※この作品はR-18です。

ダークエロ短編集3   作:カード読み込み

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シエラⅢ事変終結・クリス・ミミ

 一夜が明けたシエラⅢのロッジ内に灯りが漏れている。

 薄暗い室内ではバルタザールの荒々しい吐息と、

 若すぎる犠牲者の嗚咽が混じり合っていた。

 床に敷かれた毛皮の上に組み敷かれたクリスの黒髪が乱れ、細い肢体が苦悶に波打つ。

 

「あ……くぅ……やめて……お願いします……」

 

 哀願の言葉は叔父の耳には届かない。

 代わりに返ってくるのは乾いた笑いだけ。

 

「ふっ……まだそんな生意気な口が利けるのか」

 バルタザールの巨大な剛直が無慈悲に尻穴を探るように往復する。

 濡れそぼった蜜洞は明らかに迎え入れようと蠢いているのに、

 最後の一線だけはまだ踏み越えられない。

 かすかな抵抗感がもどかしいほど二人の間を隔てていた。

 

「安心しろ、すぐにお前も悦ぶようになる」

 

 叔父の掌が無造作に臀部を鷲掴みにする。

 すでに幾度となく犯された窄まりがひくついた。

 

「おじさま……そこは……もう……」

 

「もう? 何だ? 言ってみろ」

 意地悪く問い返すバルタザールの声音には愉悦が滲んでいる。

 クリスの唇が微かに震え、

 

「もう……慣れてしまいました……だから……痛くないのです……」

 

 告白した瞬間、頬が火照る。

 認めてしまったのだ──排泄器官を使って快楽を拾うことを。

 その屈辱に似た昂揚こそがバルタザールの狙いだった。

 

「ほう? ならばもっと喜ばせてやらねばな」

 

 太い指が肛門を左右に押し拡げる。

 紅く充血した粘膜が覗き、滴り落ちる愛液が玉になって床に落ちた。

 バルタザールは自身の尖端を、容赦なく押しつける。

 

「んっ……うぅ……!」

 

 腸壁越しに感じる圧倒的な質量。

 理性の皮一枚で保たれていた均衡がいとも容易く崩される。

 メリ……ゴリッと音が響きそうなほど肉竿が滑り込み、

 クリスの下半身が跳ね上がった。

 

「ひぃぃっ♡♡!!」

 

 全身に電流が走るような衝撃。

 腹腔深くまで埋め込まれた灼熱が脈打つたび、

 絶叫にも似た嬌声が喉を裂く。

 もはや苦痛ではない。

 純粋な肉悦だけが思考を侵蝕していく。

 

「素晴らしい……完璧なケツマンコじゃないか」

 バルタザールの唇が耳殻を舐め上げる。

「ここを使えばヴァギナなんかいらない。

 俺専用の便器になれ」

 

 侮辱的な言葉すら今は甘美な囁きに変わる。

 クリスの脚が自然とM字に開かれ、

 無意識に肛門を突き出す恰好になった。

 バルタザールの腰使いが加速する。

 

 パンッ! パンッ! パンッ! 

 

 湿った肉同士がぶつかる音が室内に響く。

 前立腺を削り取るようなピストンにクリスは白濁の糸を引いて泣いた。

「いやぁぁ♡止めてぇ……なのに……なんで……感じちゃうのっ……」

 

 矛盾した台詞を紡ぐ口元は半開きで涎を垂らし、

 目は虚ろに宙を彷徨う。

 処女喪失寸前のヴァギナからは

 淫蜜が止めどなく溢れ出し、褥を濡らしていた。

 

「いいぞ……堕ちろ……このケツでイけ!」

 

 バルタザールの抽送が更に速くなる。

 同時に処女膣に右手の人差し指と中指が挿入され、

 内部でV字を描くように掻き回す。

 過敏な痼りが弾かれると、クリスの背中が弧を描いて仰け反った。

 

「ああああぁっ♡♡♡だめぇぇぇ!!」

 

 ガクガクと痙攣する四肢。

 腸管が不随意に収縮し、

 巨根を搾り取るように締め付ける。

 バルタザールは逆らうことなく射精を解放した。

 

 ドクッ! ドクッ! ドクッ!! 

 

 熱い飛沫が奥の奥まで満たしていく感覚。

 同時にクリスの蜜壺から透明な液体が噴出し、床板を穿つ。

 絶頂の証として潮が迸る。

 

「くっ……すごい吸いつきだ……」

 バルタザールが呻きながら身を震わせる。

 それでもなお固さを失わないペニスは

 萎えた様子など皆無だった。

 

「次はどうしてほしい? 

 お前の口で掃除するか? 

 それとも──」

 

 囁きかける途中で、クリスの腕が伸びてくる。

 細い指先が恐る恐る彼の胸板を這い上がり、

 首の後ろに絡みつく。

 

「まだ……もっと……ください……

 おじさま……いっぱいちょうだい……」

 

 初めて自分から求めた声は陶酔に濡れ、

 舌足らずで官能的だった。

 貴族令嬢の仮面は剥ぎ取られ、

 ただの牝と化した肉体だけが残った瞬間だった。

 バルタザールの笑みが残忍さを増す。

 

「上出来だ……本当に愛らしいな」

 汗に濡れた黒髪を撫でながら囁く。

 

「ならば褒美に……こちらも育ててやろう」

 

 左手が処女膣をまさぐり直す。

 中指が浅く出入りする度に膣壁がざわめき、

 新たな潤みを増す。

 秘裂が完全に熟れ切るのは時間の問題だった。

 

「でも……怖いんです……」

 小さな声が漏れる。

 処女喪失の恐怖は消えていない。

 けれども肛門深くで疼く快楽の残滓が

 それを凌駕するほど甘美なものへと変貌させていた。

 

「心配するな……そちらは追々だ」

 バルタザールの唇が耳朶を噛む。

「まずはこのケツで完璧に仕上げてやる……」

 言い終わるや否や、再び猛然と腰を沈めた。

 

 グポッ……グヂュ……ズチュ……

 

 卑猥な摩擦音と共にクリスの背がしなり、膝がガクガクと揺れる。

 腸管全体が性感帯と化し、

 どんな些細な蠕動さえ絶頂へ導く起爆装置になっている。

 

「んああぁ♡♡♡♡イってるっ♡ずっとイってるのぉ♡♡♡」

 半狂乱の悲鳴の中にも明らかな喜悦が混じる。

 バルタザールは腰を捻るように回転させ、より深く穿とうとする。

 突然彼が動きを緩めた。

「そうだ……今日のお楽しみはまだ終わりじゃない」

 

 そう言うと、ベッド脇から金属製の器具を取り出した。

 U字型をしたそれは内部に螺旋状の突起を備えた淫具だった。

 見るだけで目的を察したクリスの眉間に皺が寄る。

 

「それ……嫌です……怖い……」

 だが拒絶は許されない。

 バルタザールは慣れた手つきで肛門を広げると、

 冷たい器具を挿入し始めた。

 ギュウゥゥ……という嫌な音と共に括約筋が押し拡げられ、

 内部に押し込まれる異物感。

「ひっ……!!」

 

 奥深くまで差し込まれた器具から

 ゆっくりと螺旋が回り始める。

 無数のイボが腸壁を優しく掘削するかのような快楽。

 クリスの股間から堰を切ったように愛液が噴出した。

 

「いやぁぁぁ♡♡♡こんなのっ♡ダメェ♡♡♡♡」

 拘束具のような役割も果たし、

 腰を捩って逃れることさえ許されない。

 バルタザールの指が処女裂を抉りつつ、

 乳房も揉みしだく三重の責め。

 耐え難い悦びの嵐に飲み込まれ、

 

「やだぁ♡♡♡もうイキたくないっ♡♡♡♡」

 叫びながらも潮を撒き散らす。

 バルタザールは器具の操作盤を弄り、

 

「どうだ? これに飽きたらいよいよヴァージン開通か?」

 悪魔のように囁く。

 

 クリスの理性はもはや砂城のように脆く崩れかけていた。

 器具が暴れ続ける肛門と指が乱舞する処女膣で挟まれながら、

 唯一答えられる言葉は一つだけだった。

 

「好きにしてください……おじさまの……好きなように……」

 涙に濡れた瞳はもう何も映していない。

 そこにあるのは肉の喜びに酔い痴れる牝の顔だけだった。

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 薄暗がりのシエラⅢロッジ。

 汗にまみれたクリスの華奢な体躯がバルタザールの膝上で踊る。

 結腸奥深くまで抉る巨根に翻弄されつつも、

 強引に奪われる唇は抵抗の余地もなく受け入れる。

「んぅ……っ♡♡」

 漏れ出る喘ぎは哀れさより媚態に近い。

 唾液が零れる隙間もないほど密着した唇。

 叔父の舌先が乙女の口腔内を隅々まで探り尽くす。

 拒もうとする意思はすぐに甘美な蹂躙に溶かされる。

 

(ああ……こんなキス……信じられない……)

 

 理性は拒絶しているはずなのに、

 細い腕はバルタザールの首に巻きつき離れまいとする。

 処女膣からは絶え間なく蜜が滴り続け、

 極太の肉塊を咥えこんだ尻穴は従順に蕩け絡みつく、

 

「ふぅっ……クリスティーナ……お前の体は嘘をつけぬようだな」

 嘲笑混じりの吐息が耳朶に触れる。

 指一本触れられなかった唇が

 ここまで深い屈服の象徴と化してしまうなんて。

 羞恥より快楽が勝る。

 

 グリュリュッ……と腸奥をえぐられる。

「~~~~ッッ♡♡♡!」

 声にならない悲鳴が叔父の口内で吸い込まれる。

 唇が塞がれたまま絶頂を刻まれる恍惚。

 爪先がピンと伸び切る。

 

「ぷぁっ♡……はぁっ……んっ……」

 ようやく開放された口から流れ込む酸素すら甘い。

 潤んだ漆黒の瞳には悦楽の涙が滲む。

「おじ……さま……」

 

 敬称を呼ぶ声は媚びるように掠れていた。

 バルタザールの指先が柔らかい下腹部を撫でる。

 子宮の真上を円を描くように擦れば膣壁が蠢くのが分かる。

「ここも準備万端だな……そろそろいいだろう」

 宣告に震えるクリスの体。

 畏怖と期待がないまぜになった戦慄。

「ゃっ……待ってくださっ……」

 

 懇願は無意味だと悟っていても言わずにはいられない。

 叔父の巨体が覆いかぶさり

 ついに秘園へ楔が添えられる。

 入口を探る鈍い感触。

「大丈夫だ……全部受け入れてくれるさ」

 優しい言葉とは裏腹に獰猛な剛直が一気に押し入る。

 

 メリィィ……ブヂィッ!! 

 処女膜断裂の音が鼓膜に響く錯覚。

 

「あ゛あぁぁぁああっ!!」

 鮮烈すぎる疼痛。

 破瓜の赤がバルタザールの腿を染める。

 しかし痛み以上に凄まじいのは

 内臓全てを押しひしげられる圧倒的存在感。

 脳髄に火花が散る。

「くっ……狭いが……よく締まる……やはり名器だな」

 

 クリスの両足を肩に担ぎ上げる体勢で

 更なる侵入を目論む男。

 限界を超えそうに張り詰めた結合部。

 苦悶に歪む愛くるしい顔に口づけを落とす。

 舌を挿し入れ口内を舐りながら腰を使う。

 上下左右からの同時攻め。

 

「んぐぅっ♡♡」

 キスの窒息と破瓜の痛みと、異物に征服される被虐快楽。

 相反する感覚全てが混然一体となり

 新たな境地へ引きずり込んでゆく。

 バルタザールの腰遣いが少しずつ滑らかになってゆく。

 破瓜血が潤滑油となって律動を助ける。

「んっ♡……んんっ♡……ふっ♡」

 

 呻きのリズムが徐々に変わってゆく。

 唇が解放されると途端に甘ったるい吐息が漏れ出す。

「気持ち良いのか? 純潔を穢されたばかりだと言うのに」

 揶揄い混じりの問いかけに首を振ろうとしても

 背中から湧き上がる妖しい愉悦が邪魔をする。

 

 パンッ! パンッ! パンッ! 

 抽送の激しさが増すごとに粘っこい水音が響く。

 清楚だった聖域は今や淫らな楽園に変貌した。

 

「おじ……さま……わたし……もぅ……♡」

 

 途切れがちな呟きは懇願と同義だった。

 バルタザールの動きが一層深く荒々しくなる。

 華奢な肢体を壊さんばかりの全力ピストン。

 最も深い位置を支配される被虐の悦楽。

 雌奴隷の悦びに貴族令嬢は背徳の沼へと堕ちていく。

 

「イっちゃっ♡イっちゃうのぉ♡♡♡おじさまのおチンポでぇ♡♡♡」

 

 舌足らずな叫びは紛れもない牝の咆哮。

 

 

「可愛いぞクリスティーナ……永遠に俺のものだ」

 耳に届く囁きに痙攣する小さな体。

 意識が白濁していく刹那、浮かぶのは服従の歓喜だけ。

 

 未成熟な腰を迎えるように浮かせ、オスに肉を与えるメスの顔。

 

 バルタザールの獣欲を一身に受け止めながら

 かつて無垢だった少女は完全な「メス」へと昇華された。

 

 

 汗で額に貼りついた黒髪。

 紅潮した肌が微かに震える様は、

 獲物を貪る前に全身の毛を逆立てる野生の獣のようだった。

 まだ十三歳にも満たぬはずの少女の肉体が、

 老獪な牡の手によって成熟の扉を無理やりこじ開けられていた。

 純粋な美しさは消え失せ、

 代わりに漂うのは牝香に満ちた熱気──それがロッジ全体を澱ませていた。

 

 バルタザールの指先が臀丘の谷間へ滑り込む。

 すでに解きほぐされた秘所は抵抗ひとつ示さず迎え入れる。

「ほう……これは予想外の収穫だな」

 笑みを浮かべる彼の掌が小さな背中を這う感触に、

 クリスの喉がかすかな嗚咽を漏らした。

 指の動きに合わせて零れる声は

 抗議というより催促に似ていた。

「そんな風に腰を振るとはな……誰が仕込んだ?」

 尋ねながら親指で陰核を潰すように捻る。

「ひぃっ♡♡」弓なりにしなる背筋。

 バルタザールは喉を鳴らした。

「まさか自分で慰めていたのか? ……この淫売めが」

 

 突然の激昂。

「こんな屈辱……お父様とお母様が見たら……!」

 絞り出した声も次の瞬間には甘美な喘ぎへ変わっていた。

 バルタザールが中指を第二関節まで埋没させただけで

「やめて……そこ……あっ! ああん♡♡」

 理性の糸がぷつりと切れる音がした。

 叔父の股間に跨る姿勢で膝が震える。

 剥き出しになった陰部が照明に照らされて湿り光る。

 蜜を滴らせる花弁の隙間から覗く鮮紅の粘膜が卑猥だった。

 

 バルタザールの唇が耳朶に触れる。

「これが最後の警告だ。

 俺の正式な妃となるか……それとも永久に玩具でいるか」

 選択肢を与えられた瞬間、

 クリスの眼差しに決意が宿る。

 それは屈服ではなく『自らを選んだ』覚悟だった──

 

 ロッジの窓ガラスが震える。

 外部の戦況は悪化しているようだが、

 この密室では全く別の戦いが始まろうとしていた。

「ならば証を見せてくれ……我が花嫁よ」

 バルタザールの巨躯が覆い被さる。

 クリスは瞼を閉じて運命を受け入れた。

 

 

 

 

 汗で濡れた黒髪が額に張り付き、細い喉首が晒される。

「ああぁ──―ッ!」

 甲高い悲鳴とともに幼い背筋が鋼のように反り返る。

 バルタザールの剛直は小柄な体内奥深くへ穿たれ、

 その圧迫感が絶頂へとクリスを押し上げたのだ。

 収縮する肉壁が鋼鉄の楔を包み込み蠢く。

「素晴らしい締め付けだ……さすが私の花嫁」

 耳元で囁く言葉にさえ過敏な性感帯となった肌が震える。

 彼女の四肢は脱力し、巨大な叔父の体躯に支えられるのみ。

 

(もう……何も考えられない……)

 理性の砦は崩れ去り、思考を占めるのは純粋な快楽信号。

 バルタザールがゆっくり腰を引くと、蜜道が惜しむように絡みつく。

「ほう? まだ離さぬつもりか?」

 嘲弄に混ざる優越感。

 再び奥へ叩きつけられる衝撃にクリスの身体が跳ね上がった。

「ひぃんっ♡♡」

 幼い嬌声は媚びへつらいの色を帯びている。

 

「可愛らしいな……昔はあんなに生意気だったお前が」

 腰の動きは緩急自在。

 浅く擦り上げたり深く沈めたりして反応を楽しむ。

「もっと聞かせてみろ」

 命令口調でありながら慈しむような声音。

 困惑したように見上げる漆黒の瞳には

 混乱と陶酔が渦巻いていた。

 

 不意にバルタザールが上体を起こす。

「おいで」

 促されるまま彼の胸板に凭れ掛かる。

 後ろから抱きすくめられる安心感。

 同時に下腹部から突き上げてくる凶器が

 より直接的に存在感を主張してきた。

「んっ……ふぅっ♡」

 鼻に抜ける甘ったるい吐息。

 バルタザールの指先が乳房を這い始める。

「小さいな……だがこれから育てていけばよい」

 蕾のような乳首を摘まむと同時、下からの律動が加速した。

 

「ひあっ♡♡やっ♡ダメェッ♡♡」

 抵抗は儚い。

 両脚が自然と拡げられ叔父を受け入れやすい体勢へ。

 バルタザールはその柔軟な肉体を褒め称えながら

 さらに大胆に抽送を強めてゆく。

 結合部からは白濁した蜜が泡立ちながら溢れ落ちる。

 

 ロッジ内の空気が熱を帯びる。

 金属質な装甲車輌の唸り声と遠雷のような轟音が窓の外から響く。

 対照的な室内では二人の呼吸音と粘膜の摩擦音だけが支配していた。

 

 バルタザールの息遣いが荒くなる。

「そろそろ限界か?」

 悪戯っぽく問うも答えはない。

 絶え間ない痙攣に翻弄されるクリスの魂は

 すでに戦場と快楽の境界線上にあった。

「ならば一緒に」

 宣言するや否やこれまで以上の力で叩きつける。

 鋼のような肉杭が子宮口を抉る。

 

「あああぁっ!! ♡♡♡」

 今日一番の絶叫と共に全身が弓なりに仰け反る。

 同時にバルタザールも迸らせた灼熱。

 生命の根源が注がれる感覚に恍惚とする少女。

 長い射精の後も余韻に浸るように静止する。

 窓から夕陽が差し込んでいる。

 血のように赤い光が結合した二人を照らし出す。

 バルタザールがゆっくりと引き抜くと

 白濁と混じった愛液が糸を引いて零れ落ちた。

「お疲れ様だ……元気な子を生むのだぞ?」

 優しく頬を撫でる手。

 その温もりこそが敗北宣言なのかもしれない。

 虚ろな瞳で虚空を見るクリスの目尻から一筋の涙が伝う──

 

 

 

 

 バルタザールの巨根が引き抜かれる際、ずるりと湿った音が立つ。

 まるで海底から釣り上げられた深海魚が水面で悶えるような抵抗音。

 クリスの膣口はぽっかりと開いたまま、内部のピンク色の襞を見せている。

 

「くく……素晴らしいな」

 バルタザールが満足そうに呟きながら、少女の華奢な腰を掴み固定した。

 次に訪れる衝撃に備えて息を詰める間もなく──

 

 どぷっ! どくん! ごぶりゅん! 

 

 無遠慮に叩き込まれた灼熱の肉塊が子宮口を直撃する。

 大質量の異物が

 狭い通路を無理矢理押し広げる感覚にクリスは大きく仰け反った。

「ひぃ……っ♡ な……中でぇ……膨らんで……」

 怯える声にかまわずバルタザールは鈴口を押しつけ続ける。

 彼女の薄い下腹部が微かに波打っているのが見て取れた。

 その波紋は受精卵が海原で迷うイルカの群れのようでもあり、

 餌場を求めて暴走する魚群のようでもあった。

 

「まだまだだ」

 巨根が脈動するたびに新たな白濁が追加注入される。

 精管から輸精管へと続くパイプの内側には既に無数の精子が待機列を作り、

 押し寄せる精液の奔流に乗じて全速前進を開始していた。

 数億匹のオスの小舟が大海原へ向けて出航していくのだ。

 

 クリスの胎内で異変が起きていた。

 ───ちゅぷん♪ 

 何かが弾ける音。

 微かながら確実に鼓膜に届いたそれは、卵子の壁が突き破られた合図だった。

「……あ゛♡ いまぁ……なんか……あついのが……」

 熱波が通過するたびに腰が跳ね上がる。

 バルタザールも察知したらしく嘲笑めいた声を漏らした。

「ほう? 受精したのかね?」

 その一言を聞いた刹那──

 クリスの意識が急速にぼやけ始めた。

「いやぁ……そんな……嘘ぉ……赤ちゃん……できちゃうなんて……」

 

 涙腺が緩み視界が滲む。

 歪む景色の中に映るのは自分の腹部だ。

 膨らんだ下腹には青紫色の血管が幾筋も浮き出ていた。

 それがまるで蜘蛛の巣のように見える。

 受精成功を祝う派手な装飾。

 バルタザールによる完璧な征服完了の印なのだ。

 

「ふむ……少しやり過ぎたかな?」

 クリスの首筋に浮かぶ汗粒を舌先で舐めとりつつ独りごちる。

 彼女は既に虫の息だった。

 瞳孔が拡大し焦点が合わない。

 時折痙攣する指先以外は泥人形のようにぐったりしている。

 そんな状態にも関わらず……

 バルタザールは再度抽送を再開したのであった。

 

「ぐおぉ……っ♡♡ うぐぅ……もう……許してくだしゃいぃ……」

 譫言のような懇願は即座に掻き消される。

 彼のペニスが子宮頸部の入口を出入りする振動は地震にも似ていた。

 その振幅に合わせて胎内の受精卵がシェイキングされる。

 着床準備万端の土地へ辿り着く直前の受精卵たちは

 波にさらわれ右往左往する小船そのものだ。

「しっかり泳ぐんだぞ……可愛い仔犬ちゃん……」

 バルタザールの励ましは残酷な福音だった。

 

 両親の仇である憎い叔父に種付けられ孕まされる悲劇と恥辱。

 それら全てを凌駕してしまう背徳の悦楽。

 矛盾だらけの快楽地獄に身を委ねながら

 クリスは最後の意識で一つの真実に辿り着く──

 自分がこの怪物に心底から征服されてしまった事を。

 

「あ……あぁ……わたし……こんな……」

 呟き終える前に全身から力が抜ける。

 重力に抗うことを放棄し横たわる裸体。

 バルタザールは少女が完全に意識を手放した後も

 しばらく腰を動かし続けていた。

「良い夢を見ろよ……我が最愛のメス嫁よ」

 そう囁く唇は残忍かつ愛情深く歪んでいた……

 

 孕まされた証が徐々に表面化する。

 クリスの下腹部には胎児を包む羊水袋の形状が淡く浮かび上がり始めている。

 バルタザールが触診するように撫でると内部で微かな生命反応を感じ取れた。

「ほう……既に脈動が確認出来るとはな」

 掌に伝わる鼓動は小さくても確かにそこに宿る新しい命の証拠だった。

 

 窓の外は黄昏時を迎えている。

 茜色の夕焼けが血塗られたように大地を覆う光景の中

 シエラⅢのロッジには新たなる家族の誕生予告が響いている──

 そして敗北感と幸福感に等しく満たされた

 一人の少女の魂魄は深淵の夢へと沈んでいく……

 孕ませられた温もりを抱きしめたまま……

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 バルタザールに占拠された豪奢なロッジの一室。

 琥珀色のワインが注がれたグラスを傾けながら、

 彼は執務机に肘をついて報告書に目を通していた。

 その傍らでは──。

 

「んっ……ちゅぱっ……んふぅ……♡」

 

 少女特有の高い体温に蒸された唇が蠢く。

 クリスの小さな口が必死にバルタザールの巨根に吸いつき、

 唾液の糸を引きながら丹念に奉仕していた。

 亀頭の先端から雁首にかけてを丁寧に舐め上げる舌使いは、

 幼さゆえか拙さがありながらも、どこか禁忌めいた煽情を孕んでいる。

 彼女の黒髪から漂うシャンプーの甘い香りと

 雄臭が混然一体となり部屋に充満していた。

 

「よくやっているな……褒美だ」

 

 低く掠れた声で囁くと同時に、

 バルタザールは机の引き出しから小型コンソールを取り出し操作する。

 するとロッジ中央の大スクリーンに投影されたのは──。

 

 ★ ☆ ★ バルタザール陣営の内実 ★ ☆ ★

 

 ●成り立ち: グラッカン帝国西方貴族社会の影

 *

 そもそもの始まりは、

 ダレインワルド伯爵家の男として生まれながら嫡子になれなかったこと。

 爵位継承資格を巡る熾烈な骨肉の争いから、

 バルタザールは軍閥貴族の末席へと追いやられた。

 燻る若者は抑えきれぬ衝動のまま出奔し、

 傭兵として名声と実力、生涯の仲間を得て、故国に帰還する。

 培ったのは冷酷非情な生存術と、権力への異常な執着心。

 伯爵領にある寂れた別荘地下倉庫。

 普段は見向きもされぬ埃まみれの空間で彼は“同志”たちを集め始めた。

「貴様らもまた日陰者であろう?」

 最初に呼び寄せたのは

 退役寸前の帝国航宙軍将校や不良債権処理担当の役人たち。

「表沙汰に出来ぬ汚れ仕事を請け負えばいいのだ」

 こうして結成されたのが《夜陰衆》──秘密裡の軍事顧問団であった。

 表向きには民間警備会社という看板を掲げつつも、

 グラッカン帝国軍統括司令部《鉄槌》や

 大蔵省直属の資金洗浄部門と密接に関係していたのだ。

 

 

 

【思想的背景】

 

 権力への崇拝──―

 貴族であっても名ばかりの存在ならば意味がない。

 真の支配階級になるためには

 実力行使ができる軍事力が必要不可欠だというのが信念。

 理想を語らず現実の砂漠に根を張るその姿勢こそが魅力なのである。

 

 欲望の坩堝に集った魂の兄弟の来歴は様々だ。

 傭兵時代に出会った、傭兵・宇宙海賊・密輸業者・悪代官・汚職官僚。

 賞金稼ぎ・詐欺師・冤罪をかけられて失職した政治家。

 騙されて財産を失った商人・仕える主を失った騎士……等々。

 

 勝利の美酒を分け合い、敗北の苦杯を分かち合った戦友たち。

 彼らにとってバルタザールとは希望の星であり絶対忠誠を誓う神的存在。

 

 小国を容易く滅亡させる程の独自の戦力と、

 ソレを維持・運営できる政治・経済・生産力を保有する独立勢力。

 

「……っんむ!? ♡♡」

 

 バルタザールが突然クリスの顔を股間に押し付ける。

 窒息寸前の苦悶と羞恥で彼女の頬が紅潮する。

 喉奥まで突き刺さった肉棒から流れ込む濃厚な粘液が

 クリスの口内粘膜を甘く灼く。

 

「おいおい……お前の義務を忘れるなよ?」

 報告書片手に冷笑を浮かべるバルタザール。

 

 ロッジ奥の扉が静かに開く。

 入ってきたのは銀灰色の義眼を持つ老参謀。

 軍服こそ脱いだが肩章には髑髏マークの徽章が煌めく。

 

「閣下。伯爵家調略の進捗具合についてですが……」

「んむ……んんっ……♡」

 老人の声とクリスの嗚咽がかすかに重なる。

 バルタザールは机の上で脚を組み直しながら言った。

 

「ダレインワルド伯爵家の旧臣共はどうせ腐るほどいる。

 古狸どもは現実と幻想の区別もつかない哀れな連中よ」

 クリスの口蓋をカリ首が擦る感触を楽しみつつ続けた。

「旧体制派が牙を剥くなら叩き潰すまで」

 報告を聞き流しながら

 クリスの後頭部を掴んで自らの下腹部へ引き寄せる。

 

「まずは手始めに……中央宇宙港だ。

 ここさえ押さえれば伯爵領全域の物流が停滞する」

 喉仏が上下するたびに

 彼女の体内温度が高まっていくのを感じ取り、

 それでも健気に、舌を這わせ、唇を窄める調教具合に満足を覚える。

 

 バルタザールの巨根がクリスの口腔内を蹂躙する。

 舌を圧迫しながら喉奥まで届く肉塊が彼女の呼吸を遮り、

 酸欠状態になった少女の顔は赤紫色に染まっていく。

 老参謀の銀色の義眼がその惨状を冷静に見据えるが、一切表情を変えない。

 

「んぐっ……ぐふぅ……っ♡」

 唾液と先走り汁が混ざり合う音が艶めかしく響く。

 バルタザールは執務机の上で脚を組み替えながら言った。

 

「……それでオーク共は?」

「はい閣下。シエラⅢの現状戦力では排除は難しいでしょう。

 援軍も、我らが構築している呪術結界を解除せぬ限り呼べず、

 外部が異常に気が付き、救援を派遣するにも2日は必要かと」

「ハシュマルが傭兵に撃破されてしまうのは予想外であったな。

 起動・出撃のデータを得たのは僥倖であったが、

 オークの始末とミミの確保は私自ら行うしか無いか……」

 

 バルタザールの唇がクリスの耳元で淫靡に笑う。

「ミミもここまで長期間拘束され、

 オークどもの慰みものになっている以上……

 私も鬼畜ではないからなあ? 

 既にオークの仔を孕んでしまってるだろうから

 私が優しく受け入れてあげなければ可哀相というものだなあ?」

 

 指先がクリスの顎を撫でると同時に、参謀の報告が続いた。

 

「文官チームからの依頼、機械知性の弱みを握る……については

 完遂したと言って良いでしょう。

『シエラⅢに条約違反の兵器が秘匿されている』件の確認と証拠の確保。

 今後、機械知性の干渉を抑えるのに十分な成果です」

 

「良し……これから数時間以内に、オークの根城を急襲し……」

 

 口を開けば当然出てくるのは次の侵攻計画だ。

 組織の冷酷な指令を下す声に、

 執務机の下で震える少女はもはや何の関心も示していない。

 バルタザールが握る巨大な男根によって

 意識朦朧とさせられた彼女はただ従順な肉玩具に過ぎなくなっていた。

 その様を見ながら老人は言葉を続けた。

 

「それにしても閣下……此程の機密情報をどのようにして得られたのですか? 

 あなた様の人脈と影響力には畏怖の念を覚えます」

 

 クリスの小さな喉が不規則に痙攣する。

 バルタザールが腰を浮かせて肉棒をさらに奥深くまで突き込んだ結果だ。

 少女の目に涙が滲む。

 彼女にとっては拷問のようなこの行為だが男にとっては儀式なのだ。

「とある、古狸にコネがあってな……

 厄災戦以前から稼働している古株と違い、近代生産の機械知性は脇が甘い。

 サルベージしたMAを上層部にも秘匿して、切り札として据えるなど

 愚かに過ぎる。契約を遵守する統括頭脳が知れば、

 自己崩壊すら起こしかねない条約違反だと自覚すらしていないのだから」

 

 嘲笑とともにクリスの後頭部を掴んで前後に揺するバルタザール。

 荒々しい動作にも少女は抵抗しないどころか、むしろ積極的に舌を這わせている。

 淫乱に調教された今の彼女にはもはや拒絶という選択肢は無いのだ。

 

「さて……クリス。私の精液を受け止めることができるかな?」

 

 クリスは苦しげに呻きながらも目だけで肯定の意思表示をする。

 長い睫毛が涙に濡れて重たく見える。

 

「……ん……ぐぷ……」

 

 大量のスペルマが放出され始める。

 男の絶頂と共に噴出した暖かい液体は瞬く間に少女の口内を満たした。

 

 バルタザールはニヤリと笑う。

 彼にとってこれは支配の儀式であり征服の証だった。

 自分の遺伝子を受け入れさせることで永遠に消えない痕跡を刻み込む。

 それこそが彼の歪んだ愛情表現なのかもしれない。

 

 クリスの口から溢れ出る精液が喉を伝って胸元まで流れ落ちる。

 それでもなお彼女は最後の一滴まで搾り尽くさんとするかのように

 唇を窄めて吸引を続けた。

 その姿を見てバルタザールの表情からは愉悦以上の充足感すら感じられる。

 

 一方で老参謀は眉ひとつ動かすことなく淡々とした口調で報告を締めくくる。

 

「了解しました。それではシエラⅢからの退去準備と平行して

 戦果分析を行う人員を選定いたします」

「うむ」

 返答代わりに放屁にも似た息遣いが執務室内に響いた。

 部屋を後にした参謀の背後で新たな命令が飛ぶ。

 

「衛兵! この牝を浴室へ連れていけ! 

 湯浴みさせて、今晩は俺と同じベッドで過ごす」

 命令を受けた屈強な兵士たちが執務室に入ってくると

 呆然と固まったままのクリスを抱きかかえる。

 まだ呼吸も整わない少女に対し容赦なく引っ立てていく。

 彼女の虚ろな瞳は何処ともつかぬ虚空を見つめ続けていた。

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「─────いよいよだ」

 バルタザール卿は肩越しに部下たちを振り返り、獰猛な笑みを浮かべた。

 眼下に広がるのはシエラⅢ中央地下都市《ヴォイドル》の全景。

 複層構造の街並みはどこもオークどもの旗が掲げられ、

 まるで腐った野菜が地面にこぼれるような──悪趣味な風景だ。

 まさに現代版“黄泉の平原”。

 戦の前の静寂が彼の血を滾らせる。

 それはまるで古代の覇王が軍旗を振るうように。

 

「ここで一つ清算しておくのも悪くはあるまい?」

 

 そう言ってバルタザールは一歩踏み出し、天空から地上へ踊り出た。

 重力操作機構を展開し、空気摩擦熱で装甲表面が朱色に焼かれる。

 彼の鎧は漆黒の稲妻を帯び、火花を撒き散らす彗星のように墜落していく。

 

「目標地点:第107居住区画──通称〈蠍の巣〉! 

 まずは雑魚掃除だ! 行くぞ野郎ども!!」

 轟音と共に大地へ叩きつけられた衝撃が街路を震撼させる。

 粉塵の中から現れたバルタザールの背後には数百名規模の精鋭が続き、

 まるで阿修羅像から解き放たれた悪鬼羅刹のような威容を示していた。

 

 突然の襲撃に気づいたオークどもが各所より跳梁跋扈と押し寄せてくる。

 牛頭馬頭ならぬ猪頭豚頭の魑魅魍魎ども。

 斧槍を掲げて雄叫びをあげ、目を爛々と輝かせながら迫る光景は圧巻そのもの。

 その中から一体の巨魁が飛び出し、バルタザール目掛けて一直線に突進する。

 

「ぬおぉぉっ! 死ねぇぇぇ!!」

「遅いッ!」

 

 刹那──閃光が奔る。

 抜き放たれたモノソードは蒼白い尾を曳きながら円弧を描き、

 巨魁の首級を胴から離れさせた。

 断末魔の絶叫もそこそこに体躯は地面へ転がり──

 鮮紅色の噴水となって路面を彩った。

 

「ほうら見てみろ。俺の一振りで一匹逝ったぞ?」

 

 揶揄混じりの挑発に応えるように次々とオークが群がってくるが、

 

 バルタザールは逆に哄笑し、猛然と吶喊する。

 左腕一本で大型ランスの刺突を受け流すと同時──

 右腕のモノソードが奔流の如く薙ぎ払われる。

 迸る血飛沫は雨上がりの虹より鮮やかだった。

 

 ──時はわずか一刻足らず。

 バルタザール直属の兵たちは練度において尋常ならざる冴えを見せていた。

 

 一方、性的暴行や掠奪行為も目撃されていた。

 同胞の危機に気が付かず、捕らえた捕虜に対する輪姦に耽る蛮族たち。

 その無様極まりない様相を目の当たりにし、

 幾人かの将校は思わず目を伏せた。

 しかしバルタザールは違った。

 逆に──嗤う。

 嘲笑だ。

 

「クックックッ……なんと無様な連中か。

 繁殖欲求旺盛でしかも自制心ゼロとか……救いようがないなァ」

 嘲弄を孕んだ声音でそう言い放つ間にも

 周囲の兵は次々とオークを屠っていく。

 敵方の大半は混乱の渦中にある上に連携も拙劣だ。

 対してこちらは統制の取れた精鋭揃い。

 戦局が一方的になるのも自然だった。

 

 そんな折──戦列の一角から悲報が告げられた。

 偵察部隊からの報告によれば、

 オークの一党が民間人シェルターへと入り込み──

 非武装市民を人質に立てこもり始めたというのだ。

 

「むぅ……ふむ……」

 バルタザールは顎髭をさすりながら思案顔をする。

 

「困ったもんですなぁ? 公民シェルターですよ?」

 副官が嘆息気味に言う。

 

 

 

 

 オークの蹄が鉄筋コンクリートを震わせる。

 狭隘な廊下に堆積した屍骸はすでに紫紺の腐蝕液に沈み、

 酸の霧が床面を舐める。

 

「……哀れなものだ」

 

 バルタザール卿は壁際の蜘蛛の糸のような銃眼に身を潜め、微笑を湛えた。

 硝煙漂う隙間から覗く先では、

 まだ年若い少女や気品ある貴婦人が無残にも魔導具に拘束されている。

 白磁の肌は夥しい粘液で染み、嗚咽は鉄鎖の擦過音に埋没していた。

 

「閣下……任務中の不要な慈悲は──」

 副官ベルツィアが咎める声を重ねた刹那。

 

 ──疾雷。

 

 卿の掌に浮かんだ月鋼紋が青白い稲妻を迸らせ、空気を劈いた。

 鈍い咆哮が肉襞の海を掻き回し、次の瞬間──

 

 **“一閃”**

 

 真空の断裂が螺旋階段を縫い、五〇メートル離隔の標的のみを抉り取った。

 捕虜に覆いかぶさっていた巨躯は蒸発した残渣もなく消失。

 唯一残されたのは床板に穿たれた径寸八分の孔。

 

「……距離を無視し、標的のみ斬る。一閃流の奥義『一閃』」

 卿は唇端で盃を干す所作をしてみせた。

「もっとも今日は、皿を洗うスポンジ替わりだがな」

 

 部下たちの乾いた笑声が銃座に谺する。

 

 その刹那。

 

 シェルター中心部から金糸雀色の髪房が零れた。

 純白の衣は土埃で煤け、肢体は枷で戒められたまま震えている。

 ──ミミだ。卿の右掌がぴくりと動いた。

 

「おいベルツィア。件の傭兵殿も愛玩姫君殿がご登壇だぞ? 

 誰がどう見たって餓狼に囲まれた小兎ではないか」

 

「閣下……彼女は高貴な血を引いているやもしれぬ……」

 

 言葉の途中でバルタザールはもう一度、剣閃の稲妻を放った。

 ミミを囲む数十匹のオークを紙屑同然に四散させる。

 

「ぐふッ!?」

 オークどもの短い啼鳴。

 代わりに宙に浮かんだのは琥珀色の溶液──精虫混合液だった。

 

 

 床板に残された亀裂から熱湯に似た体液が滲み出し、ミミの素脚へ滴った。

 涙混じりの喘鳴とともに少女が仰向けに痙攣する。

 滑らかな腹部には青い血管が網目模様に張り巡らされ、

 その下方──薄布越しの秘部は桜貝のごとき潤みを帯びて蠢いていた。

 

 卿は踵で瓦礫を蹴散らし、ゆっくりと歩み寄る。

 革靴の爪先が触れるたび、ミミの下腹は甘く疼き跳ね上がった。

「可愛い悲鳴だ。だが……」

 耳朶に囁くと同時に金属製の鍵爪を彼女の首輪へ噛ませる。

 

「哀しみではないな? お前の瞳に映っているのは──悦びだ」

 

 鍵爪を捻じると同時に喉笛へ吸い込まれる毒蛇のごとき接吻。

 唾液を介して流れ込む魔導符印式信号が脊椎を灼き焦がす。

 途端、少女の四肢が弓なりに反り返り、蜜洞が痙攣と共に絶頂を迎えた。

 

「ひぅッ……あッ……♡」

 

 吐息の間に零れた銀粒が卿の鬢に落ちる。

 彼はそれを舌先で掬い取り──

 再び刃を虚空へ投擲した。

 

 嵐のごとき真空刃が廃墟全域を斬り刻み、

 数千のオーク軍団を分子レベルに分解させたとき、

 

 シェルター中枢はすでに無音の湖面と化していた。

 立ち昇る灰燼が夕陽を反射し、廃墟は水晶宮のように煌めく。

 

 バルタザールはミミを片腕に抱き寄せ、

 汗と涙に濡れた額に軽く唇を当てた。

「我が麾下へようこそ。

 お前はこれから私のメスであり、所有物であり、そして──」

 

 言葉を切ると同時に彼女を横抱きにし、悠然と歩み始める。

 傍らでベルツィアが小さく溜息を吐いた。

 

「閣下。戦利品としては少々趣向が過ぎませんか」

「ハッ! その方が面白いだろう?」

 

 大理石柱を破砕しながら廃墟を出ると、

 夕風が金色の髪と墨黒のマントを嬲り合う。

 

 二人の影は黄昏の中で伸び縮みし──

 やがてシエラⅢの地平線に吸い込まれていった。

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 シェルター地下階層──撤退待機壕

 湿った鉄臭と消毒用オゾンが渦巻く中、兵舎のように並ぶ簡易ベッドと物資箱。

 壁面には「封鎖区域・侵入禁止」

 と血塗れの塗料で書かれた警告看板が斜めに吊るされている。

 

 バルタザールは膝をつき、壁に凭れたミミの肩甲骨へ指先を這わせた。

「さて暇潰しというやつだ。撤収命令が出るまで今少し──

 退屈しのぎにお前の身体で遊んでみるかな?」

 

 その声に含まれるのは飽食者の気怠さと狩猟者の飢えの奇妙な和音だった。

 ミミは拘束服越しに感じる掌の温度に

 憎悪と甘美さの坩堝に飲み込まれまいと瞼を閉じる。

 だがバルタザールはそれを楽しむように囁く。

 

「まあ落ち着け。反抗すればお前の可愛い乳首に

 この小爪で十字架を掘り込むところだが今はお預けだ。

 それより──よく聞け。

 この建物内には私が特別に拵えた"玩具"がいくつかあってな?」

 

 彼が手袋越しに小型装置を操作すると

 ミミの内股で脈打つ楔型器具が熱を帯びはじめる。

 敏感な粘膜を押しつぶすように振動が始まると同時に

 脳裏に電撃が走った。

 

「くぅっ……ッ」

 

 ミミは声を噛み殺すも

 腰の深くで波打つ愉悦に抗えず

 臀部がベッド柵を叩いてしまう。

 その反応を見てバルタザールは愉しげに肩を揺すった。

 

「フッフッフ……

 やはり期待通りの反応をしてくれる。

 こうでなければ面白くない。

 では次は──この首輪だ。

 僅かな呼吸不全を与え続けてなお意識は清明にする調整を施していてね?」

 

 バルタザールが指を鳴らすと

 首枷内部の気管圧搾機構が締まりかける。

 瞬時に血圧が逆流し霞む視界の中

 それでもミミは歯茎を剥き出しに睨み返す。

 

「……やっぱりあなたみたいな人間が一番、卑怯者です。

 表向き紳士ぶって実は権謀術数に溺れた卑劣な……畜生……」

 

 辛辣な侮蔑に対しバルタザールは心底愉快げに笑い声を響かせた。

「いやいや素晴らしい褒め言葉だ。

 我輩にとっては花道に撒かれた花弁に等しい!」

 

 

 

 金属パイプ椅子に磔にされたミミは額を汗珠で光らせたまま俯いていた。

 下肢に嵌めた拘束具が律動を拒否するかのようにぎりりと悲鳴を上げる。

 

「ふむ──ここまで追い込まれても尚矜持は折れぬか。流石は"皇家の血統"」

 

 バルタザール卿は卓上の通信端末を閉じると芝居がかった嘆息をつく。

 

 指が弾かれる。

 壁際の配電盤から紫電が奔り、ミミの臍下へ埋め込まれた魔導紋が共鳴した。

 胎内の深部を直接掴まれるような熱痺れ。

 少女は背筋を弓なりに反らし、掠れた悲鳴を嚥下する。

 

「きゃ……っ⁉」

 

「礼法作法も兼ねた閨房学習システム"エデンシリーズ"。

 軍医局が娼館用途で開発した新薬効試験薬──端的に言えば淫欲促進カテーテルだ。

 安心したまえ、痛覚は抑制済み。ただ快楽中枢を常時活性化させるのみ」

 

 ミミの白磁のような肌が桃色へ移ろっていく。

 鼓動に呼応するように乳嘴が紅椿の蕾を咲かせた。

 下腹の秘苑からは早くも甘露が滲み、足首までのスカート裏地を染めてゆく。

 

「や……やめて……ください……こんな……こと……許されない……です……」

 

 消え入りそうな抗議。だが声音の奥に潜むのは確かに悦楽の彩りだった。

 バルタザールは笑みを深くする。

 

「許可など最初から不要だとも。

 私は玩具を得た子供と同じく遊び方にしか興味がない。

 第一──お前も望んでいるはずだ」

 

 言い終えるや否や指先が滑る。

 項から背骨沿いへ下降する冷たい感触に鳥肌が立つ。

 しかし逃げる余裕はない。

 肋骨の窪みを辿った指は膨らみへ到達し、緩慢に円を描き始めた。

 

「ヒロとかいう傭兵への未練か? 

 その脆い思念さえ燃焼燃料となるのが今の薬理だ。

 理性が溶ければ残るのは本能のみ。

 さあ選択せよ──拒むか溺れるか」

 

 挑発は続く。

 胸峰を鷲掴みにされ弾力の確かさを吟味するように揉み上げられる。

 痛みと陶酔が拮抗し火花を散らす。

 ミミは堪らず嗚咽を洩らした。

 

「ヒロ……さま……わたし……負けたくない……のに……」

 

「ほう──まだ抵抗の灯が消えぬか!」

 バルタザールは高笑いを上げると片膝で少女の足を開脚させる。

 ミミは立ち上がれず床に膝を突いたまま震えていた。

 熱く疼く四肢を抱き締め涙を零す。

 それが悔恨なのか歓喜なのか──本人でさえ判別出来ない混乱の最中。

 廊下から覗く同胞の嘲笑と金属靴音だけが冷酷に響き渡るのであった。

 

 バルタザール卿は豪奢な外套を脱ぎ捨てた。

 美しい女体を見つめる瞳には残酷な好奇心が輝いている。

 

「ほう……これが皇家の血を受け継ぐ爆乳か」

 バルタザールは低く嗤うと、ミミの顎を指で押し上げた。

「見た目だけなら娼婦でもここまで熟れたものは珍しいぞ」

 

 ミミの胸は囚人用の簡素な服の上からでも異様な存在感を示していた。

 深い谷間が空気を呑み込み、

 隆起した半球はまるで果樹園に実る巨大な果実のように重量感を持っている。

 

 バルタザールが襟元を摘むと、布地が盛り上がって限界まで引っ張られた。

 そこから覗く皮膚は透けるように白く、薄い血管が淡く浮かんでいるのが見える。

 

「や、やめてください……!」

 ミミが身を捩る度に、胸が弾んで揺れた。

 重力に抗えぬ重量と弾力が複雑に作用し、

 見るものにとって芸術的な躍動を見せていた。

 

 バルタザールは喉の奥で笑い声を立てた。

「これがただの脂肪の塊と思うなよ。

 このボリュームこそが女体の神秘を凝縮した宝物だ」

 

 彼は指を一本立てて伸ばす。

 それは徐々にミミの胸元へと接近していった——。

 震える呼吸が荒くなるミミの動悸すら聞こえてくる距離になる寸前。

 

 ピシリ! 

 

 乾いた破裂音と共に布地が千切れる音が響いた。

 囚人服のボタンが一つはじけ飛んだのだ。

 

 その衝撃で胸部が露出し掛ける危険に直面し慌てて身を竦ませるミミ。

 その動きがまた新たな震動となって胸郭全体に波及していく。

 

 バルタザールは目を細め愉悦の表情を浮かべた。

「そうだな……やはり君にはもっと似合う衣裳を選ぼうじゃないか」

 

 言うや否や彼は胸倉を掴んだまま前後に激しく揺すぶりはじめた。

 小さな身体が上下左右に翻弄されつつも

 爆乳だけは明らかに別の意思を持つかのように

 ゆっくりと遅滞なく追随している様子だった。

 

 ミミは何度も息苦しさに喘ぎ咳き込んだものの

 決して涙を見せようとせず毅然とした眼差しで睨みつけ続けた。

 そして唇を固く結び呻きすら抑え込もうとした刹那—

 

 バンッ!!! 

 

 再び大きな破裂音とともに胸元が完全に断裂してしまう。

 

 その瞬間、弾けるような勢いを持った白皙が晒された。

 乳白色の山々が解放されて跳ね上がり

 周囲の空間全体を覆い尽くさんばかりに膨張してみえた。

 丘陵地帯には幾重もの影ができており

 それぞれ異なる角度から鑑賞すればまったく別の景観を得られるだろう。

 まさに天地創造のごとき壮大さがあった。

 

「……っ!? いっ、いっやぁあっ!!」

 

 

 羞恥心に耐えきれず絶叫するミミ。

 両腕で必死に胸元を覆いつつも、どこか無意識的に

 乳峰同士を擦り寄せてしまっている様子からは隠しきれない色香が漂う。

 

 バルタザールは舌舐めずりをして指笛を吹き鳴らした。

「素晴らしい眺めではないか! 

 この世で最も崇高なる聖域といえるであろうなァ!!」

 

 哄笑混じりに高らかに宣言すると

 右手の甲で一気に平らげるように

 乳肉表面全体を撫で回しはじめた。

 

「やだっ、ヤメてぇっ!? 助けて、ヒロさ、あぁああっ!!」

 

 ギュッと握り潰された爆乳から迸った快楽電流が

 脊柱を通じ頭蓋内まで駆け巡り思考回路までもショートさせてしまう。

 抵抗しようとする意志とは裏腹に肉体の方は過敏に反応し

 汗粒たちが乳丘全体を潤していく光景すら醸し出してしまっていた。

 

「この柔らかさも張りも……どこをとっても完璧だな?」

 

 

 言葉責めは止まらない。

 指先が鎖骨付近よりゆっくり下降し始め谷間深くへ埋もれるごとに

 蒸発する芳香と共に熱気が溢れ出した。

 その温もりによって室内全体までもが湯気立つ温泉郷と化していく感覚だ。

 

「ひぃっ♡ あぅっ……お願いですからもう……これ以上は……ぁうう」

 

 媚薬成分含む汗腺分泌液までも刺激され増幅されてゆき

 ミミ本人ですら自覚なしに蜜液湧出が始まってしまった模様である。

 下半身の方角からむわっと湿気が立ち昇ってくる気配を感じ取った途端

 バルタザールの口角が吊り上がる。

 

「ふむ? 随分と成熟しているようだ」

 

 ズボン越しに臀部周りを這いずり回っていた掌が突然加速し

 パンティラインどころか秘裂本体まで捉えてしまった!

 

 ビクンッ!!

 全身痙攣させてしまう程の衝撃を受けたミミだったものの

 奇跡的に失禁だけは避けられた様子で

 少しほっと胸を撫で下ろした矢先……

 

「少しは我慢出来ないのか? アバズレめ……」

 濡れ光る薄ピンク色の割れ目部分を嬲られ、

 

 爪痕刻印されかける危機!! 

 

「きゃああんっ♪」

 

 悲鳴と言うより甘い叫びに変わってしまい困惑するミミだったけれど

 そんな様子を見て益々興奮度合い高まっていくバルタザール卿。

 

「ほらここを見ろ!」

 突如右膝立てて両乳山麓挟み込んでしまうバルタザール卿! 

 

 ゴリリリィ~ン☆ グニュリ! 

 

 鉄拳制裁紛いにも見える暴力的搾取にも関わらずミミ側からは

 恍惚とした吐息しか漏れなくなっている時点でお察しだろう……

 

「フン……こうして押しつぶしてもなお原型留めているとは」

 実際に胸元圧迫されることで

 内部組織全方向へ均等圧力加わってしまう構造なのだ。

 

「やぁぁ……♡ もうダメェ~♡」

 

 遂には自分から前傾姿勢になって

 押し付けた乳輪全面擦り付けたりしてしまう有様。

 それでもなお尚足りず両腕使ってさらなる密着求めてくる始末。

 バルタザール卿は嘆息しながら頭を撫でた後再び正面見据え直す。

 

「さて次はどうしようかな?」

 妖しく微笑みかけつつミミの

 肩甲骨下方突起掴んだまま強引前屈させていった……

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 シエラⅢ地下三十階──閉ざされたシェルターは埃っぽい匂いを漂わせていた。

 鋼板とコンクリートで囲まれた狭隘な空間に響くのは

 バルタザール卿の嘲笑とミミの嗚咽混じりの吐息のみ。

 

「さて、撤収の時間も迫ってきたな」

 

 その声は命令形でありながらもどこか気怠げだった。

 傍らには散々乳肉を弄ばれ消耗し尽くしたミミが跪いている。

 亜麻色の髪は乱れ、翠の瞳には怯えと侮蔑が同居していた。

 

「お前の主人は今頃必死に逃走劇を演じているだろうな」

 

 バルタザールは嘲るように言った。

 その視線は剥き出しになったミミの胸部へ注がれている。

 衣服はすでに機能を果たせず、

 揉みしだかれて腫れ上がった乳房は淫らな色艶に照り映えていた。

 

「……ヒロ様は必ず来てくれる」

 

 掠れた声が否定する。

 

「ならば希望は儚いものだな」

 

 悪党貴族は高笑いした。

 そしてゆっくりと歩み寄ると、

 椅子の上で悠然と足を組み替える。

 

「さあ、仕上げと行くか」

 

 バルタザールの指が

 ズボンのチャックを下げていく音が異様に大きく響いた。

 屹立した剛直が外界に現れる。

 灼熱のごとき猛威を放つそれを眼前に突きつけられた瞬間──

 ミミの緑眸は恐怖に戦慄いた。

 

 

「どうやら理解していないようだな? 

 ここでお前が拒否できる選択肢など初めからないということを」

 

 バルタザールはミミの顎を鷲掴みにした。

 そのまま体重をかけて仰向かせる。

 喉元の白磁が仰け反り、呼吸困難に陥る。

 鼻孔は火柱のような臭気を嗅ぎ取っていた。

 

「くっ……」

 

 苦し紛れに吐き出す呼気すら吸い取るように

 バルタザールはペニスを押し当ててくる。

 凶悪な質量が唇に触れただけで

 胃袋がひっくり返る思いに見舞われる。

 

「まずは挨拶から始めようか?」

 

 残忍な声音で促される。

 

(こんなの無理です!)

 

 心中で悲鳴を上げても

 肉体は慣性に逆らえない。

 今まで何度も受け入れてきた感触が記憶を呼び醒ます。

 恐怖と共にわずかな慣れが芽生え始めた自分が怖い。

 

「……っ」

 

 覚悟を決めたわけではない。

 しかし状況は待ってくれない。

 観念するように微かに口を開けば、即座に楔が叩き込まれた。

 

「う゛むっ!」

 

 口腔粘膜を串刺しにする痛み。

 圧迫感に涙が滲む。

 窒息寸前の苦痛が背筋を貫いた。

 バルタザールは片手でミミの後頭部を固定したまま

 容赦なく腰を使ってくる。

 

 喉仏が波打つたび銀糸を引いた唾液が零れ落ちた。

 苦悶の中で呼吸のリズムが崩壊していく。

 

「んぐぅ……ごぼっ……」

 

 溺れる魚のごとく藻掻く唇。

 それさえ愉しみ尽くすように抽送は続く。

 異様な摩擦熱が口腔全体を焼き焦がすかのようだった。

 

(早く終わって!)

 

 嫌なのに、自然とオスに奉仕してしまうメスの本能に大粒の涙が溢れる。

 短期間でヒロを筆頭に多くの強い男に貪られ過ぎて、

 思考や感情を無視して条件反射的に強いオスを御主人様と認め、

 傅いて奉仕してしまう植え付けられた性奴隷の作法。

 

 舌を絡め、鈴口にキスして啜りとる先走り汁が苦く、辛く、

 なのに心底美味しく感じてしまう惨めさが心を傷つける。 

 男達は美味しいよなと笑いかけてくるけれど……

 ミミにとっては本当に美味しいと思っていることもまた辛くて──

 自分でも気づかぬうちに腰を揺らし始めていた。

 快楽など一切無い行為のはずなのに。

 股間から滴る愛液が床に染みを作る。

 

「随分と積極的じゃないか」

 

 バルタザールの哄笑。

 更に深く抉る一突き。

 喉奥の敏感な粘膜を直接嬲られる感触に震える。

 

(違う! こんなつもりじゃ……)

 

 意思表示は不可能だった。

 唇の隙間から垂れ流される唾液。

 濁音混じりの喘ぎ。

 全てが淫靡な響きとなって空間を満たした。

 

 口内粘膜がオスの肉棒を愛撫するために進化した真性の雌奴隷。

 舌・唇・歯は完璧な連携で射精を促し、見上げる瞳すら獣欲を誘う。

 

 バルタザールはその肉体改造を施された証左を嗤う。

 

「淫乱が」

 嘲笑の色は濃く、それでいてどこか憎々しい響きがあった。

 幾度もの凌辱によって開発されてしまった女体の脆弱さ。

 抗う気力を削り落とされた魂の無垢さ。

 相反する要素が凝縮した偶像そのものがミミだった。

 

「もっと舌を使うんだ」

 

 頭を軽く押さえつけると同時に腰を引いた。

 その僅かな猶予に酸素を取り込もうとするミミ。

 刹那の空隙を利用して次の瞬間──

 喉頭括約筋を叩き潰さんばかりの勢いで穿たれる。

 肉杭が食道を焼くような熱を帯びていた。

 

「ごぼっ……! ふぐぅっ!」

 

 生理的な涙が頬を伝う。

 反射的に締まる喉元がバルタザールを唸らせた。

 征服欲が満たされる感覚に酔い痴れるように

 律動はどんどん加速していく。

 

(苦しい……気持ち悪い……でも……)

 

 意識が朦朧とし始める。

 酸欠が脳細胞を溶かしていく。

 思考の海に沈む浮力を喪った瞬間──

 ふわりと肢体を預ける感触を得た。

 それは奇妙な安堵感。

 まるで溺れた者が水面に顔を出すような解放感だった。

 

(なぜか落ち着く……)

 

 心地好い矛盾が心臓の鼓動を速めた。

 肺腑に流れ込む冷気に生命の尊さを噛み締める一方で

 食道から体内へ伝播する振動に異様な疼きを覚え始めていた。

 

(嘘……私、感じているの……?)

 

 衝撃的な自己認識に全身が粟立つ。

 不快感も疲労も塗り潰されていく幸福感。

 いつしか唇は積極的に蠢き始めていた。

 バルタザールの逸物を慰撫する舌遣いには情念すら窺えた。

 

「ほう……なかなか悪くないぞ」

 

 バルタザールは愉快そうに呟いた。

 手を伸ばして乱れた髪を梳く仕草には

 若干の労いも含まれているようだった。

 それすらもミミには忌まわしい褒美に感じる。

 辱められるほどに官能の回路が活性化してゆく肉体。

 理性と本能の乖離に戸惑うばかりの精神。

 もはや肉体は自分のものではないようで──

 

(ヒロさま……ごめんなさい)

 

 懺悔すら潤沢な蜜を生み出す源泉となってしまう。

 罪悪感と背徳の共存は麻薬のように依存性が高い。

 

 喉奥を叩かれる衝撃。

 粘膜が擦れ合う摩擦熱。

 口腔を占領する肉塊の匂いと味覚。

 五感を侵蝕される過程で

 女の芯に灯った熱源が炎上していった。

 

(私……おかしくなっちゃうかも……)

 

 内心の囁きは誰にも届かない。

 それでも確かに存在している快楽の萌芽。

 受け入れる訳にはいかないと自制すればするほど

 感度は研ぎ澄まされていく。

 

 バルタザールは腰使いを調整し始めた。

 一定周期で抽送を行うパターン。

 快楽中枢を狙い撃つかのような正確さ。

 これこそが男としての矜持か。

 あるいはサディストとしての嗜癖か。

 

「いいぞ……もっとだ」

 

 荒い息遣いが耳介を擽る。

 ミミの肉体は既に彼の掌中にある。

 抵抗する術など最初から用意されていない。

 

(これが終わったら帰れるよね……

 きっとヒロさまが迎えに来てくれるはず……)

 

 希望的観測に縋ることで気力を支えるしかない。

 どれだけ無様であろうとも

 唯一の拠り所だからこそ価値がある。

 

 バルタザールの動きが加速した。

 呼吸音が一段と荒々しいものになる。

 絶頂へ向けて登り詰めていく予兆。

 

「そろそろフィナーレだな」

 

 宣告と共に腰を深く沈める。

 先端が最も深い位置へ到達する。

 ミミの喉仏が震え上がり

 眼球が裏返りかけるも絶え間なく続けられる抽送に

 全身が痙攣し始めた。

 

「お゛おっ……んごぉっ……」

 

 濁った呻きが漏れる。

 口角からは泡立った涎が溢れて止まらない。

 それでも尚、粘膜の蠕動運動は滞りなく続いていた。

 

(やだっ……これ以上は……)

 

 限界を超えているはずなのに

 肉体は快感信号を拾い続ける。

 痺れと恍惚の境界線上で

 ミミの自我は徐々に摩耗していった。

 

 バルタザールが小さく唸る。

 尿道が膨張する感触が口腔粘膜越しに伝わってきた。

 臨界点が目前に迫っているのがわかる。

 迸る熱の奔流を想像した途端──

 

(嫌! 嫌嫌イヤっ!)

 

 脊髄反射的に首を振ろうとするも拘束は緩まない。

 どころか逃さないと言わんばかりに締め付けが強まった。

 完全に檻の中だ。

 

「出るぞ……しっかり飲み干せ!」

 

 命令と言うより宣言の方が近い口調。

 同時に凶器が最深部を抉った。

 強烈な電流が神経網を駆け巡る。

 抵抗という行為自体が消え去る空白の時。

 

 どぷん……! 

 

 鈍い音を立てて液体が噴出した。

 喉粘膜を灼く高濃度の樹液。

 反射的に嘔吐を催すのに

 後頭部を抑え込む圧力は容赦がない。

 噎せる暇も与えられないまま

 堰を切った洪水のように流れ込んで来る。

 

「ごぼっ! がはっ! おぇええっ……!」

 

 嗚咽混じりの喘鳴を撒き散らしながらも

 嚥下行動は止まらなかった。

 逆流する精液を再吸収する口腔機構。

 淫蕩な牝犬の如き貪欲さ。

 それが今のミミの真実だった。

 

 バルタザールは最後の一滴まで搾り取ろうとするように

 ゆったりとしたストロークを繰り返す。

 その度にミミの喉が波打った。

 白濁した粘液が食道を通って胃袋へ落下していくイメージ。

 現実として進行している生理現象に意識が追い付かない。

 

(熱い……苦しい……なのに気持ち良いなんて……)

 

 自己嫌悪が膨れ上がる。

 しかしそれさえも性感の燃料となる不条理。

 矛盾を孕んだ官能回路が火花を散らした。

 

 漸くペニスが引き抜かれる。

 栓を失った口腔からは溜息と残滓が零れ落ちた。

 長い間塞がれていた器官が解放感を得ようと

 活発に働く粘膜機構。

 そこから流れ出てくるのは紛れもなく

 バルタザールの分身であり遺伝子情報である。

 

「良く出来た奴隷だ」

 

 呆けた表情を晒すミミを見て

 悪党貴族は満足げに微笑んだ。

 

「さて、名残惜しいが……」

 

 時計を一瞥して告げる言葉。

 しかしまだ終わりではないと悟るのに時間は掛からなかった。

 下半身から漂ってくる湿っぽい匂い。

 それが何なのか理解する迄に要する刹那──

 

 

「フン……まだ序章だぞ?」

 

 そう言うとバルタザールは一旦ペニスを引き抜いた。

 解放感に呼吸を整えようとするミミだったが

 直後にさらなる非情宣告が告げられる。

 

「本番はこれからだ」

 

 屹立した肉茎を跨ぐよう指示される。

 混乱する暇もなく強制される体勢。

 剥き出しとなった豊満すぎる両乳肉。

 そこに雄槍を挟み込むよう強要されたのだ。

 

(男の人って、なんでいつも私にパイズリさせたがるの……?)

 

 ミミの顔から血の気が引く。

 覚えることを強要された奉仕技だが

 それは常に羞恥を超越した行為だった。

 ましてや今は疲弊の極みにあるというのに……

 

「お前の脂肪の塊で磨きあげてくれ」

 

 残酷な命令。

 抗えば罰は免れない。

 理性と矜持が警鐘を鳴らす一方で

 肉体の深層が期待に震えている矛盾。

 

(ヒロ様ごめんなさい……)

 

 謝罪と共に指先が動き始める。

 左右から迫る肉球。

 重量感のある双丘は従順に剛直を迎え入れる。

 

 

 肌の温度が溶け合うような感覚。

(男の人って、なんでいつも私にパイズリさせたがるの……?)

 疑問符が浮かんでは消えてゆく。

 思考力が低下しているせいだろうか

 あるいはもっと別の理由なのか。

 

 バルタザールはゆっくりと前後運動を開始した。

 柔肉に包まれた摩擦係数が熱を帯びていく。

 汗ばんだ谷間から立ち昇る蒸気。

 体温と体臭が混ざり合って異様な雰囲気を醸し出す。

 

(こんな事で興奮するなんて……最低)

 

 軽蔑すべき筈の男根が勃起していく様子は滑稽に映る筈なのに

 何故か目が離せなくなっている自分がいた。

 

 バルタザールの吐息が荒くなる。

 それに呼応するように乳輪が疼き始めた。

 触れてもいないのに硬く尖っていく乳首。

 まるで飼い慣らされた動物みたいだと思った瞬間──

 

「あっ……」

 

 思わず声が出た。

 その原因は明確だった。

 バルタザールの両手が乳房を鷲掴みにしたからだ。

 指先が沈み込むほど強く握り締めてくる。

 痛みと快感が半々でやって来る。

 いつもそうだ。

 乱暴に扱われても快楽に溺れるコンプレックスの塊である

「ウシ乳」「どすけべ爆乳」と罵倒されたミミの弱さの象徴。

 突然亀頭が乳首を引っ掛けた。

 

「ひゃっ!?」

 

 甲高い悲鳴。

 慌てて口を塞ごうとしても遅い。

 バルタザールの口元が歪む。

 

(今の声……誰のものなの?)

 

 信じられない思いで鏡面を見る。

 映り込んだ自分の顔は真っ赤になっていて

 普段なら絶対に出さないような表情だった。

 

「やっぱり感度良好だな」

 

 嬉々としてコメントするバルタザールに対し

 羞恥心で身を縮こまらせるしかないミミ。

 その様子さえも娯楽と捉える下衆の鑑。

 

 彼は両手を使いながら、丁寧に胸部を扱き上げてくる。

 人差し指と中指で円を描くように捏ねくり回し

 時には強く摘まんでみたり。

 

 乳暈が紅潮していくのがわかる。

 それに比例して体温も上昇していく。

 額に滲む汗と口腔内に溜まる唾液。

 乾きを潤すためにゴクリと喉を鳴らした瞬間──

 

 

 

(臭い……汚い……最低……!)

 

 否定しても拒否反応が表に出ない自分への落胆。

 何より悔しいのはこの臭気を受け入れてしまっている現実。

 むしろ甘露と勘違いしてしまう危険性すらある。

 

 竿を使って舌の根元を絡め取る技巧的な動き。

 次いで軟口蓋を擽るように亀頭で撫で回す悪戯心。

 執拗かつ丁寧な口腔内愛撫。

 酸欠寸前になった頃合いで漸く解放された時には

 ミミの四肢は弛緩していた。

 

 バルタザールは邪悪な笑みを浮かべると

 再び乳房への弄びを開始した。

 

 指先が這うように表面を撫でる。

 触れるか触れないかギリギリの距離感。

 焦らしプレイは繊細かつ大胆な技術が必要だが

 その点において彼の手腕は一流だった。

 

 ゾクゾクとした電流が走る。

 粟立つ皮膚。火照る躯幹。

 鼓動が加速するにつれて息苦しさを覚える。

 次第に喘ぎ声が漏れ始めるのも必然と言えた。

 

「随分と淫乱になったもんだなぁ?」

 

 嘲るような声音。

 しかし反論する気力すら湧いてこない。

 ただ恥ずかしさだけが募ってゆくばかりだ。

 

 バルタザールは相変わらず不埒な笑みを貼り、

 ウシ乳が作る極上の谷間に巨根を埋め、

 擦りつけながら、バルタザールは嬉しそうに言った。

「この極上のおっぱいを毎日好きなだけ堪能出来るなんて、

 ダレインワルド伯爵家当主冥利に尽きるというものだ。

 今日から雌奴隷として末永く私の仔を産み続よ」

「あっ♡あなたみたいなゲス野郎の種なんか♡いらな♡いっ♡」

 バルタザールは嗤いながら、激しく腰を振り始めた。

「嫌よ嫌よも好きのうち、とも言うが?」

「私はァっ♡ヒロ様のオンナぁっ、あぁっ♡」

 

 バルタザールは嗤いながら、激しく腰を振り始めた。

 彼の動きは荒々しく、しかし計算されたものだった。

 ミミの巨大な乳房を自在に操り、

 その谷間に嵌めたペニスを何度も往復させる。

 そのたびに乳肉が波打つ様は圧巻だった。

「おっ、おぅ! いいぞ! 最高だ!」

 バルタザールは歓喜の声を上げる。

 快感のあまり腰使いが荒くなっていたが、

 決して乱暴に扱うことはしなかった。

 むしろその緻密なテクニックによって

 ミミの肉体が更に敏感になっているように感じられた。

 

(なによこれ……気持ち悪い……)

 頭では嫌悪感を覚えているはずなのに

 どうしても乳房への刺激に集中してしまう自分がいる。

 しかも何故か下腹部までも疼き始めてしまったようだ。

 股間が濡れていることに気付いた時

 自分の体はどうかしてしまったのではないかと思った。

 

(こんな奴のせいで……私の体……おかしくなってる……)

 悔しさで涙が滲むがそれを拭うことも許されない。

 今はただこの恥辱に耐えるしかないのだ。

 

 バルタザールの腰遣いが徐々に速まっていく。

 それに合わせて乳房が激しく揺さぶられる。

 肌同士が擦れ合う音が響き渡る度

 何か大切なものが削り取られていくような錯覚に襲われる。

 

 ミミの豊満すぎる両乳肉。

 それに挟まれたペニスは怒涛の勢いで前後運動を続けていた。

 先走り汁が糸を引きながら地面へ滴り落ちていく様は

 何とも言えない背徳感を漂わせていた。

 

(私のオッパイ……もう、こんな奴を受け入れてる……)

 

 

 ミミの顔には困惑の色が濃く浮かんでいたが、

 それでも彼女は必死に抵抗しようと試みている。

 だが、その努力も空しく、

 バルタザールは容赦なく胸を揉みしだいていく。

 

(気持ち悪い……やめて……)

 心の中で何度も訴えるが、当然相手に届くはずもない。

 バルタザールはニヤリと笑うと、さらに強く揉み上げてきた。

 

「あっ……!」

 

 思わず声が漏れてしまう。

 その反応を楽しむようにバルタザールの手が蠢く。

 時に優しく撫でるように、時に強く抓るように……

 様々な愛撫の手法でミミを責め立てていった。

 

(だめ……そんな風に触られたら……)

 頭では拒絶しようとしているのに、体は正直に反応してしまう。

 バルタザールの指先一つ一つの動きに敏感に反応してしまい、

 次第に意識が朦朧としてきた。

 

 バルタザールの興奮を煽る行為である事は明白だったが、

 それでも今のミミには抗う術がない。

 彼女にとって唯一の希望と言えば

 一刻も早くこの時間が過ぎ去ってくれることくらいだった。

 

 耐え難い乳辱に晒されても、忌まわしい乳肉は従順に肉竿に奉仕する。

 豊満な乳房が歪み、揉み込まれる感触は、

 既にミミに新たな快感を芽生えさせていた。

 媚薬効果のせいか、

 それとも調教によって淫らに作り変えらた女体の性か、

 いずれにせよ、この忌々しい乳房は快感を与える性玩具となっていた。

 淫乱な肉に変わってゆくミミ。

 それを証明するかのように、

 バルタザールへの乳奉仕によって彼女の身体は淫熱に蕩ける。

 肌は艶やかさを増し、香り立つような芳香さえ漂わせた。

 全身に汗が滲み、瞳も脳もしっとりと濡れそぼって行く。

 息遣いも荒くなり、

 呼吸をする度に上下する膨らみの先端には紅梅の蕾が覗いていた。

 そして何より変貌を見せつけていたのは、彼女自身の淫唇であった。

 すでに溢れ出す蜜は下着を湿らせ、

 太ももの内側へ幾筋もの糸を引いて滴る。

「ふぁ……あぁぁ……ああっ……」

 無意識に零れる喘ぎ声。

 最早抗うことは不可能だった。

 

「フフッ、どうやら俺の子種を注いで貰いたくて仕方ないようだな」

 

 バルタザールは頭上から見下ろして囁く。

 その言葉に股間の前に跪いたミミの肩がビクリと震える。

 違う、と言ってやりたいが口を開けば嗚咽しか出て来ないだろう。

 

(お願いだから止めて……)

 

 切実な願いも虚しく、バルタザールはさらに激しく乳房を犯す。

 柔らかく弾力のある巨乳が歪む様はあまりにも扇情的だ。

 

 

 無意識に乳肉で竿を擦り、指で玉袋を捏ね、

 飛び出た亀頭を唇で愛撫しながら、

 鈴口を舌で穿り精液を啜るミミの性奴隷として調教され尽くした媚態。

 それはバルタザールにとって最高の愉悦であった。

 自らの凶悪な逸物を、かつて清純だったであろう娘が、

 まるで熟練の娼婦のごとく丹念に愛撫している。

 しかもそれが本人の意思とは無関係に、

 肉の記憶として刻み込まれた自動的な動きであるとすれば尚のことだ。

 

「ほう……なかなかどうして、素晴らしい奉仕だ。

 まるで高級娼館の人気娘のような吸いつきぶりじゃないか」

 バルタザールは喉の奥でクツクツと嗤いながら、

 眼下で揺れる巨乳と、その狭間に沈み込む己の怒張を見下ろした。

 柔らかくも張りのある乳肉が、

 唾液と先走りに塗れてヌラヌラと妖しい光沢を放っている。

 ミミの白い頬は火照り、

 薄桃色の唇からは短い喘ぎとともに透明な唾液が顎へ伝っていた。

 その潤んだ翡翠の瞳は焦点を結ばず、虚空を見つめている。

 

「だがなァ……無意識では及第点を与えられんな?」

 バルタザールはミミの顎を掴み、顔を上げさせた。

 涙に濡れた瞳が僅かに瞬き、怯えと屈辱の色を映す。

「そろそろ、貴様自身の意志で俺様を楽しませる番だ。

 ただ搾り取られるだけの道具になるつもりなら、それで結構。

 だが……そうだな? 

 お前の大事なお仲間を思い出しながら奉仕してみるのはどうだ? 

 あの可憐な銀髪のエルフ──エルマだったか? 

 彼女が同じように俺に奉仕する様を想像してみるとかな?」

 下卑た提案に、ミミの眉がピクリと跳ね上がる。

 脳裏に浮かんだのは、

 自分と同じように囚われた仲間の悲痛な叫びだった。

 途端に、ミミの抵抗する意志が火花のように蘇る。

 しかし―

 

「うぐっ……!?」

 

 突如、バルタザールがミミの頭を固定し、腰を突き出した。

 巨根の先端が喉奥に叩きつけられ、反射的に嘔吐きかける。

 涙と涎が飛び散り、苦悶の表情が歪む。

 

「おっと、悪い悪い。手が滑ってしまった」

 全く悪びれない謝罪の言葉と共に、

 バルタザールは再びミミの乳肉を弄び始めた。

 左右の乳房を交互に揉み込み、尖りきった桜色の先端を指で弾く。

 その度にミミの身体がビクンと痙攣し、

 奉仕を続ける唇から微かな呻きが漏れる。

「んぅ……ふ……う……」

 

「やはりこの感触が一番だ。見た目も手触りも一級品……

 まさに食用花肉か宝石箱だな」

 バルタザールはミミの片方の乳房を掬い上げるように持ち上げ、

 その重量感を楽しむと、空いた手で彼女の豊かな尻をわし掴みにした。

 むっちりとした柔肉が指の間から溢れんばかりだ。

 

 

 硬い竿が乳房の間を縦横無尽に滑り、

 その先端が時折ミミの顎や唇に触れようとする。

 ミミはそれを拒否したい衝動に駆られながらも、

 本能的に亀頭を捉えようと舌を伸ばしていた。

「んぅっ……!」

 

「さて、少し趣向を変えようか」

 飽きた玩具を床に落とすように言うと、

 バルタザールはミミの身体を仰向けに転がした。

 抵抗する力も気力もないミミはされるがままになる。

「四つん這いになれ」

 冷酷な命令に従い、震える手足でなんとか体を支える。

 剥き出しになった臀部がバルタザールに向かって高く掲げられた。

 巨大な影が覆いかぶさる気配に、ミミは固く目を瞑る。

 来るべき衝撃と痛みに備えて歯を食いしばった。

 しかし―

 

「お預けだ」

 

 バルタザールは言った。

 そして次の瞬間、ミミは信じられない感覚に襲われる。

 冷たく粘つく何かが、彼女の肛門から体内へ侵入してきたのだ。

「ひぃっ!? な……なにを……!!」

 驚愕と未知の恐怖にミミが悲鳴を上げる。

 バルタザールが持ってきたのは透明なジェルを注入する器具だった。

「これから本格的な調教のための下準備だ。

 お前のその小さな穴に特製の潤滑油と催淫成分をたっぷり送り込んでやる」

 器具がゆっくりと奥へ押し込まれる不快な圧迫感。

 冷たい液体が直腸内で蠢く異物感に鳥肌が立つ。

 

「やめて……ください……そんなところ……!!」

 必死の懇願も虚しく、バルタザールは器具のポンプを緩慢に押し続けた。

 時間をかけて丁寧に薬液が流し込まれていく。

「これからはここも可愛がってやると言っただろう? 

 感謝するといい。普通の男では到底出来ないような、特別な扱いをしてやる」

 バルタザールは器具を抜き去ると、

 指でミミの窄まりをなぞるように確かめた。

 そこは微かに湿り気を帯び、

 先ほどの薬液の効果なのか、ピクピクと小さく痙攣している。

「次は……こちらだ」

 無慈悲な宣言と共に、バルタザールはミミの前方へ回り込んだ。

 そして、ジェルで濡れそぼった指を、

 今度は彼女の最も敏感な割れ目へとゆっくり沈めていく。

 

「あっ……!? いっ……いやぁっ!!!」

 ヒロ以外のモノなど、指一本すら侵入を許したくなかった。

 だが、バルタザールの太い指は無遠慮に膣壁を探り、

 ある一点を探し当てると、執拗にそこを押し始めた。

 Gスポットと呼ばれる快楽の源泉を、

 爪が掠めるように何度も往復させる。

「ここだろう? 貴様が一番感じる場所は」

「やめてぇっ! そこ……だめなのぉっ!!」

 ミミの悲鳴はすぐに甘い喘ぎに変わっていく。

 全身が熱く火照り、汗が噴き出す。

 下腹部を中心に湧き上がる抗えない疼きに、

 膝がガクガクと震え始めた。

 

「いい声で啼くようになったじゃないか。

 だがまだ早い。もっと……もっとだ」

 バルタザールはもう片方の手でミミの勃起した陰核を摘み上げる。

「ひぎぃっ!!!」

 過敏になっている神経束が悲鳴を上げた。

 そのまま指の腹で押し潰し、円を描くようにこねくり回す。

 膣内と陰核への同時攻撃に、ミミの理性は霧散しかけていた。

「おねがい……もう……ゆるして……くださ……」

 切れ切れの哀願を聞き入れることなく、

 バルタザールはさらに深く指を潜り込ませ、

 鉤爪のように曲げて内部を引っ掻く。

「おおっ……!? うあっ!!!」

 ミミの身体が弓なりにしなり、

 大量の愛液と共に勢いよく潮が噴き出した。

「んん~!? んふぅっ!!!」

 堪えきれずに絶頂を迎えたミミは、

 ぐったりと四肢を投げ出して荒い呼吸を繰り返す。

 その虚ろな瞳にはもはや光が宿っていない。

 

「ハハハッ! 大洪水だな! 

 まさかここまで盛大に出してくれるとは思わなかったぞ!」

 バルタザールは愉快そうに笑いながら、

 指についたミミの体液を舐め取った。

 そして、まだ熱く脈打つ秘裂に、再び己の剛直を宛がう。

 今度こそ本番だ。

「さて、休憩は終わりだ。

 最後はちゃんと俺様を受け入れてもらわないとな?」

 その宣告に、ミミの中で何かが決定的に崩れ落ちる音が聞こえた気がした。

 もう抵抗する気力も、体力も残されていない。

 ただ、この終わらない悪夢が早く過ぎ去ってくれることだけを祈るしかない。

 しかし―

 

「ふむ……そういえば、時間も差し迫っていることだしな」

 バルタザールは唐突に言った。

 確かにシェルター内の電源は不安定であり、

 いつ完全停止してもおかしくない状況だ。

 それに撤収準備もある程度進んでいるのだろう。

「今回はこのくらいにしておくか……惜しいが」

 意外な言葉に、ミミはかすかな希望の光を見出した。

「本当……ですか……?」

 声を絞り出すように尋ねると、バルタザールはニヤリと笑う。

「ああ。ただし、相手次第だがな?」

「えっ……? 何を、言って─────────っ!?」

 

 

 電源システムの限界警告音がシェルター内に虚しく響く。

 薄暗い照明の下で、バルタザールはなおも余裕の笑みを浮かべていた。

 彼が掴んだミミの細い腕は、蛇に巻きつかれた蛙のごとく微かに震えている。

「どうだ? 少しばかり楽しい暇潰しになっていただろう」

 嘲るような声色が空気を濁す。

 

 その刹那──金属製扉が凄まじい音を立てて吹き飛んだ。

 砂塵の中に現れた漆黒の影は、夜が凝縮された塊のように静かに佇む。

 右手に握った大剣……エアスト・ノインが不気味な光を纏う。

「─────────死ね」

 

 澄み渡る程冷えた声音が響く。

 ヒロだ。いや違う、これは獣だ──獰猛な猟犬ではない。

 復讐心を糧にする鬼神だ。

 バルタザールの口角がぴくりと歪む。捕食者の笑み。

「はっ! 来たか愚かな青二才め!」

 

 

 ヒロは何も答えぬ。踏み込む一歩がコンクリートに罅を入れた。

 鋼鉄の床さえ呻く圧倒的質量。

 ミミの視界が涙で滲む。

 裸同然の姿で見下され……今さら降り注ぐ視線の拷問。

「お願い……ヒロさま……」

 蚊の鳴くような懇願も風圧で削られる。

 

 バルタザールの喉仏が愉悦に上下した。

「待っていたぞ、傭兵殿。

 姫君の調教劇を見届けずにお帰りかと思ったほどだ」

 指先でミミの顎を擽るとビクッと震え上がる。

「観客は多いほど華やぐというもの。さぁご覧あれ──―」

 

 光が閃いた。それは稲妻ではなく、閃光。

 ヒロの踏み込みが瞬時に距離を喰らい尽くす。

 しかし老練の刺客の如き動きでバルタザールが迎え撃つ。

 同時に抜き放たれた双剣の煌めきが空間を引き裂く。

 カァン! 甲高い衝撃音。

 振動で埃が雪のように舞い上がる。

 

「ほう……」

 バルタザールの双眸が初めて愉悦から訝しげに潜められる。

「……?」

 ヒロは答えない。

 ただ黒曜石の瞳で睨み据えるのみ。

 その肩越しに見えるミミは茫然と虚空を見つめていた。

 

 

 シェルターの崩壊寸前の空気が凍り付いた。

 ヒロの漆黒の瞳孔が針のように細まる。

 全身から漏れる殺気は灼熱の鉄臭を帯びていた。

 

(あのミミが……あの清楚なミミが……)

 

 怒りが胸中で蠢く。凝縮された憤怒は火山のマグマのようだった。

 見えない炎が皮膚を焼く錯覚。

 バルタザールに対する怨嗟が千匹の毒蛇となって血管を這う。

 

 ──―許さん。

 

 魂の奥底から沸騰した叫びだった。

 瞬間、空気が粘つく。不可視の牢獄が形成される! 

「ふむ……?」

 バルタザールの動きが止まった。

 四肢がガクンと痙攣。目に見えぬ腕が関節を締め上げる。

 サイオニックパワーで創られた「巨人の鎖」だ! 

 

「なるほど……?」

 

 侮蔑の言葉が途切れる。骨が軋む音が鮮明に響く。

 しかしヒロの眉間に皺が刻まれた。

 なぜなら———

 バルタザールの唇が不気味に吊り上がったのだ。

 

「これが我が愛しの剣士殿の全力か?」

 嘲笑混じりの吐息が空間を貫く。

「現代の騎士戦闘において最も幼稚な誤りだよ小僧!」

 

 轟音と共に不可視の枷が粉砕された。

 無効化能力。

 バルタザールが編み上げた超精密な魔力の断層が

 ヒロの思念波を微塵に切断する! 

 

「見てみろ」

 バルタザールはゆっくりと右腕を掲げた。

 掌を開閉させる動作だけで、鋼鉄壁に蜘蛛の網状の亀裂が走る。

「真正面からの思念拘束? 何千年前の骨董品だ」

 そも、現代の騎士戦闘における常識では

 ・遺伝子操作等で基礎身体能力を数十倍に跳ね上げ

 ・さらに苛烈な訓練と精神修養で洗練

 ・その上で魔力を一点集中させて身体強度と攻防力を限界突破

 

 ゆえに

「搦め手を弄するのは低級な連中の特権だ」

 

 バルタザールの左手が虚空を掠めた。

 指先が描いた弧に沿って剣閃が閃く! 

 真空の刃! しかも不可視!! 

 ヒロの耳元を音速の悲鳴が通過する! 

 

「驚いた顔をしているな?」

 達人は愉悦に顔を歪めた。

「これが真の「体術」よ。魔術なぞ介在せん。全てが己の血肉の結晶」

 

 床が震動した。

 バルタザールが僅かに左足をずらしただけで

 シェルター全域に地震が広がる! 

 まるで地面そのものが怯えているようだ。

 

「そして——」

 黒曜の大剣エアスト・ノインが唸った。

 だが斬撃は空間を捉える直前に消失する! 

 

「これこそが王道!」

 バルタザールの動きが忽然と消失する。

 否———位置だけが入れ替わる! 

 

「時間を捻じ曲げたわけではない。認識阻害でもない」

 歴戦の傭兵は得意げに告げる。

「単純な重心移動と視線誘導の組み合わせだ。

 万年以上前からある古典技法」

 

 ミミは恐怖に身震いした。

 自分を嬲っていた男が突如、別人になったかのようだ。

 ヒロでさえ微動だにせず受け止めざるを得ない威圧感。

 それが——余裕から生まれるものだと悟る。

 

「さて傭兵殿」

 バルタザールはミミの肩に再び触れかけたがすぐに離す。

「これから本題といこうではないか? お前のことは知っていた。

 正直、過大評価だと気にもしていなかったが……

 あの、ハシュマルを撃破したとなれば話は別だ。愉しませよ」

 

 

 シェルター内の空気が歪んだ。

 まるで異次元空間に迷い込んだかのような違和感が肌を刺す。

 バルタザールの双剣が双の腕の中で啼いている。

 黒檀の柄を握る手に脈打つのは千年の武芸と飽くなき野心。

 対峙するヒロは知らず知らずのうちに呼吸を止めていた。

 ──あまりに雄大な敵意が前方から押し寄せる。

 

(これは……殺気というより“風格”だ)

 彼は心底思った。

 一流の剣士が奏でる静寂のような威圧感。

 見る者が息を呑む荘厳さ。

 思わず膝を折ってしまいそうな畏怖を背骨が覚えている。

 

 バルタザールの眼光が銀河の深淵に似ている。

 遠き過去から未来まで貫く悠久の光。

 その双眸に映る自分は──

 さながら宵闇を彷徨う孤児の影法師だ。

 

 ミミの嗚咽が霧散しかけた理性を呼び醒ます。

 視界の隅で小さな頭がかすかに揺れている。

 剥き出しの肢体を覆う唯一の布切れはシーツ一枚。

 裾から零れる肌理細かい大腿部。

 そこに無数に咲いた紫色の花弁のような痕跡。

 

「…………」

 ヒロの喉が軋んだ。

 血が沸騰する。心臓が鉄槌のように胴体を打ち続ける。

 ──許さない。

 その思いが肺胞一つひとつに充満していく。

 義憤が形而上の武器となって肩に食い込む錯覚さえあった。

 

「見惚れてしまったかな?」

 バルタザールの嗤笑が糸のように空気を縫う。

「この剣捌きがそんなに珍しいか? まぁ仕方もなかろう。

 お前のような若輩者は知らないだろうが──」

 

 一閃流剣士の言葉は詩のように紡がれる。

「剣とはね……刃と刃を噛み合わせる野蛮なものではなく

 鞘中で眠る神性なのだよ」

 双剣を水平に翳す所作は祭司が捧げる祈りのごとし。

 その一挙手一投足に澱がない。

 

 ヒロは剣尖を俯かせたまま微動だにしない。

 耳朶を穿つ鼓動が煩わしい。

 ──焦るな。冷静になれ。

 何度も繰り返し唱えたはずの呪詞が溶けていく。

 眼前で震えるミミの影が思考を蝕んでいく。

 

「恐れるか? ……哀れよなぁ」

 バルタザールの声色が蜜のように甘くなる。

「お前の愛人は今もなお胎内を滴らせ続けているというのに……

 そんな腑抜けた表情を見せるとは失望したぞ」

 

 貴族の指がわずかに翻った。

 その刹那──ヒロの喉笛目掛けて不可視の斬撃が迸る! 

 虚空で鈍い火花が散る。

 辛うじて防いだのが功を奏したのか、

 服ごと皮膚が浅く裂けただけで済んだ。

 

(なんという速さだ……!)

 視認不能。察知不可能。回避困難。

 これが“一閃流”の正統か。

 だがそれ以前に──

 

 バルタザールの笑みがさらに濃くなった。

 恍惚とした表情で両腕を広げ、未熟な若者を称賛する。

「ほう! よくも避わしたものだ! まさしく天賦の才! 

 ……ならば次はどうだ?」

 

 右剣が稲光を帯びて唸る。

 残像が月光を斬る。旋風が壁面を削る。

 ヒロは咄嗟に姿勢を沈ませたものの──

 

「遅い」

 冷たい宣告とともに左剣が翻り、防御フィールドを貫通。

 金属鎧なら砕け散る衝撃が肺を押し潰す。

 息が止まる。意識が霞む。

 

 倒れ伏した床の冷たさを頬で感じる。

 ミミの啜り泣きが遥か遠くで響いてくる。

 視界に滲む汗粒の中に──血しぶきがあった。

 

 バルタザールは肩越しに顧みて舌舐めずりした。

「こんな脆弱な小鳥が御主人様とは嘆かわしい……

 なぁ? 我が奴隷になるはずの乙女よ」

 

 矛先をミミへ向ける。

 麗人に化けた猛禽は獲物へ忍び寄る捕食者の目つき。

 蒼白な顔で後退るミミ。

 怯えと涙が混在した瞳が焦点を失う。

 

(ダメだ……)

 

 思考の空白に激情が噴き上がる。

 ヒロは歯茎から出血するほどに牙を食い縛った。

 ──何故動かない? 

 筋肉のすべてを脳命令に従わせろ! 

 五感を研ぎ澄ませて咆哮しろ! 

 

「──ッあァアアア!!」

 迸る絶叫がシェルターを震撼させる。

 立ち上がる勢いで地響き。

 全身の毛穴から噴き出る蒸気に似た闘志。

 

「まだ立つか……!」

 バルタザールの口角が歪む。笑みの深さは悦楽そのもの。

「実に素晴らしい! やはりお前は私が求めた逸材だ!」

 

 両者の間隔が刹那で詰まる。

 金属同士の共振音が爆ぜる。

 火花が暗闇に花火を打ち上げる。

 呼吸の合間すらない連撃の嵐。

 

 しかしヒロの奥底にある燃え滾る炎──

 それは怒りと後悔の混濁した炉心だ。

 ミミを守れず卑劣な凌辱を許した己に対する激しい憤懣。

 

(絶対に許さん……)

 切っ先がバルタザールの袖を掠める。

 衣服の裂け目から覗く血管の隆起。

 尋常ならざる密度の筋肉がそこにある。

 

 バルタザールは片眉を吊り上げた。

「おいおい……ただの反撃にしては荒々しすぎるぞ? 

 まるでお伽噺の怪物だな」

 

 嘲笑には一切の油断がない。

 相対する若者は本能に目覚め始めているのだ。

 未熟さを補って余りある潜在能力が表層に顔を覗かせる兆し。

 

 ミミの唇から漏れる嗚咽が励ましとなった。

(必ず連れ帰る……)

 犠牲にした仲間を回収せずに去ることは許されない。

 その一心が泥沼のような倦怠を蹴散らす。

 

 バルタザールの右剣が陽炎のごとく踊る。

 瞬間──ヒロの足元に深い亀裂が走った! 

 衝撃波だけで大地を裂く膂力! 

 堪らず跳躍する青年。

 

 空中でバランスを崩しかけた刹那、

 左剣が円弧を描いて追尾してきた! 

 必殺の斬り落とし! 

 着地点で待っていたのは巨大な影───

 

「惜しい……!」

 バルタザールが両脚を広げて待ち構える姿勢。

 踵が石畳に深く埋まっていなければ致命的なタイミングだった。

 ヒロは脊椎反射で床と平行に身体を捻じり、

 宙返りしながら斬撃の軌道を逸らす。

 

 両者僅か数十センチの間合い。

 吐息すら交換可能な距離で睨み合う。

 バルタザールの漆黒の外套が幽かに靡く。

 そこへヒロの瞳孔が開ききった眼光が突き刺さる。

 

「来い」

 一言だった。

 それは死刑宣告にも挑戦状にも聴こえた。

 

 刹那──ヒロの躯が鋼の意志に乗せられる。

 ──吠えるような突進。

 ──疾駆のエネルギーを一点に凝縮。

 ──己の総身を弾丸に見立てた乾坤一擲の攻撃。

 

 バルタザールは胸郭いっぱいに息を吸い込み、

 愉悦で満たした声で高らかに宣言した。

 

「せいぜい足掻けよ、小僧! 

 私はお前の“終幕”を演劇のように彩ってやる!」

 

 二人の剣が交叉する。

 

 轟音がシェルター全域を振動させる。

 床板が粉砕され、壁の照明が破裂し、埃が渦巻く。

 互いの生命が刃を通じて螺旋を描くようだ。

 勝負はここからが序章なのか──? 

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 シェルターの重苦しい空気が凝結していた。

 壁には未だ乾かぬミミの涙が斑点になり、

 コンクリートの隙間からは湿り気を帯びた寒気が漂う。

 ここは封印された聖域──否、今は悪夢の舞台装置だ。

 

 バルタザールは悠然と両腕を組み、佇んでいる。

 黒檀の柄は漆黒の外套と一体化し、まるで四肢の一部の如く自然に見える。

 双剣は猫が爪を引っ込めたまま威嚇するような傲慢さだ。

 

「ふむ……」

 低く唸る声音には侮蔑すら含む温度がある。

「顔面が歪んでおるな。情欲に塗れし欲望か? 

 それとも愛する者を奪われし憤怒か? いずれにせよ──愚かな表情だ」

 

 彼の眼窩に潜む輝きは炉の中の炭火だ。

 何年も熾火のまま薪をくべ続けた結果生まれた劫火。

 それに対峙するヒロの瞳孔は今まさに開こうとしていた。

 血管中の血液が沸騰し、骨髄から湧き上がるのは灼熱の瘴気。

 

(……畜生ォ!!!)

 

 咆哮が喉の奥で炸裂する寸前──不意に愛剣《エア》が震えた。

 [エア:落ち着け相棒。感情任せでは敵の思うツボだぞ]

 

「うるさい!」

 ヒロの右手が痙攣する。

 感情のタガが外れれば理性が軽挙を招く。

 だが眼前の男は自分より遙か高位の剣士だ。

 知識も経験も力量も比較にならない。

 

 それでも──立ち止まればミミを再び犯される。

 自分の不甲斐なさが恋人を踏み台にする。

 もはや選択肢など存在しない。

 

「来い!」

 一喝と同時に突進を開始する。

 

 バルタザールの目尻が僅かに蠢く。

 待機していた捕食者は餌を見つけた猫科動物の如く嬉々として瞼を開く。

 左右の剣先が同時ではないズレた瞬時に動き出したのは計算ずくだ。

 一方は牽制のために緩く円を描きながら接近。

 もう一方は死角となる頭上から垂直落下という殺戮角度で降臨。

 

(くそったれェェェ!!)

 

 刹那的な決断。

 重心を地面に叩き付け右足裏で滑るように側方へ──

 耳朶を掠めるのは剃刀が擦過する怖気立つ感触。

 そのまま前傾して転がる身体が起き上がり様に剣尖を突き出す! 

 

 ギィィーン!! 

 

 鼓膜を劈く金鳴りとともに火花が霧散する。

 バルタザールは左手一本で払ったに過ぎなかった。

 しかも片脚すら揺らいでいない。

 

「……脆いな」

 

 嘲弄が粘つく唾と一緒に零れる。

 

 返答の代わりにヒロは地を蹴った。

 水平移動から斜め方向への直線切替。三度の急停止で軌跡を錯綜。

 さすがに老練の剣豪も目で追えないはず──

 

 ところが次の瞬間。

 バルタザールは顎髭を撫でながら右の剣だけを肩越しに投げたのだ! 

 

「…………ッ!?」

 

 視界を覆う灰色の鉄塊は投槍型弾丸と化しシェルター中央柱に激突。

 轟音が四重奏で炸裂し爆風が同心円に波紋を広げる。

 埃が煙幕となってヒロの退路さえ不明瞭に染める。

 

 [エア:まずいぞヒロ! 平衡感覚を潰された! ]

(わかってる……!)

 

 盲目状態で闇雲に振るった大刀が虚空を抉る。

 けれど手ごたえは何もない。

 いや正確には掌底が肘関節を押し留めた。

 肉と骨が軋む鈍痛が神経を貫く。

 

「ほう。咄嗟によく守ったものだ」

 バルタザールの哄笑は遥か上方から聞こえた。

 見上げれば空中で静止しているではないか。

 驚愕すべき剛力を以て天井に貼り付いているのか? 

 

 次の瞬間──雨粒の如き無数の斬閃が土煙を切り裂いて降り注いだ。

 刃先は天啓のように降臨し混凝土床に亀裂を与える。

 回避不能。被弾確実。

 

「エア! 全力で!」

 [了解! ≪ディース≫全出力解放!! ]

 

 煌々と虹色を帯びた剣閃が八方に迸る。

 存在意思から編み出される無限の束縛が

 虚空に糸のように張り巡らされる。

 一瞬遅れて降り注いだ斬雨──

 

「何ッ!?」

 バルタザールの口許に初めて驚きの色が覗いた。

 

 エアスト・ノインの剣身を中心に蜘蛛の巣のように広がる特殊障壁。

 虹色の薄膜は全ての質量を拒絶し完璧に弾き飛ばす。

 火花も悲鳴もなく冷徹な秩序のもとに排除された。

 

 [エア:これが真の防御術式。相棒を傷つけさせるものか]

 

「おもしろい」

 バルタザールの笑みは未だ健在。

 ヒロが負った無数の切り傷を存在意思の干渉による時間逆行で

 速やかに復元する様子を興味深く観察していた。

「良い相棒に恵まれたな、小僧。

 漢の価値は傅かせたオンナと信頼する戦友の質と量で決まる。

 量はまだまだだが、質はなかなかどうして……」

 本気の称賛、ただし上から目線に反吐が出るほどムカついても、

 何一つ反論など出来よう筈もない。力量差は明白だ。

 

 〈次はどうする〉

 そう言われているのが嫌と言うほど分かる。

 彼の目は獲物を甚振る狩猟者のそれだ。

 一滴ずつ生命力を搾り取るかのように愉しんでいる。

 

 ヒロは肺腑を震わせて息を整える。

 絶望で胃袋が捩じ切られそうだ。

 ──だがそれで終わるわけにはいかない。

 

 この戦いで大切なものを幾つも失った。

 しかし最も大きな喪失はまだ残っている。

 自分がここで沈むならば全てが無為になる。

 

(負けたくない……っ!)

 心臓が早鐘を打ち始める。

 毛細血管が痛みに疼く。

 骨と腱の結合部で火傷寸前の摩擦が生じている。

 

 不意にシェルター内の人工灯が点滅を始めた。

 非常通報システムが誤動作したのかそれとも故意か。

 どちらにせよ戦場に新たな混沌が混ざり込む。

 

 ヒロは地面を踏み砕くほどに足を踏ん張った。

 そして大刀を脇に抱えながら呟く。

 

「エア……あいつを削ろう。一太刀でなくてもいい。

 少しずつでも傷を蓄積させていけばチャンスはある」

 [了解だ。持久戦はこちらの得意分野だろう? ]

 

 バルタザールはそんな低能な算段などとっくに読み切っているだろう。

 それでも構わない。

 嗤わせないのがプロの矜持という奴だ。

 

「結構。では存分に踊れ。私の時間は有限故な」

 

 右肩を後方へ廻し上げるように双剣を交叉させ構え直す。

 それは狼が牙を剥く瞬間のごとき凶猛さを湛えている。

 

 戦闘再開の合図は──微かに砕け落ちた蛍光管の落下音。

 それが嵐の火蓋だった。

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 激怒の紅蓮は灼熱の炎となりて大気を焦がし、

 純粋な殺意は真空の刃と化して空気を裂く。

 

 ミミが戯れに穢され、メイは強奪され、

 クリスの小さな手も奪われた無力感が──

 ヒロの胸奥で黒く燃え盛る。

 

 その焔は剣となれり。

 大剣『エアスト・ノイン』を携え、

 蒼き月光を背景に咆哮と共に踊りかかった。

 

 

 

 金属の噛み合う音が甲高く木霊し、火花は銀河系のように拡がる。

 

 ヒロの剣閃は一直線──迅速だが単純明解。

 

 対するは双剣『バルタザール』の変幻自在の舞。

 

「愚かな……弱者が冷静さを欠いてどうする?」

 

 嘲笑と共に長剣が弧を描けば、稲妻より速く放たれる一閃。

 

 短剣が翻れば──虚空に蝶のように舞い散る残像のみ。

 

 攻撃の軌道は常に予測不可能。

 見る者の理解を超えし、摩訶不思議な変幻。

 

 ヒロの斬撃は紙一枚届かぬ内に弾かれ、反撃の刃は咽喉笛に触れんとする。

 

「エア! 防御結界!」

 

 叫びと同時──

 淡い虹色の六角形障壁が展開。

 

 だが、

 

「ソレはもう見た」

 

 バルタザールの指が僅かに動くだけで、

 継ぎ目を見破られた障壁は紙の如く破られ、返す刃が肩口を穿つ。

 

 鮮血が夜気に漂う香り。

 

 痛みと怒りが交差する中──エアの中性的な声が冷静に告げた。

【注意:敵性存在『バルタザール』の戦闘スキルは予想以上に優秀。

 こちらの攻撃・防御パターンを完全に把握されている】

 

「……知ってたよ」

 

 ヒロの唇から洩れる言葉は砂漠の砂のように乾いている。

 

 確かに自分は速い。

 確かに自分は強い。

 だが──眼前の怪物を前にしてはまるで赤子同然だ。

 

「挑戦者が臆しては勝ち目など無いぞ? 

 考える前に攻めよ、とは言わんが、引いた所で意味がない」

 

 挑発的に双剣をくるりと回す姿はまるで舞踏会での紳士。

 礼儀正しい嘲弄だった。

 

 ヒロの理性はなおも怒りの制御を求めるが──

 

 抑圧された激情はついに鎖を千切り、

 剣戟は更なる烈火となって噴き上がった。

 

 

 

 ヒロの大剣が唸りをあげて振り下ろされる。

 大地を割らんばかりの殺意渦巻く一撃。

 

 しかして──

 

 バルタザールの右手長剣は

 雷光のような迅捷さを伴い受け止め、

 左短剣はすでに喉元へ突き立てる角度で待機していた。

 

 間一髪──ヒロの身体が宙に浮く。

 エアの念動力が筋肉に干渉し回避。

 

 だが逃げ道を探る隙間さえ与えない。

 バルタザールの斬撃は螺旋を描きながら追尾してきた。

 

 空中で身を捻るヒロ。

 その背中を掠めた刃風は羽虫の翅を焼き払う熱を持っていた。

 

「動きが雑になってきたな……そろそろ限界か?」

 

「まだまだだ!」

 

 吼えた刹那──体内奥深くに眠る"サイオニック"の領域を開く。

 

 血液が沸騰し血管が脈動する感触。

 指先に凝縮された電子雲が青白い火花となって放電する。

 

 だが──

 

「ほう? まさか雷撃か?」

 バルタザールの双眸が愉悦に歪む。

「面白い。ならば受けて立とう」

 

 言うが早いが彼の両足が床を蹴り離れ、

 逆さまになった肉体が空中で旋回。

 

 長剣が鞘に戻され──否! 

 戻された鞘ごと投擲! 

 

 風車のように回転する鞘剣は盾となり雷撃を受け止める。

 

 眩い光の奔流が爆ぜてもなお鞘は砕けず。

 短剣だけが残るバルタザールは舞い降りてくる燕のように滑空し──

 

 ヒロの眉間へ正確無比の刺突! 

 

 その矛先を大剣『エアスト・ノイン』の柄頭が受け止める瞬間──

 

 鋼鉄と鋼鉄の悲鳴。

 衝撃でシェルター全体が揺れた。

 

「素晴らしい」

 バルタザールは微笑む。

「まさかここまで粘るとは思わなかった。

 では──第二幕といこうではないか」

 

(強さの年輪が違い過ぎる……!)

 バルタザールの重厚なソレと比べ、ヒロは薄っぺらく積み重ねがない。

 優れた才能も、強い意志も所詮はスペック。

 強さを形作るための素材に過ぎない。

 踏んだ場数と、苦難を乗り越えた自負のみが創る真の強さ。

 目的を実現する為の力─────────実力の決定的な差。

 

 

 それでもヒロは決して膝を折らない。

 涙も零さない。

 ただ──決意だけが漲っていた。

 

(守れなかった悔恨より……

 二度と繰り返さないための剣にする)

 

 次の一瞬──ヒロが踏み込む。

 血塗られた本能が理性を超えて剣に映る。

 

 バルタザールの両目に驚嘆が灯る。

 此処に着て限界を超えてきた若者に対する感嘆の念が募る。

 

 この男──まだ可能性を抱いているのか? 

 

 冷たい火花が弾け飛ぶ。

 シェルター内の照明が閃光と共に炸裂する。

 

 剣が疾る。

 刃と刃が衝突して昇華。

 世界を照らす新たな爆光の中で──二人の影だけが激しく溶融する。

 

 

 

 ヒロは己の中に湧き上がる“純粋な殺意”を否定しなくなった。

 ミミを玩具に玩弄され、メイを攫われ、クリスさえ護れなかった。

 己の無力さは既に骨身に沁みている。

 だが──それ以上に許せなかったのは、

 “強者”に臆して、戦えないことだ。

 

(お前は弱者だと言いたいんだろう? 俺はそんなものになるつもりはない)

 

 彼の魂の奥底で灼熱が揺らめく。

 それは義憤とも悲哀ともつかない熱き焔──

 ただ一つ確かなのは、黒竜王の如き執念が剣に宿り始めていることだった。

 

 エアスト・ノイン=エアは静観の構え。

 持ち主の激情を鎮めるよう勧めるどころか、

 

「感情は刃に乗る糧になる」

 そう低く呟くだけだった。

 

 ならば存分に滾らせてやろう──

 ヒロは咆哮と共に戦場を突貫する。

 大剣は月光を吸い込んで蒼き龍となった。

 

 一方──

 

 バルタザールは余裕綽々たる笑みを崩さない。

 双剣は銀河の星屑さながら煌めき舞う。

 彼にとってヒロは好敵手ですらなく、あくまで“駆け出し”だ。

 だが磨き抜かれた技巧は冷酷に冴え渡り続ける。

 

「急くな。急いでも拙速となるだけだ」

 

 彼の左手の短剣が突如宙に咲く花のように舞う。

 ヒロの視界が揺らいだ瞬間──死角へ潜む長剣が喉元へ! 

 

(見えている!!)

 

 エアの演算支援は最適化された回避路を提示。

 念動力が筋肉を加速させ身を沈ませる。

 紙一重で刃を避ける刹那──長剣が轟音と共に振り下ろされた! 

 

 コンクリート製の床が蜘蛛の巣状に断裂、粉塵が噴煙となって立ち込める。

 

「貴公の動きは素晴らしいが──」

 

 バルタザールの眼光が獲物を捉える猛禽さながら細められる。

 

「一手遅い。そして呼吸が荒れている」

 

 次の瞬間──ヒロの右肋骨に焼けるような激痛が走った。

 短剣が横薙ぎに振るわれたのだ。

 電磁障壁を切り裂かれた金切り音が耳朶を打つ。

 

 痛みに呻く暇さえ与えられず、バルタザールの連撃が雨霰のごとく降り注ぐ。

 

 長剣は天空からの彗星の如く落下し、

 短剣は稲妻のように跳ね上がって来る。

 

 ヒロの防戦一方。

 受けに受け──弾く度にエアの警告サインが点滅する。

 

【注意:エネルギー消費過多】

【緊急冷却プロセス開始──5%の戦闘能力低下】

 

「まだ……終わらせない……!」

 

 剣を振るう度に視界が霞む。

 体力消費とダメージ蓄積が限界に近づく中、

 ヒロの五感は極限にまで研ぎ澄まされていた。

 

 バルタザールの動作ひとつひとつの微細な軌跡を読み取る。

 重心移動。

 呼吸のタイミング。

 踏み込みの間合い。

 すべてが高速度カメラのように刻み込まれていく。

 

(わかる。奴の動きが見える!)

 

 バルタザールの右足が僅かに地面を擦る。

 長剣の突き出しが来る! 

 

 反射的にヒロは跳び退く──

 しかし、追撃する短剣が更に牙を剥く。

 

(来い!! ここだ!)

 

 思い切ってエアを脇から振るう。

 蒼銀の煌めきと共に刃は横薙ぎに駆け抜け、短剣と正面衝突。

 火花と共に互いの刀身が痺れるように震える。

 

「面白い!」

 

 バルタザールの嘲笑が響く。

 彼は短剣を引き戻すことなく──さらに押し込んできた。

 

 両者は激しく押し合う。

 刃と刃が鋼板に打ち付けられる摩擦音が室内を満たす。

 

 互いの膂力が拮抗。

 鍔迫り合いという名の緊張が続く──

 

(一瞬でも気を抜けば斬られる)

 

 ヒロの喉元に冷や汗が滲む。

 視界の端でバルタザールの口元が緩んでいるのが見える。

 

 だが彼は知らない──

 この膠着こそヒロが待ち望んだ千載一遇の好機であること。

 

 刹那──ヒロの全身に宿るサイオニック力が沸騰。

 指先から掌へ──掌から腕へ──腕から肘へ──肘から肩へ──

 そして胸郭から腹部を通って背骨へ──

 

 電気信号を超えたエネルギー奔流が体内を駆け巡る。

 エアの念動力操作と結合し、四肢全てを増幅装置とする。

 

「行くぞぉぉぉっ!!」

 

 雄叫びと共にヒロの全身が蒼白く光る。

 エアの大剣が碧き嵐となって吠える。

 その圧倒的な質量と力場がバルタザールの短剣を弾き飛ばした! 

 

「なにっ!?」

 

 初めて驚愕の表情を浮かべる貴公子。

 だが、一瞬の躊躇など許さない。

 ヒロの怒涛の追撃が始まった。

 

 縦横無尽に振るわれる大剣は嵐。

 風は真空を抉り、空気抵抗を置き去りにする。

 

 バルタザールは回避を余儀なくされるが──

 防御側へ回った時点で優位性は崩れる。

 

「エア! 次元障壁解除──全エネルギーで斬撃!!」

 

「了承──最大出力解放」

 

 大剣全体が純白に輝き始める。

 光の洪水が溢れ出し、刃先には超高密度のエネルギー塊が形成される。

 

 ヒロが渾身の一撃を振り下ろす─────────

 

 ……無音。

 ヒロも、エアですら驚愕のあまり絶句した。

 直撃すれば戦艦すら撃沈しうるエネルギーを、

 眼の前の剣士は鼻歌交じりで受け流し無力化したのだ。

 

「先程の攻防は中々だったぞ。折角、お前にも理解しやすいように

 足捌きを含めて理解りやすく戦ってやっているのだ。

 精々、学んで私を愉しませよ……」

 念動力で短剣を回収しつつの言葉に、身体が腐れ落ちそうな脱力感が襲う。

 

 この程度の練度では、

 俺如きは彼にとっては蝿か虫以下だと言外に言われたに等しい。

 

「どうした? 根拠のない過信だけがお前の取り柄だろうに」

 

 彼は、そう言って微笑を浮かべたまま軽く上段から叩き付ける。

 凄まじい衝撃がヒロの体を襲う。

 大剣で受けても尚、体は浮き上がり、肺の空気が押し出された。

 視界が白くなりかける中、彼は何とか意識を保つと反撃に出る。

 しかし、彼の攻撃は全て読まれたようにいなされてしまう。

 その度に、反撃の短剣が体に突き立てられる。

 徐々に血塗れになりつつあるヒロを見て、バルタザールは小さく呟いた。

「そろそろ終いか──」

 それは勝利宣言以外の何物でも無かった。

 だが、それを聞いたヒロの瞳に宿る光は消えなかった。

 寧ろ、より強く燃え上がっていく。

 

「そうだ、まだ折れるな……玩具は丈夫でこそ、だ」

 

 バルタザールは楽しげに笑うと、姿勢を低くした。

 その刹那───彼の身体の陰に隠れた短剣が閃く。

 咄嵯に大剣で防いだものの、腕に伝わる衝撃だけで腕が痺れそうになる。

 辛うじて致命傷を避ける事が出来たが、

 今度は逆方向から剣戟が迫ってくる。

 それを紙一重で避けると、そのまま大剣を横薙ぎに払う。

 しかし、それすらも掻い潜られてしまった。

 代わりに胴体に入った蹴りによって吹き飛ばされてしまう。

 

「ゴホッ……!」

 

 咳と共に吐血してしまうものの、すぐに起き上がり構え直す。

 

「そうだ、動きを、思考を止めるな。

 常に回して焼き付いても唯、愚直に立ち上がれ」

 

 ……バルタザールにとって、コレは余興。

 暇潰しに剣術の稽古をつけてやっている程度の戯言なのだろう。

 

 

 それでも、ヒロは立ち向かうしかない。

 此処で負けてしまえば全てを喪う。

 家族同然の仲間達も───……今まで積み重ねてきた何もかもを! 

 

「俺が、勝ってやる───っ!!」

 雄叫びと共に、ヒロは地面を蹴った。

 そして、一直線に向かうと渾身の力を込めた一撃を放つ。

 しかし───その攻撃もやはり読んでいたかのように難無く避けられる。

 しかし、それは計算通りだった。

 寧ろ、避けられると思っていたからこそ、態と隙を見せていたのだ。

 案の定、誘いに乗ってきたバルタザールに向けて左手を翳す。

 そこからは眩い光が放たれ、それに合わせるように大剣が閃いた。

「騎士戦闘の常識は教えたと思っていたがな? 

 その手の能力は結局効率が悪く、無駄だ……!」

 

 お仕置きを込めた強力な斬撃を受けようとしたが、力を電撃に変換した分、

 強化率が下がってしまい抵抗すらできず吹き飛ばされる。

 壁に激突しそうになると、

 咄嗟に念動力で体を包み込み衝撃を和らげる。

「ふむ、使い方が下手糞だが、工夫だけは一人前だな」

 バルタザールは鼻で笑いながらゆっくりと歩いてくる。

 その足取りはまるで散歩をしているかのようだった。

「さて、そろそろ終わりにしようか」

 

 そう言った瞬間───彼の姿が消えた。

 否、正確には超高速移動により見えなくなっただけだ。

 時間間隔の遅延を行っていてさえ見失う超絶の速度。

 次の瞬間には眼前まで接近していた。

 反射的に大剣を構えたものの間に合わず、

 腹部に強烈な蹴りを食らってしまう。

 胃液混じりの唾液を撒き散らしながら数m程吹き飛ばされる。

 なんとか着地すると、片膝を付いて苦し気に息をする。

 その隙を見逃す筈もなく、すぐさま距離を詰められる。

 咄嵯に大剣を横薙ぎに振るうものの簡単に躱されてしまい、

 逆に懐へ潜り込まれてしまう。

 そして───容赦無く拳が振り抜かれた。

 バギィッ!! という骨の砕ける音と共に頬に衝撃が走る。

 同時に口内が切れたのか鉄臭さが充満していく。

 

「ゲホォッ……!」

 

 口から鮮血を撒き散らしながら、必死にバルタザールの姿を探すも

 視界にすら捉えることができずに一方的に殴られ、蹴られ、吹き飛ばされる。

 

 まるで赤子のように弄ばれてしまっている状況に歯噛みするが、

 

 もう、身体が動かない……。

 意識を手放しそうになるが、辛うじて繋ぎ止める。

 そんなヒロを見下ろしながら、バルタザールは残酷な宣告を下す。

「それじゃあ───次はどうする?」

 

 そう言うと彼は短剣を構え───一気に踏み込んで来た。

 恐らく全力の一撃が放たれようとしている。

 それを察知したヒロは大剣を盾代わりにして防御体勢に入る。

 

 刹那───景色が歪んだ気がした。

 気付いた時には既に眼前にバルタザールの姿があった。

 慌てて雑になった受けなど容易く掻い潜られ、

 そして───強烈な衝撃が腹部を貫いた。

 

「がはっ……!?」

 

 内臓が破裂したのではないかと思うほどの激痛に襲われる中、

 短剣から迸る波紋が全身を共鳴させ、心身を崩壊させんと襲い来る。

 

 

 

 シェルター内の空気が歪んだ。

 否──錯覚ではない。

 バルタザールの短剣から迸る波紋が空間すら制したのだ。

 

 

 〈馬鹿な……何だこれは? 〉

 

 物質の最小単位であり絶対不壊であると証明された存在意思すら揺るがし砕く、

 超古代文明の技術の粋であるエアですら理解不能な現象。

 

 理外の所業に存在意思による時間逆行すら乱れ、

 ヒロの肉体の復元に支障が出てしまいエアは必死に打開策を探る。

 

 

《──警告。現在進行中の現象は記録上のいかなる攻撃と一致しません。

 未知の原理による時間操作の痕跡を検出。

 緊急解析コード:Ragnarok_Override_β を実行──》

《解析不能──》

《再実行──再試行──》

 

 エアの電子頭脳が過負荷で軋むような幻聴が響く。

 それほどまでに今まさにヒロの全身を蝕んでいるダメージは

 エアの知識体系には存在しないものなのだろう。

 

「ぐぅっ……! ごぼっ……⁉」

 

 喉奥から沸き上がる灼熱の塊──血液が堰を切ったように吐き出される。

 全身の毛細血管が焼かれ、組織が煮え滾るような錯覚に襲われる。

 

「時間を掛けて痛みに慣らせて愉しむつもりだったが……」

 

 

 バルタザールの愉悦混じりの呟きは、ヒロの耳朶に冷たく刺さる。

 ヒロは己が知らない理不尽に対する畏怖より、

 大切な人々を奪った敵に対する激烈な殺意の方が

 遥かに強い感情として湧き上がる。

 

「がァァァァッ!!」

 

 荒縄のごとき怒号と共に右脚で床板を蹴り千切る。

 木屑が星屑のように舞う中を奮然と立ち上がるヒロ。

 

「ほう──まだ動けるか」

 

 侮蔑ではなく純粋な好奇心に満ちた声音。

 それが一層ヒロの逆鱗を抉る。

 

「……許さん……お前だけは……必ず……!」

 

 言葉は掠れているのに眼光だけは燃え盛る炉心のごとく赫々と輝く。

 彼の左掌から蒼白い稲妻が迸り虚空を穿つ。

 

「だから、何度言わせる。学習能力がないのか?」

 

 最早、剣すら振るわずに、無造作に無効化される紫電。

 ヒロのサイオニックパワーによる波長を完全に掴まれた今、

 遠距離攻撃は全くの無意味だ。

 

 

「ならば……ッ!」

 

 意表を突くように前転──畳一枚分の距離を詰め込む。

 右半身に捻りを加え、残る全生命力を込めて上段から大剣を振り降ろす。

 刃が裂いた空気に火花が散る。

 

「愚か者の極みだな」

 

 だが、その渾身の一撃すら紙一枚の僅差で回避されてしまった。

 代わりに受け止めたのは──虚空を埋める真空の領域。

 ヒロの大剣が突然減速し、無気味な軋みを立て始める。

 

《警告。物体透過現象を検出。

 エアの断熱機構を侵食──内部温度上昇中》

 

 エアの悲鳴染みた報告。

 大剣は確かに空間を斬ったはずなのに、その刃が虚空そのものに拒まれる。

 まるで幽霊を斬る徒労感。

 

「ペナルティだ──」

 

 バルタザールの右手に灯る禍々しい光斑が波紋となって空間を伝播する。

 刹那──ヒロの右腕が筋肉組織ごと崩れ落ちた。

 

「──ッ!?」

 

 切断でも断裂でもない。

 事象そのものが“なかった”ことにされる静寂な破壊。

 空間自体を後退させたとしか思えない不可思議な力学に呑み込まれ、

 

「腕が……俺の腕が……ッ!」

 

 

 あまりの唐突さに叫びすら追いつかない。恐慌だけが理性を駆逐する。

 

「そうだ。これが一閃の応用──未来における到達点を崩し、過去から切除する。

 言ってみれば、“時”を削る剣だ。まぁ、一種の手品、お遊びだな。

 こんな事をする位なら、普通に斬れば良い」

 

 バルタザールは慈愛すら含ませて言う。

 その言葉一つ一つが呪いのように鼓膜にこびりつく。

 

「そんな……あり得ねぇ……!」

 

 しかし否定はすぐに確信へ変わる。

 だってこの瞬間の肉体の痛みこそが嘘偽りのない現実。

 右腕を失った喪失感。灼熱を伴う激痛。

 肩口から噴出する鮮血の温もり──すべてが五感を圧倒する。

 

「ああ──痛いだろう? だが安心しろ。

 君の可愛い女共も同じように痛みの中で堕ちたのだからな。

 その時はもっと優しく介添えをしてやったがね」

 バルタザールは朗笑と共に吐き捨てる。

 それは最大限の挑発であり、決定的な侮辱だった。

 

「ふざけるなぁぁぁァッ!!!」

 

 怒号が金属壁を震わせる。

 恐怖よりも恥辱が限界を超え、ヒロは足裏で焦げた地面を滑走した。

 一歩、二歩──加速。重心移動も呼吸すら置き去りにする無理矢理の吶喊。

 残された左腕一本でエアを振るう。

 

「まだ駆けるか……良かろう。その勇気に免じて──」

 

 バルタザールの漆黒の両眼が針のように細くなる。

 次の瞬間──短剣が虚空を撫でたのみ。

 ただそれだけでヒロの四肢すべてがバラバラになったかのような錯覚。

 脊椎を通じて脳幹まで走る衝撃。

 脳震盪よりも凄まじい精神的な死に瀕した感覚。

 

「……がっ……ァ……」

 

 膝から崩折れる。

 視界が螺旋状に渦巻く。

 平衡感覚どころか方向感覚さえ消失した虚無の中、

 

「理解できぬか? 一閃流の深奥は物質論では解釈できないと。

 真の一閃は質量以前に全てを断ち切る。

 故に君の持つどんな神秘の鎧も盾も意味をなさない。

 絶望しろ──そして跪け」

 

 宣告が鉛のごとく降り注ぐ。

 だが──

 

「────まだ……だ……」

 

 ヒロの奥歯が噛み合わずガチャガチャと鳴る。

 血痰塗れの口腔が吐き出す言葉は、それでもなお屈服を拒む。

 そこには種としての矜持すら超えた執念があった。

 

「ほう……次はどのように殺してくれと言うのだ?」

 

「……お前の首を刎ねる……!」

 

 呻きながらもエアを杖代わりに起き上がろうとする。

 だが、立つどころか視界すら定まらない。

 吐瀉物と涙と血の混合液が顎を滴る不快感だけが鮮烈すぎる現実。

 

「無様だな。哀れなものだよ。

 君のような虫けら如きが神話の土俵に上がる資格はない」

 

 バルタザールの靴底がヒロの顔面を踏み躙る。

 屈辱。無力感。それらが煮凝って純粋な殺意となる。

 臓腑が沸騰し、骨髄から憤怒が迸る。

 

「ゴ……ゲェ……ッ!」

 

 声にならない叫び。

 しかし肉体は答えずにいる──というより壊されている。

 肋骨三本骨折。右肺挫傷。肝臓破裂。

 常人なら即死の傷を抱えながらも、意識だけが奇妙に澄んでいる。

 

「諦めろ──と言ったら君はどうする? 

 やはり“死”を選ぶか? それとも──」

 

 そのとき、ヒロの額から零れた汗が蒸発した。

 ──微かな嗤いが漏れる。

 

「死ぬのは……お前だッ!」

 

 枯れ枝のような左腕が痙攣しながらエアを掲げる。

 存在意思を収束──指向性エネルギーへ変換。

 唯一残された手段──《ディース》による時間遡行治癒ではなく、

 質量崩壊による全方位砲撃。

 

「《ディース・ホライゾン》──!」

 

 空間が胎動し始めた。質量と情報の飽和。

 バルタザールが初めて眉を寄せる。

 

「ふむ……面白そうだ。受けて立とうか」

 

 バルタザールは動じないどころか愉しんでいるようだった。

 この状況で笑みを湛える余裕は、恐怖以外の何物でもない。

 それでも、ヒロは最後の抵抗を続ける。

 

「うおおぉおぉぉ──ー!!」

 

 雄叫びと共に放たれた粒子嵐。

 シェルター内部の壁面を貫通し、隣室まで粉砕する大爆発──

 

 ───筈だったが……

 

 爆発は無かった。

 

 ヒロの全身からエアへと集められた莫大なエネルギーが、

 虚空に放たれる寸前で霧散したのだ。

 

「──何……だ……と……?」

 

 理解が及ばない。目論見通りのエネルギー量だった筈だ。

 

 ……一閃。

 

 

 

 全てを破却する反物質すら一方的に切り捨てられる絶望の光景。

 

 血煙が虚空に咲く。

 

 ヒロの胸腔が異様な音を立てて裂けた。

 鋼鉄の鳥肌が背筋を這い上がる。

 眼前の男──バルタザールの片眉が上がる動作さえ、

 百万の毒蛇が蠢くより恐ろしい。

 

「……ふん。ここまでか」

 舌先で唇を舐める所作は洗練された残酷さそのものだ。

 

 〈ズドォォン!! 〉

 

 無慈悲な衝撃が肺腑を貫く。

 壁に叩き付けられた衝撃で肋骨が悲鳴を上げ、

 肺胞から逆流する血塊が喉を焼き切る。

 

「げほっ……! が……あ……!」

 虚空に向かって咳き込む度に宝石のような血珠が散る。

 意識が霞む隙間から、忌まわしき妄想がうかびあがった。

 

「……や……め……ろ……」

 ──ミミの艶やかな亜麻色の髪が乱れ狂う。

 ──クリスのか細い嗚咽が硝煙の中に溶ける。

 ──メイの無機質な美貌が歪み、肢体が無惨に捻じ曲がる。

 

「何が『やめろ』だ?」

 

 バルタザールの嘲笑が耳朶を抉る。

 長剣が月光を呑み込み、ヒロの喉元に冷たく煌めく。

 

「お前如きに止まると思うか?」

 

 その刹那──

 

「待て」

 不意に響いた静寂の声が全てを鎮めた。

 震源はヒロの手元の大剣─────────

 

「……ほう?」

 バルタザールが珍しく愉悦を抑えた表情で剣を収める。

 

 〈ギィィ……ン! 〉

 異質な金属音と共にエアスト・ノインが解放される。

 空間が軋みを上げ、

 銀河の古傷すら晒されそうになる膨大な想念が渦を巻く。

 

「──時を停める」

 宣言と共に全宇宙の歯車が停止した。

 〈ピタッ〉

 風さえ固まった真空の中にただ一つ動く存在がある。

 バルタザールだ。

 

「主従揃ってアホなのか?」

 時間停止などありきたりな事象など、高位騎士に通用する筈も無し。

 数千年前に証明された常識だが─────────

「あぁ、お前は数万年前に滅んだ古代文明の遺失物だったか……

 ならば、知らぬのも無理は有るまい。

 カスのような技術しか持たぬ失敗人類が創った時代遅れの骨董品ではなぁ?」

 

 己が切り札すら無価値と断じられ、

 自らに命運を託した文明すら侮辱される屈辱。

 ナニかを言い返したくとも蓄積ダメージと、

 時間停止の高負荷でシャットダウン寸前のエアスト・ノインは無力だった。

【済まない……ヒロ】

 

 何もかも否定された剣は、失意のまま物言わぬ塊へと成り下がった。

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 シェルター内部は血と鉄粉が混ざり合う奈落と化していた。

 コンクリート壁に無数の爪痕が走り、

 床には焦げ付いた肉片が花弁のように散らばる。

 ここはもはや安全な避難所ではない。

 暴力そのものが住み着いた怪物の胃袋だ。

 

「……はぁっ……!」

 

 ヒロの吐息は白い霧となって虚空に消える。

 彼の右腕は最初から存在しなかったように消え失せ、

 左足は不自然な角度で曲がったまま痙攣していた。

 それでも瞳だけは炎のごとく燃え盛る。

 

(畜生……ミミ……)

 

 思い出したのは三十分ほど前のこと。

 バルタザール配下の兵士たちに囲まれたとき、ミミは抵抗しなかった。

 むしろ微笑みすら浮かべていた。

 

『ごめんなさい、ヒロ様……』

 

 あの小さな掌が彼の頬に触れる感触。

 温かいはずなのに氷のように冷たく感じられた。

 次の瞬間、兵士たちが一斉に彼女を取り囲み—

 

「やめろぉぉぉ!!」

 

 ヒロの咆哮も空しく、ミミの衣服は千切れ飛んだ。

 白磁のような肌が露出し、嬌声とともに押し潰される。

 まさに目の前で—最悪な光景が展開されたのだ。

 

(許さん……!)

 

 沸騰する怒気が血管を駆け巡る。

 全身の毛穴から蒸気が噴き出しそうな錯覚すら覚える。

 しかし相手はそんな激情すら冷静に受け止めた。

 

「まだ吠えるのか」

 

 バルタザールは余裕しゃくしゃくで片膝をついた姿勢から立ち上がる。

 その動作だけでも芸術的だった。

 燕尾服の裾が微風に靡き、双刃が月光を跳ね返す。

 

「クリスは我が旗艦でおとなしく待機している。メイも同様だ。

 貴殿の大事な女性陣はすでに包囲網の中だというのに、

 なぜなおも抵抗を続ける?」

 

 嘲弄するような問い掛け。しかしヒロの答えは簡潔だった。

 

「殺す……!!」

 

 純然たる殺意だけが彼の思考を占有する。

 四肢の痛みも疲労も全て塗り潰される。

 唯一残るのはバルタザールに対する底なし沼のような憎悪のみ。

 

「ふぅん……実に原始的だ」

 

 バルタザールは興味深そうに顎鬚を摘む。

「まぁ、こんなモノか……

『主人公補正』とやらが発動するものと思っていたのだがな」

 

 愛する女を眼前で輪姦されても、

 身動ぎ一つできぬのでは最早どうしようも有るまい。

 気力は有るが、逆に言えば気力しか無い出涸らしが今のヒロなのだ。

 そもそも彼の肉体は既に修復不可能な域にまで崩壊していた。

 皮膚の下を血管が透けて見えるほど衰弱し、骨盤は砕けかけている。

 指一本動かすことすら困難なのだ。

 精神だけで耐え続けた戦闘がついに終わりを迎えた今、

 僅かに残されたプライドだけが彼を支えていた。

 しかしバルタザールにとってそれは塵芥同然である。

 哀れな獲物を眺める狩猟者の目が語るのは残酷な現実だった。

 

 そのような残骸よりも、つい先程、

 メイをエルマに奪還されたという報告の方が遥かに興味深い。

 

 取り巻き連中も含めて負傷者が多数いるという報告から察するに、

 相当な被害が出ていることは明白だ。

 

(まったく厄介な女だ……)

 多少の損害など些事に過ぎぬはずだった。

 手足であり魂を分かち合った戦友たる部下ならばともかく、

 臨時で雇ったチンピラなど、例え全滅しようと

 痛痒すら感じぬのがバルタザールという男なのだから。

 ただ一つ気にかかるのは、このタイミングでの脱出劇──

 あまりにも出来過ぎているということだ。

 

 まるでこちらの布陣を事前に読み抜かれているかのような鮮やかな手際。

 エルマという女が天才か狂人のいずれかであることは疑いないだろう。

 

 あわよくばエルフを捕らえようと欲をかいたバルタザールの油断、

 疑いようのない失策であろう。

 

「チンピラはともかく、我が部下は復帰可能な程度、か……」 

 

 あからさまなメッセージだ。

 私はお前の部下を生かして返したが、アンタはどうなの? と。

 

 ミミはともかく、ヒロに止めを刺すことは、最早できない。

 鮮やかな判断力に敵ながら天晴と感嘆の念を抱く。

 エルマとかいう女のヒロに対する恋慕は偽りではなく、

 純粋な愛情なのだろう。

 だからこそこのような博打に出ることができたのだ。

 ヒロを守るためにあえて敵陣に飛び込む度胸。

 そしてそれを支える強い意志。

 完遂させてしまう実力。

 見事と言う他に無い。

 

(まぁ、ここまでだな)

 

 溜め息とともに双刃を鞘へと納める。

 これ以上の深追いは愚の骨頂。

 それにしても惜しい人材だと思った。

 もっと早ければ───

 例えば、ランベールと同じタイミングで出会っていたならば、

 己の傘下に加えていただろうに……

 

 バルタザールの思惑通りに事が運んだわけではないものの、

 ほぼ完全勝利と言って差し支えない。

 クリスを手中に収め、機械知性の弱みも握った。

 犠牲者は最低限に抑え、目的も十二分に達成したと言えるだろう。

 

 おまけのミミも確保でき、ヒロともそれなりに愉しんだ。

 

「さて……」

 

 シェルター内に静寂が訪れ、

 バルタザールの呟きだけが響き渡る。

 ゆっくりと踵を返し始めた将軍の耳に、

 

「待ちやがれ……!」

 

 消え入りそうな怨嗟の叫びが届いた。

 振り向けばそこにいたのは瀕死の男だ。

 呼吸は浅く速くなり、瞳孔は拡大していた。

 明らかに生命力の灯火が消えかかっている。

 

(哀れな……)

 

 同情するつもりはない。敵は敵として容赦なく叩き潰すべきである。

 しかし───

 ヒロの眼光だけは不屈の炎のように煌めき続けていた。

 どんな状況にあっても折れない芯がある男。

 そんな男が必死に訴えてくる姿には妙な魅力があった。

 

「……ふむ」

 一瞬、沈思黙考。それから彼はゆっくりと歩み寄る。

 跪くわけでもなく、ましてや慈悲を与えるわけでもない。

 ただ静かに

「クリスは現在、特殊なカプセルに放り込んである。

 遅くとも、1ヶ月後には、私との間に生まれた赤子を抱いて解放だ」

「なっ……!?」

 悍ましい宣告に背筋が凍りつく。

「堕胎可能なリミットは2週間、3週はないと思え」

 

 ……戯れか、或いは期待か。

 自分ですら判然としない衝動に任せた挑発に苦笑が溢れる。

 ─────────私は存外、主人公というものに憧れていたらしい

 

 

「次に会う時は、貴殿を最大限に楽しませてあげよう」

 そう言い残すと、今度こそ立ち去ろうと背を向けた。

「その時までせいぜい励むといい。取り戻したいものが有るのだろう?」

 

 バルタザールはそのまま出口へ向かった。

 

 後に残されたのは廃人と化したヒロと、

 彼の視界に映る床に落ちた魔剣だけだった。

 

 

 

更新希望の原作

  • 世界最高の暗殺者、異世界貴族に転生する
  • 最強出涸らし皇子の暗躍帝位争い
  • 片田舎のおっさん、剣聖になる
  • リアデイルの大地にて
  • 俺は星間国家の悪徳領主!
  • リビティウム皇国のブタクサ姫
  • 転生王女と天才令嬢の魔法革命
  • ロクでなし魔術講師と禁忌教典
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