「マ~ハハハハハァッ! そうかいそうかい、結局、カイドウの馬鹿もやられちまったのかい! 自分の半分程度しか生きてないポッと出の若造を相手に! まあ、おれもだが――何ともまあ、情けない話だねぇ……!」
一番近くにいた
一方で、先ほどのビッグ・マムの物言いが癇に障ったのか、フレイの後ろで胡坐をかいているカイドウを中心として、波動のような怒気が周囲に発散された。……が、あくまでもそれだけで、特に怒鳴り始めたりはしなかった。フレイはホッとした。ある意味では、数十分前まで繰り広げられていた激闘の方が「前座」で、ここからが「本番」なのだ。こんな怪物ふたりの喧嘩を仲裁するなどという、面倒どころの話ではない雑事に、無駄な労力を消費するのは御免だった。
まさかそんなフレイの願いが通じたという訳でもないだろうが、ビッグ・マムは早速本題に入ってくれた。具体的には、
「マ~ハハハハハッ……! それで? 『フレイ』。確認だが……『勝者』であるお前からの、『敗者』であるおれたちに対しての要求は『休戦』でいいのかい? 戦いの前に言ってやがった、例の――もしも自分が勝ったら、向こう20年は、自分と、自分が愛する
「ああ……。『それ』に関する
ビッグ・マムの顔を油断なく見据えながら、フレイは首肯しつつもそう言った。そんな彼に対して、ビッグ・マムは、
「わかった。いいよ」
「えっ?」
フレイの口から素っ頓狂な声が漏れた。聞き間違いに決まってると思った。しかし、
「だから、いいよ。お前の条件を飲むよ。向こう20年――いや、19年か――は、一切こっちから武力的な接触は行わねえと、ここでハッキリと約束してやる。……なんだ? 鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしやがって……。こう言って欲しかったんじゃねえのか? ん?」
「……お前、何を企んでる?」
思わず、フレイはそう言った。安心よりも警戒のほうが
既にカイドウから一度指摘されたように、そうでなければ、フレイは間違いなく敗北を喫していた筈で――それ故に今回の戦いの結果は、厳密には「
だからこそのフレイの問いだったが――そんな彼に対してビッグ・マムは、何ともわざとらしい驚きの表情を浮かべると、
「おいおいおい、何を勘繰ってやがるんだい? 心外だねぇ――あくまでも言葉通りの意味で、別に裏なんかありゃあしないよ! これから19年間、精々仲良くしようじゃないか!
台詞の途中でフレイから視線を切ったビッグ・マムが、離れた場所から事態の推移を見守っていた、自分の部下たちに向かって手招きしながらそんなことを言った。
彼女の思惑がわからず「?」となるフレイを余所に、やがて群衆の中から4人の女性が――明らかな困惑の表情を浮かべた状態で――歩み出て、ビッグ・マムの前に横一列に並んだ。
全体的に縦長の印象を覚える、白いドレスと
その他、やたらと足が長い――見るのは初めてたが、恐らくは「足長族」という種族だろう、とフレイは思った――栗色の長髪をポニーテールにした女性と、同じく足がめっぽう長い、波打った薄紫色の長髪が特徴的な女性の4人だ。
彼女らもまた他の仲間たちと同様、一度はフレイの『
また、全員が見事なスタイルと容姿を兼ね備えた美女であるという点も共通していて――フレイはもしや、と思った。先ほど、ステューシーとの間で交わした、とある会話を否が応にも想起した。具体的には、
――ステューシー? 何の話だ? ビッグ・マムが娘を差し出すとかどうとかって……?
――まあ、見てなさい。私の見立てなら、ビッグ・マムは間違いなくそうするでしょうから……。
「……どうしたの? ママ……」
もっとも年長と思われる白ドレスの女性がそう言ったのを受けて、フレイは意識を現実に引き戻した。そんな彼の視線の先で――先の白ドレスの女性ことアマンドを含めた4人の娘たちに対して、ビッグ・マムは、
「『ビッグ・マム海賊団』の船長として、お前らに『指令』を下す――全員、フレイに『嫁入り』した上で、今結んだ『休戦』の契りが切れる19年先まで、可能な限りアイツとの
「「「「……っ!?」」」」
「はぁっ……!?」
4人の娘たちが一斉に瞠目し、フレイの口から今一度素っ頓狂な声が漏れた。すぐ隣に立つ、こちらの肩に手を置いたステューシーに顔を向ければ――彼女は、ほうらね! とでも言いたげな表情を浮かべながらこちらを見ていた。
「ちょっと待て――まさか、『休戦』の件を呑む代わりに、その4人と結婚して自分の傘下に入れとか、そういう話か!?」
「ああん? 何を言ってやがる?」
思わずといった様子のフレイの問いに対して――しかしビッグ・マムは、台詞とは正反対の、我が意を得たりと言わんばかりのニヤついた笑みを口元に浮かべながら、更に、
「それはそれ、これはこれだ。お前は多分、おれが『傘下』につく連中を迎える際には、必ずその内の誰かと『血縁』を結ぶ、っつう
そこで一旦、ビッグ・マムはひと呼吸の間を設けると、
「とにかく……お前が望む『休戦協定』に対しては、既に『わかった』って、『いいよ』って――そう言っただろうが? だから、仮にお前がこの4人からの求婚を断ったところで、こっちから協定を破棄することもなければ、逆恨みで危害を加えたりすることもねえよ。ただし――」
ビッグ・マムは再び、眼前にいる4人の娘たちを、情の欠片もない冷たい瞳で見下ろすと、
「――おれの部下であるお前らは別だ。ちゃんと、『ビッグ・マム海賊団』の船長として、って前置きをした以上は――
少なくとも、家族内だけで通じる軽い冗談ということはあり得ない。そう瞬時に判断したフレイは、一体何のつもりだと、そう詰問しようとして――それよりも先に口を開いた者がいた。いつの間にか移動し、ステューシーとは反対側からフレイの肩に手を置いた、波打った長い白髪と厚ぼったい唇の美女――現『九蛇海賊団』の船長代理にして、『アマゾン・リリー』の皇帝代理でもあるグロリオーサだ。
彼女は、怯える娘たちを冷たく見下ろすビッグ・マムに視線を固定させたまま、隣にいるフレイに対して――こう言った。
「要は、この娘たちに
そんな馬鹿な、とフレイは思った――が、殆ど同時に、自分もまた、実の両親からは特に大事にされていた訳ではなかったという、厳然たる事実を思い出した。世の中にはそういった「親」がいる、という
そんなフレイに対して、今度はステューシーが、
「……要は、将来の為の『投資』ね」
「投資……?」
どういうことだ? と訝し気な視線をフレイが向けてみれば、ステューシーは更に、
「フレイ……
「なんだ? そりゃ……! そんな
図星を突かれたことで、フレイは思わず口を噤んだ。そんな彼に対し、ステューシーは続けて、
「例え、ついさっきまで、殺し合いに近い激闘を繰り広げていた相手の、実の娘でも――自分が受け入れなければ殺されるとわかってる相手を、あなたは見捨てられないでしょう?
「何を根拠に――」
「それは……あなたが
ステューシーの口調は、まるで、幼子に対して1+1の答えを教えるような辛抱強いものだった。フレイは再びグッ……! と口を噤んだ。諸悪の根源とも言えるビッグ・マムが一切こちらの会話に加わらず、例のニタニタとした笑みを浮かべながら、黙ってこちらを見ているだけという現況が何とも不気味だった。ジリジリと見えない何かに取り囲まれているような漠然とした圧迫感を、フレイは確かに感じていた。
「私たちも、シャッキーの店の近くの海岸から遠くのスクリーン越しに見てたけど、『覚醒』した後のあなたは――その気になれば、いくらでもチャンスがあったにも関わらず――そこの4人を含めたビッグ・マムの
「…………」
フレイは、何かひとつだけでも反論を返そうと口を開きかけたが――無理だった。流石に、オルビアの次に長い付き合いなだけあって、ステューシーはこちらのことをよくわかっていた。
残された選択肢が事実上ただのひとつだけであることを、フレイは漠然と予感していた。後は、それを受け入れるのが遅いか早いかだけだ、と。
だからこそ、フレイは歯軋りした。すると、そんな彼を後押しするかのように、相変わらずステューシーとは反対側からフレイの肩に手を置いて、油断なくビッグ・マムを見据えていたグロリオーサが、こう言った。
「受け入れましょう、フレイ様。リンリンは、あなた様が絶対に拒まない――というより、
「マ~ハハハハハァッ! ……まあ、そういうこった。どうしてグロリオーサ――というより、『九蛇海賊団』の連中がここにいるのかは知らねえが……。『豊拳』と
「……っ! リンリンっ……!」
得意気に語るビッグ・マムに対して、グロリオーサが怒りの視線を向けた。フレイもだ――が、だからといって事態が好転する訳ではなかった。彼女らの言う通りだった――どうそれっぽい理屈を遠回しにつけようとも、フレイにはやはり、現在進行形でガタガタと身体を震わせている4人の女性を見捨てることができなかった。
やはり、とても演技には見えなかったし、ここで
にも関わらず、この期に及んでもまだ彼の心の底には、このまま1から10まで思い通りに動かされるのは
いや――あるいはガープなら、常人には思いつかないような豪胆な発想によって、この状況を覆すようなアイデアを授けてくれるのではないか? 彼に対する過度な敬愛の情からそんなことを考えたフレイは、最後の望みとばかりに、先ほどまで何やらヤマトからの質問責めに遭っていたガープへと視線を向けたが――それとほぼ同時だった。助力を乞おうとしたフレイの機先を制する形で、ガープが次のように言ったのは。
「おい――クザン。一旦、戦いの前に『豊拳』の技……ユグ――何とかって
「……? 何を――って、ああっ……。
サッサと――まるで逃げるかのように足早にその場を後にするガープと、何かを察したかのように粛々とその後をついていくクザンのふたり。
ヤマトがそうであるように、展開の意味がまったくわからなかったフレイはポカンとしていたが――そんな彼に説明する形で、ステューシーがこう言った。
「……どうやら、気を遣われてしまったみたいね」
「うん?」
「ふたり共、あなたの『七武海』内定をご破算にはしたくないってことよ。あるいは――あなた程の
「えーと……?」
今いち言っている意味がわからず、コテンと首を傾げて見せたフレイに対して、ステューシーは更に、
「今回の戦いで勝ち取った『実績』と『名声』によって、あなたが加入することがほぼ決まっている『七武海』は、海軍や
フレイは呻いた。小難しい理屈はともかくとして、とりあえず、現在の状況下において、
理解した上で、件の、貧乏くじを引かされたビッグ・マムの4人の娘たちにチラリと視線を向けて――これによって、フレイは気づいてしまった。
4人の内のひとり――もっとも背が高い一方で、もっとも年若いと思われる、波打った薄紫色の長髪と、褐色寄りの肌が特徴的な「足長族」の美女が、一縷の望みに縋るような、助けを求めるような目でこちらを見ていたことに。
それが、最後の後押しとなった。だからこそフレイは、
「――わかった! その4人を受け入れる!」
殆ど怒声に近いフレイの叫びが周囲に木霊した。計画通りとでも言いたそうに、口元に浮かべた笑みを更に深いものにしたビッグ・マムが、グロリオーサからフレイのほうにゆっくりと視線を移した。
「……さっきも言ったように、別に、断ったところで、
ビッグ・マムが言った。
「……ああ、そうだ」
「わかっているだろうが、『仲間』としてじゃない、お前の『嫁』として、だが?」
「……ああ、そうだ」
「この娘らに対して、おれは、『休戦協定』が切れる19年先まで、可能な限りお前との子を産み続けろと、そう言ったが、それを承知した上で――そうすることに同意した上で、かい?」
「……ああ、そうだっ!」
ビッグ・マムからの念押しに対して、フレイは
「馬鹿なことに違いない。でも、そうだ」
「いいやぁ、最高の選択さぁ」
ケタケタと笑いながら、ビッグ・マムは続けて、
「もっとも――お前が前言を撤回して、おれに
言いつつ、少し前までの肥満体などその面影さえない、出るべきところは出て、引っ込むべきところは引っ込んだ、大いに男好きする体型でしなを作って見せるビッグ・マム。
具体的には、フレイに対してわずかに前屈みになり、(元々が9メートル近い体躯の持ち主ということもあって)常識外のボリュームを誇る双乳を、左の前腕で下からタプンッ♡ と持ち上げて強調しつつ、右の人差し指を艶やか且つ瑞々しい唇に触れながら、目尻を下げた濡れた瞳で流し目を送ってきて。
急激過ぎる体型の変化によって、当然のように、元から着ていたキャミソールのようなワンピースはサイズが合わなくなっており、そのせいで、秘すべき巨峰の薄紅色の頂が、危うく見えそうになっていることも最高に悩ましかった。これにより、不覚にもフレイは、わずかに雄としてのシンボルを反応させてしまった。現在、色々と外堀を埋められている正にその最中であるにも関わらず、である。
相変わらず最悪なままの性格とは違って、眼前の女の現在の見た目が、非常に豊満かつ魅力的なそれであることは厳然たる事実で、認めざるを得なかった。悲しい男の
だからこそフレイは、渾身の精神力と、下腹部の筋肉を引き締めることで、その先の股間への血流を可能な限り押し留めつつ、コホンッ、とわざとらしく咳払いをして見せると、
「……お前が、意識を失う直前――『
しなをつくるのをやめつつ、一刀両断するようなビッグ・マムの台詞を受けて、フレイは肩を下ろした。よもや、そんな自分に同情したなどということはあるまいが――次にビッグ・マムは、数秒ほどカラカラと笑った後で、こう言った。
「……まあ、おれとしても、色々と『妥協』した形だってのは認めてやるよ。
「……っ! その代わり、こっちが婚姻を断ったりしたら、そうされた娘たちを殺す――お前の『能力』で、『寿命』を取り尽くすつもりだろうが……!」
一切悪びれる様子もなく、自身の考えを
「マ~ハハハハハァッ……!
「…………っ!」
フレイはギリギリと歯軋りした。哄笑するビッグ・マムの得意気な表情と言ったらなかった。つい先ほどまで、目の前の悪女の恵体に少なからず欲情していた自分をぶん殴ってやりたかった。
そんなフレイの心情を知ってか知らずか、ビッグ・マムは更に、
「……まぁ、せめてもの情けだ。本来ならあり得ねえことだが、娘たちに
言いつつ、自身の「能力」によって寿命(=自我)を与えることで擬人化させた「雲」の『ホーミーズ』こと、『ゼウス』に――フレイの手で気絶させられたことで、一度は強制的に消失させられていたそれを再召喚した上で、それに跳び乗ったビッグ・マム。
そんな彼女に対して、フレイは、精々が
思い出して――
「え~っと……ママ? だよね……? アレ? オイラ、タイムスリップでもしたのかな……?」
「……まぁ、今回はこのぐらいで、互いに『手打ち』にしようじゃねぇか。こっちだって、可愛い娘をお前に差し出してるんだから、おあいこの痛み分けだよ」
主人の体型が激変した事情を知らずに戸惑っているゼウスの上からフレイを見下ろしながら、ビッグ・マムが言った。
「19年だ――精々、その間は、この緊張感のある関係を大事にしようじゃねぇか? おれは、戦力ダウンを覚悟した上で、お前に次々と目ぼしい娘を贈っては、『おれの血を引いた子』を大量に作らせて、『決戦』でリベンジした際のリターンを少しでも大きくし――対するお前は、そうならないようにお前なりに準備を進める。簡単な話だろうが? ……ああ勿論、気が変わっておれの夫になりたくなったら、いつでも連絡しな! そうすりゃあ、全部丸く収まるんだからよぉ――マ~ハハハハハァッ!!」
「誰が……!」
悪態をつくフレイではあったが、遅かった。自分の言いたいことだけを言ったビッグ・マムは、フレイに
凄まじいスピードだった。桃色の髪を
ビッグ・マムからの『指令』を受けて残された――
4人の娘たちの表情には、いまだに衝撃と戸惑い、さらには、殆ど母親に捨てられたと言ってもよい事実に対するショックの色が浮かんでいたが――それでも、4人の中でもっとも年長らしいアマンド(30代前後といったところか)という貴婦人風の美女が、気丈にも「その……よろしく頼む……。
「よろしくって……お前らは納得してるのかよ……?」
「私たちの意志は関係ない」
そのように即答したのは、アマンドではなく、彼女と同年齢か、もしくは多少年若いと思われる、紫色の髪を短く切り揃えた、スポーティな印象の美女――『カスタード』と呼ばれた娘だった。一見、毅然とした態度ではあったが、フレイとしては、その声がわずかに震えていることに気づかない訳にはいかなかった。
「ママが
「わかった、わかったよ」
うるさい蠅を追い払うように手を振りながらカスタードの言葉を遮ったフレイは、今一度嘆息を漏らした。その上で、渋々ながらも認めた。先立っての、殴る蹴るといったシンプルな戦いはともかくとして――此度の戦後の駆け引きにおいては、完全に自分の敗北だと。何なら、反撃の芽さえなかった、と。
しかも、まだ終わりではなかった。『休戦』の契りに関する話し合いをしなければならない相手は、まだもうひとりいて――フレイはゆっくりと後ろを向いた。胡坐を組み、頬杖をついたカイドウが、鋭い目つきでこちらを見下ろしていた。「こっち」のほうは
カスタードをハーレムメンバーに加えるかはちょっと迷いましたね。アニメを見ていない読者からすれば「?」としかならないと思うので。あまりにも好みな見た目なので無理矢理捻じ込んだ形です。コンポートやシトロンをビッグ・マムが選ばなかったのは、単に今回の航海では万国の留守番を任せていたからか、あるいは――まあ、好きなほうを想像して下さい(オイ)。
ガレットも相当好みなキャラなのですが、12歳という若過ぎる年齢故に断念。プリンに至っては、この時点(原作開始17年前)ではまだ生まれてすらいません。う~ん、もどかしい!