※この作品はR-18です。

ダークエロ短編集3   作:カード読み込み

109 / 149
テッサが泥酔姦される話

 

 

 シーザー・ホール──

 

 その巨大な建造物を目前にして、宗介は静かに呼吸を整えた。

 助手席で、テッサ改めてマーサ・マンティッサが小さく咳払いをする。

 バックミラー越しに確認すると、後部座席では真悟が膝の上で拳を握りしめていた。

 訓練を受けているとは言え素人の少年には重すぎる任務だ。

 だが彼は逃げなかった。

 その小さな勇気に、宗介は胸の奥が温まるのを感じていた。

 

 車列に並んで緩やかに門を目指す。

 夕闇の中、シーザー・ホールは黄金色の灯火を纏っていた。

 古代ローマの幻影を現代建築の技巧で蘇らせたその威容は、

 訪れる人々に無言の圧力を与える。

 山賊退治の英雄カエサルの栄光を模倣しようとする傲慢な野心。

 それがここ、マコニシ島の支配者である

 イゴール・ダディッチの正体なのだと宗介は看破していた。

 

 窓外に広がる大理石の大階段には、

 深紅のカーペットが蛇のようにうねっている。

 左右には漆黒のスーツを纏った男たちが等間隔に配されていた。

 彼らの袖口から見える武装──消音器付拳銃の冷たい輝きが、

 この空間がすでに平和ではないことを雄弁に物語っていた。

 高空では不規則な蜂の羽音のように、

 偵察用ドローンが低いうなり声をあげて旋回している。

 

 車が滑るように検問ポイントに近づく。

 運転手である宗介は丁寧にサイドブレーキを引いた。

「ジョー・サガワさんご一行ですね?」

 

 鋭利な眼差しの黒衣の男が尋ねる。

 その声は感情というものが完全に削ぎ落とされていた。

 まるで精巧な人工音声装置から放たれているようだ。

 宗介はただ淡々と、しかし確信に満ちた口調で答えた。

 

「ええ。今日は特別なお招きをいただき感謝しています」

 

 

 テッサはゆっくりと助手席から降りると

 夜風にふわりとなびく髪を片手で押さえながら微笑んだ。

 

 その完璧な角度──

 計算され尽くした淑女の動作。

 彼女の青い瞳に浮かぶ微かな羞恥。

 頬を伝う熱い血潮。

 そして何より──

 あの刹那感じた甘酸っぱい人間臭さこそが

 宗介をして今日まで生き延びさせてくれた理由なのだと思えた。

 

 

 

 背後の真悟が荷物ケースを開き

 内部カメラ映像を通じて最終チェックを行う姿がある。

 金属探知ゲートを通過し終わると一同は革靴の底で赤い絨毯を踏みしめた。

 足元で感じる弾力は

 これから始まる長い一夜への不安と期待とを同時に増幅させる。

 

 受付デスク横ではIDチップ入りカードキーの交換手続きが始まろうとしていた。

 そこには警護主任と呼ばれる壮年の武人が控えていた。

 左肩に入った刺青がギリシア十字──否《ΧΡΙΣΤΟΥ》と読める聖印だった。

 

「サガワ氏、少々確認させていただきます」

 主任は懐中電灯ほどの大きさの端末を取り出し

 宗介たち三人の耳元で順番に光束を走らせる。

 瞬時に脈拍・体温・呼気成分などが測定される非侵襲的な身元照合プロトコル。

 

 青色表示となり安全を担保されると

 ようやく会場内部への導線が開放された。

 巨大な扉が両側に引かれ

 途端に外界よりも幾分暖かい空気が流れ込んでくる。

 

 それは酒と香水と脂っこい料理──

 文明社会における虚飾と欺瞞──すべての匂いだった。

 

 薄暗い天井には

 無数のスポットライトが花形照明のように咲いている。

 低いBGMとして流れる弦楽四重奏の調べが

 参加者の足取りを一層艶やかに演出する。

 

 宗介はテッサを伴って歩き始めた。

 二人の間に距離はないが接触もない。

 あくまで公の場において許される親密さを保つ微妙な平衡感覚。

 これが今宵ばかりは本物以上の迫真性を持って求められているのだ。

 

 ふと右手にちらりと視線を送れば

 漆黒の燕尾服を纏う若い給仕が

 銀盆に乗せてシャンパンを提供しようと待機していた。

「まずは一杯お召し上がりください」

 

 細長いグラスを受け取った瞬間

 透明な液体が指先から掌全体へと沁みていく感触。

 温度は氷点近く。

 硝子面を通して伝わってくる震えるほどの冷涼さが

 却って体内の血潮を沸騰させる。

 

「乾杯しましょうか?」

 テッサの囁きが耳朶をくすぐる。

 

 グラスの脚部をそっと合わせた小さな音色が

 喧噪の中ですぐさま掻き消えた。

 

 その直前──ほんの一瞬だけ見せた彼女の表情。

 ほろ酔いのふりをしているが

 実は恐怖で震えているのか。

 それともこれから繰り広げられる情報戦に胸躍らせているのか。

 

 いずれにせよ『母親』としては完璧すぎる笑顔だ。

 

 そこまで考えて宗介は首筋を撫でられたように鳥肌立つのを感じた。

 なぜだろう? 

 本来ならば己こそが護るべき対象であり盾となるべき存在だ。

 しかしながら今この場において

 もっとも脆い立場に立たされているのは果たして誰なのか。

 

 ——三日前 東京郊外

 

 雲一つ無い午後に佇む洋館。

 敷地内の葡萄棚が柔らかな日陰を作るテラスに

 宗介とテッサとかなめの三人は腰掛けていた。

 

「お願いがあって参りました」

 

 そう切り出したテッサの声音は凛としていたものの

 両膝上の指先が僅かに震えていた事を今でも鮮明に覚えている。

 

 依頼内容を聞き終え

 テッサ自ら身動きできぬリスクを承知で囮になりたいと述べた時には

 思わず眉を顰めたものだった。

 

「どうしてそこまでする?」

 

 問い掛けられても彼女は即答しなかった。

 俯き気味になった睫毛の隙間から零れる翳り。

 何か深い事情を抱えているのは明らかだった。

 

 しばし沈黙のあと──

 振り絞るように掠れ声で告げた言葉。

 

『私自身の問題だから……どうしても自分でけじめをつけたいんです』

 

 それはもう上官でもましてや友人のものでもない

 一人の人間の切なる祈りであった。

 だから宗助もまた一人の兵士としてではなく

 テッサ個人のために剣となることを決めたのだ。

 

 とはいえ──

 

 今まさにステージ中央へ登壇した

 イゴール・ダディッチを眺めやり宗介は唇を結び直した。

 

 派手な蝶ネクタイと煌びやかなジャケットで着飾り

 如何にも地中海商人的な陽気さを醸し出しているが

 その眼だけは獲物を前にした猛禽類のごとく残忍に据わっている。

 

(あれが噂に聞く“山賊王”……)

 

 油断すれば即座に喉笛を噛み千切られるであろう狂犬。

 

 しかも今回こちらは武器をほぼ持って入れていない。

 全ての工作員技能や洞察力と心理術、

 それに何より互いの信頼が試される綱渡り。

 成功条件は単純だが達成困難極まりない。

 

 —ノート PC の奪取及び脱出—

 

 ダディッチの開幕スピーチが始まるころ

 宗介はいつの間にか己の呼吸が浅くなっていることに気づき

 肺いっぱいに空気を取り込んだ。

 

「ねえソ……じゃなくてジョー?」

 

「なんだ?」

 

「もし私が途中で怖くなって逃げたくなったら

 その時はあなたが止めてくださる?」

 微笑しながら投げかけてきた質問なのに

 瞳の奥には凍りつくような孤独が覗いていた。

 

「当然だ。俺は君の夫だからな」

 

 答え終えた途端

 テッサの双眸がかすかに潤む。

 だが涙にならないところで留め

 毅然として笑みを浮かべ直す。

 

(守る)

 

 宗介は胸中で繰り返した。

 言葉より速く筋肉がそれを実行する準備を始める。

 

(必ず此処から連れ帰る)

 

 真悟を探すと

 柱陰に立ち若い男女の群れに紛れて観察していた。

 やや緊張気味だが概ね平常心を保っている弟子に感心する。

 その時

 

「ミスター・サガワ!」

 

 突然かけられた声に反射的に腰を屈め

 隠し武器を探る衝動を抑えた。

 眼前には褐色肌の青年が握手を求めている。

 

「あなたのご高名は伺っております! 是非とも我がプロジェクトへ協力を!」

 

 挨拶攻勢か。

 宗介は努めてビジネスライクな笑顔を作り応じる。

 

「恐縮です。詳しくお話をお聞かせいただければ」

 

(なるほど……こういうネットワーク形成の場でもあるわけか)

 

 その後も次々と集まって来る自己中心的な商談の雨嵐。

 どれも興味はあるが時間がない。

 ひとつひとつの話題に短く切り込み

 必要最低限の情報を掴んだ時点で自然に退散する技量が要求される。

 

 舞台の袖──

 司会者が新婦紹介と言わんばかりにヴァレリア夫人を呼び込む気配がした。

 テッサが咄嗟に肘で触れて注意を促す。

 

「メインイベントね」

 

「ああ。奴が最も警戒を怠るタイミングだろう」

 

 そして訪れる一大チャンス。

 ダディッチ夫妻が家族と共に個別写真撮影に入る刹那

 周囲の警護網は最大密度に達するが逆に言えば

 そこ以外のエリアは比較的手薄になる可能性が高い。

 

 テッサは扇子で口元を覆い囁いた。

 

「例の温室は正面玄関から左手二階」

「了解。……準備はいいか?」

 

「もちろん」

 

 彼女は再び淑女の仮面を被り悠然と微笑んだ。

 その笑顔にかつて陣代高校で見た眩しい青春の輝きが

 束の間重なったような錯覚を覚える。

 

 瞬間──

 

 宗介の胸裡には奇妙な感慨が湧いた。

(俺は何故こんなにも必死になっている? 任務遂行の使命感か……

 いや違う。きっとあの時と同じだ)

 

 テッサの細い背中を見守りながら思い出していた。

 泥濘に埋まったトラックを押し上げようと二人して力を込めた朝の出来事。

 或いはミャンマーで共闘したこと──

 互いの背中を預け合う連帯感。

 

「行きましょう、旦那様?」

 

 甘く冗談めいた響きが鼓膜を擽る。

 宗介は深く頷いた。

 

「行くぞ。君の手を離すことは無い」

 

 その宣言と同時だった。

 

 会場全域にアナウンスが木霊した。

 

『皆さまご注目を。

 ただいまよりスペシャル・ゲストとの記念撮影タイムとなります』

 

 床材を突き抜けるようにダディッチ一族の団体が移動を開始した。

 閃光の嵐となるフラッシュ・サーチライト。

 シャッター音が轟く中

 宗介はテッサの手を取り人波の中へ滑り込む。

 

(猶予は三分)

 

 汗ばむ掌の温もりと

 心臓の打つ鐘鼓が同期していく。

 

 次の一秒一秒が勝敗を左右する。

 そんな極限の秒読みが始まったのだと悟った瞬間

 宗介の意識は澄み切った湖面のごとく冴え渡った。

 

 守るべき者は此処に在る。

 ならば迷う余地など最初から存在しなかった。

 

(必ず掴み取る!)

 

 硬く閉ざされた未来を切り拓く刃となるために──

 

 宗介は深く息を吸い込むと

 嘘と本音を絡め取った偽装家族の一員として

 歓声渦巻く夜宴の只中へ飛び込んでいった。

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 任務が終わったのは、黎明を迎えようとした時間。

 シーザー・ホールを抜け出し、待機させてあった車に滑り込むと同時に、

 宗介とテッサは安堵と疲労とが溶け合った吐息を漏らした。

 真悟は後部座席で既に眼を閉じている。

 助手席のテッサは頭を窓枠に凭せ掛け、

 青白い月光に透ける睫毛を微かに震わせていた。

 

「よくやったな」

 

 宗介の声は静かだった。

 

「あなたこそ……本当に……」

 

 言葉の最後は嗚咽にも似た溜息へと変わって消えた。

 テッサの肩が小さく揺れる。

 宗介はハンドルに置いた両手を見つめたまま言った。

 

「泣くな。まだ何も終わっていない」

 

「……わかっています。でも今は……」

 彼女は顔を上げると濡れた瞳で微笑んだ。

「少し泣いてもいいでしょう?」

 

 返事の代わりに、宗介はアクセルを踏み込んだ。

 

 ──-

 

 ヴィラに戻ったのは深夜を過ぎていた。

 客室係は彼らの遅い帰還を誰何する事もなく、

「おかえりなさいませ」と深々と頭を下げただけだった。

 エントランスホールにはまだ昨晩のパーティの残響が漂っている。

 香炉から立ち昇るバラ科の芳香と、

 磨き上げられた大理石の冷たい白さとが、夜の狂気をそっと包み隠す。

 

 テッサはフロントでキーを受け取る手が小刻みに震えていた。

 宗介は彼女の腕を取り、

 

「部屋に戻ってシャワーを浴びろ。昼まで寝ていられる」

 

 と低声で諭した。

 

「あなたも一緒じゃなければ嫌です」

 

「俺は報告をしないといけないことがある」

 

「そんなの後からでも……」

 

 彼女の駄々のような態度に、宗介は珍しく苦笑を隠さず

「真悟。テッサを頼む……!」

「えっ!? ちょっ、師匠……?」

 信頼する愛弟子に丸投げした。

 目を点にしている真悟を置いて

 宗介はエレベーターへと急ぎ足で乗り込むと

 その箱の中でやっと全身から緊張を抜いた。

 

 閉ざされた空間には蛍光灯の青白い光だけが揺れている。

 宗介は壁にもたれかかり天井を仰ぐ。

 その時だった。

 自分の指が濡れているのに気付いたのだ。

 震える唇から漏れる微かな喘ぎもまた止まらない。

 

(まさか)

 宗介は慌てて目尻を拭い鼻腔を押さえた。

 鼻血であった。

 

 宗介はしばらく考え込み、静かに呟いた。

「‥‥‥‥飲みすぎた」

 

 ──-

 

 真悟は廊下の端で立ち尽くしていた。

 

 かなめが指定したヴィラは二十階建てのタワータイプで、

 各階に五戸しかない。

 三十平方メートルはある専用バルコニー付きの居室には

 キングサイズのベッドが三台設えられているはずだった。

 宗介とテッサがそのうち二台を使い、

 もう一台は自分の勉強机代わり兼寝具である。

 

 しかし今目の前にある三つの寝室にはそれぞれ鍵がかかっていて

 宗介から渡されたマスターキーを使う必要があった。

 

「あの……大佐さん? どちらがお部屋でしょうか?」

 

 返事はない。

 テッサは俯いたまま虚空を見つめている。

 

「大佐……」

 

 肩に触れようとした指先が空を切った。

 糸の切れた操り人形のように彼女は前のめりに倒れこんできたのだ。

 

「わわっ!」

 

 慌てて支えた身体は驚くほど軽かった。

 香水と汗とワインと硝煙の混じった匂いが立ち上る。

 真悟の喉が鳴った。

 

「えぇっ? しっかりしてください」

 

 何度呼びかけても反応はない。

 浅い眠りの淵を彷徨っているテッサの瞼がぴくりと震えるだけだ。

 

 

 

 廊下の絨毯はエーゲ海の夕焼けを映したかのような、深い茜色であった。

 その上に崩れ落ちたテッサの姿は、一幅の絵画のように鮮烈な色彩を放っていた。

 

 真悟はその瞬間、自分が目撃したものを現実だとは信じられなかった。

 酩酊によって焦点を失った碧眼が宙を泳ぎ、

 蜜のように潤んだ唇が、無防備に小さく開いている。

 その隙間からは時折、湿った呼吸が漏れ出て、

 周囲の空気を淫靡な湿度で満たすのであった。

 

(師匠……大佐……?)

 

 呼びかける声は喉の奥で詰まり、言葉にならない呻きと化した。

 膝を折り、仰向けに横たわる女性の曲線が眼を射る。

 スレンダーな肢体とは裏腹に、胸元で静かに隆起する双丘は、

 麻のドレス越しにもその豊饒さを隠しきれない。

 タイトなシルエットに沿うラインは、臀部でなだらかな谷を築き、

 そこから伸びた腿は驚くほど細く白い。

 

 滴る水に似た艶やかさ──それは衣服の裂け目に滲み出る月光だった。

 

(これは……まずい)

 

 理性は警告を鳴らすが、それはあまりにも遅すぎた。

 血流が頭蓋骨を叩く爆音。

 唾液が口腔を溢れ、咽喉が干上がる砂漠のように疼く。

 自分の鼓動が聴衆のいない演奏会のように響いていた。

 

 

 

 真悟は茫然自失のままテッサを抱きかかえた。

 成人女性にしては驚異的な軽さ──羽毛に包まれた宝玉の重み。

 

「う……ん……」

 

 半開きの瞼の裏で睫が微かに震える。

 しかし目覚める気配はない。

 

 廊下の隅の壁画には裸婦が彫られていて、

 そこに映る真悟とテッサの影が重なり合っていた。

 影法師の中で二人はすでに一つに融け合っている。

 

「…………!」

 

 突如脳裡を駆け巡るのは禁忌の奔流であった。

 バイト先の美人社長と令嬢──―マオとクララ。

 性奴隷───菊乃。

 恋人───夏美。

 師匠の妻───かなめ。

 そして……

 

「テッサ……大佐……」

 

 初めてその名を口にしたとき、

 彼女の顔にかかる柔らかな金糸が揺れ、

 ほのかな香気が鼻孔を刺激した。

 蜂蜜と柑橘類を思わせる甘い残り香は、

 熟成を知らない少年の神経を芯から痺れさせる。

 

(ダメだ)

 

 強く否定してみたところで、四肢は言うことを聞かない。

 マスターキーを取り出す手も震えてしまうほどだった。

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 自室の鍵は──No.17──確かに真悟の番号だった。

 スイッチを入れれば室内灯が一斉に目を覚ますが、

 彼は敢えて抑えめの間接照明を選択した。

 仄紫がかったシェードランプが壁紙の襞に揺れ、

 ベッド脇のナイトテーブルには、

 昨夜読んで中断した地理誌が放置されている。

 

 キングサイズのベッドへゆっくりと沈める。

 

「しゅぅ……すぅ……」

 

 浅い寝息を立てて寝返りを打つテッサの身体は

 枕とマットレスの凹凸に従って柔軟に弧を描いた。

 

 真悟の心中で禁じ得ぬ幻想が膨張を続けた。

 今ここで踵を返し浴室へ退避することができたなら──

 あるいは廊下に馬車馬のように鎮座して一晩を明かすことだって……

 

 しかし現実は別の方向へと舵を切ってしまう。

 

 ──ぱさり。

 

 一枚の白い紐が偶然にも彼の足首に絡みついたのだ。

 ヴェールのようなシルクリボンは

 テッサのドレスの裾止めとなっていたものである。

 

 それを解けば、たちどころに裾は蓮弁のように花開き

 雪のように白い大腿が露わになった。

 

「あぁっ……!」

 

 声にならない叫びが室内に谺する。

 視界が急速に狭窄し、一点に収斂する。

 

 生々しい肉付きと極端な華奢さが奇蹟的な均衡を保つその脚線に、

 真悟は自我を喪失しかけた。

 

(……まずい)

 

 そう判断すると同時に体は機械的に行動を開始した。

 両腕に力を込め、ベッドサイドに跪くと

 細いウエストを支えながら慎重に裾を畳み戻そうとした。

 

 ──のだが。

 

「ん……や……だぁ……」

 

 微かに抗議の声を洩らしテッサの左手が

 宙を舞う蜻蛉の翅のように動いた。

 爪先が真悟の首筋を撫ぜる。

 火傷のような疼きが皮膚を灼いた。

 

 その瞬間だった。

 理性という名の堤防は音を立てて決壊した。

 

「…………ッ」

 

 舌の奥で怒涛のような音が弾け、

 真悟は両手でシーツを鷲掴んだ。

 皺に埋もれた繊維の感触は荒れ狂う海底のごとき混沌である。

 それでもなお少年は自制しようと藻掻く。

 

 だが眼前に横たわる女神はあたかも嘲弄するように

 薄い胸部を上下させ微睡みの中にいた。

 肩甲骨の起伏は古代の石像を思わせる簡潔な線条美で、

 鎖骨の窪みには小さな泉が湛えられている。

 

 無垢と妖艶──相反する二極が同一平面で融合していた。

 

 真悟は唇を噛み切りそうな勢いで首を振った。

 

(もう……我慢できない)

 

 それは宣告にも似た告白だった。

 少年の時間が終わりを告げる鐘楼の響き。

 これから始まるのは「夜」と呼ぶにはあまりに残酷な季節。

 甘くて苦い毒蜜の季節──

 

 ゆっくりと指先を伸ばす。

 真珠玉を扱う職人を気取りながら、

 テッサの顎をそっと持ち上げた。

 

 半開きの唇──そこから零れる吐息に

 わずかな葡萄酒の香りが残存している。

 

「……」

 

 触れるか触れないか。

 境界線上で揺れる遊絲──

 

 柔らかな粘膜がほのかな水分を含んで

 少年の衝動を迎え入れる。

 

(ああ……)

 

 蕩けた果肉に似た滑らかな感触に陶然とした刹那、

 テッサの身体がわずかに捩れ、

 シーツの波紋が広がった。

 

 彼女の瞼が震える。

 

(起きるな)

 

 祈祷にも似た静寂のなか

 真悟は指一本動かすことも叶わず凝固していた。

 

 数十秒──いや永遠にも感じられる時間を経て、

 テッサは再び眠りの底へ沈み始める。

 唇がむぐむぐと蠢き

 何か甘やかな夢の続きを見ている風であった。

 

(……続けよう)

 

 確信犯的に口角を吊り上げると

 真悟は上体をベッドに預けた。

 体重を分散し揺籃のような安定を与えたまま、

 両手をそっと脇の下に差し入れる。

 羽毛のように軽い背部へ掌を滑らせつつ

 胸郭までの距離を測っていく。

 

 肌理細やかな絹糸のような産毛が

 皮膚感覚を刺激して火花を散らす。

 テッサのドレスは肩口で細紐を介し留められているだけ。

 一挙に解くことも出来るが、

 それでは芸がないと狡猾な魂胆が芽吹く。

 

(じっくり時間をかけよう)

 

 焦燥を理性でコーティングすることで

 真悟は征服の儀式を遅延させ悦楽を倍加させようとしたのだ。

 右手の人差し指が蝶結びの端を探り当てると

 一度逡巡するように停止する。

 次いで慎重に摘み取り解いてゆく。

 

 ──しゃらり。

 

 鈴蘭の房が擦れ合うような音色とともに

 布地はゆるやかに弛緩した。

 僅かに開いた襟元から垣間見えるのは

 艶麗な珊瑚色──淡桃色の下着である。

 絹織物が編み込まれたようなレースの輪郭は

 乙女の秘境を暗示するかすかな影を落としている。

 

「……可愛いな」

 

 無意識の呟きが夜気に紛れた。

 褒め言葉と言うよりも羨望に近い響きで。

 

 だがその声に応えるようにテッサの睫毛が再び震える。

 昏い虹彩が薄く開き

 薄青の霞が少年の顔を捉えた。

 

「……そぉす……け?」

 

 掠れた囁き。

 酒で湿った声帯が震え

 幼児のように舌足らずな響きとなる。

 

(……っ!)

 

 真悟は咄嗟に息を呑んだ。

 目覚めてしまったのではないか。

 もしそうならばこれは重大な違反行為である。

 

 だが次の瞬間

 テッサの口許に僅かな微笑が浮かんだ。

 

「……良かった……そばにいてくれるのね……」

 

 夢とも現とも判別不能な喃語を洩らしながら

 彼女は小さな手を伸ばして真悟の頬を撫でた。

 

 慈母のような温かな眼差し。

 少年の喉が嗚咽のような音を鳴らす。

 

(誤解してる……のか?)

 

 おそらくテッサの意識は未だ微睡みの沼底。

 宗介を相手取る錯覚の中で安らいでいると推測される。

 そうであれば──

 

「……っく」

 

 歯噛みしながらも真悟は決断した。

 

「僕……じゃないですよ大佐」

 

 囁き返す声は蚊の鳴くように小さい。

 返答を期待していない独語だ。

 

 案の定テッサは微睡んだまま唇を動かし

 

「うん……わたしの……そーすけ……」

 

 と繰り返すばかり。

 

(もう止められない)

 

 許可が出たわけではない。

 だが禁止が言い渡されることもなかった。

 罪と罰の境界線上で少年は歩みを進める。

 

 ◆◆◆

 

 真悟はゆっくりと身体を起こすと

 ベッドの足元に膝立ちとなった。

 

「失礼します……」

 

 儀式的な挨拶を皮切りに

 右手をテッサの腰部へ添わせながら

 左手で裾の結び目を探る。

 やはり簡単な結び方で固定されていたそこを

 一つずつ慎重に解放していく。

 

 布地の摩擦音が忍び足で響き

 薄絹の陰から現れたのは滑らかな肌。

 シルクリボンは腹部のベルト部分で再び出会うが

 これもまた容易い結び目であった。

 

「はぁ……」

 

 ──と、その瞬間だった。

 

「きゃっ……?」

 

 不意に飛び起きた猫のように跳ね上がると

 彼女はきょろきょろと室内を見廻した。

 

 完全覚醒──

 

(終わった)

 

 真悟は刹那のうちに敗北感で打ちのめされた。

 罵倒と拒絶と排斥の嵐が押し寄せることは必定。

 逃亡の算段を考えねばならない。

 

 しかしそんな思惟を嘲笑うかのように

 テッサの表情はみるみる朱に染まり

 大きな瞳が潤んでいく。

 

「え……あ……あの……?」

 

 言葉にならぬ困惑の塊が

 震える唇からこぼれ落ちる。

 

 だがそれは拒絶ではなかった。

 未知への畏怖と羞恥が混ざり合った

 曖昧模糊たる感情の塊であった。

 

 真悟は深呼吸すると

 居住まいを正しつつ正面から彼女を見つめた。

 

「大佐……」

 

「あ……ちょっと待って……まず服装が……」

 

 慌てて胸元を隠す仕草があまりにも可憐で

 つい噴き出しそうになるのを堪えた。

 

「安心してください。全部は脱がしてません」

 

「そういう意味じゃありません!」

 

 耳まで真っ赤になりながらテッサは叱咤した。

 だがその声色は怒りというより恐慌に近い。

 

 真悟は微笑んだ。

 稀有な宝石を見るときの商人のような冷静さで。

 

「責任を取ります」

 

 唐突な宣言にテッサは瞠目した。

 

「責任……って……」

 

「今からすることは僕の意思で──そして僕の責任です」

 

「ちが……わたしが酔っていたせい……」

 

「いいえ違います。僕が望みました」

 

 言葉を遮るように言い切ると

 真悟はそっと手を伸ばす。

 怯えた子猫のような視線が躱れるが

 逃げ切れないと悟ったのか彼女は瞳を閉じた。

 

「怖がらなくても大丈夫です。痛くはありません」

 

 少年は嘘をついた。

 痛みがまったく無い行為など存在しない。

 だが痛みこそが至福であることもまた真実である。

 

 ゆっくりと距離を縮めてゆく。

 鼻尖が触れ合いそうになる寸前で一旦停止すると

 

「アナタが欲しい」

 

 短い告白が零れた。

 

 それは虚飾の多い一日の最後に辿り着いた

 唯一の真心だった。

 

 テッサの肩がひときわ大きく震え

 濡れた睫毛が震えた。

 

「………………」

 

 否定も肯定もない。

 だが彼女は拒絶もしなかった。

 

 それがすべてを物語っていた。

 

(行く)

 

 真悟は静かに覆い被さった。

 薄絹の帳を押し除ける風のように

 彼女の身体を優しく抱き寄せながら。

 

 温度と香りと脈拍が重なり合う。

 甘美な破滅へ向かう螺旋階段を

 二人は同時に一段ずつ降りていく。

 

 どこまで降りれば到達するのか

 誰も知らない秘密の園へ。

 

 真悟は恍惚に浸りながら思った。

 ──嗚呼、

 もしこの世に神というものがあるとするならば、

 

 人はあまりにも甘く造りすぎたのかもしれない。

 

 

 微睡みの淵から覚醒したばかりのテッサの瞳は、まだ焦点を定めきれずにいた。

 睫毛の先端に湛えた涙が、ランプの仄かな光を屈折させ、

 星屑のような瞬きを生んでいる。

 

「……ん」

 

 喉の奥から漏れたのは、抵抗の意志とは別の、

 まだ酔いが醒めきらぬ身体の甘えだった。

 

 真悟はその隙を逃さなかった。

 上体を沈め、テッサの小さな顎を指先で掬い上げる。

 その動作は狩人が獲物の動きを封じる時のように精密で、

 それでいて蜜を垂らす花を愛でる時の繊細さも孕んでいた。

 

「……え?」

 

 戸惑いの声が、かすかな震えとともに零れる。だがその刹那。

 

 ──―覆い被さる。

 

 甘く柔らかなテッサの唇に吸い付き、

 怯えて縮こまった舌を絡め取りたっぷりと貪って堪能する真悟の荒々しく情熱的なキス。

 

 それは決して優雅なものではなかった。

 初老の貴公子が若き妃を迎える時の敬虔な口吻とは程遠い。

 むしろ飢えた狼が新鮮な肉片に歯を立てた時のそれに近い。

 だがそれゆえに、原始的な本能が剥き出しになった甘美な獣性が迸っていた。

 

「ん……っ!」

 

 テッサの身体が弓なりに反り返る。

 舌先で敏感な粘膜を攫われ、口腔の奥まで侵蝕されるような荒々しいキス。

 恐怖ではない。困惑とも異なる。

 ただ未知の領域への畏怖と、

 抗い難い本能的な喜悦が混淆した戦慄が脊髓を這い上がる。

 

 真悟は片手で彼女の細い肩を強く抱き寄せながら、

 もう一方の手でベッドのシーツを鷲掴んだ。握り潰さんばかりの膂力。

 震える少女の肉体をしっかりと拘束しながら、ただひたすらに貪る。

 

 キスの角度を変えた拍子に、二人の鼻梁が接触する。

 温もりと熱気が交換される瞬間、テッサの双眸から新たな涙が零れ落ちた。

 痛みではない。羞恥と快感と悲哀が融け合った複雑な雫が頬を伝う。

 

「……やめ……て……」

 

 消え入りそうな嗫き。だが真悟は耳を貸さない。

 寧ろそれを契機に舌の動きを加速させた。

 まるで懇願を糧にして炎が勢いを増すかのように。

 

 口吻はそのままに、右手が動いた。

 肩甲骨の浮き出た部位をなぞりながら下降していき、

 腰椎の弓なりの曲線に指を這わせる。

 細い括れからヒップの円熟へと続く甘美な稜線。

 

「ふぁっ……!」

 

 テッサの背中が大きく波打った。

 鳥肌が立つような電流が駆け巡り、意志に反して肢体が応答する。

 嫌悪も拒否も不可能な領域にまで性感が拡大する。

 

 やがて長いキスが途切れた。二人の唇の間には透明な橋が架かり、

 すぐに重力に引かれて銀色の痕跡を残す。その卑猥さが双方の頬を紅潮させた。

 

「……なぜ……ですか……」

 

 テッサは涙で濡れた瞳を見開いたまま尋ねた。

 問われても真悟に論理的な回答など用意できていない。

 理由など存在しないのだ。

 

「わかりません」

 

 率直な回答が返ってくる。

 

「でも欲しいんです。アナタの全てが」

 

 少年の声は低く震えていた。

 渇望と焦燥と未成熟な激情が絡み合った声音は、

 聞く者の胸に鋭い棘を穿つ。

 

 テッサは唇を噛んだ。それは拒絶の印なのか。それとも……

 

 真悟は再び手を動かし始めた。今度は首筋を撫で上げる。

 脈搏つ細い生命線を確かめるかのように親指を這わせてゆく。

 テッサの身体が小刻みに震える。恐怖ゆえか。歓喜ゆえか。

 その区別すらつかなくなっていた。

 

 ◆◆◆

 

 ランプの灯りが壁に映し出すのは二つの影だった。

 一つは堂々たる猛禽のような形状。もう一つは小さな仔羊。

 

 仔羊の影が何度もよじれる。

 抵抗しようとする本能的な動きなのだろう。

 だが猛禽の翼のような腕が常に追いつき、捕捉してしまう。

 

「はぁ……んっ」

 

 テッサの口から喘ぎが漏れ始めた。

 もはやそれは懇願ではなかった。

 むしろ理性の城塞が崩壊していく過程における必然の音だった。

 

 真悟は己が為した罪の重さなど考えもしなかった。

 考える暇すら与えられぬ激烈な情熱が全身を支配していた。

 

「─────────ぷはっ!! やだぁ……だめです……」

 

 震える声が最後の抵抗を試みる。

 だがその言葉とは裏腹に、身体は受け入れ始めている。

 

「感じてるんですね」

 

 少年は嗜虐的な喜びに満ちた表情で囁いた。

 そして次の一手を放つべく再び唇を重ねた──

 

 窓の外では地中海の波が砕ける音がする。

 遥か下方の岩礁を噛み砕く無慈悲な音色。

 だがこの密室においては別の種類の波音が支配していた。

 

 喘ぎと衣擦れと呼吸。

 時折混じる短い拒絶の言葉はすぐさま唇によって呑み込まれる。

 

 真悟は時間を忘却した。

 テッサもまた時は永遠に停滞したものと錯覚した。

 ただ快楽の坩堝の中を二人して漂っている。

 

 

 窓の外で地中海の月が沈みかけ、

 銀色の光がシルクのカーテンを透過して室内に流れ込む。

 真悟の指先が、まるで異国の楽器を奏でる演奏家のように、

 テッサの白い喉元から鎖骨の窪みを撫で降ろした。

 そこから下方へ——衣服の乱れた胸元に向かって、ゆっくりと、確実に侵攻を開始する。

 

「……ん」

 

 テッサの唇から漏れたのは、既に言葉とは別の、湿った空気の震動だった。

 彼女の両手はベッドのシーツを握り締め、白い指節が月の光を反射する。

 抵抗の形をしているそれが、

 しかし、拒絶の意志を体現しているとは到底言えなかった。

 むしろ船縁に縋る溺れ者のような——

 あるいは、高所から落下しようとする者の、相反する二つの衝動の表出だった。

 

 真悟はその様子を見て、喉の奥で小さく笑った。

 笑いではない。喜悦と確信と、

 支配への渇望が混ざり合った低い響きが声帯を震わせただけだ。

 彼の指は止まらない。今宵の目的は明白である。

 聖域を侵犯し、刻印を焼きつけ、

 純白のキャンバスに初めての汚れを——否、色を注ぐこと。

 

 そして遂に——

 

 彼の指先が、

 彼女の豊かでありながら未だ男の手に慣れていない柔らかい丘陵に触れた。

 その瞬間、テッサの身体が小さく跳ね上がり、背中が弓なりに反った。

 まるで弦を張ったバイオリンのように、硬直と柔順が同居する反応。

 

「や……め……」

 

 懇願とも抵抗ともつかない微かな声。しかし真悟の手は止まらない。

 彼の指は彼女の胸元に纏わりついたドレスの残骸を少しずつ剥ぎ取りながら、

 直接的な接触を目指して侵略を続ける。

 指の腹が肌に触れるたびに、テッサの息遣いが早く、浅くなった。

 白い肌は月光に照らされて滑らかな象牙細工のように見え、

 そこに散らばる微かな産毛が銀糸のように輝いている。

 

 やがて——彼女の胸部全体が夜気にさらされる。

 満月も嫉妬するような完璧な球形。

 その頂点には、まだ誰の欲望も知らぬ淡い桜色の蕾が凛と咲いていた。

 それは人工的な技巧によって形作られた偶像ではありえない——

 生きており、温かく、そして脆かった。

 

 真悟は深く息を吸い込む。

 彼女の身体から漂う香り——アルコールと汗と微かな甘い香水の残り香——

 が鼻腔を刺戟し、血液を沸騰させる。

 それは芸術作品ではなく一個の生き物であった。

 崇拝すべき祭壇上の神ではなく、

 触れることができる現実の少女であることを思い出させた。

 

 彼の掌がゆっくりとそこに重なる。

 初めは恐る恐る。まるで朝露に触れるような慎重な動作で。

 しかし指が柔らかい曲線に沈み込むにつれて——

 堰を切ったかのように大胆になり始めた。

 指を動かすたびに彼女の皮膚が波打ち、

 甘い音律が喉の奥から漏れ始める。

 

「んんっ……ああ……!」

 

 今まで抑圧されていたものが解き放たれた瞬間だった。

 テッサの口から零れたのは、抵抗の言葉ではなく、

 混乱と喜びと恐れが入り混じった切ない喘ぎだった。

 彼女の目尻から新たに涙が流れる。

 それが痛みからくるものかどうか彼女自身にもわからない。

 ただ身体が意思とは無関係に反応し始めたことに気づいて慄然としていた。

 

「感じるんですか?」

 

 真悟の声は低く、優しさと責め苦の両方を包含していた。

 問いかけに答えは返ってこない。代わりに彼女の身体が答えを示す。

 彼の掌に押し付けられるように胸が傾斜し、

 控えめだった呼吸が徐々に速くなっていく。

 

 彼の指はさらに積極的に動き出した。

 柔らかい絶壁を登攀し、頂点に向けて螺旋を描くように。

 そして遂にその桜色の尖塔に辿り着いた時——

 テッサの身体が激しく震えた。

 

「だめ……そこ……!」

 

 懇願は最早機能を持っていない。

 逆説的に欲望を煽る香辛料として働いているだけだ。

 真悟は指の腹でゆっくりと撫で回し、時には挟み込み、捏ね回した。

 その度に彼女から新しい音色が溢れ出す。

 それはもはや拒絶ではなく——調和を求めた音楽演奏であった。

 

 ランプの明かりが影を踊らせる。

 白と琥珀色の交錯した光景の中で、

 彼女の身体はまるで弦楽器のように軋み、共鳴していた。

 

 窓の外から聞こえる波音が遠くなる。

 現実と幻想の境界線が曖昧になっていく。

 真悟は自分の欲望を刻み込む快感に溺れていた。

 一方でテッサもまた——

 抗うことのできない新たな世界への扉を開きつつあった。

 

 少女の身体に初めて記される男性の愛撫の痕跡。

 それは未開の大地に最初の一歩を刻む探検隊の足跡。

 真悟は彼女の耳元に囁きかけた。

 

「僕のものになれ」

 

 その言葉は宣誓であり呪いだった。

 テッサの反応を待つ間もなく——

 彼は再び深い接吻で彼女の反論を封じ込めた。

 そしてさらに熱を込めて愛撫を続けていった……

 

 月が雲間に隠れ、部屋に一瞬暗澹たる静寂が訪れる。

 しかし二人の間で交錯する熱量は決して冷却されることはない。

 むしろその予期せぬ闇により一層高まっていった——

 未知なる深海へと沈む潜水艦のように。

 

 真悟は右手でテッサの左胸を掌握しながら、左手を上方へ滑らせた。

 彼女の細い首筋から肩へと這い上がる指先が、

 月光を撥ね返す白磁のように滑らかな肌の感触を確かめる。

 指先が鎖骨の凹みに触れた瞬間、テッサの身体が小さく震え、呼吸が乱れた。

 

「ここも感じるんですね」

 

 囁きながら、真悟はさらに指を進める。

 左手は彼女の右頬に添えられ、親指が微かに湿った唇に触れた。

 同時に右手の人差し指がテッサの左乳首の周りを螺旋を描くように撫で回す。

 その動作は技巧的でありながら、少年特有の焦燥も含んでいた。

 

「ひゃっ……」

 

 突然の刺激にテッサは顔を逸らそうとするが、

 頬に添えられた真悟の手がそれを許さない。

 右手の動きはさらに大胆になり、全体を優しく包み込んだ。

 五指が柔らかい肉に沈み込むと同時に

 親指と薬指が頂点の敏感な部分を挟み込んだ。

 

「いや……あ……あん……」

 

 抗議の言葉は途中で喘ぎに変わる。

 真悟は指の動きを緩めることなく、むしろリズムを増幅させていった。

 握り締めるような動きと解放するような動きを交互に繰り返しながら、

 親指は頂点の硬さを確認するように擦り続ける。

 その度にテッサの身体はビクビクと反応し、シーツを掴む手に力が込められた。

 

 ランプの柔らかな光が二人の結合部を黄金色に染め上げる。

 真悟の指の動きに合わせてテッサの胸は自由自在に形を変え、

 その表面に散る汗の粒が燈火を受けて星屑のように煌めいた。

 それは彼にとって最高級の芸術作品だった—

 指一本で形成される永遠変化する彫刻でありながら、

 熱を持ち脈打ち感情を持つ生きた傑作。

 

「こんなにも感じやすいんですか?」

 

 挑発的な問いかけにテッサは何も答えない。

 代わりに両目から新たに涙が溢れ出る。

 それは屈辱の涙か幸福の涙か——

 もはや彼女自身にも判別できない。

 真悟はその涙を唇で拭いながら、さらに右手の動きを加速させた。

 掌全体を使って揺さぶりをかけるような動作から

 局所的な集中攻撃へと移行する。

 

「だ……め……そんなに……強く……」

 

「本当にいけないんですか?」

 

 問いかけながら、真悟は人差し指と親指で頂点をつまみ上げた。

 捻りを加えながら優しく引き上げる動作にテッサは耐えきれず首を左右に振る。

 さらさらとした栗色の髪が真悟の頬を擽り、甘い匂いが彼の鼻腔を刺激した。

 

 その反応に真悟は満足げに微笑む。

 彼の手はテッサの身体を通して未知の可能性を探っていた。

 押すとどれくらい柔らかく沈むのか? 

 どんな速度で復元するのか? 

 そして最も重要なことは——

 どのように反応すれば彼女が一番激しく震えるのか? 

 

 研究者のような探究心と芸術家の創造性。

 矛盾するはずの二つの要素が奇妙な調和を示しながら

 テッサの身体に刻印されていく。

 

 指先から伝わる情報に基づき真悟は最適解を探し当てる。

 特定のリズムと圧力のパターンが彼女の身体から

 最も色とりどりの反応を引き出したことを見抜くと——

 迷うことなくそのパターンを反復し始めた。

 

「ああっ……んん……あっ……!」

 

 テッサの喘ぎはもはや言葉とは言えない。

 断続的な音階となって空気に溶けていく。

 指先で感じる鼓動と振動が真悟自身の興奮を高めていく。

 彼女の呼吸のリズムが徐々に彼の手技と共鳴しはじめ——

 最終的にはひとつの調和した旋律となった。

 

 月の光が雲間から再び差し込み

 二人を柔らかく照らし出す。

 真悟の額には汗が浮かび

 テッサの顔は朱色に染まっていた。

 

「すごく綺麗です」

 少年らしく素直な賛辞が漏れる。

 しかし同時に彼の声には明らかな所有欲が滲んでいた。

「もっと見せてください」

 

 その言葉と共に真悟は新たなる探究の旅へと踏み出す——

 未踏の高地へ向かって。

 

 月光が再び降り注ぐ寝室で

 真悟の右手は依然としてテッサの豊饒な丘陵を探索していた。

 しかしその動きは先ほどとは違う

 より精妙で執着的な調べへと変わっていく。

 彼は指先だけでなく掌全体を使い始め

 その柔らかな曲線を丁寧に掘削していく。

 

「こんなに敏感なのに……どうして誰も手をつけなかったんだろう」

 

 半ば感嘆し半ば苛立ちを込めた呟き。

 テッサは何も答えずただ息を弾ませている。

 それが余計に真悟の好奇心と所有欲を掻き立てた。

 

 人差し指と中指が丘の頂きから麓へ向かって滑り降りる。

 谷間を通過する指先に

 汗で湿った肌の微かな粘着力を感じながら

 さらに下へ——肋骨の弓状のアーチに沿って下降してゆく。

 

「あっ……そっちは……!」

 

 制止の声が届くより早く

 真悟の指は目的地に到達していた。

 ドレスの残骸の下から露出したすべすべとした肌。

 彼は躊躇なくそのデルタ地域へと進行を開始する。

 

「やめて……お願いだから……」

 

 テッサの懇願は懸命ながら

 もはや懇願以上の意味を持たない。

 ただ彼の欲望を煽る効果しかないということが

 悲しいほど明白であった。

 

 真悟の右手の人差し指と中指が

 股間の柔らかな大地を探索しはじめる。

 最初は臆病な調査員のように慎重なタッチだったが

 指先に吸い付くような粘膜の感触を確認するや否や

 自信に満ちた動きへと変貌していった。

 

「すごく熱いですね」

 

 報告口調で述べると同時に

 彼は親指で小さな豆状の膨らみを探す。

 やがてそれを見つけた瞬間——

 テッサの身体が弓のように反り返り悲鳴が漏れた。

 

「ひっ!」

 

 それに対する返答としては最上級だった。

 真悟は見つけた宝珠を確実に把握する。

 その表面を撫で回し時折力を入れて押し上げる。

 テッサは必死に声を抑えようと試みるものの

 唇の間からは震える吐息が次々と溢れ出てくる。

 

「んっ……んん……あぅ……」

 

 努力もむなしく溢れ出る音色。

 それは確かに抗議であり抵抗でもある。

 しかし同時に—誘惑でもある。

 真悟の指が速く動けば動くほど

 彼女の呼吸は乱れ身体は震え始める。

 

「ここが良いんですね」

 

 発見の喜びに満ちた声色。

 彼は左手で再び乳房への攻撃を再開しながら

 右手の探索活動を加速させる。

 中指は花弁の奥へと進入し

 入り口付近で旋回運動を開始した。

 

「いやっ……それは……!!」

 

 警告の叫び。

 しかし既に遅すぎる。

 真悟の中指は温かく濡れた洞窟内部への

 侵入を開始していた。

 抵抗はある。しかしそれは拒絶というより

 緊張と驚愕による反応だと思われた。

 

「力を抜いてください」

 

 指示が諭すように静かに行われる。

 しかし同時に

 指は更に深くへと進行する。

 

「無理……だめぇ……」

 

 涙混じりの悲鳴。

 しかしランプの光に照らされた彼女の表情には

 確かに苦悶以外のものも含まれていた。

 羞恥と恐怖と—未知なるものへの好奇心。

 

 真悟は両手を使った同時攻撃を継続する。

 右手で洞窟内部を探査しながら

 左手で敏感な突起物を優しく愛撫する。

 その時——突如としてテッサの身体が痙攣し始めた。

 

「あっ!?」

 

 驚きと困惑が混じった声。

 そして次の瞬間——

 

 細い脚がぴんと伸び

 背中が大きく弧を描く。

 喉の奥から押し出されるような長い溜息。

 

「——っ!!」

 

 完全なる絶頂の瞬間だった。

 真悟の手の中でテッサの身体は魚のように跳ね上がり

 洞窟内の襞は収縮して彼の指を締め付けた。

 

 一瞬の空白。

 その後—ゆっくりと弛緩していく筋肉。

 テッサは虚空を見つめ

 荒い息遣いだけが静寂の中に響いている。

 

 真悟はゆっくりと手を引き抜いた。

 月光が滴り落ちる水滴を煌めかせる。

 彼の表情には勝利の喜びと驚きが交錯していた。

 こんなにも簡単に—という感慨と共に

 同時に彼女の反応への深い満足感があった。

 

「すごかったですね」

 少年らしく素直な感想。

 

 テッサはまだ呼吸が整わないまま

 恨みがましい視線を向けた。

 しかし反抗のエネルギーは殆ど枯渇している。

 

「ひ……どい……」

 

 絞り出したような非難。

 しかし真悟はその言葉に含まれる意味を十分理解している。

 それは本当の拒絶ではなく——

 ただ単に初めて経験した嵐に対する

 驚きと戸惑いを表明しているだけなのだ。

 

 月光が再び強まり

 二人の影を床に投げかける。

 テッサの身体は微かに震えながらも

 確かに達成感と疲労感に包まれていた。

 

 真悟は彼女の横に身を横たえ

 汗で張り付いた髪を優しく梳いた。

 その指使いに彼女は小さく身じろぎをする。

 

「怖かったです?」

 

 質問には答えが返ってこない。

 ただしばらくしてからかすかな声でこう言われた。

 

「……卑怯者」

 

 その言葉が何を意味するのか—

 真悟には充分過ぎるほど理解できた。

 彼は愉しむ様に嗤い——

 まだ終わっていない航海への

 準備を整え始めた。

 

 月明かりに包まれた寝室で

 テッサの身体は静かに上下していた。

 短時間で連続して襲いかかった激情の波によって

 消耗しきったその様はまるで浜辺に打ち上げられた小舟のようだった。

 

「疲れちゃいました?」

 

 真悟の囁き声が耳元で響く。

 返答はない。ただ微かな呻きと共に

 瞼が閉じられてしまう兆候がある。

 ここで終焉を迎えても良かった。

 十分な征服感と充足感はある。

 しかし体内で燻る欲望の炎はまだまだ鎮火していなかった。

 

 

 

 

 窓の外でエーゲ海の月が雲間に沈みかけ、部屋の色温度が一変する。

 

 テッサはまだ絶頂の余韻に震える身体を起こそうとした。

 汗で濡れたシーツが背中に張り付き、剥がれる時の微かな抵抗が肌を擽った。

 呼吸を整えようと深く息を吸い込んだその瞬間——

 

 彼女の視界に、凶悪なものがあった。

 まるで暗闇から屹立する刃のごとき巨大な塊。

 血管が這いずる幹は蛇の胴体のように捩れ、

 亀頭は腫れ上がった火山の噴火口を思わせる。

 睾丸は重たく垂れ下がり、

 少年の肉体に相応しくない禍々しさを主張していた。

 

「っ……!」

 

 肺に入った空気がそこで凝固する。

 それは生物学的事実を超えた“侵入兵器”だった。

 彼女が生涯で目にした最も忌むべき暴力的器官。

 

「さっきまで……寝ぼけてたんですよね?」

 

 真悟の声は妙に優しい。むしろそれが一層不気味だった。

 

「ちがっ……これは……?」

 

 後ずさろうとするが腰が抜けたように力が入らない。

 床に落ちたドレスの一部が爪先に引っかかる音が空しく響く。

 

「これからが本番ですよ。大佐」

 

 少年の眼差しは既に獣のものだった。

 獲物を前にした肉食獣が牙を光らせるときの──冷徹で飽くなき欲望の輝き。

 

「待って! 無理ですこんな……っ」

 

 初めて見るサイズ感に生理的嫌悪が湧き上がる。

 自分の中に入って来るとは到底信じられなかった。

 子宮さえ届き得る凶器だと直感し身体が凍りついてしまう。

 

「大丈夫。最初だけ我慢すればすぐに気持ち良くなりますよ」

 

 優しい慰めのように言うがその手つきは容赦がなかった。

 裸で立ち尽くす少女の腰を捕え跪かせる。

 眼前に迫った剛棒から漂うオスの匂いに眩暈がした。

 

「やめてぇ……! こんなのおかしい……!」

 

 懇願する声は震えている。

 年上としての威厳も指揮官として培った矜持も瓦解してゆく──

 一人の女としての根源的恐怖だけが残されていた。

 

「見ててください」

 真悟が膝立ちになると両腿の間隔を開いた。

 

「これが全部入るんですよ」

 

 凶暴に膨張した“門前払い不能の鍵”が

 彼女の目前でさらなる硬度を増していく。

 

「いや……助けて……お願い……!」

 

 涙が溢れ止まらない。

 世界で一番危険で醜いものを直視しながら

 自分が最も脆弱な存在になっているという理不尽。

 

 だが真悟の手は既にテッサの背後に回っていた。

 濡れている秘裂を見つけ出し指を入れ込む。

 先程までの前戯で準備された入口は容易に侵入を受け入れる。

 

「準備は出来てるじゃないですか」

 

 嘲笑にも似た囁き。指が二本三本と増やされていく。

 中を抉る快感と出口を塞ぐ恐怖が同時に襲いかかり

 頭の中で何かが爆ぜたように視界が白く染まる。

 

「挿れますよ?」

 

 宣告と共に体重がかかった。

 テッサは咄嗟に背をそらせ

 膝を開いたままベッドシーツを掴んだ──

 

「待って本当に痛いのは——」

 

 言葉の末尾を切断するように

 灼熱の鉄槌が狭隘な孔に入り込んで来た。

 

「~っ!?!」

 

 破瓜の傷みと内臓を押し広げる圧迫感。

 息が出来なくなった。喉の奥で魚みたいにピチピチと空気を飲み込む。

 それでもなお剛直は奥を目指し侵攻する。

 

「すげぇ締まりだ……テッサ」

 

 嬉々とした少年の声が頭上から降る。

 彼女にとっては拷問椅子に座らされた被害者の心境だった。

 

「抜いて……っお願い……! これ以上無理ぃ……!」

 

 悲鳴に等しい声をあげる。だが腰はしっかりと固定され動かない。

 代わりに僅かな抽送が始まる。

 カリ首が膣壁をえぐりながら出入りするたび

 視界に火花が散るような疼痛が走る。

 

「馴染んできてますよ。ほら息してください」

 

 強引に唇を塞がれ舌を絡め取られる。

 酸素不足で朦朧となる意識の中

 下半身からは規則正しく音が発生していた。

 

 パン……パン……パン……! 

 

 乾いた肉と肉が叩き合う律動。

 同時に両胸が捏ねるように揉まれ

 その乳首までも摘まれる三点同時の攻撃。

 

「あ……んぅ……あぁっ!?」

 

 最初は叫びだったのに

 次第に嬌声混じりの吐息へ変わっていく。

 脳髄で危険信号が鳴り響いている筈なのに

 身体は正反対の反応を示しはじめた。

 

(どうして……痛いのに……)

 

 少年のペースで貫かれる度に

 未知の感覚が背筋を駆け上がる。

 破られた膜が引き攣れる疼きは確かにある。

 しかし同時に得も言われぬ陶酔が胎内から滲み出ていた。

 

「感じてるんですよね?」

 

 真悟が顔を近づけニヤリと笑う。

 唇についた鮮血と唾液を親指で拭った。

 

「認めたくないでしょうけど——」

 

 言い終わる前に再度強く打ち付ける。

 結腸近くまで届くのではないかという深度。

 眼球がグルッと裏返りそうになる衝撃。

 

「〜〜っッッ!!!」

 

 声にならない絶頂の奔流。

 自分で自分が制御できない波に呑まれていく。

 

「もうイったんですか? 凄い敏感だなぁ」

 

 少年の称賛と嘲弄が混ざる台詞。

 テッサは否定しようと首を振るが

 すぐ次の突きでまた昇天させられる。

 

 何度も何度も何度も——

 理性も職位も人格も崩壊してゆく音が聴こえた気がした。

 

(私は一体……何者なんだろ……)

 

 かつて兵士であり指導者であり淑女であった自分は消滅した。

 今はただ一人の哀れな牝——

 逞しい雄に貪られ啜られる餌にすぎない。

 

「可愛いですよテッサ。ずっとこうしてたいくらいだ」

 

 耳元で囁かれる告白めいた言葉。

 だけど今の彼女には虚しい檻の鍵音にしか響かない。

 

「もう……許しっ……」

 

 掠れた懇願を最後に——

 意識は急激な高潮で真っ白になり何も見えなくなった。

 痛みと快楽で躾けられる再教育。

 

 

 暗澹たる闇の淵から這い上がるように、意識が薄らいでいた。

 

 テッサは自分がまだ横たわっていること、

 まだこの部屋に囚われていることに気づいた。

 四肢は鉛のように重く、秘部は絶頂の余韻にまだ痙攣している。

 汗と愛液と——あと何か、混ざり合った体液が太腿を伝い、

 シーツに小さな湖を作っていた。

 

「お目覚めですか?」

 

 真悟の声が耳元で囁く。

 まるで恋人に囁くような優しさを湛えながら、

 その根底には支配する者の愉悦が滲んでいた。

 

「……もう……終わりに……」

 

 言葉は絞り出すようにかすれていた。

 彼女はかつて見たことのないほど疲れ果てていた。

 

「いいえ」真悟は微笑んだ。「これからです」

 

 彼の手はすでに次の標的を決めていた。

 首筋に添えられた親指が鎖骨の窪みを押さえ、

 もう片方の手はゆっくりと

 肋骨の隆起をなぞりながら腰椎のくびれへと降りてくる。

 

「ここはどうですか?」

 

 テッサの背筋が思わず弓なりになる。

 先程までの正面からの攻撃とは異なる角度からの刺激に、

 未知の感受性が呼び覚まされる。

 弱点を再確認するかのように、

 真悟は指先で皮膚の薄い部分をつまみ上げた。

 

「あっ……!」

 

 反射的に漏れた喘ぎ。

 自分でも予想しなかった反応に戸惑いを隠せない。

 

「やっぱり素晴らしい」

 真悟は満足げに言った。

「体中に秘密があるようですね」

 

 彼の口は首筋に埋められたまま。

 舌が汗でしょっぱい肌をなめ、唇が柔らかな凹凸を啄み続けた。

 一方、両手は腹部のあたりを自由に遊泳する。

 臍の穴を指でなぞり、脇腹の柔軟なラインをゆっくりと擦る——

 そのすべてがテッサの知らなかった感覚を抉り出していく。

 

「や……それ……変です……」

 

 恥ずかしげな声。

 新たな性感帯を無防備に曝け出された羞恥。

 

 真悟の手はさらに南下する。

 太腿の内側へと潜り込み、鼠径部のデリケートな境目を探る。

 その動き一つ一つが新大陸を地図化する測量士のように慎重で正確だった。

 

「見せてくれませんか?」

 

 唐突にそう言うと、彼は両手で

 テッサの膝をそっと持ち上げる。

 自然と股が開き、肉棒を咥え込み濡れそぼった花園があらわになる。

 恥ずかしさに顔が焼けるように熱くなる。

 それでも抵抗する力は残っていなかった。

 

「綺麗ですよ……」

 

 賞讃と観察の入り混じった声。

 太く硬い肉塊が揺れる度に震え、健気に締め上げるこじらせマンコ。

 ヒダ肉が愛おしそうに竿にまとわりつく姿をテッサも見てしまい、目を逸らす。

 

「いやっ……」

 

 顔を覆い隠そうとするが真悟が腕を取り上げた。

 

「ちゃんと見せてください」

 

 そのまま彼は己のモノを軽く引き、

 

「──―っ!?」

 

 抜けそうで抜けない際どいところで止める。

 焦らすように雁首だけをクリトリスに押し当て、

 

 グリグリィ

 

 と円を描くように押しつけると——

 

「んんん~~ッッ!!」

 

 未だ衰えない陰核の感度。

 全身に電流が走り、指先まで力が籠ってしまう。

 

 再び焦らされる屈辱と悦びが入り混じる感覚に翻弄されている隙に、

 

 ヌプゥウ……

 

 ゆっくりと挿入されてしまった。

 

「くぅあぁあっ!」

 

 痛みは無い。慣れてしまったせいなのか別の理由か分からないけれど。

 

(なんで……)

 

 身体は待ち望んでいたと言わんばかりに媚肉を蠕動させ最奥へ導く。

 

 正常位で接合するとお互いの肌が密着しあって温もりを感じた。

 それが余計に罪悪感と快楽を倍増させた。

 

 パンッ! 

 

 一拍置いて再開される律動。

 子宮口を穿たれるごとに理性が剥落していく。

 

 もう何度目かもわからないオーガズムを迎えそうになった時だった。

 

「まっ……今イってるからぁあ♡」

 

 しかし真悟は速度を緩めることはなく、

 むしろ激しく揺さぶってくる。

 幾度も達しているなか途切れぬ快楽信号によって頭が真っ白になった刹那。

 

 ブシュッ

 

 勢いよく透明な液体が飛び散った。

 

 潮吹き。

 

 それが分かるころには大量の水分が噴出していて、

 シーツどころか真悟の衣服まで濡れそぼる。

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」

 

 絶叫するテッサとは裏腹に冷静な表情で観察している少年。

 

「すごい量ですね……これも癖になるかも」

 

 クスクス笑いながら再び動き始める。

 まだ満足していないのだ。

 

「もう……勘弁し……て……」

 

 涙声の懇願さえも聞く耳を持たず続く抽送。

 次第に慣れてきたのかリズムが生まれてきていた。

 それに伴って強烈な快感波紋が生まれてしまう。

 

 パンッ! パァン! 

 

 臀部同士が接触する音とともに衝撃が走り、

 堪らず背中を仰け反らせる姿を見て楽しんでいるようだ。

 先ほど与えられた快感すら忘れ去ってしまいそうな衝撃。

 

「あっ♡あっ♡はぁっ!」

 

 言葉にならない声ばかりが出るようになった頃合いを見て動きは一旦停止。

 と思ったら今度は姿勢を変えるために持ち上げられる。

 

 背面座位。

 この体位だと膣奥深くまで

 串刺しのように抉られてしまうことがわかってしまった。

 

(だめ……そんなことしたら……)

 

 案の定再び与えられる鋭利な感覚。

 

 ジュプリ……ジュプ……

 

 ゆっくり沈められていき根本まで納まりきる寸前で止まる。

 そして引き抜きかける動作。

 

「ひぃっ……んうっ♡」

 

 抜き差しの一往復だけでまた軽く果ててしまう。

 そんな状況を楽しみながらもまた腰を動かし始める少年。

 

 今度は浅いところを重点的に。

 Gスポットを集中的に擦っていくため

 膣壁全体が刺激されているようだった。

 しかも奥から湧き出る淫蜜で

 潤滑されているおかげで摩擦係数ゼロのような状態。

 

 ズチョッ! グチュッ! 

 

 いやらしい水音だけが室内に木霊するなか再び絶頂を迎える直前———

 

「そろそろ限界ですよね?」

 

 耳元での囁きと共に力任せに突き上げてきた。

 

 ゴリッ!! 

 

 最深部にまで突き刺さる感触と共に意識が途絶えた。

 

 ビュ────ッ!! 

 

 灼熱の奔流が注ぎ込まれる感覚と共に恍惚として眠りについた。

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 エーゲ海の夜は、沈黙を飾り立てるために幾重もの青を重ねている。

 深い群青、硝子の青、そして月の光に晒されて燐光を帯びた青。

 高級ヴィラの寝室には、

 その青が窓枠を額縁にして絵画のように一点のみ注ぎ込んでいた。

 

 テッサは、喉の渇きで目を覚ました。

 

 最初に感じたのは、下腹部の鈍い重みだった。

 まるで内臓の位置が一つずつずれでもしたような、

 違和感と充実感が同居する奇妙な感覚。

 次に、太腿の付け根に張り付いた乾きかけの液体の存在。

 そして——鼻先に漂う、雄の匂い。

 汗と、自分の分泌した雌の蜜と、もう一つ知らない種類の生命の匂い。

 

 彼女はゆっくりと瞼を開けた。

 

 まず映り込んだのは、見慣れない天蓋。

 透ける素材の薄布が月光を通し、

 幾条もの光の帯となって室内に降り注いでいた。

 自分が横向きに寝かされていること、

 そして背後から誰かに抱きすくめられていることに気づくまでに十秒は掛かった。

 

「———っ」

 

 小さく息を呑む。

 同時に記憶が洪水のように押し寄せた。

 意識を手放しす前の——あの暴力的なまでの快感の奔流。

 

 そうだ。自分は確かに——高梨真悟に、蹂躙された。

 

 背後で衣擦れの音がした。青年の息遣いが耳殻をくすぐる。

 

「起きましたか?」

 

 その声音には驚くほどの親密さと、

 覆い隠しようもない捕食者の愉悦が混じっていた。

 真悟はテッサの細いウエストに回した腕に微かに力を込めると、

 首筋に唇を押し当てた。ひやりと冷たい舌の感触。

 それは所有印を刻む儀式のようにも思えた。

 

「っ……やめて……」

 

 かすれた声で呟く。

 しかし真悟は従うつもりなど毛頭ないらしい。

 彼は拘束する腕を緩めると、

 テッサの肩を掴んでゆっくりと仰向けに寝かせ直した。

 天蓋越しの月光が少女の白い顔を照らし出す。

 青い瞳にはまだ茫然自失とした色が残り、

 睫毛の先には眠りの名残が宿っていた。

 

「大佐……じゃなくて、

 今はもう『テッサちゃん』の方が正しいかもしれませんね」

 彼は楽しそうに言った。

「まあどちらでもいいんですが」

 

 そう言いながら、彼は自分の身体をずらし、

 テッサの顔の真正面に腰を下ろした。

 その瞬間——視界に映った"もの"にテッサの全身が硬直する。

 

 血と体液にまみれた、彼の肉茎。

 

 それは月光を浴びてなお赤黒く脈打ちながら、

 べったりと白濁を纏っていた。

 自分の純潔が砕け散った痕跡。そして自分のものではない粘液。

 生理的な嫌悪と恥辱がないまぜになった感覚が胃の底から這い上がる。

 

「汚れてしまいました」

 真悟はさらりと言い切った。

「俺としては綺麗にしてもらった方が嬉しいんですけど」

 

 テッサは言葉を失っていた。

 代わりに唇が小さく震える。

 

「まさか……

 こんなこと———」

 

 搾り出した抗議は蚊の鳴くような声に過ぎない。

「そんなことは出来ません」

 毅然と言い返そうとするが、

 声帯は麻痺したように思うように動かない。

 

 真悟は僅かに首を傾げると、

 手のひらをテッサの頬に添えた。

 彼女の体温は冷えかけていた。

 そこに触れた少年の掌だけが異様な熱を持っている。

 

「さっきだっていっぱい啼いたじゃないですか」

 悪戯っぽく微笑む彼の双眸は宵闇よりも昏い。

「ねぇ? 今更恥ずかしがることじゃないと思うんだけど」

 

 拒絶したい。全力で首を振りたい。

 けれど恐怖か疲弊か、

 あるいは身体の芯に残留している甘い痺れのせいか——

 テッサは微動だにできなかった。

 

「それとも……

 叱って欲しいんですか?」

 

 その囁きに含まれた意地の悪い真剣さが決定的だった。

 背筋が氷のように冷えると同時に、

 なぜだか逆らい難い磁石のように引力に囚われる。

 彼女の唇は無意識のうちに少しだけ開いていた。

 

「お願いです」

 

 真悟の低い声が頭上から降ってくる。

「舐めてくれませんか?」

 

 その言葉と同時、

 彼のものがぐいっと鼻先に近づいた。

 生暖かい温度。粘り気を帯びた匂い。

 本能が拒絶の警鐘を鳴らす。

 けれどテッサの喉はひゅっと鳴っただけで、

 そこから先へ言葉が続いていかない。

 

 ——拒めばきっとまた……

 さっきみたいな酷いやり方で責められる。

 

 考えが至った瞬間、

 思考そのものが霞のように薄れていった。

 彼女はついに観念したように両腕をゆっくりと持ち上げると、

 枕の上に肘を立てながら腰を浮かせた。

 そして恐るおそる舌先を突き出す。

 

 ぺちゃり。

 

 生臭さと苦味が口腔内に広がる。

 同時に鉄錆びのような血の味。

 自分のせいであるはずのその金属臭は、

 奇妙に惨めさと倒錯した甘美さを同時に伴った。

 

「そう……そのまま根元まで」

 

 耳元で囁かれる指示に従って、

 唇で包むようにして吸い上げる。

 粗雑に扱われれば即座に嗚咽しそうなそれを、

 彼女は出来る限り優しく舌を這わせた。

 

 熱い。

 

 彼の脈動が直接粘膜を通して伝わってくる。

 嫌悪感に覆われていた心に、

 次第に不釣り合いなほどの集中と献身が芽生えてくる。

 

「……ん……」

 

 自分の喉奥で零れる喘ぎが

 まるで他人のもののように聞こえた。

 歯を立てないように注意し、

 丹念に唇で包み込む度に肉茎は小さく跳ねる。

 

 ぷつりと血が絡みつく場所へ舌先が触れた瞬間——

 テッサの中で何かがぽっきりと折れた。

 

(もう……私は……)

 

 現役だった頃の凛々しい姿。

 指揮官としての自負。女としての矜恃。

 それら全てが、

 目の前で自ら浄めている醜い器官の匂いに蝕まれていく。

 

 真悟が頭を撫でた。

 

「偉いですよ。ちゃんと覚えられるじゃないですか」

 

 褒め言葉と呼ぶにはあまりに傲慢なその言葉さえ、

 今の彼女には鞭よりも甘い飴だった。

 羞恥に耐えていた頬がいつの間にか熱を帯びている。

 

 舌を使って掃除が終わった頃——

 真悟のものは再び硬度を取り戻していた。

 彼はふっと笑うと、

 テッサの両肩を掴んで仰向けに戻した。

 

「続き……しましょうか?」

 

 問いというより確定した宣言だった。

 テッサは眼差しだけをそちらに向ける。

 

 青い瞳に月光が映り込み、

 水面に投げた宝石のように揺らめいていた。

 拒絶も承諾も示さない——けれど逃げもしない表情。

 

 真悟は彼女の細い踝を手に取ると、

 ゆっくり左右に割り開いた。

 先ほどの陵辱の名残でひくつく裂け目が露わになる。

 そこへ再び硬くなった切っ先を宛てがい——

 

「ねぇ……痛かったら言ってくださいね? 

 止めないかもしれないけど」

 

 冗談めかした物言いを最後に、

 再び彼女の世界は甘く狂おしい快楽と羞恥の坩堝に叩き込まれた。

 

 ◆ ◆ ◆

 

 夜明けの第一報は鳥の囀りではなく——

 エーゲ海を行き交う貨物船の汽笛だった。

 淡紅色の曙光が水平線を溶かし始めると共に、

 二人の影は一つになり、そしてまた離れていった。

 

 テッサは窓際に立つ真悟の背中を見つめる。

 朝の冷たい空気の中で露わになった裸形は、

 昨夜までの粗暴さを嘘のように静謐な彫像のようだった。

 

「怖がらなくてもいいですよ」

 

 振り返りもせずに青年は言う。

「もう帰ります。あなたの旅鞄と荷物は玄関の脇に用意してあります」

 

 それだけ告げると彼は衣服を羽織って扉へ歩み寄った。

 扉が開かれ朝日が差し込む刹那——

 

「高梨君」

 

 掠れた声でテッサが呼んだ。

 真悟は振り返りかけるが途中で止め、

 後ろ姿のまま言葉だけを返す。

 

「何です?」

 

「———もう……来ないでください」

 

 自分でも驚くほど平坦な口調だった。

 怒りも憎しみも希薄で、代わりに深い疲労だけがある。

 

 真悟は肩をすくめた。

「分かりました。

 だけど忘れないでくださいね」

 

 そう言い残して扉は閉じられた。

 残された静寂の中で、

 テッサは白いシーツの上に残る暗褐色の斑点を見る。

 

(忘れられない……のでしょうね)

 

 彼女はゆっくりと鏡台へ歩み寄り、

 そこに映る憔悴した自分の顔を睨みつけた。

 涙は出なかった。

 代わりに喉の奥から笑いとも溜息ともつかないものがこぼれた。

 

 東の空が燃えるように朱に染まっていく。

 エーゲ海を渡る風が

 一夜限りの甘い毒を孕んだまま窓から流れ込んだ。

 

 テッサはそっと瞳を閉じた。

 

 新しい一日が始まろうとしていた。

 

 

 

 

更新希望の原作

  • 世界最高の暗殺者、異世界貴族に転生する
  • 最強出涸らし皇子の暗躍帝位争い
  • 片田舎のおっさん、剣聖になる
  • リアデイルの大地にて
  • 俺は星間国家の悪徳領主!
  • リビティウム皇国のブタクサ姫
  • 転生王女と天才令嬢の魔法革命
  • ロクでなし魔術講師と禁忌教典
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。