クールな美貌の敏腕秘書は、愛する社長のチンハメペット♡ ヤバ過ぎ愛情に囚われて、幸せヨガりを大絶叫しちゃう籠の中のオフィスラブ♡ 作:デイジー亭
「「「「……」」」」
厳粛なる雰囲気。ぴりりと張り詰めた空気の中、エントランスに到着するは一台の高級車。黒塗りのリムジンなどでは無い、
「お帰りなさいませ」
「出迎えは最小限で良いと、私に何回言わせる気かな?」
「申し訳ありません」
「ああ、いいさ。君を責めた訳ではない。物好きが多いと言う事だ」
「ありがとう、ございます……社長」
その姿を拝見させて頂くと言う栄誉に、皆抗えないのだ……丁寧に撫でつけられた黒髪に、身を包むオーダーメイドには常に完璧に糊が効いている。だが何よりも社員一同の目を奪うのは、甘やかな容貌の中で傲岸不遜に煌めく二対の星。その黒い眼差しに見つめられるだけで、誰もが理解するだろう。この方こそが、覇者にして……完璧なる我らが支配者であることを。
「こちらを確認して頂いてもよろしいでしょうか!」
「ふむ? 見せてみたまえ」
「どうぞっ!!」
「……なるほど。少々粗さが見えるな」
「……」
「だが着眼点は悪くない。期待しているよ、今度じっくり見せてもらおう」
「わかりましたっ! うおお、俺はやるぞっ!!」
だがそのお心は海よりも広く、自分の成果を一刻も早く見て頂きたいという蒼い衝動を鷹揚に受け入れてくださる。アポイントを取らずに差し出された、不遜まみれの企画書。それにちらりと目を通し、さらさらと記入された赤。それを穴が開くほどに見つめた新進気鋭は、低い囁きにしょんぼりと肩を落とし……それをぽんと叩かれると、まるで魂が炎上したかのようにデスクに向かい走り出す。
「ふふ、冒険心とは素晴らしいな」
「あ、あの……社長」
「またスケジュールを詰め込むおつもりですか? ナイチンゲールが困っていますよ」
「そう言わないでくれ、彼は伸びるよ。私にはわかるんだ」
「はぁ、まったく……ですが貴方が仰るのなら、きっとそうなるのでしょうね」
「もちろんだとも。さぁ、手を」
きっと不眠不休で、指摘して頂いた問題点の解決策を模索するのだろう。そして予定表がまたこんがらがる……! これではまた、心身を満足に休めて頂くことが出来ないのではないか。脳内のタイムラインの変動に、頭を痛める自分に与えられた清涼剤。落ち着いていながらに凛とした鈴のような響きに、そっと逞しい腕が伸ばされる。
「いつもながら、逆では無いでしょうか……? そうしたいのですよね、わかっています」
「おやおや、私のセリフを奪うなど。その通りだよ、さすがは私のカナリアだ」
「まったく……ドアマンを困らせるのも、ほどほどにして頂きたい物です」
「そう言わないでくれよ、レディーをエスコートするのは紳士の喜びだとも」
「はいはい」
その手を取り、ゆっくりと立ち上がると空間自体が華やいだような錯覚。金色に輝く長い髪がさらりと揺れて、タイトなレディーススーツを押し上げる豊満なるボディライン。その瞳を覆う細い銀縁の眼鏡でも、そのエメラルドグリーンの知性の輝きは隠せない。呆れたように吐くため息すらも艶めかしく、否応にも理解してしまう……我らが支配者の隣に控える資格を持つのは、たった一人であることを。
「ナイチンゲール。後で予定表を私の端末に……この方のティータイムを、少々減らすことに致しましょう」
「え、ですがそれではまた休憩時間が」
「良いのです、仕事が恋人と公言なさっていますから。ですよね?」
「ははは、参ったな。身からまた錆を出してしまったか」
「出すのはアイディアだけにしてください、さぁキビキビと歩く」
「はっはっはっ」
あまり無理をして頂きたくは無いが、彼女が言うならば問題は無いのだろう。このお方の何もかもをも理解し、適切に管理してくださるに違い無い……でもアレ、良いのだろうか。カツカツとハイヒールを規則正しく鳴らし、グイグイとネクタイを引きエレベーターへ連行する姿は僭越ながら女王様と犬。そのように見えてしまい、筆頭秘書の職責について疑念を抱くわたくしなのであった。
◇◇◇◇◇
「ふむ、やはり気が利く……ここで何時ものように玉露をチョイスしないのが、彼女の誠心を物語っているね」
「それは良かったですね」
「うむ、素晴らしい! さぁ仕事と行こうか、私はどの書類に目を通せばいいのかな」
「こちらに」
「うお、でっか……」
少々長引いた交渉に、喉の違和感を感じていた自分にサーブされたのはハト麦茶。良く冷えたそれの薬効すらも計算した気遣いに、我が社の従業員のハイクオリティを思わず賛美する。流石は彼女自らが選抜した人材である、オドオドとしていながらも的確な秘書業務に感心していると……目の前にどすんと置かれたのは、山脈の如き現実である。
「貴方が考え無しに、チャンスを与えたがった結果がこれです」
「し、しかしだねカナリア。やはりこの業界は、多角的な視点が必要だと思わないかね?」
「ええ、その点については同意させて頂きます。常にアパレルの先端をまい進するには、既成概念は邪魔となりますから」
「そうだろう、そうだろう! つまり私は間違っていない……うむ、指摘した部分も非常に良く改善されている」
「モデルの数が足りると良いのですが」
「ぐぬぅ」
その威圧感と来たら、殺人事件の凶器としての活躍も望めるほど。しかもどれもこれも力作であり、生半可に目を通しては無礼と言えよう……いやぁ、でもこれ多すぎん? 良く纏められていると言うことは、余計なページが省かれているということだ。それでも尚その摩天楼は、私に残業の必要性を突きつけてくる。
「……何か?」
「いやいや、少々目の保養をね」
「集中して頂けないので、私は後ろに控えることに致しましょう」
「なんと残酷な! 君には血も涙も無いのか!?」
「生憎、本日は品切れとなっております」
「クソッ、在庫管理はどうなっているんだ!」
だが蠱惑的な高層ビルディングが、目の前にそびえる限り私は無敵……! お堅いスーツの胸元を押し上げる、素晴らしき大質量。それが身じろぎと共に、良く手入れされた金髪と共に揺れる。ううむ、眼福。思わず目を奪われていると、なんと没収されてしまった。これまた素晴らしいラインを描くタイトスカートが視界から消えて、後ろから聞こえる落ち着いた声。
「社長が業務に精励なさるのならば、きっと補充されることでしょう」
「せ、せめて応援してくれないかね?」
「残念ながら、私も喉に違和感が」
「どうぞ」
「……では、お言葉に甘えて」
いかん、我が完璧秘書の機嫌が悪い……! 彼女の美しい声で『がんばれ♡ がんばれ♡』とでも耳元でASMRしてもらえれば、無限の活力を得られるのだが帰って来るのはつれない返答。だが女性の扱いには、少しばかり覚えがある。グラスをおずおずと差し出すと、喉を鳴らして潤す音。これで少しは当たりが柔らかくなると良いのだが。
「ど、どうかね? ナイチンゲールの淹れてくれたお茶は絶品だろう!」
「ええ、そうですね。完璧な頃合いでティーバッグを出したようで」
「これも面接と教育を担当してくれた、カナリアのお陰と言えよう」
「もう私がお茶を汲む必要もありませんね」
「それとこれとは話が別だろう!?」
レディーを褒めたたえる時に、他の女性の名を出してはいけない……基本中の基本を失念した自分の耳に、氷のような響きを宿す息吹が浴びせかけられる。仕事熱心な彼女には、効果的だと思ったのだが大失敗。だが諦めるな私、頑張れ私。凍てついた彼女の心を解凍して、快適な勤務環境を獲得しなければならないのだ。
「美味しいのでしょう? ならばよろしいではありませんか」
「いやぁほら、やはり幼い頃から慣れ親しんだ味が重要と言うか」
「まったく、坊ちゃんは。飽きると言うことを知らないのでしょうか」
「カナリアにマンネリを覚えるなど、未来永劫あり得ないね」
「……失礼な呼び方をしてしまいました。どうかご容赦を」
「構わないとも……そう言えば、そろそろか」
私が独り立ちする前はメイド、今は秘書。人生のほぼ全てにおいて、共に居てくれた愛しい鳥。私は知っているのだ、幸福とは常に側に在ることを……本心からの言葉を告げると、呆れたように囁かれる懐かしい二人称。だがその響きに宿していたのは、隠しようも無い暖かさ。よし、どうにか持ち直してくれたようだ。このままさらに気分をアゲさせる……! 材料を探す我が目に映るは、ある一つの企画書。
「ああ、もうそんな時期ですか」
「うむ! どうだね、わが社でも仮装に興じると言うのは」
「悪くは無いと思います。例えばどのような?」
「カナリアには、これなど似合うのではないかな」
「は?」
「えっ」
そう、パリピ熱狂ハロウィーン。歩行者天国を埋め尽くす乱痴気騒ぎに加わるつもりなどは無いが、重要な商機と言えよう。という訳で、社長権限でイベント開催を提案し、指し示すは彼女に似合いそうなデザイン案の数々。夜の貴族たるヴァンパイアも似合いそうだし、少々攻めて狼女も捨てがたい……! しかし底冷えする絶対零度に、調子良く動かしていた指の動きが凍結される。
「突然ですが社長」
「う、うん? 何だねカナリア」
「私、少々代休が溜まっておりまして」
「そ、そうだね。どうだろう、今度一緒にバカンスでも」
「一身上の都合により、本日は退社させて頂きます」
「えっ、嘘だろう!? 僕を置いていくのかいカナリア!」
カチンコチンになった私に、差し出された一枚の定型用紙。いつの間に書いていたというのか、矢印付箋の先には決裁権者たる自分の捺印を待ち望む空欄。思わず坊やだった頃の一人称を使ってしまいながらも、弊社では休暇取得の理由については尋ねないように指導している。せめてもの抵抗に、上目遣いで翻意を促すが野郎のそれには一切の実効力など存在しない。
「引き継ぎは済ませておきますので、どうかご存分に仕事とオフィスラブをお楽しみください」
「……カナリアも楽しむといい、僕を放っておいて満喫する休日をね!」
「ええ、そうさせて頂きます」
「うおお、辛い! ナイチンゲール、コーヒーを淹れてくれたまえ! 今夜は徹夜だ畜生め!!」
「は、はいっ! 濃い目でよろしいでしょうかっ!」
「ではごゆるりと……」
ぷりぷりと美味そうな物を振りつつ、去って行く我が敏腕秘書。悪あがきに掛けた声もどこ吹く風、これはもうどうしようもない。諦めてハードワークのために呼び付けた次点秘書にバインダーを手渡し、社長室の扉が閉まる。私は愛しい鳥が側から大胆にエスケープするのを見送りつつ思った……どうしてこうなった、僕は何か悪いことしたのかいカナリア。
◇◇◇◇◇
「あ、あの。社長、あまり根を詰められては……」
「放っておいてくれ、私の恋人は仕事なのでね」
「ですが健康管理も、重要な秘書の仕事とカナリア先輩が」
「そうかね」
「うう、話を聞いてくださいません」
マホガニーの天板の上には、決済済の書類の数々。サーブした苦い液体のあまりの数に、胃の状態も悪化していることが予期される。一応お薬もお出ししたが、焼け石に水と言うもの。ヤケッパチな顔で新たなタスクを求める手に、そっと次の物を手渡しながらも思う。いきなり帰るとか、何考えてるんでしょうあの先輩。尊敬してはいますが、目の下に隈の出来たハンサムフェイスをお見せして差し上げたい。
「もう朝か」
「少々仮眠を取られては?」
「うむ、君はハシビロコウと交代するといい」
「えーと、その。社長に休んで頂きたいのですが」
「今の私にはあのガン見が必要なんだ……!」
「わ、わかりました。適材適所ですねっ!」
チュンチュンと鳴く雀の囀りに、唸るような響きのアンサー。機を得たわたくしは仮眠室の方を指し示すが、求められたのは目力に定評のある無口な同僚。不愛想と看守じみた勤務態度に、前の勤め先で解任され途方に暮れていた彼女もここではちゃんと役割がある。カナリア先輩、どうやって探し出したんでしょあんなの。良い子で有能なんですが、あだ名は監視装置ですよ彼女。
「……すまない、残業代には色を付けておこう」
「いいえ、監査に引っかかってしまいますので」
「勤め人とは不自由だな……私も大空に飛び立ちたいよ」
「あの、本当に。お休みになられた方が……あっ」
「出るといい」
「はいっ!」
如何にご機嫌が直角になっていようとも、そこは理想的な経営者たる我らが支配者。すかさずフォローを入れようとしてくれるが、あまり特例を行うのもよろしくないと気遣いをお断りする。すると暗い目が窓の外に向けられて、常とは異なり蒼穹に消えて行きそうな儚げな呟き。どうしましょう、こんなの手に負えません。途方に暮れていると、ポケットで震える通信端末……画面に映り込む番号に、わたくしは許可を得た上で飛びついた。