というか、ちょっと前に、「一度に何万文字も読ませては、感想を書こうと思っていた読者の気力を削いでしまう」的なことを言ってませんでしたっけ? 自分。……ううん……。
世界にその名を轟かせる『百獣のカイドウ』が率いる海賊団――『百獣海賊団』の本拠地であるワノ国より少々離れた海域にある孤島、通称『鬼ヶ島』の一画には、『天の岩戸』と呼ばれる石の牢獄がある。
その内、幼女が閉じ込められてからは既に10日以上――かつてはワノ国が誇る『大名』だった3人の男たちに至っては、更にそれよりも前からこの岩戸に監禁されていたが、そこはやはり大人と子供。基本的な体力が違う。
地面にうつ伏せになって動かない――動けない、先端にゆくほど青みが増していく、独特な色味の白い長髪と、その間から生えている2本の赤い角が特徴的な少女、『ヤマト』は、1日につきひとり分しか運ばれてこない食料を、
とはいえ当然、元『大名』である男たちの方も全然問題ないということはなく、ヤマトのように倒れ込んではいないものの、頬はこけ、肌にも張りがなく、かつては鎧のようだったに違いないと容易に想像できる全身の筋肉も、明らかに放置し過ぎた乾き物のようになっていて――それでも、おもむろに呟かれた次の台詞には、それを微塵も伺わせない程の生気に満ちていた。
「……運が向いてきたな。ヤマト」
「え……?」
ヤマトにとっては大好きな「お侍さん」のひとりである、後頭部で纏めて後ろに垂らす
そんな彼女に対して、彼――自らを『
「いやあ……凄まじい気配だ……。これほどの傑物が埋もれる筈もないだろうから、恐らくは海外の者だろうな……」
「おでんと同等か……? いや、下手すればそれ以上……!」
「せめて、ヤマトだけでも、『20年後の戦い』の為に逃がそうと思っていた矢先だ……。正しく、天運……! これほど荒々しい『
面長の侍と、三角の「おむすび」のような頭部が特徴的な侍が
「ヤマトよ――この好機を活かす前に、今一度お主に問いたい。……あの程度の量の食事が1日に1回だけでは、拙者たちは当然として、お主のほうも、とても『20年後の戦い』を見届けることは叶わんだろう……。気に食わんだろうが、それでもやはり、お主はカイドウの娘……。建前でも、奴に詫びのひとつでも入れれば、まず助かると思うが……?」
「嫌……だよ……」
ヤマトの返答は実に弱々しいものだったが、言葉の端々に、決して譲れないと言わんばかりの「何か」が見え隠れしていた。
「ぼくも……
ヤマトの言う通り――彼女はなんと、カイドウの実の娘で、にも関わらず、かの者を後一歩というところまで追いつめた故人の豪傑、光月おでんに強く憧れ、そうした言動を隠そうともしなかった為に、父である筈のカイドウの意向で『
だからこそ、そんな大恩ある3人だけを
「それは心強い――が……スマンな、ヤマト。口惜しいが、拙者たちは、『20年後の戦い』には参加できぬ……」
「拙者たちももう若くはない。そこから更に20年も経った後では――いや、いずれにせよこのままでは、それよりもずっと早い段階で衰弱死してしまうだろう……。ならば……」
「せめて、お主をここで『死なせぬ』というやり方で、未来の戦いに参加するとしよう……!」
面長の侍とおにぎり頭の侍がそのように言葉を続けて――数秒ほどの時間を経て、それらの台詞が持つ意味をようやく理解したヤマトは、ハッとした表情を浮かべると、グググッ……! と何とか上体だけでも起こして、いつの間にか刀を手に持って岩戸の入り口に歩み寄っていた侍たちに視線を向けた。そして……。
「駄目……だよ……! そんなことをしたら、父が……!」
相変わらずの、弱々しくもどこか力強い声色で、ヤマトはそう言った。が、当然のように侍たちの意志は変わらず、
「――このまま衰弱死など、いっぱしの侍として御免こうむる……!」
「ウム……! いずれにせよ、始めから屈する気など毛頭ないゆえ……!」
「ヤマトよ、お主も今の内に、気力を溜めておけ」
おにぎり頭の侍だけが、ヤマトのほうに顔を向けてそのように言った。
「海外で言うところの『たいみんぐ』が重要だ……! 恐らく、勝負は一瞬……! 急速にこっちに向かって来ている気配の主と、カイドウたちが戦い始めた『たいみんぐ』で、拙者たちもこの岩戸を破るとしよう……! そして、この気配の主に、お主を託す……!」
顔を出入り口を塞ぐ大岩に向けたままの状態で、面長の侍がそのように言えば、
「
と、
「駄目……! 駄目だよ……! それじゃあ……それじゃあ……お侍さんたちは……!」
「言ったろう? このままではどの道、衰弱死するが必定……!」
「ならばせめて、侍として戦場で死に、尚且つ、若き世代に後を託すという『
ヤマトの涙ながらの台詞を殆ど一蹴するような口調で、おにぎり頭の侍と面長の侍が跳ねのけた。おにぎり頭の侍の目は、既に岩戸の出入り口に向いていて――代わりに、ヤマトのほうにチラリと視線をやった
「……お主は、『光月おでん』なのだろう? ならば、拙者たちの『覚悟』――よもや無駄にはしまいな?」
悪戯っぽい笑みを浮かべながら放たれたその台詞を受けて――しかし、目のほうはまったく笑っていない、真剣そのもので――ヤマトはそれ以上、何も言えなくなってしまった。分かっていたつもりでありながら、その実、まったくわかっていなかった、「本物」の侍たちの覚悟――その本領の一端を垣間見たような気がした。
◆ ◆
「見つけた……!」
高レベルの『
黒い翼と(どういう訳か)首の後ろ側で燃え盛っている炎が特徴的な全身黒ずくめの男と、袖のない、前を開いた黒いジャケットに、同色の
「『
「ウォロロロロ……! 『天の岩戸』に入れてる時間もなけりゃ、話し合いに応じるつもりもねえか! 単に、交渉の
何かをゴチャゴチャとのたまっている金棒の男には一切取り合わず、フレイは、全身から噴出させた黄金のオーラを球状にして右手に集めると、即座に投擲。黄金の球体は、金棒の男と黒ずくめの男より数メートルほど前方の地面に着弾し――特に、何も起こることはなかった。僅かに粉塵を巻き上げ、下半分ほどを地面にめり込ませて多少の亀裂を走らせただけだ。「「……?」」とわかりやすく戸惑うふたりの巨漢。そんな彼らには構わず、フレイは、
「――『
高速で地面へと向かいながら、パチンと右手の指を鳴らすフレイ。と同時に、彼が地面にめり込ませた黄金の球体が眩い光を発すると同時に、そこから、ひとつの卵から何匹もの大蛇が
大男たちの顔色が変わり、黄金の触手の先端が身体に触れるよりも先に、ふたりは宙高く跳び上がった――どちらも、その姿を変えていた。黒ずくめの大男は、やたら
やはり間違いない、とフレイは思った。ここに急行する途中で寄った網笠村、そこの村長から聞かされた通りの姿。それに相違なかった。
戦闘不能となった用心棒の侍たちを介抱する村人たちを見て見ぬ振りをし、現在進行形で連れ去られている仲間たちの元へ急行したい気持ちを必死で抑え、何があったのかを把握する為に村に降り立ったフレイは、村長からことの顛末を手早く聞いた。
フレイが海岸に向かってから程なくして、突如ふたりの巨漢――『カイドウ』と、その右腕である『キング』がどこからともなく現れ、強襲。村の用心棒である5人の侍たちに加え、オルビアやステューシーも抗戦したものの、敗北。そのまま、気を失ったふたりと、それによって抵抗する気持ちを失っていたロビンとシャーリーを合わせた4人を、ふたりの悪漢が連れ去っていったという話を。
網笠村の村長は、守ってやれなくてスマナイ、と涙ながらに謝罪して――村人たちからの必死の治療を受けている5人の
「厄介事に巻き込んですまなかった――予定を変更して、おれたちはすぐに島を発つことにする! ソイツは迷惑料だ! 少しでも足しにしてくれっ!」
と、それだけを言って、サッサと宙に跳び上がって襲撃者たちへの追跡を再開させた。遥か下方にて網笠村の村長が、改めて謝罪と感謝の台詞を叫んでいるのが耳に入ったがそれにもろくに応えず、遠ざかっていく「声」を目指して全速力で宙を駆け――そして、今に至るという訳である。
「――『スヴァリンの楯』!」
飛び上がったふたりの巨漢――網笠村の村長から聞いた話と照らし合わせれば、怪鳥の姿となったほうが『キング』で、青龍のほうが『カイドウ』に違いない――から、奪われた仲間たちを守るようにして、彼女らを背にする位置の地面に降り立ったフレイは、怒りと緊張感に満ちた視線を上空のふたりの悪漢に向けつつも、左手より放出した黄金のオーラで球状のバリアを形成。それで4人の仲間たちを包み込んだ。2年前の『バスターコール』において、
「フ、フレイさん……!」
「フ……レイ……」
嗚咽混じりのロビンの声に――意識自体はかろうじて保っていたのだろう――非常にか細い、ステューシーの声。まともに言葉を紡ぐことさえ相当に苦しい状態に違いないとわかる彼女に対して、フレイは、
「無理に喋るな、ステューシー……! 後は、おれに任せとけ……!」
「ウォロロロロ……!」
ゴキゴキと両手の指を鳴らしながら臨戦態勢を取るフレイを見て、カイドウは笑った。
「『ステューシー』……外見だけじゃなく、名前も一緒か……! それでも、本人ではねえみたいだが――まあ、今はそれはいい。おれが話をしたいのはお前だ、『豊拳』……!」
「話だ?」
眉をひそめ、底冷えするような口調でカイドウの言葉を反芻するフレイ。続けて彼は、
「どうしておれが、人がいなくなった瞬間を狙って女を攫うような、下衆の
「ウォロロロロ! まあ聞け!」
険悪の声音でこき下ろそうとも、カイドウは一切気にした様子を見せずに、次のように返した。
「おれも、始めは痛めつけるつもりはなかったんだ――単に、お前への
非常に静か――でありながら、カイドウが思わず口を閉ざすような、冷たくも恐ろしい声色で彼の台詞を遮ったフレイは、いつの間にか上げていた片足を勢いよく地面に下ろしつつ、
「――『
突如、何もない筈のカイドウの頭上に形成された巨大な黄金の足が、そのまま凄まじい勢いで地面に向かって落下。恐ろしい轟音と共に、龍の姿となったカイドウの頭部を地面にめり込ませた。それを見たキングが「カイドウさん!」と、わずかに心配そうな声を上げると同時に、
「お前もだよ――『
カイドウの安否に注意を向けた一瞬の隙を突く形で、フレイが黄金のオーラを纏わせた『
「死ね」とは言いつつも、実際にはそこまでガッツリと交戦するつもりはなかった――自身の命よりも大事な
「『
言って、いつものように何もない空中からではなく、背中から直接生やすようにして2本の黄金腕を創造したフレイは、それで仲間たちを覆っている黄金球を掴むと(「フレイさん!」「喋るなロビン――舌を噛むぞっ!」)、そのまま『
「――っ! マズイ!」
ギリギリだった。寸前で「未来」を視たフレイは、空に跳び上がろうとしていた身体の向きを無理矢理変えて、横に大きく跳んだ。当然、背中から生やした黄金腕で掴んだ、防護膜に守られた仲間たちもそれに引っ張られる形で彼と共に移動して――それと殆ど同時だった。
「『
先ほどまでフレイたちがいた場所を、恐ろしく大きくて危険な「何か」が、同じく恐ろしい速度で通り抜けていった。いつの間にか「人型」――いや、青い鱗と尻尾が残っているのを見るに、正確には「人獣型」だろう――に戻っていたカイドウだ。落雷を連想させるような風切り音。実際、フレイたちを捉え損ねたかの者の金棒からは、幾筋かの黒い稲光がゴロゴロと迸っていて――もしも、アレが直撃していたら? 思わずそんなことを考えてしまったフレイが、それでもなんとか避けることができてよかったと、ホッとひと息つく暇もなく、
「『
「お前もかよ――って、はっ!?」
凶悪な「声」を聞き取ったフレイが、先ほど、自身の右足より繰り出した斬撃を直撃させた筈のキングのほうに顔を向けてみれば――どういう理由なのかは、キングのみぞ知るだが――彼は、自身の後方に伸びた頭部を手で掴んで引っ張っているところだった。少々アレな例えだが、頭に被ったストッキングを引っ張ているようにも見えて――不覚にもフレイは笑ってしまいそうになったが、直後に視た「未来」を受けて、そんな愉快な心情も吹っ飛んでしまった。
「防御不可か……クソッタレ!」
「――『
これから繰り出される攻撃の厄介な性質を即座に見抜いたフレイだったが、それでも彼は「回避」ではなく「防御」を選択した――あまりあっちこっちへ激しく移動しては、それに連動する形で、黄金球で保護した仲間たちにも相応の負担をかけることになってしまい、特に、既に相応の手傷を負わされているオルビアとステューシーには厳しいだろう。
そう思ったが故に、フレイは、背より生やしていた2本の黄金腕。仲間たちを守っている黄金球を掴んでいるそれの片方を、盾のように前方で構えると――間一髪、キングの頭部から放たれた衝撃波を受け止め、その軌道を反らすことに成功した。
……限界まで引っ張ったところで手を離したことで、元に戻る反動で
「ウォロロロロ……! アイツが言うには、太古の昔、プテラノドンは――過去に実在したらしい、今のアイツと同じ姿をした怪鳥のことだが――そうやって狩りをしていたらしい……!」
「そ、そうなのか……!?」
それの真偽はともかく――そもそもどうして、
(まったく応えてない……!? いやむしろ、
「ウォロロロロっ! そら、どんどんいくぞ――精々、必死で守れ! 特に、考古学者の親子に死なれたら、おれたちも困るしな――『
「『
「くそ……!」
上空と背後、自分たちを挟み込むようにして放たれる幾つもの
自分と仲間たちを守るように何本もの触手を動かして、ふたりの悪漢が放つ斬撃の嵐から身を守る為の盾とし――ひとまず、それはうまくいった。カイドウの金棒とキングの双翼より放たれたいくつもの「鎌風」は、フレイが寄り集めた極太の黄金触手の束に阻まれた――が、それがそう長くは続かないことを、フレイは察していた。
なんといっても、ふたりが繰り出す斬撃の威力が高過ぎる! 下手をすれば鉄にも近しい硬度を持つ『
明らかに分が悪いと、さしもの超新星であるフレイでも認めざるを得なかった。やはり、守るべき4人の仲間の存在がネックだった。自分ひとりだけならいくらでも逃げ切れる自信があったが、彼女らを覆った黄金球を守り、運びながらとなると……! 黄金球は遠隔で動かすこともできるが、当然、直接自らの手で運ぶよりも大分移動速度が落ちてしまうし、そもそも遠隔操作が可能な距離には限界がある。ここでカイドウとキングを足止めしながらそれをやっても、まず間違いなく自分たちの船に辿りつくことはおろか、ワノ国本土にも届かないまま、黄金球は海に落下してしまうだろう。「能力」で作ったそれは、海水に浸かれば崩れてなくなってしまうし、そうなったら「能力者」であるロビンとステューシーも危ない。
人魚族のシャーリーがいるのだから大丈夫という見方もできるが、ここに来る途中、嫌でも目についた鬼ヶ島を囲む波の荒々しさは筆舌に尽くしがたく、ふたりの大人とひとりの少女を引き連れながらの遠泳は、如何に人魚族であろうとも厳しいだろう。何より、シャーリー自身がわずか9歳という幼い年齢なのだから……。
せめて、オルビアとステューシーの両方、もしくはステューシーだけでも万全の状態だったら――と、フレイがそのように歯噛みしたところで、変わらぬ戦況に苛立ちを覚えたらしいカイドウが再度、その姿を巨大な青き龍のそれへと変えた。何かを察したらしいキングも一時攻撃を中断した上で距離を取り、そして……。
「人の本拠地に、気色悪い
「――っ! 待っ――!」
『
まず、戦いの舞台より少し離れた場所に設けられていた大岩――よく見ると、入り口を別の大岩で塞がれた建造物であるとわかるそれに亀裂が入ったかと思うと、それが内側から轟音と共に割り切られ、中から3人の男が飛び出してきた。そして、更にその内のひとりが、カイドウの口より放たれた業火の中へと突貫していき――それを見たフレイが危ない! と叫ぶよりも早く、
「『狐火流』――『焔裂き』!!」
「はっ……!?」
結果としてフレイの口から漏れたのは、心配の声ではなく呆けた声だった。跳び上がった侍は、なんと、カイドウの口から放たれた業火を、
「うわああああっ!?」
「えっ? ――うぉっぷっ!?」
突然、聞き覚えのない叫び声が鼓膜を震わせたかと思うと、フレイの眼前を白い何かが覆い、彼は慌てて「それ」を受け止めた。その正体はロビンやシャーリーと同じぐらいの年頃の小さな和装の女の子で、先端に青いグラデーションが施された(あるいは生まれつきか?)白い長髪と、赤い2本の角、両手首に嵌められた武骨な手枷が嫌でも目についた。
一体何が起きてるんだと、咄嗟に胸に抱いた見知らぬ幼女にグリグリとした視線を向けるフレイ。そんな彼を守るようしにしてカイドウの前に立ちはだかった侍3人。その内のふたり――おにぎりのような輪郭の頭部が目立つ侍と、面長の侍が、次のように叫んだ。
「海外の者よ! ここは拙者たちが引き受ける――代わりに、その子の錠を破壊し、共に海外へと連れて行ってやってはくれまいか!? もしもそういうことができるならだが!」
「お主らが無事に逃げられるように、拙者たちが少しでも時間を稼ごう……!」
「アンタら、一体……!?」
やはり咄嗟には状況を飲み込めずにいるフレイ。そんな彼に対して、たった今カイドウの咆炎を切り裂いて見せた、青紫色の髪を後頭部で結った――確か、「ちょんまげ」という名前のヘアースタイルだったか――侍が、上空にいるカイドウから目を離さないようにしながら、
「すまぬが、問答をしている時間もない――仲間の為に単身乗り込んだと思われる、お主の気概と心根を見込んで、その少女を託す。どうか錠を外し、仲間と共に逃げてくれ……! その者は――ヤマトは、20年後の戦いに必要な者なのだ!」
「~~~あああっ、クソっ!」
毒づき、それでも、断る理由が見つからなかった――奴隷時代の自分を思い出してしまい、同情したからというのも勿論ある――フレイは、少女を地面に下ろし、その両手首にかけられた錠を自らの両手で掴んだ。それを見て取った少女、ヤマトはぎょっと目を剥いて、
「えっ!? あっ……ちょっと待って! 無理に外そうとすると、爆発――」
「――わかってるから! 少し集中させろ! やり方は知ってるけど、実践するのはこれが初めてなんだ!」
思い出すのは、かつてすべてを諦めていた自分を救ってくれた、今なおその名を世界に轟かせている、海軍の『英雄』の姿。彼がかつての自分にしてくれたのと同じことを実践する為、一旦深く息を吸い、そして、
「え、えっと……念の為! 一応! 遠くに投げてくれると……! いや、まさか本当に、実の息子に対して、爆弾つきの錠を嵌めたりはしないと思うけどっ!」
集中させろって言ったろ静かにしろっていうか息子ってなんだまさか君はカイドウの息子なのかいやそもそもどう見ても君は女の子だろうがだったら娘が適当だろうが、という諸々の突っ込みを飲み込みながら、フレイは、ヤマトの両手首にかけられた枷を掴んでいる両手に『覇王色』を発動。石製の錠をまるで粘度か何かのようにグシャッ! と潰して千切り、それを、目を丸くして驚いているヤマトの前で、誰もいない彼方へと投げ飛ばした――のと殆ど同時に、爆発。凄まじい衝撃波と爆音が周囲に響き渡り、それを見て、たちまちの内に目頭に透明な液体を滲ませたヤマトが、次のように言った。
「う、嘘……! そんな……! お父さん……本当に、僕を殺すつもりで……!?」
「外れたか――拙者たちの見込み通り!」
ボロボロと涙を流すヤマトとは対照的に、勝ち誇ったような声を上げるチョンマゲの侍――を含めた3人の侍を上空から見下ろしながら、カイドウは、
「ウォロロロロ……! おれの『
相変わらず巨大な龍の姿を保ちながら、ニヤニヤとした笑みを浮かべるカイドウ。そんな彼に向かって、チョンマゲの侍がドスの聞いた声を漏らした。
「たわけが……! 拙者たちも、ハッキリ申した筈だぞ――『答えのわかりきった……
「ウォロロロロっ! そうか、残念だ――が、やはりおれは嫌いじゃねえ! 侍たちの、
ひと通り哄笑したカイドウは、続けて、その鋭い眼光の行き先を、黄金の膜に守られた仲間たちを背に、グジグジと泣きじゃくるヤマトを抱えているフレイへと移すと、
「喜べ、『豊拳』! おれは、コイツらの覚悟に報いることにした……! コイツらの息の根を止めるまで、
「ふざけろっ!!」
カイドウの勧誘を、フレイは一蹴した。突然の事態の急変を受けて大量のクエスチョンマークが躍っていた脳内を、再度、灼熱の溶岩を思わせる怒りの感情が支配し始めた。今すぐ宙を舞うあの巨体をねじ伏せて、ズタズタの輪切りにしてやりたかった――ので、フレイは、
「アンタらが誰かは知らないけど、おれも一緒に戦う! そうすれば――「「「否っ!!」」」――っ!?」
善意からの提案をバッサリと切り捨てられたことで、フレイは思わず口を噤んだ。そんな彼に対して畳みかけるように、侍たちはこう言った。
「この国には、『郷に入れば郷に従え』、という言葉がある……!
「ここ、ワノ国は侍の国! 恥は命に値する国! 拙者たちが覚悟を持って『任せろ』と言った以上、お主はそれを受け止めねばならぬ! 勝手ですまぬが!」
「元より我らは、
一拍の間があった。そして……。
「「「――行けっ! 我らの覚悟を無駄にしてくれるなっ!!」」」
「~~畜生っ!」
毒づき、せめてもの置き土産として、防御に回すつもりだった『
「えっ……!? そんな……駄目っ! 待ってよっ! お侍さんたちが――お侍さんたちがっ!!」
フレイの行動の意味を察したヤマトが、泣き叫びつつもフレイの胸をポカポカと叩いたが(幼い外見の割に彼女の力は驚くほど強く、フレイは一瞬息が止まりかけた)、彼は止まらなかった。説明している時間もないし、そもそも、説明できるほど彼の心は纏まっていなかった。正直、ヤマトが言うように、その足を止めたかった――再び振り返って、侍たちと並んでカイドウたちと戦いたかった。
が、それが、殆ど自殺に等しい行為であることもわかっていた。自分だけならまだいい。しかし愛する仲間たちや、謎の侍たちから託されたヤマトの安全を考えると、彼らの覚悟に報いる以外の選択肢が見つからなかった。
ギリギリと歯噛みし、唇の端から血を流しながらもフレイは跳び上がり、『
「ウォロロロロ……! その妙な剣技も今日で見納めか……! 惜しいなぁ! おれと一緒に来れば、ソイツの伝承だけじゃなく、共に世界を取ることもできただろうに……!」
「いらん心配だ――この剣技は既に、
そんな声がぐんぐんと遠ざかっていく地上より聞こえてきたかと思えば、それよりもさらに離れた位置から、
「ちっ、鬱陶しい
「ム~ハハハハハ~っ!! トラブルかぁ~? カイドウさん~? 祭り
「くそっ……!」
などという知らない人間の声までもが聞こえてきたので、さらに『
フレイは歯噛みし、「戻って! お願いだから戻ってよ!」と泣きじゃくりながらジタバタ暴れているヤマトを何とか抑えつけながら、とにかく無我夢中で足を動かした。そうこうしている内に、『百獣海賊団』の多くの船が停められている港に何とか辿りついて――
「……っ! うおっ!?」
「声」を聞いたフレイは、慌てて横に跳ねた。と同時に、つい先ほどまで彼の身体があった場所を、レーザーが如き直線的な衝撃波――キングの『
「『ブラック
「危っ……誰だっ!?」
と、言いつつ――謎の攻撃の出所に目を向ければ、そこには1匹の巨大なトカゲのような怪物がいた。正式な名称はわからない。見たこともない生き物だ――キリンのような長い首と、逆ハの字のレンズの形をしたサングラスが嫌でも目につく。
そんな疑問と共に、
キングと――恐らくは、先ほど彼に「クイーン」と呼ばれていた――大トカゲに付き従ってきた『百獣海賊団』の雑兵たちが船に乗り込み、空中にいるこちらに向かって、砲撃の嵐を浴びせ始めたのだ。先ほどのフレイの『覇王色』を耐えきったのか、逃れたのか、はたまた一度は気絶したもののすぐさま目を覚ましたのか――真相は定かではないし探っている暇もないが、とにかくその砲撃の激しさときたら、本当に生け捕りにするつもりがあるのかと問いたくなる程で、
(マズイな……!)
フレイは今一度歯噛みした。見ず知らずの侍たちがカイドウの足止めを買って出てくれたというのに、それでもハッキリと劣勢だった。レーザーや砲撃を絶え間なく放ってくるクイーンと雑兵たちも当然厄介だが、飛行能力を持つキングなどは、今にも直接こちらへと向かってくるだろう。いや、巻き添えを警戒してかえって近寄って来ない? それならば多少はチャンスはあると、そう思っていたのだが――
「『
「っ!? マジかっ……!」
翼を叩きつけよるように突貫してきたキングに対して、またもや慌てて回避行動を取るフレイ。結果、彼を狙っていた筈のレーザーや砲弾のいくつかが、キングの身体に見舞われることになって――しかし、
(全然効いてない……!? いや、そうか……!)
フレイがあることに思い至ると同時に、それを裏付けるようにして、地上のクイーンが、次のように部下に指示を出した。
「ム~~~ハハハハ~~っ! オイ、野郎共ぉっ! キングに遠慮することはねえぞ! 巻き添え上等!
「…………」
とても同じ仲間とは思えないクイーンの物言いに対し、空中で体勢を直していたキングが、マスクの上からでもわかる程に太い青筋を立てていたが、それでも、カイドウから託された任務を優先したらしく――再度、フレイへと突貫。慌てて避けるフレイ。ただでさえ4人の仲間を囲った黄金球を、背中から生やした黄金腕で掴みながら、胸にはヤマトも抱えているのだから――いつもの速度が出せる筈もなく、それを明らかに察している敵も、威力よりも手数に重きを置いて攻撃を仕掛けてきていた。
いくら数秒先の「未来」が見える程の『見聞色』を常時展開しようとも、このままでは被弾は時間の問題だ。そして、ほんのちょっとでも
しかし、かといって他に有効な手立てがあるのかと言うと――どうすればいい!? どうすれば!? とフレイが今日最大の焦燥を覚えたところで、再び事態が動いた。
「フレイ殿~~~~~っ!!」
「えっ!?」
どこからともなく聞こえてきた大音声に、フレイは思わず
「どうして、アンタがここにっ!?」
「すまぬが、事情を話している暇はない! とにかくこちらに!」
「~~ああぁ全く!」
一体今日だけでも何回こうして毒づいたのだろう? と思いながら急降下。ただし、着地の際には、黄金球の中で保護している仲間たち、特に傷を負っているステューシーとオルビアに
黄金球を解除して仲間たちも甲板に下ろすのと、船内へと続くドアが勢いよく開いて、中から見知らぬ女が飛び出してくるのが同時だった。赤茶色の長い髪をツインテールにした、袖なし且つ太腿が大胆に露出した和装の美女で、首に巻いた黄色いマフラー(?)が嫌でも目についた。……って、
「いや、誰だよっ!?」
まさか、百獣海賊団の――? と、思わず身構えたフレイではあったが、
「しのぶ! 日和様は!?」
「船内の寝具に寝かせておきました――この方が!?」
「そうだ――では、手はず通りに、後は頼むぞ!」
「御意に!」
「いや御意に! じゃねえだろ!? 説明しろっ!」
相変わらず次々と跳んでくる砲弾やレーザーを、仲間たちを甲板に下ろしたことでフリーになった黄金椀を巨大化させた上で虚空で振って防ぎながら、フレイが叫んだ。が、河松は応えず、さっさと海に飛び込んでしまった。おい――? と思わず手を伸ばすフレイ。そんな彼の肩を、例の見知らぬ美女――確か、『しのぶ』と呼ばれていた――が、ガシッと掴んできて、
「河松様が時間を稼いでくれます! 薬と食料、水を分け与えてくれた恩に報いたいとのことです――その隙に、ワノ国を出ましょう!」
「だから誰だ――じゃなくて、待て! アイツを捨て石にするのか!?」
ただでさえ、つい先ほど、3人の誇り高くも尊い命を見捨てるも同然の行いをしたばかりだというのに! そんな思いから飛び出した台詞だったが、しのぶは怯まなかった。
「あくまでも時間稼ぎです! 我々の船が安全な場所まで離れ次第、あの方も離脱します――河松様の身を案じるならば、なおのこと迅速に行動するのがよろしいかと!」
「我々の、って……」
「日和様共々お世話になります! 必ず役に立って見せますので!」
「~~~~あぁぁもう!」
色々と言いたいことは山のようにあったが、確かに現在の状況をどうにかしたいなら、迅速な行動を心がけるに越したことはない――そう判断したフレイは、危うくマストに直撃しそうになった砲弾を黄金腕で掴んで投げ返しながら、
「ロビン! お前の『能力』で、オルビアとステューシー、それから
正にその通り、フレイが指示を出しきるよりも先に、ロビンは『ハナハナ』――あらゆる所から自分の身体の一部を出現させて意のままに動かすことができる、彼女が食べた『悪魔の実』の
どちらも初見に違いないしのぶは、頭上に「???」と疑問符を浮かべていたが、そんな彼女に対していちいち説明している暇など当然ない。フレイは、改めて時間稼ぎの為の戦いを始めた河松がいる方角へと視線を向けた。
流石は魚人と言うべきか、既にその姿は遠くの船団の内側にあり、時には即席の渦潮を作り、時には蛇のような細長い高波を作っては敵の船に叩きつけ、時には船その物を例の
が――それはあくまでも「海戦」に限った話。それをものともしない厄介な相手が、ひとりいる。そのことにいち早く気づいたフレイは、せめて少しでも河松の援護をしなければという思いから、
「スマン! 少しだけ離れる!」
「えっ――?」
戸惑うしのぶを残し、離れ際に船全体を黄金のオーラで作ったバリア――『スヴァリンの楯』で覆いながら、宙を駆けるフレイ。目指すは、突如乱入してきた河松に意識を割かれてわずかに油断していた、黒ずくめの怪鳥――キングだ。
「捕まえた……!」
「ぬっ……!?」
正にその通り、河松の奇襲に気を取られていたキングに更に奇襲をかける形で、彼の身体を、右腕から拡張するように伸ばした黄金椀で鷲掴みにすることに成功したフレイ。……だったのだが、
「学習しねえ奴だ……! 闇雲に攻撃したって意味はねえと、さっきの攻防で学んだ筈だが!?」
むしろ、そっちから近づいてきてくれて手間が省けた、とでも言いたげな勝ち誇った口調でキングが言った。が、当然フレイは
「関係ねえんだよ……! お前の体質がどうであろうと!」
唸りつつ、チラリと眼下に視線を向けるフレイ。そこから彼の意図を察したらしいキングが、「まさか……!?」と呟くと同時に、何とかフレイの『
「不死身だろうと何だろうと――『能力者』である以上、
「おい――待てっ!」
「待つ訳ねえだろっ! ボケっ!」
ギリギリとキングの巨体を握り締めながら、幾筋もの漆黒の稲光を迸らせる黄金の巨椀を頭上まで振りかぶったフレイは、そのまま、
「――『
翼を広げて離脱することもままならぬ速度と空気圧。それを実現させる程の勢いで海面へと叩きつけられたキングの巨体は、そのまますぐには浮かび上がることもないまま、どんどん海底へと向かって突き進んでいき――事実上のリタイアだ。例え彼の体質が「窒息死」の概念さえない特殊なものだったとしても、『能力者』である以上は、少なくとも自力で浮かび上がることはできない筈!
そう判断し、即座に『スヴァリンの楯』を解除した後で、自分たちの船の甲板に降り立つフレイ。と同時に、ちょうどタイミングよく、シャーリーの呼びかけに応じた数匹の巨大な鯉が海面から顔を出し、河松が船の牽引の為に使用していたロープの端を口に咥えた。それが意味するところを察したフレイは、遠くのほうで未だに船団と戦い続けている――戦い続けて
「河松ーーーーーっ!!」
あらん限りの声で、フレイは、
「お前の侍としての覚悟は確かに受け取った! おれたちはもう行く――日和としのぶは任せてくれ! いつか必ず、ふたりを連れて戻ってくるから! だから――『ありがとう』っ!!」
最後の台詞をひと際大きな声量で放ったフレイは、巨大鯉たちの牽引によって危うく甲板の上を転がりそうになったしのぶと、フレイの能力由来のシャボンの浮き輪のせいで宙に取り残されそうになったシャーリーの身体を掴むと、両の足裏に力を込めて体を固定。
河松からの返事はなかったが、それを期待して言い放った訳ではないし、そんな余裕もないだろうとフレイは思った。せめて、先ほどの自分の声さえ聞こえていれば、それだけで――と、彼がそう思ったタイミングで、
――礼には、及ばぬっ! どうか、ふたりを……!
「…………っ!」
目を見開き、巨大鯉たちの凄まじいのひと言に尽きる牽引によって、既に水平線の向こうへと消えた戦場に視線を向けるフレイ。幻聴か? 否。隣を見れば、しのぶも同様の表情で海――ではなく、ワノ国を囲う湖の彼方を見つめており、唇を噛み締め、その目頭には涙が溜まっていた。
それを見たフレイは、先の耳に届いたセリフが幻聴の類ではないことを確信し――ある意味同族とも言える、見知らぬ魚人の命懸けの行為を目にしたことで、シャーリーもまた悲哀と感謝の入り混じった複雑な表情で、フレイやしのぶと同じように水平線の向こう側へと視線を遣っていた。
入島する際に昇った所とは別のワノ国を囲う大瀑布のひとつに辿り着き、鯉と共に国外の「海」へと飛び出すまで、3人は同じ方向を見つめ続けた。再び『
悲鳴を上げるしのぶとシャーリーを、両の手でも掴んで支えた状態で遥か下方の海原へと落下しつつ、彼は決意した。3人の名も知らぬ侍たち、そして河松。彼らの命懸けの協力がなければ――彼らが
そうなっていた可能性は十分にあって、自分たちはそこを救われた。にも関わらず、その恩を返さぬまま、この国での出来事の一切を忘れて、どこか遠くの地で
いつか必ず――遅くとも、『トキ』という人が言っていたとされる
轟音と共に、凄まじい高さの水しぶきを着水と共に打ち上げた船の甲板の上で、フレイはそのように決意した。前方の視界を覆う白いカーテンのような水しぶきの間からは、遠くの水平線に沈もうとしている真っ赤な
明けない夜は、ないのだから。
また、少なくともここでしのぶさんを仲間にすることは、かなり前から決めていました。理由はまあ、鋭い読者の方々なら既に察しているでしょう。あの能力は反則過ぎんよ……。
最後に、次の投稿では絶対に濡れ場を入れます。読者の為というのは勿論ですが、それと同じぐらいに、自分も濡れ場を書きたいんです。変な禁断症状が出そうです。いや別に、エロ以外の描写を書くのが苦痛という訳ではないのですが。今回の話も、かなりノッて書けましたし(だからこそ2万文字という大台を超えてしまったとも言えます)。
また次の投稿でお会いしましょう!