※この作品はR-18です。

豊穣の王   作:イロゴト柿

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第24話『女ヶ島の事情』

動物(ゾオン)系『ヒトヒトの実』……。フレイ自身が人間(ヒト)なのに……?」

()()()()()『幻獣種』で、モデルが……えっと……」

「……『ユングヴィ』」

 

 フレイがまだ天竜人の奴隷だった頃、「飼い主」の悪計(あっけい)によって無理矢理口内に捻じ込まれてから15年あまり。

 

 ようやく明らかになった(と、思われる)「悪魔の実」の正式名称を受けて、各々の反応を返すオルビア、ヤマト、フレイの3人。

 

 それらに対してシャッキーは、1度手に持った煙草を深く吸うことによって間を設け、その後でひと筋の煙を細い糸のように吹き出して見せると、

 

「そう……。自他の『生命力』を操り、それを具現化させた黄金のオーラでもってあらゆる物を作り出し、時には自身の肉体そのものを強くしたり、大きくしたりしたとされる『黄金の戦士』。またの名を――」

 

 プルリとした肉厚の唇から離した煙草の先端をフレイに向けながら、シャッキーは次のように続けた。

 

「――『豊穣の神』ユングヴィ。ひとたび『覚醒』しようものなら、その者には『命』の源泉である全ての(オンナ)たちを、無条件で従える能力(ちから)が与えられる――と、言われているわね」

()()()()()()……?」

「ええ、あくまでも言い伝えレベルの話だから。その()()()、『世界政府』が必死に隠蔽しようとしたのか、どんな書物にもそれに関する話は載っていないって話だし――『悪魔の実図鑑』に載っていないほうが信憑性があるっていうのは、そういうことよ――私にしても、私より前の『皇帝』から伝え聞いただけの話だもの。……それが『アマゾン・リリー』に代々伝わる皇帝としての責務だから、っていう理由でね」

 

 台詞の一部を復唱したステューシーに対して、そのように返すシャッキー。これに対して、興味深そうに話を聞いていた日和が、次のように零した。

 

「『コーテイ』……。私のこきょうで言うところの『ショーグン』のようなものでしょうか? となると、シャッキー様は――」

「――『様』はいらないわ」

 

 クスクスと笑いながら、シャッキーが言った。

 

「何だったら、『シャッキー』っていうのも偽名だし。本名は『シャクヤク』。元『九蛇海賊団』の船長にして、アマゾン・リリーの()()()皇帝――ええ、そうよ」

 

 目を見開くフレイたちに対して、シャッキーはひとつ頷いて見せると、

 

「だいぶ前に出奔しちゃったけど、つい最近また繋がりが出来たの――さっきチラッと言った、向こうからの『頼み事』がきっかけでね」

「『頼み事』……確か……」

 

 ポツリと呟きながら数分前の記憶を探るフレイに対して、シャッキーは次のように答えた。

 

「『イングナル・フレイ(あなた)を見つけたら、九蛇(じぶんたち)が迎えに行くまで引き留めておいて欲しい』――そうよ、その通り」

 

 コクリと頷くシャッキー。その後で彼女は、

 

「まあ、戸惑うのも無理はないでしょうね。超危険地帯である海王類の巣――『凪の帯(カームベルト)』の上にある、閉鎖的且つ女だけで構成された国家『アマゾン・リリー』。その国の遠征隊である『九蛇海賊団』の戦士(おんな)たちが、どうして自分と会いたがっているのか? なんて」

 

 言いながら、カウンターの向こう側でコツコツと足を進めて、ちょうどフレイが座っている位置のすぐ近くにまで身体を移動させると――おもむろに上半身を傾けてフレイの美顔を覗き込むように、自分のそれを寄せながらシャッキーは、

 

 

 

 

 

「結論から先に言っちゃうわね――フレイちゃん。貴方には、アマゾン・リリーの皇帝になって欲しいのよ」

 

 

 

 

 

 フレイたちがシャッキーの(バー)に入ってから何度目かの沈黙が舞い降りた。言われた言葉の内容をすぐには飲み込めなかったフレイはパチパチと目を(またた)かせ、そんな彼のことを、シャッキーは悪戯っぽい笑みを浮かべながら見つめ続けた。そんな状況がきっかり10秒ほど続いた後で、

 

「おれに、どうなって欲しいですって?」

「まあ、流石に色々と唐突過ぎたわね」

 

 絞り出すような声色で質問をするフレイに対して、シャッキーは、一旦それの答えを脇に置くような台詞を返すと、

 

「勿論理由はあるけど――ちょっと長くなるわよ? それでもいい?」

 

 フレイと、彼の恋人(なかま)たちが一斉に頷いた。シャッキーもまた、それに対して「オーケー」、と一度頷いて見せると――やがて、次のように語り出した。

 

「すべての始まりは、800年近く前――元奴隷だったとされるひとりの男が、自分を慕う女たちと静かに暮らす為に、ある場所に国を(おこ)したことから始まるの。それが今のアマゾン・リリー。……ええそうよ、今では女系国家で知られている、私の故郷の初代皇帝は『男』だったの――だから今でもアマゾン・リリーでは、国を纏める人間を『皇帝』と呼ぶのよ。『女皇(じょこう)』や『女帝』ではなくね」

 

 怪訝な表情を浮かべるロビンに対して、再び頷いて見せながらそのように語ったシャッキーは、続けて、

 

「初代皇帝の人柄や思想に関する情報は、今では殆ど失伝しちゃってるけど……。その特殊な『体質』については、今でも歴代皇帝を中心に代々語り継がれているわ。曰く――フレイちゃん、あなたと同じように、黄金のオーラを操っていたこと。何故か『不老』であったこと。そして――これが一番重要なんだけど――彼の血を受け継いだ子供は、もれなく全員が女であったこと」

「『不老』に……生まれた子供が全員『女』ですって? どうして……」

 

 ステューシーがそのように応じ、思わず彼女のほうへと顔を向けたフレイは――軽く目を剥いた。彼女の口元が、確かに何か勝ち誇ったような笑みを浮かべていたような気がしたからだ。が、それについて深く考察するよりも先に、シャッキーが次の台詞を――「どうしてかは、私にもわからないわ」――唱え始めていて、

 

「それが、初代皇帝とフレイちゃんが食べた『悪魔の実』の能力なのか、あるいは初代皇帝だけが持つ生まれつきの特殊な体質なのか……。『不老』に関しては、一緒に国を(おこ)した恋人のひとりが、()()()()()()にすることが可能な『能力者』だったから、という説もあるわ。……勿論、実際のところはわからないけど、とにかく、貴方たちに特に知っておいて欲しいことは、そういったことではなくて……」

 

 短くなった煙草をギュッと握り潰して消火し(それ絶対に火傷するヤツだろ、とフレイは思った)、懐から新しい煙草を取り出しながら、シャッキーは以下のように続けた。

 

「……初代の皇帝はね、自分と愛する女たちの間に生まれた女児(おんな)たち――大きくなった彼女たちとの間にも、子供を作ったの。殆ど例外なく、ね」

「「えぇっ!?」」

 

 フレイとヤマトが同時に驚愕の声を上げ、それを代表するかのように、ロビンが、

 

「それは……なんというか、色々と駄目なんじゃ……? 倫理的なことは一旦置いておくにしても――極端な近親相姦からの出産にはどうしたって、先天的な疾患がつきものだし……」

「それがまた奇妙なところでね――生まれなかったらしいのよ、ひとりも。……そういう類の障害を抱えた子供は」

 

 とうに予想済みの質問であったのか、シャッキーの答えは実にアッサリとしていて、

 

「『凪の帯(カームベルト)』という、嫌でも閉鎖的な暮らしを強いられる環境からそうせざるを得なかったのか――とにかく、実の娘との間でもほぼ例外なく子を成した初代皇帝ではあったけど、何故かそこから、近親間での出産につきものな、障害を抱えた子供が生まれてくることはなかったらしいわ。……これが事実だとしたら、やっぱり、その初代皇帝とフレイちゃんが食べたと思われる『悪魔の実』の能力かしら? 『豊穣』――言い換えれば、『子孫繁栄の神』だものね。……誰との間でも子供を作れるし、その末に生まれてくるのも必ず、次の命を産み育てられる『苗床(オンナ)』だっていう――そういう?」

「いや、知りませんけど……」

 

 コテンと首を傾げながら問うてくるシャッキーに対して、戸惑い気味に言葉を返すフレイ。特に傷ついた様子もなく、「それもそうよね」と軽い調子で応じたシャッキーは、その後で次のように述べた。

 

「……とにかく、初代の皇帝は、そういう特殊な体質だったらしいの。彼の血を継いだ子は例外なく女で、それとの間に更に子を成しても障害を持った子が生まれることなく、それどころか、外見的にも能力的にも、()()()優秀な(メス)が生まれて――更に、その『恩恵(せいえき)』を体内に受けた女は、あらゆる身体能力が向上するだけではなく、そうでない者よりも遥かに長い期間、若い肉体を保つことができたらしいわ。当然、その間も出産は可能。……相応の『リスク』もあったらしいけどね」

「『リスク』?」

 

 精液を体内に受けた女の身体能力が云々という、身に覚えがあり過ぎる台詞については一旦脇に置いて、そのように反芻しながら眉をひそめるフレイ。それに対してシャッキーは、新しい煙草を口に咥えて火を点けながら、「ええ」と首肯して見せると、

 

「さっき言った、()()()()()()()()っていうのも中々のものでしょうけど、大体の人間にとっては、こっちのほうがリスクの筈よ――禁断症状が出るの。一度『恩恵(せいえき)』を授かった人間は、その後一定の期間内に再度『恩恵(せいえき)』を授からなければ、ね。心身の不具合に始まり、まともに動けない程の高熱……。最悪の場合は――」

「まさか……!」

 

 シャッキーの言葉を遮るような形でそのように返したのはしのぶだったが、フレイは、最後まで聞く必要はないと思った。しかし一方で、そんなことがあり得るのか? という思いも相応にあった。

 

 酒、煙草、女、麻薬――世の中には様々な依存症があり、それらは決して健常者にとっては軽視できないものばかりだが、それでも先ほどシャッキーが言いかけたような事態になることはほぼない筈だ(と、思いたい)。

 

 あるいは――身体能力の向上や若い肉体の維持、限定的ながらも例の「黄金のオーラ」を操れるなど、そういった効果を得られる以上は、当然の代償だと解釈する者もいるかもしれないが……。

 

「そのまさか、よ。……しかも、これについてはまだ問題があってね……」

()()()()の問題があると? もしそうなら、冗談抜きでガチの『呪い』じゃないですか……!」

 

 思わずといった様子で口を挟むフレイ。しかし、それも無理もないことだった。もしも、シャッキーが言う初代皇帝の能力と、現在自分が身に宿している能力が同一のものである場合、幾度となく情を交わした7人の恋人(なかま)たちは、知らず知らずの内に「そういう体質」になっている――否、そういう体質に()()()()()()()()可能性がある。そう思うと、不安で仕方なかった。

 

「……遺伝するのよ、その性質は。女しか産まれないっていう体質と共に――ちょっと、変わった形でね」

 

 フレイからの割り込みなどなかったかのように、シャッキーはそのように語ると、

 

「初代との間に生まれた女たち……。彼女たちについては、初代(ちちおや)と交わらない限りは、今言ったような彼に対する禁断症状は出ないし、だからこそ――理由は不明だけど――初代(かれ)が姿を消した後も、アマゾン・リリーは滅びずに済んだわ。けど、それならそれで、国を維持する為には、残った国民(むすめ)たちが外界の男との間に子を宿す必要があるんだけど――そこで、問題が起きたの。『恋わずらい』よ」

「何がですって――?」

「『恋わずらい』よ」

 

 眉をひそめるフレイに対して、シャッキーが辛抱強く言った。

 

「一般的には、気になる異性に恋い焦がれるあまり、食欲不振や不眠、集中力の欠如といった身体に悪影響が出るほどの、精神的な疾患を指す言葉だけど――『アマゾン・リリー』の国民に代々伝わるそれは、一層タチが悪いわ。……さっきも言ったように、『最悪の場合』も起こり得るから……。私の後に皇帝になった()がそうであったように、ね……」

 

 そこまで言ったところで初めて、シャッキーの目に影が差した。彼女としてもあまり好んで向き合いたい現実ではないらしく――そのような表情を見せられては、フレイとしても、そんな馬鹿なと一蹴することはできなかった。やはりこれでは、「呪い」だと言われても不思議ではない、とも。

 

「……先ほどシャッキーが言った、一度初代に抱かれた女は、定期的に抱かれなければ云々という体質――それが、世代を重ねていく内に、歪んだ形で受け継がれてしまったという訳だ」

 

 先代皇帝(こうはい)の死を悼むシャッキーを気遣ったのか、説明を引き継ぐ形で、レイリーがそのように言った。

 

「特に、遠征に行った『九蛇海賊団』の船員たちに起こりやすい症状だったらしい。その活動の内容上、外界の男と知り合う可能性が一番高いからな。見事結ばれて子を宿せれば基本問題ないらしいが、当然、誰もがそういった結末を辿れる訳ではない。アマゾン・リリーが『凪の帯(カームベルト)』にあるという性質上、芽生えた恋心を形にできないまま、それっきりとなってしまった国民(おんな)も相応にいたらしく――そうした者たちは、ほぼ例外なく『恋わずらい』になり、症状が酷い者はそのまま……」

「「そんな……」」

 

 言葉を失った様子のヤマトとシャーリーがポツリと呟き、それに対して心を持ち直したらしいシャッキーが、

 

「『恋(こが)れ死に』……と言うそうよ。馬鹿馬鹿しく聞こえるかもしれないけど、厳然たる事実で――しかも、その人数は年々増えていってるわ。今となっては、国の存亡に関わる程に、ね」

「でも……それがどうして、フレイが皇帝になることに繋がるの……?」

 

 ロビンの問いに対して、シャッキーは「重要なのはここからよ」と前置きすると、次のように語り出した。

 

「初代皇帝が存命だった頃にも、似たような症状に見舞われた娘が何人かいたらしくてね……。あるいはそれが、娘との近親相姦に至った理由だったのか――とにかく初代(かれ)は、姿を消す以前に次のような言葉を残したの。……『もしも遠い未来に、国の存続に関わる程に似たような症状の国民が出続けた場合には、自分の能力を受け継いだ男をその時代の皇帝に据えよ』、って。……そんな感じの言葉をね……」

「要するに、症状が出てからどうこうするのではなくて、国民全員を初代と同じ能力を持つ男――つまりは、フレイと()()()()()()ことで、そもそも症状自体が出ないようにする。……そういうことですね?」

 

 オルビアが言った。シャッキーが頷いた。

 

「見事に簡潔で的確な要約だわ。その通りよ」

「…………」

 

 「同じ能力」――本来、「悪魔の実」の能力というのは、()()()()に複数存在することはあり得ないらしいが、能力者が息絶えた場合には、その能力を秘めた「悪魔の実」が世界のどこかで復活するらしい。

 

 さながら、人の世で言うところの輪廻転生が如く……。その仕組みについては到底理解が及ばずとも、とにかくそういった性質を持つ代物であるということ自体は、フレイでも知っていた。

 

 主にオルビアやステューシーからの受け売りだが――と、フレイがそんなことを黙しながら考えている間にも話は進んでいて、

 

「……厳密には、国民全員を愛せる程の器量を持つ男なら、必ずしも初代と同じ能力者である必要はないらしいけどね。でも、『恋わずらい』のせいで減少傾向にあるとは言っても、今のアマゾン・リリーの人口も相当な数だし――その全員を()()()となると、性欲の権化とも言える『豊穣の神(ユングヴィ)』の継承者にしか務まらない、ということなんでしょう」

「…………」

 

 そんな言い方するなよぅ、とフレイは思った。大いに身に覚えがあるし自覚もあるので、完全に否定できないのも辛いところだった。

 

「私が子供の頃には、既に『恋わずらい』による人口減少の問題は深刻化していて――今思えば、それを抑制する為に『男子禁制』の掟を作ったり、男は凶悪な『ウイルス』を持ってるなんていう法螺(デマ)を子供たちに教え込んだりしてたんでしょうけど……。まあ、大して効果はなかったわね。第一、国を維持する為にも『九蛇海賊団』による遠征とそれに伴う子作りは必須だし、そうなると外界の男と一切関わるなというほうが無理だもの。でも、関わった――恋心を抱いた女に、必ずそれを成就させろというのも同じぐらい無理難題……。だったらいっそのこと、たったひとりの『とびっきりの男』を国の頂点に据えて囲わせた方がマシ。私が皇帝になった頃には、それが大人たち――特に、『九蛇海賊団』に選ばれた戦士たちの共通認識になっていたわ。それと同時に、略奪や交易に加えて、該当の『能力者』を見つけ出すことも『九蛇』の重要な仕事のひとつになったのだけれど――まあ当然、すぐには結果は出なかったわ。少なくとも、私が皇帝と船長を務めている間は、ね……」

 

 シャッキーがそのように語り、それはそうだろうな、とフレイは思った。この広い世界で特定の「能力」を受け継いだ人物を探し出すなんて、そんなことは広大な砂漠に埋もれた一粒のダイヤを見つけ出すようなもの――というのは流石に言い過ぎかもしれないが、いずれにせよ困難なことには違いあるまい。

 

 それに――あえてフレイはそこには突っ込まなかったが――運よく見つけ出せたとしても、『豊穣の神(ユングヴィ)』の継承者が男である保証などどこにもないし、仮に女だった場合には、アマゾン・リリーの未来はほぼ閉ざされたも同然で、そう考えると、当時のシャッキーたちの心境はどれほど不安なものだっただろう、とフレイは思わず同情した。

 

 まあ、結果として自分という「男」が継承者だと判明した以上、それについて悩む必要はもうないのだろうが――と、フレイがそこまで考えたところで。

 

「……でも、いきなり『皇帝』っていうのは――何と言うか、違和感があるわね」

 

 ステューシーが言った(ほくそ笑むのを必死で堪えているような、奇妙な表情だった)。

 

「私が知る女ヶ島の国民たちの気質を考えれば――いくら、初代皇帝と同じ能力者だったとしても――見ず知らずの男を、いきなり皇帝に据えるなんてあり得ないわ。良くても、四肢を切り落とした上で柱にでも縛りつけて、都合のいいワクチン代わりの精液タンクとして扱うっていう方が納得できるけど」

「…………」

 

 なんてことを言うんだよ、とフレイは思った。睾丸がキュッと縮まったような気がした。

 

 が、そんな彼とは違って、そういった質問をあらかじめ予測していたのか、シャッキーはあっけからんとした様子で「まあ、女ヶ島の女たちを知っている人間なら、そう思うのが普通でしょうね」と言うと、続けて、

 

「当然最初の頃は――主に、初代皇帝に関する伝説についてはよく知らない、若い層を中心とした国民たちからの反発が物凄かったらしいわ。……とある三姉妹の長女のように、誰に言われずとも妄信的に信じ込んだ上で、顔も知らない『後継者』に心酔する変わり者もいたけど――やっぱり、基本的には弱くて品がない生き物として教えられている男のひとりを、いきなり皇帝に据えるなんてとんでもない、と言う国民のほうが多かったみたい」

 

 そりゃそうだろうな、とフレイは思った。そんな彼を含めた面々に向けて、シャッキーは更に、

 

「……でも、フレイちゃんの手配書を見てからは、彼女たちの態度も変わったわ。遺伝子に刻まれた記憶がそうさせるのか――今では皆、あなたの手配書をプロマイド代わりに、毎晩()()()()()そうよ? 時には、殺し合いに近いレベルで手配書(それ)を奪い合うこともあるとか。……フフッ、モテモテね?」

「…………」

 

 いや……知らん……。

 

「……まあ、とにかく――ええと、どこまで話したかしら? そうそう、私が皇帝でいる間は、初代と同じ能力を持つ男は見つけられなかった、っていうところまでね。……それから、後を託した先代皇帝(こうはい)も、『恋(こが)れ死に』で亡くなって、やむなく帰国していたグロリオーサ様が、代理として再び皇帝の座に就いて――そんな時よ。今から2年近く前に、オハラでの『バスターコール』に関する記事が出回ったの。そして――それを見事返り討ちにして見せた、ふたりの傑物についての情報も。バッキ――ステューシーと……そう、あなたのことよ、フレイちゃん」

 

 シャッキーが言った。

 

「その時の私は、バスターコールに対抗できるぐらいの凄く強い子が現れた、程度の認識しかなかったのだけれど――記事の本文には、あなたが行使したとされる『能力』。私たちが長年追い求めていた『黄金のオーラ』……それに関する情報が、断片的ながらも記されていたようね。迂闊だったわ……。『新世界』での『砂漠の王』と『白ひげ』の衝突とか、あの『シキ』が史上初の『インペルダウン』の脱獄者になっただとか、他にも色々と歴史的な大事件が同時期に起きてたから見逃してたの。……まあ、先代皇帝のほうはちゃんと気づいてくれてたから、結果オーライってところでしょうけど……」

「うん……?」

 

 フレイは眉をひそめた。

 

「先代皇帝って……さっきの話では、確か『恋わずらい』で……」

「ああ――ややこしくてごめんなさい。今のは、()()()()から見ての先代皇帝の話ね。私が先々代だから、その前――先々々代皇帝のことよ。さっきもチラッと言ったけど……名前は『グロリオーサ』。私と同じように一度は故郷を出ていたんだけど――大分前にアマゾン・リリーに出戻ってね。事情が事情ということで、今は次の皇帝が正式に決まるまでの代理という立場に収まってるわ。それからしばらくして――例の記事から、あなたの存在に気づいたという訳。……先祖から代々伝えられていた『救世主』。『黄金のオーラ』を駆使して戦う男の存在――『豊穣の神(ユングヴィ)』の継承者を、ね」

 

 フレイの疑問に対して、目の前の蠅を追い払うような仕草と共に注釈を加えた後に、そのように説明したシャッキーは、そこから更に、

 

「『恋わずらい』による人口減少の問題がいよいよ深刻化してきたこともあって、それを知った先々々代皇帝(グロリオーサさま)は、すぐさまあなたと接触する為に手を打ったわ――自分たちのほうから『九蛇』を出港させて捜索するのは勿論、出奔中の身であった私にもコンタクトをとって、捜索(それ)に協力させようとしたの――けれど……」

「……?」

 

 唐突に、どこか気まずそうな表情で視線をあらぬ方に向け始めたシャッキーに対して、日和やヤマトなどと共に首を傾げるフレイ。

 

 だからという訳でもないだろうが――そんな彼らに対して、シャッキーは観念したように一度息を()いて見せると、次のように言った。

 

「私とグロリオーサ様が最後に顔を合わせたのが随分前であることもあって、協力体制を敷くのが大分遅れちゃってね……。あの人は、私がまだ馴染みのある『海賊島』のひとつに居を構えていると思っていたみたいだけれど、その頃には既に、ここ、シャボンディ諸島でこの店を営んでいたのよ。灯台下暗しと言うか……。グロリオーサ様も、まさか出奔した女ヶ島(こきょう)からそう離れていなくて、それ以上に『海軍本部』に程近いこの諸島に、元海賊の私が拠点を移しているとは思っていなかったみたい。使っている電伝虫も当然変わっていたし――そんな事情もあって、フレイちゃんこそが、私たちが長年探し求めていた『後継者』であると知ったのがほんの数ヶ月前……。君たちがレイさんの手による船のコーティングを終えて『魚人島』に向かってから、大体1年半と少し経ったぐらいの頃だったの」

「……そして私も、シャッキーからおおよその事情を聞き、何とかして君たちと接触できないかと考えた」

 

 そのように語り始めたのはレイリーだった。彼は、シャッキーの説明を引き継ぐ形で、続けて、

 

「政府が干渉できないような『安住の地』を見つけて、一度腰を落ち着けたいという君たちの当面の目標は既に聞いていたからな。『凪の帯(カームベルト)』上にある『アマゾン・リリー』の皇帝ともなれば、君たちが望む環境としても申し分ない。とはいえ当然、シャボンディを発ってから約1年半……。魚人島からもとっくに出航しているに違いなくて――そう思った私は、よく遊びに来る『ハチ』という魚人の少年に頼んで、君たちに伝言を送ることにした。……まあ、君たちがワノ国に無事に辿り着いて、そのまま腰を落ち着ける可能性もそれなりにあったから、ある種の賭けではあったがな。もし後数ヶ月ほど何の音沙汰もなければ、私自身が久々にワノ国に赴くところだったが――まあ、その必要がなくなってよかった。決して楽な航程(こうてい)ではないからな。……ああいや、勿論、おでんの件は残念ではあったが……」

 

 日和の物悲しそうな表情を見て取ったレイリーは、最後のひと言を慌ててつけ加えた。

 

「それで……どうするの? フレイちゃん」

「えっ?」

 

 レイリーのちょっとした失言をごまかすかのように、唐突にシャッキーが言った。フレイは面食らった。

 

「どうするのって……?」

「私たちの頼みを引き受けて、『アマゾン・リリー』の皇帝になる気があるのか? ……っていう意味よ? 当然」

 

 フレイは眉根を寄せた上でそれをキュッと吊り上げて見せると、

 

「なる気があるのか? って……。もしも仮に、ここでおれが『イエス』って答えれば――なれるっていうことですか? 女ヶ島の皇帝に?」

「そうよ? ……そう言ったじゃない」

 

 シャッキーの声は若干苛々していたが、フレイはとても謝る気にはなれなかった。何かの間違いじゃないか、という気持ちのほうが強過ぎた。

 

 確かに、人が住めない土地となったオルビアとロビンの故郷である『オハラ』を発って以降、フレイたちは政府と海軍の手が及ばない「安住の地」を目指しての旅を続けてきたし、既にその望みがほぼなくなったワノ国と魚人島に次ぐ形で、女ヶ島という名前も候補地として頭に入れていたが――だからこそ、こんなに都合とタイミングがよい話があるのか? 何か裏があるんじゃないのか? という気持ちが相当にあった。

 

 とはいえ、シャッキーやレイリーがつまらない嘘で自分たちを嵌めようとしているとは考えられないし、そうする理由も思い当たらない。前回の訪問と合わせて、既にある程度の親交を深めた今となっては、そんな人間だとはとても思えなくて――とにかく、たった今聞かされたことは、青天の霹靂であろうと厳然たる事実なのだ。そこを受け入れなければ一向に話が進まないと、そう思ったフレイは、ややあって、

 

「……その場合、女ヶ島が受け入れるのはおれだけですか?」

「……? どういうこと?」

 

 質問の意図を読みかねたシャッキーに対し、フレイは続けて、

 

「ですから……おれだけではなくて、ここにいる恋人(なかま)たちのことも一緒に受け入れてくれないと――」

「――ああ、大丈夫、大丈夫」

 

 開いた手をかざしてフレイの台詞を遮りながら、クスクスとした笑みと共にシャッキーは言った。

 

「オルビアちゃんたちの存在についても、当然ちゃんと事前に伝えてあるから――彼女たちと安全に暮らせるような『安住の地』を探してるっていう、君たちの事情もね。グロリオーサ様は快諾してくれたわよ――何も心配いらないわ」

「そ、そうですか……。それなら、まあ……」

 

 オルビア()()()という呼び方に対して一瞬吹き出しそうになりつつも、何とかそれを堪えた後で、フレイは当のオルビアへと目を向けた。

 

 自分にとっては、彼女こそがここ数年に及ぶ旅の出発点だ。彼女を救いたいが為に海軍の『バスターコール』を止め、政府と海軍の追っ手に怯えない暮らしをする為に「安住の地」――ワノ国を目指しての航海をしてきたのだ。

 

 そこが既にカイドウの魔の手に落ちた後であると思い知らされたことで、当初の目論見は破綻してしまったが――そんな風に途方に暮れていたタイミングで提案された、予期せぬ解決策。「安住の地」に()()()()()()()()――どころの話ではない。まさかの「皇帝就任」。

 

 とんでもなくおいしい。なんだったらおいし過ぎる話で――フレイとしてはレイリーやシャッキーを疑うなど笑止千万という気持ちだったが、もしもオルビアが一旦思い留まったほうがいいと考えているのならば、彼女には間違いなくそれを口にする権利がある。

 

 ……と、そう思って――しかし、そんなフレイの心情を読んだかのように、オルビアは、

 

「……大丈夫よ。フレイ」

 

 柔らかな笑みを浮かべながら、オルビアが言った。

 

「確かに唐突な展開ではあるけど、シャッキーさんやレイリーさんがこんな嘘を吐くとも思えないし……。あなたに異論がなければ、私たちもそれに従うわ。どの道、カイドウから日和たちの故郷を取り戻す準備を進める為にも、どこかに腰を落ち着ける必要があるしね」

「……ありがとう」

 

 万感の思いと共に、短く礼を言うフレイ。そのまま彼は、他の恋人(なかま)たちの面々にも視線を移していって――全員がオルビアと同じように、貴方の判断に従います、という全幅の信頼を基にした、柔らかな笑みを浮かべていることを確認したフレイは、ついに腹を決めた。

 

 いずれにせよ、選択肢などほぼないに等しいのだから――彼は、決然とした面持ちでシャッキーへと向き直ると、

 

「……わかりました。その話……」

 

 『豊拳の一味』の船長、『豊拳』イングナル・フレイとして。

 

 現時点におけるアマゾン・リリーからの使者、その代表、先々代皇帝である『シャクヤク』に対し――彼は、こう言った。

 

 

 

 

 

「……仲間たちも一緒に受け入れるのを条件として、女ヶ島『アマゾン・リリー』の皇帝に即位し、『恋わずらい』にまつわる問題の解決に協力することを――約束します」

 

 

 

 

 

 力強い言葉でそう言って――しかしながら、殆ど間を置かずに、彼は「ただし」と言葉を繋げると、

 

「……その前に、やらなければいけないことがあります。それは――」

 

 フレイが言うところの「やらなければいけないこと」。

 

 その内容を聞いて――オルビア以外の殆ど全員が、驚愕の表情を浮かべるのだった。




 ……という訳で、女ヶ島に関する捏造設定ガン盛りの回でした。当然、原作の進行によって矛盾が出ること請け負いです。

 尾田先生も、何かの番組で「アマゾン・リリーの話はもっと後半にする予定だった」的なことを仰っていたような気がしますし、結構重要な設定がまだ隠されているような気がするんですよねー。『凪の帯(カームベルト)』の上に島がある理由とか、女しか産まれない特殊体質とか、その辺りもちゃんとした公式設定がある筈。……ですが、まあ、とにかく本作ではこういう設定ということでひとつ……(汗)。

 ああ後、ニョン婆(グロリオーサ)様の、「どこからでも入れる……」の台詞の意味も気になりますね。自分は一時期、あの人こそがニューカマーランドを作った「穴掘り」の能力者だと思ってました。普通に違いましたけど。

 次回はシャッキーさんとの濡れ場にする予定です。ニッチなのを承知で書きたいと思います。ではまた次の更新で~。
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