※この作品はR-18です。

ブルアカえっち短編集   作:夜の機動戦士

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ブルアカウエハースで引いた生徒で何か書こう、と思い立ってルミで書きました。

pixiv→https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=25597482

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料理で食欲、早寝で睡眠欲、ルミ自身で性欲をガッツリ満たし、三日間かけてた~っぷり「元気」にしてもらう話

医・食・同・源

 

<0>

 

 退勤時刻をとうに過ぎたシャーレの執務室奥。ベッドで折り重なって一回戦を終えるや否や、朱城ルミは汗ばんだ体を起こした。彼女の額にはさらさらの前髪が少し張りつき、私と励んだ情事の火照りが、赤らんだ頬に残っている。

 

「ね、休憩ついでにさ……味見(・・)してもいい?」

 

 興奮冷めやらぬ、という感じで、ルミが私の股間に視線を落とした。

 

「味見?」

「そ、味見♡」

 

 私が問い返すと、薄紫の瞳を情欲に潤ませながら、ルミが答えた。彼女の視線は、ペニスの粘液を拭き取る私の手元──つい先ほどまで自分に突き立てられていたペニスに注がれている。

 

「いやぁ、それは……」

「え~? さっき先生はあたしの(・・・・)を味見したのに~? いいじゃん、探求心だよ。舐めても減るものじゃないでしょ?」

 

 舌がちろちろ上下に揺れ、水平になりかける肉竿を挑発する。

 

 ルミの提案に、喉が鳴った。

 彼女は料理のプロフェッショナル。

 その舌は、味の揺らぎを見極めるセンサー。

 料理人の命とも言える口に、こんなモノを?

 

 一戦終えて蘇りかけた理性が、なけなしの抵抗を見せる。だが、ねっとりした誘う視線が、私の興味を誘った。血色良い唇が、目の奥に飛び込んでくる。

 

 止めなければならないはずだ。

 でも、ルミは自らしたがっている。

 

 今さら倫理を振りかざしても手遅れだ。

 それだったら、いっそ── 

 

「ね、いい? 歯が当たらないようにするからさ」

「ほ、本当に大丈夫なの? 嫌じゃないの?」

「嫌じゃ、な~い♡」

 

(こんなの、料理人への冒涜だ……)

 

 心の中では歯止めをかけていたはずなのに。

 

「分かった、じゃあ」

「やった♡ じゃ、いただきま~す……♡」

 

 私はルミの好奇心に甘えてしまった。

 

「はむ……♡」

 

 生ぬるい肉びらが、亀頭を這った。粘膜の表面に唾液を塗りつけ、傘裏の窪みや裏筋も丁寧になぞる。輪郭を確かめているのだ。

 

 

 ──ちゅっ♡ ちゅる♡

 

 

 しっとり濡れた唇が亀頭に口付けを交わす。そのまま尿道の残滓を吸われ、ごく小さな射精感が走る。ルミの喉が、小さく鳴った。

 

「ん~……やっぱり変な味。でも、こう、クセになりそ……♡」

「……ごめん、大事なお口を汚して」

「ごめん、かぁ……」

 

 私の言葉を口の中で転がすルミ。数秒ほど反芻すると、目を弓なりにして私を見上げた。

 

「先生のここは、〝ごめんなさい〟してないよ?」

 

 

 ──ねろっ♡ れるっ♡ ぴちゃ♡ ぢゅうっ……♡

 

 

「あ……うッ、あ……」

「こんなことされて、またふとくなってりゅ……♡ コーフン、ひてるんれひょ……♡」

 

 窄めた唇が亀頭をぱくりと咥えこんだ。さすがにいきなり根元まで咥えこんだりはしてこないが、包皮の剥けた粘膜はルミの口内に沈んでいる。

 

「んっ♡ も……♡ かたく、なってきひゃ……♡」

 

 飴玉を転がすように、舌が絡みついてくる。肉竿に浮いた血管が太くなり、角度がぐんぐん上がっていく。

 

 

 ──ちゅぴ♡ くぷ、くぽっ♡ れろ、れろぉ……♡

 

 

 頭をほとんど動かさない、舌遣いとキスだけのフェラチオ。亀頭だけを咥えこみ、裏筋の皺の一本一本まで丹念に味わってくる。

 

 くすぐりと吸い付きのコンビネーションが絶妙だ。ねっとりした粘膜が絡みついてくるのは先端だけ。大きくピストンされているわけでもないのに、私は腰砕けになりかけていた。

 

 それに、恍惚と目を細め、美味しそうにしゃぶるルミの淫靡な表情。馬乗りになって豊乳で愉しんだとき以上の背徳的な眺めだ。吐き捨てたばかりだということも忘れて、すぐさま次弾が装填されていく。

 

「ねぇ、ルミ」

 

 ちゅぽ……と、可憐な唇から、赤黒い粘膜が覗く。

 

「このまま出したら、イヤかな……?」

「ん~……?」

 

 ルミは僅かに口を離した。空いた唇から舌が伸び、見せびらかすようにカリ首を舐め回してくる。

 

「ふふっ、コックにこんなの飲ませちゃうんだ♡ 悪い人だね、先生♡」

「……ごめん、やっぱり──」

 

 ──ずるん♡

 

 吸い付きながら、ルミが亀頭を呑み込んだ。感じやすい所をもう学習してしまったのだろう。口内の粘膜が吸い付き、裏筋の縫い目を舌先がほじってくる。射精を催促するようにリズムをつけて吸い上げられた。

 

 ──ずる♡ ずりゅる♡ ぢゅるっ♡ ずずっ♡ ぢゅるるっ♡

 

「あっ、ルミ、っ!」

 

 ひとたまりもなかった。我慢を用意する間もなく、二番汁が噴き上がる。

 

 ──びゅっ♡ どぷっ♡ ごぷ、ごぷ……♡

 

 ルミは口を離そうとしなかった。それどころか、射精中もずっと吸い付いてくる。精液を啜り、舌で尿道の筋をなぞり上げてくる。

 

「ン……♡ んぷ♡ っお……♡♡」

 

 唾液よりも濃厚な粘液が口内に溜まっていく。私は彼女の頭にそっと手を添え、ただ腰を震わせるばかりだ。

 

 あまり間を置かずの射精だからか、量は少なめだ。しかし、粘膜に包まれながら迎えるオーガズムの深さは、これまで迎えたものと遜色ない。

 

 あぁ、口にも出してしまった……。

 

 犯してはならない罪を犯す背徳感が、肉欲にさらなる火を入れる。射精を終えても貪欲に亀頭を舐るルミが、肩を揺らして息を乱している。

 

「ん、ふ……♡ っ♡ んぐ……♡」

 

 

 ──ごく♡ ごぷ♡ こくん……♡

 

 

 念入りに残滓を吸い上げながら、ルミが喉を鳴らした。嚥下のたびに舌が引っ込み、粘膜が柔らかく亀頭を揉んでくる。

 

「ぷぁ……♡ や~、なんか早かったね、先生♡」

 

 ルミの唇からは、唾液と精液の混合物が糸を伸ばしている。

 

「男の人ってさ、けっこう連発できちゃったりするの?」

「いや、本当は、一回出したらしばらく休憩がいるんだけど……」

「ふ~ん……じゃあ、これはあたしの料理(・・・・・・)のおかげかなっ♡」

 

 まだ射精の余韻が残る頭で、ここ二、三日の食事を思い出した。何がどう作用しているのか私には分からない。だが、過労で枯れ果てていた私はルミの薬膳料理(?)で回復した──どころか、その先まで活力に満ち溢れているのは確かだった。

 

 溜まっていたとはいえ、もう三度も射精したのに、まだ余力がある。少しばかり柔らかくなっているが、肉感的なルミの裸体を前に、疼きが腰の奥で燃えている。

 

「……ねぇ、柔らかくなっちゃう前に、続きしようよ♡」

「えっ」

 

 ルミが私に跨ってきた。透き通ったパープルの瞳が、妖しい輝きを放っている。私の胸板をくすぐっていた手が臍を通り過ぎ、まだ愛液に濡れる肉竿を握った。びく……とペニスが持ち上がり、熾火に薪がくべられていく。

 

「先生もまだ、したいでしょ?」

 

 裏筋の縫い目を甘く掻かれて、思わず腰が浮き上がった。その瞬間──理性を獣欲が引っ繰り返してしまう。

 

「ルミ、っ。大人を挑発して……!」

「そうだね。悪い生徒に指導する(・・・・・・・・・)って大義名分があった方が、都合いいでしょ? お説教は後でいっぱい聞くからさ……♡」

「んぐ、ぅ……」

 

 細い指先がペニスに絡みつき、根元からきゅっと絞り上げる。細い肩が前後するたびに、ぬちょぬちょと淫らな音がした。

 

「ねぇ、お願い先生。あたし、まだお腹いっぱいになってないんだ……♡」

 

 獲物を捕らえた獣のように満足げな笑みを浮かべ、赤い舌が唇を湿らせた。そのしぐさが、私の理性をグラグラ揺らす。理性の手綱を手放せばどうなるかなんて、分かりきっている。

 

 ――にゅぷ♡ ずぷっ……♡

 

 それでも──私はまた、ルミに甘い声をあげさせてしまった。

 

 

 * * * * *

 

 

<1>

 

 私がキヴォトスにやってきてしばらく経ち、シャーレオフィスビルは訪れる者も疎らな開店休業の建造物から、D.U.のちょっとした観光スポットになりつつあった。その要因の多くは、当番にやってきた生徒の話を聞いて、あるいはただ単に遊びに来る生徒の賑わいにあったのだが。

 

「さっき打ち出してきた所だけど、契約書はこれで大丈夫かな?」

 

 開店前のシャーレ併設カフェの一画。山海経高級中学校・玄武商会の長を務める朱城ルミとそのマネージャー兼護衛、鹿山レイジョが、並んで書面に視線を落とした。

 

 フォーマットを調べて作成した契約書を、ルミの指先が慎重になぞる。その隣では、革のカバーがつけられた手帳に、レイジョがペンを走らせていた。

 

「うん、事前に打ち合わせた通りみたいだね」

 

 契約書は数枚にわたった。山海経コラボメニューの内容、通常納品に加えて必要になる食材、材料調達の負担割合などが、簡潔に記されている。その大半は、レイジョを経由して送られてきた情報だった。

 

「材料費は、シャーレ持ちでいいんだよね?」

「うん。普段の経費に上乗せされることも、連邦生徒会に許可は取ってあるから」

「ふふん♪ いいねぇ。商機拡大で願ったり叶ったりだよ」

 

 ルミもレイジョもご満悦だ。それもそうだろう。カフェのコラボメニューという名目だが、実質は玄武商会傘下の店が一つ増えるようなものだ。それも、山海経から離れたキヴォトスの首都D.U.に。

 

「それで、スタッフの配置はどうするの? 契約書には書いてなかったけど」

 

 私が尋ねると、ルミが前のめりになった。

 

「最初のうちはあたしが来るつもり。本店はレイジョに任せておいても大丈夫だし。ね?」

「はい。会長が留守の間、しっかりお店をお預かりします」

「……というわけで、はい」

 

 ぽん、と小気味よい音を立てて、玄武商会の印鑑が押された。私の署名と印鑑を押して、契約締結だ。ルミは満足そうに印鑑をレイジョに渡すと、私の顔を覗き込んだ。にこやかな笑みを浮かべているが、視線が厳しい。

 

「ところで、先生? な~んか、顔色が良くないんだけど……」

「そ、そうかな? いや、元気だよ?」

 

 付け足すように言ってみたが、二人の訝しげな顔を見れば、嘘は明らかだった。

 

「ダメだよ、先生。人が健全に生きる基本『三大欲求』が満たされてないでしょ? そういうのって顔に出ちゃうんだよ。体が元気になるものをいっぱい食べて、よく寝ないと」

「う、うん。それは分かってるんだけど……」

「レイジョ、頼める? リストはすぐ送るから」

 

 ルミとレイジョの間に、細かい説明はいらないようだ。用件も言われていないのに、レイジョはスッと席を立った。

 

「徒歩数分圏内にスーパーが複数あります。近い所に行ってきますね」

「うん。領収書も取っておいてね」

「承知しました」

 

 涼しげにアイコンタクトを交わすと、レイジョは背中にスクールバッグを担いでカフェを後にした。買い物をレイジョに任せると、ルミはキッチンを点検し始めた。

 

「朝ごはん、食べた?」

「……いや」

「も~……ダメだよ先生。そんなんじゃ、一日お仕事頑張れないでしょ?」

 

 設備や食品の在庫を確かめながら、ルミはスマートフォンを操作する。レイジョに「買ってくるもの」を伝達しているのだろう。メモを作ってから出かけるよりも、移動中に伝えた方が高効率だ。玄武商会での普段のやり取りが透けて見えた。

 

「医食同源──お医者さんのお世話になる前に、まずは食事だよ。早く上がれるよう、元気の出るもの作ってあげるから」

 

 そう言ってウインクすると、ルミが大きな鞄から中華包丁やら大きなお玉やら「仕事道具」を取り出し始めた。

 

 三大欲求が満たされていない。ルミは確かにそう口にしたはずだが、「よく食べて、よく寝る」としか言っていなかった。残りの一つは気にしていないか、あるいは知らないのかもしれない。

 

 この時はまだ、そう思っていた。

 

 

 * * * * *

 

 

<2>

 

~一日目~

 

 料理は技術であり、極まった技術はそれ即ちアートである。包丁の刃がオーケストラの指揮棒よろしく軽やかに舞い、ただの「材料」でしかないものが作品の一部に変わっていく。

 

 香辛料の香りが湯気とともにホールへ漂い、立ち上る炎に油の弾ける音が混じる。プロの手が一品を仕上げていく様は、それだけで一種のエンターテイメントだった。

 

 レイジョが買い出しから戻ってそれほど経っていない。にもかかわらず、彩りも盛り付けも美しい料理の数々は、シンプルなテーブルを宝飾品の飾られた食卓へ変貌させた。

 

「まずは栄養補給と、安眠の準備って所かな」

「すごい……」

 

 ルミ曰く「軽め」に並べたのは、ぷっくり膨らんだ餃子の皮を透かし、ハマグリの白い身がのぞくスープ餃子、艶やかな葱生姜ソースがしっとり絡む蒸し鶏、そして具沢山の茶色い粥。

 

「これは八宝粥です。山海経だと、お粥にいろいろ具を入れるのがメジャーなんですよ」

 

 ルミの隣に腰を下ろし、レイジョが解説してくれた。複数の穀物や豆類が入っており、甘くてデザートのような味わいらしい。体調の悪いときに食べる卵粥や年始の七草粥のシンプルな味が思考の前景に立ちふさがり、味が今一つ想像できない。だが──

 

「……美味しそう」

 

 喉が鳴った。優しい香りの湯気に包まれ、見るからに体を労わってくれる献立だ。箸を持つ前から、胃の奥がきゅうっと鳴る。コンビニのおにぎりすら受け付けなかった体が、今は明らかに食事を欲していた。

 

「さ、お昼にはちょっと早いけど、食べよっか。あたしも作ったらお腹減ってきちゃった」

 

 三人でテーブルを囲み、手を合わせる。

 

 まず気になったのは、初めて対面する八宝粥だった。一口掬うと、湯気とともに香ばしい匂いがふわりと立ちのぼる。舌に乗せれば、小豆のほくほく、緑豆の爽やかな甘み、干し果物のほのかな酸味が次々と顔を出し、体が温まる甘さが体の芯まで広がっていく。

 

「どう?」

「優しい味がする……」

「でしょ~?」

 

 新しい体験だった。知らなかった味なのに、なぜか懐かしい。

 

 続いて餃子をかじれば、ハマグリのコクをたっぷり含んだ肉汁が薄皮の破れ目からじゅわっと溢れ、ニラと生姜の香りが鼻を抜ける。蒸し鶏は、しっとりとした身に葱生姜のソースが絡み、後味をすっきりとまとめてくれる。

 

「お~、いい食べっぷりだね」

「会長、珍しいですね。いつもたっぷり余るほど作るのに」

「ん? あぁ、お代わりは取ってあるよ。ただこういうときは、完食できたほうが気分いいでしょ?」

 

 ルミの狙いどおりだった。箸は止まらず、夢中になっているうちに器が空になっていた。コンビニ弁当のプラスチック容器を見下ろすのとはまるで違う、確かな充足感が胸を満たしていく。

 

「美味しかった。ご馳走様」

「はい、お粗末様。……うん、さっきよりいい顔になってる。お薬より効くでしょ?」

「そうだね、ありがとう」

 

 医食同源──その言葉の意味を実感する。ガッツリ食べたという感じでもないのに、指先まで活力が漲ってくるようだった。私が空っぽにした食器を見て満足気に微笑むと、ルミは後片付けをサッと済ませ、レイジョを伴って山海経へ帰っていった。

 

 その日の午後は頭も体も軽く、仕事が驚くほどはかどり、定時を少し過ぎた程度で退勤できた。昼の温もりがまだ体の芯に残っていて、夕方になっても足取りは軽い。

 

 お昼の残りは持ち帰って夕飯にし、その夜は日付が変わる前に布団へ潜り込み、すとんと意識が沈んでいった。

 

 深い眠りのなか、昼間の温もりがまだ体を巡っている気がした。

 

 

*****

 

~二日目~

 

 翌日。この日もルミはシャーレにやってきて、カフェ設備のメンテナンスに立ち会っていた。

 

「コンロのうち、火力を上げるのは一つでいいんだったね」

「うん。悪いね、思いつきみたいな提案なのに」

「お安い御用さ。当番のついでだ」

 

 ミレニアムから今日の当番でやってきたエンジニア部の部長、白石ウタハが、工具セットを広げていた。「厨房の火力を山海経仕様にしたい」とぽつりと口にしたルミの一言が、マイスターの職人魂を絶妙にくすぐったようだった。

 

 ガスの元栓を閉めて安全確保をした上で工具ベルトを腰に巻き、ウタハはくすんだ銀色のモンキーレンチを握った。金属音が響き、手袋の革が擦れる。

 

「けっこう部品が消耗しているね。いずれ他のコンロもメンテが必要になるだろう」

 

 ルミとは全く方向性が異なるが、ウタハもまた経験豊かなプロフェッショナルだ。ガス管を取り外し、部品を交換する手つきは、あらかじめプログラムされているかのように迷いがない。

 

 古いバーナーを外すと、やや大口径のパーツに差し替えた。接合部にペーストを塗って、元栓を開く。点火した瞬間、炎が一気に太く、青く立ち上がった。

 

「一丁上がりだ。ガレージからパーツを持ってくれば50倍ぐらい強くできるけど、どうする?」

「いやぁ、あたしはシャーレを燃やしたいわけじゃないからね。これだけあれば十分だよ」

「そうか……」

 

 ちょっぴり残念そうなウタハの隣で、ルミはにんまりご満悦だ。

 

「さて、さっそく試運転といこうか。食材のポテンシャルをフルに引き出してあげないとね」

 

 発泡スチロールのボックスから魚を取り出すルミを見ていると、私の胸が高鳴りだした。今日は何が食べられるのだろう──なんて、勝手に期待してしまう。

 

「……凄いな」

 

 隣でルミの様子を見ていたウタハが、小さく呟いた。

 

「あの手首のスナップで、鍋底の米がほぼ均一に浮き上がり、鍋肌に衝突する際に粒同士の衝突エネルギーでダマが解けるのか。絶妙なコントロールで慣性と反発を組み合わせ、均一な攪拌を実現しているわけだ」

 

 ルミが中華鍋を煽るたび、米粒の波が放物線を描き、熱対流の渦に乗って再び鍋肌から熱をまとう。その光景を、ウタハは物理実験の観察でもするように見つめていた。ただ単に「すごいなぁ、美味しそうだなぁ」と口をぽかんと開けている私とは大違いだ。

 

「実に興味深い。あの挙動を再現してみたいな。なぁルミ、今度エンジニア部に遊びに来ないかい?」

「えっ、何? もしかしてミレニアムにもビジネスチャンス? また玄竜門がうるさそうだけど、あはは」

 

 どこかズレた会話をしながら、てきぱきと調理が進んでいった。ルミは「まかないみたいなもの」と言っていたが、焼豚炒飯、白身魚の香味蒸し、豚レバーの黒酢炒めと、今日も彩り豊かだ。

 

「昨日よりちょっとボリューミーにしたけど、先生、どう?」

「うん……ぺこぺこだ。なんだか今は脂っこいものが欲しいぐらいで」

「でしょ? ちゃんと寝られてると、こういうガッツリしたのが美味しいんだよ」

 

 香ってくるゴマ油の匂いを嗅いだ瞬間、胃が鳴いていた。こんなに「食べたい」という欲求が脳から発せられるのはいつ以来だろう。湯気の向こうに見える炒飯の米粒がてらてら光り、魚が浴びた香味油の輝きも涎を誘う。

 

「い、いただきます、っ」

 

 いてもたってもいられず、私はすぐさま炒飯をレンゲで掬った。口に招き入れた瞬間、米の熱の奥から、肉の旨味とネギの香ばしさが鼻腔に突き抜ける。脂が甘い……!

 

「うま……!」

「慌てて食べると、喉に詰まるよ?」

 

 ルミが眉を八の字にして笑う。その隣で黙々と食べるウタハも、口角が僅かに上がっていた。

 

 水を飲んで口内を綺麗にしてから、白身魚に手をつける。箸を入れた瞬間にほろりと繊維がほどけ、生姜と香草の香りが肉の間からじわっと立ち上る。脂っこさのない淡泊な味わいの奥から旨味が滲んできた。

 

 豚レバーはあまり得意ではないが、そんなことも忘れるぐらい美味しい。甘酸っぱいタレにニラの香りが乗って、レバーのエグみが消されている。嚥下するまでの間にも口に放り込みたいぐらいだ。

 

「……ご馳走様」

 

 今日もあっという間だった。少しずつ料理から食器に変わっていく皿が口惜しくてたまらなかった。お腹が充足感でずっしりしているが、苦しさはなかった。むしろ「午後も頑張ろう」という強い動機が筋肉と神経に満ちている。立ちはだかる膨大な業務を早くやっつけてしまいたい、とすら思っていた。

 

「ねぇ、先生」

 

 ウタハがお手洗いに立つと、丸テーブルの斜め向かいから、ルミが椅子を寄せてきた。

 

「食欲が充実してると、幸せでしょ」

「そうだね。よく寝て、よく食べて……こういう気分の良さって、久しぶりかも」

「今日はスタミナメニューだから、明日はもっと元気(・・)になってるはずだよ」

 

 食器をまとめようとする手が、ふと重なった。しっとりした温かさに、心臓が跳ねる。

 

 一瞬だけ──ほんの一瞬だけ、ウタハとルミの温度が違ってしまった。勘違いを振り払いたくて、私は除けた手を胸に当てた。

 

「……そっか。それは楽しみだね」

「そうだよ。ふふ、明日はもっと(・・・・・・)、ね……♪」

 

 茶碗を置いた手が、一瞬名残惜しそうに止まる。目が合い、ルミはすぐ笑顔に戻すが、その瞳にわずかな熱が宿っている気がした。

 

 その日の夜、ベッドの中で私は、やけに火照る体を宥めながら眠りについた。

 

 明日もルミの美味しい料理が食べられる。私の火照りはそういう期待なのだ。そう己に言い聞かせてみたが、胸の奥に走る小さな疼きは、眠りに落ちるまで晴れなかった。

 

 

 * * * * *

 

 

~三日目~

 

 当番制の目的は、単純に仕事を手伝ってもらうことばかりではない。そもそも生徒では手の出しようがない業務も数多い。

 

 ただ、生徒に業務を手伝ってもらう意義は明確にある。お喋りの中で各学園の隠れた綻びを見つけ出せることもあるし、一対一のコミュニケーションでなら、普段打ち明けられない相談事にも応じやすい。

 

 そんなシャーレで同じ生徒と連日顔を合わせるのはかなり珍しい。当番に来る生徒の割り振りに偏りを少なくしているからだ。だからだろうか。今日当たり前のようにルミが執務室にやってきたとき、私の心は寝起きのように緩んでいた。

 

 部屋に入ってきたルミの姿が、何だか昨日よりもスローに見える。──いや、ちがう。私が目で追っていたのだ。

 

「おはよ、先生。おっ、だいぶハンサムになったね」

 

 頭頂部の獣耳を機嫌よさそうに揺らしながら、彼女が近寄ってくる。

 

「ん、そうかな……?」

「うん、目の下のクマも取れて、お肌の張りも出てる」

 

 頬を触られたのに気付いた瞬間、ルミの顔が目の前にあった。視界いっぱいに映るのは、すっと通った鼻筋、唇の線をやわらかく縁取る笑み、そして艶やかな睫毛の影が落ちる紫の瞳。

 

 私の心の「当たり前の領域」にルミがいたのかもしれない。距離の近さから注意が逸れていた。「綺麗だね」なんて言いかけた口を慌てて閉じるも、視線を外すタイミングを失っていた。

 

「どうしたの? あたしの顔に何かついてる?」

「いや、何もないけど……」

 

 冷水で手を洗ってきたのだろう。指先は冷えているのに、掌の中心からはぬくもりが伝わってくる。その温度差が妙に心臓を速くさせる。艶めいた唇からは生徒に感じてはいけない色気が立ち上り、朝一番の体温を上げていく。

 

(近い、近い……!)

 

 赤みを帯びた明るい茶髪から漂うシャンプーの匂いを振り切り、なんとか一歩退いた。それでも鼻の奥に匂いが残っている。

 

 体調は良い。頭も冴えている。

 だが、何かがおかしい。

 

 パソコンを立ち上げ、業務の準備を整えている間も、意識が何かとルミに引っ張られる。

 

 パスワードを入力すると、ログイン音が響く。画面の向こうにあるのは、未処理の書類と夥しい通知。

 

 頭を切り替えろ──そう命じても、視界の端でルミが椅子に腰を下ろす動きが、やけに滑らかに映る。

 

 ルミは、いつも厨房に立つときと同じ、赤の鮮やかな玄武商会の制服に身を包んでいた。胸元で結ばれた深紅のリボンが、シャツの白と互いを引き立て合う。

 

 丸く大きな存在感をたたえた胸元の白に、うっすらと別の輪郭が透けている。蒸し暑い厨房で汗をかいたときに浮いていた下着のシルエットを思い出し、視線を下に逃がす。

 

 大きく入ったスリットからは、淡く黒い光沢を帯びたストッキングの脚が伸びる。足元まで伸びる黒の先で、折り返されたブーツの赤い裏地が存在感を放っていた。

 

「とりあえず、机の上がちょっと汚いかな。お片付けするから、何かあったら声をかけてね」

 

 ぎしっと椅子の脚が軋み、ルミが立ち上がった。太腿がふわっと浮き上がり、丸いお尻がスカートの影を揺らす。体を起こした瞬間、双丘の体積に張り詰めた白が揺れる。慌てて画面に目を戻したが、ルミの膨らみやさらりと流れる髪が、網膜に焼き付いていた。

 

(これは、まずい)

 

 キーボードを叩く指先が止まりかける。ディスプレイの文字が頭を素通りした。その代わりにルミの長い脚や、髪を掻き上げたときに覗くうなじが詳細に脳内で描かれてしまう。

 

 生徒を「女」として見てしまっている。

 

 ダメだダメだと振り払おうとするほど、汗に濡れた真夏のシャツみたいに、脳の内側に不埒な衝動がべったりまとわりついてくる。

 

 視界からルミが離れても、指先の感触や髪の匂いが、淡く、けれどしつこく残る。ToDoを書き出す頭は冴えていて、ここ数週間では感じたことがないぐらい集中力も高まっている。だが、ひとたびルミと目が合い、ニコッと微笑みかけられると、意識の糸が緩んでしまう。

 

 早く時が経つのは、仕事が捗っている証拠だ。気付けば午前の仕事は予定よりやや前倒しで終わっていた。効率は良好。絶好調といっていい。夜更かしの代償とばかりに訪れる昼間の眠気も感じない。

 

 それでも、どこかそわそわする。私は何となくその正体を掴みかけていたが、敢えて曖昧なままにしておいた。輪郭を与えたら、一気に取り返しがつかなくなりそうだったからだ。

 

 

 * * * * *

 

 

 昼食はルミの希望で中華とは別ジャンルのものを食べに行き、その帰り道で夕食の材料を買うのに付き合った。「早上がりになっても残業になってもご馳走する」と言って憚らなかったのだ。私の体を気遣ってのことなら、断る理由はどこにもない。

 

 ただ、会計をこちらで持つと言ったからか、こころなしかルミは値が張るものを大胆に買っていたような……気がする。本当に抜け目がない。

 

 今日の業務に区切りをつけられたのは夕暮れ後だった。午後になって大量の書類が届き、ある程度の所で妥協せざるを得なかった。ただその妥協の理由に、ルミの料理が楽しみだった心理があったのは否定できない。

 

 執務室奥のスペースに即席で拵えられた二人用テーブルでは、真紅の火鍋と白湯が、おしどり鍋でグツグツ煮えている。火鍋の方は見ているだけで口の中が辛くなる赤さだが──この刺激的な光景に唾液が湧き出てくる。

 

「お待ちどうさま」

「おぉ……!」

 

 卓上に大皿と蒸籠もやってきた。蒸籠の湯気の向こうからはぷりぷりの小籠包が姿を見せる。牡蠣と海老の豆鼓炒めから立つ湯気はピリッと辛い。油でテカテカの牡蠣に、胃袋が悲鳴をあげた。

 

「一昨日だったら食べられそうになかったでしょ」

「そうだね。でも、今は……凄く美味しそう」

「ふふ、待ちきれないって顔してる。さ、食べよっか」

 

 向かい合わせに「いただきます」をしてから、箸を伸ばす。火鍋で煮える羊肉を口に運ぶと、辛みと痺れが舌を打つ。だがその熱と刺激が、爽やかで心地よい。

 

「美味しいっ……!」

「これがパクパクいけるんなら、ちゃんと元気になったんだね。よかったよかった」

 

 自分にも言い聞かせるようにそう言って、ルミも火鍋からキノコを掬い上げた。それをぱくりと口に含み、麻辣の刺激を堪能するように目をぎゅっと閉じる。目蓋を開けると紫の瞳がきらっと潤み、辛みと熱に頬が紅潮していた。

 

「この牡蠣さ、いいのがあったんだよ。おっきいでしょ。海老も〝夜戸浦村(やとうらむら)〟だっけ? 仕入れ先リストに入れちゃったよ。玄武商会にも納品してくれるかなぁ」

 

 海鮮炒めも格別だった。旨味の塊と化した牡蠣と弾力豊かな海老が口の中で蕩け合う。小籠包も魚介仕立て。食べているだけでどんどん元気が湧いてくる気がした。そんな風にしてルミとの会話も弾み、気が付けば二人で大皿も鍋もすっかり平らげていた。

 

「ご馳走様。今日も美味しかった……」

 

 満腹感に包まれながら手を合わせる。活力の湧くものを食べて、ぐっすり眠って──本能的な欲求が満たされると、これほどまでに全身に幸福が行き渡るものなのか。私が普段どれだけぞんざいな生活を送っていたのかを、まざまざと思い知らされた。

 

 鍋から立ち上る湯気の向こうで、ルミの視線が絡みついてきた。潤った瞳で、やけにねっとりと。ほんのり汗が浮いた額をナプキンで拭い、上気した頬で私を覗き込んでくる。

 

「……ルミ?」

「どう、先生? よく食べて、よく寝て……でも、まだ残ってること(・・・・・・)があるよね?」

 

 潤んだ瞳から視線を下に逃す。食器を押しのけるように、どしっとした膨らみがテーブルに乗っていた。餅を皿に乗せたようだ──そんな思考が頭をよぎった瞬間、腰の奥がずっしりと重たくなる。

 

(何を考えているの!)

 

 内心で自分を叱責する。

 だが、皮膚の表面を走る違和感が治まらない。

 

三大(・・)欲求って言ったの、覚えてる? 不思議だよね。睡眠欲と食欲は満たされていた方がいいのに、もう一つは溜め込んでたら良くない(・・・・・・・・・・・)んだもの。ふふっ……」

 

 脳の深い所から猛烈な疼きが発せられるのが分かった。空腹でルミの料理が出てきた時のような、あるいは柔らかな布団に身を沈めた時のような、本能のざわめきだ。

 

「ね、どう? 先生、すごく、すご~く……したいこと(・・・・・)があるんじゃない?」

「いや、ルミ……それはダメだよ」

「ん~? 何がダメなの? ダメなことって、自覚があるのかな~……?」

 

 椅子を持ち上げ、ルミが私の隣にやってきた。唐辛子と山椒の香りに甘いシャンプーの匂いが混じり、呼吸のたびに胸の奥まで入り込む。彼女の顔の紅潮は熱のせいなのか、それとも……。

 

「先生に食べてもらったお料理、ただ体が元気になる(・・・・・・・)だけじゃないんだよね~……♡」

 

 ピンと立っていた獣耳が、私を誘うように倒れ込む。肩が触れあった瞬間、彼女の火照りが伝わってきた。

 

「牡蠣の亜鉛、海老のアルギニン、火鍋のカプサイシン……。今日の食材はね、『ダメ押し』なんだよ。体がポカポカして、とってもムズムズしてるんじゃない?」

 

 トン、トン、トン。ルミの指がテーブルをタップした。先生はこういう衝動を抱えているでしょ、と示すように。

 

「栄養つけて、たくさん寝て、いろいろと〝有り余ってる〟でしょ?」

「いやっ、でも……ルミ。私と君は、先生と生徒で、っ──」

「もう、固いこと言わないのっ……♡」

 

 すり、すり。ルミの手が、私の膝を撫でてきた。抗いがたい引力が、彼女の体から放たれている。フェロモンだろうか。柔らかい肌の手触りと、長い睫毛。ぷるっと柔らかそうな唇が、私の理性を削り取っていく。

 

「先生はね、三日かけて〝出来上がっちゃった〟んだよ。カラカラに乾いてたところから下拵え(・・・)して、その気になるものをいっぱい食べてもらってさ」

 

 頭のどこかで警鐘が響いている。それなのに、紡ぐべき言葉が出てこない。後頭部を得体のしれない力に押されている。

 

「いやぁ、食べごろだよ~……♡ ね、どう? あたしのことも〝美味しそう〟に見えてるんじゃない?」

「そ、そんなこと……!」

 

 いけない、そんなこと。主導権を彼女に渡すわけには──

 

「……感じてたよ。今日の先生の目線、なんかねっとりしててさ。胸とかお尻とか脚とか、見てたでしょ……♡」

「っ……!」

 

 図星だった。

 即座に反論しようとして、言葉が詰まる。

 

 私の狼狽を確信して、ルミがニヤリと唇を吊り上げた。

 

「さっき、お鍋のキノコ食べたよね? 実はあれ、山海経からの持ち込みなんだけど──」

 

 

 媚薬なんだよね──

 

 

 ルミが熱っぽい息で囁いてきた。

 

「体には凄くいいんだ。ただ、ちょっぴり、本当にちょっぴりだけ、そういう効果(・・・・・・)もあって。でも……思ったより、効き目が強いみたい。あたしも我慢できなくなっちゃいそうでさ」

 

 太腿をなぞる指が、少しずつ登ってくる。擦れる布地から電流が流れ、背筋を駆け上がってきた。反射的に距離を取ろうとしたが、むしろ彼女の方から身を寄せ、柔らかい膨らみを腕に押し付けてくる。今の私には劇薬だった。

 

「先生の体も、熱くなってる。ねぇ、そのズボンの中、どうなってるの? あたしには分からないからさぁ、教えてほしいなぁ……♡」

「ルミ、こ、これ以上は……!」

 

 耳元に吹きかけられる息が、首筋を伝って背中に落ちていく。言葉が出ない。声を出した瞬間、理性の糸が千切れてしまいそうだ。

 

 だが、この肉感的な体を思うがままにできたら、どれほど満たされるだろう──

 

「ねぇ先生。まだ〝御馳走〟が残ってるよ? 食べなくていいの?」

 

 ──周囲の音が、消失した。

 

 鼻先が触れあうほど顔が近づいた瞬間、喉の奥で、何かが弾ける音がした。

 

 

 * * * * *

 

 

<3> 

 

 

 

 ──じゅ♡ ちゅ♡ じゅるるる♡ ぴちゃ♡ れるっ……♡

 

 重ね合った唇から、汁を啜る音が立つ。合わせ目からはどちらのか分からない唾液が零れそうになってはどちらかが掬い取る。

 

「……っ♡ あは、どっちもピリ辛だ♡」

 

 香辛料の匂いと唐辛子の刺激が、互いの口内にまだ残っていた。息継ぎのために離した唇には銀糸が架かり、ルミがぺろりと舐め取る。品のないしぐさだったが、頬を紅潮させた艶めかしい表情にはよく似合っていた。

 

「ね、先生♡ もっと……♡」

 

 ルミが被りついてきた。食後の鍋もそのままに水音が響く。主導権を奪い合うように唾液を混ぜ合い、互いに飲ませ合う。浅くなっていく鼻息が口元にかかる。

 

 一線を越えてしまった後悔が、頭の後ろに流れていく。

 

 食欲を満たすために食べる。

 睡眠欲を満たすために眠る。

 

 それらと同レベルの原始的な欲求が、理性を乗り越えて全身を揺らしていた。

 

「ん……♡ ん~っ……♡」

 

 まるで俊敏なナメクジだ。ルミが絡めつけてくる舌は、それ自体が別の生き物であるかのようにうねる。粘膜の接触の心地よさに逆らえず、私もつい巻き込まれる。

 

 その「つい」が数秒後には反転する。自分から、ルミを求めてしまう。

 

 

 ──ちゅ♡ ぢゅ♡ くちゅっ♡ くちゅ……♡

 

 

 キスに耽っていると、ガタッ、と鍋が揺れた。二人して、揺れる水面を見やる。

 

「どうしよっか、これ」

 

 ねっとり交わしたキスの熱で、ルミは獣耳をぺたんと寝かせたままになっている。肩が上下に揺れ、呼吸が浅くなっていた。

 

「片付けないと、やっぱり落ち着かない?」

「正直、ね。それに……人はいないけど、執務室ってけっこうオープンだし」

 

 もどかしそうな顔をしていた。今すぐにでも続きをしたくてたまらない──湿った熱を帯びた吐息が、そう語っていた。私も同じ気持ちだった。

 

「……じゃあ」

「うん。あたし、いったん食器を片付けちゃうね」

「それなら……」

 

 執務室奥のベッド。まだ自分以外を入れたことはないそこを、ルミのために整えることになった。

 

 熱に浮かされた頭で、シーツの皺を伸ばし、掛布団を畳んで脇に除ける。

 

 もっぱら終電後まで仕事がもつれこんだ夜に使うベッド。今からそれを、睡眠以外の目的で使う。

 

 これから生徒とここで寝る。

 朱城ルミをここで抱く。

 ルミと男女になる。

 

 なんともいえない背徳感と、手遅れになったどうしようもなさが、乾いた汗のように背中に張り付く。心臓が激しく脈打つのは、焦りなのか、昂奮なのか、それともその両方なのか。

 

「……お待たせ、先生」

 

 片付けを終えたルミが、すっと腕の中へ入り込んできた。まるで、以前からそうすることが当たり前の関係であったみたいに。肩越しに近づく吐息が、肌を掠めてくすぐったい。

 

「一つ、聞いていい?」

「うん、何?」

「レイジョとは寝てないよね?」

 

 視線を合わせずに問うその声は、かすかに揺れていた。

 

「うん、寝てない」

「キサキとは?」

「仲はいいけど、そういう関係じゃないよ」

 

 嘘はない。きっぱり告げると、ルミは長い睫毛を一瞬伏せて、深く息を吐きだした。その吐息に、ほっとした色と、まだ消えない不安の影が混ざる。背中に回された腕の力が、少しだけ強まった。

 

「ごめん。他の子の名前を出して。湿っぽい(・・・・)よね、あたし。独占欲丸出しだ、あはは」

 

 乾いた笑い。指先が縋りつくように私の背をそっと掻いた。

 

「……そんなところも」

「可愛い、とか言ってくれるの?」

 

 軽く啄むキスで答えてあげると、ルミは眉を八の字にしてはにかんだ。その笑みは、安堵と照れと、言葉にならない渇望が溶け合ったものに見えた。

 

「本当はね、正々堂々、先生に打ち明けてからこうなりたかったんだけど……ズル(・・)しちゃった」

 

 小さく自嘲し、視線を私の肩口へ落とす。次に紡ぐ言葉を探すように、唇が一度きゅっと結ばれた。

 

「私の体を労わってくれたのは、本心でしょ?」

「うん。それはホント。憔悴しきった先生を見てられなくてさ」

 

 少し間を置き、睫毛の影が頬に落ちたまま、ルミが続けた。

 

「あとね、興味もあったんだ。優しい先生が理性を失ったら、どうなっちゃうのかな、って……♡」

 

 そこまで言うと、ルミはベッドに身を投げ、両手を放り出した。裏の動機への罰を求めるようにも見えたし、貪るべきメスとして自分を差し出しているようにも見えた。

 

「ルミ」

 

 シーツの海に散ったブラウンの髪に手櫛を通す。首元のスカーフを解くと、無防備な首が露になった。

 

「っ♡ あっ、あのさ……」

 

 ルミが身じろぎする。

 

「さっきはああ言っちゃったけどさ……あたし〝御馳走〟に見える?」

「うん。今日のルミ、凄く刺激的で……我慢するのが大変だったんだ」

「あっ……♡」

 

 

 ──むぎゅ♡

 

 

 グラマーな膨らみに掌を重ねる。ふっくらした柔らかさに指を沈めると、なで肩がぴくっと跳ねる。

 

「ふふ、そうだよね。先生、えっちな目でここ見てたもんね……♡」

 

 薄い白シャツだ。体温が掌に伝わってくる。ゴワッとしたブラの感触が指に当たる。いつか見た飾りっ気のないシンプルな白ではなく、内に秘めた情熱を示すような赤がうっすらと透けていた。

 

「今日は大人っぽいのを着けてるんだね」

「そうだよ。これも準備のうち……♡」

 

 言葉の合間に、ルミが息を乱す。私の掌に、高鳴る鼓動が伝わってきた。ブラ越しに乳房を揉みしだくと、シャツの浮かんだ影が複雑にうねる。その柔らかさを楽しみながら、内側の眺めが気になっていた。

 

 チュニックの赤とシャツの白。その繋ぎ目になる黒い紐を解き、腋と肩に跨るベルトも外す。ガバっとシャツを捲ると、絹地の白の下から乳白色の生肌が露になった。

 

「おぉ……」

 

 思わず感嘆した。レースで編み上げられたブラは薔薇の花びらのよう。服越しにゆさゆさ揺れる大ぶりな乳房はギチッと詰まり、呼吸のたびに震えている。

 

 肩やウエストに本来あった肉を胸にまとめて盛り付けたような、圧倒的なボリュームだ。カップ数を想像するのすら楽しくなる。むっちり詰まった乳脂肪は見るからに柔らかそうで、両手がムズムズした。

 

「ホック、前だよ……」

 

 居心地悪そうに赤らむ顔が胸をくすぐった。困ったように眉を下げる様に、経験のなさが透けて見えた。それなのに私の性欲を煽ってくるとは、大胆なことだ。ぷちっとホックの外れる音がすると、頭頂部の耳がぴーんと張った。

 

 

 ──だぽんっ♡

 

 

「えへへ、おっぱい見せちゃった……♡」

 

 シャツを左右に開き、ルミのずっしりした恥じらいを露にする。服の上からシルエットで見る以上に大きい。軽く身を捩るたびに、皿の上のプリンよろしくふるふる揺れる。

 

 もっちりした白い乳肉と乳輪のミルキーな桃色。私の掌では包み切れない巨大な肉に、指を沈めた。たぷっとした重みが指の間から零れ落ちてしまいそうだ。

 

「っあ♡ はぁ……♡」

 

 切なげな息がベッドの空気に溶けていく。しっとりもちもちの柔肉を捏ね回す。土台が大きいせいか、乳輪も広い。定規を持っていないから分からないが、7、8センチぐらいはありそうだ。半球状の乳頭が、籠っていく吐息の熱に呼応して、ぷっくり膨らんでいく。

 

 

 ──すり、すり……♡

 

 

 今からここを触るからね。そう指先で伝えながら、乳輪の縁をなぞった。

 

 ごそごそと、ストッキングに包まれた足がシーツを擦る。長い睫毛が揺らぎ、半開きの唇から細い声が漏れ出てきた。

 

 

 ──くにゅ♡

 

 

「ンっ♡♡」

 

 指の腹でそっと乳頭を撫でた瞬間、ルミは目をつぶって唇を結んだ。頭上に放り出したままの手がぴくぴくと震えていた。

 

「先生ってさ、えっち、なんだね……あ、あっ♡」

「そうだよ。大人だからね」

「ふふっ、何それ──やっ♡ それ、きもちい……♡」

 

 指先が乳輪の中心部をつつく。指の間にふっくらした胸の肉が詰まり、緩めるとぷるんと自らの弾力で跳ねる。それを繰り返すうちに、ルミはもじもじと腰を揺らし始めた。すり、すり……と太腿を擦り合わせる振動が、シーツを伝う。

 

 摘まんだり、転がしたり、弾いたり。しばらく弄んでいたら乳首は指先大に膨れ上がり、グミのような弾力を供えていた。

 

 甘そうだ──そう考えるのとほぼ同時に、私は吸い付いていた。

 

「んぅっ♡♡ あ、あぁ、っ♡」

 

 ビクビクッと、ルミが体を弓なりにしならせる。乳輪周りの肉ごと口内に含むと、コリッとしたものが舌先に触れた。硬い粒を吸い上げた途端、切羽詰まった声が上擦る。

 

 

 ──ちゅ♡ ちゅ……♡ ちゅぴ……♡

 

 

「ひッ♡ い……♡ ね、あっ♡ 吸っちゃ、あッ♡♡」

 

 反対側の胸は、親指と人差し指で摘まみ上げる。クリームで膨らませたような瑞々しい膨らみは、搾れば先端から母乳が滲みそうだ。唾液ごと吸い上げていると、口の中で硬く尖っていく。そうして両乳首を責めるにつれて、ルミの嬌声が糖度を増していく。

 

「んはぁっ、はぅ♡ あっ、あっ、あっ♡」

 

 ルミが背中を浮かせて悶える。その反応に気をよくして、私はさらに強く吸い上げた。ちゅぽんっと音を立てて唇を離すと、乳輪の周りからぷっくり盛り上がった乳首は充血し、私の涎でぬらぬらと妖しく光っていた。

 

「は~……は~……♡」

 

 胸を上下させて、ルミは夢見心地だ。ぼーっと天井を眺めて、くたっと力を抜いている。愛撫を止めても、まだ彼女は気持ちよさそうに身を捩る。シーツに散った長い茶髪がうねり、ベッドの匂いが塗り替えられていく。

 

 

 ──こつん♡

 

 

「……あっ♡」

 

 ふとした拍子に、膝が私の股間に当たった。スラックスを張り詰めさせる異物の存在に気付くと、彼女の目が一瞬、大きく見開かれた。

 

「ねぇ、先生、これってさ……♡」

「うん、そうだよ。ルミがセクシーだから、こんなに……」

 

 照れ混じりの笑いが、獣欲を煽る。燻る熱を意識したら、その途端、一気に膨れ上がる。早く解放したい──突き上げる衝動のままにベルトを外し、乱暴に下着も引き下ろした。

 

 

 ──ぶるんっ♡

 

 

「っ……♡♡ へぇ~……♡♡♡」

 

 姿を現した屹立に、熱視線が注がれた。怯えや恐怖よりも、好奇心が先に立っている。グロテスクな亀頭に見下ろされても気圧されるどころか、むしろ食い入るように凝視している。

 

「思ってたより、おっきいんだね……。うわ~、おへそに届きそう……」

「ルミが元気の出るものをいっぱい食べさせてくれたから」

「……いっぱい、溜まってる?」

 

 びくん。肉竿が脈動して、私の代わりに返事をした。バキバキに怒張したペニスを前に、ルミの両目が艶めいた輝きを帯びる。ごくりと上下した喉を見て、彼女の興味を満たしたくなる。

 

 多忙な上に抜く元気もなかった。目の前に豊満な裸体を差し出されれば、睾丸の中には溜め込まれたままの精液がグツグツ煮立っていく。これは一発や二発ではとうてい治まらないだろう。

 

 それならば──ルミの体の特に美味しそうな所を味わいたくなった。

 

「ルミ、そのまま横になってていいよ」

「え、何するの? ……あっ、分かっちゃった♡」

 

 胸元だけを晒した所へ馬乗りになり、彼女はすぐピンと来たようだ。

 

「おちんちん挟むヤツだよね♡ うわ~、先生って、あたしでそういうこと(・・・・・・)したいんだ~♡」

「……うん。ルミは、動かなくて大丈夫だから」

「じゃあ、先生のこと、じっくり見てるね♡」

 

 ルミは口元をニヤけさせたまま、怒張を谷間にあてがう私を見つめていた。持ち上げた乳肉は重く、ふかふかした柔らかさに指が埋もれてしまう。寄せ集めて擦り合わせればもう準備完了だ。石のように硬くなった亀頭を、乳肉の間にずぶずぶ沈めていく。

 

 

 ──ずにゅぅ♡ むにゅ~っ……♡♡

 

 

 抵抗らしい抵抗もない。それどころか奥へ引き込もうと素肌が吸い付いてくる。乳肌のぷにっと張りのある弾力と、ミチミチに詰まった乳圧が織りなす幸せな圧迫感。久しぶりのペニスにそれらは刺激が強すぎた。軽く一往復しただけで、濃厚な先走りがドクッと鈴口から溢れ出してくる。

 

「わっ♡ おちんちん、熱い……♡」

 

 たぷたぷ、たぱたぱと乳肉を波打たせながら、ルミが甘い声で呟く。滑らかで瑞々しいミルク餅を捏ねながら、腰を前後させる。

 

「ん……おっぱいの中で、ビクビクしてる、っ♡」

 

 腰を打ち付ける振動が響いて気持ちいいのだろうか。ルミは時折目を細め、鼻にかかった声を漏らした。左右から潰した乳房の先端同士が甘く擦れ合い、彼女の肩がぴくっと跳ねる。

 

 

 ──ずりゅっ♡ ずりゅ♡ たぽっ♡ たぽ♡ たぱん♡

 

 

 欲望のままに下腹部を叩きつける。肉と肉のぶつかる音が鳴り、乳風船が淫らに弾む。尖った乳首が、その頂点が忙しなく揺れていた。

 

 膂力で私が生徒に勝てることはない。力での押し合いになれば私はあっという間にルミに制圧されてしまう。だからだろうか。マウントを取ってのしかかっていると、愉悦が込み上げる。

 

 デリケートな乳房を好き放題に揉みしだく。ブラで大事に包まれた女性らしさを剥ぎ取り、まだ男を許したことのないであろう柔肌で、下品な欲を満たす。

 

 大切にしてきた生徒に劣情を叩きつけていると、腰の奥の熱が膨らんでいく。

 

 あぁ、私はずっと、理性的な大人を演じながら、その裏ではこうしたいと思っていたのだろうか。

 

 潜在的に抱いていた欲望を認めてしまうと、開き直りにも似た解放感が背筋を走った。

 

「なんか、不思議だね」

 

 谷間から顔を出しては引っ込める亀頭に、ルミがぽつりと呟いた。

 

「乗っかられて見下ろされてるのに、先生がどんどん、追い詰められていくみたい……♡」

「じ、実はあんまり、余裕がなくて……」

 

 

 ──だぱっ♡ だぱっ♡ たぷん♡ ぬりゅ♡ ずちゅ♡

 

 

 滲む汗と、湧き出す先走り。二つの体液が混ざって、谷間が潤っていく。摩擦音に混ざるねちねちした粘り気が、どんどん強くなっていく。

 

 わらび餅のようなしっとりぷるぷるの弾力に包まれる多幸感も手伝い、興奮が止まらない。ピストンがテンポを上げていく。打楽器のように叩かれる乳肉を見て、ルミは心地よさそうに鼻を鳴らしていた。

 

「ズリズリするの、気持ちいい?」

「いいよ、すごく……」

「あはっ、そんな必死な顔、初めて見るな~♡」

 

 余裕の笑みを浮かべるルミ。枕の裏に隠されていた手が伸びてきて、私の頬を撫でた。もみあげの毛束を摘まみ、耳朶をくすぐってくる。

 

 彼女からすれば、双丘の谷間に無我夢中でペニスを突き入れる私は、滑稽に映るだろう。だが、淫靡な空気に酔っているのは彼女も同じ。鷲掴みにした乳房をオモチャにされて頬を染め、息を乱している。

 

 ねっとりしたカウパーで、乳内はもうローションをまぶしたようにぬとぬとだ。限界が近付いているが、ペースが上がっていく。びく、びく……と震えながら膨らむ肉竿に、ルミも何かを悟ったようだった。

 

「……出ちゃう?」

「いい? このまま……」

「ひひ……♡ 余裕ないね、先生♡ 射精するときって、どんな気持ちなの?」

「なっ、なにも、考えられなくて、っ」

「変なの、上になってるのに負けちゃいそうな顔して♡ いいよ、イく所見せてっ♡ 白いの出してっ♡」

 

 睾丸の中がぐらぐら煮立つ。燃え上がった精巣から精液が昇ってくる。尿道の根元まで差し掛かり、焦燥感が噴き上がってきた。

 

 

 ──どぢゅっ♡♡

 

 

「う゛ぁ……!」

 

 爆発寸前の竿を、乳肉深く突き入れる。

 

 

 ──ぶびゅっ♡♡

 

 

 最初の一拍が弾けた。瞼の裏に火花が散る。

 腰がガクガク震え、脳髄が甘く痺れた。

 

 

 ──びゅっ♡♡ ぶりゅる♡ どぷ♡ びゅううっ♡ どくっ♡ どく、どく……♡

 

 

 鼓動が耳に響く。脈動に合わせて、煮凝りのような濃厚汁が撃ち出されていく。

 

「あっ……♡ 先生イッてる♡ えっちな顔だ~……♡♡」

 

 ルミは揶揄うように笑っていた。無駄撃ちされていく粘っこい子種汁。それが乳肉から溢れ出し、無垢なデコルテを汚していく。

 

「はっ……はっ……はっ……」

「まだドクドクしてる♡ おっぱい、火傷しちゃいそう……♡」

 

 長い吐精。ルミの瞳に、私の情けない顔が映り込んでいる。彼女は絶頂する私をじーっと見つめ、白濁液の奔流を受け止め続けていた。

 

 そうして、たわわな乳肉にこってり搾り取られ……ようやく脈動が収まった。鎖骨を濡らす白いゼリーを、細い指が掬い取る。

 

「へぇ~……温かくてネバネバしてる。練乳というか、溶き片栗粉というか……♡」

 

 ルミは指先で糸を引かせて弄んだ。そして見せつけるように舌を伸ばし──意地汚く指を舐め取った。

 

 

 ──れろ♡ ちゅる……ちゅぱっ……♡

 

 

「あっ、ルミ……」

「ん……マズい……♡」

 

 苦笑いしながらも、ルミはまた谷間から掬い取り、今度は鼻に近づける。

 

「匂いも生臭いし、喉越しも悪い。でもこれが、先生の味と匂いかぁ~♡」

 

 青臭い雄汁の匂いをくんくん嗅ぐと、目をうっとりさせる。その淫蕩な表情に、またペニスが鎌首をもたげ始めた。

 もうルミは冷めてしまっただろうか、それとも──

 

 背後に手を伸ばし、ストッキング越しに脚を撫でると、彼女は隠していた嘘を暴かれたかのように身を固くした。

 

 

 * * * * *

 

 

<4>

 

「あっ、そ……そうだよね、そうなるよね……」

 

 左の太腿にはベルトが食い込み、むっちりした太腿の弾力を強調する。黒いスカートだとばかり思っていたのは、赤い一つなぎのチーパオに重ねられたエプロン状の布地だった。

 

 いずれにしても、ざっくり深く入ったスリットからは、ストッキングに覆われたセクシーな美脚がすらっと伸びている。むちむちすべすべの脚を撫でていると、ルミは膝をくっつけて縮こまった。

 

「あ~……やっぱり、あたしも脱ぐ感じ?」

「そうだね」

「うぇっ、躊躇ないね先生っ……!」

 

 紐を解き、ボタンを外す。どんな服を着ているのかを学習しながら、その服を剥いでいく。ルミは恥ずかしそうにしていたが、身じろぎこそすれど抵抗はしてこなかった。

 

 伝線してしまわないよう慎重にストッキングを下ろすと、眩しい生肌が露になる。広がっていく白い肌に、ブラとお揃いの赤いショーツがくっきりと際立っていた。

 

「う……っ……♡」

 

 弾力豊かな太腿を、ショーツがゆっくり滑り降りていく。ぬちょ……と裏地から糸を引いているのがはっきり見えた。顔を上げると、指の隙間からルミがこちらの様子を窺っている。

 

「……見た?」

「見たし、これから見るよ」

 

 側頭部の耳は真っ赤に染まり、頭頂部の耳はへなへなと潰れていく。一糸まとわぬ姿になると、さすがにルミは恥ずかしそうだった。その初々しさを委ねてもらえる状況に、泡のような喜びが込み上げる。

 

 脱ぎ捨てた互いの理性は、ベッドの端で折り重なっている。今はもう、一対のオスとメスだ。もう引き返せない所まで来てしまったし、気にするのも今さらかもしれない──せめて、今だけは。

 

「……さて」

 

 膝を掴む。

 

「ちょ、ちょっと、先生!?」

「見ちゃダメかな?」

「だ、ダメじゃないけど……あぁ、もう……」

 

 膝頭を軽く擦ると、ルミは力を抜いてくれた。ゆっくり脚を開かせるが、ぷるぷる内股が震えている。太腿の根元が、ベッドランプを浴びてぬらぬら光っていた。

 

「……っ、あ~、なんていうか、さ……」

「ルミも興奮してたんだね。こんなにして」

「わっ!? ちょ、ダメ、そんなに見ないで……♡」

 

 内腿を指先でなぞり、脚の付け根に近づいていくと、ルミは両手で顔を覆ってしまった。顔を隠せても大事な所は隠せていないし、指の隙間からしっかりこちらを除いている。

 

 少し身を乗り出しただけで、むせ返るようなメスの性臭が漂ってきた。生っぽさを含んだ、甘酸っぱい香りだ。何もないところから漂ってくれば不快な臭いだが、これが充血した粘膜からするとなれば話は別だ。

 

味見(・・)してもいい?」

「あっ、味見……?」

 

 何度か目を瞬いて、ルミが言葉の意味を咀嚼する。すぐにその意味するところに気づき、両拳をぎゅっと握り締めた。

 

「その~、分かんないけど、多分マズいと思うよ?」

「分からないなら、なおさら味見しないと」

「う……」

 

 ルミが呻く。何かを逡巡している顔だ。料理人の習性につけこむのは少々気が引けるが、恥じらって隠そうとされると求めたくなるのが男の性。

 

「舐めたいんだけど、ダメ?」

「そっ、そう言われると……!」

 

 駆け引きに秀でる玄武商会の長が、目を泳がせた。オスの欲望に火が入る。数秒迷っていたが、ルミは溜息と共に答える。

 

「もう、しょうがないなぁ……♡」

 

 渋々了承を得たところで、肉厚な太腿を抱えた。何かと暑い厨房で蒸れがちだからなのか、陰毛は薄めに整えられている。そのおかげで、ぷっくりした大陰唇や、その内側でてらてら潤うサーモンピンクの粘膜がよく見えた。

 

 

 ──れろっ

 

 

「ん……♡」

 

 手始めに、ひくつく割れ目へ唾液を送った。それだけで、ルミの腰がぴくんと跳ねた。弾力豊かな太腿が顔を締め付けてくるが、むしろご褒美だ。

 

「んぁ……♡ あっ、あ……♡」

 

 大陰唇のむちっとした弾力を楽しみながら、粘膜を舐め上げる。とろみのある液体がこんこんと膣穴から湧き出ている。舌の腹で掬い取り、小陰唇の縁へ塗り付けていく。

 

 

 ──れろ♡ ちゅぷ♡ ぢゅっ♡ ちゅ♡

 

 

 思っていたよりも膣口は柔らかくほぐれていた。皺をほどくように舌先を差し込み、浅い所を掻き混ぜる。

 

 軽く出し入れしているだけで、甘酸っぱい湧き水が口の中に入り込んでくる。美味い・不味いというよりは、頭の深い部分に響く味だ。音を立てて啜り、夢中で飲み下すと、こめかみに脈が響き、下半身に血が集まっていく。

 

「ね、っ♡ せんせ♡ そんなっ、あっ♡」

 

 遠くに聞こえる声が上擦っていく。太腿の締め付けがきつくなり、筋肉の軋む音が骨を通って沁み込んでくる。

 

 

 ──ぬぷ……♡

 

 

 選手交代。割れ目の頂点に息づく秘芯に唾液を塗りつけ、穴には指をあてがう。するりと入り込んだ指を、肉厚な粘膜がミチッと締め付けてきた。

 

「んひッ♡♡ ちょ、いっぺんにしたら、あっ、あ♡ あっ♡ あ~~~っ♡♡」

 

 濡れそぼった穴は、出し入れのたびに空気混じりの水音を立てる。ヒクつく膣壁が、キスでもするみたいに指をちゅぽちゅぽしゃぶっている。指の腹でナカの具合を確かめると、会甘えるように大きな尻が揺れた。

 

 どうやらそれなりに慣らしてはいるらしい。少しずつ抜き差しを深くしていっても、あがるのは甘い声ばかりだ。

 

 

 ──ぬちゅ♡ ぬぷっ♡ ぬぷ♡ くちゅ、くちゅっ……♡

 

 

「お……♡ あッ♡ あ゛ぁ♡ あっ、は……んうぅぅぅ……♡♡」

 

 甘ったるく蕩けた嬌声と、くねる体。優しく撫でると腰がヘコつき、膣天井をトントン叩くと、内腿にギュッと力が入る。見つけ出した性感帯は分かりやすく、ルミは面白いように可愛い反応を示してくれた。

 

 やがて、指を二本呑みこむようになった。狭い入り口を拡張し、膣道をぐにぐにと押し拡げる。湿った粘膜を吸い付かせ、もっと強い快楽をねだってくる。ここに肉竿を沈めたらどれほど気持ちいいだろう──そんな期待に胸が高鳴り、愛撫がエスカレートする。

 

「せ、せんせ、せんせっ……♡」

 

 ルミの呼吸が切羽詰まりだした。指を咥えこんだ膣がぐねぐねうねる。コリコリした弾力をたたえだしたGスポットを圧迫して揺らすと、悲鳴があがった。

 

「あ゛ッ♡♡ いっ、イく……!♡ あ゛~~~っ♡♡♡」

 

 言葉の宣言そのままに、下腹部を思い切り反らしてルミが絶頂した。顎に生温かい飛沫がかかった。根本まで埋めた指をずぽっと引き抜くと、ルミは全力疾走の後みたいに脱力し、シーツの海に肢体を沈めた。白く濁った本気汁が、指先と膣穴にねっとりと糸を引く。

 

 あまりにも近くて分からなかったが、顔を離すと、むわっ……と甘酸っぱい匂いが立ち上ってくる。それを吸い込むと、既に硬度を取り戻していたペニスが、ぶるんぶるんと頭を振った。

 

「ルミ、大丈夫? 少し休憩しようか?」

「ん……♡」

 

 汗で額に張り付いた前髪をかきあげ、まだ焦点の合わない瞳がこちらを向いた。その眼差しは、もっと先を求めている。

 

「だいじょぶ……このまま……♡」

「平気なの?」

「先生も、入れたいでしょ? それ……またおっきくなってるし……♡」

 

 しなやかな指が肉竿に絡みつき、きゅっと締め付けてくる。屹立の根元で、睾丸がヒクッと持ち上がった。思わず腰が引けたのにも、ルミは目敏く気付いていた。

 

 本当に、いいのだろうか。

 

 ルミの下腹部にペニスをあてがいながら、考えた。良いか良くないかで考えたら、良いはずがない。一番の問題になるのは先生と生徒の関係なわけだけど──私もルミも、すっかりその気になっている。このまま繋がり合い、オスとメスとを貪り合うのが当然の行いなのだと、本能で承知している。そもそも、お互い何もかもを脱ぎ捨てた全裸なのだ。

 

 だから──

 

「ルミ」

「うん」

 

 短いやり取りを交わし、膣穴に先端を押し当てる。ぷちゅ……と粘膜同士を触れあわせる。今から繋がるのだと考えると、ずっと昔からルミとロマンチックな関係を結んでいたと錯覚する。

 

 その錯覚は、今から現実のものとなるのかもしれない。

 

 

 ──ぬぶっ、ずちゅ……♡♡

 

 

「んは、あっ……♡」

 

 亀頭が呑み込まれる瞬間、ルミは一瞬だけ眉をひそめた。だが、挿入が深まるにつれて、口元が緩んでいく。

 

「んっ♡♡ ん~~~~~っ……♡♡♡」

 

 張り出した傘が狭苦しい穴を潜り抜ける。温かくてヌルヌルの襞が一枚一枚亀頭に絡みつき、奥へと誘ってきた。根元までそのまま沈め切って膣奥を軽く押すと、ルミがシーツを強く握った。

 

「あは……♡ 思ったより、痛くないね……♡」

 

 ここまで入ってる、とルミの手が臍の下を愛おしげに撫でている。胸元を上下させて彼女が息を整えると、異物をねじ込んだ膣肉がぴっとりと馴染んでくる。ざわざわと裏筋をくすぐる粘膜に思わず腰が跳ねた。

 

「んぁ……♡」

 

 軽く擦れただけで、ルミは鼻にかかった声を漏らした。もう少し苦痛のトーンが混じるかと思ったが、思った以上に甘ったるい。蠢く粘膜がペニスに吸い付き、想像以上の充足感が胸の底を熱くする。

 

 「動くよ」と一声かけ、ゆっくりと腰を引く。ぴっちり密着した粘膜が敏感な裏筋をゾリゾリ擦り上げ、たった半往復で軽い射精感が込み上げた。

 

 

 ──ぬる~っ……♡

 

 

 抜けるギリギリまで引き抜いても、痛がる素振りは見られない。それどころか物欲しそうに唇を尖らせ、とろんと潤んだ眼差しで見つめてくる。それなら、無理にブレーキをかけなくてもいいだろう。膝を掴んでしっかり開かせたまま、私は腰を押し込んだ。

 

 

 ──ずぶうぅぅっ……♡♡

 

 

「あふぁ……♡ あ、んぁ……硬い、っ……♡♡」

 

 奥まで怒張を沈めこむと、喉の奥から絞り出すような声があがる。

 

 根元まで押し込んだら、今度はじっくりと、存在感を味わわせながら引き抜いていく。

 

 膣内にびっしりと生えたヒダヒダが、出入りするたびにカリ首を舐っていく。火傷しそうな深部体温が心地よくてたまらない。

 

「んっ……♡ ふぁ、あ゛ッ♡ そこ、ぉ……♡」

「ここ?」

「ん゛あっ!♡ そ、そこは、ゆっくり……ね?」

 

 体を起こし、膣天井を圧迫しながら出し入れすると、ルミの弱い所に当たるらしい。どろっとした蜜が湧き、膣内を潤していく。

 

「ここがいいんだね」

「あっ……お゛、う゛ッ……♡ あっ、はっ、あっ♡♡」

 

 

 ──ずちゅっ♡ ずりゅ♡ ごりっ♡

 

 

 嬌声が上がるたびに蜜壺がきゅっきゅっと心地よく締まり、膣が熱くぬかるんでいく。ぬるぬるした淫水が掻きだされ、シーツの染みを広げていく。

 

「ん゛♡ んぁ、あ゛っ♡ はひ、いっ、い、ぁ……♡」

 

 腰遣いにリズムが生まれて、規則的な打擲音がベッドに響く。胸元ではゴムボールよろしく乳肉が跳ね回り、ぶるんぶるんと音まで聞こえてきそうだ。衝撃を受け止めるように掌を重ね、ピストンに合わせて揉みしだく。

 

「あっ、や♡ ちくびぃ……♡♡」

 

 少し乱暴に捏ね回しても、ルミは蕩けた顔で喘ぐばかりだ。膨らみの先端でぷっくり膨らんだ乳首を弄ぶと、狭苦しい膣が圧力を強めていく。

 

「ルミ、気持ちいい?」

「あっ♡ う、うん……♡ おっぱいも、おっ、おまんこも、どっちもいい……♡♡」

 

 

 ──ぱん♡ ぱん♡ ぱん♡ ぱん♡ ぱん♡

 

 

 ベッドが軋む。肉と肉がぶつかり合い、汗が弾ける。感じ入ったルミの背中がだんだん反っていき、晒された白い喉がひくひく震える。肉厚な蜜壺はぐっぽりオスを咥えこみ、子種を搾り取ろうと複雑にうねった。シーツの海に散った髪が、被りを振るのに合わせてさらさら波打った。

 

「ね……先生、きもちい? あたしのこと、ちゃんと味わってる?」

「うん、トロトロで、キツくて、すごくいいよ」

「あはっ♡ よかったぁ……♡ ね、せんせ……キスしたい……♡」

 

 シーツを掴んでいた両手が離れ、私の首に巻き付いてきた。乱れた息も整わないままに、ルミがキスハメを求めてくる。

 

 引き寄せられるように折り重なり、唇が重なりあう。どちらからともなく舌を差し出し、ねっとりと唾液を混ぜ合わせた。膣奥の粘膜が亀頭に吸い付き、ルミが腰を浮かせた。

 

「んっ、ン゛……♡ はふ、んむ……っ♡ ん゛ッ♡♡ ぁひっ♡♡」

 

 

 ──ずぶっ♡ どちゅっ♡ どちゅ♡ ごりゅ♡

 

 

 上でも下でも繋がって、ピストンに力がこもっていく。気遣う余裕も失われ、頭の中が交尾で一色に塗りつぶされていく。

 

 ルミももう余裕がないようだ。首から背中に回った手が力んでいる。熱を孕んだ痛みも走った。爪を立てられているのだ。その痛みも、絶頂の導火線を焼いていく。

 

 甘い体臭と粘膜から駆け上がる快感。追い詰められていく切迫感と、近づくカタルシス。ルミの足が腰に絡みついてきたとき、もう私の心は決まっていた。

 

「ルミ、ルミっ」

「あ゛っ♡ んお゛♡♡ はっ、あっ♡♡ せんせっ、せんせぇ……ッ♡♡♡」

 

 

 ──ずぶっ♡ どちゅ♡ どちゅっ♡ どちゅっ♡ ごりゅっ♡♡

 

 

「いぐッ♡♡ あ゛っ、あ゛っ、イくッ♡♡♡ イ゛ぐ~~~~~~っ♡♡♡」

 

 もう言葉は要らなかった。きつく抱き締め合い、深いオーガズムを共有する。私はルミの一番奥で欲望を弾けさせた。

 

 

 ──どぷ♡ びゅる~~~~~~っ♡♡ ぶびゅっ♡♡ びゅぶ♡ どくんっ……♡♡

 

 

 腰を押し付けてぐりぐりとねじ込み、まだ私しか知らないであろう膣奥に子種を注ぎ込む。

 

 脈動するたびにびくんとペニスが頭を振り、ギチギチに締まる膣ヒダが尿道を外から潰してきた。押さえつけてくる圧力を跳ねのけて、ドロドロのザーメンが勢いよく放出されていく。

 

 ──とぷ……っ♡♡ ぴゅ……♡ ひく、ひくっ……♡

 

「あ、は……っ♡♡♡ あ゛ぁ……っ♡♡♡」

 

 うっとり蕩けた声をあげ、ルミが膣肉でペニスを扱いてくる。最後の一滴まで残さず搾り取ろうと、くねくね腰を揺すってくる。その強張りが弛緩する頃には、互いの毛穴から噴き出した汗で互いの肌がヌルヌルだった。

 

「ん……ふ……♡ はふ♡ ん、んむ♡ っはぁ……♡」

 

 跳ね上げられたオーガズムから、ゆっくり下っていく。じんじんと全身に走る激しい快感を分け合うように、ルミとゆっくり睦み合う。

 

 やがて、息苦しさに唇を離す。

 ぷつんと糸が切れると、まだ息も整わないままにルミが唇を吊り上げた。

 

「へへ……どう、先生? あたしは美味しかった?」

「うん、最高だった」

「いやぁ、そう言ってもらえると、こちらとしても嬉しいな~♡」

 

 へらっと緩んだ笑みを浮かべるルミを見ていると、私の腕が自然と彼女を抱き締めていた。汗に濡れた肌は火照っているが、新たな汗を呼び起こすその火照りが心地よい。

 

「ところでさ、ナカに出しちゃってよかったの?」

「うッ、それは……!」

「ごめんごめん。一応、大丈夫なようにはしておいたからさ」

 

 くねくね身を捩り、ルミも腕を背中に回してきた。下から首を伸ばしてくる。私の首筋に鼻先を埋めて、スンスン、くんくんと匂いを嗅いでくる。熱っぽく溜息をつくと、ぽつりとつぶやいてきた。

 

「でもあたし、初めてだったし、『責任』は取ってほしいかな~……」

 

 揶揄い半分にも見えて、真剣なようにも見えて。笑顔と真顔の中間に真意を隠したまま、ルミが鎌をかけてくる。したたかにも言質を取ろうとしているのだ。情事の気怠さが残る頭には厳しい駆け引きだった。

 

 だがルミは、それ以上の答えは求めてこなかった。

 

「ごめん、先生を困らせちゃうよね。まぁ立場があるし、これっきりでもしょうがないか、とは思うんだけど、さ……」

 

 ぽつりぽつりと言葉を並べながら、ルミの腕に力がこもる。直接的な言葉を出されなくても好意を持たれているのはさすがに分かる。ここまで深く繋がり合ってしまうと、私の心にもざわざわと波が立っていた。

 

「ま、結論は急がないとして。……今度はあたしが、さ。もっかいしよ?」

 

 あっけらかんとそう言うと、ルミは悪戯っぽく目を細めた。

 

 

 * * * * *

 

<5>

 

 本格的に、シャーレ併設カフェと山海経のコラボキャンペーンが始まった。始めのうちは総責任者かつ最も腕の立つルミが自ら調理場に立っていたが、他のスタッフとの情報共有が進むと、玄武商会所属の料理人が、日替わりでやってくるようになった。

 

 客入りは上場。さらなる商機拡大を狙うルミに対し、玄竜門はあまりいい顔はしていないらしいが、今回のコラボをきっかけに山海経を訪れる観光客も増えているのだとか。いずれにしても、財政状況が良くなっているのは確からしい。キサキからもそういう連絡があった。

 

「お疲れ様です。先生」

「あぁレイジョ、おはよう」

 

 今日のシャーレ当番にはレイジョがやってきた。チーパオにスニーカー、ジャージとカジュアルな出で立ちだ。背中に背負ったスクールバッグをデスクにそっと下ろすと、金の刺繍が入った赤いポーチを差し出してきた。

 

「これ、ルミ会長からです」

 

 渡されたポーチには、まだ温もりが残っている……というより、手に持っているにはちょっと熱い。

 

「凄いね、本当に毎日続くとは」

「会長はこれもまた、サブスクサービスとして考えているみたいです」

「商魂たくましいよねぇ、ホント……」

 

 通称「ルミ弁」。シャーレに山海経の関係者が毎日のように訪れるから、ということで、ルミが昼食を用意してくれるようになった。以前私に薬膳料理を振舞ってくれたときのように、食べきれる量で十分な栄養を備えたメニューが、弁当箱の中にギュッと詰まっている。

 

 ルミが来るときは彼女自身が、玄武商会のスタッフが来るときは彼女たちが。そして今日はレイジョが当番だから、ということのようだ。

 

「今日は、私もお弁当を作ってもらったんです……って、あれ」

 

 レイジョがもう一つ取り出したポーチに、付箋が貼ってある。そこには「先生」と書いてある。私の方をよく見てみれば、そちらには「レイジョ」と書いた付箋が貼られていた。

 

「すみません、間違った方を渡してしまいました」

「これ、中身って一緒なのかな」

「どうでしょう。一度に作って、一律同じものを包むのが効率的ですが……」

 

 何となく視線で了解を取り、弁当箱の蓋を開く。

 

「あっ」

 

 蓋を持ち上げたまま、レイジョが硬直した。一見すると、酢豚と麻婆豆腐が入った中華弁当だが……

 

「…………」

 

 通常は四角い豆腐が、わざわざハート形に切られている。他のとは別に作ったのだろうか。盛られたご飯にも梅ペーストがハートマークの形で乗せられていた。

 

「こ、これ、特別仕様だったんだ……」

「えっと、先生と会長は……?」

「あっ、えーーーーーと、『いつもお世話になってます』とか、そういうことかなぁ!?」

「とっ、とりあえず……見なかったことに、しておきます」

 

 レイジョは静かに蓋を閉じると、そのまま顔を手で覆ってしまった。

 

 耳まで真っ赤になる彼女に、何をどう話したものか……

 

 その日の業務の前に、やらなければならないことがまた一つ増えたのだった。

 

 

 終わり

 




お読みいただきありがとうございました。

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