世界をふたつに分断する程に長大な
その山頂の「中心」には、『世界貴族』――『天竜人』たちの居住区、「聖地」こと『マリージョア』が存在し、その中でも特に豪華で巨大な建築物である『パンゲア城』のとある一室。
そこから、「彼ら」は――『天竜人』の中でも「最高位」の存在、「世界最高権力」とも謳われる5人の
ベランダ越しに確認できる外の景色。その遥か遠方にて、「
その
ギリギリ、「死」には至っていない――というよりは、
それを聞いた5人共が、思わずといった様子で、そうなるまでの
これを受けた『五老星』の反応はというと、
「……やったか、イングナル・フレイ……。有言実行だな」
「――とも言い切れんだろう? ガープや『青雉』が味方についていなければ、恐らく『覚醒』さえも果たせなかった筈だ。……命令違反を行ったと言ってもいい、このふたりへの処罰も考えねばならんな? 貴重な戦力であるのと、より社会への危険度が高いカイドウとビッグ・マムの対処を優先させたという建前があるとはいえ……」
「それについては後で詰めるとして――今は、イングナル・フレイの今後を検討するべきだ。そこそこの手負いだったビッグ・マムはともかく、カイドウに関して言えば殆ど無傷――万全の奴を一対一で下したと言ってもよい結果なのだ。他の
「異論はないが……。『オハラ』の件で生き残った母娘の行動制限だけは、しかと設けねばならんぞ?」
「わかっている……。『豊拳』の言葉を信じるならば、その点については当の本人たちも納得済みとのことだ。『
「先ほど、情報部から上がってきた報告についてはどう考える? 『九蛇海賊団』の船員と『豊拳』の女たちが共にいたという情報についてだが……?」
「その前には、今回の戦いのそもそもの発端と言ってもよい一件……。『豊拳』がヤリディック聖を殴った理由が、奴隷にされそうになっていた『九蛇海賊団』の船員――3人の小娘たちを助ける為だったのでは? という推測も報告されている」
「まあ、状況的には間違いないだろうが……」
「連中の故郷……『アマゾン・リリー』の人口減少問題については、近年特に深刻になってきていると聞き及ぶ。……800年前の『初代皇帝』が遺したとされる遺言からも察するに、いずれは今代の『豊穣の王』――イングナル・フレイの捜索に乗り出すことはわかっていたが……」
「『恋患い』……だったか? 世間一般で言われるそれとは違う、『対象』となった異性を思うあまり死に至ることもあるという、先天的且つ潜在的な疾患……。改めて口にすると、なんとまあふざけた症状だが……。『豊拳』の身に宿る能力の『前任者』とされる初代皇帝が、当時の
「それが『遺伝』という形で、今代の国民たちにも受け継がれているという訳か……。その内、『フレバンス』にて発症すると
「
「……? 『恋患い』を、か……?」
「厳密には、その引き金とも言える『初代』の能力――『恩恵』と呼ばれるモノのほうだ」
「交わった女の身体能力を底上げし、一部、『奴ら』と同じ能力――例の、黄金のオーラを顕現させ、操ることも可能にさせるという力のことか」
「人の理解を超える『悪魔の実』の能力の中でも、更に稀……。他者に――既に別の
「まあ、2年前の『オハラ』に対する『バスターコール』に参加した中将たち……。正にその『恩恵』を授かったと思われる、奴の女のひとり――確か、ステューシーという名の『裏切り者』だったか――と相対した連中の報告から察するに、恐らくそれは事実なのだろうが……」
「……なるほど、奴に、可能な限りの女海兵や女エージェントといった『雌虫』共を抱かせて、戦力の底上げを計ろうという訳だな?」
「悪くない考えだ……。交わった女たちの忠誠心が、総じて『
「その辺りは検証が必要だな……。800年という時間のせいで、
「確かに不思議ではないが――同時に、仮にそれが事実だったところで問題もないだろう。海軍であれ
「その未来予想は、いささか我々に都合が良過ぎるような気もするが……。まあ、特に『豊拳』に、『
「……とりあえずは、『七武海』にした奴の働き振り――我々に対する献身の程を見極めてからでいいだろう。……大体、1年ほど様子を見て――少なくとも、差し迫った反乱の意思がないようなら、予定通り手頃な雌虫共と『交配』させるということで……どうだ?」
「そうだな……。それが堅実だ」
「人選はどうする? 少なくとも最初のひとり目については、誰でもいいという訳にはいくまい?」
「……『ギオン』、もしくは『ホトトギス』……。いや、確かこのふたりは、数いる『雌虫』の中でも特に優秀な部類だったな……。例の『恩恵』の効果が精神にまで作用する――強制的に忠誠を誓わせるような類のものである可能性を考慮すると、流石に躊躇わざるをえん……。もっと
「……確か、『新世界』の『G―16』支部に、最近活きの良い『雌虫』が栄転してきたという話を聞いたな……。確か、『ドール』とかいう……」
「とりあえずは、満場一致と思われる議題だけでもサッサと『下』に通達するべきだ……。『豊拳』イングナル・フレイに『七武海』の称号を与え、その恩赦によって、奴が囲っている女たちの
「「「「異議なし」」」」
「……まあ、『
「――ゆくゆくは、『例の動力』によって動かせるようになると思われる『あのお方』の『裁き』によって、奴が皇帝を務めることになるに違いない『女ヶ島』ごと、
◆ ◆
――と。
そんな不穏な会話が、上空1万メートル超の『
件の激闘の舞台となったシャボンディ諸島、66番
「……おい、『豊拳』。今、センゴクの奴から連絡があったぞ。クズ――もとい、『五老星』の連中が、お前の『七武海』就任を決定したらしい。引き受けるなら、そこの『オハラ』の
「――っ!! ひゃっ……はいっ! わきゃりました! どうかそれで――ありがとうございましゅっ!」
「何、わかりやすくキョドってんだお前……。それよりガープさん、他に連絡はなかったのか? その……おれたちは本来、アンタが今言った『天竜人』への暴行――その下手人である『
「ん……? ……あー……確か、数ヶ月の減給だとか降格だとか雑用仕事だとか、何か色々言ってたような……? まあ、気にする必要はねぇだろっ! ぶわっはっはっは!!」
「必要ねえ訳ねえだろ!? ……まったく、何言ってんだアンタは――最終的には流されたおれが言うのも何だけどよ……。しっかし……『天竜人』に関する命令を反故にしておきながら、その
「大スクープ……! 大スクープだ! まさか本当に、あのカイドウとビッグ・マムを倒しやがるとは……! んで、この後は、チラッと言ってた例の『同盟』だろ!? しばらくの間――確か20年、だったか――は、無駄な争いはしないでおこう、っていう……。さて、見出しのタイトルはどうするか……!」
「ちょっとモルガンズ! 『同盟』なんて書いたら間違いなく、折角の『七武海』内定の話が流れるわ! これからカイドウとビッグ・マムにフレイが持ちかける話については伏せるか――せめて、『休戦協定』という
「わ、わかってる……! そんなマジな目で脅すなって……!」
「……? ステューシー? 何の話だ? ビッグ・マムが娘を差し出すとかどうとかって……?」
「まあ、見てなさい。私の見立てなら、ビッグ・マムは間違いなくそうするでしょうから……。アレの
「一度、カイドウに全身の殆ど――内も外も――グズグズに焼かれたからなぁ……。その際に当然、焼き印があった背中の皮膚も『焼失』したんだろ。んで、そっから『
「そう……。まあ、あなたがそれでいいなら……」
――という、闇に包まれた意識の外側から、そういった台詞の数々を聞き受けたことで、カイドウは「……っ」と急速に意識を覚醒させると、仰向けに地面に横たわっていた体勢から上体だけを起こし――そんな彼に対して、今まですぐ傍で様子を看てくれていたらしい、見知らぬ痩身の大男が次のように言った。
「お、おおっ――ゴホッ……! カイドウさん……! よかった……! 目を覚ましたか……!」
「……? お前……?」
覚醒直後の為いまだ意識がハッキリとせず、額に手を当ててフルフルとかぶりを振った後で、カイドウは訝し気に、痩身の男を注視した――まったく見覚えがなかったからだ。
しかし、よく見てみると……逆三角形のサングラスに、いくつものボールを連ねるような形に結った金髪。また、その右手には、自分に代わって回収してくれたらしいカイドウの得物である『
「……クイーン、か……?」
「ああ、そうだ――ゴホッ! ゴホッ……! あえて痩せないタイプのおれがウッカリ痩せちまって、すぐにはわからなかったか? よかったぜ……! 大事なさそうでよ……! それどころか、
「…………っ」
咳き込むクイーンを無視しつつも、カイドウは、己の身体のあちこちをペタペタと触った。
確かに、クイーンが言う通り、骨の一本も折れておらず――どころか、間違いなく各所に見受けられた筈の、内出血を示す青痣も何故か消えていて――カイドウとて、自身の常識外れな頑丈さについては自覚するところではあるが、流石にこれは異常が過ぎる。何か外的な要因によって治されたとしか思えない。
具体的には、何らかの「能力」によって治癒力を促進させられたとかだ。そして、治癒力の促進という表現で真っ先に思い浮かぶのは、
「……オメェの仕業か、『豊拳』」
いつの間にか、クイーンのすぐ隣にまでやって来ていたフレイ――相変わらず、例の黄金のオーラによって生成したらしい、乳白色の
そんな総督の言葉によって、遅れながらもフレイの存在に気づいたらしいクイーンが「て、テメェッ!?」と言いながらも、銀髪紅眼の姿に戻っていたフレイに対して、握った右拳を上段に構えたが――それを、カイドウが視線も向けないまま手を上げて制した。クイーンは電流でも流されたかのようにビクッと身体を震わせたかと思うと、すぐさま不承不承といった様子で拳を下ろした上でわずかに後ずさり――そんな彼には一切の興味関心も示さぬまま、フレイは、
「……言ったろ? 終わらせるつもりはない、って。……『
「……余計なことをしやがって」
吐き捨てるようにそう言ったカイドウは、現状を把握する為にも、グルリと周囲に視線を巡らせた。
クイーンがいることから大体予想はついていたが、今回の戦いの為に連れてきたはいいものの、フレイの『
カイドウは訝し気に眉をひそめた。フレイからの慈悲に甘える形で共に撤退した筈の、ビッグ・マムの部下たちの姿もあるではないか。ひとり
そう思ったカイドウは、部下たちと同じように再度
ギリギリのところで意識を保つのがやっとのように見える、グッタリとした様子で座り込んでいるビッグ・マムの背中から、例の『
白目を剥き、わずかに開けた口の端から涎を垂らしつつも、「あ……あぁっ……」というゾンビのような呻き声を上げている彼女の様子はまさしく悲惨のひと言で、一般的な薬の処方や外科手術などでどうにかなるような状態でないことは、火を見るよりも明らかだった。
だからこそビッグ・マムの部下たちは、その「大元」であるフレイに能力を解除して貰う為に、彼女を伴って戻ってきたのだろう、と。
「……元々、
カイドウの視線に気づいたらしいフレイがそう言い、それを受けたカイドウが「布石だと……?」と疑問を呈すると、
「お前にしたのと一緒だよ。あの時、振り抜いた右足に込めていた『黄金の覇王色』――おれの『
「……やめろ、その『姉貴分』ってのは……。向こうが勝手におれを弟扱いしてるだけだ……」
憎々し気に答えつつも、カイドウは改めて周囲に視線を巡らせた。よくよく見れば、かつて同じように『ロックス海賊団』に所属していたバッキン――のクローンと思われるステューシーに、例の『
更には大柄な鮫の人魚族といった、フレイが囲っているらしい女たちに、雰囲気から察するに同じく
海賊、海軍、『オハラ』の生き残りと、それを匿っている
そして、その立役者とも言えるイングナル・フレイ。
彼が囲っている女たちの内のひとりである
それを受けて、普段の彼らしくもない狼狽えた様子を見せているガープの隣では、手配書とは違って大人の姿となっているニコ・オルビアの娘――確か、ロビンという名前だったか――と対面したクザンが、震える指で彼女を指差しながらあんぐりと口を開けて驚いていた。
少し前、フレイに連れられる形で『鬼ヶ島』を出奔したヤマト――何故か大人の身体を手に入れた彼女を初めて見た時の自分も、恐らくはあんな感じだったのだろうな、と。
カイドウは、まだ若干ぼんやりとしている頭でそう思った――ところで、
「……オイッ! 『豊拳』!」
そう遠くない位置から聞こえてきたそんな怒声を耳に受けて、カイドウが、声の主がいると思われる場所に視線を向けてみれば、そこには、例によって痩せ細った身体に成り果てた、ビッグ・マムの息子――の中でも『最高傑作』と言われ、カイドウもその顔と名を認知している『シャーロット・カタクリ』の姿があって。
手に持った三叉槍(確か、『
「さっさと、ママの背中から生えてる、あの気色悪い樹を消した上で、可能ならママを元の
思わずといった様子で、カタクリが口を噤んだ。彼の台詞を遮ったフレイの全身から、『覇気』とは違う、ヒヤリとした不吉な何かが発散されているのがカイドウにもわかった。
彼を慮っていたクイーンがゴクリと生唾を飲み込んだ上でフレイから一層距離を取り、実際に「それ」を向けられたカタクリの顔――口元をファーによって隠したそこの全体からは、大量の冷や汗が噴き出すことになって。
「さもないと――なんだよ?」
フレイが反芻した。あくまでも静かな口調だったが、有無を言わさぬ迫力があった。間違いない、とカイドウは思った。自分とビッグ・マムというふたつの『巨星』を下した――否、
「……っ。おれたちはともかく……! ママがあんな……! 植物人間みたいな状態のままじゃ、『説得』も何もないだろうが……! それじゃあお前も困るだろ……!」
絞り出すような口調でカタクリが言った。
対してフレイは、強がっているのが見え見えなカタクリを嘲るかのようにフンッ、と一度鼻を鳴らすと、
「強がりやがって……。でもまあ、確かにその通りだな……。『
そう言いつつも、フレイがパチンと指を鳴らした直後だった。ビッグ・マムの背から生えた『
それと並行して、変化前の面影も見られぬ、ミイラ一歩手前の状態となっていたビッグ・マムの身体が、徐々に元の体型を取り戻していった。
『
「……ん? アレ……?」
フレイが素っ頓狂な声を上げ、驚きつつも見守っていた面々も目をパチクリとさせた。カタクリも、カイドウもだ。
結論から言うと、ビッグ・マムは『元の
具体的には、9メートル近い長身に違わぬ、巨大過ぎる胸と臀部のボリュームは基本そのままに、それ以外の部位は殆どが細く、スラリとした状態に変わっていて。
顔も、見るからにシュッとした輪郭で、絵物語に出てくる悪い魔女のようだった大きくも丸っこかった鼻も、小さく、スッキリとしたそれに変わって――否、戻っていた。
要するにそこには、『ロックス海賊団』に所属していた頃のそれと違わぬ、9メートルという埒外の長身を除けば、出るところは出て、引っ込むべきところは引っ込んだ、男好きのする恵体を備えた、紛うことなき『美女』の姿があった。ミイラのような姿になる前のふくよか過ぎる外見からは想像もつかない、『女』としての隆盛を誇っていた頃のビッグ・マムの姿が。
「……『豊拳』? お前、気が変わったのか……?」
何だかんだでかの女傑からの強引過ぎる「求婚」に応えることにしたフレイが、自身の好みに合うように体型の
「えっ? あ、いや、ち――違う! おれにもわからねえ……! どうしてこうなったのか……!」
と、先ほどまで、カタクリに見せていた強者然とした態度はどこへやら――思わぬ結果に狼狽える美丈夫の姿がそこにあって。
「あなたの能力で『生命力』を吸った時に……ついでに、色々な『悪い物』も吸い取った、ってことなのかしら……? 過剰な脂肪とか……。でも、ある程度……というより、一見太っているように見えて、大部分は筋肉だったと思うけど……。よくわからないわね……?」
いつの間にかフレイのすぐ傍に移動した上で、彼の肩に手を置いたステューシーがそのような推測を述べれば――そうしている間にも、ビッグ・マムが早速「ん……? あ、ああ……?」と、フレイの能力によって目を覚ますことと相成って。
当然のように自身の体型の急激過ぎる
「……流石に、少しやつれたか……?」
「「「いややつれたなんてレベルじゃねえだろ!?」」」
フレイ、カイドウ、クイーンのツッコミが綺麗にハモった。奇跡の一幕だった。
感想欄で何度か示唆してきた伏線をようやく回収できました。まあ察しのいい読者の皆様には普通にバレバレでしたね。以下タイトルボツ案。
『フレザップ』
『結果にコミットする……つもりはなかったのに』
どっちにしようか割とマジで数日ほど悩みましたが、ある日突然「……うん! どっちもないな!」と正気に戻ったので、無難に「戦い終えて:上」としました。次のタイトル末尾が「中」になるか「下」になるかは、まあやはり文章量に依りますね。ただ、これまでに投稿してきた話の文体と文字数を顧みると、ど~も嫌な予感がしてなりません……。しかも、まだプロットさえできていないというね……。
……頑張れ! 明日からのおれ(仕事の都合上朝が早いので、今日はもう頑張れねえっス……)!