカラーリングに、バストをふんわり優しく包むシルエットだった。童貞の彼にすら、寄せて上げて見せるより支えて守って育てるための、少女が裏当てつきキャミソールから最初のブラに移るときに似合いそうだ、と連想させる代物だった。彼がさっき腋につられたのは、ブラジャーをどう評してやればいいのか思いつかなかった都合もあった。
「念のため言います、脱がせますよ」
肩紐をずらされたときの美鈴は、足や手をいじられているときよりずっと平然としている。スリーサイズを73・54・74と公称しているが、バストがふくらみかけなのかどうか彼は知らない。ふくらみかけなら比較的固いはずだが触ってもよくわからない。彼が見て触って知る女性の乳房は、記憶の彼方の母親を除けば美鈴だけである。
「もう言い訳できませんね、俺は」
彼の手で余裕をもって収められる美鈴の乳房は、腋より湿り気も温もりも控えめだと感じる。なだらかな胸の桃色の小さい乳首を指先で一撫でする。彼女の首筋がぴく、と瞬きぐらいに揺らぐ。これは意外と固いんだな、と心中でだけつぶやく。
じいっと眺める。小さめながらもぴんと張り詰めた乳首が興奮の表れかもしれなかったが、彼は触れかけてためらう。これは無垢な赤ん坊にこそふさわしい器官だ、とセックス中に場違いに思う。
「心臓の音、聞いてもいいですか」
「ん、っ」
緊張して自分の心臓がうるさくなったり、腋窩ごしに味わった拍動を思いだしたりで、彼は美鈴の胸元にそうっと顔を寄せる。とくん、と形容するには少し派手なリズムを聞く。BPMが彼よりほんの少しだけ遅い。
だんだん美鈴の息が大きく深くなっている。彼女の胸元に顔をつけていたままでいると、胸郭や横隔膜の挙動から変化がわかる。
彼女の狸寝入りはほとんど最初から語るに落ちている。相手がクマか何も知らない他人ならまだしも担当プロデューサーである。隣で美鈴に昼寝されたことが何度もある。彼が見抜けないはずも、彼女が見抜かれていると気づかないはずもない。
「んっ、ふ」
彼にのしかかられているにもかかわらず、美鈴が寝返りしようとする。彼の両肩に腕を回して、ひしと抱きついてくる――(寝ながらこんなに力強く抱きついてくる人がいるわけ……もしかして月村さんとは)――胸元に頬ずりしてやると、捕まえたままぴくんと反応してくる。彼女の吐息が頭髪にかかってくすぐったい。
「俺の頭なんか汗臭いと思いますよ」
じゃまされず動ける先は美鈴の下半身側だけだった。彼女の脇腹とウエストが、汗を吸った薄布にぴったり貼り付いている。
朝顔の紫と青が目立つ浴衣をもっとはだけて白い素肌をもっとさらす。下着はブラジャーと揃いの白く楚々としたデザインだったがポケット付きのサニタリーショーツで、まさか生理中か、と一瞬戸惑う。本来なら生理用品を忍ばせるはずのポケットが不自然にふくらんでいるのが目に付く。改めるとコンドームの包みが一つ。
「……ありがたく、使わせていただきますとも」
まさか穴は空いていないだろう、と思いつつためつすがめつ眺める。例の朝から少し立って彼はネットの動画でコンドームの着け方を予習し自室で一度練習したことがある。男の責任だから、と言い聞かせるとむしろ罪悪感が深まった。責任あるプロデューサーは担当アイドルとセックスしない。
彼が勃起ペニスをスラックスと下着から解放してやる。着け方をどうにか思いだす。まだ狸寝入りが続く。
彼が美鈴の下着を指に引っ掛けてずり下ろす。彼女の陰毛がごく狭い範囲に身を寄せ合うようにぺったり生えているのを見る。まだ狸寝入りが続く。
ふっくらした恥丘、蒸し菓子の切れ込みのようにぴっちり閉じた秘所を眺めてから、視線を上げる。
「あの、しょうじき、さすがに起きていただきたいのですが」
まだ狸寝入りが続く。
アイドル・秦谷美鈴の秘所を目の当たりにする。本来ならレンズやモザイクごしですら見るのは違法な光景をまじまじと眺めてしまう。手で広げなければ入れられないだろう、と思うが指先でも触れ難い。
「……あなたも、俺に触り方を教えてくれたっていいじゃないですか、少しぐらい」
美鈴の顔を見ていると、彼女に手コキされながら、愛撫の好みを問い詰められた記憶が湧き上がる。眠り姫を気取るならキスでもしてやろうか、と指先でくちびるをなぞる。あいだにねじ込んで歯列もいじる。まだ狸寝入りが続く。
美鈴の顔の左右に、わざとらしく両手をついて覆いかぶさる。下くちびるそばのほくろに鼻先をこすりつけてみる。
「あの、キスだって、俺は……まぁ、したいんで、します」
腋窩や乳房をなめたあとの口でキスはどうなのか、立腹されて歯でも立てられたらどうしよう。そう思ったときにはもうくちびるどうしがかすっていて、ええい、と重ねてしまう。鼻息と体温と身動ぎが揺らぐ。乾いていてほんのりしょっぱかった味を、唾液を塗りあわせて変えてしまう。
ちゅく、ちゅく、と音を立てながら、美鈴の歯列と舌まで唾液を塗りつける。もし舌が入浴できたらこんな気持ちよさだろう、というほどに温かく心地良い。何度も何度も責め立てるように続けていると、こくん、とノドの鳴る音を聞いた。狸寝入りでなかったらむせているだろう、とつい笑ってしまってキスが途切れる。
「べとべとにしちゃいましたね、アイドルの顔を。プロデューサー失格です」
自嘲の言い回しで念押しする。キスでも致命的な不祥事なのにセックスとなれば論外である。
まだ狸寝入りが続く。
「すんなり入れる自信は、ありませんので」
見直した秘所が、内側から割れるようにほんの指先ぐらい広がって、よだれじみたもので内ももまで濡れている。興奮とともに腹立たしくなる。
「でも、入れますよ、入れますって、ねぇ、秦谷さんっ、秦谷さんっ」
美鈴とセックスしたいと内心では思っていたのに、それが暗黙だが同意の上で叶うのに、すがるように呼んでしまう。
「はた――ぁいたっ!?」
「声を落としてください、近所迷惑です」
いきなりうなじに爪を立てられ、つい黙る。耳に歯を立てられながら、白飛びした意識にささやかれた。
「わたしの許しなく致してほしかったのに。わたしがあなたの許しなく致しましたように」
「……そういう問題ですか」
美鈴が、彼の想像さえしなかったほど強く腕を絡めている。ちょっと息苦しいのにひどく安心できる。
「あと、ちゃんと、この敷物の上で致してください。血じみとか畳についたらたいへんです」
「……それは、そうでしょうね」
「もっとぴったり抱きしめてくださらなければ……致してからも、ですよ」
「見えないんですが、その、下が」
「お手伝いします」
彼がこっそり予習で見ていたその手の映像とは似ても似つかない、強いて言えば接地面をできるだけ小さくした対面座位に近い体勢で、肌と乱れた着衣をこすり合わせながら探り探り不格好な挿入で、どうにか初体験を始める。一進一退、やっと場所を感じ取ったらしき美鈴が腰を沈めかける。
「うっあっ……!?」
亀頭に襲ってくる締めつけが強すぎて彼がもだえさせられた。
「……ふふ、どうかされましたか」
「痛くしてしまうと思います、申し訳ありません」
「では、そのぶんこうしてしまいます」
また、肩と首に爪を立てられる。こんどは痛みが拍車をかけてくれる。
「わたしは……美鈴は、あなたをお慕いして、おります」
窮屈すぎる膣肉を、肉棒でかき分ける。耳元に熱い吐息をかけられる。処女を割られる痛みをプロデューサーは知る由もない。ペニスにかかるものすごい締めつけの感覚は何分の一か。
「秦谷、さん……っく!」
「つられて呼んでくださるかと思ったのに」
「確かに、どきりとしましたが」
「あなたの苗字も秦谷にしてあげましょうか、そうしたら」
「……アイドルにあるまじきことを、言わないで」
美鈴は余裕ありげな口ぶりをしていた。入れる前になめたのと違いがわかるほど、肌にべっとりした脂汗も感じた。抜き差しどころではない。
「ふふ、ふふふっ、でもですね、使ってるんですよね、わたしの用意した……」
「……とっても痛くて腹が立つから、俺を怖がらせているんですか?」
実はゴムに穴が空けられていてこのまま射精して、美鈴を妊娠させる可能性がちらつく。一人で快晴の空を見上げたら視界がすっかり真っ青になったときの、地上から足元が剥がれて自分が果てない空に落ちてしまう心地がする。いまは美鈴がヒザに乗りかかってぎゅうぎゅうと手足でも膣内でも彼を圧迫してくれていて、どうにか自分を見失わないで済んでいる。
「ねえ、許してくださいね、わたし、あなたにだけは許してもらえないと……んぢゅ、く、う、ぁふ、んんくっ」
口をふさいでキスまでしてしまうと、打って変わって地に足が着いた気分になれる。痛み混じりの快楽に浸る余裕もどうにか出てくる。
「んぢゅっ、ちゅ……はぷっ、んはぁ、あっ……まだ、わたしの、話……んぅ、んっん……!」
さっきより強引にくちびるを貪る。反撃のつもりか、美鈴も歯を立ててきて、甘酸っぱい唾液にべったりした血の味が混じる。
「じゅる、んぱっ……んぅ……強引なあなた、嫌い、ですっ」
「そんなにかわいらしくしないでください。謝るより、もっと見たくなってしまう」
「……嫌い、嫌いっ、許しません、絶対、ずっとっ」
抜き差しどころではなく、自分か美鈴かのほんのちょっとした身動ぎでも気分が高まる。この瞬間をいつまでも味わいたくて射精を引き伸ばしているが、長く持たないともわかりきっている。終わりが見えて冷めるどころかもっと熱くなる。
「っく、く……ぁ、う……本当、ですからねっ、わたし、あなたなんて……んんっ……」
「さっきまで狸寝入りしていた人に、本当と言われても」
「いじわる、いけず、へんたいっ」
また耳をかじられる。このまま〝ぷいっ〟とされたら耳殻がどこか千切れてしまうかも、と妄想する。欠けたらそのまま外を歩いて、秦谷美鈴に食べられてしまいました、と言って回りたくなる。美鈴のライブでの歌声が聞き取りにくくなってしまうだろうことは少し惜しかった。
「……泣いていますか」
「汗か、よだれですよ、もうっ……わたしが泣くほどつらいこと、わざわざ、するわけありません」
肩口に何か雫がぽたりと垂れている。ペニスが食らう強い膣圧や、肩や背中に感じる広い抱擁の刺激に紛れそうで、おそらく最初の一雫は彼も見過ごしてしまったらしいが、一度気づけばあとは明らかだった。
「……お慕いしております」
「秦谷さん、俺も……んぎゃっ!?」
「あなたに言うことを聞かせるなら、噛みつくのが一番ですか。まぁ、はしたない……」
「美鈴、さん」
「……もう一度」
もう身動ぎもせず達してしまうと思った。
「もっと言って、あと、キスも」
「……口が足りません」
「減らず口のくせに……やだっ、やだ、もっと、ですっ」
ただ、布1枚でカバーするにはいささか無理がある交わりであった。
2人は思いを遂げたあと、美鈴の両親が帰宅するまで必死で後始末する羽目になった。
※
その晩、プロデューサーは秦谷家で過ごすことになった。
当然、美鈴とは壁を隔てた客間でまんじりともできないでいた。
寝る前の湯上がりの彼女から、『ひりひり、しみてしまいました』と恨み言を楽しげに聞かされていた。それも彼が眠れない一因に違いなかった。
それでいて、彼女は今夜もきっとスヤスヤ寝ているだろう、と一抹の疑いもなく思った。
(おしまい)