脱衣所の扉を閉めて、ようやく一息ついた気分。
あの後、逃げるように彼の家に転がり込んで、そのまま風呂場へと押し込まれてしまった。
お先にどうぞと、私のせいで服を濡らしてしまった彼にこそ先に入って欲しかったのに。良いからと、背中まで押されると何とも申し訳ないような、それでも、甘えたくなるような気分になる。
「あ、あのさ…? ちゃんとそこにいてね? す、すぐ上がるから…うん、ほんとカラスかって言うくらいにね」
何より、私を躊躇わせたのは、また雷がなったらどうしようという一点だった。
まるで、夜にトイレにもいけない子供みたい。
扉の向こうにでも彼がいないと不安でしょうがない。
服まで濡らして、一緒に帰って貰って、おまけに扉の前で待たせるなんて、迷惑をかけどうしだ。
「ね? 一緒に…入る? 前みたいにさ、背中流したげたって、別に私は…」
妙案だと、その時の私は本気でそう思っていた。
ちょっと前までは一緒に入ってくらいだしって。
まぁ、それが今となってはちょっとした黒歴史だったりするんだけど、ここまでくると今更だ。
と、いうのも言い訳か。
扉の向こうに彼が居る。それですらもまだ怖い。
「バーカ。それ、後で絶対後悔するやつだぞ、黒歴史が増えたーって」
「むっ、バカって何よ。あんたの方こそ、後で後悔しても知らないからっ」
話している内に、だんだんと気分も落ち着いてくる。
まだ遠くでゴロゴロなっている雷は怖いけれど。すぐそこに彼がいる。それだけで、結構安心してしまえていた。
ー
お風呂から上がった後、二人並んで動画を眺めていた。
ソファの上、最初は拳一つ分はあった距離も、雷が落ちる度に狭くなる。
そのうちに、彼の肩に体を預け、腕にしがみつき、可愛い動物系の動画を見ているはずなのに、私一人ホラー映画を見ているような怯えっぷりだった。
「か、可愛いねぇ…あはは…」
思ってもないことを口にする。
動画の内容なんて、全然頭に入ってこない。
半分は雷様怖いで、もう半分は申し訳無さと、恋心にも似た胸の音。
ビッシャーンっ!!
ピカッと光って、その音は一秒とまたずに鳴り響いた。
心の準備をする間もなく轟いた雷鳴に、体が硬直し彼の体にしがみつく。
ちか、ちかっと、部屋の明かりが瞬いたかと思えば、パタリとそれは光をなくして、電気の落ちた部屋は一瞬で真っ暗闇に包まれた。
「え、やだ…うそっ…え、あ、きゃっ!!」
最悪のタイミングだ。
雷に怯えていた所に明かりが落ちて、追い打ちとばかりに轟く雷鳴。
パニクった私は、しがみついていた彼の体を引き込んでしまい、ソファの上でもつれ合ったまま、彼の体に押し倒されてしまう。
「あった。お前、急に…」
「ご、ごめん。でも、だってさ…あぅっ」
目を開けて、何か言い訳をしようとして、けど、何も言えなかった。
ゴロゴロと怒り続ける雷の音が怖すぎて、彼の体にしがみつく事でなんとか自分を繋ぎとめる。
「お願い、お願いだから…。もう少し、このまま…。じゃないと、私、怖くって…」
離れていこうとする彼を引き止めて、その胸の内に額を押し付けた。
おでこに感じる胸板のたくましさ。背中を擦る彼の大きな手に、ぽんぽんとあやされる。子供扱いされてるみたいで、でも、それがなんだか嬉しくって。
心臓がドキドキいってしょうがない。
さっきまで怖い怖いって暴れていたはずなのに、気づけば、別の何かすり替わっているような気がする。
「ねぇ、キスしよっか?」
何を言ってるんだろう? 自分でも分からなかった。
ただ、ドキドキとうるさい心臓の音に急かされて、ついと口が滑ってしまう。
「おま…何言って」
逃げたかった。誤魔化したかった。何か別の、恐怖よりも強い感情に流されてしまいたかった。
都合の良い事に、胸のドキドキは、恋の音にもよく似ていて、幼馴染以上の関係を望んでいた私にとっての言い訳にはなる。
「何って。だから、キスだよ…」
顔を背けようとする彼の頬を掴まえて、自分から唇を寄せていく。
正直、残念に思う気持ちもあった。もっとロマンチックに、告白したり、告白されたりした後に、ちゃんと唇を交わしたかったとも思う。
ビッシャーンっ!!
「ゃ、っ!!」
雷の大きな音に怯えた体が縮こまる。
ぎゅっと、彼の体にしがみつき、その勢いのまま唇を押し付けた。
頭が真っ白だった。
雷の後はいつもそう。
だけど、今だけは、唇から伝う彼の温もりが、怯えた私の心を慰めてくれる。
「お前、急になぁ…」
「イヤ、だった?」
「イヤとかじゃなくって。少し落ち着けよ、そんな自棄みたいなさ」
「自棄って…」
そりゃ、物の弾みだったかもしれない。
だけど、私だって簡単にキスをしたつもりもない。
そんなあっさりと、事故で済ますように流されると悲しくなる
「そうだよ。そうかもだけど。私はっ…。でも、大樹にだったら、なにされても…いいんだよ。怖いの。雷嫌いなのしってるでしょ? 慰めてよ、お願いだから…。今だけでも、いいから…嘘でも、優しくて」
ああ、だめだ。感情が抑えられない。心がグチャグチャになっている。
怖くてドキドキしてるのか、恋心がそうさせているのかも分からない。
涙が溢れて声が震えてしまう。自分からキスを迫るように、もう一度顔を近づけると、私の頬に彼の手が添えられていた。
「奏」
「うん…」
私の名前を呼ぶ彼の声に、そっと目を閉じた。
窓の向こうで雷がピカッと光り、暗くなった部屋に明るすぎるくらいの光が差し込んでくる。続いてくるであろう大きな音に身構えて、だけど、その音はどこか遠くに聞こえていた。
私の唇が、彼の唇と重なっている。
頭の中が真っ白になり、どうしていいかが分からない。
それは、雷に怯えた時と同じ様に、でも、怖いものが和らいだ分だけ、硬直するはずの体から力が抜けていく。
「あ、あはは…キス、またしちゃったね。なんか、こういうのは初めてじゃない?」
「そう、だな。一緒に風呂入ったり、同じベットで寝たりはしたのにな」
「ほっぺとかにもしてなかったっけ?」
「いや、覚えはないけど」
「そっか…そう、だったかぁ」
思い出を振り返り、だけど、似たような経験はどこにも見つからない。
ずっと一緒にいて、今更新しい発見も無いものだと思っていたけれど。それは単に、私達の怠慢でしかなかったらしい。
「キスで、その、お終い?」
「…イヤ、だったら言ってくれ。イチイチ聞いてするのも、なんか違うだろうし」
「あ、でも…私、勢いでイヤとかヤダとか、言っちゃいそうなんだけど。も、もちろん本気でそうって訳じゃなくね? いいけど、良いんだけど…でもさ? 本気で嫌な時もあるかもだし…」
「その時は…。ふふっ、まぁ諦めろ」
ピカッと光る雷の中に、やんちゃな彼の笑顔が浮かぶ。
「あ、やだ…ほんとに、おっぱい、さわって…」
「早いな、ヤダっていうの」
「だって、だって…こういうの初めてだし」
「いったろ? 諦めてくれって」
「う、うん…いった、ね…」
まるで手探る様に、彼の手が私の体を這い回っていた。
電気の落ちた部屋の中。
分厚い雷雲は陽の光を通さず、昼間だって言うのに、灯りのない部屋は真っ暗だった。
ピカっ、ピカッと暗い部屋に差し込む稲光。
まともな光源といえば、点けっぱなしのスマホの動画が、机の上で放ったらかしにされてるくらい。
ゴロゴロ、ゴロゴロ。
ごろごろ、ごろごろ。
怒る雷と、甘える猫なで声が重なる中、彼の手が服の中へと入ってくる。
お風呂上がりにシャツ一枚。
トランクスを借りたまではいいものの、流石にブラジャーまでは用意できるものじゃない。
なんて格好だ。きっと、そういう気安い関係が、私達の距離を狂わせていたんだろう。
もう少し、女の子らしくしてればよかった。
そうすれば、もっと早くに彼との距離を縮められていたのかもしれない。
こんな無し崩し的な初めてじゃなくって、もっとロマンチックな展開もあったかもと想像すると、素直になることの重要さを思い知らされる。
これからエッチな事をされるんだ。
期待、なんだろうか。
その事実を正しく意識すると、胸の奥でモヤモヤとした感情の火が灯った気がした。
「やっ、ちょっと、ふふっ…くすぐった、いって…ば」
お腹を撫でられながら、指で脇腹をくすぐられ、それはシャツを捲くりあげながら、だんだんと胸へと近づいてくる。
変に暗いせいだろう。
彼の指の動きがイヤに生々しく感じてしまう。
暗い部屋の中。スマホの画面を遮る彼の体が、私の上に深い影を落としていた。暗がりの中にハッキリと、肌を撫でられる感触が浮かび上がってくる。
手を繋いだ事もあった、抱きついた事だって少なくない。
その時は、それが当たり前で、どんなにいっても中の良い友人同士がするようなコミュニケーションだと思っていたのに。でも今は、ただ意識をするだけでこんなにも恥ずかしい。
女の子の象徴を、男の子に触れられる。それは事故でも何でも無くて、触れる指先は、私の形を確かめるように膨らみを包み込んでいった。
くすぐったい、モゾモゾする。今すぐにも逃げ出したいくらい恥ずかしい。
羞恥心が喉を詰まらせ、一杯になると「はぁ」と熱い吐息が漏れてしまう。
深呼吸。
体から力が抜けて、次第に触れられている事にも慣れてくると、素直に彼の指の動きを受け入れられるようになってきた。
ドキドキして、ムズムズして、胸の奥がふわっと色づく。
下から上に掬い上げられたり、きゅっと悪戯に指を閉じられたり。
自分で触れるのとは違う力強さ、柔らかく沈み込んできた指先から、彼の興奮が伝わってくるみたいだった。
気づけば、被っていただけのシャツは完全に捲くりあげられていた。
裾が胸元で丸まって、おっぱいの麓に引っかかっている。
今、電気が点いたらどうなるんだろう?
裸、全部見られちゃうのかな?
一緒にお風呂に入った時に何度だって、そんなの気にしたことも無かった。
なのに、ソファの上、彼に押し倒されている自分の姿を強く意識すると、顔が、体が、熱くなってくる。
だけど、そんな自分の格好に、恥ずかしながらも興奮だってしてた。
エッチな事をしているんだもの。今、まさに、そうされている最中で、同じ裸をみせるにしても、一緒にお風呂に入るのとでは、全然と違う面持ちになっていく。
彼の向ける性的な視線に、体中がくすぐったくなる。
暗がりの中に感じる曖昧な視線は、今、私のどこを見ているんだろう?
視線が合ったような気がする。
逸らされて、唇を、首筋を、鎖骨のくぼみを、おっぱいを…乳首を。
触れられてもいないのに、触られたみたいで。
だから余計に触って欲しくなる。
「はぁ…はぁっ…ん、ぁっ」
気づけば息が上がっていた。
汗ばんだ肌。エアコンの切れた室内で肌を重ねていると、その興奮も手伝って、しっとりと肌が熱を帯びてくる。
お風呂上がりで良かった。
汗臭い女の子なんて思われたくない。
汗ばんだ肌から香る石鹸の香りに、人まずは胸を撫で下ろす。
「あ、やだ…そこ、は…」
だけど、その瞬間に、私は慌てて太ももを閉じていた。
いや、閉じたというのも間違っている。
きっと、焦れったかったんだ。
肌を撫でられ、胸を愛撫されて、エッチな事をされていると、意識しなくても体は昂ぶってくる。
無意識に太ももを擦り合わせて、知らず知らずに自分の性感を刺激していた。
その感覚に夢中になって、ただただ気づかなかっただけ。
おっぱいから離れて下へと伸びていく彼の手に。
ムズムズとするお股の疼きを慰めるように、寄せていた自分の太ももの動きに。
すっと、割り込んできた手の平に異性を感じて、汗ばんだ肌の間に彼の手を挟み込んでしまう。
でも、だからって、私が太ももで挟み込んだくらいで止められるものでもなかった。
おっぱいを揉まれていた時よりも、強く、大胆に、太ももに指が沈み込んでくる。肌の薄い内側を撫でられて、こそばゆいような感じがゾクゾクと肌を伝う。
ゾクリ、ゾクリ。
ゆっくりと、だけど確かな性感が太ももから昇ってくる。
太ももの内側を撫でる彼の手がお股に近づく程、妙な痺れに疼きを覚えてしまう。
「は、あ、や、そこ、そんなとこ…だ…」
「ダメなの?」
「うっ…。それは、ダメじゃないけど、でも…いじわる」
恥ずかしさに負けて開いた口は、けれど、意地悪に塞がれてしまった。
それを言わされた事が悔しい。
「ダメじゃない」って、そんなのして欲しいと言ってるようなものだった。
小指の先が、トランクスの上から私を撫で上げ、閉じた縦筋を辿っていく。
くちゅり…。
汗の感じとは違う、もっと別の粘り気が、余裕のあった布地と縦筋とを貼り付けた。
興奮してるんだ、私。
太ももの隙間、濡れた肌の感触に性感を意識させられると、知らずと体が揺れてしまう。
指先で撫でるように、触れるか触れないかの力加減。
だけど、それが余計にもどかしい。
触られているのか、触られたいと思っているだけなのか。
曖昧な刺激にお股が疼き、自分から腰を動かしそうになっていた。
「はぁ、ぁぁっぁ、ゃ、っ、あ、はぁ…っ」
小指が押し付けられそうになって、太ももの間に力が入る。けど、小指はトランクスを掠めただけで、すぐにも遠のいていくと切なさに身悶えそうだった。
ちゃんと触って?
言おうとして、その恥ずかしさに喉が震えて言葉が出ない。
それは、何処か期待するように甘く熱を帯び、いつしか私の視線は、自分のお腹の下に釘付けになってしまう。
暗い部屋の中、彼の体の下に隠れた自分の体。
暗がりでもぞもぞと、指が、手の平が動いていて、それは生々しいくらい肌越しに伝ってくる。触れそうで、触れてくれなくて、少し悪戯されては逃げていく。
じわり、じわり…。
性感だけが高められていくみたい。
いつしか羞恥心も忘れて、早く触れて欲しいとばっかり考えてしまう。
愛液を吸い込んだトランクスの布地が肌に張り付く。
べったりと、ひんやりと、それは雨に濡れた服よりも重たい感じがした。
くちゅり…。
「あ…っ」
その刺激に、声が出てしまった。
小指の先がトランクス越しに、縦筋に沈み込み割れ目を開く。
ふるり、ふるふる。
腰が揺れて、甘い痺れが背筋を伝っていくと、ふわっと体が軽くなった。
トランクスの上を小指が動く。
薄く開かれた縦筋の内側を、くすぐられるように刺激されると、今までお預けを食らっていた性感が、一気に快感に変わっていった。
トクン、トクンと、心臓が浮つく。
ふわり、ふわりと、頭が揺れる。
こちょこちょと、くすぐられる度に、くちゅくちゅと。
お股から聞こえる水音に恥ずかしさが重なり、羞恥に火照った肌が快感の熱に浮かされていく。
「あ、ひゃっ、ぁ、ぁ、はぁ、ふぁっ、やっ、んっんぅぅ…っ」
声が出そうで、慌てて口を紡いで、それでも喉が鳴るのを止められない。
甘い痺れが、甘い響きに変わり、ごろごろと猫撫で声みたいに喉を震わせる。
体から力が抜けていく。何か考えているようで、でも何も思いつかなくて、気が抜ければ抜けるほどに、頭の中がぼんやりとしてくる。
気持ちいい。そればっかりに流されて、気づくのに遅れてしまった。
張り付いていたトランクスの布地が剥がされていくような感覚。腰の辺りをゴムで引っ張られたような感じに視線が落ちた。
「あ、まっ…て! ごめん、めんどくさいって、思うかもだけど…だけど」
トランクスに掛かる彼の指先。
引っ張られ、そのまま脱がされそうになった所で、慌てた私は反射的に彼の手を掴まえてしまっていた。
恥ずかしい。というよりは、まだ怖い。
すごく気持ちがいいとも聞くけど、今だってそうだけど、やっぱり痛いって話も多い。ここまでして、誘っておいて、いざ受け入れるとなると覚悟がぶれる。
「諦めてくれっても、いったぞ?」
「いった、けど、いったけど…さ」
それは、彼が正しい。
我慢できなくなった彼に、無理やりされても私に文句が言えたものじゃない。
だから、それ以上は何も言えなかった。代わりに、彼を掴まえる手に力を込めた。