※この作品はR-18です。

「エリナリーゼさんと幸せになりたい!」   作:大隅

9 / 19
主人公ちょっと曇らせ回。


第6話「フィットア領転移事件を知りました……」

sideヒロ

 

ギフトの内容をある程度確認した僕とリーゼさんの旅は順調です。

何らかの天災(?)で王竜王国に飛ばされた僕がリーゼさんと出会い、フィットア領ブエナ村を目指して3カ月半が経ちました。

途中の街で冒険者ギルドに登録して冒険者カードを作成、たまに立ち寄った街や村で依頼をこなして路銀を稼ぎながらの旅でした。

まあ路銀を稼ぐと言っても僕だけで、リーゼさんはすでに十分なお金を持っているそうです。

ランクが違い過ぎる事もあって僕はリーゼさんとのパーティが組めない事もあるので当面の目標はAランク、リーゼさんと正式にパーティを組む事を目指す事にしました。

 

リーゼさんによると無詠唱魔術を用いた場合の実力はBランク以上はある、との事ですがやはり最大の問題は魔力総量の低さ。

それでも討伐系依頼や希少品採取であれば無詠唱魔術と鑑定眼を駆使して効率的に進める事が可能だったため、約2カ月という短期間でDランクに昇格する事が出来ました。

依頼数を稼がないとランクが上げられないのは仕方ないですけど、今のままだとAランクまでは相当な時間が掛かりそうです。

あと、普段はリーゼさんと一緒なのであまり気にせず済んでいた「右目がない」事がソロだと結構な負担になってきました。

何しろ視界が半減している上、距離感が若干おかしくなっているので魔術使用時の命中精度が落ちてしまっています。

 

それでも距離感はこの3カ月程である程度慣れてきましたが、右目がない事による視界の狭さはどうにもなりません。

普段はリーゼさんが僕の右側に付いてくれるので問題はないのですが、ソロで依頼を受ける場合には普段以上に周囲に気を配らないと死角から襲われる可能性も出てきます。

周囲への警戒に関してはとにかく注意に注意を重ね、慎重な行動を心がけるしかありません。

それらも含め、僕は「冒険者」としての実績と成長を積み重ねながらの旅は続きます。

日が落ちる前に村や街に辿り着いた時は宿を取り、なかった場合は【愛の巣】で結界を張って野宿という生活にも慣れてきました。

 

リーゼさんは冒険者としての経験もあって最初から慣れていましたが、僕は前世も含め野宿など未経験だったため慣れるまでは夜間に僅かな物音で目を覚ます事もしばしばでした。

それでも3カ月も経てばそれなりに身体も意識も順応します、まあ【愛の巣】というギフトのおかげで安心感が段違いという事もあるんですけれど。

あと性行為は基本的に宿に泊まる時だけにしています、【愛の巣】があるとは言っても青姦はやはり見られるかもしれないとかそういう精神的疲労が大きかったので……。

因みにリーゼさんは「たまには良い刺激になりますわよ」と割と乗り気だったので、街道近くに浅い洞窟のような安全確保のしやすそうな場所を見つけた場合の時限定にしています。

なお3カ月の間に野宿はほぼ半数、うち2回は適した洞窟を見つけたので青姦ならぬ洞窟姦(?)でした。

 

「あ、次の街が見えてきましたよ。

 少し早めですけど今日はあの街で宿を取りますか?」

「そうですわね、3日連続で野宿もなんですし、今日はあの街で宿を取ることにしますわ」

 

時間で言うとたぶん午後3時過ぎ、といったところでしょうか。

街道沿いの宿場街を見つけ、日没まではまだ余裕がありますが僕とリーゼさんはその街で宿を取ることに決めました。

ちなみに現在地はシーローン王国を抜け、王竜山脈の北端を西に抜けた辺りです。

フィットア領まではまだですがアスラ王国が大分近づいてきました。

 

 

「すまないねぇ、うちは部屋への持ち込みはやってないんだよ、夜になったら下の酒場で食べておくれ」

 

この宿では部屋への食事デリバリーはやっていないようです。

仕方なく僕とリーゼさんは宿の部屋で旅装を解くと夕食の時間まで一息入れる事にしました。

そして夜になり夕食を食べに1階の酒場へ降りたのですが。

 

「しかしあの話が本当とは思わなかったなぁ」

「いやいや、親戚だって言ってたんだからそりゃ本当だって判るだろ」

「たしかに親戚だって言ってたけどよぉ、なんでアスラ王国から突然この街へ来れるんだよって思うわ」

 

……突然この街に来た?

 

「魔力災害で一つの領が丸ごと消えちまったんだっけっか」

「ああ、少し前に来たアスラ王国の捜索団だったか、そいつらがそんなことを言ってたな」

 

……魔力災害で一つの領が消えた?

 

「巻き込まれた連中があちこちに飛ばされたって話だったか。

 洒落になんねぇ人数だろうになぁ」

 

……巻き込まれた人達があちこちに飛ばされた?

 

「あ、あの、すみません。

 突然この街に来たっていうアスラ王国の人の話って、いつ頃の事ですか?」

 

まさか、という嫌な予感が頭の中で大きくなっていく。

あの転移が僕だけじゃなかったとしたら。

 

「なんだにーちゃん。

 そうだな、だいたい3カ月ちょっと前くらいだったハズだぜ」

「そうそう、突然街外れに現れてここはどこだってすげぇ慌ててたんだよな。

 たまたまそいつの親戚がこの街にいたんで本当にアスラ王国のやつだって判って、その親戚から旅費を融通してもらったんだっけっか」

「だな、もうアスラ王国の……どこだったっけっか」

「フィットア領とか言ってたな、確か。

 もう到着してる頃だとは思うが」

 

……魔力災害で一つの領が消えた、フィットア領から転移してきた人。

まさか、ブエナ村の皆も巻き込まれてあちこちに飛ばされた……?

父さんも母さんも、グレイラット家の人達も?

 

「う……あ……」

「おいにーちゃんどうした、顔が真っ青だぞ?

 あ、おいっ!?」

 

僕がリーゼさんと出会って楽しく旅をしている間、僕の両親や知り合いの人達は一体どんな事になっていたんだろう。

そこに思いが至った直後、僕の意識は途絶えました。

 

 

sideエリナリーゼ

 

「ひ、ヒロ!?」

 

夕食を頼んでカウンターからヒロの元へ戻ろうとしたわたくしの目に飛び込んできたのは崩れ落ちる彼の姿でしたわ。

慌てて駆け寄り倒れる寸前のヒロを抱き抱えました。

直前まで話していたらしい男達もヒロの突然の豹変に驚き戸惑っているようで彼らがヒロに直接何かをした、という訳ではなさそうですわ。

少し落ち着いた私に聞いたことがある声がかけられたのはその時でした。

 

「なんじゃ、久しぶりじゃなエリナリーゼ」

「……タルハンド?

 お久しぶりですわね……ではありませんわ、お願いです、この子を部屋まで運ぶのを手伝ってくださいまし」

 

そこに立っていたのはかつてのパーティ、「黒狼の牙」で魔術師をしていた炭鉱族の男、通称「厳しき大峰の」タルハンド。

正直、彼に借りは作りたくありませんが今の状況で四の五の言っている余裕もありませんわね。

 

「……お前がワシに素直に頼み事とは珍しい事じゃな。

 その坊主は今宵の相手かの」

 

タルハンドはわたくしの呪いの事を知っていますからヒロの事をいつもの男漁りの対象者だと判断したのでしょう。

とりあえずその勘違いを正すのは後回しにして気を失っているヒロを二人でわたくし達の部屋へと運び入れましたわ。

 

 

「ありがとうございます、タルハンド」

「本気でどうしたんじゃ、さっきの頼みと言い今の礼と言い正直気味が悪いんじゃが」

「失礼ですわね!

 大切な人に何かあったんですから体面より実利を優先しますわよ!」

 

ヒロをベッドに寝かしつつ大切な人、と言った瞬間のタルハンドの表情は見ものでしたわ。

わたくしが一人の男性を指してそんなことを言うとは全くの予想外、いえ、想像の埒外にあったのでしょうね。

 

「しかしお前さん、こんな地味な坊主を誘うとは童貞食いか?」

「ヒロは童貞なんかじゃありませんわよ、わたくし何度も啼かされていますもの。

 ……そうですわね、これを見ればどういうことか少し判るのではなくて?」

 

タルハンドにそういうとわたくしは右手に集中し――胎内の魔力を魔力結晶化して見せました。

 

「男の精を浴びねば出来ぬハズの魔力結晶化……じゃと?」

「ええ、今のわたくしは自らの意志で胎内魔力を魔力結晶化出来るようになりましたの。

 ……この子の、ヒロのおかげですわ」

 

わたくしはタルハンドにそう言うとここ数カ月の出来事を説明しましたわ。

ヒロがわたくしの目の前に突然落ちてきたこと、目を覚ましたヒロがわたくしに一目惚れしたこと、交際を申し込まれて呪いを理由に断ったこと、その呪いをなんとかしようとしてヒロが右目の魔眼と寿命、魔力総量を代償にしたこと、そのまま交際をスタートしてヒロの故郷であるアスラ王国フィットア領ブエナ村を目指して旅を続けていたこと。

呪いに介入して男の精を浴びる必要がなくなった、という事を聞いたタルハンドは口をぽかんと開けてヒロを見ておりましたわ。

 

「魔術師の坊主が魔眼や魔力総量を犠牲にして、か。

 本気でお前に惚れておるのじゃな」

「わたくしがこの子を受け入れたのも理解出来ますでしょう?」

「否定はせん、にしてもお前が一人の男、それもこんな坊主とは思わなんだわ。

 にしてもこの坊主も魔力災害の被害者か」

 

本当の愛に年齢は関係ありませんのよ、と返したわたくしはタルハンドに魔力災害の事について問いただしましたわ。

 

「……その様子じゃとお前達は事件の事を知らなかったようじゃな。

 アスラ王国のフィットア領は魔力災害で丸ごと消え失せた、文字通り人も物も、じゃ。

 そして消えた人々は突如として各国に現れておる」

「フィットア領が丸ごと消えたですって?

 ヒロが倒れたのはもしかしてその事を知ったから……?」

「ここらにその話が知れ渡ったのはつい最近じゃな。

 たまたま酒場でその話を聞いてしまった可能性は十分にあり得る、何れにせよ起きるのを待って聞くしかあるまいて。

 ああ、それとワシもフィットア領を目指しておる、パウロやゼニスの安否も確認したいのでな。

 お前達に同道させてもらうが構わんな?」

 

そういうとタルハンドは自室に戻ると言って部屋を出ていきましたわ、わたくしの返答を待たなかったのは断るつもりがないと見越しての事ですわね。

 

「……ん……あれ、リーゼさん……?」

 

タルハンドが部屋を出てしばらくするとヒロが目を覚ましました。

 

「ヒロ、大丈夫ですの?

 あなた、酒場で突然頽れるように気絶してしまったんですのよ?」

「あ……ああ……、父さんと母さんが、ブエナ村の人達が……。

 きっとみんな大変な目にあっているのに、僕は……リーゼさんと出会って浮かれて……」

 

ああ、これはやはりタルハンドの言っていた通り酒場で魔力災害によるフィットア領転移事件の事を知ってしまったのですね……。

そしてなまじ自分がわたくしと出会って普通に――彼自身からすれば幸せな――旅をしてきた事への罪悪感に苛まれているようですわ。

 

「ヒロ。

 これだけ大規模な魔力災害なんて今まで記録にもありませんし完全な不可抗力ですわ。

 あなたが気に病む必要なんてないんですのよ?」

「でも……村の人達が大変な事になっているなんて全然気づかないまま僕だけなんの心配もない旅を……」

「当たり前ですわ、転移に巻き込まれて自分以外も同じような目にあっている、なんて考えられる方が異常な事態ですのよ?

 あなたでなくとも事情を知るまで他の人が同じ目にあっているなんて思う方が無理と言うものです、だから気にするなとまでは言いませんが必要以上に自身を責めるのはお止めなさい」

「り、リーゼさん……」

 

そういうとヒロは目に涙を浮かべながらわたくしに抱き着いてきましたわ。

身体は小刻みに震え、その眼には怯えの色が見て取れました。

 

「……ごめんなさい、また突然どこかに飛ばされちゃうんじゃないかって、嫌な考えばかり浮かんで……。

 寝て起きたら一人になってるんじゃないかって思うと、怖いんです……」

 

ああ、この子はま(・)だ(・)1(・)5(・)歳(・)でしかない、年齢としては大人と見なされる年齢になっていても精神的には大人になり切れていないのだと言う事に今更気づかされました。

幾ら魔術の才能があっても、わたくしの為に自らの魔眼や寿命、魔力総量を犠牲にするような判断を即座に下せるとしても、その本質はまだまだ大人になりかけの子供だという事をすっかり忘れていたのですわ。

 

「大丈夫、大丈夫ですわ。

 わたくしは決してあなたの元を離れません、だから安心してくださいまし」

 

赤子をあやすように優しく語り掛け、少しでも安心して貰おうとヒロの身体を抱き返します。

そのままわたくし達はお互いの温もりを確かめ合うように抱き合いながら眠りに落ちたのです――。

 

 

 

sideヒロ

 

朝、目が覚めると僕はリーゼさんに抱き抱えられていました。

子供の頃に怖い夢を見て飛び起きて母さんのベッドに潜り込み、その温もりに安心しつつ寝てしまったのと同じように僕はリーゼさんの胸の中で安心して眠ってしまったようです。

そして抱き抱えられている、と言う事はつまり僕の顔がリーゼさんの胸元に押し付けられている訳でして。

 

「あんっ、目が覚めたのですわね。

 もっと眠っていても宜しいんですのよ?」

「むぐっ」

 

顔を少し動かすだけでも当然リーゼさんのおっぱいを刺激してしまい、それで目を覚ましたリーゼさんが再びぼくの顔を抱き抱えておっぱいに押し付けてきました。

暖かい感触に確かにリーゼさんが僕と一緒にいるのだ、という実感が沸き上がってきます。

それと共に昨晩見せてしまった醜態を思い出し、みっともない姿を見せてしまったと自己嫌悪。

 

「ヒロ、あなた昨晩の事を恥ずかしいとかみっともないとか考えていないでしょうね?

 あなたくらいの年齢なら事件の事を聞いて取り乱すのも当然ですわ、昨晩も言いましたけど必要以上に自分を責めるのはお門違いですわよ」

 

……僕の葛藤はリーゼさんにはお見通しだったようです。

確かにフィットア領全体が転移するなんて予測出来るような人がいたらそれはある意味異常者と言っても良いレベルでしょう。

それでもどこかに後ろめたさが残ってしまうのは僕の自意識過剰なのでしょうか。

 

「……出来るだけ、気にしないよう努力はします」

「宜しいですわ。

 それと後でわたくしの昔(・)の(・)仲間を紹介致しますわ、昨晩倒れたヒロを一緒に部屋まで運んでくれたんですのよ」

 

……昔の、に強いアクセントを感じたのは今(・)の(・)仲間は僕だ、という事でしょうか?

そうだとしたらすごく嬉しいのですが。

 

 

その後、旅装を整え階下に降りると炭鉱族の男性を紹介されました。

通称”厳しき大峰の”タルハンドさんというそうです、リーゼさんが昔組んでいたS級冒険者パーティ「黒狼の牙」で共に戦った仲間だそうです。

 

「坊主の事は聞いておる、タルハンドじゃ。

 ひとまずフィットア領までよろしく頼む」

「あ、はい。

 ヒロ・ブルーバードです、一応魔術師ですけど魔力総量が少ないのでご迷惑をおかけするかもしれませんが宜しくお願いします」

「わたくしの事は二人共知っていますから必要ありませんわね。

 タルハンド、ヒロはまだ冒険者になって3カ月程ですからサポートをお願いしますわ、特に右側が死角ですからその辺に注意してくださいまし」

「承知。

 しかしなんじゃ、お前さんがそこまで一人の男を気にするのを見るのは聊か違和感が拭えんのう」

「うるさいですわよタルハンド」

 

……なんと言えばいいのでしょう、仲があまり良くないように見えて息はぴったり合っている、という印象です。

何はともあれ、僕とリーゼさんにタルハンドさんが加わって3人で改めてフィットア領を目指す事になったのでした。

 




曇ったけどエリナリーゼさんの身体で(完全じゃないけど)あっさり癒されるお手軽主人公。
でも精神的に弱った状態で相思相愛の相手の身体で癒されるのはある意味王道じゃないかなと思う作者。

今後は週一程度の投稿を目指します。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。