ちょっとした小型船程度なら丸呑みにしそうなほど巨大な、複数の鯉に船を引かれれながら滝を登るという、他人に聞かせたら問答無用で正気を疑われるような方法で入国したフレイたち。
砂地に着陸(墜落?)した自分たちの
それから――数時間後。
「どうするかな……」
時刻は夕方。遠くの
彼は、少し前に立ち寄った小さな集落――『
数時間前、ワノ国に到着した直後のフレイはまず、「なるほど」と思った。「コレ」ならワノ国に政府や海軍が手を出せないのも納得だと。
先ほどのような、知っていなければ海の藻屑となるしかない、周辺海域の厳しい環境に加え、この「声」の力強さ……! この「声」の主が、ステューシーやオルビアから聞いた「ショーグン」という人物だろうか? とフレイは思った。ワノ国における国王の呼び名らしいが――彼(彼女かもしれないが)と、彼に付き従う「サムライ」なる剣士たちが強過ぎることが、政府や海軍が干渉できない大きな理由のひとつになっている、と聞かされていて。
これほどの「声」の強さならばそれも納得だ、とフレイは思った。単純な力強さで言えば、あるいは、かつての自分を救ってくれた、
(――いやいや、そんな訳がないだろ)
自身の人間性の根幹を揺るがしかねない愚考を、ひとりブンブンと頭を振りながら思考の片隅へと追いやり――しかし、それでもフレイには疑問に思うことがあった。……国王というのは、本来、どの国でも、人口密度が一番多い街の中心に居を構えるものだと思っていたが(少なくとも、リュウグウ王国などを含めた、これまでに立ち寄った国の殆どはそうだった)、この「声」の現在地は、そういった場所とは別にある。
ワノ国の全容――島の形をフレイは
(……まあ、その辺りの事情は今はいいか)
フレイは、今一度かぶりを振った。鎖国国家ということで、何か他とは違う事情のひとつやふたつは抱えていて当然だとも思ったし、いずれにせよ、推測ばかりを巡らせていても仕様がない――実際に見聞きして得られる情報に勝るものはないのだから。
そう思ったフレイは、多少迷ったものの、船番などは誰も残さないまま、最寄りの、多くの「声」が聞こえる場所(それでも2、3キロほどは歩いたが)へと仲間を連れて赴き――殆どあっという間に、刀を構えた屈強な剣士たち(例の「サムライ」という者たちだろうか?)に囲まれることになった。
が、そこはそれ。如何に外界にその通称を轟かせる剣の使い手たちであろうと、たった5人では、ほぼ単独で
鎖国国家の住民らしく、公式の港以外から入国した――そんなものがあると事前に知ってればそっちから入国したのに、とフレイは内心げんなりとした。まあ、事前の調査を怠って、幼いシャーリーの力に頼り切る判断を下した自分が悪いのだが――フレイたちを相応に警戒した、というのも勿論あったらしいが、それ以上に、
自覚しているのかどうかはわからないが、『見聞色』まで使えるのか――「侍」が強いというのは本当らしい、とフレイは怒りを覚えるよりも少々感心して、自分たちは別に侵略者ではないことを説明し、明らかに普段からロクに食べれていないとわかる侍を含めた村民たちに、手持ちの食料と水を分け与えることで、何とかひとまずの信頼を得ることに成功。
その後で、正式な客人として村長の家に招かれ、先の件に関する謝罪を受けた後に、ワノ国の現状に関する説明も受けて――それを聞いたフレイは、例えここが鎖国国家でなくとも、彼らが余所者に対して過剰な反応をするのは当然だと思った。
6年ほど前に突如ワノ国にやって来た、その余所者の集団――『百獣海賊団』と、悪徳将軍『オロチ』の共謀によって、救国の英雄と期待されていた豪傑が、つい最近討たれてしまったと――そう聞かされたからだ。
その英雄の名前が『光月おでん』だと聞いて、フレイたちは少なからず動揺した。白状してしまうと、彼らはおでんの存在をあらかじめ知っていたのだ。
まあ、元『ロジャー海賊団』の一員――つまりは『海賊王』の
男の名は『シルバーズ・レイリー』――同じく『ロジャー海賊団』の
フレイたちがレイリーの正体に気づいたように、レイリーもまた、フレイたちの正体――『バスターコール』を阻み、将来有望な中将を打ち任した超新星であること――に、気づいていた。まあ、20歳前後の若い男が、ふたりの美女とひとりの幼女を連れ回している、という独特なチームなので、連想するのはきっと難しいことではなかったのだろう。
自分たちの船を造ってくれたトムに認められた海賊団の一員であることと、かつて『ガルツバーグ』において同じ釜の飯を食った仲間――どうせ「向こう」はそうは思ってないだろうが――ダグラス・バレッドを受け入れる程の器の持ち主ということもあって、フレイはレイリーを信用し、自分たちの事情を話すと、興が乗ったらしいレイリーは快くコーティングの作業を請け負い、そしてその際に、前述したように、光月おでんへの
ともあれ――光月おでん。
享年39歳。3メートルを超える程の大男且つ、二刀流の刀の使い手にして、前将軍『光月すきやき』のひとり息子および、元ワノ国の一地方である『
ワノ国国内における彼の経歴を網笠村の村長から、ワノ国国外での経歴をレイリーから聞いていたフレイたちは、既に大多数の者よりも、かの英傑のことを知っていた。
将軍の息子である点を抜きにしても、幼少期から、その生まれ持った
外界での航海を経て、よりその強さに磨きをかけて戻ってきたはいいものの、彼が国を離れている最中に幅を利かせていた悪徳将軍オロチのバック、『百獣のカイドウ』とその一味との闘いに敗れ、処刑されてしまったという悲劇の英雄――でありながら、その妻以外の彼に近しい者たちについては、いまだに誰も死体が上がっていないらしいが、正直、そこに救いを見い出せるような状況でもなかった。
現在のワノ国は実質そのオロチとカイドウ、ふたりの悪漢の支配下にあって、とても政府と海軍の追っ手に怯えずに暮らせるような、「安住の地」とするには無理があると――自分たちにとっての「理想の地」には不適格であると、フレイは認めざるを得なかった。
カイドウとオロチを打ち倒し、ワノ国を取り戻す? ……なくはない。が、相当な覚悟がいる決断だった。
まず第一に、カイドウという男の力量――最初は『将軍』と勘違いしていたこの「声」の力強さから察するに、相当な実力者であることは間違いない。少なくとも、1年前の『バスターコール』が可愛く思える程に。
彼の部下と思われる大勢の「声」についても同様で、数が多いというだけではなく相応に「質」もよく、層が厚い。絶対に勝てないとまでは言わないが、相応の苦戦を強いられることは確かだろうし――なんの犠牲もなしに勝てるかと問われると、悔しいことに、それの可能性についてはまったくの「ゼロ」だと断言せざるを得なかった。
その犠牲の内訳が、現在自分が己の命以上に大事にしている、4人の仲間の内の誰かという可能性も大いにあり――そう考えると、とてもではないが「抗争」という選択肢は採れなかった。現在進行形で圧政に苦しめられている、「ワノ国」の住民には申し訳ないが……。
その「ワノ国」の者たち――具体的には、おでんの意志を継ぐ侍たちを説得して、共にカイドウを討つ? ……まあ、愚策とまではいかないが、少々
『赤鞘九人衆』なるおでんの家臣の遺体はまだ見つかってはいないものの、カイドウたちに手痛い敗北を喫したのはごく最近で、そう考えれば早過ぎるし(どう考えても、まだ万全の体調に戻っているとは思えないからだ)、おでんの意志を継いだ著名な大名たちが、ほんの2週間ほど前に壊滅(行方不明になったひとり以外は、『鬼ヶ島』という百獣海賊団の本拠地に収監中らしい)されたことを考えれば遅過ぎた。
……タイミングが悪かったのだ。まあ、仮にそれが良かったとて、カイドウと同じ「余所者」である自分たちを、この国の侍たちがすんなり信用してくれるのか? という大いなる疑問もあるが――先ほどの網笠村の人たちがいい例だ、とフレイは思った。
当然、こちらにはカイドウたちと違って、ワノ国をどうこうしようという思惑はちっともないが、そんなことは、初対面の国民たちにはわかりはしないだろう。少なくとも、ちゃんと腹を割って話をしない限りは――しかし、それを、味方につける為に、大勢の侍たちに対して行う手間暇を考えると……。
駄目だ、やはり抗争の道は選べない。フレイはため息をついた。あまりにもリスクが大き過ぎる。「ワノ国」の住民たちには申し訳ないが――最優先すべきは、愛する4人の仲間の命。そこだけは疎かにする訳にはいかなくて――その為には、一旦ワノ国から離れるしかないと、そう思った。
だからこそ、できることなら、今すぐにでも仲間たちと共にワノ国から離れるべきだと、フレイもそれは重々承知していたが(滞在する時間が長くなればなるほど、カイドウやオロチの部下に見つかるリスクが高まるし、そうなったら色々と面倒なことになる)、結局そうはしなかった。
ここまでの道のりが――主に、妊娠願望が激しいとある「大女」のせいで――相当な強行軍だったし、ロビンやシャーリーなどはまだ子供なのだ。先の「鯉の滝登り」によって蓄積された疲労も相当なものだろう……。そう思ったフレイは、都合よく網笠村の者たちの信頼を得られたこともあって、今日だけはその村で休むこととした。船のほうにまだ積んである相応の食料、および綺麗な水と引き換えに。
一見豊かな森の中にありながら、どちらも網笠村では――というよりは、カイドウとオロチの「お膝元」以外の全ての集落では、そのふたつの慢性的な不足が問題となっているらしい。ふたりの悪政者があちこちに建てた『武器工場』、そこから川へと流される排水が原因で。野生の獣なども、その水を飲んで汚染されている為、食べることは推奨されないのだとか。
だからこそ、フレイたちの船に置いてきた水と食料でも、十分に取り引きの材料となり得た。故に、ロビンにシャーリーという、幼い子供の面倒をオルビアとステューシーに任せて、こうしてフレイひとりが、交渉材料である食料と水を取りに、自分たちの船へと戻る道を歩いている、という訳である。
それを終え次第、明日の朝にでもこの国を出ると、村長らに伝えるべきだろう――いや、黙って出ていくほうがいいか? フレイは悩んだ。変に引き留められても、別れが辛くなるだけだし――と、フレイがそこまで考えたところで、
「声」が、聞こえた。
「…………」
ふたり分の
現在のワノ国の状況を考えれば、そういった境遇に身を落としている者は正しく星の数ほどいるのだろう――そう考えるとやるせない気持ちになると同時に、ひと通りの「やるべきこと」を終えたら、自分だけでも船番をする為に、またここに戻ってくるべきか? いやしかし、まだ完全に信用できていない者たちが暮らす集落に、命よりも大事な4人の仲間たちを残して、別の場所で夜を明かすというのも、それはそれで――と、そんな考えを巡らせながら、船内へと足を踏み入れるフレイ。そこに緊張感というものは欠片もなく、事実、それを覚える程の脅威ではない、とフレイは判断していた。
ふたつの「声」の内、片方の強さは「そこそこ」ではあったが、もう片方はいやに小さい……。病気か何かで具合が悪いのか、あるいは子供か――いや恐らく両方だろう。そうなると、盗賊よりは、何らかの理由で逃亡している最中の親子か、はたまた兄弟という線のほうが強いかもしれない。それならば多少は同情するが、しかし、だからといって……。
特に足音を殺すこともなく、「声」が聞こえる船内の一室――食料などを保存する為に使っている部屋に足を踏み入れると、案の定、そこにはふたつの人影があった。
既に時間が時間なせいで船内は薄暗く、下手人の姿は黒い影となっていてその正体はわかりにくかったが――やはり、大人と子供という組み合わせで、子供のほうは隅っこのほうで毛布のような物にくるまって横たわっており、大人のほうは、周囲にある袋や戸棚の中を引っかき回していて、「何か」を必死に探しているようだった――食料以外の何かであることは確かだ。足元に転がってきたじゃがいもや人参を冷たい目で見下ろしながら、フレイはそう思った。そう思って――
「……おい、そこの」
低い声を出すと同時に、大柄な影がビクリと震え、こちらを振り向いた。フレイは身構えたが、影が襲ってくることはなかった。それどころか、
「この船の持ち主か!? あいや――スマヌ! 申し訳ない!」
言って、その場で膝と両手を着いて、頭も同じ位置に下げ――つまりは、土下座の姿勢を取る謎の人物。声の調子からして男だろうが――とにかく、そんな反応を返されるとは思っていなかったフレイは面食らった。とりあえず、ただの
「ひよ……あー……拙者の……その……妹の調子が優れぬのだ。街で医者に診て貰えるなら、それが一番なのだろうが……。実は、この子も拙者も、訳あって――いやまあ、海外から来たお主に、こんなことを言ってもわからぬだろうが……」
「アンタ、魚人か?」
何か色々とたどたどしい口調で説明し始めた大柄な男の台詞を遮るようにして、フレイが言った。その時、部屋の窓から外の夕陽が差し込み、ふたりの侵入者の外見がハッキリと照らし出された。
フレイの見立て通り、3メートル近い大柄な男は魚人に違いなかった。床に置かれた両手――その指の間に張られた水かきと、薄緑色の肌を見る限り間違いない。似たような色の着物を身に纏い、頭には、網笠村で散々見た
子供のほうは……フレイが毛布だと思っていた物は、男の物と思われる黒い
医者でないフレイでも間違いなく病気だとわかる状態で、同時に、男が何を必死に探しているのかを瞬時に察しはしたものの、フレイは、あえてすぐにはそこには触れなかった――事情はどうであれ、被害を受けているのはこちらのほうで、まずはひと通りの話を聞いて状況を整理するのが先だと、そう思ったからだ。
一方の大柄な魚人は、フレイの指摘に、明らかに虚を突かれた様子だった。が、すぐに何かを悟ったような様子を見せると、
「……そうか。海外から来たのならば知ってて当然か。如何にも、拙者は魚人――もっとも、世界的には差別されていると聞かされている故、基本的には
「ああ……まあ、魚人と人魚には、『魚人島』で色々と世話になったし、そもそも、おれの仲間の内のひとりは、人魚だしな……」
というか、「カッパ」とは何か? それはこの「ワノ国」では有り触れた生き物――種族なのかと、ちょっとした疑問を覚えはしたが、なんだか話がこじれそうだったので、フレイはそれを飲み込むことにした。かわりに、
「それでその……ええと……『カッパ』? のお前が、一体おれたちの船になんの用なんだ?」
「ああ……うむ……。まあ、見ての通りというか……その、妹の為に、薬を……。できれば、食料と水もだな……。もう何日も、ロクに食べておらぬ……。拙者は構わぬが、汚染された水や動物の肉の毒素に、この方――もとい、この子の身体は耐えられぬ故……」
「んん……」
フレイは短く唸った。とりあえず、「妹」というわかりやす過ぎる嘘に対して突っ込むべきかどうかかなり迷ったが、一旦は気づかない振りをすることにした(そもそも、少女のほうは明らかに魚人ではなく人間だった)。代わりに、彼は、
「……さっき、チラッと言いかけてたけど――町の医者に診てもらう、っていう選択肢はないのか?」
言いつつも、フレイにはなんとなく答えが予想できていて――案の定、魚人の大男は、
「医者……というより、そもそも町――人が多い場所に今行くのは……その、色々と……」
モゴモゴと歯切れの悪い台詞を漏らす大男に対して、あえてあまり追及せずに「そうか……」とだけ返すフレイ。正直に言ってしまうと、目前の大男と少女の正体、およびその関係性について、フレイはなんとなく察しがついていた。
ともすれば、つい先ほど、網笠村の村長から聞かされたばかりだったからだ――おでんとその女房以外の「光月」の人間はいまだ行方不明で、その中にはおでんの子息である幼い兄妹も含まれている、と。
網笠村の村長は「
が、彼はあえて、
自分はもう、この国を見限って、仲間たちと共に海に出ると決めたばかりだというのに――そう思うと、フレイは、勝手に船の荷物を漁られたことに対する苛立ちが嘘のように消え去り、代わりに、蛇が体内でのたうつような罪悪感を覚えた。だからこそ彼は、ハァッ、と軽く息をついた後で「……オーケー、わかった」と言って大男の台詞を遮ると、
「もののついでだ。薬と食料、水ぐらいはくれてやる。……ただその前に、ちょっとその子を診させて貰ってもいいか? もしかしたら、おれでもわかるような症状かもしれない」
「…………」
大男はすぐには答えず、代わりにサッと立ち上がったかと思うと、フレイと少女の間に立ちふさがるようにジリジリとすり足で移動し始めた。その意味を瞬時に察したフレイは、
「……変なことはしないと約束するよ。まあ、どうしても無理だって言うなら――」
「……いや、よい。信用する……」
言うほど割り切ったようには見えなかったが、とにかく大男は、フレイが少女の検診をするのを許した。自分が丸腰であったのも理由のひとつかもしれない、とフレイは思った。大男の腰には大振りの
「……河……松……?」というか細い呟きが、少女の口から漏れた――大男の名前だろうか? 薄っすらと目を開けてはいたが、視覚が正常に機能しているかは大いに疑問で、そう心配するには十分な程の冷や汗の多さと顔色の悪さだった。これでは、大慌てで薬を探すのも頷ける――足元にコロコロと転がってきたじゃがいもや人参を
「…………」
キイィンッ――と、『見聞色』を発動。いや
万が一、たちの悪い寄生虫などが潜伏していた場合でも、ここまで範囲を絞った見聞色なら、その極々小さな「声」さえも拾うことができる。まあ、仮に拾えたところで、そういった
なんだかんだで、この少女が大男――河松の目を盗んで、汚染された水や動物の肉を口にしていた場合は、そこに潜んでいた寄生虫が、少女の体内に場所を移して悪さをしている可能性が非常に高い、とフレイは踏んでいたからだ。彼自身が、天竜人の奴隷に身を堕とす――堕とされる以前、空腹に耐えかねて生ごみを漁る日々を送っていた際に、しょっちゅうそういう目に遭っていたからこその心配だったのだが、杞憂だったらしい。
と、なれば――フレイは、後ろでこちらの様子を伺っていた大男(よく見れば頬がこけており、彼もまた、何日もろくに食べていないことが分かった)に顔を向けると、
「一応、簡単な風邪薬は飲ませるけど、やっぱり、安全な食糧と水……それから、静かな場所でゆっくりと身体を休めるのが一番だと思う。この船の中は……あまり、安静するには適してないかもな。波でしょっちゅう揺れてるし、おれも、網笠村に仲間を残した状態で、アンタらを見張……見守る為に、ここで夜を明かす訳にはいかない。となると、アンタらが今からおれと一緒に網笠村に行って、そこで、その子の病気が治るまで休ませて欲しい、って村長さんに頼むが一番いいと思うが……」
「網笠村、か……。ううむ……」
大男が唸ったのを見て、フレイは、
「正直、そっちの事情と正体についてはなんとなく察してるけど、網笠村の人たちなら大丈夫だと思う――同じ、オロチっていう『バカ殿』に苦しめられてる人たちだし。……いや、だからこそ、貧しい暮らしを何とかする為の褒美目的で、アンタらを『密告』する可能性もあるのか? まあ、どうしても難しければ、今からおれの仲間たちを呼んでくるから、それまで大人しく――」
と。
そこまで言ったところで、フレイの顔色が、サァッ……! を青く染まった。その急激な変化を真正面から見て取った河松は、「ど、どうされた?」とわかりやすく戸惑っていたが、フレイはすぐには答えなかった。
寄生虫の心配がないと確信した瞬間から、フレイは『見聞色』の範囲を元に戻していたのだが、それが件の網笠村にまで及んだ瞬間に――彼は、確かに
これが意味するところは、つまり――「クソッたれ!!」――突然大声で悪態をついたフレイに対して、河松が跳び上がった。が、当然、そんな彼にことの顛末を説明する時間さえ、今は惜しい。フレイは、先に述べた簡単な風邪薬が入った小袋を取り出して、それを河松の手に押しつけると、
「悪いけど、急用ができた! 食料と水も好きに持って行っていいから、その後ですぐに船を下りて、さっき言ったように網笠村へ行ってくれ――この国の人間なら、場所は知ってるよな!?」
「ま、待てっ! 突然そのようにまくしたてられても……! 一体、どうしたというのだ!?」
「おれの大事な仲間が、誰かと戦ってる――しかも、ハッキリと劣勢……いや、もう負けた後だ! 仲間たちの『声』がひと塊になって、デカイふたつの『声』によって、どっかに運ばれてやがる――畜生っ!」
口角泡を飛ばしながら、フレイが叫んだ。
「こっちが、『見聞色』の範囲を狭めたタイミングで――いや、まさか、
「せめて名前を――」
「フレイだ! イングナル・フレイっ! じゃあなっ!!」
言うだけ言って、いくつかの保存食が入った大袋と、真水を蓄えてある革袋を引っ掴んだフレイは船を飛び出し、空へと跳び上がると、そのまま『