※この作品はR-18です。

豊穣の王   作:イロゴト柿

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 まず始めに謝罪を。

 前回の後書きにおいて、今話からまた戦闘回に突入するとかそんな感じのことを書きましたが、ハイ、全然そんな展開にはなりませんでした。かといってエロという訳でもなく、強いて言うなら説明回ですね。何なら次の話も戦闘回と言えるかどうか……(汗)。

 でも早くドンパチさせたいという気持ちは本当にありますから! それはそれでR18小説としてどうなんだとも思いますけども! ここまで来たらエロも戦闘も両方全力で書き切る所存です。どうか最後まで見届けてやって下さい。

 それでは最新話、どうぞ!


第35話『胡蝶の夢:結』

『望むなら、好きなだけ“ここ”にいさせてやる』

 

 男は――幼き日のフレイが食した『悪魔の実』。

 

 動物(ゾオン)系『ヒトヒトの実』の『幻獣種』、モデル『豊穣の神(ユングヴィ)』の「前任者」と思われる男は、そう言った。

 

 頭の内側で何度も反響するような、不思議な声色で――あなたが「先代(そう)」なのか、というフレイの先の呟きに対しては、わざわざ肯定する必要もないだろう、とでも言わんばかりだった。

 

『お前を慕う美姫(おんな)たち“だけ”が暮らすこの世界。実の娘までもがお前の子を孕みたいとせがみ、それでもまったく問題のないこの夢幻の中で、愛と快楽に満ちた悠久の時を過ごすといい……』

「その代わり、お前の肉体(からだ)を寄こせってか?」

 

 フレイが辛辣(しんらつ)に言った。

 

「『悪魔の実』の『覚醒』については、前にステューシーから聞いたことがある。動物(ゾオン)系の場合は、実に宿っている意識が『宿主』のそれを乗っ取る場合があるってことも――アンタもそれを狙ってるのか?」

『望むなら、と言った筈だ』

 

 淡々とした口調で、「先代」が述べた。

 

『他の「同類」がどうかは知らないが――少なくとも、私はお前の意思を尊重する。……が、お前が心のどこかで「現実」を捨て、この夢幻の世界に移り住みたいと願っているということは、自覚する必要があるだろう……』

「ふざけんな」

 

 吐き捨てるようにフレイが言った。

 

「いいから、さっさと元の世界に戻せ! このまま夢幻(ここ)に留まれば、おれの女たちが、あのふたり――カイドウかビッグ・マムのどっちかの手に落ちるってわかってるのに、そんなこと……!」

『ああ、それ“も”間違いない』

 

 相変わらず「先代」の台詞は、腹が立つ程に淡々としていた。

 

『だが、お前も知っているように、人の心というものは、実に多様且つ重層的なもので――先ほどまで、お前が享楽に耽っていたあの世界こそが、その証左だ。……あの夢幻こそが、お前の無意識下の望みを反映させた上で、私が創造した世界(もの)に他ならないが故に』

「…………っ」

 

 フレイは口を噤んだ。荒唐無稽だと断ずるのは極めて簡単な筈なのに、何故か反論できなかった。「先代」が言うように重層的な心のどこかで、彼の言葉に嘘はないと確信している自分がいることに、フレイは気づいていた。

 

 ……が、しかし、それでも腑に落ちないところがない訳でもなくて――具体的には、

 

「さっきの夢幻に出てきた女たち……。ロビン、オルビア、ステューシー……それからハンコックとグロリオーサ、ヴィオラはともかくとして、それ以外の女たち……。『カリファ』とか『ナミ』とか『ビビ』とか、それ以外にも大勢……。おれが今まで見たことも聞いたこともないような美女たちが大勢出てきたが……。()()()()、さっきの夢幻がおれの望みを反映させたものだって言い張るつもりか? ああいう、存在しない人間が出てきた時点で――」

『――いいや、存在はする』

 

 ピシャリとした口調で、「先代」が言った。

 

『……というより、存在することになる、と言ったほうが正確だろうが――とにかくあの女たちは、いずれこの世のどこかで生まれ、お前に出会い、愛されることになる者たちだ。自覚がないようだが、お前はそれを予見した。私はその内のいくつかを汲み取ったに過ぎない』

「何だって――?」

『お前が囲っている女の中に、「シャーリー」という「予見者」がいるだろう?』

 

 わずかにやきもきした口調でそのように言うと、「先代」は更に、

 

『私たちの「能力(ちから)」の本質は「生命力」……。「活力」、「気力」――この際言い方はなんでもいいが――そういったものを増減させ、与え、奪いもする力……。そして悩ましいことに、これは完全に抑えることはできない。人間の呼吸と同じだ。ただそこに存在するだけで、周囲のあらゆる生物……。植物や、目に見えない微生物からも、その者たちが気づかない程度の量と速度で吸い取っていて――そしてそれは、今までお前が抱いてきた女たちに対しても例外ではないのだ。それでいて――()()()()女たちから吸い取るものは、何も「生命力」だけではない』

「……つまり?」

『心と身体が深く繋がることを条件にしてそういったことが起こるのか――とにかく、そういった女たちからは、「生命力」だけではなく、そこに情報として刻まれた「固有の能力」さえも読み取ることができる。「簒奪(さんだつ)」や「吸収」ではなく、あくまでも、我々の技術、能力で再現できることを、可能な限り「模倣」するだけだが――とにかく、あの「シャーリー」という人魚族の「予見」は、「見聞色」のある種の発展系であり、お前はそれを、情を交わした際に吸収した「生命力」から読み取り、モノにしていたという訳だ。……水晶球のような道具が必要な能力であるが故に自覚もなければ、試したこともないようだが――とにかく私は、その予見(ちから)とお前の奥底の「望み」を反映させることで、先の夢幻を創造した』

「…………」

『……先ほどまでお前が堪能していた世界は、お前が現在囲い、将来囲うことになる女たちと、お前の心の奥で息づいていた望みを反映させて作った世界で、まったくの虚構という訳ではない。……とりあえずは、そこだけでも理解してくれればいい』

 

 途方に暮れたような表情を見せるフレイに対して、ため息混じりにそう言った「先代」は、そこから更に、

 

『……それに、お前は先ほど「さっさと元の世界に戻せ」と言ったが――少なくとも、無理に「さっさと」戻る必要はない。気づいているかもしれんが、この精神世界の時の流れは、現実のそれと比べて遥かに進みが遅い上に、あの「ガープ」や「クザン」といった「海の憲兵」たちも、何故かお前を守ってくれていることだしな……』

「はぁ?」

 

 フレイはポカンとした。

 

「ガープさんはともかくとして……クザンまで? どうして……?」

『何故か、と言っただろう。私も知らんし――正直、あまり興味もない。……とにかく……』

 

 言って、「先代」は改めてフレイの目を正面から見据えると、

 

『とにかく……焦る必要はないから、今は私の話を聞け。どの道、現実(いま)のお前の状態では、私の助けなくして自力で“ここ”から出ることさえ叶わん……。変な横槍を入れず私の話を聞き、それでも尚、夢幻(ここ)からの脱却を願うのなら――望み通り現実の世界に帰してやる。……相応の「迷惑料(ほうび)」を与えた上でな』

「…………」

 

 しばらくの間、フレイは「先代」のことを無言で睨みつけていたが、やがては――如何にも不承不承といった様子で――コックリと頷いた。それを受けた「先代」は、『それでいい』と言って首肯を返すと、

 

『私自身の紹介がまだだったな。既にその必要はなさそうだが――それでも、私自らの口からハッキリと言っておく。私は、「後宮豊国(アルフヘイム)」の初代皇帝だった者であり、名は「ユングリング・フロディ」。……現在はお前の身に宿っている「異能」の「前任者」。あらゆる「生命力」を操り司る陽だまりの王にして、「命」の苗代たる女たちを統括し、そこに種を撒き豊穣(こがね)色で満たす運命(さだめ)を担った――「世界」という名の田畑の管理者だ』

「『後宮豊国(アルフヘイム)』……?」

 

 フレイは眉をひそめた。先の台詞の後半以降はやたらと含蓄が凝っていて正直理解が及ばなかった為、彼が関心を示したのはその固有名詞だけだった。

 

「何を言ってるんだ? アンタは『アマゾン・リリー』の……」

『私が建国した当初は、そういう――「後宮豊国(アルフヘイム)」という名前だった。その後、訳あって改名したがな』

 

 「先代」――フロディは、サラリとした口調でそのように言うと、

 

『その辺りの事情も含めてすべて話すから、とにかく最後まで聞け――かつての私の大いなる「過ち」……。今はお前の身に宿っている「力」、その「危険性」について』

「危険性、って……?」

『私は、お前が思っている以上に長い間、この時を待っていた。こうしてお前と話す時を』

 

 フレイの疑問に答える気があるのかないのか――そのように述べたフロディは、更に、

 

『私が――私の意思を伴った異能(ちから)が、幼かったお前の身体に宿った時から既に、お前の肉体と覇気の質は恐ろしいほど高い水準にあった。お前の身体に宿った瞬間、私はそれを確信した。足りていないのは「経験」と「きっかけ」だが、「経験」については、私の意思を帯びた「豊穣」の異能(ちから)を宿してからの年月が――そして「きっかけ」については、お前が最近抱いた「シャッキー」……「シャクヤク」なる女のお陰で得られた。アレは、私の血を継ぐ女たち……現在は「九蛇」と呼ばれている一族の末裔で、お前はその女と情を交わした。あの時にお前が見て感じた幻覚(もの)は、かつての私の記憶だ』

 

 やっぱりそうか、とフレイは納得した。薄々察していたことだった。

 

『そして、今回の戦いで致命傷を受けたお前に色々と「隙」が出来たことで、そこに入り込み、利用することに成功した私は、こうしてお前と話せる場を作るに至った。……私の話、私の過去(あやまち)を、お前は聞かなければならない――お前を慕う女たちを守る為に現実に戻りたいと言うのならば、尚のことだ。いいか?』

「……ああ、わかったよ……」

 

 いいかも何も、自力で戻れないのなら、選択肢なんて始めからないようなもんだろうが――という文句をすんでのところで飲み込んだ上でフレイがそう言うと、そんな彼の心情を知ってか知らずか、フロディは満足そうに何度かその場で頷き、その上でこう言った。

 

『800年という長い月日のせいか、記憶のあちこちに欠落があるが、それでも、重要な部分はまだ覚えていて――かつての私も、幼い頃のお前と同じように、奴隷の身だった。800年前にもそういった制度はあった。そして私は――過程は覚えていないし、何なら、生まれた時から()()だった可能性さえあるが――見事に割を食った。気づけば、事ある毎に鞭で打たれ、搾取され、這いつくばることを当然とする虫けら同然の日々を送り、それが当然だと思っていた。……それに疑問を抱く気力さえ、当時の私にはなかった』

 

 フレイは思わず閉口した。フロディが言うように、彼自身も同じ境遇の出身だった為、幼いフロディが折檻(せっかん)を受け、都合の良い玩具のように扱われている光景が目に浮かぶようだった。

 

『永遠にそのままだと思ったし、いつしか、それに絶望することさえなくなってしまった。諦観……いや、もはや達観と言っても良いだろう――単に運が、生まれが悪かったと、何か前世で悪いことをしたのだと……。そう思い、精神の安定化を図った。それがいいことかどうかはさておき、いつしか私にとって、そうした苦痛の日々は単なる日常となった。死ぬまで――飽きて殺されるまでそれが続くのだろうと思い、にも関わらずそれをどうにかしようとする考えさえも抱かなくなった。……が、そんな時だ。「彼」に救われたのは』

「彼……?」

『「ジョイボーイ」という、当時世間を……いや、世界を騒がせていた「英雄」だ。その「自由」且つ強大過ぎる力から、「解放の戦士」――「太陽の神(ニカ)」と呼ぶ者もいた。私はもっぱら、「ジョイ」と略して呼んでいたがな』

「…………」

 

 「英雄」という単語を聞いてフレイが真っ先に思い浮かべたのは、かつて、フロディがそうされたように奴隷だった身の自分を救い、今も現実の世界で守ってくれているらしいひとりの海兵の姿で――お陰で、フロディが言う『ジョイボーイ』という男の人物像を何となく想像することができた。

 

 そして、解放(そう)された時の幼いフロディの心境も――フレイ自身がそうであったが故に。

 

『そうして、他の大多数の奴隷と同じように、ジョイの手によって自由を手にした私は――気づけば、今はお前の身に宿っている「異能」を手にしていた。過程は覚えていない。あるいは、お前とは違う道筋を経て手にしたのか――下手をすれば、生まれつき備わっていた力の可能性もある。……曖昧な記憶でスマンな。既に、記憶を留めておくべき脳を持たぬ、精神だけの存在となって800年以上も経った影響か、あるいはそれ以外にも理由があるのか――とにかく私は、お前と同じく「豊穣」の力をその身に宿していた。良き女たち……当時の私と同じように訳有りの女たちとも出会い、情を通わせ、それまでに感じたことも、想像したこともない人生の潤いを手にした。これもまた、ちょうど今のお前と同じだな』

 

 フロディが言った。

 

『それでも、元奴隷――今でもそうかもしれないが――世間では「人間」として見られていない私たちを害そうとする輩は大勢いた。私たちを捕らえ、改めて奴隷として売ろうとする者……。人間として認められていないということに目をつけ、暴力的な欲求を満たそうとする者……。そうした者たちに対抗し、女たちを守る為――そして、再びあの地獄の日々に戻らぬように済む為に、私は努力した。不遜な物言いかもしれんし、そうでなくともお前には劣るかもしれんが……相応に才能もあった。戦いの才能が……。気づけば私は「異能」と併せて強大な力を身に着け、その庇護を求めて、より多くの者が――身に宿る「豊穣」の異能(ちから)の作用か、何故か女ばかりだったが――集まってきた。それまでは女たちと共に放浪の旅を続けていたが、人数が増えれば当然それも難しくなり、やがて私たちは苦労に苦労を重ね、ついに安住可能な場所を見つけた。先立って述べた心ない者たちに怯えずに済む、とある辺境にある山岳の頂――そう、現在は「アマゾン・リリー」と呼ばれている「島」のことだ』

「……?」

 

 山岳の頂に作った『アマゾン・リリー』の前身国が、今は『凪の帯(カームベルト)』という海域の最中にポツンと浮かぶ「島」になっているとはこれ如何に? と当然の疑問を覚えるフレイではあったが、そんな彼の様子には構わず、フレイは続けて、

 

『安全で肥沃な土地と、そこを治める私の強大な力を求め、更に多くの女が庇護を求めてきた。「外敵」に対抗する為、私たち……私の女たちが直々に「外」に出向いて勧誘することも多々あった。気づけば私たちの総数は「国家」と呼ぶに相応しきものとなり、「後宮豊国(アルフヘイム)」という名もその頃につけた。そして――その時には私の名と力は全世界に広まり、身寄りのない女たちの救世主として認識されるようになった。正直、悪い気はしなかった。言ってしまえば図に乗った。最初期の女たちも含め、私はその全員と真なる意味で繋がった。当然の帰結として女たちは私の子を孕み、その後生まれた子らは、何故か全員が女だった。女で――不自然な程に湧き上がる肉欲に突き動かされるがままに、実の娘たちとも繋がり、子を成した。……ああ、わかっている。異常なことだ。当時からその自覚はあった』

 

 何かを咎めるような表情で口を開こうとしたフレイを片手で制したフロディは、更に、

 

『実の娘たちと繋がり、子を成すことの危険性については、当然私も認知していた。認知していて――にも関わらず、私は自身の欲を抑えられなかった。否、抑えようともしなかった。娘たちは私を求め、私も娘たちを求めた。そんな彼女らに負けじと愛情を向けてくる女たちも手当たり次第に孕ませ――その末に生まれた子らも(みな)、女ばかりだった。しかも、半分以上が近親間の情交によって作られた命であるにも関わらず、全員が壮健で――また、最初期に抱いた者たちも含め、私の種を受けた女たちは全員が、いつまで経っても若々しいままだった。私もだ。いや、私に至っては、国を興す以前に、今後の私を思ってその身命を賭した「オペオペ」の異能を持つ女の功によって、「不老」の身になっていた。これにより、恐らくは私の種を定期的に胎に受けることを条件に、いつまでも若々しい女たちと、そんなことは関係なしに「老い」という概念から解き放たれた私は、毎日のように子を作り続けた。お前が最近習得した「分体」の召喚――「輝く者(スキールニル)」も活用した。既に気づいているかもしれんが、アレから出る種でも、本体(こちら)から「許可」を与えれば、種を受けた女を孕ませることができて――いよいよもって、私たちは止まらなくなった。さっきも言ったが、図に乗った――増長したのだ。その結果、ついにはやってはいけないことにまで手を出した』

 

 ここまで終始ロボットのような表情で淡々と言葉を並べていたフロディに、初めて明確な変化が起きた。眉根を限界まで寄せ、目を伏せ、歯を食いしばり――明らかに、何かを深く悔やんでいる様子で、

 

『――「侵略」だ。「外」に出向いて有望そうな人員(おんな)を勧誘するという穏やかなやり方ではない。それよりもっと過激な――「暴力」による「搾取」。それを、周囲の国々に対して行ったのだ。物資、土地、そして女――私は、私たちはその全てを奪った。……そう、私を愛した女たちの誰ひとりとして、それを咎めたりはしなかった。あるいは、女たちのほうが私をけしかけたのか……。相変わらずこの辺りの記憶は不明瞭だが――いや、スマン、言い訳だ。過程はどうであれ、私は驕ったのだ。「ジョイ」の手によって「支配」の鎖から解放された身にも関わらず、今度は私のほうが支配する側に立っていた。土地を奪い、宝を奪い、逆らう者は殺し、そして――目についた女たちは捕らえ、問答無用で犯した。既に恋人や夫がいる女であろうと関係なく、だ。当然そういった女たちは、最初こそは私に抵抗し、罵声を浴びせてきたものの、私が一度種を植えてやるだけで、まるでそれらが嘘であったかのように従順になった。言ってみれば隷属した。これも恐らくは「豊穣」の異能(ちから)なのだろう……。これによって私は一層傲慢になり、かつて、私を()()()()()貴族以上の下劣な存在に成り果て、そして――』

 

 フロディは、自らの顔を両手で覆った。フレイは、何と声をかければ良いのかもわからずに途方に暮れていたが――ややあってフロディは手を離し、それをじっと見つめながら次のように述べた。

 

『――そして、「彼」が来た。「ジョイ」が。当然、友好的な意味ではない――いや、あるいは友好的と言えるのかもしれない。かつて救った私の行いに心を痛め、それ以上罪を重ねさせない為に来たというのなら、だが……。とにかく、全ての弱き者たちの味方、「解放の戦士」であるジョイは、当然の摂理として、際限なく「支配」の手を広げていた私たちと対立し――そして、私たちは敗れた。完敗だ。力と権力による「支配」がどれだけ残酷なものなのかを知っていた筈の愚者の支配(それ)は、「自由」を体現する戦士の手によって終わりを迎えた。幼き日の「支配」から私を救ったのも――その後増長し、「支配」する側になった私を止めたのも、どちらも「ジョイ」だった。どちらか片方だけでも他の人間だったらあるいはわからなかったかもしれないが――同じ人物。尊敬し続けていた人物から否定され、諭されたことで、ようやく私は理解したのだ。自分の愚かさと醜さを』

 

 食いしばったフロディの奥歯から鳴るギリギリとした音が、フレイの耳にまで届いた。この時に至ってもまだ、フレイは、今や涙さえ滲ませている、長く、波打った髪と口髭が特徴的な男になんと声をかけてよいのかわからず――今度はそこに、何とも気持ちの悪い胃もたれのような感覚が加わった。たった今聞いたことを綺麗サッパリ忘れられたらどんなに良いだろうと、そう思った。

 

『敗北し、傷つき、疲れ果て、心まで打ちのめされた私は、奪った土地を放棄し、まだ犯していない捕虜(おんな)を解放し、「後宮豊国(アルフヘイム)」へと帰還した。敗北したこと自体も当然ショックだったが、一番のショックは、自分と相対した際にジョイが見せた苦渋の表情で――かつての恩人にそんな顔をさせたことを、そんな顔をさせるような所業に手を染めた自分自身を、私は心底嫌悪し、侮蔑した。最早私は、自分が自分でいることに耐えられなかった。これ以上、自分のような人間がこの世にいるべきではないと――しかし、先ほども述べたように、私は「不老」の身だった。女たちにしても似たようなものだ。定期的に私の種を受け取っている限りは、ほぼ永遠にその若さを保ち続ける。そして、そうではない「ジョイ」が寿命を迎えれば、「自由の象徴(かれ)」の死を知った「支配の権化(わたし)」は再び驕り、侵略の手を広げ始めるだろうと、私は確信していた――他ならぬ私自身のことであるが故に。……当然、そんなことがあっていいのかと言われれば、否だ。私は自死を決断した。それをすれば、既に私の種無くしては生きていけない身となった大多数の女たちが後を追うとわかっていたにも関わらず、だ。当然反発はあったが、同じように心変わりしてくれた女たち――主に、私が最初期から囲っていた女たちだ――が協力してくれたこともあって、結果、私は私自身の手でその人生に幕を下ろすことに成功した。……が、その前にいくつかの「保険」をかけた』

「保険?」

 

 フレイは眉をひそめた。それを受けてフロディはああ、と再度首肯を返して見せると、

 

『まずは、残された国民(おんな)たちが無事に余生を過ごせるように計らうこと。具体的には、当時もっとも大きな勢力を誇っていた、いくつかの国から成る「連合軍」――今は「世界政府」と呼ばれている組織のことだが――それを率いている者たちに嘆願した。自分の命と引き換えに、残された女たちは見逃して欲しい、と。始めに言った「後宮豊国(アルフヘイム)」から「アマゾン・リリー」への国名の改めも、それを理由としたものだ。……正直、そんな口約束(もの)を律儀に守るような者たちではないとわかってはいたが、そこは大した問題ではなかった。どの道、私たちが住む山岳(くに)は滅多なことでは入れない過酷な環境下にあったし、自分たちにはもう侵略の手を広げる意思はない、と示すことのほうが重要だった。国に残った女たちでも、過剰な「外」への遠征は控えろと厳命した。……が、女たちには、他にも伝えるべきことがあった。それが――』

「――残された女たちの身にいずれ表れることになる、『恋煩い』について、だな……」

 

 フレイがフロディの言葉を奪った。ここからシャッキーが語ってくれたことに繋がるのかと思い、その内の一部を想起した。具体的には、

 

 ――禁断症状が出るの。一度『恩恵(せいえき)』を授かった人間は、その後一定の期間内に再度『恩恵(せいえき)』を授からなければ、ね。心身の不具合に始まり、まともに動けない程の高熱……。最悪の場合は――というもので。

 

 同じく、フレイの「内」からシャッキーの説明を聞いていたに違いないフロディは、「そうだ」とフレイの言葉を短く肯定すると、

 

『まだ私が「ジョイ」に止められ、諭されるよりも前――手を広げ過ぎ、孕み妻(おんな)を増やし過ぎた影響で「分体」の召喚も追いつかなくなった結果、()()()()()女が続出した時期があり、その時にようやく私も、今は『恋煩い』と呼ばれているソレ……。私の種による『恩恵』の副作用について知った。それでも侵略と支配の手を緩めようとしなかった辺り、当時の私は本当に色々とどうしようもないが――とにかく、重要なのは、そういった副作用が、私がいなくなった後も生まれてくる、何の罪もない娘たちにも受け継がれてしまうということを、当時の私が知っていたということだ』

「どうしてそんなことが――?」

『信じられないかもしれんが、当時の文明レベルは、今の時代よりも遥かに上だった。当然医学も……。『命の設計図』、すなわちDN――今は「血統因子」と呼ばれているのだったか? それを検査することでわかったことだ。時には命にさえ関わる「恋煩い」は私の死後も代々血の繋がりと共に継承され、そしてそれは、いつしか私の子孫たちを滅びの道に追いやるほど深刻なものになるであろうことも。更には……それを解決できる者がいるとすれば、それは、私と同じ「異能(のうりょく)」を身に宿した男以外に他ならないだろうということも、だ』

「…………」

 

 よくわからない単語が出てきた前半はともかく、後半の内容については先立ってのシャッキーの説明のお陰でおおよそ把握していた為、フレイは、次に続くフロディの台詞の内容をある程度は予測することができた。そして事実、直後に放たれたフロディの言葉は以下のようなものだった。

 

『故に私は、先に言った「組織」の首魁たちの目前で果てる前に、残った孕み妻(おんな)たちの代表――2代目の皇帝にハッキリと伝えた。……「もしも遠い未来に、国の存続に関わる程に似たような症状の国民が出続けた場合には、自分の能力を受け継いだ男をその時代の皇帝に据えよ」、と。そして――』

「――その言葉を脈々と受け継いできたグロリオーサさんたちが見つけた『後継者』が、おれって訳か……」

 

 と、2度目となる台詞の引き継ぎを行ったフレイと、そんな彼に対して何度目かの首肯を返したフロディは、続けて、

 

『そうだ……。愚かな私と、当時私に従った女たちの罪過を押し付けるような形になって申し訳ないが――それでも、お前はその役目を引き受けてくれた。言うまでもなく、そのことには感謝している。が……』

 

 ここで一旦言葉を途切らせたフロディは、ハァっと小さく吐息をついて見せると、

 

『その前に立ちふさがった壁は、想像以上に強大だったようだな? ……「カイドウ」に、「ビッグ・マム」だったが――私が存命だった頃にも、あれ程の豪傑はそうはいなかったぞ。それを二人同時に相手するとすれば、敗北するのも致し方あるまい……。あの猪口才(ちょこざい)な針金男の存在を抜きにしてもな……』

「まだ負けた訳じゃない」

 

 ギリギリと食いしばった歯の間から、フレイが言葉を漏らした。

 

「アンタがおれを現実に戻してさえくれれば、すぐにでも勝ちを拾って見せる。そうしてやる――そうしなきゃならないんだ! おれは!」

『……つまり、私の話を聞いても、帰還を望む心は変わらぬと、そういうことか?』

 

 獲物を狙う肉食獣のように――フレイを中心とした円を描くようにゆったりと歩きながら、フロディが言った。

 

『既に気づいているだろうが、お前と私の生い立ちは驚くほど似ている。自分を想ってくれる女たちの為に「権力」……「名声」……どんな形であれ、「力」を渇望するその姿勢も……。つまり、このまま「現実」の肉体に意識を戻し、なんとかあのふたりを打倒せしめたところで、お前は、私と同じように「侵略」と「支配」の道を征く可能性が高い。あの日和という女子(おなご)の母の言葉を尊重し、カイドウという大男の命を20年先まで――いや、今となってはもう19年か――見逃すというのなら尚のことだ。奴の戦力に対抗する為、お前はその「異能(のうりょく)」を十全に使い、数多の女たちを抱き、魂から服従させ、子を……「決戦」の為の戦力を産ませることになるだろう。あの「しのぶ」という女子(おなご)の、成長を促す異能(のうりょく)も使うのだろうな? そうでなければ、同じく戦力の増強を図るに違いないカイドウとやらには、とても追いつけないが故に……』

 

 相変わらず、円を描くように歩きながら自分を見つめるフロディの視線がわずかに細まった。フレイの頬に、ひと筋の冷や汗が伝った。

 

『……そうなればやはり、愚かだった頃の私の再来となる可能性は高い。別に、数多の女を囲うこと自体が駄目という訳ではない。そこまでの道筋を過激なものに変えないのかが不安なのだ……。過ぎた「権力」と物理的な「力」は、容易に人を変える。例え、当初の志がどれだけ崇高で純粋なものであろうとも……。私を()()()()()権力者も、お前たちが「天竜人」と呼んで恐れる者たちも、あるいは似たような過程を経てそうした存在になったのかもしれぬ……。であれば、お前も同じような存在にならぬ保証などどこにもなく、また、可能性も決して低くはないということがわかるだろう。私が恩人である「ジョイ」を失望させ、自分が救った人間を打ち倒すという苦行を強いたように、お前も、お前が尊敬するあの「ガープ」という海の憲兵に、同じようなことをさせてしまうかもしれない。……それに――』

 

 フロディがパチンと指を鳴らした。途端に、辺りの霧が黄金色に変わると同時に形を成し、数秒後には大勢の裸の美女がそこに佇んでいた。

 

 オルビア、ロビン、ステューシー、ハンコック――更には、(フロディの言葉を信じるなら)フレイが将来抱くことになるらしいナミ、カリファ、ビビを含めた、その他大勢の美女たちがそこにいて――しかし、全員が不思議と虚ろな表情だった。まるで物言わぬ人形のようだった。フレイは思わず、脇に提げた両手を熊手の形にしてミシリと力を込めた。両の手の甲に血管が浮かび上がった。

 

『――それに、お前が心のどこかで、今の「現実」に辟易とし、ただただ女たちとの享楽に溺れる日々を過ごしたいと願っているのも事実なのだ。これは、私が捏造した、お前の身体を乗っ取る為の方便ではない。お前はそのことを自覚している筈だ……』

「…………」

 

 フレイは無言だった。ただ黙って、周囲の女たちがゆっくりと自分に侍り、身体のあちこちを撫でたり唇を落としたりするのを抵抗せずに受け入れながら――フロディを睨んだ。不意にピタリと足を止めたフロディの視線が、それと重なった。

 

『今一度言う――望むなら、好きなだけ()()にいさせてやる。ただただ愛と快楽を享受しているだけで、全てが完結する淫欲の世界。お前に奉仕することだけを生きがいとする美姫のみで構成された、男の楽園(てんごく)に。ただし……』

 

 わずかな間があった。フレイはあえて何も言わず、フロディの目を見つめ続けた。相変わらず色のない表情ではあったが、今のフレイには何故か、それが無理して取り繕ったもののように感じられた。

 

『ただし……それでも尚、現実に戻り戦うことを選ぶというのなら――いいだろう。私はそれに手を貸そう。お前の身に、「異能(のうりょく)」と共に宿った私の意思……「私自身」をお前の力の糧とし、「覚醒」とやらに至らせることで、だ。そうすれば、あるいは――お前の生まれ持っての才能に、私の知識と経験と「生命力(ちから)」が合わさればあるいは、あのふたりの豪傑をも倒し得るかもしれん。……絶対にそうなると言い切れないところが、あのふたりの厄介なところだが……』

「……アンタは、おれの身体を乗っ取りたかったんじゃないのか?」

 

 フレイが言った。純粋な疑問だった。

 

『いや、ない』

 

 フロディは即答した。

 

『他の「悪魔の実(どうるい)」はどうかは知らないが、少なくとも私にそうした渇望はない。ただ、私の話を聞いたお前が自身の未来に恐れを抱いたのなら、私にはそうならずに済む道を提示する責任がある……というだけの話だ。何も聞かせず、「力」の授与と怪我の治療だけを済ませて現実に戻すという選択肢は始めからなかった。かつての愚かな私……その再来を防ぐ為に忠告せずにはいられなかったが故に。……まあ、いずれにせよ――』

 

 フロディはそこでひとつの嘆息を挟むと、

 

『――いずれにせよ、私にはもうその「資格」はない。私と同じ道を辿る()()()()()()というだけで、実際に支配と略奪の限りを尽くした私が――恩人(ジョイ)を失望させた私が、再び「生」を得るなど……。それが、お前の「肉体」と「未来」を奪った上でというなら、尚のことだ』

「…………」

 

 フレイは沈黙した。フロディは本当に、ただ自分の「答え」を聞きたいだけなのだと確信した。『見聞色』を使わずとも、そこに一片の虚実も混じっていないということがよくわかった。もっとも、この精神世界においても『見聞色(それ)』を十全に使えるのかは、正直かなり疑問だが――とにかく、

 

「……フロディ。悪いけどおれは、アンタが安心できるような答えを返すことはできない」

 

 侍ってくる女たちをゆっくりと引き剥がし、押し退けた後でフレイが言った。たちまち、女たちの姿が黄金の粒子となって煙のように消失し、そんな中でフレイは、

 

「元々おれは――今回の『作戦』の件で特に痛感したが――そんなに頭が良い方じゃないし、口も上手くない。だからアンタが安心できるような未来設計は語れないし、そもそも今この場では思いつかない――けど……」

 

 胸の前辺りで開いた自身の右の手の平を見つめながら、フレイは更に、

 

「……けど、ひとつだけハッキリと言えることがある。それは――こんな、奴隷上がりで大した教養がない野良犬みたいな(おれ)でも……そんな(おれ)が起き上がるのを待ってくれている女たちが、『現実』の世界に確かにいるってことだ。そしておれは……そんなアイツらに報いなきゃいけない。オルビア、ステューシー、ロビン、シャーリー、日和、しのぶ、ヤマト、そしてシャクヤク――誰かひとりだけでも、おれなんかじゃ到底釣り合わないぐらいに『いい女』ばかりで……だから……!」

 

 途端に、両の眼にキッと決意の炎を灯し、それを正面に来ていたフロディの顔に向けたフレイは、以下のように続けた。

 

「だから……おれには『責任』がある! 星の数ほどもいる男の中から、おれみたいな奴隷崩れの野良犬を選んでくれたアイツらを安心させてやる『責任』が――その決断に応えてやる『責任』があって、何より……!」

 

 そこで一旦、フレイは一拍の間を設けると、

 

「……何より! おれ自身が、『責任』以前にアイツらを安心(そう)させたいと思ってるから――ひとりの男として、あの最高の女たちの前でカッコつけたいと思ってるから! ……だから頼む! おれを現実の世界に帰してくれ! 難しい理屈も、起こるかもしれない『不穏な未来』の話も抜きにして――ただ単純に、自分に惚れてくれた女たちにカッコいいところを見せてやりたい! 馬鹿馬鹿しくて単純な話かもしれないけど、それが今のおれの全てだ――建て前も何もない、心の底からの本音だ! だから……!」

 

 フレイは口を噤んだ。語彙が尽きてしまったのだ。ここまでに述べたことはありのままの本心ではあったが、こんな口上でフロディが納得してくれるのか、正直自信がなかった――が、

 

『……「惚れた女たちの前でカッコつけたいだけ」、か――予想していたよりもずっと俗な理由で……且つ、純粋な理由だな。そして……』

 

 だからこそ悪くない――と。 

 

 そう言いながらもフロディは目を閉じ、一旦顔を伏せて見せて――その直前に、フレイは確かに見た。フロディの口元に、満足そうな笑みが浮かぶのを……。同時に、「未来」がどうなるかはさておき、彼が望んでいた「答え」を示すことができたのだと、そう確信した。

 

 更には、これまでの貼り付けたような彼の色のない表情が、そうした本心を悟らせない為のものであるということも――こちらの真なる胸の内を聞く為のものだったということを、フレイは確信し、そして、

 

『……いいだろう。言うべきことは全て話した。私の過ち、私の生い立ち……それと酷似した道を辿っているお前が行き着く可能性のある「未来」。それに対する危惧も全て説明し――それでも尚「現実」への帰還を望むというのなら、私としてもお前を引き留める理由はない。これ以上、お前の精神世界(なか)に留まる理由もな……』

 

 フロディがそう言うのと同時だった。彼の身体が、馴染みのある黄金のオーラに覆われ――いや違う! フレイは瞠目した。

 

 フロディの()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……!?

 

 そしてそれが、細い金糸のように纏まった上で、フレイの身体……心臓の辺りから、その体内へと吸い込まれて行って――それと同時に感じる、圧倒的なエネルギー。決定的に欠けていた自分の中の何かが満たされていくような感覚を、フレイは確かに感じていた。

 

 そして――必然的に、フロディの身体は、足元からその実体を失っていって……。

 

「……もう、会えないのか?」

 

 短く問うフレイではあったが、内心、聞くまでもないことだとわかっていた。

 

 案の定、フロディの答えは、『さっきも言った通りだ』というもので――その後で彼は、次のように続けた。

 

『もう2度と会うことはない……が、その前にふたつ程、言っておかねばならないことがある』

「……?」

『まずひとつに、現実のお前があのふたりから負ったダメージは、私の「すべて」を渡すことでようやく回復できるかどうかと言ったところで――要するに、私が存命の頃に授かった「オペオペ」の「不老体質」……。それも受け継ぐことになるし、それだけを除いて「力」だけを受け取るということはできない。完全に混ざり合ってしまっているからだ……。永遠の命と言えば魅力的に聞こえるかもしれないが、それによる苦難も相応に多いから、ちゃんと覚悟を決めておけ。そして――』

「……そして?」

『――「ゴムゴムの実」を探せ』

「え?」

 

 フレイはキョトンとした。

 

『私を安心して「次」に行かせて欲しいという意味だ。「ゴムゴムの実」――本来は違う名前だが、私を止めてくれた「ジョイ」の異能(のうりょく)が宿った「悪魔の実」のことだ。本来は私たちの能力と同じく「ヒトヒト」の「幻獣種」で、モデルは「太陽の神(ニカ)」というそうだが――私はそれを、まだ「悪魔の実」だった頃に、周囲の人間の話を盗み聞くことで知った。他にやることがなかったからな……。お前はガープという海の憲兵さえいれば、例え自分が間違っても――と思っているようだが、あの男ももう若くない。そしてたった今言ったように、この「覚醒」をもってお前は「老い」という概念からも脱却される……。これまでにも長い間現れなかったらしいジョイの「後継者」が、今後いつ()ずるかは想像するしかない上、結局はお前の自由だが……。どうか、気を配って欲しい。「後継者(それ)」が現れた時にすぐに気づけるように――そして、いつでも手助けできるように。私としても、愚かだった頃の私よりも、お前のほうがずっと立派であっぱれな人間だと確信してはいるが……。やはり、「抑止力」は必要だ。お前が今後囲う女たちの人間性次第では、お前が望まずとも、あの暗黒時代が再現される可能性があるが故に――特にあの、ハンコックやステューシーという女には注意しろ――どうか、頼めるか? 面倒だと言って断ったところで、今さら「力」の譲渡を取り下げたりはしないが……。どうか、頼む……』

 

 フロディは、一気にこれだけのことを言った。よっぽど、自分が同じ軌跡を辿ったりしないか心配なのだな、とフレイはそう思った。

 

 フレイとしてもその気持ちはわからなくもないし、いずれにせよ、「遺言」とあらば無下にする訳にもいかない。フレイはコックリと頷き、フロディは心底安堵したような笑顔を浮かべた。

 

 そして――その頃には既に、彼の身体に残されたパーツは、既に首から上だけになっていた。やがては口元も黄金のオーラへと変換されこちらの身体へと入り込んできたが、そんな状態でも彼は言葉を発することができるらしく、

 

『さあ、そろそろ行くといい。あのふたりを倒し、愛する女たちを守る為に――方法は、既にわかっている筈だ』

「ああ――確かに()()()()()。でも、戻る前にどうしてもひとつだけ……」

『……?』

 

 フロディが怪訝そうに眉を吊り上げ、そんな彼に対してフレイはひと言。

 

「――()()()()()。この恩は忘れない」

「……っ!」

 

 最早目元だけとなったフロディのそれが驚いたように見開かれた。

 

 が、それも一瞬――彼はすぐに、その視線を、息子の成長を目の当たりにした父親のようなそれへと変えると、

 

『「イングナル・フレイ」……。800年の時を経て現れた、私の「すべて」を受け継ぐに相応しき心と身体を持つ者よ……』

「…………」

()()()……必ず幸せになれ』

「……っ! ああっ……!」

『では……さらばだ。……「ジョイ」……「リリィ」……。ようやく、私も「そっち」に……』

 

 ――そして。

 

 ゆっくりと目を閉じたフロディは――先代の『豊穣の王』、ユングリング・フロディは、その姿を完全に消した。

 

 その身の全てを黄金のオーラ……「生命力」に変え、それらはフレイの糧となった。存命中に授かったらしい、『オペオペ』なる力から受けた「不老体質」も含めて……。

 

 束の間の静寂。やがてフレイは、わずかに目元を潤ませた相貌を上に向けると、次のように唱えた(いった)

 

 

 

 

 

実り豊かな君(フレイ・イン・フロージ)』――『目覚めよ(デリング)

 

 

 

 

 ……そして、彼は帰って行く。

 

 「夢幻(ここ)」とは違って何の保証もなく、不確かで、相応の危険があり。

 

 その一方で、確かな実体を持った、愛する女たちが待つ――「現実」の世界へと。




 ジャンプ本誌で現在回収されつつある、最大級の伏線に色々とガッツリ絡む話ですので、後から矛盾が出ること請け負いの最新話となりました(震え)。

 まあアマゾン・リリーの成り立ちを含めて何を今さらって感じですが、今一度、本作品には「原作改変」、「独自解釈」、「独自設定」の要素が含まれることを念押ししておきます。根が小心者ですので……。へ、へへ……。

 ではまた、次回の更新でお会いしましょう!
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