『
ただでさえ天を覆いかねない程に長大なその体躯を、『
「ロックス海賊団の残党」、「百獣海賊団の総督」、「ワノ国の明王」――等といった、
「大事な息子」を、ポッと出の馬の骨にくれてやるものかという、自分でも驚く程にありふれた「父親」としての一面。
それを認め、受け入れ――そして、貫き通す為に至った、新たな境地。
その熱のせいで尋常ならざる上昇気流が発生し、ただでさえ昼日中の陽光を遮る程の曇天が発生――からの急成長。
同じく
◆ ◆
『
『覇気』と呼ばれる、人体に秘められた3種の
これを『武装色』のように
だからこそ強力無比で――かつて、己の境遇に絶望し、奴隷の身に甘んじていたイングナル・フレイを救った、とある「英雄」の代名詞的な技であり。
故に、軍事国家『ガルツバーグ』に属していた頃の幼少期に、噂に聞く「軍艦バック」とやらをこなしてまで――
特に正当性もなく人々を怯えさせ、支配する『天竜人』。
ただ、昔の文字を調べていたというだけで、故郷の島もろとも愛する女を消そうとした『世界政府』および『海軍』。
そして、社会的――というよりは、歴史的な立場の低さに目をつけて「魚人」や「人魚」を捕らえては売り飛ばしたり、悪徳な
それら全ての「理不尽」と「束縛」を文字通りの意味で打ち破る為に身に着けた、「自由」への
勿論、『覇王色』を纏っているという意味ではカイドウの『
カイドウの全身を覆うように展開された地獄の業火さえも打ち破り、その奥の「本体」さえも、遥か天の彼方にまで殴り飛ばす――!
◆ ◆
――
(~~~~っ! 畜……生……!)
具体的には、現在の自分とカイドウの位置関係。
彼の気迫と、それまでの言動からは予想もつかなかった
それに触発されたことで、何の工夫もなしに大技の打ち合いを選択したことを後悔した。
もっと、体格差――体重差というものを考慮するべきだった、と。
自惚れではなく、客観的な視点の下にフレイは確信していた。自身の『
……しかし。
だからこそ明らかになる――明らかに
小さいモノよりも、大きいモノの方が「強い」。
軽いモノよりも、重いモノの方が「強い」。
時と場合にもよるという反論も当然あるだろうし、それはそれで的を射ていると言えるだろうが――しかし。
現在の、自分とカイドウの
「上から下」へと巨大な炎龍の姿で
どちらに勝利の天秤が傾くかなど、いちいち考えるまでもなくて――。
「ぐあああああぁぁぁっ!?」
フレイの喉奥から苦悶の声が迸った。鉄をも溶かしかねない程の地獄の業火に
それ程の轟炎が、フレイの皮を、肉を、骨をも焼き焦がし、凄惨な黒炭へと変えていくが――無論、フレイとてそのまま焼け死ぬつもりは毛頭なくて、
「……っ……ぐっ……おっ……おおおぉぉ『
先立って、右腕を
損傷――どころか、「焼失」した端から『
それが示唆するのは当然のように、ゆくゆくは己の身体どころか、命さえも燃やし尽くされてしまうという、断じて受け入れ難い、抗わなければならない未来で。
カイドウの身を覆っている炎の熱が、先ほどよりも更に上がっているのか――あるいは、それを押し返す為に自身が右拳に込めた『覇王色』。その密度と出力を維持するのに手一杯で、『
きっと両方だろう。ギリギリのところで冷静さを保っている頭の片隅で、フレイはそのように判断した。無論、
カイドウのほうも、そんな現状――自身の優勢をハッキリと自覚しているのだろう。視界を埋め尽くす轟炎の鎧のせいでその表情を窺い知ることは叶わなかったが、その向こう側から放たれたカイドウの次の台詞を、フレイはハッキリと聞いた。いわく、
「――
と、こちらを端的に称賛したかと思うと、
「お前は、本当によくやった!! ……嫌味じゃねえぞ? 正真正銘、本心からの言葉で――実際のところ、
ガギギギガギギっ! ガガギギガギゴっ!! ……と。
幾筋もの赤黒い稲光が周囲に拡散し、大気を震わせる程の不協和音――『覇王色』を纏った超強力な攻撃同士を衝突させたことで生じた轟音が諸島全体に響き渡る状況下で、カイドウは更に、
「皮肉だが――それがかえって、心の奥底に埋もれていたおれの『本心』を引っ張り出した! ……いや、『本心』ってのは少し違うか……! 別に、嫌々海賊の頭をやっていたわけでもねえ――が、それはともかく!」
「…………っ!!」
当然、フレイからすれば、そんなカイドウの台詞に応じる余裕はない。まったくない。
ただひたすらに『覇王色』を最大出力で展開し、「宙を駆ける体術」――『
『覚醒』直後から見せていた余裕そうな態度は、既に見る影もなかった。死に物狂いで、焼け崩れていく体を端から再生させていって――そんな彼に対して、カイドウは次のように続けた。
「……
「息子」って何だ、
ちょっとでも気を抜けば――『
また、「巨大化」や「分体」という、まだ見せていないカードを切るべきかとも思ったが即座に却下した。そんな余裕も余力もなければ決め手に欠ける上、何より、ほんのコンマ数秒でもそういった別の
「何度でも言うが、本当に皮肉だな……!!」
今一度、カイドウが言った。
「『惚れた女たちの前でカッコつけたいだけ』――だったか? テメェが『覚醒』に至るきっかけになったその想いが――その内のひとりである
ギギギギギィッ……!! と。
徐々に――本当に徐々にではあるが、互いの『
カイドウが身に纏っている炎龍の鎧。その口蓋部分にズラリと並んだ炎の牙が、少しずつフレイの身に近づき始めたのだ。
フレイは目を見開き、一層『覇王色』の出力を高めた――否、高めようとしたが、無駄だった。
重力も味方につけた、天を覆いかねない程の
それに抗い、押し返す為に既に限界以上の『覇王色』を展開し、『
(~~~~っ! くっ……そ……! 覇気の……『覇王色』の出力は同等の筈なんだ……! せめて……せめて「逆」だったら……! 「上から下」に攻撃しているのが……! 重力を味方につけているのがおれだったら……!)
当然、どういった位置関係でせめぎ合おうと、遥かに体格と体重で勝るカイドウが有利であることは疑いようがないだろうが、それでも――それらが十全に作用されてしまう現在の位置関係よりはマシだっただろうに、と。
そんな先に立たない後悔をするフレイに対して、カイドウは更に、
「もう一度言うが――自分でも驚きだ!! いくら血が繋がっているとはいえ! まさかおれが! ここまで
その時だった。互いの攻撃の中間でせめぎ合い、周囲に拡散されていた『覇王色』の稲光。赤黒いそれの内の一本――ひと筋が、フレイのこめかみの辺りを掠めたのは。
……と同時に、彼の脳裏に流れ込んできたのは――フレイの意思とは関係なく流れ込んだ上で脳裏に映し出されたのは、彼にとってはまったく身に覚えのない記憶で。
(……っ!? な……にっ……!? 何、だ……!?)
――スゲェ! スゲェぞ! カイドウの奴……! まだほんの10歳だってのに……! 間違いなく、国で最強の兵士だ!
――どうして戦争を続けるのかって? なんだ、まだ誰からも聞いてねェのか……。
(こ……れは……!? 「記憶」……!? まさか……カイドウの記憶か……!?)
――『天竜人』だよ。……ああ、世界で一番……この国の王様よりも、もっとずっと偉い連中のことさ。そいつらに、おれたちの「人権」を認めて貰う為に……! その為に必要な『天上金』を確保する為に、おれたちは
――なんでそんな奴らに従うのかって? オイオイ、滅多なことを言うんじゃねえ。連中に常識は通じねえし、マジでおれたちのことを奴隷どころか、虫か何かのように思ってやがるんだ……。今はまだ「益虫」として生かされてるが……。もし、今お前が言ったような言葉が耳に入って、「害虫」と見なされようものなら……。「人権」どころじゃねえ。おれたちの命……は当然として、下手したら、この国そのものが消されちまうかもしれねェんだぞ……!?
(『覇気』に……カイドウの記憶が乗って……! 頭に……流れ込んでくる……!? そんな……ことが……!?)
――カイドウ……! お前は今日から政府お抱えの兵士に……「海兵」になれ。……よせ! 抵抗するな……! お前は
――報告! 例のウォッカ王国で徴兵した男が逃げ出しました! ……と思ったら、そう遠くない駐屯地に乗り込んだ挙句すぐ捕まったらしく……! 腹が減ったとかなんとか……!
(……っ。……ああっ……そうか……。カイドウ……お前は……)
――『ロックス海賊団』に
――って、壊滅!? 『ゴッドバレー』って島で!? 一体どうして……仲間割れか!? チームワークの欠片もねえところが唯一の弱点だったし、負ける要因があるとすれば、それぐらいしか……!
(お前は……おれと違って……
――あんたがカイドウだね!? 「見習い」だったにも関わらず、『ロックス』の残党たちの中でも指折りってもっぱらの噂の……! キョキョキョキョキョッ……! 所詮人間も「動物」……! にも関わらず、下らねえ上辺を気にする輩が何と多いことか……! そんな中、ずっと探してたんだ……! アンタみたいに、「動物」としての在り方……! 「弱肉強食」を体現する「本物」の存在をね……!
――もし、わしの言うことに少しでも共感できたなら……キョキョキョキョッ! 「いい話」があるんだよ! 聞いてくれるかい……?
(バレット……! オルビア……! 常に誰かの存在を、心の「拠り所」にしながら生きてきたおれとは、
強くなる筈だよな――と。
そこまで考えたところで、フレイはふと疑問に思った。
たった今想起した、『ガルツバーグ』で少年兵をやっていた頃の友人(と、こちらのほうが一方的に認識している)バレットに、その後、童貞を捧げるに至る程の関係となったオルビア――および、その後に出会った、彼女に負けず劣らずの魅力と、自身との相性の良さを兼ね備えた
全員が、先述したように自身の心の「拠り所」であり、ここまでの困難を打ち破ってきた「力」の源となった者たちだが――
そもそも、現在自分が繰り出している「この技」は、元は誰のモノだっただろうか? とも。
他にも、もうひとり……。バレットやオルビアと邂逅する以前に出会った、ふたり以上の大きな心の「拠り所」――否、「
今の自身を形作るきっかけとなった、「
しかし、無理だった。記憶を探る作業に集中するには、現在の状況が鬼畜過ぎた。
ほんの少しでも気を抜き、『覇気』、『
「殺すのは心底惜しいぜ……!」
カイドウの口上は続いていた。
「おれをここまで追いつめたんだ……! 今なら、ヤマトとの関係を認めた上で、他の女たち共々部下として迎えてやってもいい、っつう気持ちも相当にあるが――それに恭順するぐらいなら、お前はそもそもここまでやれてねェだろうし、いずれにせよそんな下らねェ『情け』は、ここまでよくやったお前に対する、最大の侮辱だろう――」
言って、カッ! と両目を見開いたカイドウは更に、
「――だから! ここで! おれが――おれ自身の手で! ちゃんと
もはやこれ以上はないと思っていた――というよりは、これ以上はないと思いたかったカイドウの『
――否、迸らなかった。既に喉も焼かれ、叫ぶことさえもままならず――どころか、かろうじて人としての「原型」を留め、両目以外を黒焦げにされた哀れな人型の黒炭がそこにあった。
おでんが味わったという『釜茹で』のほうがまだマシなのではと思える程の地獄の業火。魂まで燃やされてしまうのではと危惧してしまう程の炎熱。
それでもまだ、唯一黒焦げになっていない両の瞳。『覚醒』を経て紅から碧に変色した双眸をギラギラと輝かせながら、『覇王色』込みの拳を「中途半端」に突き出している――腕を伸ばし切っていない――フレイに対して、カイドウは、
「……そんな、かろうじて人の形を保ってるだけの消し炭みてえな状態で、よくもまぁ持ちこたえられるな……! さっき見せた『再生能力』で帳尻を合わせてるのか……!? ……だが! 今のお前も! アイツと――おでんと同じだ! その身体はもうとっくに
「――――っ」
フレイは息を飲んだ。肉体と併せてとうの昔に限界を超えていた精神が、急速な勢いで「妥協」の2文字に浸食されていき――
たった今放たれた言葉も嘘ではない。何故かフレイにはそれが確信できた。
それはきっと、海軍や政府に捕らえられてしまうよりは遥かに安心できる良い未来の筈だと、そう思って――そう、「妥協」してしまって。
「だから――だから! もう……!
カイドウが言った。彼に向かって中途半端に伸ばされていたフレイの右拳からフッと力が抜け、握りが緩んだ。
と同時に、そうなることを察していたかのように、カイドウは、
「……
そんな気勢の声と共に――ガブジュリュウゥッ! と。
非情で無情な音と共に、身に纏った『
それでもやはり、ボロボロに焼け焦げた声帯では叫び声を上げることさえできなくて――何ならもう、痛みや熱ささえも感じなくなってきていて。
そんな極限の状況の中で、フレイは確かに見た――走馬灯、というヤツだろうか? 視界一杯を埋め尽くす地獄の業火と重なるようにして映し出された、真っ白な空間。
そこに立つ、生涯初の友――重ねて述べるが、少なくともフレイの方はそう思っている――図抜けた巨体に赤銅色の肌、ドレッドヘア―にした金髪をオールバックにし、腕を組んでこちらに背を向けているバレットと。
そんな彼とは対照的に、自身の胸に手を当てながら、悲し気な表情でこちらを見つめている――自身に「女」という存在の素晴らしさを教えてくれた、オルビアの姿を。
次には、出会った順に、ステューシー、ロビン、シャクヤク、シャーリー、日和、ヤマト、しのぶと言った、今まさに、死にゆく自分の姿をスクリーン越しに見ているに違いない、自身が情を交わした女たちの姿を。
全員が、特にフレイを責めている様子はなく、むしろここまでの健闘を労うような、悲しそうでありながらも優しい笑みを浮かべていて。
だからこそ、フレイは、
「ごめん……な……。バレット……」
いつかおれを殺してやるっていうお前の願いは、叶えてやれそうにない――と、そう思うと同時に、忙しなく『
「スマン……。オルビア……」
次には、『
「許してくれ……。ステューシー……ロビン……皆……」
同じように、もう片方の足と左腕が同じような末路を辿り――後には、右拳が中途半端に突き出されているだけの、不格好な
そうやって肉体の各部を「焼」滅させていくのと、フレイの脳内で、先に想起した大事な者たちの姿が
彼女らに対する申し訳なさがそうした幻覚を生み出しているのだろうと、フレイは、現実の肉体と共に焼け爛れていく思考の片隅でそう思った。
……と、そうしたことを考えている間にもバレットが。
オルビアが。
ステューシーが。
ロビンが。
シャーリーが。
シャクヤクが。
日和が。
ヤマトが。
しのぶが。
その姿を、フレイの眼前から次々と消していって――というよりは、現実の彼の肉体を蝕んでいる、『
――
(…………?)
あとひとり、残っていた。
かつての友であるバレットと、オルビアやステューシーといった愛する女たちが消え去ったその場所。
死に際のフレイの脳内に作り出された純白の世界に、もうひとり。
一体誰だろう? 口蓋を閉じた『
ここまで危機的な状況下で自分が思い浮かべるような人物など、先のバレットやオルビアたち以外にはとんと思い当たらないが、一体誰だろうか? と。
そう、思って。
そう、
――くっそ! ■■■さん……! 残念だが、おれと『豊拳』はもうここまでだ……!
(…………っ!)
声が、聞こえた。目前に佇む謎の人物の声ではない。何故かフレイにはそれがわかった。
というより、
徐々にフレイの記憶が鮮明になり、胸の内から、熱い――現在、自身の身を焼き尽くさんとしている『
「それ」は先ほど思い出しそうになった、バレットやオルビアと会う以前に、自分の心の最も奥深い所に刻まれた「
――だからせめて、アンタだけでも……!
――必要ねえ。
「――――っ」
フレイは息を飲んだ。後者の台詞を聞いた瞬間、ギリギリ炭化していなかった自身の心臓がひと際大きく脈動し、四肢の4分の3が失われた全身に熱い血潮を――困難に立ち向かう為の「
――と同時に、ついに「それ」の正体が露となった。
先ほどまで行われていた、カイドウの記憶の流入がまだ続いているのだろうか? 黄金の繭に包まれていた自分に背を向けていた筈の「彼」の姿が、この時のフレイの脳内では、大きく距離を取って向かい合っているような構図で映っていた。
普段より大分目線も高く、何より、少し離れた場所には、まだふくよかな体型を維持しているビッグ・マムが佇んでいるから間違いない――なんて、そんなことはどうでもよくて。
(あっ……)
フレイは、心中で呆けた声を漏らした。と同時に、背筋を起点として、ビリビリとした電流が如き衝撃が全身を駆け巡った。
短く刈り込んだ白髪混じりの黒髪に、口周りに髭を蓄え、左のコメカミから目の下にかけての三日月型の縫い傷が特徴的なその大男は、紛れもなく、現在の自分を形作るきっかけとなった「
(ああっ……!)
――
(……『ガープ』……さん……! そう……だ……! そうだ! おれは……おれは――!)
フレイはハッキリと「それ」を思い出し――その直後だった。
「おっ……」
元の紅色に戻りかけていた彼の双眸が、再び碧い煌めきを取り戻すと同時に、
「おぉっ……!」
――カラァー……ン! という。
例の、荘厳な鐘の音が鳴り響いたのは。
「おおおおおおおおおおぉぉぉぉぉっ!!」
直後だった。たった一度だけ鳴った
これにより、彼の全身を焼き砕いていた『
右腕以外の四肢を焼失させ、双眸以外を炭化させた状態――極めてグロテスクでショッキングな状態になっていたフレイの身体が、みるみる内に修復、再生されていったのは。
失った筈の手が、足が、さながら尋常ならざる速さで成長する植物のようにニョキニョキと生え揃っていって――
右胸と肩を露出させているのが特徴的な――先立って、意識の世界で対面した、自身が食した『悪魔の実』の「前任者」。先代の『豊穣の王』ことユングリング・フロディが纏っていたそれと同じ
「……馬鹿な!? 完全に死に体だった筈だぞ!? 一体何が――!?」
と、当然のようにカイドウが驚いている間にも、次なる変化。
カイドウの『
それらが混ざり合ったかと思うと、例の、ここまでに何度か見せていた『黄金の覇王色』――それが、とてつもない出力を伴って展開されたのだ。
それは、先ほどフレイの全身を噛み砕いた勢いのまま、その身を地面に叩きつけようとしていた炎龍の頭部――を纏っていた「
「……っ! また……
と、
……もっとも、数分前までの彼だったら、答えるかどうか以前に、その「答え」自体を持ち合わせていなかっただろうが――今は違う! 今こそ彼は、ここまで無意識の内に展開してきた「それ」――『黄金の覇王色』、その正体を把握することに成功していた。フレイ自身も――ここまでに何度か使用しつつも――普通の『覇王色』とどう違うのか? と疑問に思っていたのだが、ついに!
『活性化』。
それこそが、自身が食した悪魔の実――『ヒトヒトの実』幻獣種、モデル『
自身の「生命力」、もしくは『
それを更に任意の形に寄り固めて結晶化――物質化させて、『
なるほど、それも確かに強力で、事実、フレイもここまで散々頼ってきたが――何せ、「素」となっているのが「生命力」なのだ。となれば、本領を発揮するのはきっと「こっち」だろう、とフレイは思った。
予兆はあったのだ。2年ほど前の、『オハラ』に向けて行われた『バスターコール』の際に、その為に派遣された中将たちにステューシーが説明した(らしい)ことからもわかるように――「能力」を宿したフレイの「体液」を蓄えた「
先立って、『覇海』によってボロボロになっていた筈のフレイの身体が、元通りに復活したように。
『
そして――たった今、『
自身、もしくは「
3種の『覇気』の中でも、本来なら、生物としての「格」を上げることでしか成長を見込めない筈の『覇王色の覇気』! 「生命力」を消費することでそれの大幅な「
自己治癒能力という、生来の身体機能の範疇を遥かに超えた、欠けた四肢の修復さえも可能とする程の「
それこそが、自身が食した『悪魔の実』の『覚醒』した
しかし――そんな至上の力でさえ、現在の
死の一歩手前まで
引き出された底力の「源泉」。その正体が何かというと、
「一体……!」
メキメキメキッ……! と「触れない」拳撃を額にめり込まされ、着実に押し上げられながらも、カイドウは呻いた。
「一体……! どこに……!? こんだけの……! 力が……!?」
「どこにも何も――最初っから! おれの心の一番
無論、オルビアやステューシーといった、深い仲となった
同時に、フレイは
そもそもの「前提」。
自分がどうして、彼女らと出会ったのか――否、出会えたのか?
地獄と化した『ゴッドバレー』を離れ、海に出る程の気力を――「生きよう」とする意思を持つに至った理由は何か?
両親のどちらとも似つかない外見のせいで、物心ついた頃から迫害の対象にされ。
その流れのまま「天竜人」の奴隷となり。
無理矢理『悪魔の実』を食べさせられ。
挙句の果てには捨てられて死に絶えそうになり。
それに抗う気力も湧かない程に絶望していた、幼き日の自分を救ってくれたのは誰なのか――を。
今まで――そして、これからも自分の心を照らしてくれるに違いない、
モンキー・D・ガープという「
「……さっきも言ったように、
碧い目を爛々と輝かせながら、フレイが言った。カイドウが「……!?」と更に困惑した表情を浮かべたが、元より自分自身に言い聞かせることを目的とした台詞であった為、フレイはそれにいちいち構ったりはせず――先ほど、脳内に走った
黄金の繭に包まれた自分を守るようにして立つクザンとガープの姿。
カイドウの記憶の
(ガープさん……! アンタは、言ってくれた!)
――と、心中でそのように続けると、
(「おれたちの勝ちだ」って、言ってくれた! 復活したおれの力なら、カイドウやビッグ・マムのふたりが相手でも勝ちが拾えると、信じてくれたんだ――もしかしたら実はまったく別の理由で、おれの自惚れである可能性もそれなりにあるけど! とにかく! そういうことにする! そう思うことにする!
ギラッ……! と、碧き両眼を一層煌めかせた上で、フレイは、
「だから――負けられねえんだよ! 例え! 百歩譲って! 『個』としての『力』が! お前に劣っていようとも――お前がどんな技や心境に目覚めて、こっちの想定を凌駕しようとも! あの人が――ガープさんが! 『
「…………っ!」
それがゼロになった時が、自分がこの「
当然、同じくそれを察していたカイドウもまた、そうはさせてなるものかとばかりに一層の『覇王色』を展開させ、『
体格の差、体重の差がモロに出る位置関係――それを凌駕する程の力! 『覚醒』した「能力」を完全に
否――フレイ
何故なら……。
「「――――っ!!」」
フレイとカイドウが同時に目を見開いた。
と同時に、気づけばふたりは、たった今まで繰り広げていた激闘が嘘のような静けさに包まれた、どこまでも白い――天地の境界線もわからないような、純白の空間に佇んでいた。
どちらも『覚醒』、もしくは変異前の元の
無論、これはただのイメージだ。一種の極限状態によって偶発的に生まれた末に互いの意識も共有され、時の流れも極めて緩やかなものとなった精神空間に他ならない。
恐らくはそれを理解しているからこそ、特に疑問を唱えたりもせずにカイドウは、
「……ふざけんな……!」
ギリリリリィッ……! と。
今にも奥歯が割れてしまいそうな程の咬合力で歯軋りしながら、彼は更に、
「お前だけじゃねえぞ……! 自分以外の存在を『力』に変えられるのは、お前だけじゃねぇ! おれだって、お前のお陰で『それ』をモノにできたんだ……! おれだって――」
不意に、カイドウの言葉が途切れた。どこからともなく――否、カイドウの背後から、謎の嗚咽が聞こえてきたからだ。位置的な関係から先に「彼女」の存在に気づいたフレイと、背後を振り返ったカイドウが今一度目を見開いた。そこにはいつの間にか、彼が言うところの、己の「力」に変えることに成功した、彼以外の存在――ヤマトの姿があって。
しかし、
『ハァッ……! ハァッ……! うぅっ……! グスッ……!』
「…………っ!」
いつの間にかカイドウの背後で蹲っていた、大人になる前のヤマトが――現実の彼女とは違い、
同じく、
フレイの肩に手を置きながら、強い意思の籠もった眼差しでカイドウを
ボタボタを涙と鼻水を流しつつも嗚咽を漏らし、両手首の錠に繋がれた鎖をジャラジャラと鳴らしながら、グウウゥッ……! という腹の音も響かせていて。
『くさりを……外してよ……! ごはんも下さい……! お父さん……クスンっ……! ぼくは……ウゥっ……! 『光月おでん』だって……! そう言い張るのが、そんなに悪いことなの……? カッコいい人にあこがれるって……そんなに……悪いことなの……? ……え~ん……! くさりでつないだり……! 何日もごはんを与えなかったり……! どうして……? クスンっ……! お父さん……! お父さんは――」
――ぼくのことが、嫌いなの? と。
そう、言って。
「…………っ」
これで何度目だろうか――カイドウの両目が、驚愕によって見開かれた。
ここまでにカイドウが見せた表情の中ではもっとも動揺し、もっとも衝撃を受けたらしい――それこそ、
束の間カイドウは、まるで言葉の紡ぎ方を忘れてしまったかのように、そんな表情のまま金魚のように口をパクパクと開閉させていたが、ややあって、
「……おれは……」
手負いの獣のような――絞り出すような口調だった。よもや、カイドウ程の男の口から、そんな
「おれは……ただ……。お前に……おでんの奴と、同じ末路を辿って欲しくなかっただけなんだ……」
あまりの消沈ぶりに、フレイは一瞬、カイドウの背丈が半分程度にまで縮んだのではないかと思った。
腰の両脇で握り締められていた彼の両拳からフッと力が抜け――それと同時だった。
泣きじゃくっていた、カイドウの背後で蹲っているほうのヤマト――大人の身体にされる以前の彼女の身体が煙のように宙に霧散し、消失したのは。
後には、ポツンと
当然そこには、カイドウに因縁もあるしのぶと日和の姿もあって、
「……折角気づけても、
カイドウが言った。何かを悟り、諦め、受け入れたような表情で――その上で彼は、改めてフレイに向き直ると、
「……それで?
「そのつもりは、ない」
頑とした口調でフレイが言った。そういった質問をされるのではないかと薄々察していた彼は、既に心の中で答えを用意していた。
「トキさん――
「ちっ……!」
心底忌々しそうに舌を打った後で、カイドウは、
「人の息子を攫い……! 妙な『能力』で一足飛びに大人にした挙句手籠めにし……! その上、そんなお前を殺そうとしたおれを
そこで一旦台詞を中断させたカイドウは、天を仰いだ上で、スウウゥーっ……! と大きく息を吸い、ハアアァーっ……! と盛大に吐き出したかと思うと、
「……仕方ねェな。オメェのほうが、おれより強い――強いと
「……カイドウ……?」
「……おい、『豊拳』――いや……イングナル・フレイ」
フレイの呟きを無視しながら、カイドウはそう言った。フレイは瞠目した。彼の記憶にある限り、カイドウがこちらの
そんな彼の様子には構わず、カイドウは続けて、
「一回しか言わねェぞ……。よく聞け……」
「……あぁ……」
「おれの……」
カイドウの顔に浮かんだ「それ」を見て、フレイはもう一度瞠目した。
カイドウが。
まるで、生まれた時から負っていた肩の荷が下りたかのような――憑き物が落ちたかのような、そんな、穏やかとも言うべき表情を浮かべていたからだ。
「……負けだ」
――と。
「……っ! 『
『
彼の戦闘スタイル、体格、癖といった諸々の要素から導き出された、
故に、強烈な憧憬を背景に、それを模倣しただけのフレイの最適解にはなり得なくて――だからこその、合わせ技。
圧倒的な憧憬に対する、神聖視していると言ってもいい過ぎた感情が、『
モンキー・D・ガープ。
過酷な運命に
その代名詞とも言える究極に拳打に、彼への憧憬を再確認することによってついに自覚するに至った、
任意の要素を――この場合は、拳を中心に最大出力で展開させた
至高にして究極の一撃。
その名も――
「――『
――――――――――――――――――――――――――――――――――――っ!! と。
ついに、フレイの煌拳とカイドウの額との間の距離がゼロにあると同時に、周囲から音という概念が消え。
フレイは数秒ほど、その状態――
そして、
「……ちっ……!」
忌々しそうに――それでいて、どことなく嬉しそうにカイドウが舌を鳴らすのを聞きながら、フレイは、
「このまま……!
叫び――直後に、ようやくの衝撃。
からの、爆音。
極めて長大な形態である筈の
これにより、カイドウの『
まるで、フレイが勝ち取った
◆ ◆
『天竜人』に対するまさかの暴力行為に端を発した、5人の超人たちによる、シャボンディ諸島66番
それが始まってから1時間34分16秒。
最後まで残ったふたりによる、「怪物」同士の戦い。
勝者――イングナル・フレイ。
……それが。
後の世に語り継がれることとなる、此度の一件。
その――結末だった。
な、長かった……。
カイドウの記憶を垣間見た件については「独自設定」のタグフルスロットルという感じですが、触れるだけで対象の記憶を読み取れるというパトリック・レッドフィールド(ゲーム作品のキャラ)の存在などを考慮すると、ありえないという程でもない……かも……?