※この作品はR-18です。

豊穣の王   作:イロゴト柿

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 ここからちっとばかしエロなしの話が続くんじゃ……。明日にももう1話投稿します。


第13話『緊急会議』

 『世界政府』直轄の海上保安組織、通称『海軍』。

 

 その総本山にあたる和風造りの巨大建築物、『海軍本部』――の、とある縦長の一室には多数の海兵が居並んでいた。

 

 単なる寄せ集めではない。背中部分に刺繍された「正義」の2文字が特徴的な、白いロングコートを肩にかけた彼らは、誰もが「佐官」以上の実力者であり、その実績、および気概のほうも申し分ない。

 

 『元帥』、『大将』を含めた彼らだけでも、「時代」の後押しもあって、今や世界のあちこちで暴れ回っているどんな海賊たちが相手でも、対等以上に渡り合えると断言できるような、そんな猛者たちの集まりで――にも関わらず、そんな彼らは、現在、殆ど全員が冷や汗を滲ませた、緊張感のある表情を浮かべていた。

 

 厳密に言うと、その原因となった出来事の詳しい説明が成されるのはこれからなのだが、()()()の情報の拡散速度は相当なもので――何なら、この部屋に居並んでいる海兵たちの半分以上が、同業者からの「報告」ではなく、世経(世界経済新聞社)の「号外」という形で、今回の詳細を知ったのだ。

 

 今回の件――すなわち、「軍艦10隻と5人の中将からなる『バスターコール』が、たったふたりの人間に止められた」、という「現実(じょうほう)」を。

 

「……やはり、にわかには信じられん」

 

 手で触れられそうな程に重苦しい沈黙を最初に破ったのは、居並ぶ海兵たちの中でも特に高い権限を持つ、大柄で筋肉質且つ、巨大なアフロヘア―に黒い丸眼鏡が特徴的な男――現「大将」のひとりである『センゴク』だった。

 

「お気持ちは痛い程わかります。大将殿」

 

 そう返したのは、唯一腰を下ろさずに部屋の一番奥で立つ、ひとりの海軍将校だった。歳は30代半ばといったところか、アフロヘアーとサングラスが特徴的な痩身かつ長身の男で、階級は少尉。名は『ブランニュー』と言う。

 

 その広い知見と深い見識を買われて、今回の緊急会議、その司会進行役を任された彼の顔にも、やはり相応の冷や汗が浮かんでいたが、それでも、進行役としてちゃんとしなければという気持ちのほうが強かったらしく、次の台詞を放った際の口調も、比較的しっかりとしていた。

 

「しかしやはり、どれだけ情報を精査してみても、出てくるのは信じ難い現実ばかり――それに、当事者のひとりであるクザン中将が、世経の報道内容を全面的に認めているとなれば、我々としても受け入れざるを得ませんし、話し合わなければなりません。……この者たちの脅威度――そして、対応策を」

 

 そこで一旦、ブランニューは一拍の間を挟むと、次のように続けた。

 

「念の為に、改めて説明しておきますと――今回、我々が行った『バスターコール』とは、『元帥』、『大将』以上の4人のみが発令可能な特殊作戦行動のひとつで、要約すると、大型軍艦10隻と中将5人を基本とした艦隊による『殲滅作戦』を指します。今回、これが発令された経緯については、あえて省略しておきましょう。……会議の趣旨とはズレますので」

 

 説明しつつ、目前に居並ぶ者たちをグルリと見渡しながら、ブランニューは、

 

「……こうした規模と目的から察せられるように、本来なら何者かによって止められる、という類のものでありません――紛れもなく、国家間の戦争に匹敵する程の戦力です。現在『新世界』の各地で暴れ回っている上澄みの海賊たちの中でも、そんなことができる者はほんのひと握りでしょう。……事実、()()『ダグラス・バレット』でさえ、約1年前に発令された同作戦を前に敗北、投獄を余儀なくされています――が、今回の()()は、それとは逆の結果を収めて見せました。繰り返し申し上げますがこれは紛れもない事実であり、我々はこの事実を受け止めた上で、()()について話し合わなければなりません。特に――『主犯』と見て間違いのない、この男について」

 

 そこまで言うと、ブランニューはわずかに身体をずらして、背後の黒いマグネットボードに留められた4枚の写真――1枚につきひとりずつの顔写真が、居並ぶ将校たちに見えるようにした。

 

 そして、近くの端末を操作して、ボードの上に備え付けられていたスクリーンを下ろすと同時に、同じく近くにあった『映像電伝虫』の位置を調整。その片目に、先の写真の1枚を手に取ってかざすと、もう片方の目からは、その視覚情報を反映させた映像が、スクリーンに拡大されて表示された。……ともすれば女性にも見える、美しい顔立ちをした銀髪赤目の青年。その横顔を写した写真が(何人かの女性の将校がポッ、と頬を赤らめた)。

 

「イングナル・フレイ――残念ながら、彼の経歴については不明な点も多く、その為、恐らくは『非加盟国』の出身と思われますが、それでも、もっとも古い記録では、あの軍事国家『ガルツバーグ』において、少年兵として従軍していたという事実が確認されています」

 

 これを受けて、居並ぶ将校たちの面々がわずかにざわめいた。しかし、そうなることをあらかじめ察していたらしいブランニューは、特に慌てることもなく、

 

「お気づきの方もいらっしゃるようですね――そう、奇妙な偶然もあるように、このガルツバーグとは、先に述べたダグラス・バレットが従軍していた国家でもあります。事実ふたりは、当時同国軍の部隊長であった『ダグラス・グレイ』が率いるチームの少年兵として、ある程度の面識があったそうです。……もっとも、当時から相当な武勲を挙げていたバレットとは対照的に、イングナル・フレイのほうはそうでもなかったようですが」

「と、言うと?」

 

 思わずと言った様子で尋ねるセンゴクに対し、ブランニューは相変わらず淡々とした口調で、

 

「聞くところによると、彼は『不殺』を徹底していたようです。上官からそれをやめるよう言われた際にも、頑としてそれを固辞した――だけではなく、殺害(それ)をしようとする同じ部隊の人間の邪魔をしたり、戦意喪失した敵兵の保護及び帰還の援助を独自で行うことが、ままあったとか。それが原因で、戦場にいる時間よりも、懲罰房にいる時間のほうが長かったとも言われています。……ちなみにこれらの情報は、現在『インペルダウン』の最下層(レベル6)に収監中のバレットに対し聞き取りを行って纏めたものです。本人が中々口を割らなかった為、かなり苦労したようですが……」

「中々口を割らなかった?」

 

 ブランニューの言葉を反芻しつつ、センゴクが眉をひそめた。

 

「国が崩壊した今でも、あのふたりは繋がっていると?」

「ああいえ、仲間意識によるものではないようです」

 

 センゴクの言わんとしていることを察したらしいブランニューは、顔の前で軽く手を振りながらそのように言うと、

 

「むしろ、それとは逆――バレットは、当時からイングナル・フレイに対して強烈な敵対心……ライバル意識を持っていたようです。命令違反による懲罰を多々受けようとも、当時から、イングナル・フレイの才覚はズバ抜けていたらしく――それが、バレットは気に食わなかったのだとか。あるいはそうした劣等感が、その後の凶行の動機となったのかもしれませんが、まあそれはそれとして……」

 

 ここで一旦、喉を整える為か、コホン、と小さな空咳を挟むブランニュー。

 その後で彼は、こう言った。

 

「その、バレットの凶行――『ガルツバーグの惨劇』によって国そのものがなくなったのを契機に、当然、イングナル・フレイもまた、バレットと同様に海に出ます。ただ、海賊となったバレットとは違い、彼は、西の海(ウエストブルー)を主な『狩り場』とした、賞金首を生業とする道を選んだらしく――その後の彼の活躍については、あるいはご存じの方も多いかもしれません。『億越え』さえも危なげなく討伐する彼の実力によって、ここ最近の西の海(ウエストブルー)は、『最弱の海』と呼ばれる東の海(イーストブルー)並みに平和な海域でしたから……」

 

 この説明を受けて、何人かの将校がウンウンと頷いた。「最弱」と言えば聞こえは悪いが、彼らのような海兵からすればそれは平和の証にして、駐在している海兵たちの努力の賜物(たまもの)でもある。……少なくとも、そうした解釈ができない者は、この会議室にはいなかった。

 

「……その実力を買われてかは知りませんが、CP(サイファーポール)からのヘッドハンティングも受けていたとか。もっとも、それを任されていた諜報員――いえ、『元』諜報員が、何故か彼の仲間として活動していることが、今回の一件で明らかになったのですが……。まあそれについても一旦置いておいておくとして――そんな、ある意味では我々の協力者とも言えるイングナル・フレイが何故、今回の『バスターコール』で我々の敵に回ったのか? それについては(よう)として知れません。西の海(ウエストブルー)のとある島で、彼とよく似た青年が、ニコ・オルビアと思わしき人物と深い関係を築いていたらしい、という情報も上がっていますが、何分、5年も前の記録なので、正確性に欠けます。しかし、もしも事実だとしたら、あるいはそこで、何らかの『繋がり』が両者の間にできたのかもしれません――本来は無謀としか言えない筈の、『バスターコール』の阻止。それを決意する程の『繋がり』が」

 

 それは具体的に何なのか? という質問を、しかしセンゴクは敢えてしなかった。何となく、こうした会議の場には似つかわしくない、浮ついた話題に発展しそうな気がしたからだ。

 まあいずれにせよ、その辺りの動機については、正直そこまで重要ではない。ここで真に話し合うべきことは――

 

「――話を戻しましょう。今回の議題において肝心要の、彼の戦闘力について」

 

 そう、それだ。と、センゴクが心中で首肯する一方で、ブランニューは続けて、

 

「これは主に、現在安静中のクザン中将、サカズキ中将の両名を含む、今回派兵された5名の中将に聞き取りを経て判明したことですが――まず第一に、彼は、『覇王色』の覚醒者だそうです」

 

 その情報を真っ先に挙げたブランニューの判断は、正しかったと言えるだろう――その証拠に、居並ぶ将校たちがわかりやすくざわめき出した。

 

 単純に『覇気』を扱える人間だけでも、かなり限られているというのに――その上、『覇王色』の使い手。その割合はなんと、数百万人にひとり。

 

 しかしその一方で、世界で武勇を上げる多くの強者は、この「王の資質」を備えていることから、その覚醒者については、判明したその時点でどれだけ名が売れていなくとも、一定以上の知名度が約束されることになる。これがもし海兵だったなら、将来有望な若者として喜ぶところだが、しかし、今回の場合は……。

 

「『見聞色』の精度と範囲もズバ抜けており、オハラとその周辺一帯を覆うほどのものであることは間違いなく、『自然系(ロギア)』であるクザン、サカズキ両中将を打ち負かしたことからも、『武装色』の使い手であることも確か。……しかも、その練度は、()()()()()()()()()()()()()()()、手傷を負わせられた程だそうです。……ここまでの現象となると、最早それが覇気によるものか、あるいはこの後説明する、彼の『能力』によるものなのかは、少々判断に困るところですが……」

 

 いや、それもきっと『覇気』によるものだ――と、センゴクは胸中で相槌を打った。厳密に言うとそれは『武装色』ではなく、『覇王色』によるものだが、とも。

 

 3種類ある「覇気」の中では、「見聞色」と並んで基本的な技術故に奥も深い、流動する肉体を持つ、悪魔の身の能力者――通称『自然系(ロギア)』の人間に対して、もっとも有効な手段でもある、『武装色の覇気』。

 

 その一方で、前述した『覇王色』は、その希少性の反面、手を下すまでもない、多数の弱者を手っ取り早く無力化する以外の使い道がない――何なら、一定以上のレベルの戦いでは殆ど役に立たない、『死に技』として知られていたが、実際にはそうでもないことを、センゴクを含めた極一部の海兵は知っていた――より高い境地に達した強者ならば、「覇王色(それ)」を武装色のように纏えるという事実を(今回の進行役に選ばれる程の知見を持つブランニューでも、こればかりは知らなかったようだが)。

 

 更には、それによる攻撃では往々にして、物理的な接触よりも先に、攻撃の成果が形となって現れる、ということも。

 

 馬鹿な、とセンゴクは冷や汗を滲ませた。と同時に、隣に座る同期の「英雄」に目を向けた。実力と実績は確かなものの、普段のいい加減な勤務態度と、上官が相手でも、歯に衣着せぬ物言いが目立つその海兵――センゴクに負けず劣らずの大柄な体躯と、左目にある三日月型の傷跡が特徴的なその「中将」は、しかし、普段の彼らしからぬ真剣な面持ちで、ブランニューの言葉に耳を傾けており、まあそうだろうな、とセンゴクは驚くよりも先に納得した。

 

 今は亡きあの『海賊王』、ゴール・D――もとい、ゴールド・ロジャーと幾度となく死闘を繰り広げ、尚且つ、自身も「同種の覇気」を扱えるからこそ、彼にはよくわかるのだろう。わずか20歳足らずで、その技術――「纏う覇王色」を会得しているという事実。その異常性を。

 

 前述した、世界各地で名を挙げている「王の資質」を持つ者たち、その中でも更に極一部の者――『白ひげ』、『カイドウ』、『ビッグ・マム』など――しか至れない、一種の到達点。

 

 この「若者」も、()()だと言うのか――と、内心戦慄したことで、思わず冷や汗を頬に伝わせるセンゴク。一方で、そんな彼の様子には気づかなかったらしいブランニューは、続けて、

 

「……また、その身に宿した『悪魔の実』の能力も十分以上に脅威です。実の名前はわかりませんでしたが、自身の身体、あるいは何もない空間から、金色のオーラによって巨大な腕や防護膜を作り出し、それを攻撃や防御に使うだけではなく――なんと、他者への『付与』も可能だとか」

「他者への付与?」

 

 思わずといった様子で反芻するセンゴクに、「ええ」と首肯するブランニュー。

 

「先ほど述べた、CPを出奔(しゅっぽん)した女――ステューシーという名の元諜報員が、そういった旨の発言をしていたと、彼女に不覚を取った中将のひとりが証言しました。なんでも、イングナル・フレイと……その……えー……『深い関係』を築くことで、彼の『能力』を限定的に使用できるようになると同時に、基本的な身体能力も底上げされるのだとか」

 

 センゴクは声を出さずに唸った(『深い関係』云々に関しては、なんとなく察しがついた上に話が妙な方向に脱線しそうだったので、敢えて指摘はしないでおいた)。他の海兵たちもざわめいていた。

 

 『能力者』というだけなら、正直、現在この部屋で会議に参加することを許されている、『偉大なる航路(グランドライン)』以降の海を主な職場とする海兵たちならば驚くに値しないだろうが、それが一部とはいえ、他者に譲渡できるとなれば話は別だ。

 

 似たような能力を持つ者を挙げてみろと言われたとしても、精々が、1年前に『カイドウ』と激闘を繰り広げたとされる『ゲッコー海賊団』の船長、『モリア』の、『カゲカゲ』の能力(ちから)しか思い浮かばない。

 

 切り取った他者の「影」を別の人間に()()()ことで、「本人」の力と技術も与えることができる、という能力だが――イングナル・フレイの能力も、それに負けず劣らずの脅威性と特異性を持っている見て間違いないだろう。

 

 相手が異性であることと、「相応の行為」が必要であることから、モリアの能力ほど使い勝手はよくないかもしれないが――閑話休題。

 

「……前置きは、そのぐらいでいいだろう」

 

 そう言ったのは、ブランニューの隣で腰を下ろしている、やはり大柄の体躯の持ち主にして、怪物の背びれのように天に伸びた、トゲトゲのヘアースタイルが目につく現『元帥』――『コング』だった。

 

「既に、政府からの報告とのすり合わせも終えて、手配書の金額も、正式に決定された筈だ――それを教えてくれ。でなければ、居場所がわかり次第送りこむ、海兵の階級(ちから)の基準も決められん」

「失礼――確かにその通りです。では、手早く発表することにしましょう。イングナル・フレイと――彼との同行が確認されている他3人の懸賞金を」

「3人?」

 

 センゴクが眉をひそめ、それに対し、ブランニューが間髪入れずに説明した。

 

「ええ、つい数時間ほど前に、偉大なる航路(グランドライン)を目指す()()を、それを予想していた支部の軍艦数隻が補足した後に、即座に交戦。……結果は手も足も出ない惨敗とのことでしたが――ちなみに不幸中の幸いにして、死者はひとりも出なかったとか――その際に、先に述べた元CP、ステューシー以外に、2名の仲間と思わしき人物を確認したそうです。ひとりには、既に懸賞金が懸けられており、もう片方にしても、先の『オハラ』の一件において、同様の措置を取るに足る情報を、CP9の長官であるスパンダイン氏が掴んだということで――まずは、そちらのほうからさらっておきましょう」

 

 言って、ブランニューは、いつの間にか手に持っていた4枚の手配書の内の1枚を、傍の映像電伝虫の片目の前にかざし、それによって、もう片方の目から映し出した白い長髪と褐色の肌が特徴的な美女の姿を、背後のスクリーンに浮かび上がらせると、

 

「ひとり目は――ご存じの方も、何人かいるかもしれません。『オハラ』発の『歴史の本文(ポーネグリフ)』探索チーム唯一の生き残りとして、既に賞金首として手配されている女考古学者。バスターコールを打ち砕く程の豪傑の「後ろ盾」を得たことによる、脅威度の増加を加味して――『オハラの悪魔』ニコ・オルビア! 9620万ベリー!!

 

 元の懸賞金額である7900万から、2000万近いジャンプアップ。とはいえ、それぐらいは当然だと思っている海兵が多いのか、そこまで大きなざわめきは起こらず――だからという訳でもないだろうが、ブランニューは、さっさと2枚目の手配書を取り出した。それの写真に写っているのは、先のニコ・オルビアとよく似た顔立ちの、幼い黒髪の少女の姿で、

 

「続いてはこちら――先ほど軽く触れたように、わずか8歳という年齢ながら、CP9長官のスパンダイン氏の証言によって、『歴史の本文(ポーネグリフ)』の解読が可能であることが明らかになった、オルビアの実の娘――『悪魔の子』ニコ・ロビン! 7900万ベリー!

 

 要するに、母親の元の懸賞金と同じ額を据え置かれた形だ。あるいは、『歴史の本文(ポーネグリフ)』の解読が可能な者の初頭手配は、誰であれその額にするべき、という決まりでもあるのかもしれない――まだ髭の生えていない顎を撫でながら、センゴクはそんなことを思った。

 

 いずれにせよ、彼がそうであるように、そこまでのざわめきは起こらなかった。無論、8歳という年齢で7900万という金額は異常と言えばそうに違いないだろうが、ここまでのブランニューの説明をちゃんと聞いていた者からすれば、ありえない、と騒ぎ立てる程のことでもないのだろう――と、センゴクがそう考えたところで、またもスクリーンに映された写真が、別の物に切り替わった。

 

 フワフワとした金髪に白い肌、青い瞳。赤いルージュが塗られた唇が、エキゾチックな印象を際立てている、妖艶な美女――

 

「3人目はこの女です――ここまで何度か述べてきた、元CPの諜報員。高いレベルの『六式』に、出奔してから今に至るまでに、政府からの追っ手をかわし続けてきたという事実から、元CPらしく、その手の情報戦の能力も高いと見ていいでしょう。現時点における『豊拳の一味』の主力のひとり――『妖魔』ステューシー! 1億2400万ベリー!

「1億越え……!?」

「馬鹿な……!」

「カイドウやビッグ・マムでさえ、初頭手配は7000万台だぞ……?」

 

 イングナル・フレイが、『覇王色』の覚醒者であるとわかった時と同じぐらいのざわめきが起きたが、それを予想していたらしいブランニューは、特に慌てた様子もなく、こう言った。

 

「皆様の動揺ももっともです――が、当時はまだ幼い年齢だったそのふたりに対し、この『妖魔』は、それなりの期間をCPで過ごしたことによって得たに違いない、豊富な『(から)め手』の使い手であることと、保持している機密情報の多さ。そして何より、今回の作戦で派遣された5人の中将の内、3人を一蹴して見せたという戦闘力の高さを考慮すれば、1億を越える懸賞額も、決して高過ぎる、ということはないかと……」

 

 厳密に言うと、その「3人の中将を云々」というくだりに関しては、先にチラッと説明されたように、フレイの能力の『恩恵』による効果もあるのだろうが――それについて、センゴクはいちいち指摘したりはしなかった。そういった事実を含めての懸賞金(きょういど)だろうし、いずれにせよ、他に気になることがあったからだ。

 

 センゴクは改めて、スクリーンに映る金髪の美女を注視した――やはり、似ている。かつて「とある海賊団」を追っていた自分からすれば、いやでも想起せざるを得ない、今では『白ひげ』として恐れられている大海賊、エドワード・ニューゲートに常に侍っていた、ひとりの女海賊に。他人の空似だろうか? いやしかし、それにしても……。

 

 その「とある海賊団」――『ロックス海賊団』も、20年前には壊滅していて――その大事件に居合わせたこの男も、自分と同じ疑問(こと)を思っているに違いない筈だが? そう思いながら、隣のガープをチラリと見やるセンゴクだったが、その表情からは、特に何の機微も読み取ることはできなかった。

 

 案外、自分と違って順当に、「他人の空似」で済ませているのか、あるいは、間もなく発表されるに違いない、「本命」のほうに意識を向けているのか――両方だろう、とセンゴクは思った。いずれにせよ、こういった会議で、この男がいまだに居眠りのひとつもしていないこと、それ自体がある種の奇跡のようなものだ、とも。

 

「……ちなみに、彼女については、何らかの『能力者』であるという情報も挙がってきています。これについては、裏付けに足る情報がCPより上がり次第、より詳しくすり合わせていくとして――」

 

 そんなことをセンゴクが考えている内に、いよいよブランニューが、その「本命」についての説明に入っていて、

 

「そして――お待たせ致しました。今回の事件の主犯。オハラを含めた海域全体に轟く程の広い範囲と、その中にいる中将以外の海兵、政府の役人たちを無力化する程の『覇王色』! 大将昇進を確実視されている、ふたりの『自然系(ロギア)』の中将にダメージを負わせ、圧倒する『武装色』! ふたりの――主にクザン中将の報告から察するに、『未来視』のレベルにまで至っていると思われる『見聞色』! 圧倒的な汎用性と、他者への付与が可能という異常性を併せ持つ、『悪魔の実』の力! そして――当然のように『六式』を修め、その応用技までも完璧に使いこなしてみせる、純然たる戦闘力! 『歴史の本文(ポーネグリフ)』の解読が可能な親子と、元CPのエリートを仲間に加えているという点も加味して――『豊拳』イングナル・フレイ! 3億2000万ベリー!

 

 センゴクは目を見開いてブランニューを見つめた。ガープも同様だったが、他の海兵たちは、そこまで()()()()()()リアクションはできないようだった。今度こそざわめく、というレベルを超える程の、ハチの巣をつついたような大騒ぎで――中には、やたら批難がましい視線をブランニューに向ける者さえいた。どう考えても、彼はただ発表しているだけで、金額を決めたのは別の人間の筈だが――しかし、それでもブランニューは(少なくとも、傍から見た限りでは)平然としていた。見込みがあるな、とセンゴクは思った。

 

「3億……3億!?」

「馬鹿な――『カイドウ』や『ビッグマム』の海賊団の幹部クラスではないか!」

「初頭で『億』を超えるだけでも異常だと言うのに!」

「何かの間違いじゃないのか!? 3億(そこ)で頭打ちになる人間が殆どなんだぞ!?」

 

 ギャアギャア、ワアワアと一向に収まる気配を見せない程の大騒ぎ。そろそろ、大きな声を出して事態の鎮静化を図るべきか? センゴクは迷ったが、その必要はなかった。

 

「この金額は――『五老星』が直々に決定したものです」

 

 途端に、会議場全体が水を打ったような静けさに包まれた。

 『五老星』――世界最高の権力を持つ5人の賢人たち。自分たち海軍や、世界政府の雇用主とも言える『天竜人』。その中でも「最上位」の存在。

 

 そんな者たちの決定事項に異を唱えるような愚か者など、この場に集められた将校たちの中にはいなかった。まあ、「コイツ」は別だろうが――チラリと隣に座る同僚(ガープ)に目をやりながら、センゴクはそう思った。

 

 何せ、この男――恐ろしいことに――その気になれば、平気で盾であり矛である筈の海兵(じぶん)たちを、思いつき程度に奴隷にしたり、時には暇潰し感覚で射殺することもある天竜人たちに対しても、「ゴミクズ」と呼んで(はばか)らない傑物で、その反骨精神たるや、20年前の『ゴッドバレー事件』を含めた、数々の実績とそれに伴う人望がなければ、とうに「消されて」いたに違いない、と断ぜる程だった。自分も一体、何度その手の言動に胃を痛めたことか……。

 

 とはいえ、今回のイングナル・フレイの懸賞金額については、特になんの異論もないようで、相変わらず、らしくもない難しそうな顔で、むっつりと黙り込んでいた――いやまあ、今回に限らず、それが誰であろうと、この男は元々、そういった懸賞金額(ステータス)にあまり興味関心を払わないタチなのだが……。きっと、ロジャーや『白ひげ』の金額さえも覚えていないに違いない、と。

 

 いやしかし、それにしても何故そんなに難しい表情を? とセンゴクは疑問に思った。イングナル・フレイが『纏う覇王色』を会得していることに対する思慮だとしたら、少々スパンが長過ぎはしないか? と。

 

 そう思ったところで――そんなセンゴクの思考に、ブランニューの言葉が割り込んできた。

 

「その理由、背景については想像するしかありませんし、間違っても、こちらから詮索するべきではないでしょうが――個人的には、異常……と言える程の金額ではないと、私は思っています。今回の件で、この男が打ち倒したふたりの海兵――クザン中将とサカズキ中将の実力は、皆様も知っての通り……。肩書きこそは中将であるものの、その実力が、既にその上――『大将』の域に達しつつあることは、周知の事実である筈。……しかし、そのふたりが、殆ど何もできずに無力化された……! 最初に申し上げましたように、我々は、この事実から目を背けるべきではないと思いますし、それがすぐにはできない、他の海兵たちに注意を促す意味でも、『初頭で3億越え』という今回の決定は、むしろ英断と言えるかもしれません。我々が派遣される際の兵の選定において、懸賞金額(これ)ほどわかりやすい指標もありませんから……」

「そうだな……」

 

 と、ブランニューの説明に対して首肯を返したのは、すぐ隣で腰を下ろしていた元帥(コング)その人で――その後で、彼は、

 

「この男が何故、『バスターコール』を防ぎ、考古学者たちを救ったのか? その理由は現状ではわからないし、いずれにせよ、そこはさほど重要ではない――重要なのは、この男が既に、『悪の芽』という領域を超えた、ハッキリとした『脅威』となって、我々の『正義』を脅かす存在となっていることだ」

 

 言いつつ――彼は、おもむろに立ち上がり、ツカツカと会議室の出入り口へと歩いていきながら、

 

「……しかし、それは我々が臆する理由にはならん! これほどの脅威に成長する前にその芽を摘めたなら、それに越したことはなかったろうが――それができなかったからと言って、仕方ないと下を向く理由にはならん!」

 

 会議室から出て、屋外と面した廊下に出ながらそんなことを言うコングの背中を、センゴクは真剣な目で見詰めた――ガープでさえ、その姿を横目で追っているのが、気配でわかった。

 

 やがて、コングは足を止めた。彼は屋外と面した渡り廊下、そこに設けられた転落防止用の柵の上から、下のほうを見下ろしており――その視線の先にある本部前の広場には、会議室には入り切らなかった、大勢の将校たちが立ち並んでいることを、センゴクは知っていた。

 

「だが、それでも『3億』という金額を前に腰が引けるというのなら――構わん! 逃げたい奴は今すぐ逃げ出せっ!!」

 

 コングは叫んだ。

 

「いい加減、認めねばなるまい――『見せしめ』になる筈だった、2年前の『海賊王』の処刑……。アレが逆に、『大海賊時代』と呼ばれる現状の、『きっかけ』となってしまったことを! しかし! だからこそ! 我々には一切の弱みは許されん! 望まぬ時代の到来は、あくまで我々の落ち度――か弱き民衆に罪はない! 必要な正義(ちから)は、既に、われらの背に刻まれているのだから!」

 

 まさにその2文字が刺繍された、コングの白いロングコートが、風に揺られてバサァッ! と揺れた。彼の言葉に当てられた会議室、および外の広場に集められた海兵たちの士気がグングンと高まっていくのを、センゴクは肌で感じ取っていた。

 

「強大な『悪』がこの世にあるならば! 我々『海軍』が! その力でもって! それらを、全力で駆逐せねばならんのだ――」

 

 わずかな間が空いた。そして……。

 

「――『絶対的正義』の名のもとに!!」

 

 空気を裂くような元帥の叫びに、間髪入れずに「「「はっ!!」」」と返す広場の海兵たち。直後に彼らは、腰の剣や拳を頭上に掲げながら歓声を上げ――こういった空気の引き締め方は流石だな、と、胸の前で手を叩きながら、センゴクはそう思った。

 

 その後は、ある程度場が収まったところで、改めて会議室内の海兵だけの話し合いとなり、『豊拳の一味』の今後の行動予想や、実際に接敵した際に、具体的にどのように対処するべきか? などの話し合いに移った。しかし、その間もやはり、隣に座るガープは、らしくもない難しい表情で黙り込んでいて――そんな彼を流石に不審に思いながらも、センゴクはあることを思い出していた。

 

 かつて――具体的には、『ゴッドバレー事件』の直後。彼がふとした拍子に(こぼ)していた、唯一、()()()()()()助けたとされる――銀髪赤目の少年のことを。

 

 

  ◆          ◆

 

 

 発令、すなわち対象の確実な殲滅を意味する筈の、『バスターコール』。

 

 それを、たったふたりの無名の人間が破ったということと、そのふたりが、『歴史の本文(ポーネグリフ)』を読めると思われる、更に別のふたりを連れて逃亡しているという事実は、その注目度の高さと比例するかのような異常なスピードで、世界中のあらゆる者たちの耳目(じもく)へと拡散していった。

 

 その中には当然、既に時代に名を残す程の『覇』を示した者、および、これからそれを成すに違いない程の素質を持つ者も含まれていて、例えば、『新世界』のとある海域を悠々と進んでいる大型船の甲板の上。そこに設置された巨大なソファに腰を下ろしている、天を突くような大男は、手に持った号外に目を落としながら、

 

「『シキ』の奴が、『インベルダウン』初の脱獄者になったかと思えば……。今度は、ロジャーんとこの合体小僧でもやれなかった、『バスターコール』を止めて見せるガキが現れる、か……。グラララララ……! 中々どうして、威勢のいい奴がいやがる……!」

「威勢がいいってだけで、できることでもねえでしょうよい」

 

 脇から記事を覗き込んでいたパイナップル頭の青年が、そんなことを言った。口元は笑っていたが、目は真剣だった。何せ……。

 

「歳は……多分、おれとそう変わらねえか……。これは、負けちゃいられねえな……」

「ライバル意識か? マルコ?」

「まあ、全くねえとは言わねえが――」

 

 自らのおとがいをポリポリと指でかきながら、『マルコ』と呼ばれた青年は、次のように答えた。

 

「――おれとしては、一緒に手配されたちっこい娘と、その母親のほうが気になるよい。『歴史の本文(ポーネグリフ)』――『おでん』さんの家に代々伝わる暗号を読めるって? どうして政府の連中は、たったそれだけのことで島ごと滅ぼそうとするまでするのか……。まったく……」

 

 呆れたように首を振るマルコの言葉を受けて、大男は、脇の小机に置かれた手配書を手に取った――ただし、マルコが述べたニコ親子ではなく、『妖魔』の異名が記された、金髪の美女の手配書のほうを。マルコには申し訳ないが、大男の関心の大半は、むしろその女性のほうに向けられていて――なんとなれば、

 

(『バッキン』……。いや、若作りっつっても、流石に限度があるか……?)

 

 彼が思い出すのは、忘れようにも忘れられない、以前の海賊団に所属していた時代に、ことある毎に侍ってきたひとりの女。確か、その海賊団が解散――というよりは壊滅――した後は、妙な研究をしていた謎の組織に、一時期身を置いていたと風の噂で聞いたが、それと何か関係があるのだろうか? と大男は思った。いくら考えたところで、正確なところはわかる筈もないが、いずれにせよ……。

 

「……もしも会うようなことがあれば、ちっとは話を聞いてみるのもいいかもな……。グララララ……!」

 

 そんなことを言いながら、大男――三日月型の見事な白い口ひげと、波打つ金髪が特徴的な、現在は『世界最強の海賊』とも呼ばれている『エドワード・ニューゲート』は、愉快そうに笑い、手配書を持った手とは逆の方の手で握っていた酒瓶を口元に近づけ、グイっと(あお)った。今日も、酒が美味かった。

 

 

  ◆          ◆

 

 

 また、同海域の『ワノ国』。その外れにある孤島に設けられた、和風造りの城の一室でくつろいでいた大男も、同様の記事を目にしていて、

 

「ウォロロロロ……! おでんを孤立させ、この国を手に入れる算段がついた矢先に、今度は、『歴史の本文(ポーネグリフ)』を読める親子を連れて逃亡中のガキが現れる、か……。運が向いて来やがったぜ、なあ、『キング』?」

「ただのガキではなく、『バスターコール』を破り、初頭で3億を超える値をつけられるようなガキですがね」

 

 淡々とした口調で、キングと呼ばれた黒ずくめの大男が応じた。顔をマスクで覆っていた為、その表情を窺い知ることはできなかった。

 

 自身の右腕の返答に、鬼のような白い大角と、左肩からその前腕の中ほどにまで彫られた、見事な鱗上の入れ墨が嫌でも目につく大海賊――『百獣のカイドウ』は、再び「ウォロロロロ……!」という、特徴的な笑い声を上げて見せると、

 

「――()()()()でいい気になるようなら、たかが知れてるが……。まあ、勧誘する価値はあるかもな……! バッキンを仲間にした手腕も気になるし、このガキの目的が、保護した親子の安全だっつうんなら、相応に期待もできる……! そのふたりの知識の対価として、おれたちのほうが安全(それ)を提供すりゃあいい……!」

 

 そこで一旦言葉を区切ったカイドウは、巨大な酒瓢箪(さけびょうたん)の中身をグビグビと喉に流し込むと、次のように続けた。

 

「戦力を十分に整え、おでんとその家臣たちを始末するまでは、おれも迂闊には離れられねえが――念のため、近隣の海域を常に監視するよう、下の連中に伝えとけ。こっちから出向く前に向こうから来てくれりゃあ御の字だ。ウォロロロロ……!」

「了解だ、カイドウさん」

 

 

  ◆          ◆

 

 

 そして、やはり新世界の、とある島のとある巨城の一室では、少々丸みが目立つ、色々と巨大な女が同様の号外を手にしていて、

 

「ロジャーの馬鹿を超える為にゃ、『歴史の本文(ポーネグリフ)』の解読がひとまずの絶対条件だ。わかってるね? お前ら」

「「「はいっ、ママっ!」」」

 

 彼女の実の子供を含めた大勢の部下が一斉に応じ、それが部屋の壁に反響してわーんと鳴った。

 

「カイドウの奴も狙ってるに違わねえが、有利なのはこっちさ。距離的にも、情報力の高さでもな……! それに……」

 

 一旦言葉を切った女――『シャーロット・リンリン』、通称『ビッグ・マム』は、今度は傍らに置いていたイングナル・フレイの手配書を手に取って、それを顔の前まで持ってきてしばらくの間注視すると、

 

「――いいね♡ 気に入った! ついでに、コイツを次の夫にすることにしようっ!」

「「「はいっ、マ――えっ?」」」

 

 再びの即答ハモり。ただし、今度のそれには、明らかな戸惑いが混ざっていたが――ビッグ・マムは一顧(いっこ)だにすることもなく、

 

「このガキも、おれに種をつけられる名誉と引き換えなら、喜んで、例の親子共々仲間になる筈さ! バッキンから、おれのことは聞いてるだろうしな~~♪ 実力のほうも()()()()だし、これまでの連中とは違って、捨てずに、そのまま部下として手元に置くのもアリかもねえ~~! マ~~ハハハハハ~~っ!!」

 

 頬をわずかに赤らめながら、この世の春と言わんばかりの哄笑(こうしょう)を響かせるビッグマムに対して、彼女の部下たちは一様に、呆れたような、諦めたような、微妙な表情を浮かべるのであった……。

 

 

  ◆          ◆

 

 

 当然、ニュースが届く時間は、過酷な海域として知られる『新世界』を含めた『偉大なる航路(グランドライン)』よりも、()()()()の、平和で安心な(あくまでも『偉大なる航路(グランドライン)』に比べれば、だが)『4つの海』のほうが早かった。

 

 実際、その内のひとつ、「最弱の海」――ブランニュー少尉に言わせれば最も平和な海――の、とある島に接近しつつある小型船。その甲板の(へり)に片足をかけて立っている、麦わら帽子を被った赤髪の青年も、その号外を読んでいて、

 

「……やっぱり気になるのか? 歳も、おれたちとそう変わらねえしな……」

 

 そんな声を受けて、赤髪の青年は顔を上げた。精々が10代後半程度だろうとわかる、多少の幼さを残した顔を、現状唯一の仲間である、黒い総髪の青年へと向けた彼は、

 

「まあな……。とはいえ、変に焦ったりはしねえさ。おれたちには、おれたちのペースがある、だろ?」

「違いねえ」

 

 ハハハッ……! と愉快そうに笑う『副船長』に対して、ニヤリとした笑みを返す赤髪の青年。そして彼は、程なくして辿り着いた島に(いかり)を下ろしながら――海岸にそびえる崖に腰を下ろしてこちらを見ていた男に、次のように声をかけた。

 

「――なあアンタ、『ヤソップ』って男を知ってるか? ソイツの評判を聞いて来たんだが……。ああ、ちなみに、おれの名前は『シャンクス』――海賊だ」

 

 

  ◆          ◆

 

 

 また、本来は『外界』とは隔絶されている筈の、『女ヶ島(にょうがしま)』にある女人国家、『アマゾン・リリー』にも、そのニュースは伝わっていて――

 

「グロリオーサ様! 例の記事を、ご覧になられ――てますね。どう思われますか?」

「どうもこうも……。これだけの情報じゃあね……。しかし、黄金のオーラか……。ただの偶然にしては……。ステューシーの目当てもそれか……? まあ、もう一度、外界に出向くぐらいの価値はあるだろう。シャクヤクにも一応連絡を入れて――それからすぐに、出航の準備を始めなっ!」

「承知しました! ……ところで、あの幼い三姉妹ですが……」

「アイツらは中々伸びしろがデカイ……。特に、長女のほうは、いずれこの国を背負って立つ程の存在になるだろう。異例だが、経験を積ませる意味も込めて、次の航海からは船に乗せるのもアリかもね」

「なるほど……」

 

 

  ◆          ◆

 

 

 ――そして。

 肝心の、イングナル・フレイとその仲間たちはと言うと――『オハラ』を出港してから、()()()()

 ようやく、念願の『ワノ国』――その近海にまで辿りついたフレイは、しかし、眼前に広がる光景を見て、わかりやすく顔をしかめた。

 

「さて、どうするか……」

 

 彼の視線の先では、辺り一面の海を満たす程の、ただならぬ高波の数々が、侵入者を阻むように、轟々とした音を辺りに響かせていた。




 初めて、太字による強調描写に挑戦してみました。機能自体は当然以前から知っていたのですが……。

 懸賞金や異名については少々悩みましたが、まあ変にひねるような真似はせずに、無難(?)なものにしときました。フレイ君の金額については、初頭にしては高過ぎるし、クザンとサカズキを倒したにしては低過ぎるとも言えるでしょう。それと……ステューシー……どんまい!

 また、独自の設定や解釈をふんだんに盛り込んだ回になりましたので、一応の説明をば。興味ない方はスルーでOKです。

・プランニューが少尉
>この時点ではまだ原作開始(ルフィがフーシャ村を出港する)より20年前。原作においての彼の初登場時の階級は少佐。そこから2年で准将になったことを考えれば、流石に違和感を覚えますね……。「お前は20年間何やってたんだ!?」って影山君に言われてそう……。とはいえ、彼以外の人間がこういった場での司会進行をする状況も思い浮かばなかったので、ゴリ押ししました。あんまり階級が低過ぎると、それはそれで、そんなペーペーがこういった会議に参加できる訳ないやろ、という話になるので。どうかお許しを……。

・ベックマンの存在
>副船長なんだから真っ先にシャンクスの仲間になった筈……! とも思いますが、冷静に考えればそうでなければいけない決まりもありませんし、エピソード0(「BLUE DEEP」というファンブックに収録されています)ではその存在を確認できませんでした。まあ単純に、コマを食うが故に出番を省いただけかもしれませんが……。とにかく本作では、順当にヤソップよりも先にシャンクスの仲間になっていた、ということでひとつ。

 あとはまあ、それとはまた別に、公式設定でのふたりの出会いが気になるところです。というのもベックマンって、出身が『北の海(ノースブルー)』らしいんですよね。そこからローグタウンを発った後のシャンクスと『東の海(イーストブルー)』で出会ったとしたら、それこそブルックが言うところの、「家族の引っ越しレベルじゃ済まない大航海」です。赤い土の大陸(レッドライン)を越えなきゃなりませんから。どういう経緯で仲間になったんでしょう? いつか原作で、その辺りの馴れ初めが描かれるのが今から楽しみです。

・グロリオーサ(後のニョン婆)の存在
>確信を持つには至らなかったのですが、あらゆる資料やサイトで調査したところ、どうも出奔した彼女がアマゾン・リリーに戻ったのは、タイガーの手によって奴隷の身分から解放されたハンコックたちを保護して、故郷に届けるついでに、というのが正確なところのようです。だからまあ、奴隷になる以前の三姉妹と共に島にいると思われる、今回の話での描写は矛盾します。「原作改変」タグが珍しく仕事をしましたね。まあ、オリ主を加えて、原作の女性キャラと散々ズッコンバッコンさせておきながら、何を今さらという感じでしょうが……。それに正直、そこまで大きな改変でもないですしね。彼女やシャッキーの濡れ場を書くかは要検討です。

 ……大体こんなところでしょうか? あとはまあ、いくらなんでもワノ国に辿り着くまでに2年もかかるとかトロトロし過ぎやろアホやろ、というのがありますが、その辺りの事情については、明日投稿予定の話で説明しますのでひとつ。

 長文失礼しました!
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