ダークエロ短編集3 作:カード読み込み
宇宙海賊ゲドの人生回想 ~血潮に刻まれた黄金律~
艦橋に漂う薄闇は、まるで忘却の海底だった。
窓外に煌めく銀河は、無数の物語の残響である。
今宵ばかりは豪快無双たる我らが海賊艦〈シルヴァースター〉も静寂を宿している
──ただ一人、航海日誌代わりに思い出を再生しようとする愚かなオーガを除いて。
ゲドは艦橋中央に据えた巨大な楕円椅子に腰を沈め、
両脚を低いテーブルに乗せて揺蕩っていた。
酒精の匂いがまだ喉奥にくすぶっている。
先ほどまで浴びるように飲んだ安い焼酎(サイドワインダー7号)だ。
だがそれは恐怖を紛らわすよりも、
逆に胸底に眠る痛みを鋭敏化させる毒となった。
耳鳴りは幼い日の鈍鼓のようだ。
鼓膜を震わすのは銃声か? いや違う。
あれは……祝福の咆哮──俺が初めて狩猟槍を掲げた夜の祝宴──
記憶の奔流が止まらない。
こうして酔った夜だけは、忘れようと努めてきた故郷の影が瞼裏へ鮮明に甦るのだ。
◇◇◇
【栄光】
惑星タル=ゼファロス第六環礁、漆黒の火山島ラグ=オルガ。
そこでゲドは“偉大なる父”ヴァシャウのもとに生まれ落ちた。
胎盤を踏み破る勢いで産声をあげた仔は麒麟児という太鼓判を押され、
誕生の翌朝には大鹿を屠ったという俗説さえ残っている。
本当にそうならどれほど滑稽か──否、事実なのだ。
彼自身も笑ってしまうが幼時の膂力は常軌を超え、
“戦棍を振らせれば岩山を穿つ”と言われたほどだ。
六歳で投擲競技会に立った夏──
黄昏色の空へ吸い込まれていく石槍を見て老剣士ガモラが呻く。
「矢継早に風穴を開ける神風よ」
十三の春、百狼の群を単身薙ぎ払い帰還すると
族内最年長の呪師が眉間に皺を寄せた。
「運命はおぬしを殺し損ねたらしい」
少年期にして死を嘲る剛胆を覚えてしまった理由はそこにある。
人はいつか終焉を迎える儚き生物だ。
なのに剣戟ひとつで幾千の明日を買い取れるという確証──
それが彼から怯懦という概念を剥ぎ取ってしまった。
転機は十八になった晩秋のことだ。
星雲航路から突如現れた鉄の卵──
後に“アルグラント帝国辺境軍第八方面艦隊”と知った連中の蹂躙──
あれこそが最初の奈落である。
蒼穹を覆う轟音、鋼板から溢れ出る白磁色の稲妻。
それは魔法などという曖昧なものでなく、冷徹な幾何学だった。
瞬時に焼き焦げた森と嗅覚を侵す硝煙と獣脂の臭い。
父ヴァシャウは怒り吼え、しかし一手すら届かずに崩れ落ちた。
戦士たちは鎧袖一触──流星のごとき炎柱の中に消えた。
土塊と化していく里を尻目に、若いオーガたち数百は捕虜として拉致された。
ゲドも例外ではなく、屈強な四肢は転輪式枷に囚われた。
刹那、“絶対強者”という仮面は木屑同然に崩壊した。
圧倒的な火力とは何か。質量保存の法則を捻じ伏せる文明の牙とは何か。
思考は真空に晒されて干上がり、生存本能だけが脈打った。
けれど同時に、あの時初めて気づいたのだ。
戦いというのは“勝つか死ぬか”以外にも無数の形があるということに──
例えば、膝をつき涙を噛み潰しながらも生き延びることもその一つだと。
【挫折と堕落】
奴隷紋章が烙印された夜は長い冬となった。
地下採掘場コロン6区──金属を含む石灰質を削り取るだけで終わった日々。
指骨がひしゃげるたびに仲間が鞭打たれる。
食餌は炭酸カルシウム片を溶かした泥汁だけ。
檻の中で衰弱し朽ちていく同胞の横顔は
人間/オーガといった境界を喪失させてしまうのに十分だった。
ある夜半、偶然拾った工具で錠前を抉じ開けた。
解放後の逃避行は惨憺たるものだったが奇跡的に脱走に成功し、
都市国家ヴェルヌキアの廃鉱街へ辿り着いた時には
もはや誇りだの矜恃だのは煤埃のように吹き散らされていた。
そこで学んだ第二の人生は狡猾さと退嬰が支配する世界だった。
酒を飲みドラッグに溺れ、喧嘩相手の首飾りを奪い、女の躯を売買する──
今日死んでも悔いはないと思わせる享楽の坩堝。
拳銃の重さは短槍よりも軽かった。
それでも数ヶ月が過ぎると、妙な空虚が胃袋に棲みつくようになった。
夢を見るのだ。
自分がただの獣でしかないかもしれない悪夢を。
主との出会いと信仰獲得——それはゲドの人生で最も決定的な「転調」だった。
──-
その夜は霧雨が降っていた。
いや正確に言うとそれは合成された霧雨だった。
ヴェルヌキア下層街区に設置された浄化装置が放出する微細なプラスチック球。
それらが蛍光灯を曇らせるたび街は化学的な幻想美に包まれる。
「またあの夢を見そうだ……」ゲドは瓦礫の陰で爪を噛んだ。
すでに中毒症候群の初期症状が出始めていた。
──ふと懐に忍ばせた金属管を握りしめる。
粗製麻薬"シャグ"。
一本吸引すれば過去二十四時間分の悩みを霧散させてくれる便利な道具。
だがそれを口に含もうとした瞬間——。
銃声が響いた。
いや違う。
銃声であって銃声でなかった。
それはもっと別の──そう、鐘の音のような。
澄み渡った空間を震わせる共振音が突然ゲドの鼓膜を殴りつけたのである。
振り返る暇もなかった。
眼前のビル壁面に映し出されていた猥褻なホログラム看板が
まず一条の青い閃光に沿って音もなく真っ二つに割れた。
続いて建物全体が豆腐のように斜めに傾ぎ
そのまま滑落して地面を舐めた。
噴き上がる灰塵の帳越しに見えるのは一体の巨大な影──いや、人影だった。
神─────────?
本人がそう名乗ったわけでも誰かが紹介したわけでもない。
ただ唐突に現れ、ただ無造作にビルを斬り倒し
そのままゆっくりとこちらへ歩み寄ってくる存在。
手には何も持っていない。
逃げ惑う傭兵の機動騎士が三体。
重装甲の筈の金属外骨格が
彼の一瞥だけで寸断され爆ぜる火花に埋もれる。
さらに遠方で浮上していた帝国の強襲揚陸艦──
鋼の巨竜と呼ばれた四〇〇メートル級の要塞が
同じく一条の青い光を纏った刹那
虚空にて水平に裂かれ二枚貝のように開き落ちていく。
その光景を見届けた途端、ゲドの中で何かが弾けた。
これは最早強い弱いで図れる領域ではない。
理屈で説明不可能な論理の頂点に君臨する不可避の存在。
爆弾もレーザーも戦艦も──どんな兵器も届かない。
ならば自分という矮小な魂はいかにして救われる?
答えは自然と身を屈ませていた。
両膝を瓦礫に突き額を擦り付け
嗚咽と共に吐き出す声があった。
「……神……さま…………!」
自分でも驚くほど幼く脆い声だった。
しかしそれが正しい呼び名であったことだけは確かだ。
その日以降、彼は信仰を許された。
これまで強さの象徴と信じ続けてきた拳骨も
鋼鉄で鍛えた背骨もいらなくなった。
なぜならそれ以上に硬いものが私の前に立ちはだかり
しかもそっと微笑んでいる気がしたから。
神─────────
唇に乗せた瞬間だけでも喉奥に温かい甘露が流れ込む。
こうして裏街道から抜け出し
新たな人生の扉を開いた。
たとえ扉の向こうで待つのが更なる深淵であろうとも構わない。
だってここから先は何処に行っても彼の影があるのだから。
その確信こそが我が信仰。
我が神、我が導、そして唯一無二の師よ。
これより先、私が征くところ千里も万里も
必ずやあなたの御名によって照らされましょう。
──ゲド、永遠に跪く。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
──と、そこまで記憶の糸車が紡ぎ終わった頃。
「……はっ」
肺の奥に酸素を炸薬のごとく填め込み、ゲドは我に返った。
視界の中心で揺れているのは自分の太い血管である。
耳朶を掠めるのは艦橋天井を這う冷却パイプの微細な喘ぎ。
シルヴァースターの艦橋──かつて“神”より下賜された黄金の匣。
今まさにそこで座している。宇宙海賊ゲドとして。
思い起こせば不可思議な道程だった。
信仰を得てなお冥府の門前へ踵を返し、
バルタザールなどという胡散臭い傭兵に与し、挙げ句海賊稼業で荒稼ぎ。
これぞまさしく“因果を逆さ吊りにして串焼きにした”奇天烈な人生と言えよう。
だが今の私を責め立てるのは罪悪感ではない。
胸奥で燻るのは寧ろ獰猛な昂揚感。
つまり──愉しくて堪らないのだ。
何を隠そう彼はオーガである。
大地を踏み鳴らせば床板が泣き別れる大熊体躯。
首周りには鋼索十束まとめて捻り出した筋条が網羅し
股ぐらに秘めた怪竜器官は雌猿だろうが貴族令嬢だろうが
ひと睨みで子宮を慄え上がらせる暴れ馬。
そんな獣が今は宇宙を縦横無尽に疾駆し
人の哀願など紙屑同然に切り捨てている。
なんという痛快、なんと豊穣なる愉悦!
──たとえこれが神罰に値するとしても一向に構わぬ。
なぜなら私には“赦し”が要らぬくらい
既に全てを与えられている……
そう悟った途端、頑健な掌が自然と己の禿頭を撫でていた。
禿頭と言っても剃り上げているわけではない。
角根が皮膚を押し上げた結果必然的に露出してしまうのだ。
そこに感じる微熱。私は確かに生きている。
そしてこの手の届く範囲を好き放題に染め替える権利を得た。
それこそが最高傑作の報酬なのではなかろうか?
ゲドはにやりと笑った。
艦橋に据えた大椅子から身を起こし
傍らに鎮座する愛刀“翠閃(すいせん)”の鞘をぱんと叩く。
「さて諸君よ。次の獲物へと向かおうじゃないか」
低い咆哮は室内で渦を巻き
スピーカーを通して各部署へ雪崩れ込んだ。
通信士が慌てて敬礼するのが見えたが
きっと表情は晴れ晴れとしているはずだ。
我々は無法者である。しかしだからこそ
空っぽの正義より遥かに清廉なのかもしれぬ。
神よ。どうかお笑いになっていただきたい。
或いはどうぞご叱咤のあまり雷を降らせていただきたい。
どちらであっても私はあなたに向かって吼えるつもりだ。
今日もまた無数の星々を喰らい尽くすのだと。
──―宇宙海賊ゲド。
黄金の血潮を滾らせながら
今夜も黒い大海原へ帆を張る。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「──艦隊、遷座標点へ到達。距離三八〇万。敵影、三群捕捉」
通信士の声が艦橋を劈くや否や、ゲドは楕円椅子の肘掛けを握りしめた。
鋼鉄の如き指節が合成皮革を軋ませる音が、
まるで獣の咀嚼音のように響き渡った。
メインスクリーンには赤い警告光と共に
輝度調整された三次元投影図が浮かび上がっている。
大小様々の白亜の艦船が規律正しく陣を組む様は
さながら葬儀行列の行列譜。
対宙賊独立艦隊──
あの銀髪赤眼の怪物姫《ホールズ》の手勢だとすぐわかった。
名簿を改めて確認するまでもなく肌が疼く。
「面白い趣向じゃねぇか……」
ゲドは唾棄するように嗤うと背凭れに体重を預ける。
左右には同じく狂信的な笑みを湛える海賊幹部達。
皆一様に目が爛々と燃え盛っていた。
今回の作戦趣旨は単純明瞭。
バルタザールがダレインワルド伯爵家などという田舎貴族を簒奪する。
我々の役目は邪魔立てに入る“掃除屋”の排除。
つまりあの姫君の足を引っ張り
バルタザール殿が目眩ましをしている間に
堂々と裏庭で悪い芽を伸ばす──そういう算段である。
「いいか野郎ども。神が仰った。『障害があれば叩き伏せよ』とよ。
遠慮は無用。一片の慈悲も不要。
殺せるうちに全部刈り取るだけでいい」
通信士が高揚した声で各艦へ命令を伝え終わると
艦隊中枢制御パネルが緑色に点灯し始めた。
“シルヴァースター”旗艦を中心に配下四十九隻の艦艇が
徐々に扇形陣から尖翼楔へと可変して行く。
速度計数字がみるみる跳ね上がり
慣性補正の効き過ぎた加減で艦内の照明がかすかに歪んだ。
敵主力艦列、目測一千──五百──三百。
此方は最初から挨拶なしで斬り結ぶ予定だった。
「サイブラスター砲列・斉射準備。目標は敵旗艦『レスタリアス』単一。
撃てるだけ撃って骨格を曝け出せ!」
副指令席の巨漢参謀《コーデル》が怒声を返すと
管制卓上のステータスウィンドウが雨霰と
エネルギーラインを走らせた。
ゲドは立ち上がり艦橋前方の窓際に進み出る。
そこに詰まっているのは透明な戦場の天蓋。
肉眼で迫り来る鉄獣の群れを捉えた瞬間
血液が沸騰し鼓動が一段高く跳ね上がる。
──来た、来た、来た!
神の焔の末端を掴み取るために研ぎ澄ましてきた
この全身の筋組織が吠え立てる!
「開幕じゃ! 全艦一斉旋回──!」
ゲドの咆哮を合図に旗艦を中心とした
高速軌道修正が開始された。
重力ベクトルが複雑に捩れ合い
骨髄液が一瞬で逆流する感覚を受ける。
艦橋要員たちは備え付けベルトにしがみつきながら歯を食いしばる。
だが彼らは知っている。
次の瞬間訪れる轟音より恐ろしいものは無い事を。
「……砲雷班! 主砲角度固定! 精神結束指数上昇中! あと一秒!」
精神結束指数──サイブラスター発射工程における最重要数値だ。
兵士一人ひとりの信念・欲望・殺意・野心……
そんな内側の濁流を集め一点に絞り込む。
その値が臨界を超えた瞬間──
「ぶっ放せぇぇぇ!!!」
スクリーン上で白昼の幻陽が咲いた。
七束の光芒が闇を引き裂き
遠方に鎮座する帝国主力戦艦“レスタリアス”
その巨体を貫こうと一直線に突き刺さった。
敵側も当然即座に応戦。
遮蔽フィールドが展開される閃光が走る。
だが不足。
迸る金色の光柱は易々と装甲の薄膜を削ぎ落とし
腹部甲板にぽっかりと巨大な孔を穿つ。
「命中確率0.42→0.85へ更新! 続けざま! 再照射ィ!」
ゲドは拳を突き上げる。
艦橋中に熱狂が波紋を拡げ
サイブラスター発射筒の周囲から青い漏洩光が虹彩を作った。
しかし敵も然る者。
戦艦は被弾箇所付近へ隔壁を引き寄せつつ
逆に指向砲塔のレーザー網を撒き散らす。
無数の白色雷が星粒のごとく煌めき
盾役に就いた軽量艦をいとも簡単に熔断していった。
「損害報告ッ!」
「左舷中型艦《ゴードヴォ》及び《マルケルス》撃沈!
他損耗中! まだまだいけますッ!」
ゲドは舌打ちし指を鳴らす。
「なら踊れッ! 全艦サイ・バリアを全面開放!
臆病者になんざなるなよ! 前へ出ろぉ!」
次の瞬間──
銀河を駆ける暴徒と秩序の番人たちが
互いの喉笛を掻き毟り合う形相で
灼熱の交叉を始めた。
四方八方で爆炎が花弁を撒き散らし
重装甲の火花が星空の裏側まで届く。
散った破片はたちまち次世代反応弾頭魚雷へと変わり
秒針を跳ねさせてくる。
「対空迎撃を忘れるなッ! バリア方向固定で敵弾頭を跳ね返せ!」
轟音が天地を裏返す。
だがゲドは悠然としていた。
この混沌こそが彼の祭壇であり
敵将セレナこそが祭壇中央に祀るべき聖杯だったからだ。
──もし万一この銀剣姫を真正面から討ち取ることができたなら。
それこそが神から授かった勲章にも匹敵する成果なのでは?
胸底が燃え上がりすぎて思わず大声で笑ってしまう。
艦橋を流れる緊張が僅かに弛緩し
随員たちの視線が笑みに変わる。
この怪物はいつもそうだ。
恐怖を燃料にして突き進む原初の焔こそが
海賊たちの心臓をもう一拍速めるのだ。
「第一波──よくやってくれた!
今度はオレが踊る番だッ!」
ゲドは片手で鞘に収まった愛刀“翠閃”を鷲掴みにして抜き去る。
青みがかった刀身が艦内ライトに照り映え
その反射光が窓外の爆炎と共鳴して十字架のように伸びた。
「艦長代理ッ! 以後の指揮任せるぞ!
俺ァちょいと先に行きてぇからよ!」
通信士が泡を食った表情で制止しようとする。
だがゲドは聞く耳など持たない。
「艦首から艦尾まで重力制御切り離せ!
俺の跳躍の補助に使えッ!」
──白兵戦の女神が耳元で囁いている……!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
炸裂音が通路を腸のように蠕動させた。
ゲドの斬り込み隊──正確には「斬り込み隊」などという生易しい呼び方が似合わぬ、
恐るべき暴力と暴虐の化身が「レスタリアス」の腹を割って這い出した瞬間から、
事態は計算の外へ滑り落ちていった。
いや、正確に言えば計算の外へ投げ飛ばされたのだ。
まるで「計算」という概念そのものが、
彼らの眼前で首を掻き切られ血を噴いているかのように。
「撃てッ! 撃ち続けろッ!」
艦内警戒網を司る中尉が叫ぶ。
レーザーガンが唸りをあげ、青白い光条が闇を縫う。だが──。
「……?」
撃ち手は言葉を呑んだ。
自分の放ったレーザーが相手の厚い胸板に直撃した。
なのに煙ひとつ上がらない。焦げもしない。焼けもしない。
どころか、筋肉の山脈がぴくりとも動かないまま、当人は不快そうな咳払いをひとつ。
「おーい隊長さんよぉ」
と、ゲドは苦笑混じりに言った。
「虫が止まったぜ?」
冗談めかした声音だったが、それが冗談でないと誰もが知っている。
オーガの筋肉密度は理論値を超えていた。
小口径レーザーなど表面で屈折し熱量を吸収する布と同じなのだ。
「次は肩か? 脚か? 好きな穴に入ってみろや」
言葉と同時に彼は一歩踏み出す。
重量400キロを優に越す巨体が装甲フロアを震わせた。
床材に蜘蛛の巣状の亀裂が走る。
士官たちは悲鳴と共に後退──と思った途端、
先行していた隊員の背後で爆ぜる青い炎。
仲間を守るように滑り込んだゲドの愛刀「翠閃」がレーザー束を断ち斬ったのだ。
切断面の光は蛇腹みたいに翻って艦壁へ吸い込まれていき、薄青い星屑となって消失した。
「やっぱり面白ぇなぁ!」
ゲドは嬉々として刀を回す。
「白兵戦ってのは弾薬の匂いがすると尚良しだ!」
一呼吸置いて刃を水平に構え直し、右脚を振り上げる。
床がひしゃげ、靴裏から弾けた合金片が海兵のヘルメットを叩き割った。
「下がれッ! 距離を取れッ!」
必死の指示が飛ぶ。
しかし狭い艦内廊下では後退こそ絶望に繋がる罠だった。
後衛の銃口は味方を突き刺し、前衛は巨岩みたいなゲドに押しつぶされる寸前。
混沌はあっという間に醜聞へ化けた。
そんな惨状を嘲笑うかのように
一人のオーガ兵士が低く愉快に嘆いた。
「おい隊長ぅ。“神の導き”ってやつぁ本当に便利だなぁ!」
ゲドは眉一つ動かさずに答えた。
「違うさ。俺らの魂胆が浅いんだよ」
そのまま一歩前傾姿勢へ。
「浅いけど深海よりも凶暴ってのは、なかなか洒落てるだろ?」
刹那──視界が紫に反転した。
剣閃だ。いや閃光と言うにはあまりに粗暴で
肉塊を捲く剥ぐ嵐だった。
五人組の一列が抵抗する暇もなく斬り伏せられ、
真空となった空間を赤い血潮が緩やかに漂う。
宇宙艦独特の低い人工重力では
血液もゆっくりと時間を貪る芸術作品に早変わりだ。
「ひッ……化け物……!」
海兵の誰かが呻く。
だが言葉は中途で絶えた。
別の海賊が斧槍を脇から突き入れたせいだ。
装甲プレートごと脾臓を抉られても悲鳴すら途中で途切れてしまう辺り
生命の儚さというやつは偉大だ。
◇ ◇ ◇
一方その頃、艦橋区画──。
「被害報告っ!」
セレナ・ホールズは通信水晶の前に立ち
艦内ネットワークの混乱を受け止めている最中だった。
本来ならここで冷静な判断を下すべき女傑が
内心で小さく舌を打つ。
なぜなら「想定外」という言葉こそが
人間にとって一番味わい深い毒だからだ。飲み慣れなければすぐに麻痺する。
「第3主砲区画破壊! B6デッキ爆散! C1エアロック喪失!」
「セレナ閣下! 我々の損耗率三七%!」
三十七。それは単なる数字ではない。
明日を夢見る若者の顔が数値分この世界から永久に消えたのだ。
セレナはほんの一瞬、睫毛を伏せる。
けれど感情は決して涙腺を濡らさない。
感情に飲まれた軍人はただの家畜だ。
それを痛いほど知っているからだ。
「……全艦員に告ぐ!」
透き通った声が艦内スピーカーを駆け抜ける。
「こちらセレナ・ホールズ! 我々は依然として戦闘能力を保持している!
怯む者は前線を離れよ! 勇ある者は──」
一拍置いて言い添える。
「──勇ある者は敵を憎まず未来を守れ!」
激励と罵倒の中間地点に位置する言葉は
海兵隊の脳髄に焼き付き、迷いを溶かしていく。
すると案の定。
通信チャンネルは一斉に点灯し始めた。
「了解!」
「任せとけクソッ垂れ共!」
「帝国軍人の矜持ってやつ見せてやるぜ!」
良い声がいい。少なくとも泣き声より百倍いい。
◇ ◇ ◇
ところで現場に戻ると
ゲドは血糊を纏ったまま微笑んでいた。
「なぁ隊長さんよぉ」
斬り伏せた海兵の遺体から剥ぎ取ったレーザーガンを
玩具のように弄びつつ言う。
「なんでこんな危険な職場選んだんだ?
もっと安全な店が星系に溢れてるだろ?
娼館とか……いやアンタなら高級クラブかな?」
亡骸は応えない。
代わりに後ろから殴りかかった新手を迎撃するために
ゲドの蹴りが垂直に弧を描いた。
吹き飛ばされた兵士は隔壁に叩きつけられ
脊椎を折られる音だけが虚空で鳴った。
あまりに痛そうで周りの海賊すらちょっと顔をしかめる始末だ。
「──っとまぁ冗談はこのくらいにして」
ゲドは額についた雫を袖で拭った。
それは汗ではない。他人の返り血だ。
「そろそろ“本丸”を目指すとしようぜ」
言って仲間を見遣る。
「艦橋さえ堕としてしまえば──」
そこまで言いかけたところで
唐突に通路の先で閃光が弾けた。
ゲドの耳朶を震わせたのは金属が震える哀願の旋律。
咄嗟に刀を翳す。
見覚えのある白銀の刃風が彼の太腿へ擦過傷を刻んだ。
痛痒など感じない程度の浅さ。
だが斬り痕が訴える感触は紛れもない「敵の威嚇」だった。
「ほう……ようやく出てきたかい?」
闇の奥から現れたのは真紅の外套を靡かせる細身の人影。
金糸の髪が人工重力の中で揺れ
双眸は燃える柘榴のように赤く輝いていた。
セレナ・ホールズ本人だ。
右手に携えるのは単分子刃〈紅牙〉。
左手に一振りの短銃。
帝国航宙軍で最高峰と呼ばれる“ホールズ流・剣銃一体式戦術”の構えである。
「貴様がゲドか」
冷淡な声。抑揚はない。
けれど重力以上に重い何かが圧力をかけてくる。
「如何にも」
ゲドは肩を竦めた。
「噂通りのお綺麗だが無茶するお姫さまじゃねぇか。
その細腕で俺に喧嘩売るなんて気が触れてやがる」
セレナは答えなかった。
代わりに剣先を素早く滑らせ空中で一閃。
質量を持たないはずの空気が歪み
斬り裂かれた気配が音速を超えてゲドへ疾る。
「フッ!」
呼気。斬撃を受け止めるべくゲドは翠閃を横に払った。
重金属の共振が火花を吐き出し双方の足元を瓦礫が踊る。
一合、二合、三合。
斬撃はまるでダンスだった。
美しきホールズの姫君が奏でる弦楽と
獰猛なるオーガの咆哮が擦れ合い
二つの異なるテンポが一つのリズムを見つけようと探り合う。
だがリズムは永遠に一致しないだろう。
片方は優雅さを至上の武器に選択し
片方は暴力こそ至高の楽譜だと信じ切っている。
「ほう……やるじゃないか」
ゲドは唇を吊り上げた。
「お姫さまってのは床上手だと聞いてたが剣にも堪能なわけか」
「黙れ。無益な口は災いのもとだ」
セレナの斬撃がフェイントを入れつつ足首を狙う。
膝裏まで届けばどんな巨人でも跪く。そう読み切った巧妙な軌跡。
だがゲドは見切っていた。
否──見切ったわけではない。嗅ぎ分けたと言ったほうが正しい。
獣と等しい嗅覚で“不利”を探し当て回避しただけのこと。
「危ねぇ危ねぇ」
軽口を叩く間にも右足を軸に体を開き
逆袈裟へと斬撃を返す。一尺八寸の殺気がセレナの頬を掠めた。
朱の糸が空中で一滴の赤玉をつくった。
「……ふむ」
セレナは自分の出血を見て眉を寄せる。
驚愕や怒りではない。失望でもない。
自分がまだ未熟であることの再認識。
それが彼女を硬質な湖面のように静まらせる。
「なるほど。確かに侮り難い」
そこで初めてセレナの声に温度が宿った。
氷に細い罅が入り春を待つ音だ。
「だが」
瞬きすら挟まずに身体を捻る。
足運びは床と平行になるほど低く滑らかで
長い金髪が円環を描いた。
「個人の暴力が無意味であることもまた──事実だ」
「ほざくなッ!」
ゲドが吼えた。
これは本心だ。煽りでも虚飾でもなく
“個人の暴力など無意味”という言葉は彼自身の古い瘡蓋を剥ぎ取る刃物なのだから。
次の刹那、二つの軌跡が交錯する。
剣と剣。肌と肌。殺意と矜恃。
鋼鉄が喚き金属粉末が雪のように降り注ぐ中
双方の瞳孔には鏡越しの自分しか映っていない。
セレナの一閃がゲドの脇腹を捉えた。
装甲の下で筋線維が千切れ
紫色の内出血が瞬時に浮き上がる。
そして返礼とばかりにゲドの大刀がセレナの外套を肩口から斜めに裂き取った。
白い軍服の背中に赫々たる染みが広がっていく。
互いに致命傷を与えたようでいて実のところは何ひとつ奪えていない。
痛みはあっても意識は冴え渡るばかり。
強化兵士というものはこういう矛盾を平然と抱えて戦うために生まれてくる。
「やれやれ……」
ゲドは荒い息を吐いた。
「ここまで骨のある女は久しぶりだ」
「光栄だな」
セレナも同じく荒く肩を上下させる。
「だが終わりにする」
そう宣言すると同時
彼女の眼光が蒼い狐火へ変わった。
魔力の奔流。精神の高揚が放出された瞬間だった。
「ホールズ最終儀式〈深紅螺旋〉解放」
呟くような宣言。
空気が歪む。室内の重力分布が彼女の意志一つで改竄される。
足元の鉄屑がふわりと宙へ浮き血溜まりが螺旋階段を作る。
「ちぃ……!」
ゲドが唾を飛ばす。
こんな奇跡じみた現象を誇り高きオーガが恐れるとどう言われるだろう。
──違う。恐れているのではない。
魅せられているのだ。未知の術理に昂ぶる自分が居る。
「来い! 全部見せてみろ!」
ゲドは吼え声と共に吶喊した。
足音は雷鳴。刀身は稲妻。
迫る暴力の津波を前にセレナは逆に穏やかな微笑すら浮かべている。
「さぁ──これが帝国航宙軍剣術の粋だ」
言葉を終えるや刹那
二つの流星が一点で激突した。
衝突の衝撃で艦内照明が弾け飛ぶ。
火花雨の中で二人の身体が宙を舞い
引力を取り違えたかのように床と天井を交互に蹴る。
視界を覆う眩耀。鼓膜を揺らす悲鳴。
どちらが優位に立っているかなど判別できまい。
傍観すればただの原始的な殴り合い。あるいは理性を捨てたダンス。
──その最中。
ゲドは不意に悟った。
これはきっと人生で最初にして最後の拮抗だ。
だからこそ楽しむ以外に術など無い。
「いいねェ! 最高だセレナ・ホールズ!」
思わず嗤う。
自分が勝つか彼女が勝つかそんな小事はどうでも良かった。
ただ今は同じ舞台に立てたこと
同じ速度で踊れていること──それだけで十分だった。
「ならば私も全力を注ぐまでだッ!」
セレナも応じた。
魔力が刃へ流れ込む音色は鐘楼のベルに似て柔らかいのに
威力だけは核分裂炉を思わせた。
次の瞬間、艦全体を震源として衝撃波が発生。
構造材の悲鳴をBGMに
人々は理解する。ここが分岐点だと。
二人の剣士──
銀河の頂点を競う狂信者と帝国の虎姫が
ついに真正面から牙を噛み合わせた瞬間なのだと。
続く衝突。迸る紅蓮。崩落する重力。
勝利がどちらに落ちるかは誰にも分からない。
ただ一つ分かるのは。
──宇宙は今日も残酷なほど美しいということだけだった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「──移送完了。引き渡しを確認する」
通信機から漏れる雑音は、
まるで遠い海の底で溺れている人間の最期の吐息のようだった。
セレナ・ホールズは目を開けた。
視界は霞み、四肢は鉛のように重い。
全身の神経が灼熱と钝痛の間を行き来し、
意識の糸は蜘の巣のように千切れかけている。
それでも彼女は理解していた。
ここはもうセレナの船の艦内ではなく、捕らわれの身の牢獄だということを。
彼女が拘束されているのは、「ハウラー」号──
ヴィンセント・イクサーマルが所有する快楽と屈辱のために設計された船だった。
艶やかな光沢を持つリノリウムの床は血痕を吸い込み、
艦内を包む甘ったるい芳香は、
まるで淫らな夢の中に迷い込んだかのように錯覚させる。
そして何より──セレナ自身の姿が問題だった。
対宙賊独立艦隊の紋章を象った白い軍服は、
ゲドとの死闘によりもはや原型を留めていない。
肩の部分は裂け、腰周りには焼け焦げた痕。
さらには、あの忌まわしい交錯の中で、
紅牙が斬り裂いた軍服の隙間から、彼女の肌が覗いている。
特に胸部は──。
「くくっ……まあまあ良い眺めじゃないか」
背後から投げかけられる嘲りを含んだ声。
セレナはゆっくりと振り向いた。
そこに立っていたのはヴィンセント・イクサーマル。
長身で華奢な体つきは貴族の坊ちゃんを彷彿とさせるが、
その瞳には明らかな軽蔑と卑しさが宿っていた。
彼は腕を組み、セレナの肢体を頭から爪先まで舐め回すように見つめている。
「……下衆が」
セレナは苦々しく呟いた。
声はかすれているが、その一言には彼女の誇り高さが滲んでいた。
だがヴィンセントは気にする様子もなく、むしろ楽しげに口角を上げた。
「ほう? まだそんな生意気な態度が出来るか。
それとも……これからどうなるか期待してるのか?」
「黙れ」
セレナは拒絶の意思を込めて睨みつける。
だがヴィンセントの視線は一向に揺るがない。
むしろ彼の眼差しは一層いやらしく、舐め回すように女体を視姦する。
そして彼は一歩近づいた。
セレナとの距離はもう手の届く範囲にある。
ヴィンセントはセレナの顎に手をかけ、くいと持ち上げた。
セレナは反射的に顔を背けようとするが、
首の付け根の神経が悲鳴を上げ、思うように動けない。
「どれどれ……ホールズ家の令嬢の顔を
こんな近くで見るのは初めてかもしれないな」
ヴィンセントは満足げに微笑んだ。
その笑みは爽やかさとは程遠く、どこまでも卑しく陰湿なものだった。
「ふむ……さすが名家のお姫様だ。
傷ついて汚れてもなお美しいというわけか」
「……」
セレナは口を噤んだ。
何を言ってもこの男を喜ばせるだけだと分かっていたからだ。
しかしヴィンセントの言葉は止まらない。
「だが──やはり服は邪魔だな」
唐突に、彼は手を伸ばす。
セレナの胸元へ。
「何をする……っ!」
セレナは身を引こうとするが遅い。
すでにヴィンセントの指が彼女の裂けた制服にかかり、
「やめ──」
彼女の制止を無視して、一気に引き裂いた。
びりりっという音とともに、セレナの上半身が露わになる。
白磁のような肌に浮かぶ淡いピンク色の突起が、
冷たい艦内の空気に晒されて微かに震えた。
「くく……くくく……!」
ヴィンセントは哄笑した。
目の前の光景に陶酔するように、
「これは素晴らしい! まさに理想的な玩具だ!」
「貴様……っ!」
セレナは悔しさに唇を噛みしめる。
そして全身に力を込め──抵抗しようと試みた。
だがヴィンセントの力は意外なほど強く、
それに加えて彼女の身体は疲弊しきっていた。
「無駄だよ無駄。
いくら軍神のような姫君でも今は無力な女だ……」
「──ぁっ」
裂帛の音と共に、セレナの唇から洩れたのは悲鳴ではなく、
むしろ己の肉体の裏切りを告げる短い吐息だった。
制服の残骸が床に散り、
彼女の白いシャツ一枚を隔てるだけとなった上半身。
その布切れをヴィンセントが手で握り締めたとき、
セレナは咄嗟に身を捩った。
「おとなしくしていてくれたまえ、お姫様」
猫撫で声のような軟弱な響きだが、
その掌は驚くべき力強さでセレナの肩を押さえつける。
反抗しようとすればするほど、
彼女の豊満な胸部は大きく揺れてしまい──
ぷるんっ♡
重力に負けじと抗い続ける極上の肉鞠が、
囚われの身には過剰すぎる存在感を放った。
「おぉ……!」
思わず漏れたヴィンセントの感嘆。
その声音には明らかに下品な好奇心が乗っていた。
「これは凄まじい……母なる大地に眠る熟れた果実のようだ」
ヴィンセントの妄言など構わず、セレナは必死に身を縮めるが、
一度形を変え始めてしまった二つの丘陵は容易に大人しくならない。
「止めて……見ないで……」
蚊の鳴くような懇願も虚しく、
むしろ彼女の羞恥が増すほど乳房はさらなる運動を求められ、
ぷるるんっ♡
と重力に逆らう動きで宙に浮かびかける。
その暴力的なまでの重量感と柔らかさの均衡──
「ほほう! 垂れない……いや、垂れるどころか
この形を維持できるとは……
まさに理想郷のドスケベオッパイだ!」
ヴィンセントは恍惚とした面持ちで呟いた。
「このような戦艦勤務で一日中揺られていて
形を崩さないとは……驚嘆だ!
ああ……触れてもよいだろうか?」
セレナは無言で拒絶の意を示す。
だがヴィンセントはお構いなしに手を伸ばし、
ゆっくりと彼女の乳房に触れた。
「ひゃっ!?」
想像以上の柔らかさに感動しながらも、
その手つきは丁寧というよりむしろ淫猥だった。
「ふむ……予想以上に大きい。そして柔らかい……
手の中で形を変えるのにまったく抵抗がない……
まるで我が為に熟した桃のようだ」
ヴィンセントはセレナの胸を揉みながら、
「それどころか温もりさえ感じる……
これは間違いなく最高品質のメロンサイズだ!」
彼は喜悦に浸るように更に深く手を沈め、
「しかも感度も良好のようだ……見てご覧?」
──と得意げに声を弾ませた。
言われてセレナは己の胸部を見る。
見たくはない。だが見えてしまう。
ヴィンセントの指先に触れたところから、
桃色の蕾が徐々に固く屹立しているのが分かる。
「……っ」
羞恥に顔が熱くなる。
屈辱的な状況に身を委ねるしかない無力さに耐えるしかなかった。
「くく……感じやすいタイプなのかな?
これほどまでに敏感とは思わなんだ」
ヴィンセントは片手で乳首を摘みあげ、
もう片方で胸全体を揉みほぐすような動作を続ける。
セレナの口から抑えきれぬ嬌声が零れる。
「あっ……んぅ……」
ヴィンセントはそれを聞き漏らすはずもなく、
「ほぉ~素敵だ♪
貴女のような高潔な美女がこんな破廉恥な声を出すなんて……」
彼は執拗に刺激を繰り返す。
やがてその攻撃は直接的なものへと変わっていく。
「では遠慮なくいただくとしよう!」
突然彼がセレナの胸元へ顔を埋めたかと思うと、
「ひぐっ!?」
ヴィンセントが彼女の胸を強く吸い上げたのだ。
舌を使って丹念に乳輪をなぞりながら時折先端へと口づけをする。
「やめ……っ」
今までとは違う生理的な嫌悪感を伴う快感が走る。
「ふふ……美味しい……」
ヴィンセントは唾液で濡れた唇を一旦離すと、
「いやらしい……とても綺麗な桜色をしているじゃないか?」
そして再び口付けをしては強く吸引する。
「ぁ……ぁあ……」
セレナの口から漏れる喘ぎ声はもはや悲鳴の類でなく
紛れもない雌の啼き声へと変わっていった。
ヴィンセントはますます興奮し、
「よし決めた! 今日は徹底的に味わわせてもらおう!
まずはこの卑猥な双丘から頂くとしようじゃないか!」
彼はそう言うなりセレナの身体を押し倒した。
既に戦略的には決着は付いていた。
後の楽しみを思うと彼の股間が疼く。
これから行われることは明白だった。
──尊厳を打ち砕く汚辱の宴。
金髪赤眼の高貴なる姫君の貞淑な肉体を
私娼窟のメス豚同然に堕とすこと。
これから行われるのはそういうことだ。
セレナの白い肌と衣服の残骸がコントラストを成すように艶めき、
汗と香料の入り混じった奇妙な臭気が立ち籠めていた。
その中心で輝く宝石──いや肉塊か?
いずれにせよ男を惹きつけてやまない罪深い果実は、
今まさに剥き出されんとしている。
セレナ自身もまた己の変化に困惑していた。
こんな扱いを受けているのに……
何故だろう?
不本意にも……身体は熱を帯び始めている……
ヴィンセントがニヤついた顔で見下ろしている。
これから一体どんなことをされるのか?
考えるだけでおぞましい。
けれど、それでいて怖いもの見たさという感情もあることに気づく。
いつか必ず仇討ちするとして……
間違いなく、今しばらく……この拷問は続きそうだ。
そう考えた時、彼女の中で妙な決意が芽生えた。
負けたくない。
絶対に屈しない。
いつか必ず復讐を遂げてみせる──
だが同時に思ったこともある。
もしも万が一……
仮に……万が一にも辱められ、折れた場合……
果たして私は最後まで気丈に振舞えるだろうか?
おそらく難しいだろうなとぼんやり思う。
「──では、次はこちらを拝見させてもらおうか」
ヴィンセントの声音は、子供が新しい玩具の箱を開けるときのような、
歪んだ期待に満ちていた。
彼の指先がセレナの腰に触れ、残った軍服の裾を
ゆっくりと引っ張り上げていく。
「……っ!」
セレナは必死に下半身を閉じようと努めるが、
怪我と衰弱した身体では碌な抵抗も叶わない。
ヴィンセントの手によって
あっという間に制服の下半分が剥ぎ取られた。
眼下に現れたのは、
漆黒のサテンに小さなフリルがあしらわれた下着セット──
おそらく標準的なデザインだろうが、
セレナほどの肢体を包んでいるという時点で、
それはもはや禁欲的な誘惑の兵器だった。
「ほう……」
ヴィンセントの視線が釘付けとなる。
まず目に飛び込んでくるのは、
豊満な臀部を強調するようにぴったりと密着したショーツのライン。
その両脇から伸びる黒い紐が、
肉厚な尻肉を艶めかしく押し上げている。
尻たぶをほとんど露出させる大胆なカットアウトは、
健康的な小麦色の肌を際立たせていた。
「なんと扇情的な……」
ヴィンセントは呆然と呟く。
「高貴な貴族令嬢がまさかこのような露骨な下着を選ぶとは……
いや、もしかしたらセレナ自身が選んだわけではなく、
侍女の趣味か?
あるいは戦場に出る前夜に覚悟を決めて買ったものか?
どちらにせよ……
タプン、タップン♡
と揺れる柔らかな尻肉を食い込ませた黒い紐パンが
私の目の前で蠢いている!」
興奮のあまり早口になるヴィンセント。
彼はセレナの尻肉を鷲掴みにした。
「あっ!?」
びくんっ!
セレナの身体が跳ねる。
その反応を見逃さず、ヴィンセントは指をぐいぐいと押し込む。
「これはすごい弾力だ! もちもちという形容詞が陳腐に思えるほどだ!
叩き甲斐があるというのはこういうことか!」
「や……め……て……っ」
セレナがか細い声で懇願するが、
ヴィンセントの興味はもはや彼女の言葉などに向いていない。
彼の目は爛々と輝き、
目の前の官能的スペクタクルに釘付けになっている。
「見ろ! この張り具合! この艶めき!
鍛え抜かれた強靭な下半身でありながら、
全くと言っていいほど男性経験のない無垢な色香を併せ持つとは……!
まさに矛盾の美学!
太陽と月が同一の身体に宿るかのような奇跡だ!」
ヴィンセントは手を休めることなく、
今度は彼女の前の方へと指を這わせていく。
「ひっ!? そ……そこは……!」
セレナの声が上擦る。
だがヴィンセントの動きは容赦がない。
秘所へと辿り着いた指先が、ショーツ越しに花芯をこすり上げた。
「敏感だな……恥ずかしいほどに反応してしまうのだね?
ほら……見えるかい?
ショーツの布地がしっとりと湿り気を帯びているのが……」
ヴィンセントはわざとらしく声を低め、
「貴族のお姫様だというのに……
婚約者でもない男に触れられただけで濡らしてしまうとは……
この破廉恥な身体は一体なんなのだろう?」
「ち……がう……!」
セレナは否定するが、
それはあまりにも虚しい反論だった。
実際、彼女の身体は確かに反応していた。
強制的に開かされた両足の付け根あたりに生じる疼き。
秘所を覆う薄い布地の裏側で勃起し始めた小さな突起。
そしてその周辺が分泌し始めた蜜液……
全てが男の欲望を増幅させる要素となってしまっている。
「違わないだろう?」
ヴィンセントはせせら笑う。
「だって今の貴女は……恥辱で顔を真っ赤に染めて
涙ぐみながらも……
身体は悦びにうち震えているじゃないか!」
彼は決定的な証拠を得るために手を動かす。
つぷっ──
指を一本、ショーツのクロッチ部分から忍ばせ、
直接粘膜に触れた。
「ひぎぃ!?」
セレナの悲鳴と共に大量の愛液が湧き出た。
「ほら見給え!」
ヴィンセントは歓喜の声を上げた。
「もう洪水状態ではないか!
恥じらいに震えるかと思えばすぐに蕩けてしまうとは!
どうやら貴女の肉体は
かなり屈折した性癖をお持ちのご様子ですね!」
セレナは何も言い返せない。
事実そうなのかもしれないと思い始めていたからだ。
──なんて卑劣な男なのだろう。
頭の中で何度罵倒しても現実逃避に過ぎないことがわかってしまう。
そしてその考え自体が余計に羞恥心を加速させていた。
「さてさて……次はどうして欲しいですかね?」
ヴィンセントは意地悪く訊ねる。
もちろんセレナは黙っているしかない。
しかし無言こそが何より雄弁な回答だった。
「そうですか……
ならば僭越ながら私が提案させていただきます!」
ヴィンセントはセレナの膝裏へと手を差し入れた。
そして彼女が抵抗する間もなく大きく開脚させてしまう。
ぱっくりと開かれる脚。
その間の秘境が一気に露呈した。
「きゃああ!!?」
セレナは慌てて手で隠そうとするが……
「ダメですよ~お姫様」
ヴィンセントの腕力の方が遥かに勝り
簡単に阻まれてしまう。
「ああ……美しい」
ヴィンセントはうっとりとした表情で眺めている。
そこには濃厚な愛液にまみれた無毛の割れ目があった。
クリトリスは充血して膨張しており
膣口は物欲しそうにぱくぱくと呼吸していた。
「純潔なのにこんな淫靡な形状だなんて……
まるで熟年女のようですな!
どうやら貴女の潜在的な才能は相当なものだ!」
ヴィンセントは褒めているつもりなのだろうか?
到底誉め言葉には聞こえない台詞であった。
「──しかし、まだまだ足りない」
ヴィンセントは唐突にそう呟いた。
彼の視線がセレナの股間から下方へ、ゆっくりと這い下りていく。
太腿──そう、太腿だ。
「実に美味そうだな……」
彼はうっとりとした口調で続けた。
「もちもちプルンッ
とした質感が布越しでもわかるほど瑞々しい……
筋肉質でありながら脂肪分も十分。
戦闘用に鍛え上げられた機能美と
メスとしての発育が奇跡的に融合している……!」
セレナは再び唇を噛んだ。
だがヴィンセントの言う通りだった。
彼女の大腿四頭筋はしなやかに隆起し、
内側にはしっとりとした柔らかさが保たれている。
それは男の情欲を直撃するような
妖艶な曲線美を形成していた。
「さて?」
ヴィンセントは勿体ぶった仕草でセレナの太腿へと手を伸ばす。
すべすべとした肌の感触と温もりが手指を包んだ。
「──んっ」
思わず洩れる息。
その反応を確認するとヴィンセントはゆっくりと
内股部分に指を滑り込ませる。
「ふむ……素晴らしい弾力だ!
ぎゅっと掴めば確かな抵抗を感じるが
決して硬いわけではなく……ムチッ♡
という擬音が聴こえてきそうな粘り強さ!
ああっ! これなら私の剛直も確実に受け止めてくれそうだ!」
ヴィンセントは興奮して言葉を重ねる。
「この健康的な太腿を見ていると……自然と涎が出てくるではありませんか!
まるで極上の和牛ステーキだ!
表面は肉汁でしっとり潤っていて
一口食べればジューシーな旨味が口いっぱいに広がるに違いない!」
彼はもはや獣のように舌なめずりをしている。
その指は太腿の裏側へ回り込み
キュッと盛り上がった臀部との境界線上を撫でる。
「ひゃんっ!?」
セレナの喉から短い悲鳴が上がった。
それは驚きだけではない
甘やかな刺激に対する反応であった。
「ほう?」
ヴィンセントはしたり顔で嗤う。
「どうやら性感帯のひとつとして開発済みのご様子……
いや、もしかすると最近になって発見されたのでしょうか?
どちらにせよ面白いデータだ!」
彼は嬉々としてさらに探索を続ける。
親指を使い円を描くように刺激を与えたり
中指でツンツンと突いたりしているうちに
「ぁっ……やだ……だめぇ……」
セレナの声音が弱くなってきた。
身体全体が弛緩し始めている証拠だ。
「おやおや……随分と可愛らしい声を出すようになったものだね?
さっきまでの毅然とした態度はどこへ行ったのかな?」
ヴィンセントは皮肉っぽく問いかけながら
セレナの両膝を持ち上げM字型に固定する。
「ほらご覧! この角度からだとよくわかるだろう!
貴女の大事な部分が丸見えだ!
黒いショーツが食い込んで割れ目を強調している……実に卑猥な眺めだな!」
セレナは恥ずかしさで顔を真っ赤にしているが
抵抗する体力は殆ど残されていない。
唯一できる抵抗といえば顔を背けることくらいだった。
「ふむ……しかしこんな可愛い姿を見せてくれるとは……
これは是非とも記録に残しておかないと申し訳ない!」
ヴィンセントは壁際に設置されていたホログラム装置へ目を向けた。
それは高性能カメラが内蔵されており
鮮明な三次元画像を撮影することができる代物だ。
「では記念写真といこう!」
パシャッ!
シャッター音が響くと同時に
ヴィンセントは急いでレンズの前に回り込み
半裸のセレナと一緒に撮影した。
「えっ!? ちょ……ちょっと待て!」
ようやく我に返ったセレナが抗議するも時すでに遅し。
画面にはしっかりと二人の姿が収められていた。
「安心してくれ! ちゃんとベストショットを編集して
皆に送り届けてあげるよ!」
ヴィンセントは嬉々として言ったあと
思い出したように付け加えた。
「ああそうだ……忘れていた!
せっかくだし追加で一枚サービスしよう!」
今度はセレナの背面へ回り込む。
そのままお尻を掴んで左右に広げさせ
「こちらもなかなかの絶景ではないか!」
そう言いながら再び撮影ボタンを押した。
「んぐっ! や……やめて……お願い……!」
セレナの涙声が詰まった途端
ヴィンセントは満面の笑みを浮かべて向き直る。
「ん~~ん! 良い表情だねぇ~
恥辱に打ち震える表情がとても魅力的だ!
まさに堕落寸前の女神っていう感じ!」
彼は手を叩きながら賞賛するように言う。
シャッター音が空洞に響くたびに、セレナの矜持は一片ずつ削られていく。
「さて、次はどんなポーズにしましょうかねぇ?」
ヴィンセントは絵画商のように腕を組み、床に横たわる裸身を品定めする。
彼の視線は這い回る毒蛇のように、白磁の肌の上を這いずり回る。
金髪が乱れ、肩口にこびりついた返り血が醜い斑となって淫靡さを増す。
裂けた軍服の切れ端が肘に引っ掛かり、まるで惨敗を宣言する旗印のようだ。
「……見るな……」
セレナの声は掠れ、吐息と区別がつかない。
震える喉元からは脈打つ動悸が伝わり、喉仏の窪みを小さく上下させる。
「おやおや。泣きましたか?」
ヴィンセントの指先が頬を這い上がり、透明な雫を掬い取る。
冷たい指の腹が肌に触れると、電流のような痺れが背骨を貫いた。
羞恥か怒りか──いや、もはや判別のつかない混沌がセレナの中枢で沸騰している。
「貴女のような『完璧』を自認する方が涙を流すのは珍しい」
彼の言葉に嘲笑は含まれていない。
純粋な好奇──獣医が珍しい標本を検分するように澄み切った瞳だけがある。
「う……ぅ……っ」
嗚咽が堰を切る。
誇り高く磨き上げられた堤防が亀裂を生じる刹那の音──
細く鋭い警笛のように喉から洩れた。
ひと粒。瑠璃色の睫毛に載った涙珠が零れ落ちる。
頬を伝う軌跡は雫というより筆致。
清冽な涙は蒸気灯の橙光を孕み、ガラス細工の雫のように輝く。
落下の途中、ヴィンセントの指が受け止めた。
「ふむ。味はいかに?」
指先を口許へ運びぺろりと舐める。
「塩辛い。勇気の成分かもしれませんね」
馬鹿げた戯言。
だがセレナには反論する余裕すらなかった。
次の瞬間、再び涙が溢れ出した。
つらつらと流れる透明な河。
その流れは止まらず、やがて唇の端で糸を引く。
唾液と混ざり合い、滴り落ちて胸元の谷間へ消える。
辱められながらも美しく揺れる双丘が、涙の軌跡を吸い込むように蠢く。
「……嗚呼、これは」
ヴィンセントの呼吸が乱れる。
「なんと──なんと背徳的にも美麗な光景でしょう?」
彼はセレナの上に跪き、耳元に囁きを注ぐ。
「貴女の涙は武器ですよ。女神の鱗粉のように男を蝕む」
声帯を通った低い囁きが鼓膜を穿つ。
セレナの身体は小刻みに震え、
涙腺はなおも粘つく感情の溶岩を噴き出し続ける。
「ふふ。もっと流してくださって構いません」
ヴィンセントはそっと顎を掴み、自分の方へ向かせた。
真っ赤に腫れた瞼の奥、紅玉の瞳が怒涛のように濡れている。
その色は炎のように鮮やかなのに、
水面を湛えた夕暮れの湖面のように儚い。
「泣くことは悪いことではないのですよ」
彼は宥めるように額へ口付けを落とした。
だが唇を離すや否や、
「──だからこそ、その涙ごと奪いましょう」
再び凶暴な笑みが戻る。
長い指が髪を梳き上げた途端、後頭部から項へかけて鳥肌が走る。
涙と汗で湿った金糸は絡まりやすく、ヴィンセントの指にまとわりつく。
「さあ次はどの方法で慰めてあげましょう?」
彼は冗談めかして提案する。
選択肢はない。力尽くで押し込められた未来が当然のように提示される。
その無慈悲な宣告に対し、
セレナはただ嗚咽と共に睫毛を伏せた。
睫毛の影が頬に映し出す幾何学模様。
それは壊れゆく鏡の罅のように脆く不安定だ。
──守るべきものはあるの?
涙で曇る思考の中で問いが生まれる。
祖国? 名誉? 自分自身?
答えは霧の向こうにあるようで届かない。
ただ確かに感じるものがある。
身体中に点在する敏感な器官が次々に目覚め、
火照りを訴えている。
羞恥の熱と、否応なく引き摺り出された本能の温度が重なり合う。
「……」
言葉にならない呻き。
それは悲しみとも、拒絶とも違う。
もっと深いところで蠢く何か──未踏の恐怖と好奇心が交差する渦潮のようなもの。
ヴィンセントはその気配を嗅ぎ取ったのか、目を細めた。
「ほう。涙の海に沈みながらも沈み切らないとは」
彼は喉を鳴らす。
「あなたの中にはまだ砦が残っている。良い。実に良い」
その指が再び腰へ伸びる。
残滓の少ない腰布の端を摘み上げる動きは緩慢だ。
まるで時間を引き延ばし、逃げ場を封じるように。
「ではその砦の土台がどれほどの硬度か」
囁きが耳殻をくすぐる。
「試してみるのも悪くない」
その宣告が幕切れになるかと思った瞬間──
セレナの胸元からぽとりと雫が落ちた。
涙ではない。
拭い切れずに凝固した返り血の痂が溶けたものだった。
鉄錆の匂いが微かに鼻腔へ届く。
途端に記憶の扉が開き、ゲドとの死闘が蘇る。
──まだ終わっていない。
脳裏を掠めたのは諦念ではなく反撃の意志だった。
血と涙の混ざった温い液体が胸に落ちた箇所を中心に
静かに鼓動が呼び起こされる。
しかしヴィンセントは気づかない。
彼の指は腰布を捲り上げ、次の地獄を拓こうとしている。
「次はお待ちかねの場所です」
愉快げな声。
けれどセレナの瞳には、いつしか僅かな光が揺らぎ始めていた。
滴り落ちる涙は止まらない。
それでも底から燐光のような決意が芽吹き始めている。
──この辱めを礎に変わる時が来るだろうか?
無数の問いが脳裡に咲き乱れる中で、
ひとつだけ確かなことがある。
泣いてもいい。
それが彼女の弱点であろうと武器であろうと。
羞恥で顔を覆い尽くす涙はなおも尽きないが、セレナは歯を食いしばった。
悔しさと怒りと……どこからか生まれてくる得体の知れない昂揚に肺が焼ける。
喉の奥で嗚咽が泡立ち、息を吸うたびに鉄錆と香水の残り香が鼻についた。
「本当に……なんて卑怯な輩だ」
声は震えているが、その底には氷の針のような冷たさがあった。
「卑怯? いやいや」
ヴィンセントは面白がるように首を傾げる。
「私は礼儀正しいだけですよ。宝を手に入れたなら、
丁寧に鑑賞するのが道理というものでしょう?」
「宝……」
セレナは自分の姿を見下ろす。
千切れた軍服。露わになった乳房。
漆黒の紐パンだけが慎ましく──しかし滑稽に──腰に貼り付き、
涙で化粧は流れ落ち、唇には血と砂埃。
これが……宝?
「貴方は本当に下劣よ」
呟きは嘲りを孕みながらも、
どこか自分自身を刺すナイフのようでもあった。
「下劣とは聞き捨てなりませんなぁ」
ヴィンセントはくつくつ笑いながらも眉を吊り上げる。
笑みと侮蔑が同居した、猫のような顔だ。
「それなら提案があります」
彼は指を一本立てた。
「『公正』に行いましょう。私が触れるたびに貴女が三秒以上耐えられなければ──」
「耐えられなければ?」
「貴女の艦の乗員たち全員に朗報を送ります。
ホールズ家の姫君がいかに高潔で、
そしていかに慎み深いのか……具体的な画像資料と共にね」
背筋が粟立った。怒りよりも先に胃袋が軋む感覚が訪れる。
「卑怯以前に人道違反よ」
「人道?」
彼は芝居がかった溜息を吐いた。
「では軍人たる貴女の辞書にその項目を捜してみて下さい。
弾雨の中で泣き叫ぶ民間人の救難信号を幾度も切り捨てるほど合理的で非情な帝国に
果たして人道などという詩篇が残されていると?」
言葉に詰まる。
セレナとて知っている。
軍法会議で読み上げられる犠牲者の数字。
救助困難区域と判定される星系の羅列。
「……残酷なゲームね」
「ゲームではありませんとも」
ヴィンセントは穏やかに訂正し、
再び頬に手を添えて涙を掬った。
体温よりわずかに冷たい指先が肌を滑り、
セレナは反射的に肩を震わせる。
「これは裁定です」
「裁定?」
「ええ」
彼は微笑み、その笑みの輪郭を涙が斜めに割った。
「あなたの誇りが幻影でなければ
きっと耐えられますよ。
たった三秒。私の指先が貴女の神経を探り当て
理性を瓦解させようとするたった三秒に」
そこで言葉を切る。
「……負ければ終わり?」
「終わりではありません。
続行です。永遠に続く羞恥の檻。その蓋に貴女自身の署名が捺されるだけのこと」
冗談とも本気ともつかぬ声。
しかし脅迫に似た確信が潜んでいる。
「受けて立とうじゃない」
唇が震えるのを叱咤するように言った。
半ばヤケクソ。残る半分は意地だ。
「決闘形式だと良いわね」
「貴女の好きな方で構いませんよ」
ヴィンセントは恭しく一礼し、
ハンディ・タイマーを取り出して三秒をセットした。
電子表示の数字が不吉な呼吸を始める。
「最初は……どこにいたします?」
彼は視線で肢体を掃く。
「胸の頂きか。あるいは──」
唇を一瞥して薄く笑う。
「いや。公平に抽選と参りましょう」
カードキーほどの黒板を取り出すと、
素早くプログラムコードが走り四隅にナンバーが現れる。
1──左胸
2──右胸
3──腹部
4──その先
「さて……」
電子音が一度だけ鳴り、「3」が点滅した。
腹部。つまり臍のあたり。
「幸運と言うべきか不幸と言うべきか」
ヴィンセントは苦笑し、準備を進める。
電子音が残響を引き、ヴィンセントの指がセレナの腹部へと降り立つ。
「三秒、ですからね」
警告は机上の空論だった。
指先が臍の窪みを撫でた瞬間、既に終わっていたのだから。
肌の裏側で雷が疾走する。
脊椎を貫く快楽の矢が背骨を弓なりに反らせた。
「……っ!」
声にならない叫び。
腹部という脆弱な領域は、本来性感帯として設計されていない。はずだった。
しかしヴィンセントの爪先は微かな圧を送り込むだけで内部神経を直接叩く。
肋骨の陰に隠れていた幼い芽が突如暴かれ、蜜を噴いた。
二拍目。
第二関節が僅かに弧を描く。
腹直筋の溝をなぞる動きは慈雨にも等しい柔らかさなのに、
肌は火山口のように灼熱していく。
胸の頂きより鋭く、秘処より狡猾な刺激。
全身が弓なりに突っ張り、軍靴の踵が石畳を掻いた。
三拍目など待たなかった。
指先が臍孔を軽く押し上げた瞬間、世界が真紅に霞んだ。
迸る液体が漆黒のショーツを焦がすほどの熱を孕んで零れる。
筋肉は意思を離脱し痙攣を奏でた。
「おや……イキましたか」
ヴィンセントの声が遠い。
耳朶を通過してゆく風のように形を留めない。
しかし意識だけは鋼の楔で己を床に留めていた。
涙で滲んだ視界が波打つ。
視界の端でカウントダウンの数字がゼロに戻るのが見えた。
「まさか初手でここまで深い絶頂を迎えるとは……」
彼は心底楽しげに呟き、掌を翻して頬を撫でる。
汗と涙で湿った金髪が指に絡む。
「では、次です」
息を整える暇もなく今度は胸を無造作に捏ねる五指が巧みに這い回る。
乳嘴を探り当てると螺旋状に撫で回す。
僅かな圧で転がされただけで再度高潮。
先程の余韻が鎮火する前に次の焔が投げ入れられた。
「……ひ……っ!」
今度は声帯が鞭を打たれたように震えた。
背中を支えていた最後の柱が崩れ、床に肩を打ちつける。
痛みも羞恥も区別できない奔流が意識を飲み込む。
「一箇所探るだけで二度……大したものですね」
ヴィンセントは爪で涙を弾き、微笑する。
「ご存知でしたか? 科学者の一部は腹腔と生殖系を司る迷走神経に
快楽スイッチが散在すると唱えているんですよ。
まぁ理論証明より実証実験の方が早いでしょうが」
冗談めかした講釈。
しかしその指先は冷徹な解剖師の獰猛さを秘めていた。
セレナは荒い息とともに身を捩った。
快楽という名の杭を無理やり穿たれるたびに
羞恥心が悲鳴を上げる。
それでも抗えない──本能が快感を求めて脈打っている。
「……なぜ……わかる……?」
嗄れた声で問うと、ヴィンセントは愉悦を隠さずに答えた。
「簡単です。私も同じ場所にスイッチを持っているからですよ。
無論、男女であっても神経路は通底しています。あとは……勘でしょう」
彼は自身の鳩尾を叩いて示し、続けてセレナの腰骨に触れる。
「ここを押してください。二度呼吸を整えてから……」
命令のような提案に反射的に従う。
言われた部位に指を当てると微妙な脈動が掌を通して伝わる。
まるで未知の生物が胎内で蠢くようだ。
「わかりますか? この裏側に卵巣があり、
さらに上部には脳と同じ化学物質を分泌する神経群があります。
これらを外界から直接叩けば如何なる女神とて屈服する」
淡々と述べて再び指を走らせる。
鼠径部近くの浅い窪み──普通は無色な凹凸を爪先が掠めた瞬間
「……!!」
声にならぬ嘶き。
腹の奥に眠る泉門が激しく逆流しはじめた。
膝頭が勝手に合わさり衝突して骨が鳴る。
涙腺が開き放題となり熱い滴が耳へと溢れる。
床を蹴ろうとしても力は抜け、四肢が踊るばかり。
「これは……素晴らしい」
ヴィンセントは陶然と言った。
「体内から湧き上がるマグマをどうにか外へ放出しようと
膣壁が蠕動しているのが分かりますか? 触れてもいないのに」
彼は恍惚と宣言し、セレナの股間へ掌を置く。
親指だけを微動もさせずに。
ただ質量としてそこに在るだけ──
それだけで十分だった。
外部からの圧力なしに肉体内部の律動が暴れ回る。
脳天まで駆け上がった快電流が網膜を白昼夢のように眩ませる。
時間が千々に裂けた。
一瞬後に身体ががくりと弛緩。
膣口は空気を求めて小さく開閉し
夥しい蜜が黒布越しに滴った。
「三箇所制覇です」
ヴィンセントは立ち上がり、膝を曲げてセレナと視線を合わせた。
「ですがまだ序章にすぎません。
貴女の中に幾つの扉が隠されているのか……
少しばかり……探検させていただきましょう」
涙で霞む瞳に彼の笑顔が歪んで映る。
嵐のような快楽の後の真空状態でセレナはただ息を継ぐことしかできなかった。
(まだ……終われない)
脳裏にかすかな火花が残る。
屈辱を糧にして生まれた反抗の意志。
しかし肉体は無条件に彼を求め始めていた。
ヴィンセントの指が頬を撫でたまま止まる。
次の一歩を選ぶ猶予を与えるかのように。
だが彼女は知らない。
その停止こそ罠であり、
本当の侵犯は「待ち時間」に仕込まれていることも。
彼の掌はまだ何もしていない──
だが掌紋の谷間から放たれる微かな体熱だけで
セレナの肌がざわめき始めているのだから。
「さて、次は──」
ヴィンセントの指が再びセレナの胸元へ戻る。
先刻の嵐で乱れた呼吸がまだ整っていないのに、
次の波が訪れる予感に彼女の背筋が粟立った。
「第三の扉を開きましょう。貴女自身が気づいていない秘密の階段を」
彼の声は睦言のように甘く囁くが、内容は残酷なほど精密だった。
右手の人差し指と薬指が、左右から乳輪の縁をそっと挟み込む。
まるで蝶の翅を折りたたむような優雅な動作。
「力を抜いてください。痛くはありません」
嘘だ。そう思いながらもセレナの身体は支配されたように硬直する。
処女の未成熟な神経が警鐘を鳴らしている。
だがヴィンセントの指先は嘘つきの王子のように巧みだった。
指腹が乳肌に接する瞬間、セレナは小さく息を飲む。
温かい。母の掌のように柔らかな圧力が肌を包み込む。
そして次の瞬間──
(……ぁ)
驚愕が走る。
彼の指が沈み込むように乳房へ埋没していく。
だが皮膚が傷ついているわけではない。
まるで無数の羽毛が密集して乳肉を撫でるような滑らかさ。
「我が家の家訓です。"奪うときは痕を残すな"」
ヴィンセントは楽しげに笑うと、中指を中央に向けて滑り込ませる。
三点の指圧が乳房の外縁から徐々に中心へ向けて螺旋を描くように収縮する。
「これを"花弁転"と呼んでいます。表層刺激で内部の血管を膨張させ」
人差し指がわずかに角度を変えた。
「次にこの位置」
瞬間、乳首の根本を正確に押さえつけた。
セレナの喉から嗚咽のような息が漏れる。
今まで経験したことのない鈍い熱が乳房全体を侵食していく。
母性を象徴する器官が突然異国の情事のために改装されていく感覚。
「見てください」
ヴィンセントの指が乳輪を一周する。
紅茶に湯気が立ち昇るように、セレナの胸の頂点が明らかに変容を始めていた。
桜色だった先端が深紅に変わり、微かに突起を伸ばしている。
「まだ直接触れていませんよ?」
彼は愉しげに告げると、指を一度離す。
解放されたはずの乳房が虚空を寂しげに泳ぐような錯覚に襲われる。
内部で膨張した血流が行き場を失い悶えているのだ。
「今度は左側を」
同じ手法が反対側の胸にも施行される。
指圧の振動が右胸へ共鳴し、さらに深い共振を生み出す。
セレナの身体は床を離れまいとするくせに四肢が内側へ巻き込むように縮んでいく。
(こんなの……初めて……)
羞恥に塗れた思考の片隅で奇妙な納得が浮かんだ。
これが大人の女の身体なのだと教え込まれているようだ。
貴族教育では教わらなかった生理知識が皮膚を通して刷り込まれる。
「おや?」
ヴィンセントが身を乗り出した。
セレナの秘処を隠す黒い布地が新たな湿度を吸収し、
鼠蹊部へ沿って光沢を増していることに気づいたようだ。
「乳首への間接刺激だけで下腹が応答するとは……やはり遺伝でしょうか?」
彼の親指がついに目標地点へ向かう。
指先が濡れた三角地帯に触れる直前で停止し、
「しかし今はメインディッシュではありません」
敢えて中断する。
焦らしという毒牙が最も効果的なタイミングを見計らって。
「まずは頂戴しましょう。貴女の"初々しさ"という稀少資源を」
その言葉と同時。
左右の人差し指と親指がそれぞれ左右の乳首を捉える。
これまで蓄積した刺激で充分に敏感になった蕾を──
「────っ!!」
抓り上げる。
悲鳴は声帯を超えて喉の奥で燃え上がる炎となった。
乳腺全体が焼き付けられたように疼き、
全身を駆け巡る電流が神経の樹脂を白日に晒す。
これまで感じたことのない鋭利な快感が背骨を一直線に貫通し、
「あ゛……ッッ!」
濁った喘ぎが漏れた。
それは淑女としての体裁を完全に崩壊させた汚い音色。
自分自身ですら聞いたことがない獣じみた雌啼き。
「素敵ですよ」
ヴィンセントは恍惚とした表情で頬杖をついた。
「これこそ征服の醍醐味。高潔な白百合が泥沼で足掻くさまを見る快楽……!
セレナの身体は小さく痙攣を繰り返しながらも、
より強い刺激を求めて胸を突き出すような格好になってしまう。
理性の戒めが乳肉の奥から湧き上がる原始的な欲求に負け始めたのだ。
「まだ序盤です。今夜中に何ヶ所扉を見つけられるでしょうね?」
彼は指を離さず、次の技巧に移行する。
人差し指と中指を交互に押し込み乳頭基部を掘り起こすように刺激する。
「この手法は"櫛型揉撫《くしがたもみな》"といいます。
表面を摩擦せず内部の神経束だけを集中的に揺さぶる禁じ手でして……」
「ひ……っぅ……やめ……っ」
セレナの制止は懇願とも罵倒ともつかぬ啜り泣きに変わった。
だがヴィンセントの笑みは深くなる一方。
「大丈夫。痛くないでしょう? 痛みどころか──」
彼は一旦言葉を切り、
「快楽が苦痛に感じられるほど深いところまで導くだけです」
再び指を動かす。
乳首の側壁を軽く擦る指先の熱。
そこから枝分かれする血管が乳房全体へ共振し、
膣口の奥深くで甘酸っぱい疼きが生まれる。
外部からは誰一人触れずとも内部粘膜が勝手に蠢き始めた。
(嫌……気持ちよくなりたくない……!)
必死に抵抗する意識と裏腹に、
身体は正直に快感を求め始めていた。
処女膜の奥で熟睡していた生殖本能が鎌首をもたげる。
ヴィンセントの指技はまるで巫女の祝詞。
眠る獣を目覚めさせ奉仕させる古代の呪術。
「ほら見てください」
ヴィンセントは指をわずかに引く。
乳首の周囲に小さな汗の環ができており、
それが月輪のように鮮やかに浮かび上がっていた。
「最高潮直前のサインです。……では」
彼は親指と人差し指で乳頭を軽く摘み──
「御馳走になります」
捻った。
「────────────ッッッ!!!」
今回は声にならなかった。
代わりに喉が破裂音のような息を吐き出す。
全身が魚のように跳ね上がり、腰が勝手に持ち上がる。
乳房以外の全ての筋肉が一斉に緊張し、次いで弛緩する。
乳肉の芯から迸る激烈な快感は雷雲を腹腔へ落としたようだった。
未熟な性感が一度に臨界点を超え、オルガスムへ雪崩込む。
「お見事」
ヴィンセントが拍手をする。
指を離した瞬間から三秒遅れて涙腺が決壊。
大粒の涙が頬を転がり落ちていく。
「たった一回でここまで……やはり生まれながらの名器ですね」
侮辱にも近い賛辞がセレナの耳を打つ。
羞恥心が再び洪水を引き起こし、
まだ治まっていない肉体の疼きと混ざりあって意識が攪拌される。
(わたしは……一体……何を……)
思考が溶解していく。
矜持の城塞は崩れ去り、残るのは粘稠な欲求の沼。
だが底からまだ微かに抗う意志の灯火が灯っているのに本人が気づかない。
ヴィンセントはそれを確かめるように指を拭い、
「次は第四の扉。そろそろ下半身のお相手もして差し上げましょうか」
妖しい宣告を耳元へ吹き込んだ。
セレナは嗚咽の中で僅かに首を横に振る。
だがその拒絶は泣き虫の赤子ほど説得力がない。
「案ずることはありません」
ヴィンセントは穏やかに微笑む。
「貴女の身体は賢明です。
いずれ私の名前を聞くだけで濡れるようになるでしょう。
その時は……私こそ救世主だと感謝するはずです」
指が乳首から離れるまでの僅かな空白の間に、セレナは呼吸を整えようと努めた。
だが胸腔は異様に大きく上下し、
肺は酸素より快感の余韻を貪っているかのようだった。
(こんな……信じられない……)
視線を落とすと、裂けた軍服の隙間から覗く乳房が微かに震えている。
ヴィンセントの指が離れても尚、乳首は充血したまま小さく尖り続けていた。
まるで放置された玩具が再び遊ばれる時を待っているようだ。
「美しい眺めだ」
ヴィンセントが陶然と呟く。
彼の目には計算機のように精密な輝きが宿っていた。
女の身体を解析し掌握する猟師の目だ。
「そろそろ休憩を入れましょうか?」
「……冗談よね?」
セレナは絞り出すように問うた。
虚勢に過ぎないと分かっていても、弱みを見せるわけにはいかなかった。
「もちろんです」
ヴィンセントは爽やかに笑う。
「ここで安堵を覚えさせておいたほうが、次の屈辱はより深くなりますから」
悪寒が背筋を駆け抜ける。
この男は常に一段階上の残忍さを想定している。
「水をどうぞ」
彼はテーブルに置いてあったクリスタル製のカップを手に取る。
黄金色の液体が揺れて芳香を放つ。
おそらく高級なワインか蜂蜜酒の類だ。
「結構です」
「強情ですねぇ」
ヴィンセントは首を傾げると、自らひと口含んだ。
次の瞬間、彼の顔が不自然なほど近づいてくる。
「——っ!?」
唇が重なった。
セレナが咄嗟に歯を食いしばると、
ヴィンセントの舌が強引に口内へ侵入する。
同時に咽喉を灼く熱い液体が流れ込んできた。
反射的に咳き込む。
するとヴィンセントは満足げに唇を離した。
「抵抗するなら無理やり押し込む。単純な選択問題でしょう?」
セレナは唇を拭おうとしたが、予想以上のショックに身体が硬直してしまう。
無言で溢れる涙を拭うことすら忘れ、呆然と虚空を見つめていた。
唇が離れてもなお口腔に残る葡萄酒の余韻が、
生々しい敗北感となって彼女の思考を蝕む。
セレナの瞳は焦点を失いかけた琥珀色の海のごとく揺蕩う。
頬を伝う雫はもはや生理的反応ではなく、矜持の砕け散る音を代弁していた。
「おや?」
ヴィンセントが面白そうに目を細める。
彼は距離を取り、さながら芸術批評家の如くセレナを俯瞰した。
「強情な姫君にしては珍しい。
キス一つでこれほど狼狽するとは──
帝国軍人が聞いて呆れますよ」
その言葉が引き金となったのか、セレナの喉がひくりと鳴った。
胸が早鐘を打ちすぎて苦しい。
唇は熱を帯びて震え続けている。
初めて奪われた感触──柔らかく湿った接触が、舌と共に口腔へ侵入してきた異物感──
その生々しい残像が脳裏に焼き付いて離れない。
「……戯言は……」
ようやく搾り出した声音は掠れ切り、
震える羽衣のように頼りなかった。
「もうたくさん……です」
ヴィンセントはわざとらしく肩を竦める。
「言葉だけならいくらでも逃げ道を用意できます」
彼は一歩近づき、指先で涙の跡をなぞった。
親指が頬骨を撫で上げる軌跡は慈しむかと思えば、
次の瞬間には唇の輪郭を辿り始める。
「身体は正直に泣いている。
唇もまだ震えていますよ。
まだ味わいたいのですか?」
拒絶の言葉より先にセレナの唇が開いた。
否定を紡ぎたくても言葉にならない──
そもそも何故、抗えずにいるのか理解できない。
(これが……屈服というやつ……?)
心中で自問する。だが即座に否定する。
これは単なる生理現象だ。
混乱と驚愕が一時的に神経を麻痺させているに違いない。
「考え事をする暇を与えてしまったようですね」
ヴィンセントの声が再び近づく。
咄嗟に目を瞑るが、唇に触れることはなかった。
彼の唇は逆方向──耳朶へと寄っていく。
「今宵はゆっくり教えて差し上げましょう。
貴女の身体が快楽に従順である理由を」
甘い吐息が耳管を這う。
同時に指が首筋から鎖骨へ滑り降りた。
往復運動を繰り返すだけでセレナの肩甲骨が戦慄く。
「まず第一。貴女は強すぎる力の代償として、
肉体の均衡を保つ為に過敏な感受性を持たざるを得なかった。
常人離れした戦闘力と並列して、この感度もまた侯爵家の遺伝なのです」
言葉が囁かれるたび耳介が熱を帯びる。
抵抗の意志と裏腹に、身体は何処かでその指先を求めている。
矛盾が苛まれる。自分が自分でなくなる怖さ。
「第二に──」
ヴィンセントの指が更に下方へ移動する。
乳房の裾野を掠めて肋骨へ沿い下降し……
「抑圧された才能ほど、開花すれば激しい」
鼠径部の淵を描くように円を描いた。
「──ね?」
問いかけに応える代わりにセレナの全身が跳ねた。
抑え込んでいた羞恥心が破裂しそうなほど膨張する。
その瞬間、ヴィンセントは指をぴたりと止めた。
「いまから第三の要素をお話しします」
期待と嫌悪が綱引きを繰り返す。
どちらが勝つかなど分かりきっているのに。
「第三。それは心理的欲望です」
ヴィンセントはあえて指を引くと椅子へ腰掛けた。
冷たい革の感触が太腿に染みる。
彼は足を組み、セレナに向かって優雅に嗤う。
「軍人とはいえ年頃の娘。
禁欲的に振る舞うほど潜在的な渇望は募るもの。
ましてや高位貴族なら尚更──
将来の夫との閨房を想像したこともあるはず」
図星だった。頬がかあっと紅潮する。
(そんな……妄想なんか……)
否定しようとするが言葉にならない。
父が持ち寄る肖像画に微笑む若い男の顔。
婚約式で交わす祝福のキス。褥での初夜──
子供の頃から漠然と夢想していた情景が走馬燈の如く甦る。
「おかしいですか?」
ヴィンセントは冷笑した。
「初恋を知らない処女ほど妄想は豊かになるものです」
彼の言い放った一言が核心を抉る。
セレナは拳を握りしめるが力は籠もらない。
もはや反撃の余力もない。
「さて」ヴィンセントが立ち上がる。
「第三の要素が一番厄介です。
なぜなら理性で抑制できる段階を越えた時──」
言葉の途中で彼は再び接近し、セレナの耳元に唇を寄せた。
「快楽は罪悪感と共にあるほど甘美なものだから」
ぞくりとした快感が背中を走る。
唇がまた耳に触れる。
「ご覧なさい。貴女自身が既にわかっているでしょう?
抑えつけてきた衝動ほど開放されれば暴走する。
いまも身体は求めているはずだ──
私の指も舌も……全部」
否定しようとすればするほど、内側で何かが疼く。
羞恥と困惑が渦巻き理性の防壁を溶かし始めていた。
「認めなさい」
ヴィンセントが静かに言った。
「貴女は……欲しいのでしょう?」
セレナは目を見開く。
瞳が潤み涙が零れる。
それは肯定とも否定ともつかない反応だった。
「ふふ」
ヴィンセントは満足気に微笑むと耳元から離れた。
「いい表情だ。
さあ続きを始めましょう。
まずは処女のまま逝く悦びを教えてあげる」
彼は再び乳房へ指を這わせる。
今度は拒絶の声すら上がらない。
セレナはただ小さく震えながら
(わたしは……いったいどうなってしまったんだろう)
と考えることしかできなかった。
「さて、ここからが本番です」
ヴィンセントが懐から小さな金属製の筒を取り出した。
薬莢のような形状に、先端だけが球状に膨らんでいる。
「おっと誤解しないでください。これは媚薬や催淫剤ではありません」
彼はセレナの警戒心を察したように言うと、
「単純に神経伝導速度を低下させる阻害剤ですよ。
要するに、どれだけイキ狂っても意識を手放すことなく、
地獄の快楽を味わい続けられるわけです」
言いながら彼は筒をセレナの首筋に押し当てた。
僅かな音と共に透明な液体が注入されていく。
「安心してください。致死量ではない。
……まあ数時間は眠気を感じずに楽しめるでしょう」
セレナは蒼褪めた。
拒絶の声を上げるより早く、ヴィンセントの手が再び彼女の胸へ伸びる。
「さあ第二ステージです。今度は時間をかけずに行きましょう」
「やめて……お願いです……もう……」
か細い哀願が喉から漏れる。
だがヴィンセントは聞こえないふりをして乳房を掴んだ。
指が沈み込む感触は先程と異なり重さを伴っている。
強制的に引き出された快楽の記憶がすぐに蘇り、
セレナの体は嫌悪と渇望の狭間で震えた。
「まずはここと決めましょう」
左手の人差し指が乳輪を一周してからゆっくりと中心へ。
右手はもう片方の乳房を下から持ち上げるように支える。
「この角度と圧力がベストです」
親指と人差し指が同時に乳頭を軽く挟み込み──
まるで葡萄の実を摘むような慎重さで引っ張った。
「————っ!!」
セレナの喉から悲鳴とも嬌声とも判別不能な音が迸る。
これまで受けたどの刺激よりも鋭く直接的な疼痛。
それが即座に快感へと転換し背骨を直撃した。
「ほら分かりますか?」
ヴィンセントは嬉しそうに告げる。
「痛いのに気持ちいい。矛盾した信号を脳が処理できなくなって──」
更に捻るように指が動く。
「理性が逃避するんです。貴女はもう抗えません」
言葉どおりセレナの意識は朦朧としていた。
否認したい感情と裏腹に身体の芯で渦巻く飢餓感。
「もっと……」
掠れた囁きが自らの口から洩れているのに気づかず。
「ほう?」
ヴィンセントが愉しげに眉を上げた。
「随分素直になりましたねぇ。
ではこちらはどうです?」
空いた右手の指先が突然鼠径部へ滑り込んだ。
黒布地越しに盛り上がった恥丘を探り、中心線を往復する。
「ひぅ……っ!」
セレナが仰け反った。
快楽中枢への迂回路を遮断されていた性感が急激に呼び覚まされる。
「上半身だけでも十分でしたが」
ヴィンセントの声が耳元で甘く響く。
「やはり女の核はここですよ」
布地の上から割れ目を二本の指でなぞり始めた。
まるで見えない鍵穴を探す職人のように微妙な圧力で。
「違う……やめ……っ」
身体を捩じらせて逃れようとするが腰が浮くだけだった。
ヴィンセントは巧みに追随し指を固定する。
「感じ方が変わりましたね」
彼の指がクロッチ部分を擦るたび蜜液の音が室内に響く。
羞恥と喜悦の混合臭が漂うなかセレナは目尻から大粒の涙を零す。
(こんなの……わたしじゃない)
自我が分裂し始めた。
ひとつは帝国を守る高潔な将校としての自分。
もうひとりは床に転がりただ快感を求めて喘ぐメス。
「そろそろ限界でしょう」
ヴィンセントが宣告する。
乳首を捻ったまま掌全体を使って乳房を揉み込み始めた。
同時にもう片方の指で陰核と思しき隆起を探り当てる。
「両方を同時に責められると──」
親指と中指が勃起した豆粒を挟む。
「脳は判断不能になります」
彼の言葉とともに身体が爆ぜた。
「っあ゛あッ──—──!!」
声域の上限を超え悲鳴が裏返る。
二ヵ所からの快感信号が脊髄を焼却し脳幹に直撃。
眼前で白い稲妻が炸裂し意識が断続する。
だが──
いつものようにブラックアウトしない。
注射された阻害剤が作用しているのだ。
「おやおや」
ヴィンセントが満足げに呟いた。
「ちゃんと起きていますね。偉い偉い」
嘲笑めいた褒賞を浴びながらセレナは絶頂の余韻に浸るしかない。
理性の壁はもはや機能せず崩壊した礎だけが転がっていた。
「まだまだ続きますよ」
指が乳首から離れない。
「このまま十回。いえ二十回くらいは付き合っていただきましょうか」
淡々と宣告された地獄の幕開け。
「次はどんな方法がよろしいかな……」
ヴィンセントは優雅に思案を巡らせながら
指先に再び悪戯な動きを宿した。
セレナは自分の胸元を凝視し続けるほかなかった。
白磁の乳房が男の手中で自在に形を変えられていく──
その光景そのものがすでに非現実に見えた。
(だめ……これ以上は……)
訴えかける内心をよそに
ヴィンセントの左手は依然として乳首を軽く引っ張りながら
親指でその根本を小刻みに摩っている。
「ふむ……やはり素晴らしい反応だ」
彼は感嘆の溜息を洩らした。
「乳頭周辺の血管が一層開いている。
血流量が増えたぶん感度も跳ね上がるわけだが……」
考察めいた独白に続いて今度は別の指が追加される。
中指と薬指が乳房の底部を支え持ち上げる。
まるで果実を摘む農夫の手捌きだ。
「こうやって乳腺の走行を意識的に圧迫すると──」
乳首の根元を強く圧迫しながら親指で側面を撫でる。
すると全身を電流が奔り抜けた。
「あァ……ッ!?」
セレナの背中が大きくしなり肩甲骨が浮き上がる。
同時にヴィンセントの右手が鼠径部へ滑り込み
「はい、同時責めの基本ですね」
クロッチ越しに小さな膨らみを探すように撫で回した。
先程注ぎ込まれた愛液で布地は既に透けかけており
勃起した花芽の所在を隠せなくなっている。
「ここですね」
的確に見極めた指先が軽く押し当てる。
「ひぅ……っ!」
強すぎる刺激に脚が跳ね上がる。
だがヴィンセントは腰を跨ぎ重量で押さえ込み逃れさせない。
「まず一回目の確認──」
宣言と共に指腹で円を描く。
五回目を数える頃にはセレナの膝が痙攣し始めていた。
「や……あぁ……ッ!」
もはや軍人らしい抑揚は消え
掠れた声が連続的に漏れるのみ。
「はい三秒カウント──」
乳首への刺激が中断された瞬間
彼の手がショーツの中へと進入した。
「ッ──────!!」
息を詰めたままセレナの視界が真っ白に染まる。
濡れそぼった陰唇を割って指先が腟口を探り当てたのだ。
「すごい量ですね」
卑猥な水音を立てながら第一関節が埋没する。
入口周辺だけで軽く出し入れされると粘膜が勝手に締め付けを求めた。
「二回目。逝きましたか?」
揶揄するような問い掛け。
セレナは答えず首を横に振った──否定なのか懇願なのか本人にも分からない。
「まあ構いません」
ヴィンセントはさらに進め指を根元まで埋没させる。
内部で曲げた指がGスポットと推測される箇所を押す。
「──―っ!?」
鋭い刺激が膀胱にまで到達し尿意と錯覚する圧迫感。
脳は混乱し判断を誤ったまま快感信号へ変換してしまう。
「これも良いでしょう」
今度は乳首を解放し両手で下半身に専念し始めた。
左手で小陰唇を押し開き右手の指が中を探る。
「三回目」
内壁を引っ掻くように動くと脳髄が沸騰した。
「四回目──」
「あ……あ……っ!」
声を殺そうとする努力は悉く失敗し
断続的に甘い呻きが零れ続ける。
「面白い反応ですねぇ」
ヴィンセントが満足げに呟く。
「通常であれば四回を超えると慣れが出ますが
あなたの場合逆に感度が上がっていきます」
証明するかのように内部の指が第二関節まで抜け
再度挿入された瞬間セレナの全身が弓なりに反った。
「五回目。惜しい」
薄い笑みを浮かべ彼は動きを止める。
「あと一ミリで最深部なのに
こちらが我慢比べとなってしまいましたか」
挑発的な言葉で煽りながらも再開した抽送。
「六──七──八──九──」
数えるごとに速度と深度が上がり
セレナは枕を掴み歯を噛み締めて堪えようとする。
だが阻止すべき絶頂感は回避不能な津波へ育っていた。
「さあ十」
決定打として膣内の指がくの字に曲がる。
瞬間、堰が切れ悲鳴に似た喘ぎがほとばしった。
「…………っ!!」
言葉にならない快楽の咆哮。
内壁が断続的に収縮し精液を絞ろうとする牡羊の本能のように彼の指を食い締める。
「よくできました」
ヴィンセントはゆっくり指を引き抜き
付着した透明な粘液を舐め取った。
「純潔な割には立派な愛液です」
嘲弄に満ちた台詞を浴びせても返答はない。
セレナは虚ろな目で虚空を見据えたまま呼吸を整えていた。
「さて」
男は上着を脱ぎ捨てシャツのボタンも外す。
露呈した胸板は細身でありながら彫刻のように均整が取れている。
「本来ならばここで休憩を入れるべきでしょうが……
強靭な貴女のことですから問題ないですよね?」
苦笑混じりの問いに対し、セレナは初めて言葉を搾り出した。
「もう……終わ……て……」
途切れ途切れの懇願。
頬を伝う涙は羞恥と恐怖が混濁したものだろう。
「終わり?」
ヴィンセントは首を傾げた。
「まさか。これからですよ」
彼はセレナの両膝を掴み開かせた。
まだ潤み切っている陰唇が空気に触れて震える。
「この状態なら十分に裂傷を避けれます」
何の話をしているのか悟りかけたセレナの表情が青褪める。
慌てて身を捻ろうとしたが枷同然の体重に押さえつけられてしまう。
「安心してください」
彼は笑顔で告げた。
「処女のまま逝かせて差し上げると最初に誓ったでしょう?」
その言葉が示唆するのはさらに先の凌辱。
未来に対する嫌悪感と不安がセレナの心臓を強く握り潰した。
「ですが今宵は私に貸してください」
言い終える前に彼の長い指が再び侵入する。
今度は二本まとめて奥深く差し込まれた。
「ッ!」
新鮮な痛みに似た衝撃。
だが次の瞬間には異物感が快感へ置換される。
「十二──十三──十四──」
無慈悲なカウントアップが始まった。
「いや……だめ……」
「十五」
「やめてェッ……!」
「十六」
懇願も哀願も聞き届けられることはない。
むしろ抵抗すればするほど指使いは巧妙さを増し
弱点を的確に抉る角度を探り当てていく。
「十七──十八」
「もう……許し……て……」
「十九」
「お願いッ……っ!」
「二十」
数字を唱えるたび内部の指が微妙に角度を変え
襞一枚一枚を耕すように撹乱する。
セレナの意識は白い霧に覆われていき
どこが快感源かも判断不能な混沌に陥った。
「さあ二十四回目で区切りましょうか」
宣言と同時に親指が剥き出しの陰核を軽く弾いた。
同時に膣内の指先が最奥部へ届く。
「────っ!!!」
轟音のような悲鳴を上げた刹那
身体中の筋肉が一致団結して収縮した。
長く尾を曳く快美感が背骨を通じ脳天を刺し貫く。
「お見事」
ヴィンセントが息を弾ませて指を抜く。
栓が失われた穴口から透明な愛液が糸を引いた。
「まだ意識がありますね?」
もちろんセレナは答えられない。
荒い呼吸に合わせ腹部が上下しており
潤んだ瞳孔は焦点を結ぶことができずに揺れている。
「それでは五分間休憩を入れましょう」
意外な言葉が耳に入る。
安堵と困惑が入り混じったままセレナは瞼を閉じようとした──
「但し」
冷水のような声が続く。
「その間に別の準備を致しますので悪しからず」
閉じかけた瞼が再び見開かれた。
ヴィンセントは傍らのケースを開けると
奇妙な器具を取り出してゆったりと磨き始めている。
銀色の蛇腹状パイプに柔軟そうなシリコン製ヘッドが付属した小型装置だ。
底にはプラグ状のパーツがあり如何にも挿入系であることが窺える。
「鎮静剤と同じ成分を使ったジェルですよ」
彼は親切そうに説明を始める。
「局所麻酔のような副作用はなし。
但し一度装填すると最低でも三十分は脈動します。
つまり貴女のここを連続噴水機にしてしまう道具と言えば分かりやすいですかね」
セレナの顔面から完全に血の気が引いた。
肢体は未だ快感の余熱に包まれているのに
次の展開への畏怖が急速冷却を促していく。
「大丈夫」
彼は慰める風に微笑む。
「先端に薄膜ゴムを取り付ければ純潔は保ちます。
それに二十一世紀式バイブレーションなど陳腐なものではありません。
最先端の振動パターンは脳科学に基づいて設計されているんですよ」
全く信用の置けない台詞である。
セレナは懸命に体勢を直そうとするが力が入らない。
「では参りますか」
ヴィンセントが玩具を手にしたとき
彼女の瞳には最後の反抗心が煌いた──
だが肉体の方は裏腹に内部を痙攣させ新たな侵入者を待ち望んでいるようだ。
「覚悟はいいですか?」
問われて首を横に振るのが限界だった。
ヴィンセントは優しく頷き微笑む。
「では三十回コースの開始です」
宣告と同時に冷たい円錐が蜜洞へ押し当てられる。
絶望の淵から湧き上がる微かな期待がセレナの喉を鳴らした。
玩具の先端が湿った縁に触れた瞬間
セレナの体内温度がさらに上昇したのを彼女自身が感じ取った。
(だめ……また……)
拒絶の意志を表明する以前に
粘膜が条件反射的に内側へ流れ込む冷気を迎え入れようとしている。
「入りましたよ」
ヴィンセントは愉快そうに報告しながら
ゆっくりと回転を加えつつ挿入を進めた。
「痛くはないでしょう?」
確かに異物感はあるものの
麻痺ジェルの効果なのか刺戟は鈍い。
だが同時に未知の不安が胎内で拡大していく。
「ではテスト運転に入ります」
彼がリモコンのスイッチに指を掛ける。
「一分間だけ稼働させますね。
もし耐え難い場合は遠慮なく言ってください」
嘘であろう。
仮に泣き叫ぼうと止めないのは明白だった。
それでも抵抗するより他ない──
セレナは歯を食い縛り来るべき責苦を迎撃する姿勢を整えた。
カチッ。
機械音がして振動が始まる。
最初は穏やかな周期律動。
子宮頚近くに微細な波紋が広がり
その度に浅い愉悦が拡散していった。
(これなら……なんとか……)
油断しかけた矢先
第二フェーズへ移行する通知もなく振幅が一挙に跳ね上がる。
「ひぃ……ッ!?」
小規模な地震じみた震動が内部全域を網羅しはじめた。
同時にヴィンセントが玩具をグッと押し込み深部で留める。
「う……ぁあ……ッ!」
先程まで乳首を苛んだ指圧よりも鋭く、しかも永続的だ。
絶頂の崖淵で留まり続けている感覚──
呼吸すら困難となる連続的な昂奮波。
「五分後に自動停止ですので安全ですよ」
彼は他人事のように説明を続け、セレナの顔を覗き込む。
「初回にしては上出来ですね。
涎と涙が綺麗に混ざっていらっしゃる」
言われるまま口角から滴が顎を伝い落ちた。
快感で咽び泣く醜態を見せまいと懸命に閉じようとしても
唇が震えるばかりで叶わない。
「次はこれを併用しましょう」
ヴィンセントが取り出したのは小さな吸引器だった。
ピンセットサイズの筒状器具で先端が球形になっている。
「乳頭は先程の工程で肥大していますから
負荷を与えた方が馴染みやすそうです」
乳輪周辺へ微量のジェルを塗布すると
器用にカップを乳首へ貼りつけた。
カチリ。
スイッチオン。
吸引が始まり
乳頭が徐々に引き伸ばされていく。
痛みと快感の境界線ギリギリを彷徨う疼痒。
「はァ……っ!」
頭を横に振りながら呻くセレナ。
玩具を咥え込んだ結合部は白濁した汁を垂らし
黒いショーツを最早原型留めない染み状態にしていた。
「ちょうど二時間コースまで行けそうですかね」
ヴィンセントが壁掛け時計に目をやる。
「昼まで存分に楽しめそうで何より」
あまりに悠長な口振りに怒りすら覚えるが
今更叛意を示したところで無駄だと理解している。
(いっそ気絶できれば……)
そんな願望は阻害剤により実現不可能だ。
寧ろ意識は明晰になりつつあり
全感覚が一点の針に集束していく。
「七千ヘルツを超える波形です」
彼が唐突に語り始めた。
「通常人間の聴覚域外ですが皮膚感覚には干渉します。
理論的には脳の報酬系をダイレクトに刺激し常習性を生む」
専門知識の羅列など聞いていられない。
ただセレナは己の身体が作り替えられていく恐怖に戦慄していた。
「ほら見てください」
ヴィンセントがセレナの右手を掴み
玩具が突き立つ局部へ持って行く。
「あなたの体温と潤滑分泌量なら
これくらいの粘度で充分です」
セレナ自身の手指が玩具の表面に触れる。
高温になった樹脂製本体が振動を伝え
脳は所有者本人の手による自慰行為と錯覚を起こした。
「いや……っ!」
必死で手を引き剥がそうとするが
ヴィンセントは頑固に押さえ込む。
「違いますよ? 自分の身体を管理するのは大事です」
講釈と共に指の位置を変えさせ
爪でGスポット近辺を圧迫させる格好へ矯正した。
「そこを自分で押し込み続ければ」
「や……めて……くださ……」
「逝きたくて逝きたくて仕方なくなるでしょう?」
耳元で甘く囁く。
暗示に近い命令に背中が粟立つ。
「私が手を離したら試験開始です。
十五分以内に四十回以上到達できなければ罰ゲームですからね」
ふざけた宣言が終わり彼は本当に手を退けた。
自力で振動棒を支えつつ
右手で内壁を押し込む苦行が課せられる。
(嫌……なんで私が……)
呪詛を吐こうにも喉から出て来るのは喘ぎのみ。
だが規定時間を超過すればさらなる刑罰が待ち受けている。
「イケ……」
自分に向けたのか相手への挑戦か分からない呻き。
それでもセレナは震える手で指定された圧迫地点へ力
「イケ……」
自分に向けたのか相手への挑戦か分からない呻き。
それでもセレナは震える手で指定された圧迫地点へ力を込めた。
「──ッァ!」
肉壁が震える玩具と自らの指で挟まれ
電撃じみた刺激が脊椎を駆け上がる。
1回目。
「そうだ……そのまま一定のリズムを」
ヴィンセントの冷淡な指導に反旗を翻すべく
あえてペースを乱して短く小刻みに押し込む。
2回目。
浅いが鋭い波が胸まで跳ね上がった。
肺腑が痙攣し呼吸が途切れる。
「ずる賢いやり方ですね」
彼が苦笑混じりに呟く。
「でも同じ箇所ばかり繰り返せば早晩枯渇しますよ?
3回目に移ろうとした瞬間
身体が休息を求めて弛緩する。
「5秒インターバル禁止」
審判めいた叱咤が降ってくる。
「連続で行きましょう」
無茶苦茶な指令だが背くと後が恐ろしい。
セレナは懸命に腹筋を使い押し込みを再開する。
4 5 6 7……
数を重ねるごとに四肢が鉛のように重くなる。
けれど薬剤が痛覚閾値を上げており疲れという概念が希薄だ。
9 10 11……
頬を伝う汗と唾液が混じり合い
顎から滴り落ちシーツに新たな染みを作る。
12……!
刹那視界がフラッシュバックし火花が散る。
13 14 15──
もはや自主制御とは呼べないレベルだ。
ほぼ反射のみで手が動く。
16 17 18
焦燥と共にカウントは加速する。
目標達成まで残り少ないが
代償として精神エネルギーの消耗は甚大だった。
19 20──
「あと二十回!」
ヴィンセントが愉快そうに檄を飛ばす。
まるで競泳大会のコーチである。
21 22……
ここで一度激しい眩暈に襲われる。
平衡感覚が麻痺し視界が傾いで見える。
23 24……
「頑張れ頑張れ」
揶揄混じりの声援にも構わず
セレナは全身の神経を股間に集中させた。
25 26……!
途端に四肢が震え内股が痙攣する。
だが減速は許されない。
27 28 29……
ついに臨界点が訪れる。
脳が過負荷警告を発し意識が一瞬途切れた。
30!!
寸前で踏み止まり強制的に眼球を見開く。
まだ残り十一回。ここで倒れるわけにはいかない。
31 32……
ほとんど無意識領域。
肉体が生存本能で絶頂感を利用し血糖を分泌させている段階。
33 34 35……
「あと五!」
ヴィンセントが机上のストップウォッチを見ながら励ます。
36……!
突如玩具の基部が熱を帯びた。
内部バッテリーが臨界温度を超えた兆候だろう。
「故障……?」
言いかけた言葉より先に接地面が過敏化し
異様なまでの快感が発生する。
37ッ!!!
「早い!」
彼が歓声に似た悲鳴を上げる。
思わぬ副作用が功を奏した格好だ。
38 39……
時間が無い。残り三十秒を切っている。
40──ッ!!
最後の一撃を決めた瞬間
玩具がピーという高音と共に停止した。
ほぼ同時にセレナの全身から力が抜け
ぐったりとベッドへ沈み込む。
「お見事!!」
拍手喝采の音が遠く響く。
朦朧とする視界の中でヴィンセントの顔が歓喜に歪むのが映った。
「タイムは……十四分五十秒! 十秒差で合格ですよ!」
耳障りな解説を遮断すべく瞼を閉じる。
だがまだ終わっていない。約束どおり罰則は執行される。
「さて次は特別サービスです」
ヴィンセントは上着のポケットから細長いアンプルを出す。
金色の液体が妖しく輝いている。
「自律調整型ニューロチップを埋め込みます」
「……え?」
「簡単に言えば脳内に小型の幸福ホルモン生成機構を取り付けるだけです。
副作用はありませんよ? 実際私も使っています」
そんな会話を聞きながら
セレナは虚ろな意識の中で首を左右に振った。
だが抵抗の意志はかたちにならず
ただ涙がぽとりと頬を滑り落ちるだけだった。
「一分で終わりますから」
ヴィンセントは注射針を用意し
左側のこめかみあたりに軽く指圧する。
瞬間的な痛みと共に何か温かいものが頭蓋内へ滲みていく感覚──
「さてテスト開始です」
数分後の室内。ヴィンセントは椅子に腰掛け
セレナのバイタルデータを表示した携帯端末を眺めている。
「初期適合指数は72%。良好ですね」
「……」
返事はない。どころかセレナは虚ろな目で天井を見つめたまま動かない。
頬を伝う涙は涸れ気味だが新たに溢れ出し続けている。
「まずβ‐エンドルフィンの放出量を見てみましょう」
ヴィンセントが指で空中をスワイプする。
グラフが表示され急激な山を形成していた。
「120マイクロユニット……最高記録更新だ。
これは凄い。やはり貴族の因子は伊達じゃない」
「…………やめ……て……」
蚊の鳴くような声。消え入りそうでなお響く。
「聞こえません」
悪びれもなく言い放ち
「では第二試験に移行します」
セレナの四肢を固定していたバンドを外すと
代わりに肘掛付きのハイバックチェアへ移乗させた。
手枷足枷を付替える際
当然の流れで衣服が剥ぎ取られていく──もはや羞恥よりも寒気が先に立つ。
「ここからは能動的な協力をお願いします」
ヴィンセントは小瓶に入った粉末を提示した。
「フェンフルラー化合物と呼ばれるものです。
脳内分泌系の制御下にある快楽中枢を選択性に刺激します」
言い終わらぬうちに小さなスプレーノズルをセレナの口元へ宛てがった。
「吸い込んで下さい」
命令形。だが身体は動かない。
「では強制投与です」
麻酔針が項へ突き立てられる。即座に咽喉が痙攣し
咳をする形で粉末が吸引されてしまう。
「ごほっ……! ぅぐッ……」
粘膜に付着した化学物質が燃えるように熱い。
喉奥から湧き上がる嘔気を堪えるうち
胸の中央で鼓動が二倍速になった。
「効き目は三分後から」
ヴィンセントは砂時計を逆さまにした。
「その前に予備動作をしましょう」
予備動作──という言葉だけで背筋が冷える。
彼はペンライトを取り出しセレナの虹彩を照らすと
ゆっくり首の角度を変え光条を右→左→斜め上へ移動させた。
「追従動作正常」
さらには手の甲にチョークリングを嵌めさせ
簡単な計算問題を立て続けに解答させる。
「27×13=?」
「三百五十一……」
「56÷7=?」
「八……」
「πr²の公式を口述して下さい」
「円周率かける半径の二乗……」
完全に意識はある。だが拒絶する気力が存在しない。
薬剤によって主体性が奪われ傀儡のごとく応答させられる不快感だけがあった。
「三分経過」
ヴィンセントが砂時計を片付ける。
「さてさて。気分はどうですか?」
答えようとすると声帯が震えた。
フェンフルラー化合物の効果は、想像をはるかに超えて早く訪れた。
「——っ」
セレナの喉から漏れたのは、声とは呼べない息の塊だった。
胸郭の奥で心臓が暴れ、血液は沸騰した水銀のように全身を疾走する。
皮膚の下を這う血管が、まざまざと可視化されたかのように灼熱を発した。
神経が一本ずつ引き延ばされ、
無造作に剥き出しにされたような——そんな残酷な感覚。
「……効いてきましたか」
ヴィンセントの声音は、ひどく穏やかだった。
それは慈母が赤子に向けるような柔らかさを持っており——
だからこそ、セレナの心底を凍えさせた。
「まだ触れてもいないのに……なんて素敵な反応でしょうね」
視界が霞む。彼の顔も、薄暗い船室の景色も、
全てが白濁した液体の中に浮かぶ蜃気楼のように歪んだ。
額を汗が這い落ちる。肌に纏わりつく空気そのものが媚薬であり、
肌を撫でる風さえ、指先で敏感な場所をなぞられるような刺激に変わる。
これが——【常在悦】の状態。
休む暇さえなく神経を焼き続ける、神経毒にも等しい永遠の拷問。
「いや……っ」
咄嗟に口をついた言葉は、懇願だったのか否認だったのか、自分でもわからなかった。
どちらにせよ意味を成すものは何も含まれていない。
ただ乾いた口腔から、嗄れた音が零れ落ちた。
ヴィンセントは立ち上がる。
靴音が床板を叩き、近づいてくるその音ですら
鼓膜を通して頭蓋に甘美な震動となって突き刺さり脳を蕩かせた。
「貴女のお悩みはわかりますよ」
彼の声がすぐ耳元でした。
「この身体の芯にずっと居座っている快感……
まるで烙印のように刻み付けられて消えない感覚。辛いですよね?
出口を見つけたくても見つけられなくて、どうしたらいいのかわからない——」
囁き声が、鼓膜の薄皮を直接撫でるように響く。
低いが決して強くなりすぎない——まるで毒虫が螺旋階段を登るような音。
「ええ、ええ、承知しておりますとも」
ヴィンセントの指が、セレナの髪に触れた。
ただそれだけで、
「——ッァ!」
獣じみた悲鳴が喉を割った。
皮膚の表面に与えられたごく軽い接触は、脳内で増幅され数倍の衝撃となって迸る。
髪を梳かれた瞬間、神経末端が異様に昂ぶり——
頭蓋内でスパークが散ったように感じられた。
「頭皮の神経というのは案外馬鹿にできませんからね」
ヴィンセントは楽しげに続けた。
「ここだけでも数百——いや数千もの微細な感覚器官があるのです。
それを思う存分刺激できる立場に立つなんて……なかなか悪くないものですよ?」
「っ——」
「ご安心を。今はまだ“軽くなで”る程度です」
髪を弄る指先の動きは止まらない。
だがその度にセレナの身体は小さく跳ねた。
脊椎に沿って火花が散り——内腿が痙攣し——
臍下にどろりと熱い塊が蓄積されていく。
——おかしい。
自問が胸中を走った。
そもそも触れられてすらいない。
ただ頭を撫でられているだけだというのに——
どうしてこんなにも感じてしまう?
脳が勝手に過敏に反応し——
身体全体が浅ましいまでに疼き始めている?
これは一体誰のせいなのか?
「——そう困った顔をしなくても」
ヴィンセントが微笑み混じりの吐息を漏らした。
「全ては貴女の責任なのですよ、“女神殿下”」
指先が耳の縁を辿り——首筋へと降りてくる。
皮膚の薄い箇所を舐めるような優しさで。
「神経系というのは精密です。一度“扉”を開けば二度と閉じることはできない。
貴女が幾度もの絶頂を通して獲得した快楽反応は——
神経回路に焼き込まれ永久保存されてしまうのです」
「つまり貴女はもう“普通”に戻ることはできない。
この甘美な牢獄の中で一生過ごすしかない——ということです」
——まさに奈落の底から氷柱が突き上がるような言葉だった。
「そんな……馬鹿なこと……」
掠れ声で絞り出した抗議は、明らかに自らへ向けた祈りにも等しい。
そんなことがあるはずがない。あってはならない。
だって自分は誇り高い帝国航宙軍の大尉で——
皇帝陛下の臣であり帝国の秩序を守る剣なのだ。
だからこそ。
こんな風に辱めを受ける理由など、どこにもないはずなのに。
「いいえ、女神殿」
ヴィンセントは微笑みながら顎をしゃくった。
「“馬鹿なこと”なんかではありません。
これは正当な報酬なのですよ?」
「……!」
「考えてご覧なさい」
彼の声が近づく。
「貴女がこれまでどれだけ多くの同胞を殺してきたと思います?
賊に身を堕とした下民たちを——貴女はたやすく斬り捨ててきた。
彼らにも帰るべき故郷があって、待つ者がいたかもしれない。
それでも尚、貴女は手加減など考えもしなかったでしょう?
——だって『正しい』と思っていたから。正義のために行っていたことだから。
ならば多少身を穢すなど、軽い浄罪ではありませんか?」
その論理の歪みは明らかだった。
だが今のセレナにとってはそれで十分過ぎた。
耳を塞ぎたくなる現実は、もう既に目の前にあった。
自分が幾人も屠ってきた生命がある。
そのことを罪とは思わない——
国防のためには必要な犠牲と教え込まれてきた。
だが少なくとも被害者側からすればどう写ったかといえば……
「…………」
答えられなかった。
口に出そうとした言葉は全て舌の上で溶けて消えた。
悔恨と無力感が胃袋の中で黒い泥のように渦巻き始める。
そしてそこで気がついた。
自分が今——
泣きそうになっていることに。
「——うん、それでいいのです」
ヴィンセントがささやく。
「人は皆、自分が犯した罪に向き合う資格がある。
貴女みたいに立派な騎士にもね。
そして私たちみたいなクズでさえも平等に裁かれることができるのですよ」
「い……や……」
嗚咽混じりに否定しようと試みるも——
うまくいかない。
涙腺が緩みかけているのが自分でもわかる。
そんな時。
ヴィンセントの指が肩口へ触れた。
制服越しとはいえ——それだけで激しい震動が骨を揺らした。
「——!」
「泣き顔は可愛らしい」
彼の言葉はどこまでも軽やかだった。
「でも勿体無いので今日は見納めにしておきましょう」
「もうすぐ夜が明けますから」
薄墨色の帷幕に朝焼けが染み込んでくるように——
外界の気配が少しずつ変化していく。
カーテンの隙間から漏れる光も増え始めた。
——それが救いになるかどうかは別として。
「そろそろお暇を頂きましょうか」
ヴィンセントはくるりと踵を返した。
「私はこのあと仕事が控えておりますから。いずれまた——必ず来ますよ?」
「…………」
何も言い返せない。
ただ去っていく足音だけを聴いていた。
一人きり残された狭い船室の中で——
爛れた感情に胸を煮え滾らせながら。
神経を焦がす淫靡な疼きは一向に治まる気配がなかった。
◆◆◆◆◆◆
朝が来た。
と言っても——ここは航行中の船舶の中だ。
外洋艦艇に乗るものであれば誰もが経験する、
太陽の位置も昼夜も判然としない人工灯に照らされた灰色の一日。
それがセレナにとって唯一の安らぎであったはずなのに——
「ふあ……っ……」
浅瀬で溺れかけている魚のように喘ぎ声をもらすしかなかった。
ヴィンセントの言葉通り——
肉体の深部を支配する恒久的な欲情は止むことはなかった。
いや寧ろ時間が経つにつれ強度を増しているようにさえ感じる。
身じろぎ程度であっても——シーツが擦れる感触だけで神経は炎上した。
(落ち着いて……)
深呼吸を試みる。
胸を上下させて酸素を吸い込めば——
肋骨の間からこぼれる微かな振動でさえ
性的信号に変換されてしまう。
「————」
声を押し殺し涙を目尻に溜めながら耐えるしかなかった。
どれほど時間が経過しただろう。
ようやく隔壁の向こうから誰かが近づいてくる足音が聞こえた時には——
セレナは助かるかどうか以上に単に人の気配に安堵を覚えてしまったほどだった。
ギィと金属枠が軋む音。
扉が開かれた。
「——」
セレナは、まず気配でそれを悟った。
人の立つ僅かな衣擦れ。鋼鉄の床板を踏みしめる規則正しい歩音。
それらが混じり合った空気の波が、隔絶されたこの船室にも忍び込んでくる。
そして——漂ってくる。
男の匂い。
「っ……!」
刹那、心臓が大きく跳ねた。
その鼓動と共に体内を巡る血液が俄かに温度を上げる。
喉が乾く。舌の根が熱を帯び、
飢えた肉食獣のように口腔内を貪欲に蠢かせ始めた。
(違う——)
否定しようとした思考は、
しかしすぐに快感という名の奔流に飲み込まれていく。
ヴィンセントの言う通り——
自分の脳は何らかの薬物的作用によって変質させられてしまっているのだ。
オスの体臭ひとつ嗅ぐだけで生殖本能が無理やり呼び起こされてしまう。
恥ずかしい。
許し難い。
そして何より——怖ろしい。
だがそんな理性の警鐘など微塵も効果を持たぬようで……
「起きているかい?」
聞き慣れない男の声だった。
低い——それでいて妙に澄んだテノール。
扉の向こうから一歩踏み入れた気配に、セレナの身体は勝手に震え上がった。
「おっと——怯えてる?」
苦笑混じりの呟きと共に影が動く。
セレナは咄嗟に顔を伏せようとしたが、すでに遅かった。
男は無遠慮に近づきベッド脇で脚を止めると彼女の顔を覗き込んだ。
年齢はおそらく50代前後。
精悍というより獰猛と呼ぶ方が相応しい容貌をしている。
刈り込まれた短髪は焦茶で眉宇には野生児のような翳り。
紺碧の瞳には好奇心と蔑みとが混ざり合って燃えていた。
そして何より——この男から放たれるフェロモンめいた香りだ。
濃厚な男臭さの中に隠れた獣性。
それを嗅いだだけで下腹部が疼き始めてしまう。
「噂に違わぬ麗しいお姫様だな」
ゲリッツ・イクサーマル——
デイビット伯爵の弟であり豪胆さを売りとする傭兵上がりの剣客。
表向きは財貨交渉役として活動しつつ裏では傭兵団を運用し
非合法な海上輸送網を牛耳っていると聞く。
「甥っ子に吹き込まれた時は驚いたよ。
まさかあの厄介な独立艦隊の女王様が囚虜になるとはねぇ?」
嘲るような口振り。
けれどそこには侮蔑以上の感慨が宿っている。
強敵を討ち取った征服者の愉悦。
あるいは狩人が追い求めた獲物を眼前に並べた時の嗜虐。
セレナは睨み返すことさえできず俯いたまま歯噛みする。
屈辱に顔が歪むのを止められない。
けれど同時に頬はじんわり朱に染まっていくのも自覚できた。
身体が——反応している。
ただそこに佇まれているだけで
オスを求める原始的な本能が肉体を擽るのだ。
ヴィンセントが植え付けた脳内チップと薬物の複合作用。
その結果として招かれた地獄にセレナは囚われていた。
「ほう」
ゲリッツの双眸がかすかに細められた。
察したのだろう。
目の前の侯爵令嬢が表面上は平静を装いつつも
内側ではどれほど劣情に蝕まれているかを。
「やっぱり面白い反応するねぇ……」
低く唸るように言いながら彼は袖口のボタンを外す。
鍛え上げられた逞しい腕が露になった。
上腕から掌までを覆う爬虫類めいた鱗の文様。
古い傷痕や盛り上がった腱。
それらを見た瞬間セレナの理性は崩れかけた。
欲望。
この腕に抱かれたいという欲求が——
強制的に沸き立つ。
「やめて……ください……」
かろうじて絞り出した声は震えていた。
恐怖のせいか期待のせいか——
自分でも判別できない。
「やめて、ねぇ?」
ゲリッツは鼻で笑うと懐から小瓶を取り出した。
琥珀色の液体が月光を反射している。
「これ、効くんだよ。皇都地下街で流行ってる新薬でね。
嗅ぐだけで雌狐が盛り猫みたいになる代物さ」
栓を開ける。
ぷんと薬草に似た芳香が部屋に充満した。
途端、セレナの胸元で火花が散るような錯覚が起きた。
「あっ……!?」
膝が震える。背中が弓なりに反る。
視界が瞬時に星屑だらけになるほどの眩暈。
「うん、素晴らしい即効性だ」
満足げに頷くゲリッツ。
セレナは焦点の合わなくなった瞳で虚空を仰いだ。
思考は溶け崩れ指先は濡れた蝶のようにぴくんぴくんと跳ねる。
——欲しい。
男を求めたいという衝動が頭蓋内で咆哮する。
「だけどさ」
突然、ゲリッツの表情が翳った。
「僕は趣味が悪い方でね。
君のそういう“盛ってる姿”を見るだけで射精しそうなんだよ。
でもなぁ……単に押し倒すだけじゃ芸がないと思わない?」
そう言うなり彼は近くのテーブルへ歩み寄り
金属製の箱から何かを取り出す。
ジャラリと金属の鎖が擦れる音。
「まずは景気づけにちょっと遊ぼうか」
彼の手には革紐と金属環を組み合わせた首飾り——
奴隷用のチョーカーが握られていた。
裏側には卑猥な刻印が彫り込まれている。
【I belong to the master】
「これに自分で名前を刻みな」
ゲリッツはペンのような工具を差し出した。
プラズマ放電式で皮革を容易く削れる代物だ。
「できるかい?」
嘲笑とも哀れみともつかない響き。
セレナは震える手で工具を掴んだ。
拒絶したい——なのに身体は従順だ。
手首の筋肉が痺れ声帯が喘ぐ。
胸郭内の熾火が爆ぜて火花の雨が降ってくる。
(——屈しない。屈し、たくない、のにぃ……♡)
最後の一線だけは譲ってはならないという理性の訴え、或いは断末魔を
圧倒的な快楽の奔流が押し流し、女体の芯に訴えかける。
もうダメ……♡、と……
頭を振るうことすら出来なくなってしまう。
セレナはとうとうペン先をチョーカーに当てた。
SELENA
筆致はガタつきながらも確実に名前を刻んでいく。
一行目のSで手が止まった時、涙がぽたりと落ちた。
「お利口さんだ」
ゲリッツが嗤う。
「じゃあ次は“Maid of……”の後に好きに入れようか?
Knight Commanderとか? いやもっと可愛いのが良い」
嘲笑は続く。
けれどもセレナの耳には届かない。
ただペンが皮革を抉る音だけが遠雷のように木霊する。
Knight Commander SELENA
Master's Personal Plaything
書き終えた瞬間、激しい嘔気に似た嫌悪感が湧き上がった。
同時に腹腔で爆発した甘い稲妻が脳へ突き刺さり恍惚を招く。
「はぁ……ッ♡」
吐息は陶然としていた。
セレナは自らを鞭打つように歯を噛み締め首を振る。
「まだ自我は残ってるっぽいね?」
ゲリッツがチョーカーを受け取ると背面の留め具をぱちんと嵌めた。
硬質プラスチックのロック音が室内に響く。
首に重石を吊されたような重さ。
しかし同時に奇妙な充足感が胸裏に芽生え始める。
(だ……め……だ……ッ)
屈服した訳では——ない筈なのに。
視線を上げればゲリッツの逞しい肢体が迫る。
生成りのシャツの襟元から覗く男臭い胸毛。
汗に湿った腋窩の蒸気。
視界に入るだけで身体が煮え立つ。
「あ~あ。もうトロ顔してるよ君」
呆れ声で言いながら男は片手を伸ばす。
節くれだった指先がセレナの頬に触れ——
「んん゛ッ!?!?」
小さな悲鳴と共に背筋が跳ねた。
ただ撫でられただけだと言うのに腰が抜けてしまうほどの衝撃。
神経の琴線を一枚ずつ千切られたような——甘い絶望。
「やだっ……ダメぇッ♡」
逃げ惑う声が掠れる。
けれど逃げる術も、拒む余裕も最早ない。
「おいおい。これで序章なんだから参ったなぁ」
ゲリッツが顔を寄せ囁く。
「これから本編が始まっちまうんだけど——どうする?」
答えなど出せるはずがない。
それでもセレナは残滓の意思をかき集め唇を噛んだ。
「お願い……もう——」
言葉は途切れ息になるだけ。
「わかったわかった」
ゲリッツは朗らかに笑い、
「じゃあ今日のところは——徹底的に“遊んで”あげるとしよう」
彼は両掌でセレナの細い頬を包みこんだ。
逃げ場を奪われた睫毛の裏側で火花が散る。
唇同士が重なる寸前——
セレナは確かに聞いた。
己の心臓が破裂寸前のドラムロールを鳴らす音を。
唇が奪われるより早く、視界が揺れた。
頬を挟まれたまま天地が反転するような眩暈に襲われ、
セレナは息を呑んだ。
いや——呑み損ねたと言うべきか。
次の瞬間には既に唇を塞がれていた。
「ん、んゥ──っ!?」
抵抗は一拍遅れた。
舌が捩じ込まれる前に歯列を閉ざすという、
いつもなら反射的に出来る些末な防御さえ、
今は砂糖菓子のように脆い。
舌先が触れ合った瞬間、
口内全体が焼けるように甘い蜜で満たされ
快感の津波が喉の奥から一気に噴き上がった。
(これ——何!?)
理解不能。
接吻一つでここまで翻弄されるとは
自分が軟弱なのか薬物のせいなのか区別のつけようもなかった。
ゲリッツの舌遣いは粗野ではあるが巧妙だった。
こちらの弱点を探るように蠢き
歯茎から軟口蓋にかけて丹念に撫で摩る。
その度に電気ショックにも似た快美感が走り
背骨を通じて臀部へと降り注いだ。
「っぁ……ふぅ、ん゛♡」
押し殺した声が漏れる。
自分のものとは到底思えぬ甘ったるい嬌声。
その事実に再び羞恥が募り
羞恥は更なる性感を呼び込むという悪循環。
唇を吸い上げる吸引力さえ凶器のように快い。
呼吸を掌握されているという無力感が
逆説的に被虐の悦びを増幅させてしまうのだ。
「ぷはっ」
暫くして顔が離れた時、二人の唇を唾液の糸が繋いでいた。
熱病患者のように潤んだ双眸で、セレナはゲリッツを見上げる。
「随分と美味しそうな顔をするじゃないか」
男は楽しげに唇を拭った。
その仕草にまで無性に惹かれてしまい
乳房の中心が疼くのを感じる。
(ダメ……っ!)
理性が警笛を鳴らす。
けれど肉体は既に主を裏切り始めている。
薬物由来の催淫作用だけではない。
己の遺伝子すら根底から改竄され
オスを求める設計図に書き換えられていくような——
根源的な恐怖。
「そう緊張しないでほしいね」
ゲリッツは掌を滑らせ
軍服の開いた胸元へ侵入させた。
布地越しではなく生肌に直接触れる指先の感触。
冷たい床から這い上がる蟲の群れのような戦慄。
「ひゃう゛!?」
思わず奇声に近い声が洩れる。
肋骨をなぞるように這う掌。
その軌道は明らかに急所を避けていた。
乳輪の周り——しかも一番敏感な場所には決して触れない
緩慢で焦れったい愛撫。
「あ……ぁ……♡ や……」
「嫌なのかい?」
問い掛けとともに親指の腹で
僅かに突起の先端が擦られた。
「ぁ゛───!?!?」
全身が跳ね上がる。
脳裏に白い花弁のような閃光が咲き乱れ
膣穴から透明な潮が噴き出した。
「おやおや……まだ胸もまともに揉んでないのに
もう駄目になっちゃった?」
嘲り声が冷水のように頭上から降る。
だが身体の方はまったく別の反応を示していた。
秘裂の入口はぬめった汁で溢れ
ひゅくひゅくと収縮を繰り返しながら
更なる刺激を乞い求める恥知らずな蠢きを
目に入れるだけで脳裏が燃え上がる。
「君……本当に罪深いったらありゃしない」
(恥ずかしい……)
その感情すら快楽へと変換されてゆく。
精神が肉体に逆らいきれなくなっていく過程を
彼女は為す術もなく傍観するほかなかった。
「さて、どう料理したものかな」
男はしばし熟考の素振りを見せたのち
ベッド脇に備え付けられていた据付端末へ手を伸ばした。
鈍く光る掌サイズの黒曜石装置。
「面白そうな機能を見つけちゃってね」
カチリとスイッチを入れると
壁面いっぱいに複数のディスプレイが浮かび上がる。
映し出されているのは——この船室だった。
正確には全方位カメラにより異なる角度から撮影された
セレナ自身の痴態の数々。
「ちょ……!」
蒼褪める暇も与えずに映像は再生される。
頬を染めて悶える己の顔。
胸を跳ね上げて泣き叫ぶ声。
そして——涎を垂らしながらシーツを濡らす下半身。
「やめ——!」
悲鳴交じりに手を伸ばすも画面は揺らぎもしない。
仮想空間に投影された影像。
如何なる力を使っても消せぬ鏡映しの悪夢。
「良い教材になりそうだろ?」
ゲリッツは肩を竦めた。
「何より自分がどんな風に醜態晒してるか
しっかり確認できるという良心設計だ」
「最低……あなたなんて……畜生以下……!」
搾り出す罵声は涙声だった。
自分に対する失望と怒りとが
混濁した蜂蜜のように渦巻いている。
「その台詞がそそるんだよねぇ」
男は嬉々として言いながら覆い被さってきた。
正面からではなく側面へ回り込み
横臥位の体勢で背後から抱きすくめる。
逞しい胸板が背中に密着し
耳殻を啄むように甘噛みされた。
「ん……っ♡」
嫌悪よりも先に快感が来る。
薬漬けにされた神経は
もう彼岸と此岸の境目すら曖昧だった。
「そう固くなるなよお姫様。
これは授業料みたいなものだと思って付き合ってくれ」
囁く声と同時に指先が滑り降りた。
尾骶骨から会陰部へかけて
羽毛を撫でるように微妙な圧をかけ
そのまま慎重に秘唇へ—
「きゃっ!?」
油断した瞬間に挿入された。
指先一本。
けれどその質量は絶対的な侵略であり
待ち侘びていた粘膜は貪婪に絡みつく。
「すごいな……濡れ過ぎじゃない?
「だ……め……んっ♡」
拒絶の言葉は途中で蕩けた喘ぎへ変わる。
肉襞が吸盤のように指に纏わり
蠕動する度に甘美な電流が走った。
「ほら見てご覧」
促されるままに視線を上げれば
正面スクリーンでは結合部のアップが映っている。
白濁した愛液と桃色の粘膜が
男性器に見立てられた指を咥え込んで
淫靡なダンスを踊っていた。
「くっ……」
あまりの羞恥に目を瞑ろうとしても
自動追尾モードなのか画面の方が追随してくる。
「視覚から刷り込みするのが大事なのさ」
背後から響く愉快そうな声。
次の瞬間、中指が曲がりGスポットを抉った。
「ぁ゛あ゛──!!」
雷槌のごとき快美感。
視界が反転し尻肉が痙攣する。
「ワン・ダウン」
愉しげに宣言すると
即座に薬指が加わり二本に増える。
内壁を擦り上げ掻き回し
同時に親指がクリトリスを捏ね回す三点責め。
「んぉ゛……! っだ……めぇ!? 見ちゃ……♡」
スクーターのように荒廃した理性がブレーキをかける。
しかし車体は崖下へ加速する一方だ。
脳が警告する危険速度域を超えても
エンジンはアクセル全開のまま停止しない。
「はぁ゛っ! あっあッ♡ イク……もうイクぅっ!!」
三度目の絶頂は盛大だった。
尿道から潮が弧を描き
椅子の金具までもびしょ濡れに濡らしてしまう。
「よくできました」
囁きと共に指が引き抜かれた。
喪失感と開放感がない混ぜになった空白が膣孔を貫く。
「これくらいで終わりだと思うなよ?」
ゲリッツは静かに言った。
その声には明らかな余韻があった。
「時間はいくらでもある。
君が壊れるまで丁寧に教育してあげよう」
(これ以上は……いけない)
意識の隅でか細い糸のような自制心が呻く。
だがそれは嵐の前の蠟燭程に儚い。
心臓は依然としてドラムロールを刻み続け
背骨に潜む甘い焔がじわりと体温を上げる。
「まずは基本復習といこうか」
ゲリッツの低い呟き。
次の瞬間——室内の照明が徐々に落ちてゆく。
メインスクリーンが沈黙し
代わりに天井埋め込みの裸電球だけが仄白く輝いた。
「ちょ……何を……?」
不安が胸を塞ぐ。
視界を奪われたことで
聴覚と嗅覚が鋭敏化されたからだ。
汗と革と樹脂——男の体臭が一段と濃くなった。
「五感の中で最初に退化するのは視覚だ」
男の声は距離感を測りにくいほど遠くから響いた。
「逆に言えば——見えないと
他の四つの感覚が研ぎ澄まされる」
言葉どおり、鼓膜は空気の僅かな揺れさえ拾うようになった。
衣擦れ。
呼吸。
心臓の脈動。
その全部が肉欲のファンファーレのように
胸板の下で反響する。
「では第一ステージ。開始」
かちり——
機械音とともに首輪の留め金が締まり
微量の電流が神経系に流入した。
痛みはない。ただ甘い痺れが周囲へ放射されるだけ。
(あ……♡)
喉から自然と甘い吐息が零れる。
肉体は無意識の内にさらなる刺激を望み始め
下腹の奥が脈打つように熱を孕む。
「準備運動完了だな」
闇の中から伸びてきた手が
乳房の基部に添えられた。
指腹の温もりだけで乳頭が屹立する。
圧搾。摩擦。吸引。
闇を泳ぐ海蛇のように動き回る技巧の数々。
「んん゛……っ! ぁ……そこぉ♡」
遮蔽された視界の向こうで
男がどのような表情を浮かべているのか分からない。
だからこそ——
いま触れている指先が与える悦楽に
すべてを預けてしまう危険も大きい。
(見えない……から……余計に……感じてしまう……っ)
自らの脆弱さを呪いながら
セレナは肩甲骨を震わせた。
乳房への愛撫だけでここまで追い詰められるとは思っていなかった。
ましてや視覚情報を遮断された状況で——
「視覚から解放された女は想像力が働くものだ」
一時、身を離したゲリッツの笑みが闇に滲む。
「例えば——今から僕のペニスが君の口に入ってくるとしたら?」
暗示めいた言葉。
同時にくちびるの前に屹立が押し当てられた。
熱い。
脈打っている。
視線はない。
だが鼻腔を穿つ牡の匂いが全てを伝えていた。
「咥えてみて」
命令。
それだけで条件反射的に口腔が開く。
喉奥へ落ちる熱杭。
苦味と生臭さが交じり合い
脳内麻薬のように快感中枢を撃ち抜いた。
(だ……め……ッ)
否定は泡粒のように弾け飛ぶ。
肉竿に舌を巻きつけた途端
全身を串刺しにされるような快感が走った。
奉仕行為そのものが報酬へと昇華される
脳内回路の罠。
「いい子だ」
褒めるような声。
扱くように髪を撫でられただけで
頭皮の神経が火花を散らす。
脳髄と股間を一直線で結ぶ快感の電線。
「んぐッ! ゔ……ッ!」
律動が始まった。
喉奥を突かれる度に涙が滲む。
だが嘔吐反射は抑え込まれ
代わりに膣口が痙攣し愛液を溢れさせる。
嗚咽と嬌声が同じ場所で融け合い
喉仏の下で熱塊が肥大する。
「そろそろ飲んでもらおうか」
宣告と共に抽迭が加速。
熱い粘液が舌を越え喉奥へ雪崩れ込む。
「────ッ!!」
窒息寸前の恍惚。
味蕾を通る精の鹹味が
禁断の蜜のように甘く感じられる。
(嘘……嘘よ……こんなの……っ)
口角から滴る白濁液。
頬を伝う雫に自ら舌を伸ばしてしまう淫売めいた所作。
羞恥が快楽へと転換する——終わらない円環。
喉奥に燻る精の臭気が、まるで烙印のように刻まれた。
「……ぷは」
唇を離した瞬間、空中に唾液と白濁が混ざり合った橋が架かる。
セレナは咳き込みながらも、舌の奥で広がる苦味を必死に嚥下した。
肺に流れ込む牡の匂いが、今度は逆に陶酔を呼び起こす。
(なんて惨めな……)
羞恥が爪のように胸を引っ掻く。
だが同時に、胎内で燻る官能の燠火が再び勢いを取り戻し始める。
薬物と暗示で書き換えられた肉体は、辱めすら糧にして燃え盛る。
「飲み干してくれるとは思わなかったな」
闇の向こうから聞こえるゲリッツの笑い声。
からかうようでいて、どこか賞賛を含んでいる。
その声音にすら身体は反応し、乳頭がさらに尖るのを感じた。
「それにしても——」
彼がゆっくりと近づく気配。ベッドの軋む音が一定のリズムで響く。
「口だけで満足できると思ったかい?」
「……ッ」
反射的に身体を捻ろうとするが
闇の中で見えない枷が重石のように四肢を固定している。
「そう怯えないでよ、セレナ嬢」
突如として光が灯った。
天井の裸電球が再点灯し、室内の輪郭が鮮明になる。
目に飛び込んできたのは——仁王立ちするゲリッツと、
その股間で剛直している巨大な楔だった。
(おっき……)
その質量は今まで見たどんな男性器よりも規格外だった。
血管が浮き出し亀頭は鈍く光を反射している。
これが先ほど自分の口中を犯していたと思うと吐き気すら催す。同時に——
喉奥が熱く灼けつくような欲望を覚えてしまう。
「わかるだろう?」
男が低く呟く。
ナニを求められているか、自然と察してしまう惨めさ。
貴族令嬢として、騎士・軍人として培った矜持が悲鳴を上げる。
なのに─────────
「……ハイ」
当たり前のように跪いて、屹立したオス肉をメス乳で挟み込む動作を
まるでずっと以前から決められていたかの如く受け入れてしまう。
柔らかな双丘が、怒張を受け止める。
掌では収まりきらないその質量と熱量が
両乳房に挟み込まれる形となった。
(なんで……こんなことを……)
自問しながらも動きは止まらない。
左右から交互に絞り上げるように肉塊を捏ねると
亀頭部分が滑り出て蜜を撒き散らす。
滑りが良くなり動きが加速してゆく。
「いいねぇ……思ったより慣れてるじゃないか」
揶揄交じりの声に耳朶が灼ける。
それでも動作を中断できない自分に絶望感が増してくる。
「んっ……」
硬く隆起した肉柱を押し付けるごとに
胸板全体が炙られるような疼きに苛まれた。
快感と恥辱が拮抗し、意識は混乱の坩堝へ落ち込んでいく。
「胸ばかりで飽きないか?」
ゲリッツが軽く腰を突き出した。
当然その先端は彼女の顔面へ向かってくる。
「はっ……!」
慌てて顔を傾けたが逃れきれず
唇が偶然のように亀頭に触れる。
そこからまた先ほどの感触——
苦味、青臭さ、火傷しそうな熱量——が蘇ってきた。
「今度は口と胸で挟み込むんだ」
指示。
従属を意味する二重奏。
抗いたい気持ちと逆らえば更なる侮辱を浴びる恐怖と
官能へ堕ち切ってしまえという本能が交錯する。
(もう……どうでも……)
諦念めいた思いが芽生えた瞬間——身体が自然に動いてしまう。
左乳房で根本を支えながら右掌で茎幹を安定させ
唇で亀頭部分を覆い込み、舌で鈴口を弄う。
「そうそう、なかなか才能あるんじゃないか」
褒められたわけでもないのに
なぜか子宮口辺りがキュンと収縮した。
(私は……一体何を……)
自分の身体なのに他人の玩具のような
無力感と昂揚感が錯綜する混沌。
舌を絡めるたびに肉槍の硬度が増す。
押し寄せる牡のにおいに慣れ始める自分が恐ろしい。
「いい塩梅だ」
ゲリッツが喜悦を滲ませた声を漏らす。
次いで腰の動きが速くなる。
乳肉と唇と舌とを同時に使う複合奉仕——
まるで淫乱娼婦にでもなってしまったかのような自覚。
「ぁふっ! んん゛……!」
動きについて行くために自然と姿勢が低くなる。
腿に自らの愛液が滴り落ちているのが分かる。
口淫と乳淫だけで達しそうになっている現実。
その現実を直視できなくて目を瞑ると瞼の裏に花火のような光芒が散った。
「っく……射精すぞ」
予告の一声。
次の瞬間、大量の粘稠液が迸った。
「ふあ゛ぁッ!!」
舌表面で受け止めきれなかった分が顔に掛かり
頬や額や睫毛にまで白濁の雨が降り注ぐ。
「ふ……はぁ……」
息が詰まりそうになりながらも
本能的に喉を動かして残滓を飲み干していく。
(熱い……)
熱湯でも飲まされたかのように
食道が灼け、胃の腑までも火照ってくる感覚。
「初めてとは思えないじゃないか」
男の言葉は酷薄なものだったが
その声色には明らかな満足感が含まれている。
汚濁した面相でゲリッツを見上げたまま
セレナは自らの裡に広がる空白感に戦慄していた。
(私……本当に……)
騎士であり侯爵令嬢であり
国防を司る要職にあるはずの人間が
ここまで恥辱にまみれた行為へ耽溺している現実。
これを認めることは完全な堕落だと頭では理解しているのに
身体の方は抗い難い充足感で一杯だ。
「さて」
男が一つ大きく息を吐く。
「序盤としては充分楽しめた。
だが本番はこれからだ」
不吉な宣告。
それと同時に両手首を掴まれた。
「ついて来てもらうよ。
君が騎士として積み重ねた成果と
これから失うであろう矜持——
全部まとめて味わわせてもらおうじゃないか」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
扉が開かれた。
「——こいつが、例の「狂犬」か」
ざわめく声が渦巻く。
無数の視線が、剥き出しの肉塊に注がれる。
汗と男臭さで充満した室内に引きずり込まれたセレナは、
靴音さえ虚しく響かせる薄いタイルの上で足を縫い付けられた。
まるで屠殺場に引き出された仔羊のようだ——
自嘲とも諦めともつかぬ思いが脳裏を掠めた。
屈強の海賊たちが半円を描き取り囲む中央で、一糸纏わぬ淫らな女体が躍動する。
「上玉じゃねェか」
「侯爵令嬢だってよ」
「いい餌付けができそうだぜ」
囁きは毒針のように皮膚を刺した。
それだけで内側がジクジクと潤む自分を、セレナは心底から忌々しく思う。
(これは違う……)
否定する。
これは生理的反応に過ぎず、
意志とは無関係な化学的暴走なのだ——と自分に言い聞かせる。
だが男たちが一歩寄るたび、鼓膜を打つ粗い呼吸音が鼓動と共鳴し、
子宮口のあたりがキュッと窄まる。もはや逃避不能の牢獄に堕ちた身体だった。
「皆さん」
ヴィンセントが卓上のワイングラスを傾けながら哄笑を投げた。
「今日は特別な玩具をご用意しましたので」
扇の要に立つ青年の微笑は甘美で残忍だ。
薔薇の棘を握らせようとする紳士のような冷酷さ。
「まずは自己紹介といきましょうか、お姫様?」
振り向く目がセレナに焦点を結ぶ。
宝石のように煌めきながらも氷河のように透徹した翠眸。
射抜かれた少女は無意識に顎を引いた。
「…………セレナ・ホールズ……です」
掠れた声。部屋中の下卑た笑いが堰を切った川のように弾ける。
ヴィンセントはわざとらしく溜息を零した。
「威厳も何もございませんね。それでは皆さま、ご存知の通り——」
杯を掲げ
「この女は我がイクサーマル家に牙を向けた叛徒です。
本来ならば拷問の末に市街に曝首でしょうが——」
芝居がかった仕草で顎をしゃくり
「多少の娯楽心もあるのでして」
背後の兵に目配せ。
「まず形だけでも『公開裁判』という趣向にいたしましょう」
兵士が手錠を鳴らし、セレナを一歩前へ押す。
全員の視線が無遠慮に絡みつく。
「貴官は何故ここにいる?」
ヴィンセントがわざと穏やかな声音で訊く。
「謀略の末に鹵獲された事を理解していないと見えるが」
「……」
答える言葉を探しかけては唇を噤む。
彼女は悔しさに唇を噛み切りたくなる衝動を堪えた。
「返事が無いのは肯定と同意と判断いたします」
ヴィンセントの声は蜜の甘さと硝煙の苦さを同時に孕んでいた。
「判決——」
紫水晶の杖がひと振りされる。
それだけで空気がピンと張り詰める。
「『極刑』ではなく『慰刑』を科す事とします」
意味深な微笑み。
「我らが御主人様がお帰りになるまでの期間限定でございますがね」
その宣言を合図に男たちがいっせいに蠢いた。
海賊船で暮らす野生児の群れだ。
彼らにとって正義も品位もない。ただ欲があるのみ。
「まずは何からやってやろうか」
「とりあえず弄り甲斐がありそうだぜ」
「乳首が勃ってらァ。寒ィんだろ? あっためてやらァ」
ゲリッツが前方に一歩出る。
革手袋を外すと逞しい手指が陽光を受けて禍々しく光った。
「じゃあ行こうか」
彼は指を二本立ててセレナの眼前へ突きつける。
「舐めな」
高圧的な一言。
従う理由など無いはずなのに身体が勝手に反応してしまう。
舌先が伸びて先端を湿らせ——
(だめ……)
指をしゃぶるだけでおかしくなりそうになる程キモチイイ。
囃し立てる下品な言葉、指すように鋭い欲望の籠もったケダモノの瞳。
全てが女体を燃やす薪になる。
「ほうらどんどんヌルヌルしてきた」
ゲリッツがからかい声を上げる。
「もっと奥まで咥えてみてくれよお姫様」
言われるがまま喉奥へ誘い込む。
第二関節まで没入させると酸欠寸前の酩酊が頭を染めた。
呼吸もできず涎も抑えない無様な姿を晒す。
「おっとそろそろ——」
タイミングを見計らい指が抜けた。
寂寥感と安堵がない交ぜの吐息。
「次は下だ」
突然膝裏を蹴られた。バランスを崩し尻もちをつく。
両足首を摑まれ強制的に開脚させられる。
恥丘が剥き出しになり濡れそぼった茂みに冷気が沁みた。
「おいおいすげェ濡れようだぜ」
「処女かと思いきや、誰かのお手付きか?」
「いや匂いが若ェ。新品だろ」
野卑な推測が矢継ぎ早に飛び交う。
羞恥で脳髄が茹で上がりそうで尚且つ何処かで興奮している自分に愕然となる。
(いやだ……こんなところで……)
だが彼女の懇願など微塵も考慮されない。
「拡げて見せろ」
別の男が割り込み大腿を大きく押し広げる。
粘膜が露出し夜風が直接吹き込むような違和感。
同時に視線が一点に集中。
「ひゃあ……!」
思わず短い悲鳴を漏らす。
それを嘲笑の合図に変えようとする空気。
「こいつ腰振ってンぞ」
「イカせてやれよ」
「まだ早ェ、じっくり楽しみたいぜ」
幾つもの手が伸びてくる。
尻たぶを撫でる手。
乳房を鷲掴みにする手。
脚の付け根をくすぐる指先。
まるで玩具へ群がる猿山だ。
(やめて……私……もう……)
懇願は声にならず喘ぎだけが漏れる。
快楽と恐怖が渦巻き理性が溶解する熱さ。
「さぁて」
ヴィンセントが彼女の前で寝転ぶ。
凶悪な逸物が怒張し天を衝く姿。
「私はナニもしません……わかりますね?」
「……わかり、ます」
絞り出すような声が、セレナ自身の耳にも他人の声のように響いた。
宝石の床に横たわるヴィンセントの上に、自らの意志で跨がるという屈辱。
侯爵令嬢として、騎士として、軍人として築き上げてきた全ての矜持が、
この一挙手一投足で砂の塔のように崩れ去る予感。
否、すでに崩れ去ったのだという絶望。
「さあ……おいでなさい」
ヴィンセントが嫣然と微笑む。
彼の男根は鋼鉄のような硬度と凶悪な形状で天を衝き、
征服者の旗印のように聳え立っていた。
それが自分の無垢な身体を貫くさまを想像するだけで、
セレナの膝は震え、内股は溢れる蜜で濡れそぼった。
「……っ!」
耐え難い屈辱に嗚咽が漏れる。
だが涙ながらに腰を浮かせ、両手で支えなければならない。
ヴィンセントの巨砲の真上に秘唇を合わせようと必死になるその姿は、
無様という他ない。騎士が跪き懇願するように見えるかもしれない。
「まさか臆しているのですか? ほら——」
焦れたのかヴィンセントがそっと腰を揺すった。
熱い先端が敏感な蕾を突き上げる。
「んひっ……!?」
それだけで腰が抜けそうになるほどの快感。
反射的に離れようとするが男の手が太ももをがっちり押さえ込む。
「まだまだこれからですよ?」
悠然たる囁き。
そこに非難の色はなく純粋な嘲笑しかない。
周囲を取り囲む獣じみた男たちは笑い合うことも忘れて凝視している。
歓喜というより捕食寸前の猛禽類の目だ。
(助けて——ヒロ)
心中で唯一人思い浮かぶ救済。だが幻影はすぐに散った。
助けなど来ない。
この場に存在するのは獰猛な飢えた男どもと毒された貴族の青年、そして自分ひとりだ。
「さあ——腰を落としなさい」
決定的命令。
セレナは瞼を閉じ、最後の逡巡を断ち切るように深呼吸した。
自ら腰を落とす——その瞬間まで男たちは呼吸すら忘れ見守っていた。
ずぷっ……!
淫猥な音が室内に木霊する。
「あ……! ああ゛っ!!」
甲高い悲鳴は歓喜とも悲嘆ともつかない。
直径を遥かに超えた剛直が強引に粘膜を裂き、
処女膜が悲鳴を上げて弾け飛ぶ。
熱い痛みと同時に甘い電流が脊髄を駆け上がる。
腟壁は狭隘な洞窟でありながら侵入者を迎え入れざるを得ず
無秩序に蠢き肉筒は支配棒に絡みついた。
「くっ……なんて締まりだ……」
ヴィンセントが眉根を寄せて低く唸る。
悦びに歪んだ瞳でセレナを見据えつつもさらに腰を突き上げた。
結合部が深く咬み合わさり花唇は悲鳴を上げる。
「い゛ぃあ゛ァァッ!!」
叫び声は天幕にぶつかり跳ね返った。
しかし膣穴は拒絶しているのか歓迎しているのかわからない。
苦痛を超える異常な快感が逆流し思考回路を焼き切っていく。
(イヤなのに……気持ちイイ……)
異常事態だ。薬物や暗示があってもここまで露骨なはずがない。
自分の身体が自分の知らない未知の領域へ踏み込んだ恐怖。
「処女卒業おめでとうございます」
冗談めかした声と共に腰が打ち付けられる。
子宮口を殴打された衝撃で視界に星屑が散った。
「ふぐッ! んああ゛ッ♡」
咄嗟に口を覆おうとしても届かない。
下腹部から湧き上がる奔流に抗えず腰を揺らしてしまっている自分が恨めしい。
周囲を取り囲む観客は興奮に沸き立ち口々に罵詈雑言と賞賛を混ぜて浴びせる。
「やべェ……マジで吸い付いてやがる」
「アンアン啼いてんぜ、この牝犬」
そんな侮辱の声でさえ脊髄に染みて快感信号へ変換される始末だ。
「もっと欲しいのでしょう?」
ヴィンセントが唇を舐めながら低く尋ねた。
「その証拠に勝手に腰を振り始めましたよ」
「ち……が……!」
反論しようとすればするほど腰が勝手に上下する。
快楽を追い求める浅ましい動き。
「違わないでしょう——淫売侯爵令嬢」
冷笑が脳髄に突き刺さる。
「認めなさい。本当の貴方を」
刹那——猛烈な渇望が腹奥で炸裂した。
(認めてはいけない……そんなこと……)
けれど身体は確実に要求している。
(欲しい……この人に支配されたい……)
脳裏に浮かんだ禁忌の願望が形を成し始めた時——
ぱんッ!!
乾いた破裂音が室内を震わせた。
ヴィンセントが平手で臀部を打ったのだ。
「ひあ゛っ!?」
不意打ちの疼痛が閃光となって走り抜ける。
しかし痛みの中に奇妙な甘美な波紋が広がる。
「痛みすら感じるタイプですか」
悪びれもせず再度打擲する。
「ああッ! やめっ……んひッ♡」
涙と涎で頬を濡らしつつも内部は激しく痙攣。
膣壁が雄槍を千切れんばかりに締め上げる。
「ほう……ではサービスしましょう」
ヴィンセントは片手で双丘を鷲掴みにし
もう片手で乳房を捻り上げた。
三箇所同時の多重刺激。
「くひッ! あぐッ! んおォォッ♡」
人間らしい声すら保てなくなる。
屈辱と快楽と恐怖がない交ぜになった泥沼に引きずり込まれていく感覚。
「さあ達してしまいなさい——貴族騎士殿」
囁きと共に最終の一撃が子宮口を穿った。
瞬間———
「ぃくッ……ッぁああ゛あ゛────ッ♡♡♡」
激烈な絶頂波が身体中を駆け巡る。
弓なりに背中を仰け反らせ白目を剥きながら咆哮。
下腹部が痙攣し粘膜が煮えたぎるように熱い液体を搾り取ろうとする。
ヴィンセントも低く呻きながら滾った欲望を最奥へ放出した。
「はぁっ……はッ……ふぅ……」
余韻は終わらない。
脈打つごとに新たな快感が押し寄せ思考が霞む。
周囲の野蛮な喝采も遠く霞んで聞こえる。
「素晴らしい見世物でした」
ヴィンセントが悠然と嗤う声だけが鮮明だ。
その声色には一片の同情すら存在しない。
支配者として当然の行為を終えたと言わんばかり。
結合はまだ解けず
粘膜同士が余熱で絡み合っている。
「しかしまだ終わりではありませんよ」
「は……え……?」
朦朧とした意識が覚醒しかける。
「今日一日——あるいは私が満足するまで」
優雅に言ってのけるその態度に凍り付く思いが走る。
「お付き合いいただきます、お姫様」
ヴィンセントがゆっくり腰を引く。
ずるりと雄根が抜ける瞬間すら新しい快感となり
セレナは小さく喘いでしまった。
「これからどう遊んでやろうか」
爛漫な笑みの裏に潜む冷酷な企図。
それはまさに捕獲した蝶を標本箱に貼り付ける子どもの顔だった。
セレナはようやく悟る。
ここで終わったのではない——
ここから始まるのだと。
(逃げられない……)
絶望が染みわたる。
けれど同時にどこかで期待している自分がいた。
薬と屈辱で歪められた身体は
次の淫虐を求め疼きはじめている。
「さあ——二回目ですね」
宣告と共に再び鋼鉄が押し当てられた。
今度は自分で腰を落とす必要などない。
ただ組み敷かれ弄ばれるだけ。
「いや……待って……今はダメ——」
哀願の声が宙に溶ける。
豪奢なシャンデリアが揺れる室内で
銀鎧の貴族騎士だった少女は
淫蕩の玩具へと還元されていった。
「もう遅いのですよ」
ヴィンセントの低い囁き。
悪魔の囁きは甘美で残酷だった─────────
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