ヒロ・ブルーバード。
神様によって転生させて貰った僕の新しい名前です。
父さんの名はアレク・ブルーバード、母さんの名はセリア・ブルーバード。
二人はもともと冒険者で、恋人同士でコンビを組んで妊娠を契機に半引退したそうです。
生まれた直後から意識があるのかと思っていたけれど3歳になる少し前から徐々に前世の記憶を取り戻すパターンでした。
正直、14歳の記憶を持ったまま授乳を受ける羞恥プレイをせずに済んだのはとてもありがたかったと思います。
剣と魔法の世界らしく様々な種族がいるようで、父さんは普通の人族でしたが母さんは長耳族というファンタジー定番のエルフに該当する種族だそうです。
そのせいか僕の耳も普通の人族より若干長めで、寿命も1000年以上と教えられました。
4歳になった時には前世の記憶も完全に思い出し、同時に脳内にメッセージが流れました。
【4歳の年齢に達したことで以下の機能がアンロックされました。左目:鑑定眼、右見:魔力視と魔力操作の魔眼】
これがきっと神様の言っていた「条件次第で様々な能力が目覚める」という事なのでしょう。
実際、この能力が発現してから母さんが魔術を使う際の魔力の流れが見えるようになり、それと同じ魔力操作を自分の魔力を使って真似することで僕も魔術が発動出来る事が判明しました。
しかも魔力操作で発動させた魔術は無詠唱魔術と呼ばれる高等技術だったらしく、後から教えてもらったのですが普通なら正式に魔術を習ってもいない子供が使えるはずがないものだったのです。
その事を知られた時は異常な子供だと嫌われるかもしれない、と両親の顔を見るのが怖かったのですが。
「流石ヒロ、俺達の子供だな!」
「魔術の素質は私の血を継いだのね、うれしいわー」
と嫌うどころか親バカ全開の笑顔で喜んでくれました。
理解が有り過ぎる両親だった事を神様に感謝しました、きっと転生直前の希望をかなえてくださったのだと思います。
そしてもう一つ、左目の鑑定眼は人や物を”視”て対象の情報を引き出すもので人なら魔力総量や大まかな強さ、物なら一般的な市場価格や産地が判るのですが、これに右目の魔力視と魔力操作の魔眼とリンクさせて一緒に使うと魔術のみならず様々なものの解析が出来る事が判りました。
流石にこの力は安易に使えるものではないと思い、どうしても必要な時がくるまで封印です、いくら何でも他の人が努力して身に着けた魔術を”視”るだけで解析して自分で使えるように――それも無詠唱で――してしまうのは反則です。
これは魔術が使えるようになった時に母さんに「ヒロは才能があるけれどそれに奢っちゃダメ。魔眼を使うのは最低限にして自分自身の技量を磨きなさい」と言われた事も大きな理由でした。
神様も努力が確実な結果になる、と言ってましたから与えられた能力に頼り切るのは良くないと考えるべきなのでしょう。
まずは基礎固めにこつこつ頑張ってきたいと思います。
そんなこんなで母さんから魔術を教わりつつ僕がもうすぐ5歳になろうかという頃、ブルーバード一家はアスラ王国フィットア領ブエナ村に移住しました。
父さんは治安維持担当のパウロ・グレイラットさんという方の元で部下になり、パウロさんの奥さんであるゼニスさんが妊娠していて出産も近かったことから治癒魔術が使えて出産経験のある母さんがそのサポートにつくことになりました。
まだ子供の僕は母さんに教わった魔術の練習と普通の勉強、真面目に取り組めば取り組むほど魔術も勉強も身についていく事が実感出来る非常に充実した日々を送っています。
そしてゼニスさんの出産も無事男の子が産まれルーデウスと名付けられたそうです。
将来ルーデウス君がパウロさんの後を引き継いだ時にはきっと僕もその部下になるのでしょう。
……1歳になったルーデウス君が家から出たがらないそうです。
ゼニスさんに抱き抱えられて庭までは出てくるそうですが、家の敷地からは出ようとしないとのこと。
僕とルーデウス君の顔合わせはもう少し先になりそうです、用事があってグレイラット家に出入りしている両親もルーデウス君に会う事は殆どないんだとか。
それもパウロさんやゼニスさんと会っているところを物陰から覗き見しているのをちらっと見る程度だそうです。
ルーデウス君3歳、魔術を発動させてグレイラット家が大騒ぎになりました。
魔術の才能を伸ばすために魔術教師を雇う事を決めたらしいです。
なんでも剣術もパウロさんが教えるとの事で、父さんが魔術教師の空いた時間の一部を僕に回せないか確認すると言ってくれました。
結果、ルーデウス君の教師として招かれたロキシーさんが僕の事も見てくれる事になりました。
数日に1回程度ですが、母さん以外から魔術を教わるのは初めてなのでとても楽しみです。
「……ヒロも無詠唱で魔術を使えるのですか」
ロキシー先生が吃驚した様子で僕を見つめています。
なんでもルーデウス君も同じように無詠唱で魔術を発動できるとの事ですが、「普通は不可能」らしいのです。
つまり無詠唱魔術を使った僕を親馬鹿全開で褒めたウチの両親はその異常性を才能の一言でスルーしていたようです。
「あ、あの。
僕が無詠唱で使えるのは多分右目の魔眼があるせいだと……」
「魔眼?」
魔術を教わる立場なので正直に自分の事をロキシー先生に説明しました。
左目の鑑定眼、右目の魔力視&魔力操作眼。
右目の魔眼で他者の魔術発動を視る事でその魔力の流れを掴み、魔力操作で詠唱なしに魔術を発動出来ること、そして最近判明した右目の魔眼で他者の魔術発動に介入しその発動を妨害出来ること。
両目の魔眼をリンクさせた状態だとさらにいろいろな事が出来る可能性があること。
最後に魔眼を使わず自力で魔力を制御して詠唱なしに魔術を発動出来るよう訓練している事を伝えたらロキシー先生が驚愕の表情で僕を見ました。
「なんですか魔術の発動に介入出来るって!
魔術師なのに魔術師の天敵じゃないですか!?
しかも魔眼を使わなくても無詠唱って……」
……薄々感じていたけれど、僕の魔眼は通常の魔術師から見ると相当に理不尽な存在のようです。
少なくとも水聖級という高位魔術師であるロキシー先生が驚くくらいには。
その後、ロキシー先生から試しに自分が使える魔術に介入して見せろと言われ、村外れで先生が使おうとするブリザードストームという魔術に対して全力で介入、それなりに魔力を消費しつつ無力化することに成功しました。
「本気で反則ですよ、それ……。
あなたに魔術を教える必要なんてあるのか疑問です」
無力化された自分の魔術にがっくりしつつロキシー先生が僕にそう聞いてきました。
自宅に魔導書がある訳でもなく、魔術が使える母さんから教わるしかない僕は「使える魔術の数を増やす」という点で頭打ちの状態です。
そのことを伝え、ロキシー先生が知っている魔術を教わりたいと頭を下げてお願いしました。
「はあ、聊か納得しがたい部分はありますがヒロの希望は判りました。
授業1回ごとに謝礼を頂けるとの話ですし、私が使える魔術を少しづつ教えてあげます」
「ありがとうございます!
これからよろしくお願いします、ロキシー先生!」
その日から家の懐事情もあってだいたい7日に1回のペースですがロキシー先生から魔術を教わる事が決まりました。
家の手伝いをしつつ父さんからは剣術の稽古を受け、ロキシー先生から魔術の手ほどきを受ける日々が過ぎていきます。
ロキシー先生が村に来て2年目、5歳になったルーデウス君がロキシー先生と一緒に我が家へやってきました。
今までどうしても家(の敷地)から出られなかったのがロキシー先生のおかげで外に出られるようになり、同じく弟子となっている僕と顔合わせをさせるために連れてこられたようです。
「初めまして、ルーデウス君。
パウロさんの部下アレクの子、ヒロです」
「ルーデウスです、よろしく」
ルーデウス君は僕の事を知らない様子。
一応、何度か父さんの付き添いでグレイラット家にお伺いした時に姿を見てはいるのですが名乗り合った訳でもありませんし仕方ないと言えば仕方ないでしょう。
「今から二人の卒業試験です。
ルディは私の使う『豪雷積層雲』を真似て使ってみて下さい」
それが出来たらルディは卒業です、それからヒロはルディの『豪雷積層雲』に介入して打ち消しを試してください」
「魔術を打ち消すって!?」
発動した魔術を打ち消す、という言葉に反応するルーデウス君。
うん、普通じゃまずあり得ない事だから驚くのは仕方ないと思うんだけどまるでどこかよその世界から来た生物を見るかのような目で僕を見るのは勘弁してください。
その後、ロキシー先生が発動させた『豪雷積層雲』でグレイラット家の馬が死にかけたりとトラブルはあったものの、ルーデウス君も『豪雷積層雲』を成功させ無事卒業試験を合格。
僕はと言えば……ルーデウス君が発動させた『豪雷積層雲』を打ち消そうと魔力を込めたものの魔術を維持するためにルーデウス君も魔力をつぎ込み鼬ごっこに。
結果、魔力効率で劣る上に魔力総量の差もあって僕が先にダウンしてしまったのでした。
最終的にルディはロキシー先生から水聖級魔術師として認定、僕は上級と認定したロキシー先生はブエナ村を旅立っていきました。
ロキシー先生が旅立った翌日、ルーデウス君に魔術の打ち消しについて聞かれ両目の魔眼の事を教えたら訓練でどうこう出来るものではないと判って興味を失ったようでした。
流石に別の世界で一度死んで転生する時に神様に貰いましたなんて言えるはずもなく。
ルーデウス君との関係は知人以上友人未満、といった辺りに落ち着きました。
ルーデウス君が虐められていた村の女の子を助けましたが彼はその子を男の子だと思っていたようです。
その子、シルフィエットちゃんにルーデウス君が魔術を教えるようになり、時々ですが僕もそれに付き合うようになりました。
驚いたのはシルフィエットちゃんの魔力総量が数日でそれと判るくらい増加していたこと。
僕もそうだったしルーデウス君もそうだったので気付くのが遅れましたが、普通は魔力総量がここまで伸びるのは有りえないそうです。
ルーデウス君から聞いた話だと小さい時に魔術を発動させ、魔力が枯渇寸前になるまで魔術を使用する……というのを繰り返していたら魔力総量が物凄く増えていたとのこと。
僕も小さい時から魔術を使っていたので(流石に枯渇する寸前までは使いませんでしたが)ルーデウス君程ではないものの魔力総量が相当に伸びていたようです。
……10歳になった今は幾ら魔力を消費しても総量が伸びなくなったので子供のうちが魔力総量を伸ばせる適齢期、という事でしょうか。
一度ロキシー先生にこのことを伝えて調べてもらうのも良いかもしれません。
このこともあってシルフィエットちゃんはルーデウス君から色々教わった結果、無詠唱魔術も含めあっという間に魔術の腕を上げていきました。
魔術が使えるようになった事で虐めもなくなってルーデウス君によるシルフィエットちゃんの魔術練習が日常になってしばらくしたある日、グレイラット家でゼニスさんとメイドのリーリャさんが同時に妊娠しました。
色々とトラブルがあったようですがルディが間に入ることで問題は解決、今まで通りの生活を送れる事になったそうで何よりです。
経過を知った僕のパウロさんに対する敬意は急降下しましたが。
それからしばらくしてゼニスさんとリーリャさんは無事出産、二人のお子さんは共に娘さんでゼニスさんの子はノルン、リーリャさんの子はアイシャと名付けられました。
さらなるトラブルが発生したのはルーデウス君とシルフィエットちゃんに関してでした。
ルーデウス君に虐められていたところを助けられ魔術を教わるようになったシルフィエットちゃん、ルーデウス君から見て魔術の弟子となった彼女との関係が共依存とも呼べるレベルになってこのままでは良くないと二人の両親が判断したようです。
きっかけはルーデウス君がラノア魔法大学へ通いたいと申し出た事、そしてシルフィエットちゃんも一緒に行かせたいとパウロさんに直談判したらしく、結果ルーデウス君はシルフィエットちゃんの学費を稼ぐために5年の間フィットア領の領都ロアでグレイラット家――パウロさんの本家筋にあたるそうです――で仕事をするとのこと。
とはいえ急遽決まった上に有無を言わせずロアに送り出すためにルーデウス君はパウロさんの手で気絶させられて馬車に放り込まれ、(無理矢理)旅立つ事となったのでした。
ノルンちゃんとアイシャちゃんの二人がルーデウス君をきちんと兄と認識する前に旅立ってしまったのですが将来大丈夫でしょうか……。
なおルーデウス君が旅立った後、魔術が使えるという事で僕がたまにシルフィエットちゃんに魔術の手ほどきをすることになりましたが、ルーデウス君と比べて教え方が下手な僕はあまり参考にならなかったようです。
ルーデウス君にしろシルフィエットちゃんにしろ、僕の方からもう少し距離を縮める努力をすればもっと仲のいい関係になれたのかもしれません。
ただ、仲良くなろうとするたびに僕が思い出すのは前世のこと。
生まれてすぐに母親に捨てられ遺伝上の父親に引き取られ――母親が無理矢理押し付けたらしいです――幼少期から肩身の狭い思いをしていたこと。
小学校に通うようになって初めて出来た友人に「あいつかーちゃんいないんだぜ、あいじんのこだからとーちゃんも邪魔だって」と言われ虐められるようになったのです。
今にして思えば父の製薬会社で持っているような企業城下町でしたから製薬会社の関係者が社長の不興を買わないように僕との付き合いを止めさせたかったのかもしれません。
仲が良くなっても何かあれば簡単に掌を返される、その恐怖感が僕にルーデウス君やシルフィエットちゃんとの距離を縮める事を躊躇わせたのです。
そして数年がたち僕ももうすぐ15歳、この国で成人として認められる年齢になったら一度家を出て冒険者として家を出る。
前世で僕が死んだのが14歳、ちょうどその区切りを超えたところで見聞を広める為に旅に出たいと考えていました。
父さん、母さんとも相談して決めた僕の最初の目標です。
ブエナ村に住むようになってからは村以外に行くこともなく、村の中で生活が完結していた僕にとって外の世界を見て歩くというのはとても魅力的でした。
因みにこの相談をしたときの両親の反応と言えば。
「良いかヒロ、冒険者になってどこかで一目惚れした相手が出来たならその場で告れ、俺はそれで母さんをゲットしたんだ」
「お父さんったら、野盗に襲われてたお母さんを見ていきなり「俺の嫁に手を出すんじゃねぇ!」と言いながら野盗に切りかかったのよ?
5人くらいいた野盗を倒して敵がいなくなったと思ったら最初の一声が「俺と結婚してください!」だもの」
……返ってきたのは出会いと告白の惚気でした。
とはいえ人数で勝る相手に危険も顧みず乱入して助けてくれた父さんに思うところがあったのか、結婚こそ保留にしたもののそのままお付き合いを開始したとのこと。
実際、冒険者同士で恋人関係から夫婦になるのは珍しい事でもないそうで、パウロさんとゼニスさんも元冒険者で同じパーティの仲間だったそうです。
旅立ちまでの数か月の間、魔術の練習だけではなく父さんから護身のために最低限の剣術も教わりました。
まあ、神様から貰った才能が魔術関係に特化しているせいか何度か剣の訓練をしているうちに「贔屓目に見ても適性殆どなし」と言われてしまい、戦うためと言うよりはひたすら防御に徹して隙を見て魔術を使用する……といった方向になってしまったのですが。
そしてついに旅立ちの日がやってきました。
「ヒロ、はっきり言うがお前に剣で戦うための才能はない。
だが剣を持っていればそれだけで相手に対する牽制にはなる、接近戦になったら剣を使った防御に徹して隙を見て魔術で反撃しろ。
恐らくそれが一番お前にあった戦い方だ。
それとこれを持っていけ、小振りだからそう邪魔にはならんはずだ」
「……そういえば私も何か渡し忘れていたような……?
それも昨日今日じゃなく、何かしら」
ブエナ村を旅立つ日の朝、父さんはそう言いながら僕に刃渡り35センチ程のショートソードをくれました。
その様子を見ながら母さんが何事か呟いています。
「ああっー!
杖! 杖を渡してない!
ヒロが何も持たず無詠唱で魔術使ってたからそっちに気を取られて完全に忘れてたー!?」
慌てた様子の母さんが自室へ走り、しばらくして小さな杖を持ってきました。
「私が昔使ってた杖だけど、これを贈るわね。
本当なら私が初級魔術を教えた時に新しく作って渡すはずだったんだけど、その時間がないからひとまずこれを使ってちょうだい」
その杖は母さんが冒険者時代に使っていたもので、30センチそこそこと小振りではあるもののそこそこ良い杖なのだそうです。
……正直杖を使ったことがないので良し悪しはまだ判らないのですが、ありがたく使わせてもらおうと思います。
旅立ちの前に自宅で食べる最後の朝食をとりつつ両親から誕生日のお祝いの言葉を貰いました。
「良いか、無理だけはするなよー!」
「お嫁さん連れて帰ってきても良いからね!」
僕は左腰にショートソード、右腰に杖を佩いて保存食や着替えを入れて野営用の毛布を括り付けたキャリングパックを背負い、両親に見送られながら住み慣れた家を後にした……筈でした。
両親に背中を向けて歩き出した瞬間、目の前が真っ白な光に染まり……強烈な浮遊感に襲われた僕は意識を失ってしまったのです。