結局シルフィードとは8回ほどセックスをして落ち着いた頃には夕方になっていた。
しかも終わった理由が俺の空腹という締まらない内容。
腹の虫がなった事で「宜しければ食事の準備を」と言ってくれた彼女に頷いてしまった。
料理ができるのか、と聞いたら「メイドですから」と笑顔で答えられた。
料理ができるまでは部屋で休んでいてくださいと言われ、色々と考えるべきこともあるので素直に従った。
「ピグマリオン」
呟くと視界に例のウィンドウが現れた。
そこには『魂を吹き込む人形を選んでください』と出た。
やはり、と思わずつぶやく。
未だ正体不明な部分は多々あるが、ピグマリオンというスキルは人形に対して命を吹き込み、しかもそれを大きさまで変えてしまう異様なスキルだったのだ。
事実、シルフィードの設定上の身長は156センチで俺よりちょっと小さいくらいだ。
しかしながら人形で購入した時は30センチもない大きさだったことを考えると、スキルを使う対象の人形を間違えると最悪の場合、この部屋が壊れる可能性がある。
創作物の世界では、数m超えのキャラなんて腐るほどいるのだ。
そこで今度は別の作品のフィギュアを手に取った。
それはアミューズメントパークのガシャポンから出た柴犬のフィギュア。集めて、置いて眺めるだけのものだが柴犬が好きな俺は机の上に置いてよく眺めていた。
「どうやればいいのかな」
ウィンドウに視線を向けると、そこには今しがた手に取った柴犬のフィギュアの映像が映し出されていた。
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作品名:わんちゃんシリーズvol.2
キャラ名:柴犬
主:緒方一心斉
備考:人気のわんちゃん勢ぞろい! みんなに愛される可愛い子たちがあなたの手元に! 噛みつかない、むやみに吠えない、従順なとってもいい子!
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『魂を吹き込みますか? 【YES or NO】』
説明文が明らかにガシャポンのセールストークだが、別に問題は無いと思いYESを選ぶ。
すると人形が光ったと思うと、ずしりとした重みが腕と膝の上に乗っかった。
「お!?」
「わふっ」
みると舌を出してこちらを見つめる柴犬の成犬が居た。
しかも、シルフィードの時とは異なり最初から人格があるのか膝の上から降りてチャッチャッと足音を立てて床の上を歩き、お座りまでした。
「えっと……あ、そうだ! 名前決めなきゃな! 柴犬だけじゃ可哀想だ……うーん、タロにしよう! お前は今日からタロだ、わかったかタロ!」
言い聞かせるように名前を何度も呼ぶと、わふっ! と大きすぎない声で返事をした。
うちは元々ペット可のマンションだったのでトラブルにはならないと思うが、それでも大声を出さない子はとても有難い。
するとそのタイミングで部屋の扉がノックされた。
「旦那様、お食事の準備が出来ました」
「あ、わかった。……あ、悪いんだけどタロの分も頼めないか?」
咄嗟に新しい家族のことを思い出してお願いすると「早速スキルを使われたのですね。かしこまりました」とタロのご飯作りに動き始めた。
……あれ、もしかしてシルフィードやタロってスキルで生まれた自覚あるのか?
後で聞くことにしようと思いつつ、リビングに向かうとそこには信じられないほど豪勢な食事がテーブルの上に並べられていた。
ステーキ、スープ、ワイン、焼きたてとしか思えないふわふわなパン、さらには小洒落たさらに盛り付けられたハンバーグのような何か。
明らかに家になかった食材や食器の数々。
どういうことかと問いかけようとしたら、その答えは直ぐに発覚した。
シルフィードの手元が光りを放ち、次の瞬間には犬用の皿とそこに盛り付けられたドックフードがあったのだ。
「……どうかなさいました?」
「そういえば、シルフィードって天眼族だったね」
「はい、主様に拾われ使える幸運を得たこと、とても幸せに思っております」
天眼族、作中においてそれは神に最も近いとされた一族の名前だ。
膨大な魔力を持ち、その瞳に捉えた物質や現象あらゆるものを全て、魔力のみで再構築して再現してしまう恐ろしい能力。
唯一、生き物を生み出すことが出来ないがそれ以外はほぼ無尽蔵だ。
ただし、天眼族は野心を持たずに使えるべき主を一人と定める性質を持ち、主に使えることだけが至福と考える性格のおかげで周辺国家に驚異として捕らえらることは無かった。
そんな力を求めた時の帝王に一族丸ごと襲われ、自らの配下になるよう迫ったが天眼族の皆は「主に値しない」と拒絶。これに怒った帝王はみなを処刑した。
その中唯一捕縛から逃れた子がこのシルフィードという設定だ。
エロゲーのキャラにしては中々に重い設定だが、そもそも泣きゲーとして有名だったのでこれくらいは当たり前である。
原作では偶然通り掛かった主人公に拾われ、匿われて命を繋いだことで自らの主を彼だと定めるのだが……どうやらそれが俺になっているらしい。
「この料理はどうやって?」
「備蓄されている食料では栄養バランスが良くないと思いましたので、勝手かと思いましたが天眼にて知識にある料理を再現させていただきました」
道理で見たことの無い色の野菜とか果物があるわけだ。これは創作物の世界の食べ物らしい。
彼女が食べれないものを出すわけが無いので、ある意味貴重な体験という事もあり有難く頂く事にする。
タロは何も言っていないのに待ての姿勢でこちらを見ていたので「いいよ」と告げると、がつがつとドックフードを食べ始める。
俺も席について食べると、その肉のやわらかさに驚かされた。
これまで食べてきた肉はなんだったのかと言いたいくらいに美味い。
スーパーのパック肉なんて目じゃない。もうこれ食ったら後戻り出来ない。
「お気に召されたようで何よりでございます」
「美味しいよ、シルフィード。君はご飯を食べないのかい?」
「旦那様が食事を終えた後にいただきます」
「どうせなら一緒に食べようよ。家族なんだから、な? タロ」
そういってご飯を食べるタロに問いかけると「わふ」と答える。
「ふふ、では私もいただきますね」
そう言って、天眼にてもう一人前料理が生み出され、それを食べ始める。
一人で食べるより、やっぱり美味しい。
元々美味しい料理だったが、目の前でかわいい女の子がおなじ料理を食べてくれる方がやっぱり美味しい。
それから他愛もない会話しつつ料理を楽しんだ。
「ふう、美味しかった。ありがとうシルフィード」
食後のタロを撫でて愛でつつ礼を言うと、嬉しそうに微笑む彼女。
「いえ、旦那様のメイドとして当然でございますので」
「ところでひとつ聞きたいんだが、俺のスキルについて何か知ってるか?」
「ピグマリオン、でございますか?」
「ああ、突然覚醒したんだ。使い方や注意点なんか知ってたら教えて欲しい」
「それでしたら僭越ながらご説明させていただきます」
シルフィードはピグマリオンについていくつかの説明をしてくれた。
天眼の能力の中に「対象の力を見抜く」という物もあるようで、そのおかげで俺の力の使い方など分かるらしい。
・ピグマリオンは非生物に魂と人格を与え、術者の配下にする生命創造系の中でも最上位スキルに位置する。
・スキルの効果にも段階があり、永続付与と長期付与、短期付与の三段階ある。
・シルフィードは永続付与に該当し、枠は最大で10までとなりそれ以上は別枠を潰さなければならない。
・長期付与は1〜5年の範囲で設定可能。枠という制限は無いが、付与する年数上限がありそれを超えると付与が出来なくなる。付与コストは最大100年分。
期限が切れると人の姿のまま眠ったままになる。力を注ぎ直すと目を覚ます。
・短期付与は1ヶ月〜5ヶ月程で元に戻る効果。枠という制限もなくコストも無い。期限が切れた個体は人形に戻るため、改めて力を注ぐことで記憶を保持したまま復活する。
タロはここに含まれるらしい。長期もしくは永続にしようかと思ったが、取り敢えず様子見することにした。
・術を使うにあたって、各個体の知識量は基本的に術者の知識や記憶を引用するため、スキル発動時点で主の知りえない事象について対応は不可能。(天才キャラは少し違うらしい。要確認)
ただし、生まれた後の個体が独自に学んだ内容は同じく生み出された個体に共有される。
「これくらいでしょうか」
話を聞いた俺は思わず唸る。
「これ便利すぎない? 兵士無限生成出来ちゃうよね? 一人で国作れちゃうよ?」
「はい、事実過去に現れたピグマリオンスキルを持つ人物は歴史に名を残す偉人もしくは罪人として名を馳せてます」
「……あれか? 革命を起こそうとしたりとか?」
「流石にございます旦那様」
確かに出来ちゃうなぁ。人形さえあれば言い訳だし、その人形だってシルフィードが居れば時間はかかるけど生産できる。
やりたいことは、ほとんど際限なく出来てしまうだろう。
このスキルは素晴らしいが、おそらくこれまでの怪奇現象は未覚醒の力が俺の周りにあった人形に影響を与えて起きた物だ。
そのせいで俺は周りから気味悪がられ、迫害されてきた。
そりゃ元を正せば俺の力な訳だし、原因も俺にあるんだろうが……そんな力の有無すら知らない俺にどうしろと言うんだ。
むしろ、俺を助ける人が1人でも居てくれたって良いじゃないか。
だが現実は友人も大人も、親すら俺を見捨てている。
そんな世界のために俺は身を粉にして働く意思は無い。
「……とりあえず戦力を集めよう」
「戦力、ですか?」
「きっとこの力はいずれバレる。その時に権力者や犯罪者に目をつけられて襲われるのは自明だ。ならバレても誰にも俺を傷つけられない絶対防御と戦力を集めるしかない。その過程で人助けになる程度のことはしてもいいかもなぁ」
「わんっ!」
タロが珍しく吠えた。
「タロ様が『僕も主さまを守る』とおっしゃっております」
「言葉わかるの?」
「同じスキルで生み出された同士ですので」
「そっか……ありがとなタロ〜! 可愛いやつだなぁ!」
両手でワシワシと顔や頭を撫で繰り回すと、しっぽがちぎれるんじゃないかってくらいにブンブン振り回される。
「ふふ」
「よし、早速仲間選びするぞ」
「かしこまりました」