ん……? どうした、オルビア――眠れないのか?
普段の夜は、その……色々と無理させてるんだから、おれが見張り番の時ぐらいは、ゆっくり休んでくれてもいいんだぞ?
ああ……まあ確かに……。
おれの……その……「アレ」には何故か、注がれた女の身体能力を底上げする以外に、疲れを取る……というよりは、極端に疲れにくくするような効果があるらしいから、その辺りの心配は無用かもだけど……。
……最近のおれの様子がおかしい?
何言ってるんだ――普通だよ。別に、何も悩んでなんか……。
……。
…………。
………………ああ、わかったよ、白状するよ。まったく――敵わないな、お前には。
……なあ、オルビア。
この際、ハッキリと聞くけど、お前――おれに、呆れてたりしてないか?
ああいや、わかってる。勿論わかってる――そんなことはないってことぐらいは。
ただ、少なくともおれは呆れてるんだ――失望してると言ってもいい。他ならぬおれ自身に。
だってそうだろ? おれは、おれの個人的な我が儘の為に、お前とロビンをクローバー博士たちから引き離した上で、『ワノ国』を目指した航海を始めた――その結果が今回のトンボ返りだ。
他に行く当てがない上に、海軍や政府に加えて、ヤマトやお前にロビン――それと多分、日和もか?
……とにかく、おれの大事な仲間たちの身柄を狙うカイドウに、何故かあのビッグ・マムまでもが執拗に追ってきて、状況はどんどん悪くなるばかり……。
いや勿論、ヤマトに日和、それからしのぶを新たな仲間に加えたことに――アイツらを助けたことに関しては、なんの後悔もないけども。
一度
それはそれとして、おれの見通しが甘かったのは確かだ――少なくとも、カイドウみたいな奴の存在は、あらかじめ把握して然るべきだった。
『世界政府』も手出しできない程の事情を抱えた鎖国国家。そんな札付きの人間にとって都合のいい国を、他の同類の連中が狙わない訳がないっていうのに……。
……おれだけが悪い訳じゃない? あまりひとりで背負い込むな? ああ、そう言ってくれるのは嬉しいよ。
嬉しいけど――さっきも言ったように、おれ自身の勝手な我が儘で、クローバー博士たちからお前らを引き離したのは事実だ。
確かに強要はしなかったけど、言い出しっぺがおれである以上は――それがうまくいかなかった時の責任は、やっぱりおれにある訳で……。
……いや、スマン。こんなダラダラとした愚痴を聞かせたかった訳じゃないんだ。
一応、おれなりの責任の取り方というか、解決策――考えはある。
「安住の地」云々についてはともかくとして、カイドウとビッグ・マム、それに――政府や海軍にもこれ以上追われないようにする方法が。
ただ、今回の件みたいに、何か見通しが甘い部分があったり、余計に状況を悪化させるような結果になったりしないか心配で……。
いや……間違いなく、見通しが甘い部分があるだろう。それに、かなり無茶な内容だ。
でも、現状おれには、これ以外の方法が――とにかくまずは内容を聞かせろって?
……ああ、わかったよ――多分、聞いたら絶対に呆れると思うけど。
おれが考えている解決策っていうのは……これ以上、自分たちを追い回さないようにカイドウとビッグ・マムを「説得」した上で、世界政府にもそれに
具体的には――
……ことで――
……するか――
……更には――
……手に入れる。
――っとまあ、こんな感じなんだけど……。
……え? 反対しないのか……?
ああいや、だって、絶対に無茶だとか無理だって言って反対すると思ってたから――あっ、無茶だとは思ってるんだな……。
それに――わかってるのか?
「連中」は絶対に、お前とロビンが『
それでも、おれが一生懸命考えた結果なら反対する理由はない? ロビンだって同じ気持ちに決まってる?
…………。
まったく――本当にいい女だよ。
お前も、ロビンも。
……うん、ありがとう……。
少し、肩の荷が下りた気分だ――シャボンディに着いたら、改めて、お前以外の全員に説明することにするよ。反対されないか、少し心配だけど……。というか、反対されない方がおかしい内容だけど……。
……そんなことはないって? そう……なのか? ちょっと、いやかなり不安だけど――まあ、お前が言うならきっとそうなんだろうな……。
……。
………。
…………なあ、オルビア。
その――
ああいや、スマン……。
ただその、急にお前が、とんでもなく愛おしくなって……。
いや勿論、普段からずっとお前のことは愛おしいと思ってるけど、今は格段に……! ああでも、たまにはゆっくり寝て過ごしたいっていうなら別に――っ!?
……っ ……! ……ん……っ!
……ぷはっ! ……はぁ……オルビア……。
……いや、
お前のお陰で肩の荷が下りたっていうのは本当だけど、正直、まだ完全じゃない――愛する女の保証の言葉を受けてもまだ、完全には安心できてない、どうしようもないおれ自身の「逃げ道」を、ここで断っておきたいんだ。
愛する女が自分との愛の結晶を身籠ったとあれば、その子の為にも、もう腹を括るしかないだろ?
それに……。
ステューシーも。
ロビンも。
シャーリーも。
しのぶも。
日和も。
ヤマトも。
……おれは、おれなんかを受け入れてくれた女たちのことは、全員漏れなく、これから先の人生の全てを捧げてでもちゃんと愛していくつもりだし、いずれは子供も欲しいとは思ってるけど……。
やっぱり、最初はお前がいい。
愛する女たちへの扱いに差はつけたくないし、これからもつけるつもりはないけど――それでも、だ。
ああでも、勿論、お前が嫌だ、まだ早いって言うなら――あっ、おい、いきなり……!
くっ……ああっ……!
……そんなことを言われたら、もう止まれないから覚悟しなさい、だって? ……上等だよ。
あと数日もあればシャボンディに着けるだろうし、それまでに、こうしてふたりだけで愛し合える時間もそうはないだろうからな――だからこそ、今日だ。
今日の、このセックスで。
お前を、ニコ・オルビアを――おれの、イングナル・フレイの
……だから。
存分に――喘げ。
◆ ◆
「ウィ~ック……! 実はのう……フレイ。お主に向けての短い伝言を預かっているんじゃもん。……なんと、あのシルバーズ・レイリーから」
「えっ……? 『レイさん』から……?」
場所は『
そこで、巨大な
しのぶ、日和、ヤマトといった3人の女を新たな
「後半」である『新世界』に入ってからというものの、ロクに面識もないにも関わらず、何故かこちらの
……まあ、だからといってヤマトを仲間に加えたことを後悔しているのかと問われれば全然そんなことはないし、そうでなくとも、このふたりの大海賊は、どういう訳か自分にとっても大事な「女」である母娘、オルビアとロビンの身柄を狙っているとのことらしいので、どの道遅かれ早かれというところだったろうが――とにかく。
正直、政府の目と手が届かない、自分と自分の大事な女たちが静かに暮らせる「安住の地」を見つけ出す、などと言っている場合ではなくなったフレイたちが、色々と多少は
かつて『白ひげ』が「縄張り宣言」をするまでの1年半もの間、「人攫い」などから島民たちを守ってくれた
それを堪能している最中に、冒頭のような台詞をネプチューン王から言われた――という訳である。
「それで――レイさんはなんて?」
「ウム……。『例のバーで待つ』、と」
フレイは目をパチクリさせた。
「えっと……それだけか?」
「短い伝言だと言ったじゃろう?」
「いや、言ったけども……」
短過ぎないか、と何となく釈然としない思いを抱いているフレイに対して、ネプチューンは、
「レイリーが、あの者の所へ遊びに行った、『ハチ』という『
「…………」
後半の台詞には明らかにこちらを批難するような響きがあり、気まずくなったフレイは、手に持った焼き菓子に勢いよくかぶりつくことで誤魔化すことにした。きっと、自分を求めてやまない――何なら、こちらの後を追おうとした人魚の乙女たちの抑え込みに苦労したんだろうなあ、と。
とんでもない
流石の
ナマズの男性人魚である左大臣と、魚人島の歴史について話し合っているオルビアとロビン。
例の人魚たちの内の数人と、何やら悪どい笑みを浮かべながらコソコソと話しているステューシー。
しのぶの「能力」によって手に入れた成熟した大人の身体。それを見た顔馴染みの人魚たちから驚きと称賛の言葉を受け、頭の後ろを掻きつつも、まんざらでもない笑みを浮かべるシャーリー。
また、おでんの手記でしか知らなかった人魚や魚人といった存在。それを生で見て言葉も交わせたという事実にひとしきり興奮し、感動したヤマトは、今は何人かの衛兵と共に武器庫へと移動しており、フレイの位置からは姿を確認できなかった。
ここ魚人島は、『新世界』へ向かう海賊を含めた渡航者たちが
ヤマト自身は憧れの光月おでんのような二振りの刀を所望していたが――まあ、身の丈に合う金棒があれば多分それになるだろうな、とフレイは思った。
神がかった戦闘センスを持って生まれたフレイだからこそわかる――その体格や筋肉のつき方、更には普段の日常の所作を見ただけで。彼女には間違いなくおでんのような刀よりも、カイドウが振るっていた金棒のような、打撃系の武器のほうが
……とまあ、とにかくそんな感じで、久方振りの、あるいは初めての魚人島での宴を満喫している仲間たちに対して――フレイは心底羨ましいと思った。ってか、誰か
結論から言うと、フレイは欲情した人魚たちの襲撃をかわしたり防いだりすることはできなかった。半年以上も肉欲を募らせた彼女たちの猛攻は凄まじく、フレイがしたせめてもの抵抗と言えば、精々が以前逗留していた際に毎日のように借りていた一番大きい客室を、一晩だけでいいからまた自分と彼女たちに貸して欲しい、と土下座せんばかりの勢いでネプチューン王に頼み込むことぐらいだった。
その時のこちらを見下ろす王の視線といったらとても直視できたものではなくて、離れた場所から不思議そうにこちらを見つめる
そして当然のように始まるハーレムセックス。半年以上も自分への
相変わらず呆れたような視線を向けてくるネプチューンとオトヒメに対して短く礼と挨拶を済ませると、あらかじめ船を出す準備をするよう伝えていた仲間たちと共に(人魚たちと夜通しよろしくヤっていた自分に対して、黒い金棒を背負ったヤマトなどがあからさまに非難の視線を向けてきたが、フレイは渾身の精神力でそれを無視した)、前回と同じような夜逃げが如き出国を敢行。
『デン』という男の人魚の手で船に施してもらった『コーティング』と、『クウイゴスの木片』によって無事に「前半」の海への帰還を果たしたフレイたちは、そのままシャボンディ諸島の一画、41番
そんなこんなで、ややあって辿り着いた1軒の店。『シャッキー'S ぼったくりBAR』という文字が施された看板。その下にある扉を開け――相変わらず、客の勇気を試すような凄い名前だ――店内へと足を踏み入れるフレイと、7人の
「あら、貴方たちは……」
「……来たな。嫌でも大きい
「……ええ、まあ……。タチの悪いふたりのストーカーのお陰で……」
それなりの広さがある店内。既に日も暮れ、酒場という店の特性上もっと多くの客で賑わっているべき時間帯にも関わらず、たったひとりの客と店主以外には誰もいないという状況に冷や汗を流しつつも、そのふたりがいるカウンターに目を向ければ――そこには、煙草を咥えた黒い短髪の美女と、波打った金色の長髪と丸眼鏡に、左目に刻まれた切り傷が特徴的な初老の男の姿があって、そんなふたりに対してフレイは、
「ご無沙汰してます――レイさん、シャッキーさん」
元『ロジャー海賊団』副船長。
『海賊王の右腕』。
『冥王』――シルバーズ・レイリーが、そこにいた。
◆ ◆
「驚いた……カイドウの娘か……。こんなに大きな娘がいるとはな……。いや、アイツの年齢を考えれば、そこまでおかしい話ではないのか……?」
数分後。
一味の面々が店内の思い思いの場所に腰を下ろし、これまでの経緯をフレイが軽く話し終えた後で、真っ先にレイリーが零した台詞がそれだった。
「ぼくもおどろいたよ! フレイが『これからレイさんに会う』って言った時から、もしかしたらって思ってたけど――まさか本当に、
目を丸くしているレイリーに対して
とはいえ、レイリーのほうは、そんな彼女のテンションに合わせる気にはなれないらしく、むしろ戸惑いを多分に含んだ視線を、他のフレイの仲間たち――具体的にはロビン、日和、シャーリーの3人へと移していきながら、
「しかし……何やら見覚えのある美女を侍らせているなと思ったら……。まさか半年ちょっとで大人の姿になって戻ってくるとはな……ロビン……。日和やシャーリーにしても、高めに見積もってもまだ10歳かそこらの筈だろう? ……『ジュクジュクの実』、だったか?」
「気づいた時には既に
黒い4本の縦線を横並びにしたような特徴的な口髭を片手で撫でつつ、先のような台詞を吐くレイリーに対して、思わず弁明するような口調で応じてしまうフレイ。
レイリーの言葉にどことなく非難するような色が混じっていることに気づかない訳にはいかなかったし、その理由についても大いに同意できるというのがまた辛いところだった――きっと今のレイリーには、大人になった少女たちの存在が、自然と
だからこその先の弁明の台詞なのだが――実際、手を出してしまったことは事実なので、まったくの濡れ衣だとは言いきれないのも事実だった。しのぶの「能力」の特性上、一度成長させてしまったモノを元に戻すことは不可能である為、フレイが彼女らの想いに応えなければ、ただ無駄に歳を取らせたことになってしまう――という事情を踏まえても、だ。
気まずそうに頭を掻くフレイへと向けられる、レイリーのジトーっとした視線。何とも形容しがたい空気が漂い始め――そんな中で、真っ先に声を上げたのが日和だった。
「フレイ様のおっしゃるとおりです」
相変わらず、ここぞという時に
「私たちが『かてい』をとばして大人のすがたになったのは、あくまでも私たちの『いし』……。どんな形でもよいから、ふたんをかけてばかりのフレイ様にむくいたいと考えぬいたけっかです。……どうか、あまりせめないであげてください」
「いや、まあ、特段責めている訳ではないのだが……」
今度はレイリーが気まずそうな表情を見せる番だった。その上で彼は、
「私とて誠実な恋愛をしてきたとは間違っても言えないから、フレイが多数の女を侍らせることそれ自体に文句はない。……が、それでもやはり、コレだけは聞いておかねば――フレイ」
「は、はいっ……!」
唐突に視線と言葉を改めて向けられて、まるで証言台に立つ被告人ように身体を強張らせながら返事をするフレイ。そんな、ダラダラと冷や汗を流す銀髪紅眼の美丈夫に対して、レイリーは次のように続けた。
「まだ幼かった日和は当然覚えていないだろうが……。彼女は、おでんの妻にして、我々が途中まで共に航海した仲間――『トキ』の娘でな。私を含めた『ロジャー海賊団』の仲間たち全員で世話をしたし……。だからこそ――余計なお世話かもしれないが――父親のような感情を抱いている。……故に、ハッキリとさせておきたい」
フレイを見つめるレイリーの目がわずかに細まり、戦う男特有の刺すようなオーラが漂い始めた。フレイは思わず膝の上に置いた両手をグッと固く握り締め、テニスのラリーを見ているかのようにふたりの間で視線を行き来させている、ヤマト以外の元少女組の3人が一斉に身を縮めた。オルビア、ステューシー、しのぶの大人組は、静かに成り行きを見守っていた。
「……イングナル・フレイ。君には『覚悟』があるか? 私たちの大事な仲間であるおでんとトキの忘れ形見である日和を――そして、彼女を含めた自分の女たちを、どんな困難に見舞われようとも、政府やカイドウ、ビッグ・マムの手から守り切るという『覚悟』がある、と。……ハッキリと言い切れるのか?」
わずかな間があった。が、次に放たれたフレイの言葉は決然としていた。
「――あります」
あまりにも短い返答だった。レイリーは、すぐには何も言わなかった。ただ鋭い眼差しをフレイのそれと重ねていて――フレイはあえて、瞬きもせずにその目を見つめ返した。
途端に舞い降りる、肌をヒリつかせるような沈黙。瞬きを我慢していたフレイは目が乾いて段々と痛くなってきたが、それでも頑固にレイリーの視線を自らのそれで受け止め続けた。ここで先に目を逸らしたり瞬きをしたりすれば、きっとレイリーは自分と日和、および顔見知りらしいシャーリーとの仲を、決して認めてはくれないだろうという確信があった。
そんな状態が3分ほど続き――当事者であるフレイにはもっと長く、もとい永く感じられたが――ややあって、レイリーがふっと口元を緩め、視線を下ろしながら次のように言った。
「……そうか。わかった――ならば、これ以上は何も言うまい。……どうか、日和を頼む。我々やおでんの分まで、しっかりとな」
「ええ……わかってます」
言うべきことは言ったとばかりに、手元に置いていた酒瓶の中身を
それから、しばらくはレイリーが酒を喉に通すゴクゴクという音だけが静かな店内に響き渡り――ややあって、コトリと酒瓶を手元に置き直した彼は、次のように言った。
「しかし――そうか。おでんは死んだのか……」
殆ど独り言のような、ポツリとした台詞だった。しのぶ、日和、ヤマトの3人が、示し合わせたように目を伏せた。そんな彼女らに視線を向けながら、レイリーは、
「……きっと、アイツらしい――豪快な最期だったのだろうな?」
「ウン……すごかった」
答えたのはヤマトだった。
「『よかった』とは口がさけても言えないけど――とにかくすごかった。『あのすがた』としのぶさんの言葉で、ワノ国のみんなは『しんじつ』を知ることができたし――ぼくも、『光月おでん』になるっていう夢がもてたんだ」
実際に、当時その場にいなかったフレイでも、その時の光景が目に浮かぶようだった。最初に話して聞かせてくれたのは網笠村の村長だったか――しのぶが言うところの「卑怯な手」によって、カイドウの軍を前に敗北を喫した光月おでんと、その家臣たち。
そんな彼らに対して行われた「公開処刑」――その内、おでん
刑の内容は「釜茹での刑」。ワノ国特有の処刑法で――言葉の通り、灼熱の炎で煮込んだ油の中に浸からせることで命を奪うという、言語に絶するやり方で行われる「死刑」だが――しかし、直前になっておでんは次のように嘆願した。その死を見届ける為に高みの見物を決めていたカイドウと、悪徳将軍オロチに対して。
――10人全員で
原則として一瞬で死ぬことが前提の処刑だ。オロチは笑った――カイドウも笑った。その上で言った。「1時間だ」と。普通の風呂でものぼせる時間だ、とも。
しかし、希代の豪傑たるおでんはやり遂げた。宣言通り、地獄の業火で煮立った油の中で1時間――頭上に持った橋板の上に、『赤鞘』と呼ばれる9人の「巨漢」たちを乗せた上で、だ。
刑が執行されるまでは「バカ殿」と呼ばれていたおでんも、途中で行われたしのぶの大演説によってその「濡れ衣」を晴らされ、国民たちは真実を知ることになった。
それまで彼が定期的に行っていた「裸踊り」――国民たちから愛想をつかされる原因となったそれが、実はカイドウとオロチに捕らわれた人々を救う為のものだったという「真実」を。
「独裁者」ではなく「復讐者」であるオロチから国民を守る為に、仕方なくやっていたことであるという「事実」を。
耐えきった処刑。真実を知った国民たち。周囲に響き渡る喜びの声――にも関わらず、おでんの命はそこで尽きた。
カイドウがどうだったかは、今となってはわからないが――少なくともオロチのほうには、始めから約束を守る気など毛頭なかったのだ。だからこその――
それを
彼だけは、
――『
次のような台詞を、当時それを見ていた国民たちと共に、声高に遺した上で。
――『煮えてなんぼのォ~……おでんに
「…………」
再びの沈黙が店内を包み込んだ。しのぶ、日和、ヤマトの3人の目元は赤く腫れ上がっていたし、日和などはスンッ、と鼻を鳴らしていた(件の事件からまだ1年と経っていないことと、実年齢がまだ6歳であることを考えれば当然のことだった)。
すぐ隣に座っていたフレイが彼女の肩を優しく叩くのと、再びレイリーが手に持った酒瓶を勢いよく呷るのがほぼ同時だった。その後で、自分たちと同じように光月おでん――かつての仲間の最期を想像したに違いない、
「……アイツは、まだ死んでない」
「「「「えっ!?」」」」
フレイ、しのぶ、日和、ヤマトの4人が目を剥いて叫んだ。シャッキーを除いた他の面々も表情だけは同様で――しかし、それを受けたレイリーはハッとしたような反応を見せた後で、実にバツが悪そうに顔をしかめると、
「ああいや、スマン――勿論、
思わずフレイは、仲間内で一番学があると思われるオルビアと顔を見合わせた――が、彼女にも、レイリーが何を言っているのかがよくわかっていないようだった。……
「……君たちの話を聞いて、ロジャーの言葉を思い出したのだ。生前のアイツが私に対して最後に遺した、あの言葉を……」
「『海賊王』の……?」
どうしてそこで、『
――おれは
「…………っ」
ロジャーの台詞を再現するレイリーの言葉を受けて、フレイは息を飲んだ。実際にその目で見たのは、結局、20年近く前の『ゴッドバレー事件』において、
それ程までに強烈な印象を持つ男で――それ程までに深い意味が込められているように思えた。先の、レイリーに遺したらしい言葉には。
「私も始めは、意味がわからなかった。……が、後で嫌でも耳に入ってきた、奴の今際の言葉――その内容と、それによって生じた世界への影響を目の当たりにして、ようやく悟ったよ」
「今際の言葉……」
ステューシーがポツリと繰り返したが、その内容については、敢えて誰も尋ねなかったし、語らなかった。そうせずともわかる――よっぽど閉鎖的な環境にでも住んでない限りは
――おれの財宝か? 欲しけりゃくれてやるぜ……。
――探してみろ……! この世のすべてをそこに置いてきた!
富、名声、力。
当時その全てを欲しいままにしていた『海賊王』のその言葉を受けて――全世界に住まう多くの人間が海へと飛び出した。ほんの4、5年前のことだ。
「……もしも、人の『死』というものが――」
レイリーが言った。
「――その者を覚えている者、あるいは、その者の意思を受け継いだ者が皆無になった時、初めて完全なものとなるなら……。なるほど確かに、ロジャーの言う通りなのだろう。アイツはまだ
「「あっ……」」
フレイとヤマトが思わずといった様子で同時に声を上げた。レイリーが言わんとしていることが、ようやくわかった。
「『煮えてなんぼのおでんに候』――実に、アイツらしい言葉だ。アイツらしい言葉で――アイツらしい
最早
「君とヤマト、しのぶさんに、それから、その想いに共感したフレイたち、およびまだワノ国に潜んでいるであろう『赤鞘』という侍たちや、その賛同者――誰かひとりでもおでんの意思を継ぎ、それを諦めないでいる限りは、アイツは死んでいない。私も一枚噛みたいところではあるが――まあ、必要なさそうだな? 君には既に、『全て』を賭けるに足る男がいる」
言い終えると同時に、いまだ日和の肩を優しく叩き続ける美丈夫に視線を向けるレイリーと、彼女の顔を心配そうに見つめつつも、コクリと頷くことによって、わかってます、と無言で応じるフレイ。
元より、ヤマトと自分たちを逃がしてくれた3人の名も知らぬ侍たちや、日和としのぶを託した河松の件もあって、諦めるつもりなど毛頭なかったが――レイリーの話を聞いて、より一層「救国」への決意が固まるのを、フレイはハッキリと自覚していた。
しのぶ、日和、ヤマトについても言うに及ばずで――ヤマトなどは、握った両手を胸の前で構えながらフンスッ! と荒い鼻息をついていた。
と、その時だった。スッと手を上げたロビンが、次のように言った。
「やる気になっているところに、水を差して悪いけど――レイさんは、そのおでんって人の話を聞く為に、ネプチューン王に伝言を残したの? この店で待ってるって? 私たちが、『前半』を目指して逆走するという保証もないのに……」
フレイは目を
案の定、苦笑し、「そういえば本題がまだだったな」と酒瓶を持っていないほうの手で頭を掻きながら、レイリーはそのように言うと、
「勿論、戻ってくるという確証があった訳ではないが……。こちらでも色々と事情が変わってな。正確には、私ではなくシャッキーの事情が、だが……」
「シャッキーさんの……?」
思わずといった様子で、仲間たちと共に、レイリーの恋人――と、思われる美熟女へと視線を向けるフレイ。彼女はちょうど、元の半分ほどの長さになったタバコから口を離し、フーッと細い煙の糸を吐き出しているところで、
「……フレイちゃん」
「あっ、はい……」
なんでしょう……? とフレイは首を傾げた。……っていうか、相変わらずの「ちゃん」付け呼びなのか、と思った。まあ別にいいけど、とも。
「唐突で申し訳ないけど――あなた、自分が食べた『悪魔の実』。それの名前が何なのか把握してる?」
「へっ……?」
目を丸くするフレイ――本当に唐突だな、と思った。どうしてそんなことを聞くんだろう、と。……もっと言えば、「食べた」のではなく、極悪非道な天竜人の指示によって無理矢理「食べさせられた」のだが――まあその辺りについてはいちいち訂正する必要もないだろう、とフレイは思った。
思って――そして、
「ああ、いや――知らないです。もう15年ぐらい経つのに、恥ずかしながら……」
後頭部をポリポリと片手で掻きながら、フレイは言った。
「でも、確かにおかしいんですよね。これまでの航海の間に、何度か『悪魔の実図鑑』を読む機会があったんですけど。それでもわからずじまいで……。能力の内容だけが書かれていて、実の外見はわかってないってのいうのは割とあるあるらしいんですけど、おれが食べさせ……食べた実に関しては、該当する能力さえなくて……」
フレイは言葉を切った。シャッキーが不意にクスクスと笑い始めたからだ。
「私はむしろ、そうだろうと思っていたわ。……そして、その方がいいのよ。私の――というより、
「
コテン、と可愛らしく首を傾げながらシャーリーが反芻したものの、それには答えないまま、シャッキーは続けて、
「実はね……。前回、フレイちゃんたちが『新世界』を目指してシャボンディを発ってからしばらく――そう、2年――いや、それよりもちょっと短いぐらい? とにかく、それぐらい経った頃に、昔の知り合いがこの店に訪ねてきたの。……海賊だった頃の知り合いが、ね」
「海賊……? シャッキーさんって、海賊だったんですか?」
「そうよ? 20年ぐらい前に足を洗ったけど――って、あら? 前回会った時に言わなかったっけ?」
ロビンの問いに対してそう返した後で、数秒ほどウーンと唸りつつも虚空を見つめながら記憶を探っている様子を見せるシャッキーではあったが、ややあって彼女は、「まあいいわ」と言って視線をフレイに戻すと、
「とにかく、そのかつての知り合いが私を訪ねてきて、ある『お願い事』をしていったのよ。……2年前の『オハラのバスターコール事件』。……その事件で、艦隊を率いる海軍相手に大立ち回りをして見せた超新星――『イングナル・フレイ』。……彼こそが、
「えーっと……?」
フレイは首を傾げた。話の方向性が今いち不透明だが、とりあえずハッキリさせておきたいことのひとつとして、
「……シャッキーさん。あなたは――もとい、あなたと、あなたのお知り合いの方々は知ってるんですか? おれが食べた『悪魔の実』。……その正体を?」
「ええ、知ってるわ。……知ってると、思う」
細い煙を上げる煙草を指先でクルクルと回して
「変にもったいぶって申し訳ないけど、もうひとつだけ聞かせてね? フレイちゃん――どんな外見だった? その実……あなたが食べた『悪魔の実』の外見だけど……。今でも、思い出すことってできる?」
「えっ? ああ――はい、なんとか……」
必然的に、元「飼い主」である天竜人から受けた、人ならざる扱いの数々も思い出してしまう為、言うほど楽な回想ではなかったが――何とか心を強く持ったフレイは、当時の光景、
「金色のリンゴ……でした」
と、フレイ。
「変な渦巻き模様が入った金色のリンゴ――そうです、間違いありません」
「…………」
確信をもって言い切ったフレイの回答に対し、しかしシャッキーはすぐには答えなかった。彼女は一度煙草を吸った後で上を向き、ホゥッ……と輪っか状の煙を吐き出して見せると(どういう仕組みなんだろう、とフレイは思った)、
「渦巻き模様は、『悪魔の実』共通の特徴だからまあいいとして――黄金のリンゴ、ね……。これはもう、
「決まり……?」
「ええ……。あなたが食べたっていう『悪魔の実』と、私が今思い浮かべている『悪魔の実』は――ほぼ間違いなく、同一の物よ」
……そして。
固唾を飲んで自分を見つめるフレイの視線を真っすぐに見つめ返しながら――ついに、彼女は告げる。
「すべての異性を虜にする魔性の力。『子孫繁栄』に特化した異能と語られる一方で、
15年近く使い倒しておきながらも把握していなかった――把握できずにいた、「能力」の大元。
「……
幼少期にフレイが無理矢理食べさせられた『悪魔の実』。その名称を。
「――『
カチッ……と。
どこか意識の遠いところで、運命の歯車が回り始める音を聞いたような――そんな気がした。
冒頭のオルビアとの絡み、本格的な濡れ場として1話書こうかとも思いましたが、既に3回もやった組み合わせだし、ここまで5タテで濡れ場をぶっこんだ後だしっつーことで匂わせる程度に。
書きたいように書くのが二次創作の醍醐味なんだから気にする必要はないと言われたらまあぶっちゃけその通りなのですが、それでも少しは読者様のことも考えないとね。まあ、考えたところでそれが必ずしも結果(評価)に繋がるのかと問われたらそうとも限らないというのが辛いところであり、楽しい(=やりがいがある)ところでもあるのですが……。う~ん、悩ましい。
よろしければ、明日投稿される話も読んでやって下さい。ではでは。