ダークエロ短編集3 作:カード読み込み
朽ちた鳥居の隙間から覗く月が、ちょうど満ち欠けの中途に浮かんでいる。
昼間の陽光を吸い込んで膨らんだ熱が夜気に溶け出し、
廃神社の湿った木板を静かに温めている。
戦闘機人トーレはその中心に蹲り、ハチが差し出した紙箱――
古ぼけた包装紙に覆われた質素なものだ――を開けていた。
箱の中には四角く焼き印の押された茶色い物体が三つ、几帳面に並んでいる。
通常の鯛焼きとは違う形状だ。
平たく扁平で、
まるで工学的な計算に基づいて整形されたパンケーキのように見えた。
しかし、その表面から漂う香りが尋常ではない。
カリッと焼き上げられた生地は薄く脆そうで、そこから覗く餡――
トーレは本能的にそれが通常の小豆餡ではないと察した――
は艶やかな琥珀色をしている。
光を浴びてきらきらと星屑のように輝くそれは、
まるで溶かした蜂蜜の中に
純金の粉を混ぜ込んだかのような異様なまでの色彩を放っていた。
「どうぞ。自信作なんだ」
ハチは得意げに鼻を鳴らしながら言った。
彼の少年らしい純粋な期待がその大きな瞳に宿っているのを見て、
トーレの胸の内に奇妙な暖かさが灯る。
「……感謝する」
無骨な戦闘機人の声にしては珍しく柔らかかった。
トーレは一番端にあるそれを慎重に一つつまみ上げた。
指先に伝わるのは想像以上の重量感と、
生地の内側から伝わるわずかな温もりだった。
先程までの激しい出来事を通じて消耗した体力を考慮すれば
その熱量は生命維持に不可欠だと彼女の生存本能が告げている。
かぶりつく。
生地は予想通り脆弱に砕け、歯の圧力に容易く屈服した。
しかしトーレはその瞬間に予期せぬ感覚に襲われた。
生地からじゅわりと滲み出す液体――
それは確かに甘かった。
砂糖と焦がし醤油が混ざり合ったような複層的な甘味と香ばしさ。
しかし同時に仄かな塩気が舌の上で花開き、
まるで砂漠を行軍した兵士が初めて味わうスポーツドリンクのような
生命活動を促進する感覚があった。
トーレは嚙みしめる。
生地の繊維が分解されるのと同時進行で餡が崩れはじめる。
粒あん、確かにそう形容できるが通常のそれとは比べ物にならない
細やかに処理された豆粒子だ。
口内でそれらが砕けた生地と共に融合し始める瞬間――
「……!?」
トーレの瞳孔が微かに拡大した。
甘味の中に突然現れた酸味だ。
しかし嫌な刺激ではない。
むしろそれが甘味を浄化し、
次なる一手へと繋がる架け橋となるような絶妙なアクセントだ。
「これは……」
ハチは黙って嬉しそうにトーレの表情を窺っている。
その無垢な視線に促されるようにトーレは次の一口へ進む。
今度は餡を中心的に齧った。
あの輝かしい琥珀色の塊を。
途端に彼女の脳裏を稲妻が駆け抜ける。
旨味だ。
何千種類ものアミノ酸が幾重にも折り重なった宇宙の如き深遠なる旨味。
それが一瞬で口中を制圧し、
消化器管は久々に到来する栄養供給を待ち構える獣のように唸りを上げた。
しかもその旨味は連鎖している。
初めの一杯とは異なる配合比率で設計されたであろう
二次旨味成分がタイムラグを設けて到着し、
一次旨味と協奏を始める。
(計算されている……)
トーレは確信する。
これは偶然の産物ではない。
分子レベルまで把握した味覚設計と栄養配分。
もしかすると摂食時の心理的満足感まで計算に入れた緻密な製造工程。
三口目。
ついに芯に達したトーレはそこで驚愕の事実を目にする。
餡の最深部、核となる部分に僅かだが異質な組成物が埋め込まれていた。
それは黄金の結晶のような小さな固形物であり、
噛み砕かれた瞬間――
爆発的な香りが口腔から鼻腔へ逆流してきた。
スパイスだ。
それもただの香辛料ではない。
数十種類が複雑にブレンドされ、
それぞれが独立した旋律を持ちながら完璧な和声を奏でるオーケストラ。
その香りはたちまち肺胞へ取り込まれ、
血液に乗って全身へ巡るのをトーレは感知した。
「……最高の味だ」
トーレは率直に賞賛の言葉を述べた。
これは偽らざる本音だった。
今まで口にしてきたすべての食品の中でも頂点と言える作品だ。
ハチは興奮を抑えきれずに早口で捲くし立てる。
「ねっ!すごいでしょ?父さんが考えたんだ!
タンパク質・脂質・炭水化物はもちろんのこと
ビタミン各種やミネラル群も網羅した完全栄養食なんだよ!
しかも吸収効率を最大化するために
胃腸で三分以内に分解吸収されるように工夫してるんだ!」
その言葉を聞きながらトーレは二つ目に手をつけようとした。
しかし不意に指が止まる。
内部から湧き上がる熱だ。
先程食べた最初の一個がもう作用を始めたのか。
彼女の筋肉組織の隅々まで酵素が行き渡り、
萎縮していた臓器が正常機能を取り戻しつつあるのが分かる。
「……ありがとう」
トーレは呟いた。
それはこの美食に対する謝辞であったが、
同時にこの危険な逃亡生活において
安息を与えられたことへの感謝でもあった。
四口目。
二個目の中盤に差し掛かった時点でトーレの内部変化は顕著になった。
まず視覚野が鮮明になり始めた。
暗闇に沈むはずの神社内部でさえ
蜘蛛の巣一枚一枚の形状まで克明に捉えられるようになった。
聴覚も同様だ。遠く離れた竹林で羽虫が擦る微細な音さえ拾える。
(素晴らしい)
トーレは純粋な感嘆を抱いた。
栄養バランスだけではない。
明らかに神経伝達物質に対する影響も計算済みだ。
セロトニンとドーパミンの分泌パターンが
理想的な幸福ホルモン比率で調整されているのだ。
五口目。
ここでトーレはある事実を看破した。
それはこの鯛焼きが単なる高機能食品ではないということだ。
内部に組み込まれた微量成分――
おそらく特定のアミノ酸派生物と思われる――が
摂食者の遺伝子情報を読み取る役割を担っている。
つまり個人の栄養必要値を正確に感知し、
その個体専用の栄養配分に
瞬時に対応する自己学習型サプリメントなのだ。
六口目。
三個目に入る頃にはトーレの身体は完全に
再活性化モードに入っていた。
萎んでいた乳腺が再膨張し始め、
胎内の卵巣で停滞していた卵子が分裂準備に入った。
先程の授乳による損耗分を
この食物が瞬時に補填したのだ。
(……これは最早料理ではない)
トーレは確信した。
これは兵器だ。
ただし銃火器などとは比較にならない戦果を約束する
究極の生命支援ツールなのである。
七口目。
最後の一個を味わうトーレの口元に
いつの間にか微笑みが浮かんでいた。
それは数時間前まで苛烈な逃亡劇を演じていた戦闘機人が
見せるべき表情ではない。
しかし眼前で目を輝かせながらこちらを見守る少年の存在が
彼女にそれを許容させたのである。
八口目。
完全なる消費。
三個全てを摂取し終えたトーレは
ゆっくりと深呼吸した。
肺が大きく膨張し、呼気が甘やかな芳香を纏っているのに気づく。
彼女自身が今、あの鯛焼きと同じ香りを放っているのだ。
「どう?おなかいっぱいになった?」
ハチが心配そうに覗き込む。
トーレはその頭を優しく撫でた。
「十分すぎるほどだ」
そう答えたものの心中は別の事実を認識していた。
この三つの鯛焼きは
彼女の身体だけでなく魂までも再構築しようとしている。
荒れ果てた戦闘機人の心に
瑞々しい生命力の種を播いているのである。
「……おいしかった」
素朴な感想だがこれ以上ない真理だった。
トーレはハチを見据え、そして初めて真剣な態度で語りかけた。
「ありがとう」
その一言には様々な意味が込められていた。
食べ物を与えてくれたこと。
安全な場所を提供してくれたこと。
そして何よりも――
トーレの内側に新たな命の炎を灯してくれたことへの感謝だった。
ハチは照れくさそうに頷くと、
少しだけ申し訳なさそうな顔をして訊ねてきた。
「ねぇ……その……母さんとかみたいな気持ちになってたりする?」
純粋ゆえの残酷な質問にトーレは苦笑する。
しかし今の彼女には答えられた。
「そうだな。少なくとも娘のように思っている」
「娘?」
少年は困惑したように眉根を寄せた。
「いや、違うか」
トーレはすぐに訂正する。
現在の彼らの関係性を最も正確に表現するならば――
「共犯者だな」
その言葉に二人は見つめ合い、同時に小さく笑った。
外界では依然として追跡者たちの影が忍び寄っているかもしれない。
しかし今この刹那だけは
廃神社は秘密基地のように静かで温かだった。
九口目はない。
もう十分だ。
トーレは満ち足りた気持ちで天井を見上げる。
剥がれた漆喰の隙間から見える星空が
なんだかとても美しい。
そして彼女は悟った。
この少年とともに在ることが
これからの彼女の逃亡経路なのだと。
完全栄養食という名の希望を糧に
二人は長い夜を越えていく。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆
## 腐爛した檻の饗宴
——或いは、記憶という名の無限迷宮にて
******
月を忘れた夜が、石壁を腐らせていた。
トーレは汗ばむ額を枕元に押しつけ、歯軋りで闇を切り裂こうとする。
けれど耳朶を這うのは、
遠い昔に埋葬したはずの鋼鉄の呻き――監獄の思い出だった。
〈起きて〉
姉の声が、霧を縫う刃のごとく飛び込んでくる。
〈また“あの”牢に戻ってきてる〉
ああ。
吐息ひとつで全て悟った。ここは現実ではない。
湿布の匂い漂う病室でもなく、ハチの待つ安住の巣穴でもない。
天蓋のかわりにコンクリートが鎮座し、
ベッドの木材は腐りきって棘を刺す。
灯りといえば壁に打ちつけられた裸電球が一つ。
蛍光灯の残骸のようにぶら下がったそれは、
ちらつくたびに無数の影を伸ばし縮ませて檻を嘲笑う。
「…………っ」
トーレは膝を立てようとする。
だが踝に噛みつく重い枷が骨を軋ませた。
鉄輪の内側に穿たれたリングが足首を抉り、
乾き切った古い傷跡がじくりと蘇る。
――この痛覚こそが幻だと知りつつも。
「お目覚めかい、“No.3”ちゃんよ」
蝶番を軋ませ扉が開く。
硝煙と安酒が絡みついた吐息が通路の悪寒と共に流れ込んできた。
一人が肩越しに仲間へ合図する。
「今日はどの味付けにする?
昨日のチョコレートソースが結構評判よかったぜ?」
笑いが沸騰する鍋のように煮え滾る。
その中心でトーレは歯の根を噛み締めた。
戦闘機人の膂力は枷ごときに屈しまい。
けれど抵抗の意志は幻の牢を崩せず、
むしろ看守たちの期待を煽る燃料となるばかりだ。
「まったく可愛げがない」
巨漢の腕がベッド柵を跨ぐ。
鎖帷子の擦れる音が床を這い回る蛇のようで、
汗と体臭とアルコールの濁流が檻を浸した。
「そんな強がりすぐ蕩かせてやる――なァ?」
無骨な拳がトーレの顎を掴む。
骨を砕くほどではなく、だが意識を溺れさせるには充分な握力。
薄汚れた爪が咽喉を掠め、鎖骨の上で獲物を探すように踊る。
「ひひ……腰つきがガッチリしてて好みだぜ。筋トレでもしてんのか?」
喉奥で罵詈を噛み潰す。だが怒りは即座に熱へ換算される。
憎悪ほど燃費のいい燃料はない。
ましてや檻の中では炎を焚く選択肢すら奪われているのだ。
「兄貴ぃ」
背後の若僧が下卑た猫撫で声を放つ。
「今日の“メインイベント”は俺に譲っちゃもらえませんかね?」
「馬鹿言うな。お前じゃ指一本で沈められて終わる」
リーダー格の男が嗤う。
その冗談が実現しえる現実を誰よりも知っているからこそ滑稽だった。
「……退け」
トーレの声が凍土を掘り起こす。
「触るな。これは命令だ」
「ハハッ!命令だってよォ!!」
哄笑が檻を満たす。
腐った肉が破裂するような爆笑。
「今のてめえにそんな権利があんのか聞いてみたいもんだなあ――?」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
暗闇が呼吸をするたびに、金属の鎖が唸り声をあげた。
トーレは汗まみれの背中を粗末な壁に擦りつける。
コンクリートは湿り気を含み、彼女の体温を奪っていく。
拘束具に繋がれた四肢が激しく震え、
足枷がガチャガチャと不快な音を立てる。
「や……め……ろ…………」
絞り出した声は恐怖に彩られていた。
以前の冷静さは影も形もない。
目の前に立ちはだかるのは巨大な人間たち――否、怪物たちだ。
彼女の肢体を見下ろす四人の看守は全員二メートルを超す体格を持つ。
筋骨隆々とした腕に無数の入れ墨を入れている者が多い。
「おいおい、泣くんじゃねぇよ」
最も年嵩の男が低く唸る。
「お前のためだけに俺たちが集まってやってんだ」
最前列に立つ男は既に股間を膨らませている。
革ズボンのファスナーを下ろしはじめたところだ。
「どうせまた洗脳されてんのかと思ったけど、
今回はちゃんと効いてるみたいだな」
若い看守の一人が愉快そうに言いながらトーレの足を掴む。
「この胸なんか凄ぇぜ?戦闘機人って奴はこういう所まで作り込んでんのか?」
男の掌が彼女の乳房を掴む――
指先が沈み込むほどの柔らかさにも関わらず、内部には鋼のような弾力がある。
「ぐっ!?」
トーレが悶絶する。
肋骨が軋む感覚――実際に痛みを伴うほど強く握られているわけではないが、
屈辱が実際の苦痛より耐え難い。
「なあ知ってるか?こいつら人造人間だから妊娠できねぇんだよ」
別の男が耳障りな声を上げる。
「いくらヤっても孕まねぇってわけだ。便利だろ?」
嘲笑が密室に充満する。
トーレは悔しさで目眩がした。
このまま尊厳を蹂躙され続けるくらいならいっそ殺してくれと思うが、
(負けられない)
彼女の根底にある信念が反抗心を呼び起こす。
戦闘機人として生まれ落ちた意味など分からずとも、
こんな輩に屈することは絶対に許せない。
「……俺から始めるぜ」
若い看守がズボンを脱ぎ捨てる。
膨れ上がった陰茎が露になる。
興奮で血管が浮き上がり、先走りで先端が濡れていた。
「ちょっと待て」
年嵩の看守が制止する。
「まずは趣向を変えようじゃないか」
老練な男がポケットから小さな装置を取り出す。
紫色のランプが妖しく光っている。
「これは簡易版だけど効果は同じだ」
男は薄笑いを浮かべた。
「戦闘機人専用の感度増幅デバイスさ。
検査だって言って使われたことあるだろ?」
トーレの血の気が引いた。
以前受けた処置――全身の敏感ポイントを増幅させるあの忌まわしい装置。
「待……!」
声が詰まる。
既に装置は動き始めており、
微弱な電磁波が彼女の皮膚を這いずり回る感覚があった。
「さて、準備万端だ」
老練な男が笑いかける。
「覚悟はいいか?」
看守たちの視線がトーレの肢体を舐め回すように動く。
巨大な獣に狙われた小動物の気分だった。
「お願いだ……助けて……」
かろうじて漏れた哀願の言葉。
しかし返ってきたのは嘲弄だけだった。
「あんな大層な武器持ってたくせによぉ」
若い看守が近づいてくる。
「今はこんなんでブルってやがる」
彼の指がトーレの乳首を弾く。
普通ならかすかな刺激だが
増幅装置のせいで雷撃のような衝撃となった。
「あっ……!」
悲鳴とともに腰が跳ねる。
感覚過敏化された身体は些細な接触にも激しく反応してしまう。
「見ろよ」
別の看守が囁く。
「もう勃起してやがる」
「どれどれ」
若い看守がしゃがみ込み、
彼女の股間に顔を埋めるようにして覗き込む。
「ひゃっ!?」
トーレの秘部が緊張で収縮する。
しかし感度増幅により収縮自体が性感となり、
思わず甲高い声が出てしまう。
「や……め…」
抵抗の意思表示も虚しく、
看守たちの欲望は加速していくばかりだ。
「おい、こっち向け」
年嵩の男が彼女の顎を掴み上げる。
強引に視線を正面に向かせると、
「よく見ておけ」
命令とともに看守たちが一斉に服を脱ぎ捨てていく。
鍛え上げられた肉体が照明のもとに曝される様は圧巻だった。
それぞれの男性器が威嚇するようにそそり立っている。
(嘘だ……こんな事があっていいのか……?)
戦慄が全身を駆け巡る。
しかし同時に恐怖とは異なる感情が芽生え始めている自分に気づく。
身体の奥底から溢れ出てくる淫靡な期待感。
「欲しいんだろう?」
年嵩の男が挑発するように言う。
「素直になれよ。お前の身体はとっくにその気になってるぜ」
現実は否定できない。
感度増幅装置の効果もあるとはいえ、
彼女の身体は反応しすぎてしまっていた。
乳首は硬く尖り、秘所からは止めどなく蜜が溢れ出ている。
(私は……こんな事を望んでなんて……)
理性が必死に否定しても、
肉体は裏腹な信号を送ってくる。
恥丘を覆う薄膜が濡れて透き通り、
陰唇が淫らに開閉しているのがはっきりと分かった。
「さあ、お楽しみといこうか」
老練な男が低い声で宣言する。
他の三人も頷き合うように動き始めた。
「やめてぇ……!!」
トーレは精一杯の力で叫ぶが、
それは逆効果に過ぎなかった。
「やめて……!」
悲鳴は鎖の軋む音と一体になった。
だが抵抗の声も空しく虚空に散る。
鋼鉄の鎧を纏ったかのような看守たちが四方から覆い被さってくる。
「力抜けって」
最年少の青年が不器用に笑った。
「すぐに慣れるさ」
彼はトーレの両足を大きく広げるように押さえつける。
囚人服の裾が捲れ上がり、
薄紅に染まった下腹部が露になった。
未使用の桜貝のような可憐な突起が羞恥で震えている。
「ほほう」
年長者が舌なめずりをした。
彼の指が恐るべき力で彼女の股間を押し開く。
「ひっ……!?」
トーレの身体が弓なりに跳ね上がる。
鉄床に磔にされた蝶のように無防備な姿態。
肉襞の奥に潜む秘門は怯え震える子兎のごとき可憐さだった。
「何だよ綺麗じゃねぇか」
最年少者が歓喜の声を上げる。
「こりゃ逸品だぜ」
その瞬間――
「ぐわっ!」
トーレの視界が赤く染まった。
灼熱の楔が秘裂を引き裂いたのだ。
鉄杭を打ち込まれるような衝撃に意識が宙に浮かぶ。
彼女の肉体は抵抗する術もなく凶器によって蹂躙され始めた。
(痛い……痛い!)
激痛で涙腺が決壊する。
だが看守たちは一切の躊躇を見せない。
むしろ興奮を煽られたように抽送運動を加速させていく。
「うっ……!ぐぅ……!」
嗚咽が漏れる。
だが看守たちにとっては劣情を掻き立てるBGMにしか聞こえないだろう。
「もっと泣けよ」
最年少者が愉悦の表情で囁く。
その動きは稚拙だが執拗で、
(まだ序章に過ぎない)
他の三人も順番待ちとばかりに下半身をいきり立たせている。
彼らの視線は彼女の双丘に集中しているのが分かった。
「次は俺の番だぜ」
壮年の男が笑う。
その声は既に勝利を確信しているように響いた。
「みんなで可愛がってやるからな」
老練な男の囁きは悪魔の宣告にも似ている。
トーレは自分の意識が遠のいていくのを感じた。
しかし朦朧とする意識の中でもはっきりと理解していた。
これから更なる地獄が始まるのだという事を。
「―――」
喉の奥から零れ落ちた声はもう助けを乞うものではない。
狂った歓喜か絶望か分からない感情の産物として零れた音階だ。
――監獄の闇はまだ深い。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
# 淫獄の花弁 ――、或いは艶めく凋落
******
鉄格子の隙間から湿った冷気が染み込み、トーレの白い足首に絡みつく。
錆びた鎖が金属音を立てるたび、彼女の細い喉が痙攣する。
かつて戦場を支配した戦士の面影はどこにもなく、
汗と埃にまみれた肌は
蝋燭の火影に映し出される花弁のように脆く揺らいでいる。
(……来る)
牢の外で靴音が近づいてくる。
ゆっくりと、粘つくように。
トーレは無意識に身じろぎし、囚人服の襟元を引き上げようとする。
だが枷に縛られた腕は思うように動かない。
「…………」
トーレは無力感に唇を噛み締め、俯いた。
カギの開く音が不吉なファンファーレのように響き渡る。
分厚い扉が開かれ、屈強な看守たちが入ってきた。
先頭の男は分隊長クラス。
右腕に刺青が走り、歪んだ笑みを浮かべている。
「よう、三番艦様。相変わらず憂鬱そうなツラしてんなあ」
彼の後ろには部下たちが控えている。
皆一様に荒んだ眼光を宿し、舌舐めずりをしている者もいた。
この刑務所特有の"娯楽"が始まろうとしていた。
分隊長はトーレの前に立ち塞がり、顎に手を当てて吟味する。
「ふん……。やっぱ上玉だぜこいつは」
「…………」
トーレは無言で睨み返す。
その双眸にはまだ炎が宿っている。
しかし明らかに以前のような力強さはない。
疲労と飢えで肉体は限界を迎えつつあり、精神も摩耗していた。
「おいおい怖えなぁ~」
分隊長は愉快そうに笑い、人差し指で彼女の顎を撫でる。
「でもさぁ……ここで何ヵ月過ごしたと思ってんだよ?」
彼はわざと声を落とし、囁くように言う。
「抵抗しても無駄って骨身に沁みてるだろ?」
「……去れ」
トーレは声を振り絞る。
喉がカラカラに乾燥しており、声は掠れている。
「私に……触れれば後悔するぞ」
「後悔するのはどっちだかな?」
分隊長は舌打ちし、勢いよく彼女の髪を引っ張る。
鈍い痛みが走り、トーレは眉間に皺を寄せる。
だが抵抗しようと動けば、鎖が軋むだけだ。
「見ろよ部下ども」
分隊長は誇示するように彼女を眺め回す。
「毎晩何度も犯されてるのに……
この美貌が衰えないどころか磨きがかかってやがる」
周囲から下卑た笑い声が上がる。
トーレは視線を伏せた。
睫毛の長い瞼が影を作り、蝋燭の灯で微かに煌めいている。
この仕草さえ男たちの嗜虐心をそそる
演出になっていることに気づいているはずなのに。
「それじゃあ今日も『鑑賞会』といきますかねえ」
分隊長は手を打ち鳴らし、背後に合図する。
部下のひとりが手枷に繋がれた鎖を持って出て行く。
「まさか自由にしてくれるつもりなのか?」
トーレは嘲るように言うが、それは強がりでしかない。
「勘違いすんなよ。お遊びだよお遊び」
分隊長はニヤつきながら近くにあった椅子に腰かける。
「お前がどんな風に乱れるか見るのが最大の愉しみなんだから」
彼の言葉通り、
部下たちは一斉に服を脱ぎ捨て始めた。
汗と香水の入り交じった臭気が牢内に充満し始める。
筋肉質な体躯が照明に照らされ、不気味な彫像のように蠢く。
「……やめろ」
トーレは視線を泳がせる。
かつては戦場で猛犬のように吠え返した彼女も
この閉ざされた空間では鳥籠の雀同然だ。
「見たくなければ瞑れよ?」
分隊長は嘲りながら彼女の顎を掴み上げる。
「だけどそういうサディストめいた眼差しが好きなんだよなあ……
お前の姉妹たちも全部同じリアクションだったぜ」
トーレの胸が疼く。
長らく会っていない姉妹たち。
彼女たちもどこかで似た境遇を辿っているのだろうか?
「余計なことは考えるなよ」
分隊長の冷たい視線が射抜く。
「お前はただ喘げばいいんだ。
戦士でも姉でもなく……ただの慰みモノとしてな」
彼の指がトーレの太腿に伸びる。
荒れた爪が皮膚を擦り、甘美な刺激と痛みが交互に奔る。
「もう体が悦んでいるじゃねえか……」
耳元で囁かれる言葉が毒のように脳髄に染み込む。
「……貴様らの……腐った欲望に……屈してなど……」
「強がりもいい加減にしろ」
鋭い平手打ちが頬を打つ。
トーレの頭が横に振れ、衝撃で髪が乱れる。
薄桃色の唇が微かに裂け、唾液と血が混じったものが滴る。
「いいねぇその顔」
分隊長は恍惚とした表情を浮かべる。
「怒りと恐怖と屈辱が入り混じった顔……それでこそ楽しめる」
彼はトーレの首筋に指を這わせた。
脈打つ感触を確かめるように。
「抵抗しろよ?」
彼は楽しげに告げる。
「でもわかってんだろ?
お前の体内には『堕落因子』が注入されてるんだからな」
トーレは歯を食いしばる。
確かに数日前から彼女の肉体に奇妙な違和感があった。
体温の急上昇、妙な脱力感……
看守たちはそれを「戦闘機人の特性を維持する薬」だと説明したが……
「さて始めるか」
分隊長が号令を下すと
部下たちが一斉に襲いかかってきた。
******
男たちの荒い吐息が狭い独房に響き渡る。
錆びた鉄格子は窓枠のように暗闇を切り取り、
かすかな月光だけが惨状を照らし出していた。
「ハァ……ハァ……」
トーレは壁に背を預け、半裸のまま痙攣していた。
囚人服は既に殆ど引き裂かれ、
下着を残すのみとなっている。
汗と涙と涎が混じり合った透明な糸が鎖骨から胸へ垂れ下がり、
黒曜石のような瞳に濁った光を宿している。
「やっべぇ……もう終わりか?」
太い指が彼女の頬を抓る。
「おいおい三番艦様よぉ
少し休憩したら今度は後ろから楽しもうぜ?」
トーレは何も答えず虚空を見つめる。
焦点が定まらない瞳は
壊れかけたオルゴールの人形じみている。
(どうして……私が……)
思考すら儘ならない。
快楽中枢を直接嬲られるような拷問に
理性がかき乱されている。
体内を駆け巡る異常な熱感――堕落因子の効果は想像以上だった。
「まだまだだろ?」
別の男が笑いながら彼女の髪を引っ張る。
「この体が最高級だっていうのはわかってるぜ。
それに……最近のお前の顔が一番面白いんだよな」
男はトーレの顎を掴み上げる。
蒼褪めた顔色の中に滲む快楽の痕跡を見つけたのか、
嘲笑が高まった。
「さっきまでの強気はどこいったんですかぁ~?」
別の手下が茶化しながら太腿を開かせる。
白い肌に幾筋もの愛液と精液の混じった液体が滴り落ちる。
「くぅ……ん」
トーレは反射的に体を捩る。
だがその動作が却って扇情的で、男たちを昂ぶらせる結果になる。
鎖に繋がれた手首は痣ができており、
鞭の跡が朱線のように交錯していた。
「ほらまた漏らしてるぜぇ」
誰かがトーレの秘部に指を当てる。
指先が軽く触れただけで水音が響き、粘つく体液が糸を引く。
「やめ……ろ…」
僅かに残る抵抗力を込めてトーレは睨みつける。
しかしそれさえも快楽の材料として
利用されることは明白だった。
「無理すんなよ?」
分隊長は楽しげに近づいてくる。
「お前の体は正直だぜ?
もう何時間も犯されっぱなしなのに……ここを見てみろよ」
彼はトーレの下腹部を愛撫するように撫でる。
そこでは確かな隆起と湿り気を感じ取れる。
「嫌悪感と快感の拮抗か……まさに芸術作品だな」
分隊長の指先が優雅に舞い踊る。
腫れた陰核を探り当て、爪で軽く引っ掻く。
「あぅっ!」
トーレは仰け反り、喘ぎ声を抑えることができない。
快楽神経が剥き出しにされたような感覚に全身が粟立つ。
「見てみなこの反応……最高だろ?」
分隊長は部下たちの方へ向き直る。
「まだ半分も終わってないんだから
本気を出さないと勿体ないぜぇ~?」
男たちが期待に満ちた眼差しを交わし合う。
彼らの股間は既に限界まで張り詰めており
いつ暴発してもおかしくない様子だった。
「次は僕ですね~」
若手の一人が嬉々として進み出る。
トーレの脚を大胆に開き、自身を挿入しようとする。
「三番艦さんのナカ……狭くて気持ち良すぎますよぉ」
「ま……待て……」
トーレは懸命に身を捻る。
だが抵抗は無意味だった。
逞しい男根が一気に貫く。
「んぁあっ!」
火花が散るような快感が背筋を駆け上がる。
堕落因子の影響か体は従順に反応し、
膣内は潤沢な愛液で満たされていた。
「うわすげぇ締まる!」
若者は喜悦の叫びを上げる。
ピストン運動を開始するとトーレの体は操り人形のように上下する。
髪が振り乱れ、唾液が飛び散る。
「ほらお前らも来いよ」
分隊長は周囲を促す。
部下たちは競い合うようにトーレの体を求める。
一方は口腔を貪り、
他方は乳首を吸い上げる。
瞬く間に彼女の全身は欲望の標的となった。
(こんな……のは……)
思考が霞む。
過去の記憶がフラッシュバックする。
戦場での勇姿。
姉妹たちとの絆。
使命への誓い。
それら全てが泡沫のように消え去っていく。
「おいもっと鳴けよぉ~」
若者は腰使いを速める。
パンパンッと肉体がぶつかり合う音が淫靡に響く。
「お前は道具なんだから……気持ち良くさせてあげるよ?」
トーレの心に爪を立てるような言葉。
しかし肉体は裏腹に応えてしまう。
子宮口が降りてきて搾り取ろうとする蠕動が始まる。
「クッ……イキそう……」
若者は限界を迎えたようだ。
律動のペースを上げていき
最後の一突きで深くまで侵入する。
「出すぞ!全部飲み干せ!」
大量の白濁液が放出される。
同時にトーレも絶頂に達し
華奢な体が弓なりに仰け反った。
「ああああっ!!」
抑えきれなくなった快楽が堰を切ったように溢れ出す。
脳内で火花が炸裂し
世界が歪んで見える。
痙攣が止まらず足がピンと伸びてつま先が丸まった。
「よ~し交代だ」
次の男が位置を変える。
既に若者の欲望で満たされた膣内に新しい剛直が割り込む。
「ヌルヌルだしスグに入りますよ」
男は躊躇なく押し入り激しく抽送を始める。
「やめ……んぐっ……!」
トーレは喘ぎ声と叫びが混ざった
意味不明な言葉を吐き出す。
快楽と苦痛が渾然一体となり彼女の理性を塗り潰していく。
(ダメだ……これ以上は……)
警告音が頭蓋内で鳴り響く。
だが肉体は既に陶酔の坩堝に嵌まり込み
後戻りできない地点を超えている。
「よぉし本日のトリだ!」
分隊長が宣告する。
他の全員を押し退けるように前進してきた。
「最後は俺がいただくぜ……
特製の精液で種付けしてやるよ」
分隊長は不気味な笑みを浮かべている。
トーレは薄れゆく意識の中でその表情を見る。
底なしの闇を湛えた瞳。
「い……や…」
拒絶の言葉は虚しく、彼の剛直は容易く侵入を果たす。
先程の二人よりも遥かに太く長いそれは
膣内の限界ギリギリまで拡張される感覚を与える。
「おっ……?締まるじゃねえか」
分隊長は嬉しそうに呟く。
腰を動かす度に卑猥な音が響き、溢れ出した液体が泡立つ。
「どうだ?俺のチンポは?」
彼は耳元で囁く。
「これがお前の望みだったんだろ?
戦場で暴れ回っていた頃からずっとこうしたかったんだよな?」
「違う……私は……」
否定しようとしても言葉が続かない。
肉体は従順に反応し続け、内壁が収縮して快楽の波を呼び込む。
「嘘つくなよ」
分隊長は体重をかけて押し込む。
子宮口を突かれる衝撃でトーレの視界が明滅する。
「本当は感じてるくせに……ホラもっと声出せよ!」
激しい責めが始まる。
まるで杭を打ち込むような凄まじいストロークに
トーレの体は翻弄される。
愛液と汗と体液が混ざり合い、淫靡な香りが牢中に充満する。
「ん……あっ……んん……!」
我慢しようとしても抑えられない喘ぎ声。
快楽と屈辱が溶け合い、意識が曖昧になっていく。
(もう……何も考えたくない……)
トーレは静かに瞼を閉じる。
その時―
「いいなぁこの顔」
分隊長は満足げに言う。
「墜ちきった雌の表情だぜ。
これこそ俺たちが見たかった景色だ」
彼の律動が頂点に達しようとしている。
体内で何かが膨れ上がっていくのを感じる。
「出すぞ……たっぷり浴びせてやる……!」
「いやっ……!中はダメェッ!」
トーレは本能的に叫ぶ。
しかし拘束された体は微動だにせず
ただ受け入れるしかなかった。
分隊長の雄叫びと共に熱い奔流が解き放たれる。
子宮を満たしていく粘液の感触。
トーレは全身を震わせ
最後の抵抗を試みるかのように背筋を伸ばす。
(こんなの……認めない……絶対に……)
しかし肉体は勝手に快楽を受け入れる。
そして彼女の中に新たな火種が点火される感覚。
堕落因子の副作用。
極限状態において副交感神経の活性化が起こり
結果として依存性を強めるという噂があった。
それを証明するかのように
トーレの内側から湧き上がる渇望。
「ハハッ……良い表情だ」
分隊長は引き抜きながら嘲笑う。
糸を引く白濁液が結合部から滴り落ちる。
「今夜だけで何回絶頂したんだ?
数えてたけど途中からわからなくなってきたぜ」
牢内に不釣り合いな拍手が起きる。
まるで舞台劇でも鑑賞していたかのように
男たちは喝采を送っていた。
トーレは天井を見つめながら荒い呼吸を繰り返す。
放心状態でありながら
同時に抗い難い感覚に囚われていた。
脳裏に浮かぶのは姉妹たちのことではなく
この快楽だけがすべてだと言うような錯覚。
(嘘だ……私はまだ……負けていない……)
心の奥底で僅かな灯火が燃えている。
だがその火は小さすぎて見えにくい。
いずれ完全に消えてしまうのではないかという予感。
「明日も楽しみにしてるぜ三番艦様」
分隊長は鎖を引き寄せながら去り際に告げる。
「お前の堕ちていく過程を見届けるのは最高の余興だからな」
重い扉が閉まる音。
再び孤独と静寂が訪れる。
トーレは床に倒れ込んだまま動けずにいた。
肌に付着した様々な体液が冷えていく感覚。
汗と涙で濡れた髪が額に貼り付き
呼吸の度に胸が微かに上下する。
(私は……何のために……生きているんだ……)
これまで信じてきた信念が脆く崩れかけている。
使命も誇りも砕け散り
残ったものは凌辱という名の愉悦だけ。
だがそれさえも刹那の幻覚だと理性が囁く。
この状況を抜け出さなくてはならないと
魂の片隅で声が聞こえる。
トーレは薄く目を開ける。
視界はぼやけている。
遠くで鉄格子越しに見える月明かり。
それは闇の中で唯一輝く星のように見えた。
(まだ……終わらせない……)
囁くような決意の言葉。
しかし身体は鉛のように重く
次の朝まで休息が必要だった。
それでも彼女は諦めていない。
この惨禍の檻の中でさえ
咲き誇る花は存在しうるはずだと
折れかけた翼の夢を見るために。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
鉄格子の隙間から忍び寄る朝靄が
煤けた壁に淡い輪郭を与えている。
昨夜の嵐のような饗宴から一夜明け、
トーレは冷たく固い床に膝を突いたまま項垂れていた。
鎖に繋がれた四肢は傷だらけで、
擦れた皮膚から滲んだ血液が乾いたあとを残している。
髪は砂塵と脂と他人の体液に汚され
背中まで垂れていた。
胸元は囚人服が半ば裂けかけ
赤みを帯びた双丘の谷間があらわになっている。
それでもなお彼女の容貌には
翳りを覆ってなお爛熟する花弁の如き艶やかさがあった。
憔悴の極致にある貌ではあるが
疲弊と背徳の影が絡み合うことで一種の蠱惑を醸し出している。
白い頬には幾筋もの涙の跡が残り
蒼い瞳は水底のように澱んでいた。
けれどもその淵で何かが仄かに光るのを看守たちは見逃さない。
「おはようございます三番艦様」
扉の外から陽気な挨拶が投げかけられる。
昨日と同じ分隊長の声だ。
金属の靴音が近づき扉が開く。
眩い照明が牢内に射し込み、トーレの瞳孔を縮めた。
「今日は一段と美しいご様子で……」
分隊長は舌なめずりをする。
部下たちもぞろぞろと入ってきて
それぞれ好色な眼差しを注いでいる。
「……」
トーレは無言のまま視線だけを上げる。
昨夜のうちに結晶化したはずの反抗心が
氷柱のようにまだ胸の内に残っているらしい。
「なんだぁ?まだ抵抗する気か?」
分隊長は肩をすくめる。
「そんな頑固なところも堪らなくいいんだけどなぁ。
今日こそ完璧に堕としてやるよ」
彼の手が伸びてくる。
昨夜の暴行で痣だらけになった腕を掴むと
思い切り持ち上げる。
「ぐっ!」
痛みに顔を顰めるトーレ。
だがそれ以上に彼女の注意を惹いたのは
分隊長の手に握られた小さな注射器だった。
「今日は特別なものをお持ちしましたよ」
分隊長はウインクをする。
「これを使えばもっと気持ちよくなりますからね」
針先から琥珀色の液体が滴る。
「やめ……ろ」
トーレは牙を剥くように唸る。
しかしその威嚇は虚弱さ故に却って卑猥に見える。
「おっと暴れないでくださいよ」
分隊長はトーレの腋窩に腕を差し入れて
抱き寄せる形で固定する。
荒っぽく扱われるのに慣れてしまった彼女の身体は
反射的に竦んでしまう。
「安心してください」
分隊長は耳元で囁く。
「効き目は一瞬ですから」
注射針が鎖骨付近の柔らかい皮膚に沈み込む。
冷たい薬液が血管に流れ込む感触。
トーレの全身を寒気が駆け巡る。
「やっ……!」
抵抗しようにも力が入らない。
看守たちは周囲を取り囲んで
好奇心旺盛な視線を送っている。
「さぁ……どうなりますかね?」
分隊長が注射器を引き抜くと同時だった。
トーレの内部で何かが爆ぜたような熱量が生まれる。
「あ……あぁ……!?」
彼女の瞳孔が急激に拡散し、呼気が荒くなる。
胎内から沸騰するような感覚。
蜜壺が急速に潤い始める。
「面白いでしょう?凍結された受胎能力の解放。
つまりは、種付けられたら、孕むってことです」
クアットロとウーノは既に何人も出産し、
実験用の素体を提供する母胎へと進化していると告げられ、
トーレは愕然とした後、絶叫して必死に逃れようと肢体を捩る。
けれどもすでに遅かった。
全身の産毛が逆立ち、汗が噴き出す。
快楽の予兆が雷雲のように渦巻いている。
「さぁ観客諸君」
分隊長は哄笑する。
「これから本当に彼女が変身する瞬間をお目に掛けましょう」
部下たちが群がりはじめる。
無数の指先がトーレの身体を探り回る。
ブラジャーの布切れを千切り取ると豊かな胸乳が露になった。
既に尖端は紅梅色に勃起しており
触れるだけで痙攣を起こす敏感さだ。
「ひぃっ!」
トーレは耐えかねて甲高い悲鳴を上げる。
それが却って男たちの欲情を煽る結果となる。
「そうだよその反応」
分隊長はしゃがみ込んでトーレの股間に鼻先を近づける。
「嗅いでみろよ……芳醇な雌の匂いがするだろ?」
彼の言葉を受けて何人かが覗き込む。
下着はとうに剥ぎ取られており
濡れそぼった花園が惜しげもなく晒されている。
「すごいなこりゃ……
あっという間に洪水みたいじゃないか」
誰かが嬉々として指を入れようとするが
分隊長は制止する。
「ちょっと待て
まずは特別ゲストからの祝福があるぜ?」
そう言って彼は腰のベルトに手を掛ける。
ガチャリと音がして巨大な男根が露出した。
それは通常サイズを遥かに超える異様な大きさであり
トーレの小さな掌など簡単に埋没させるほどだ。
「おいおい待ってくださいよ」
若手の看守が口を挟む。
「最初は俺達に譲ってくださいよぉ」
他のメンバーも同様に不満顔。
だが分隊長は涼しい顔だ。
「焦るな。ちゃんと順番はある」
彼はトーレの腰を掴み上げる。
強引に四つん這いの姿勢を取らせると、後ろから狙いを定める。
「ほら入口がひくついてるぜ?早く欲しいんだろ?」
トーレは枕のように地面に顔を押しつけたまま
首を左右に振る。
しかしその動きはどこか生気が無い。
既に薬の効果が出始めているのかもしれない。
「じゃあ遠慮なく頂こうか」
分隊長が宣言する。
太すぎる亀頭が狭隘な穴口へ潜り込んでいく。
ミチミチという音と共に粘膜が引き延ばされる感覚。
「ぐぅっ!」
トーレの背筋が弓なりに反り返る。
あまりの質量に呼吸すら困難なのだ。
「まだ先端だけだぜ?」
分隊長は苦笑する。
「そんなに狭かったら一生孕まされずに済むかもな?」
冗談とも真剣ともつかぬ言い回しをしてから
一気に腰を突き入れる。
破裂寸前の風船のように膨らんでいた肉塊が
強引に胎内に押し込まれる衝撃。
「きゃあぁぁっ!!」
絶叫が地下室に木霊する。
トーレの目尻から涙が流れ落ちる。
内部器官が圧迫され肺から空気が漏れる。
もはや苦悶の境地と言って良かった。
「素晴らしい締まりだぜ三番艦様」
分隊長は感慨深げに呟く。
「まるであんた自身が生きているリングのようだ」
言葉と共に抽送が開始される。
獣の交尾のような激しい律動。
皮膚と皮膚がぶつかる打擲音。
粘液が飛び散る水音。
混沌とした音楽が奏でられる。
「いやっ……あっ……んん……!」
トーレの声はもはや人間のものではない。
呻きとも喘ぎともつかない不明瞭な音階が零れる。
だがそこに含まれるのは紛れもない悦楽だ。
(私……なんで……感じるなんて……)
自己嫌悪と混乱が彼女の心を襲う。
それでも肉体は従順に反応し続ける。
襞が蠕動して侵入者を包み込み、
より深い場所へ誘導するかのごとく蠢く。
「おっと……?ここだろ?」
分隊長が腰の角度を変える。
ある一点を強く擦られるとトーレの身体がビクンと跳ね上がる。
「見つけたぞ弱点……
Gスポットっていうのか?」
執拗に同じ箇所を攻めるピストン運動。
快感神経の集中地域を抉られる都度
トーレの意志とは関係なく嬌声が迸る。
「あああっ!やめ……てぇ……!」
「やめるわけねえだろ」
分隊長は笑う。
「寧ろもっと派手にイってもらわないとな」
速度が上がり摩擦熱が上昇する。
結合部からは湯気が立ち昇りそうな熱気を発している。
トーレの視界は明滅を繰り返す。
昨夜何度も迎えた絶頂の再来が目前に迫っている。
「あ……ダメ……また……来ちゃう……」
涙混じりの告白。
その声音には昨夜には無かった素直さがある。
理性の防波堤が決壊しかけている証左か。
「よし……一緒にイこうぜ!」
分隊長が猛然と突き込む。
最奥まで貫かれた瞬間
トーレの中で堰を切ったように快楽の津波が押し寄せる。
「いっくぅぅっ!!」
絶叫と共に絶頂に達する。
膣壁が強烈に収縮し男根を搾り取ろうとする。
同時に分隊長も限界を迎えたようだ。
「うおっ……!締め付けヤバいぞ……!」
咆哮とともに大量の精液が放たれる。
灼熱の奔流が子宮を満たしていく感覚。
それがトーレにとって最後の楔となる。
(嘘……だよね……?妊娠なんて……しないはず……)
怯えながらも思考はまとまらない。
事実上の受胎宣言と現実逃避が交互に脳裏を過ぎる。
だが下腹部から広がる異様な温もりが現実逃避を許さない。
「ご覧下さい皆さん」
分隊長は引き抜きながら言う。
糸を引く粘液が結合部から垂れ落ちる様は淫靡そのものだ。
「見事に孕みましたよきっと」
周りの看守たちから歓声と溜息が漏れる。
一部は羨望と嫉妬の入り混じった眼差しで
未だ痙攣するトーレを見下ろしている。
「次は誰にするんだ?」
年嵩の看守が尋ねる。
「勿論公平に行こうぜ」
若い衆が拳を突き合わせる。
その光景を背景にトーレは無力に床に伏していた。
精液と愛液と涙が混じり合う臭気の中、意識が薄れていく。
(終わった……の…?)
疑問符ばかりが脳内を飛び交う。
しかしそれも徐々に麻痺していく。
堕落因子と受胎薬の複合作用で、理性の火が消えかけているのだ。
「さぁ続きを始めようか」
誰かが語りかける。
「三番艦様は我々の女神になってくれるんですよね?」
返事をする余裕はない。
ただ肉体だけが反射的に反応する。
蜜壺からは新たな体液が湧き出し
媚肉が蠢く。
それは敗北宣言のようなものだった。
もはや誰の種であろうと
受け入れてしまう淫蕩な躰に成り果てたことの証。
夜明けの光が格子の隙間から差し込む。
弱々しい曙光は室内を薄暗く照らし出す。
そこには凌辱の祭典を待ち望む人々と
供物として捧げられた戦乙女の姿があった。
囚人たちの嘲笑を浴びながら
トーレはゆっくりと瞼を閉じる。
これから始まる永劫の悦楽地獄に対して
抵抗する気力も持ち合わせていなかった。
◆◆◆◆◆◆
境内の苔むした廃屋に寝袋を敷き、囲炉裏を絶やさずに過ごす深夜。
突然、隣で寝ていたトーレが息を詰まらせて起き上がった。
古びた鳥居の木目には生命の経年の皺が刻まれ、
湿った土壁が夜露を含んでいる——
そこへ雨粒のように零れ落ちたのが、彼女の冷たい汗。
「……またあの夢か」
ハチは咄嗟にランタンを灯した。
オレンジ色の光が、
恐ろしい記憶に蝕まれたトーレの横顔をぼんやりと染める。
「地下施設で……檻に入れられた私の記憶」
掠れた声でトーレが囁く。
「毎晩、こうして蘇るのよ」
ハチは無言で彼女の背中を優しくさすった。
冷え切った肩胛骨が、硝子細工のように脆く感じる。
廃墟探索で汗をかく僕らはまさに現代版ジブリの冒険者——
などと、普段なら冗談めかす口も、今は噤まれている。
トーレが嗚咽を漏らし始めたときだ。
湿気を孕んだ空気が二人の距離を物理的に引き寄せるように、
ハチは自然と彼女の震える腕を包み込んでいた。
「怖がらなくていい」
その言葉には奇妙な自信が滲んでいた。
「理由は単純さ。僕も父さんがいなくなる悪夢をよく見る……」
ふわりとした埃の匂いと古い木材の芳香が混ざる中、
トーレの呼吸が徐々に落ち着いていくのがわかった。
「……ありがとう」
トーレが俯き加減に呟いた。
「でも……これじゃまるで赤ちゃんみたいで恥ずかしい」
「辛い気持ちに、年なんて関係ないよ」
ハチは彼女の手首を取り、そっと脈を確認した。
「鼓動が早いね。緊張が残っている」
「……あなたの方が平気そうね」
「僕は慣れっこだから」
苦笑交じりの台詞を吐き捨てた瞬間、
トーレが唐突にハチの襟首を掴んだ。
「慣れているって……どういうこと?」
問い詰める瞳には猜疑ではなく、哀愁の海が揺れている。
そこへ滑り込むように、
ハチはトーレの指をほどかず、むしろ指を絡ませた。
「じゃあ今夜は一緒にお願いしてみようか」
彼は囁いた。
「お互いの悪夢を蹴散らす儀式。眠りに落ちる前に——」
それは恋人への言葉というより、
祈祷師が災厄を鎮める儀式を約束する口ぶりだった。
トーレは黙って肯くしかない。
「昔、父さんが教えてくれたんだ」
ハチは囲炉裏の灰をかき分けながら言った。
「寝る前に悪いものを“追い出して”おくと効果あるってね」
「どんな方法で?」
「こういう風に──」
彼はトーレの両手を組み合わせさせ、
祈るように天に向かって差し上げた。
老杉の枝に吊るされた提灯がゆらりと揺れ、
橙の炎が薄衣のように彼女の肌を撫でる。
「まず心臓の鼓動を聞くんだ。僕のを」
トーレの右手がハチの胸元へ導かれる。
鍛えられ、小学生離れした胸板と、規則正しい脈拍の波。
そこに自分の不安が吸い込まれるような感覚があった。
「次は呼吸を合わせる。胸郭が上がったら息を吸い──」
トーレは言われるまま追従し、
焚き木の煙の匂いを肺一杯に吸い込む。
湿り気を帯びた空気が喉の奥で絡まり、奇妙な酩酊を生んだ。
「最後は……」
ハチが囁く声が低く掠れた。
「相手の体温を借りる」
彼はトーレの頬に掌を添え、そのまま額をくっつける。
暖簾の垂れ幕のような彼女の髪がハチの顔にかかり、
途端に花のような匂いが籠城した廃社に立ち昇った。
トーレの睫毛が震え、瞬時に目を逸らした。
羞恥だろうか。あるいは異なる感情か。
いずれにせよ、
“儀式”と称しながら行われる行為は明らかに境界を超えていた。
「これで十分?」
トーレがか細く尋ねた。
唇が触れそうな距離だ。
「……いや、まだ足りない」
ハチは答えない代わりに彼女の襟を緩め、
「ここにも憑いた影がいる」
と言った。
シャツの隙間から鎖骨が露になり、冷たい夜気が肌を刺す。
ハチの唇がその凹凸をなぞると、
トーレの背筋が弓のように反った。
「ひゃっ」
湿り気を帯びた吐息が彼女から漏れ、
漆喰のひび割れに吸い込まれて消える。
「おまじないみたいなものだよ」
ハチが噛み締めるように言いながら首筋を舐めあげる。
塩気と汗と森の樹液の香りが混ざり合い、
トーレの理性は崖っぷちで転がる岩のようにぐらつき始めた。
「でも……儀式なのに、すごくドキドキする……」
「そう感じるなら成功だよ」
ハチの言葉は冷静だが、その腕は熱くトーレの腰を捉えている。
湿った神木の床板がギシリと鳴いた。
まるで時代錯誤の舞踏会へ招待された男女のワルツのように。
「あなたの……熱が伝わってくる」
トーレが囁く。
「それで私も熱くなってきて――怖いのに……嫌じゃない」
彼女の戸惑いに潜む甘美な疼きは、
縞模様を描きながら胸へ、下肢へと伸びていく。
トーレは自らの鼓動が狂喜で跳ねる音を聞きながら
自分が既に別の意味で彼に囚われつつあることを悟った。
「ハチ……私……」
「言わなくていい」
ハチが遮る。
「悪夢を払うためなら……どこへだって」
二人はそのまま崩れ落ちるように
苔むした板の上で静かに重なり合った。
朽ちた御幣の向こうには月。
祠の扉がわずかに開き、潮風のような湿りが通り抜ける。
トーレはハチの背中に腕を回した。
震えはもうない。
その代わり、別の震え——歓喜の予兆が指先を走り始めた。
「このまま……お願い。私を離さないで」
その要求は祈りであった。
そしてハチにとっては福音でもあった。
---
翌暁、焼け焦げた炭のような黎明の中で目覚めた二人には
確かに安堵の息があった。
悪夢は来なかったかどうかは重要ではなく
互いが確信を持って温もりを分け合えたという事実。
トーレはぼんやりとハチの髪を撫でながら
独り言のように呟いた。
「私たち……これからも続くの? こんな風に」
ハチは微笑んで答えなかった。
答えなくても分かる。それこそが現実なのだから。
廃神社の床には昨夜の甘露のような痕跡が残り
静かに蒸気となって立ち昇る。
誰にも邪魔されない聖域。
そこで初めて知った温もりは
これから幾度となく更新されていくだろう――
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
幾日か─────────
苔むした鳥居の柱が朝陽に濡れて銀色に浮かび上がり、
廃神社の奥殿にだけ不思議な聖域の気配が宿っている。
囲炉裏にくべた薪がぱちりと弾け、
湿り気を含んだ朝露が二人の間をぬるりと漂う。
ハチはランタンの灯芯をちょいと摘まみ上げながら
「うん? また夢遊病の時間か?」
囁く声はどこまでも剽軽なのに、指先は妙に慎重だ。
隣で寝袋を這い出したトーレが喉を詰まらせる。
長身の背を丸め、まるで溺れかかった子どものように喘ぐ。
金色の髪が額に張り付き、
軍服のジャケットは寝汗にしっとり濡れている。
「……またあの檻……鉄格子……分隊長の……舌が……」
声は震え、まるで刃物の錆が擦れるようだ。
ハチは眉ひとつ動かさず、
まず焚き火の灰を掻き分けて風向きを調整する。
「なるほどなるほどー」
口元に浮かべた笑みは道化師の仮面めいている。
「じゃあ今朝のお題は『悪夢祓い』だな」
ランタンの火を高く掲げた。
橙の円環が宙にゆらめく。
「原始的な方法だけど効くぜ? まず、恐怖の源を言葉にして外に出す」
トーレは泣きじゃくる子どもように「無理……」と首を振った。
記憶を掘り起こすことは即座に凌辱の肌ざわりを再生すること――
膣内の膨張感、皮膚を啄む爪の鋭利さ、胃袋へ注がれる生臭い精液の温度。
全身が粟立つ。皮膚一枚下で蛆虫の大群が蠢くようなおぞましさだ。
「無理でもやらなきゃ」
ハチは寝袋ごとトーレの肩を抱え上げ、膝に乗せた。
「ほら、僕を見て」
ランタンの光が二人の顔を炙る。
「今見えているのは僕一人だけだろ?
檻も兵士もいない。
ここは朽ちた廃神社で、僕ら二人っきり。
それで充分じゃないか」
声に込められた軽薄さの奥で鋼の芯が光る。
トーレは吸い寄せられるように目を伏せた。
熱く脈打つハチの心臓の音。
それは幼い猫が喉を鳴らすくらい無害で
毒蛇が鎌首をもたげるくらい鮮烈な引力を持つ。
「……檻……に…鎖で……繋がれて……」
言葉がぽたりと滴った。
「皆が……囃し立てながら……犯してきた……」
抑えた嗚咽。
ハチは彼女の後ろ髪に顎を乗せ、
首筋にそっと唇を寄せる。
「下衆どもの記憶なんか全部焦がしてやる」
焚き火の薪が轟と爆ぜ、夜明け前の闇が一瞬眩しく裂けた。
その閃光の中に過去の蛮族どもの影が滲み出る。
分隊長の歪んだ顔。
看守たちの涎。
鉄製のベッド。
消毒液の匂い。
ハチはトーレの耳朶を噛む。
「目を瞑れ。僕の声だけ聞いてろ」
「今すぐ……助けてほしい……」
トーレは初めて素直に懇願した。
その声音には母を探す迷子の色がある。
「あなたがここにいると感じさせてほしい……」
「了解」
ハチは囁くと彼女を抱き締め、唇をそっと啄む。
硬直していた肩が溶けてゆく感触。
まるで解けかけた雪の積層が川に変わる速度だ。
彼はトーレの服の裾に指を滑らせた。
布地の内側には汗で湿った皮膚が透けて見える。
冷たく濡れた腰に掌を当てれば、
そこは火山脈が流れる大地のように熱を帯びていた。
「怖い夢なら塗り替えるのが一番」
ハチは囁きながら手首を捻る。
シャツのボタンを二つほど外し、
鎖骨の上に指を這わせるとトーレの喉が反った。
「あ……っ…」
喘ぎとともに甘い震えが走る。
過去の傷を塞ぐ瘡蓋を破らずに触れることは可能なのか。
ハチの指先が問いかけるように鎖骨を辿る。
冷たい指紋が肌に食い込むと、
トーレの胸腔が大きく開いて新しい呼吸が始まった。
「その分隊長だって見た目だけは小洒落ていたけど」
ハチは皮肉を込めて笑う。
「こんな風に優しく抱かなかっただろう?
トーレは返事の代わりに指を絡ませてくる。
爪先を互いに絡める行為は、契りの儀式にも似て不穏だった。
汗ばんだ互いの掌の狭間で、
命が混ざり合うような熱が凝縮されていく。
「もっと……」
トーレが催促すると同時に、
彼女の脚が寝具の中で無意識にハチの腰を捉えた。
「君が求めるならいくらでも」
ハチは襟元から手を入れる。
柔らかい乳房の稜線に触れた瞬間、
トーレは小さく「ひぁっ」と啼いた。
指に吸いつくような柔肉は弾力を湛えているが、
その中心で屹立した乳首は酷使された痕跡の痛みを残している。
「痛むか?」
ハチは顔を上げて訊ねた。
「少し……」
トーレは肯定しつつも首を振る。
「でも止めてほしくない……」
ハチは慎重に重心を前に傾けた。
まるで重量級の捕虜を拘束するように。
そして唇で彼女の耳介を捕える。
「わかった。痛くないように徹底的に愛でてやる」
「愛でる」――その響きの荘厳さと淫猥さに、
トーレの大腿がピクリと痙攣する。
ハチは跪き、トーレの靴を脱がせた。
白いハイソックスには土と草の汁が沁みて汚れている。
その汚れを慈しむように丁寧に唇で吸い取りながら、
踝の腱から膝裏までを丹念に舐めあげる。
「ん……っ…それ……いや……」
トーレは上体を捩らせる。
冷たい舌の感触が皮膚の深い層を呼び覚ましていく。
「なんで『いや』?」
ハチは問いつつ踵を咥えたまま、
視線だけをトーレに向ける。
「綺麗になるのがイヤなのか?」
その一言が脊椎の中枢を突き抜けた。
快感と嫌悪の反作用が神経網を乱舞する。
檻での虐待――膣への注精、肛門への強姦――
それら全ては汚濁でしかなかったのに。
「綺麗って……そんな簡単な言葉で片付けるな……」
怒りまじりの呟きは自分への失望を煮詰めたものだった。
身体は悦びを求めて反応する。
檻では憎悪と共に与えられた刺激さえ、
今は愛情に置き換えられようとしている。
ハチはその逡巡すら愉しむように微笑み、
爪先をひと舐めしてから履き慣れた自分のスニーカーを脱いだ。
裸足になった足裏をトーレの足首に摺り寄せる。
「綺麗でシンプルな方が良い時もあるさ」
少年らしからぬ狡猾さを帯びた低い声。
同時に彼はトーレの腹の凹凸を確かめるように掌を置いた。
肋骨の下端で浅く踊る心臓の鼓動が掌に伝わる。
トーレはそれを拒まなかった。
むしろ積極的に胸郭を上下させている。
「ここで……感じるようになったのか?」
ハチが腹腔に指を沈ませる。
そこはかつて無慈悲な鞭や玩具で甚振られ、
痛みで硬く締め上げていた部位だ。
今はハチの指を迎え入れるように、
蜜壺とは別個の柔軟性を見せている。
「知らない……」
否定しつつも腰が微かにうねる。
肉感的な臀部の起伏が寝具の上に映る影を作り上げた。
「でも……あなただけ違う……」
言葉の途中で彼女は目を閉じた。
脳裏に再びあの監房が甦る。
軍靴の乾いた響き。
椅子の軋み。
誰かの罵倒と喘鳴。
だが目の前にはハチの腕。
粗暴さとは程遠い細くて温かな腕。
「忘れさせてあげる」
ハチは囁きながらトーレのスカートのファスナーを降ろす。
下着越しにも判る湿潤の気配が淡く立ち昇る。
檻で与えられた屈辱的な悦びとは違い、
これは彼女の本心から溢れ出るものだとハチは確信している。
「本当は怖いんだろう?」
ファスナーの金具を口に銜えたまま
挑発的な上目遣いで訊ねる。
「今のこの状況も。僕があの男と同じように豹変したら――」
トーレはぎゅっと目を閉じた。
眼球が干涸びてしまいそうなほど濃密な暗闇。
「……違う……と思う……」
その声は確信にはほど遠いが、希望としては充分な温度を持つ。
「試してみようか」
ハチは下着の縁に指を掛け、僅かに捲くり上げる。
蜜濡れの布地が皮膚に貼りつく微細な音。
それを聞いた瞬間、トーレの膝が引き攣る。
ハチは即座に身を退けた。
「怖ければ引っ込む。そうでなければ進めばいい」
まるで碁盤に石を置くように静かな宣告。
トーレの脚がゆっくりとハチの方へ伸びる。
絡み合うつま先が合図のように擦れ合った。
それを了解の印と読み取ったハチは
彼女の下肢に覆い被さっていく。
「ここから先は君が舵を握るべきだと思うんだけど」
ハチは囁く。
まるで秘密基地の設計図を提示するかの如き軽妙さだ。
「……私は……」
トーレは囁き返す。
言葉は半端に途切れ、
唇の端にかかる唾液が夕焼けを映す水面のように煌めく。
「強くなりたいの。だから利用できるものは全て使う」
ハチは皮肉っぽく口角を上げた。
「随分と合理的。でも人間って計算できない部分の方が強いはずだけど」
「それが今朝のレッスン?」
トーレの声音に嘲りと羨望が混ざり合う。
両足を交差させ、ハチの胴体を挟み込む形で固定する。
「そうかも」
ハチは肩を竦めると、解れきった蜜壺に自身を埋め込んでいく。
檻の中で何度も弄ばれた肉の狭間が少年の存在を迎え入れる。
トーレの背が弓なりに仰け反る。
冷たく濡れた布地越しに爪先が畳を引っ搔いた。
「あ……っ…こんなの……すぐに……」
口走りながらも彼女は己の体内を探るように腰を揺らす。
「急がないほうが楽しめるよ?」
ハチはわざと引き抜きかけてから浅瀬を行き来する。
肉襞の隅々まで舌で洗うような執拗さ。
トーレの背筋がぶるりと震えた。
「焦らすな……」
苛立ちとも陶酔ともつかぬ呻き声。
「……分隊長は容赦なかった……」
「比べる必要ある?」
ハチは問いつつ最奥に到達させる。
杭を打つような挿入ではなく
湖面を掬う匙のように静かで確かだ。
トーレの眦から涙が溢れた。
「……違う……全然……」
その涙腺の決壊が鍵となったかのように
彼女の肢体が全面降伏を表明する。
太腿がハチの腰を締め上げ、腕が首を巻き込み、
爪先が背中の腱を柔らかく押さえた。
「ほら」
ハチは勝利宣言のつもりか淡々と言う。
「痛くないだろう? 苦しまないだろう?
それでも僕に従属してる」
「従属じゃない……」
トーレは首を振りながらも
その動きだけで膣壁を刺激してしまい
腰骨が砕けるような悦感に呑まれた。
「じゃあ何なんだ?」
ハチはトーレの顎を掴み上げて目を覗き込む。
「愛?」
彼女は即答できず唇を開けたまま固まる。
「わからないなら探せばいい」
ハチはトーレの臀部を支え直し
腰の打ちつけ方を強める。
乾いた皮膚の摩擦音と水滴の混じった蜜音。
廃社の静寂を裂くそれらの共鳴が
過去の拷問音響を上書きしていく。
トーレの声帯から零れる甲高い音階には
既に隷属の陰翳は薄れている。
「あぁ……っ…だめ……止まらない……」
制止と求心の相反する叫び。
ハチはそれを愉しむかのように抽送を細分化する。
「止める必要ない」
ハチの囁きは夜明け前の風が松針を震わせるかのごとく
危うい穏和さを纏っていた。
「君は檻に閉じ込められてるんじゃない。
自由に選択できるんだ」
トーレの膣内が脈打った。
枷を外された猛禽が初飛翔するような解放感。
彼女は無意識にハチの髪を指で梳く。
柔らかな毛先が掌の上で踊り
その感触に安堵と昂奮が綯交ぜになる。
「自由なんて……欲しくなかったのに……」
嘆きまじりの呟きはすぐに喘ぎに呑み込まれた。
ハチが奥底にある痼りを正確に穿つからだ。
かつて道具で嬲られていたその場所は
今や愛の標識へと変わろうとしている。
「後悔するのが君の権利だ」
ハチは微笑む。
その口元には悪党めいた笑窪がある。
「でも一度受け入れたら簡単に戻れないぞ?」
トーレの頬が朱に染まり、頤が前に突き出る。
快楽の閾値を超えつつある印だ。
「いい……戻れなくなってもいい……」
震える声が禁忌を承諾する。
ハチは大きく息を吸い込み
彼女の膝裏を抱えて体重をかけた。
杭打つ音は徐々に加速し
林檎の樹脂を削るかのような粘稠な音へと変貌する。
トーレの内部器官が彼の輪郭を覚える速さに驚愕するほど。
「ハチ……私…来る……」
トーレが懇願にも近い警告を発したとき
ハチの背中が鋭く戦慄いた。
「一緒に行くか?」
問いながら抽送を止めず、逆に螺旋状に捏ね上げる動きへと変じる。
「あぁっ……!」
トーレが背骨を引き攣らせながら頂点に到達した瞬間
ハチは深く体内へ放った。
熱塊が爆ぜ、二人の脊椎を一直線に貫通していく。
一瞬遅れてトーレも再び絶叫。
喉の奥から迸った叫びは獣の咆哮のようで
廃社の梁を揺るがした。
結合部から流れ落ちる液体が畳に小さな沼を形成する。
夜明け前の藍色の空気に混ざる牡臭と牝臭。
汚辱という形容詞だけでは
処理しきれない芳香が空間を支配していた。
息を荒げながらもハチはトーレの頬を拭う。
汗と涙で汚れた肌に指を滑らせ
「まだ怯えてる?」と低く訊ねた。
トーレは首を横に振り
残った理性の欠片で必死に答える。
「……大丈夫……だと思う……」
「よかった」
そう言って立ち上がりかけたハチの袖口を
トーレの指がぎゅっと握り締めた。
「待って……もう少しここに……」
不安の滲む瞳がハチを見上げる。
「安心しろ」
ハチは彼女の手を握り返し
「悪夢を祓った僕らに昨日も明日もない。
唯、只管、今日を生きるだけだ」
仄明るい東雲の光が境内の梢を透かし
朝霧の結晶が粉砂糖のように舞い降りてきた。
それは永遠ではない今日の開始を告げる鐘の音にも似ていて――
トーレはようやく本当に息をつくことができた。
* * *
その後の数週間は
まるで同じ一日を何度も繰り返す蜃気楼のようだった。
ハチは毎晩トーレの悪夢を聞き、
優しい言葉と大胆な接吻で塗り替え続けた。
トーレの記憶の中の惨劇は日に日に色彩を失い
代わりにハチの肌の温もりと唾液の味と
生殖器同士の馴染みやすさが克明に刻まれていく。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
夜明け前の湿気は蜘蛛の巣のように指先に絡みつく。
朽ちかけた拝殿の軒下でハチは膝を抱えており、
その視線の先にはトーレの寝顔があった。
長い睫毛が震えるたびに、彼女の奥底で何かが蠢いている。
まるで胎内で孵化を待つ妖蟲のようだ。
「また悪い夢か……」
ハチは溜め息をついた。
隣で寝袋を押し潰すトーレの身体は熱を帯びており、
腋の下や秘所からはかすかな水音すら聞こえてくる。
――昨晩の余韻がまだ続いているのだ。
彼女の指が虚空を彷徨う。
まるで見えない敵に剣を振るう騎士のように。
ハチはそっとその手を掴んだ。
掌に伝わるのは灼けつくような熱と微かな震え。
「安心しろ。今日は俺が付き添う」
そう囁くとトーレの表情が和らいだ。
だが次の瞬間、彼女の口元から掠れた呻き声が洩れる。
「……いや……見ないで……」
どうやら夢の中でも彼女は誰かに辱められているらしい。
ハチは寝袋に潜り込み、彼女の背中にぴったりと身体を寄せた。
首筋に鼻先を押し付け、荒くなった息を嗅ぐ。
甘い体臭と汗の残り香――しかし今はそれに混じって
自分の匂いがしっかりと染みついていることに気づき、
妙な充足感を覚えた。
「おいトーレ。起きてくれ」
優しく頬を叩くと彼女は跳ね起きた。
翡翠の瞳に浮かぶのは恐怖ではなく混乱だった。
「ああ……ハチ……?」
震える指で周囲を探る彼女の額に、ハチは自分の額を重ねた。
熱い。まるで噴火寸前の火山のようだ。
「大丈夫か? 目の焦点が合ってないぞ」
トーレは何度も瞬きをしてから
ようやく現実認識を取り戻したらしい。
安堵のため息と共にハチの胸元に顔を埋めた。
柔らかい黒髪が肌をくすぐる感触が心地よい。
「檻に戻されたのかと思った……」
彼女は蚊の鳴くような声で言った。
ハチは彼女の腰に腕を回す。
剥き出しのウエストには痣の名残が斑点のように広がっていて、
その下の曲線は夜のうちに充分すぎるほど味わっていた。
それでも飽きないどころか飢餓感さえ覚えてしまう。
これが恋か欲望か――曖昧な境目が快くも煩わしい。
「ここは檻じゃない」
ハチは言い聞かせるように囁いた。
「廃神社だ。管理人もいない。誰も見ていない」
トーレが顔を上げる。
蒼白い頬に血色が戻り始めているものの
唇の端はかすかに震えている。
「本当に……?」
ハチは応える代わりに彼女の肩を抱き寄せて唇を奪った。
最初は躊躇いがちだったトーレもすぐに応え
舌先が絡み合えば熱帯雨林の沼地のごとく密度の濃い交換が始まる。
唾液が糸を引く刹那に彼女の呼吸が跳ね上がり、
その反応に呼応するようにハチの股間にも甘い疼きが走った。
唇を離すとトーレは濡れた睫毛をしばたたかせた。
「……怖いけど……したい」
矛盾する二つの衝動が混在した声音には
以前のような虚勢の殻はほとんど見えない。
ハチは彼女のブラウスのボタンを外した。
夜通し睦み合った胸元には赤い印が咲き乱れている。
新しい花弁を重ねるように舌を這わせると
トーレは喉を反らせて呻いた。
「あ……っ…ハチ……だめ……」
抵抗とも懇願ともつかぬ声色。
実際彼女の指先はハチのシャツを強く掴んでいる。
拒否ではない。単なる反射だ。
「何がダメ? ちゃんと見せて」
そう言うとハチは彼女の足首を捕まえ
力任せに押し広げた。薄桃色の下着には既に染みができていて
その中央を親指で軽くなぞっただけで新たな液体が糸を引く。
「はぅ……っ」
トーレが声を噛み殺すように喉を鳴らす。
羞恥と悦びが渦を巻いているのが
紅潮した耳朶から明白にわかる。
「嘘つきだなトーレは」
ハチは意地悪く笑って彼女の腰を抱え上げた。
羞恥責めと呼ばれる技法に似ているが
そこには陵辱の棘ではなく
ただ純粋に愛玩を楽しむ子供じみた残酷さがある。
「だって……あんな風に見つめられたら……
身体が勝手に……」
トーレは俯いたまま唇を噛む。
まるで教科書に載っていない公式をこっそり盗み見る劣等生みたいに。
ハチは彼女の股間に顔を埋めた。
甘酸っぱい饐えた香りが鼻腔に流れ込み
舌先で秘裂をなぞればさらに芳醇な果汁が溢れてくる。
「これは君が作った果実だ」
そう言って唇で吸い上げるとトーレの腰が大きく跳ねた。
「あぁっ! だめ……気持ち良すぎて……壊れる……」
悲鳴のような絶唱はすでに理性の堤防を突破している。
トーレは自分で膝を抱えてM字型に足を開き
濡れそぼったそこを惜しげもなく披露する形になっている。
ハチは満足げに見上げると自分のベルトを緩めた。
トーレの視線が釘付けになっているのが可笑しくもあり嬉しくもある。
檻では目隠しをされていたらしいから
見せる行為自体に興奮するのかもしれない。
「よく見えるだろう?」
わざとゆっくりズボンを下ろす。
トーレの瞳孔が開ききったのが照明の少ない室内でもわかった。
彼女がこくんと頷く仕草は妙に幼く
そのギャップが更なる征服欲を煽る。
ハチは一思いにトーレを組み敷き
入口をこじ開けるように侵攻を開始した。
「いっ……あ…!」
肉ひだが押し開かれ
収縮する粘膜と圧倒的な質量が衝突する感覚。
トーレの爪が畳に食い込んだ。
しかし拒絶ではなく寧ろ招き入れる仕草に近い。
「怖くないか?」
問いかけながら律動を始める。
最初は慎重に探る動きだったが
すぐにトーレの反応を探知して
彼女の弱点を集中的に抉るように変化する。
「あ……あ…怖くなんかない……」
喘ぎの合間に彼女は呟いた。
涙目になりながらも挑発的な笑みを浮かべている。
――まるでこの肉体の愉悦を手中に納めるゲームに没頭しているみたいだ。
ハチは彼女の腰骨を掴んでより深く入り込む。
トーレの内部は既に完全適応していて
まるでオーダーメイドの鞘のように吸い付いてくる。
「すごいな……こんな風に馴染むとは思わなかった」
率直な賛辞にトーレは照れたように目を逸らした。
だが身体の方は素直で
ペニスを根元まで飲み込んでなお貪欲に搾り取ってくる。
「私が……アナタのカタチに変わっていく……」
その声には畏敬すら込められていた。
結合部から卑猥な水音が響き、
オスに貪られ染め上げられるメスの悦びが脳を蕩けさせる。
トーレは自ら腰を浮かせ
より深い挿入角度を探るように悶え始めた。
「んぁっ♡……もっと欲しい……」
卑猥な要求が彼女の口から自然に漏れ出す。
ハチは応えるために膝立ちになり、彼女の脚を肩に担ぎ上げた。
「こうか?」
より垂直に近い角度で突き刺すと
トーレの瞳孔が限界まで開かれた。
彼女の下腹部がかすかに膨らんでいるのがわかるほど
深部まで届いている証拠だ。
「あ――! お腹の……奥…当たってる……!」
悲鳴じみた歓喜の声。
あまりの快感に平衡感覚を失ったのか
トーレは上半身をのけ反らせ畳に頭を打ち付けた。
ハチは慌てて上体を支え直す。
こんな極限状態でも相手を傷つけたくないという独占欲が働いたのだろう。
「痛くなかったか?」
トーレは首を横に振りながらも
下半身では別の意志を持っているかのように
ハチを引き込む蠕動運動が続いていた。
「痛いのも……好きかも……」
危険な兆候だ。依存症は痛みも悦楽と誤認する。
それでも止める気はない。寧ろ深めたくなるのは
やはり自身の未熟な支配欲によるものか。
ハチはトーレの両腕を掴み
万歳させる形で彼女を仰向けに固定した。
こうすれば視覚的にも精神的にも逃げ場がなくなる。
「まだ行けるよね?」
確認というより通告に近い口調で言えば
トーレは恍惚とした表情で肯いた。
この瞬間彼女は完全に所有物になった気がする。
抽挿を再開しながら、ハチは彼女の唇に指を伸ばした。
唾液で濡れた口腔へ強引に侵入させると
トーレは言われるまでもなくしゃぶり始める。
「ふぇ……ん…うん♡」
甘く啜る水音が結合部の摩擦音と重なり
寝室を淫靡な多重奏で満たした。
ハチの剛直が絶頂へ導こうとする動きに移ると
トーレもそれに合わせて呼吸を早め
全身の筋肉を弛緩させた後に突然収縮させる。
膣壁が精液を絞り尽くさんばかりの吸引力だ。
「イくぞトーレ……一緒に……」
彼女は狂おしい声で「きてっ♡」と叫び、背中を弓形に反らした。
その刹那、ハチも堰を切ったように熱塊を放出する。
「……っ♡♡……っ♡♡い゙っ、あっはぁっ♡」
精液が注がれる間にも彼女の内部は休まず脈動し
まるで最後の一滴まで搾り取ろうとする生命体のようだ。
トーレ自身もその奔流を受け止める快感に身悶えながら
意識をホワイトアウトさせていった。
霧が晴れたのは午前十時頃だった。
ハチは散策と偽って森林を歩き回っていたが
明らかに不審な気配を感じ取り帰還する。
拝殿に戻るとトーレは衣服を整え終わったところで
鏡の前で乱れた髪を直していた。
昨夜までの鬱屈した表情は幾分和らいでいるが
依然として疲労の色は濃い。
「異常なしだよ」
ハチが軽く報告すると
トーレはわずかに眉を寄せた。
「本当に?」
疑っているわけではなさそうだ。
むしろ警戒心の表れだろう。
かつて監視カメラとマイクロフォンに囲まれた生活を送っていた彼女にとって
「異常なし」はあり得ない祝福なのだ。
「信用してくれよ」
苦笑しながら肩を叩くとトーレは不安そうに見つめてくる。
……或いは、何かを察していたのか。
管理局員が廃神社を包囲し、投降を呼びかけてきても、
彼女は取り乱すこと無く、ハチに礼を言うと大人しく捕まった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
霧煙る深夜の港湾地区。
錆びたクレーン群の間を、月光が刃のように切り裂いている。
波止場に佇む一人の男──八郎──は、
三十年選ぶ間もなく生きてきた人生を思う。
正義に失望した子供時代から修羅の道を選ばざるを得ず、
今や組織内で“鬼”の二つ名で畏れられる存在となっていた。
「時代遅れ」と囁かれようとも、
この拳とこの魂は紛れもない現実であった。
「舎弟どもが怖気づくからこそ、俺一人で十分だ」
埠頭に漂う魚臭が鉄錆の匂いと混ざり合い、
腐った海藻のように男の鼻腔を襲う。
目の前には、敵対組織の下部構成員たちが
虎視眈々と獲物を狙うハイエナのごとく集っている。
「ようし、まずは挨拶代わりだ」
八郎の巨体が疾風となり躍動した。
右ストレートが放たれればコンクリート塊が爆ぜ、
左フックが閃けば街灯が折れる。
彼の膂力は物理法則を嘲笑うかのようで、
一撃ごとに敵は紙屑のように宙を舞う。
「弱すぎる……この程度か!?」
嘲笑と侮蔑が彼の喉から漏れるが、
内心では一抹の空虚感が宿っている。
かつて父親と夢を語らい、彼女と睦み合っていた頃の熱量が
最早自分の中に無いことを悟っていた。
突如背後から忍び寄った刺客の刃先が八郎の皮膚を切り裂いた。
鮮血が黒衣に飛び散る。
「馬鹿野郎が……油断などするか!」
怒号と共に振り向きざまに蹴りを入れる。
刺青だらけの胴体がくの字に折れ曲がり、
地面に崩れ落ちる音が乾いた木霊を奏でた。
やがて屍累々となる埠頭で、
八郎は高揚感と喪失感が交錯する奇妙な心境に浸る。
確かに一人で組織を壊滅させることはできた。
だがそれは同時に、彼が孤高の存在であることの証でもあった。
「終わりか……くだらねぇ」
返り血で真紅に染まったジャケットを脱ぎ捨てると、
夜の海へと歩いていく。
月光に照らされた海面は銀色の鏡のように静まり返り、
孤独な男を映し出していた。
「次は何を目指せばいい?」
答えは波音とともに掻き消える。
それでも彼は歩き続けるだろう。
三十年貫いた信念が折れるまで、
あるいは新たな灯台が現れるその日まで。
潮の匂いはいつも古い血の匂いと区別がつかない。
港湾地区のフェンス際に積まれたタイヤ山の隙間から、
潮風が生暖かく吹き込んできて八郎の鼻を突いた。
「やっぱ俺みたいな化石が残るとこじゃねえな」
吐き捨てるような独り言が鋼板に反響する。
三十年近く揉まれてきて学んだことがある。
正論は拳より脆いということと、
恩義だけが唯一背負って死ねる荷物だということ。
どちらもこの十五年のITの波に乗れずに取り残されてしまったが。
「おいハチ!」
後ろで兄貴分が呼ぶ声が聞こえた。
八郎——ハチと呼ばれた男——は無視して歩みを進める。
三十二年前からずっとそうしてきたように。
「待ちやがれってんだよ! 親父さんが呼んでる!」
ようやく足を止める。
振り返ると経済学部崩れの愚物が汗をかいて追いかけてきていた。
スマホ片手に必死の形相だ。
「何だ」
「北洲連合がブツを流したんです! それも港湾ですよ!」
「港湾なら俺が出るしかないだろう」
八郎は踵を返すと埠頭に向かって歩き出した。
背後で経済学部崩れが抗議の声を上げるのが聞こえるが無視する。
「ああ畜生、やっぱり俺は古臭いな」
港湾エリアは薄暮の中に沈んでいた。
工場の排気筒から立ち上る蒸気が霞となって水平線を遮断する。
そんな中に人影が一つ。
「久しぶりだなハチ」
意外な声だった。
月光に照らされて立っていたのは、
戦闘機人——トーレだった。
八郎の表情がこわばる。
まさかここで再会するとは。
「お前——なぜここに」
「あなたに会いたくて」
トーレが一歩踏み出すと、
その後ろから麗しい影が現れた。
10代半ばくらいの女の子だ。
金髪碧眼。間違いなくトーレの子供。
「娘か?」
「ええ。あなたの子よ」
八郎は呆然とした。
忘れもしない廃神社のあの日々のこと。
「研究所のデータベースに不正アクセスして調べたの。
あなた以外ありえない」
トーレの目は真剣そのものだった。
八郎は溜息をつく。
「俺なんかに関わると碌なことがないぞ」
「わかってる」
トーレが娘の肩に手を置く。
「でも、この子のためにも知ってほしかった」
トーレに似た美貌、しかし、目付きが鋭いというか、強い。
その瞳に八郎は自分を見つけた。
かつて見た夢と挫折と孤独が溶け込んでいる。
「親父になれるかな……」
八郎が呟く。
「なれるわ」
トーレが微笑む。
「だってあなた、本当は優しいから」
その言葉に胸が締め付けられるような感情が湧いた。
忘れていたはずの優しさというものが
まだ心の奥底に沈澱していたのだろうか?
「よぉ八郎さん! どうしたんですかそこで立って!」
背後から舎弟たちの陽気な声が上がった。
どうやら気づかずに話していたらしい。
「何でもない」
八郎はトーレたちに小さく頭を下げると背を向ける。
「また後で話をしよう」
そして舎弟たちと合流するべく足早に歩き出した。
背中で感じるトーレと娘の視線に、
かつて味わったことのない種類の緊張が走った。
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