sideヒロ
アスラ王国に入ってからフィットア領転移事件の詳細を聞くことが出来ましたが、フィットア領は文字通り全てが消滅し一帯がほぼ更地になってしまったとの事でした。
そして現在は難民キャンプが設けられ各地に転移し漸くの事で帰還した領民の人達を収容、行方不明者や死者の確認作業が続いているらしいです。
難民キャンプでは臨時冒険者ギルドが設置されていて、その2階で領内にあった街や村ごとに担当者が付いて帰還した領民の確認とその後の対応をしているとのこと。
まずは難民キャンプに向かい、ブエナ村の人達の安否を確認する事になりました。
漸くの事で到着した難民キャンプには難民収容の為のバラックが立ち並び、その一角に2階建ての臨時冒険者ギルドがあるとの事。
紛争地帯に飛ばされ命からがら逃げ延びた人もいれば同じアスラ王国に飛ばされ比較的安全に帰って来ることが出来た人もいます。
難民キャンプで家族の死亡を知り悲嘆に暮れる人もいれば半狂乱になって自死を選ぼうとする人もいました。
……やはり僕は転移事件に巻き込まれた中では際立って恵まれた立場だったと思わざるを得ません。
何はともあれ、臨時冒険者ギルドへの報告をしなければ。
「ギルドの1階に行方不明者や死亡が確認された人のリストやフィットア領に帰り着いた人への伝言が貼られているそうです。
僕は2階に行って生還の報告とブエナ村の人達がどうなっているか確認してきますので、リーゼさんとタルハンドさんは1階の確認をお願い出来ますか?」
「判りましたわ。
ヒロのご両親はアレクとセリア、でしたわね」
「あとはパウロとゼニス、グレイラット家の確認じゃな」
「宜しくお願いします」
ギルドの建物の前でリーゼさん、タルハンドさんと別れ僕は2階へ上がり、受付でフィットア領出身者であること、ブエナ村の住民であることを告げると一番奥の窓口へ行くよう指示されました。
その窓口に向かった僕を出迎えてくれたのは見知った人、シルフィエットちゃんの父親であるロールズさん――実はリーゼさんの息子さんです――でした。
「ロールズさん!
ご無事だったんですね!」
「おお、ヒロか!
お前さんも無事で帰還……とは言えないのか、その右目」
ロールズさんは僕の生還を喜んでくれましたが同時に右目の眼帯を見て帰還途中で失ったと思ったみたいです。
まあ普通に考えたら自分の意志で右目を失う行動を取ったなんて考えないでしょうし、ましてやそれが自分の母親を助ける為だったなんて想像出来るはずもありません。
「しかしそれでも生還出来たのは目出度い事だ。
ああ、それとお前さんの両親は無事だ、というか俺の近くに二人も転移していて助けてもらったんだ。
たまたまアレクさんとセリアさんが近くに転移してなかったら間違いなく俺も死んでたよ」
「それは良かった……と言いたいところですけど、奥さんとシルフィエットちゃんは……?」
「……二人ともまだ行方不明だ。
シルフィはよほどおかしな場所に飛ばされていない限り大丈夫だろうが、女房はな……」
話を聞くとウチの両親とロールズさんは紛争地帯に飛ばされたようです。
元冒険者で実戦経験豊富な上、対人戦の経験もある両親がたまたま近くにいたロールズさんを救助、3人でここまで帰って来たとの事。
そしてロールズさんの奥さんとシルフィエットちゃんはまだ情報がないそうです。
シルフィエットちゃん個人に限れば実戦経験が殆どないとはいえその強さは間違いありませんし、魔大陸やベガリット大陸に飛ばされてでもいない限り大丈夫だとは思うのですが……。
両親の無事は良かったのですが、ロールズさんの事を考えると手放しで喜べる状況ではありませんね。
「そういえばウチの両親はここに?」
「ああ。
実はパウロさんが本来ブエナ村の担当になるはずだったんだが捜索団を結成してな、転移した時にたまたま一緒だったノルンちゃんを連れて各地で捜索に当たっているんだ。
で、ブエナ村の村長も行方不明でパウロさんも不在となるとパウロさんの部下だったアレクさんに責任者として白羽の矢が立てられたって訳だ。
俺はブエナ村でも最古参で一番顔が広いって事でここで受付を担当して、アレクさん達はブエナ村生存者の支援の手続きや面倒を見ている」
グレイラット家の方で現在安否確認が出来ているのはパウロさんとノルンちゃん。
それ以外の皆さんは領都のロアに行っているルーデウス君も含め全員が未だ行方不明とのこと。
「……そういえばウチの両親はいつ戻りますか?
無事だったことを報告しないと」
「ああ、もうすぐ戻ってくるはずだ。
1時間後にまたここに来てくれ、奥の会議室を取っておく。
無事だった家族や知人と顔を合わせるのは会議室と決めてあるんだ、縁者を失った人が再会を喜ぶ姿を見せつけられて刃傷沙汰になった事があってな……」
なんでも難民キャンプへ収容された元フィットア領住民の間で家族を失った人、無事再会出来た人との間で色々と揉め事があったとの事。
そりゃ自分が家族や親類を亡くしたのに横で再会を喜び合う姿なんて見せられたら感情的な反発が生まれるのもやむを得ない事でしょう。
そのせいもあって帰還者を2階で確認した後、ほかの人には判らないよう別室で再会させるようになったそうです。
「そういえば助けてもらって一緒にここに来た方がいるんですけど、一緒に来てもらっても?」
「構わない、お前さんのご両親も息子の恩人に挨拶したいだろうしな。
そういう人も一緒だと伝えておくよ」
「お願いします」
そして帰還の手続きを終えた僕は1階に戻り、リーゼさん達と合流する事にしました。
sideロキシー
……ここがフィットア領とは信じたくなかった。
小麦の実り豊かで季節によってはバティルスの花の心地よい香が漂う豊かな土地、そして何より魔族の私を受け入れてくれたグレイラット家の人達が暮らしていた場所。
今、私の目の前に広がるのは人がいた事すら感じさせない文字通りの更地でした。
難民キャンプの場所を聞き、グレイラット家の人達の情報を求めて訪れた臨時冒険者ギルド。
「すみません、通して、通して下さいっ」
ああ、自分の身体の小ささが恨めしいです。
人ごみの中を無理矢理突っ切り、壁に貼られた行方不明者や伝言の前までようやくの事で辿り着きました。
「行方不明……ルーデウス・グレイラット、ゼニス・グレイラット、リーリャ・グレイラット、アイシャ・グレイラット。
パウロさんとノルンちゃんはリストにありませんね。
……と、これはパウロさんからの伝言ですか」
壁に貼られていたリストの中、行方不明者の欄にグレイラット家の人達の名前がありました。
6人のうちルディを含めた4人が行方不明、そして無事だったらしいパウロさんがミリス大陸を探すからこれを見たら中央大陸北部を探せというルディへの伝言。
そして知人や元パーティメンバー――パウロさんはSランクパーティ「黒狼の牙」の1人でした――への捜索協力要請。
「……となると探すべきは魔大陸かベガリット大陸「ですか……」「かしら」「かのう」」」
「「「ん?」」」
長耳族の女性と炭鉱族の男性が私の呟きに被さるように同じ言葉を発しました。
「あら、あなた……わたくし達と目的地が同じですわね。
この張り紙を見まして?」
「あ、はい。
もしかして貴方達もパウロさんのお知り合いですか……?」
もしこの人達がパウロさんの知り合いであるなら、Sランクパーティ「黒狼の牙」の元メンバーかもしれません。
となると一緒に行動する事が出来れば捜索の安全性も確実性も上がりそうですが……。
「ええ、しゃくですけど、とってもしゃくですけどわたくし達は元黒狼の牙メンバーですわ。
正直パウロはまあどうでも良いと言えば良いのですけれど、ゼニスは絶対に見捨てる事なんて出来ませんから」
「それは流石に言い過ぎじゃ」
「ところで貴女、見たところミグルド族の冒険者ですわね?」
「あ、はい」
一目で私がミグルド族だと見抜かれました。
まあ、この容貌で杖を持っているのですから旅慣れた人からは判りやすいのでしょうけれど。
「わたくし達、昔のよしみでパウロの家族を探そうと思っているんですの」
「じゃがこの伝言を見る限り中央大陸とミリス大陸以外の場所、魔大陸かベガリット大陸を捜索する心算じゃが地理に疎くての」
「私は昔パウロさんのご子息の家庭教師をしていたよしみで捜索の手伝いをと……。
魔大陸なら出身地ですし、多少は詳しいですけどあそこは一人旅には少々厳しい場所でして」
魔大陸の地理に詳しいと言っても安全という訳ではありません。
それなりの実力者複数でパーティを組まないととてもではありませんが安全な旅など望めないでしょう。
「目的地は同じ、探す対象も同じ、であるならわしらがパーティを組むのは自然じゃな?
ワシは炭鉱族のタルハンド、上級魔術師兼前衛じゃ」
「ですわね、わたくしは長耳族のエリナリーゼ・ドラゴンロード、戦士で前衛ですわ」
「私はロキシー・ミグルディアと申します、聖級魔術師です」
「ああ、それからもう一人わたくし達の同行者がおりますの。
ブエナ村出身者で今2階で帰還の報告手続きをしていますけど、事情を話せばその子も多分参加する事になると思いますわ」
上級冒険者4人となると魔大陸でも十分通用しそうですね。
それにしてもブエナ村出身者でこの二人とつり合いが取れそうな人なんていましたっけ……?
そんなことを考えていたら。
「リーゼさん、タルハンドさん!
ウチの両親は無事でした!
……あれ、もしかしてロキシー先生?」
10代半ばくらいの少年が二人に声をかけ……私を一目見たその少年から名前を呼ばれました。
ブエナ村出身というのはこの少年なのでしょうけど、眼帯をした少年なんて滞在していた2年の間に見た覚えがありません。
「……誰でしたっけ?」
「あ、あはは。
まあ5年も前にルーデウス君のついでに魔術を習っただけですから忘れられてても仕方ないですよね……」
「あ!?
ヒロ、ヒロ・ブルーバードですか!?」
魔術を習った、と言われてようやく思い出しました。
地味な見た目の容姿が記憶に残っておらず、ヒロ・ブルーバードという個人というよりはその魔眼による魔術への発動妨害の方で覚えていたとかちょっと本人には言えません。
にしても。
「なんですかその眼帯、魔眼を隠す必要があるのですか?」
何故彼が眼帯をしているのか考えるより先に思わず手を伸ばしてしまっていたのです、彼の右目、その魔眼を確認しようと右目を覆う眼帯に。
ええ、私はここで少し考えるべきでした、眼帯をしている理由は「眼」を隠すだけではないのだと。
「あ」
「……ひっ!?」
何気なく捲ってしまった彼の眼帯の下には文字通り何もありませんでした。
そこに彼の特徴でもあった魔眼は存在せず、ただ眼球を失った空虚な眼窩があるだけだったのです。
「す、すみませんッ!」
「いえ、気にしないでください。
まあ、普通はたった5年で片目を失ってるとか思いませんよね」
慌てて平謝りしましたが、彼は全く気にした様子がなかったのが救いでしょうか……。
というか、ヒロが平気な顔をしているのに隣にいるエリナリーゼさんの表情が暗くなってますね。
「あー、リーゼさんも目の事はもう気にしないで下さい。
前にも言った通り、僕自身が納得してやった事なんですから」
「ええ、ええ、それは判っていますわ。
それでもまだ感情が、私の心が完全に納得しきっていないんですのよ……」
あれ、なんでしょうこの距離感。
ヒロとエリナリーゼさんの間にこう、余人の入れぬ繋がりというか深い関係を感じてしまうのですが。
「あ、あの。
ヒロとエリナリーゼさんはどのようなご関係で……?」
「将来を誓い合った恋人「です」「ですわ!」」
思わず聞いてしまった私に返ってきた言葉は予想外にも程がある!と叫びたくなるようなものでした。
正直、外見だけで見るならなぜこの二人が?と思わざるを得ないカップルです。
たぶん、その疑問が顔に出ていたのでしょう。
「ロキシー先生も一緒に2階に来てくれませんか?
ちょうどその辺の事もウチの両親に説明するつもりなので」
「……私が行っても良いのですか?」
「もちろん構わないですよ、というか今後の事も含めて話し合いが必要でしょうし。
パウロさんが捜索団を結成してフィットア領の領民捜索に出ていますし、ロキシー先生もここに来たって事はルーデウス君を探しているんでしょう?
リーゼさんとタルハンドさんも黒狼の牙の元メンバーとしてパウロさんやゼニスさんを探したいと思っているでしょうし」
ああ、私の目的もあっさり見抜かれていました。
確かに私がここに来た理由はルディとグレイラット家の皆さんの安否確認が目的でした。
同時にブルーバード家の皆さんも魔族である私に全く隔意なく接してくれた事を思い出しました。
「ヒロ、改めて謝罪を。
ブルーバード家の皆さんも私が魔族なのに普通に接して下さっていたのをようやく思い出しました。
それなのに忘れていたなんて、本当に恥ずかしいです……」
「まあ、僕の顔が地味で中々覚えてもらえないのは自覚してますから。
とりあえず、もうすぐウチの両親が2階に戻ってくるはずなので会議室に上がりましょう」
そう言われて私はヒロ達と一緒に臨時冒険者ギルドの2階へと上がりました。
……そこでまた驚かされることになるとは予想もしていませんでしたが。
再会(両親とは言っていない)、いや次話で両親とも再会するのですが。
ロキシーは思考と行動が短絡するクセがあるのでこんな行動もあり得るかな、と。