※この作品はR-18です。

豊穣の王   作:イロゴト柿

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第5話『とある考古学者の苦悩』

 ニコ・オルビア。

 今年で28歳となった彼女は、考古学の聖地『オハラ』から出航した、『歴史の本文(ポーネグリフ)』の探索チーム、その一員である。

 

 『歴史の本文(ポーネグリフ)』。

 

 一辺が4メートル前後のキューブ状の石碑で、決して砕けず、割れず、融けもしない鉱石であることと、それに刻まれた『古代文字』が特徴である()()()を探索、研究することは、しかし、この世を支配していると言っても過言ではない程に巨大で強大な組織――『世界政府』により、「禁忌(タブー)」として定められている。

 

 故に、『歴史の本文(ポーネグリフ)』を追い求めるということは、世界そのものに歯向かうことと同義の犯罪行為であり――オルビアたちも当然、その点についてはちゃんと把握していた。把握した上で、それをやっていたのだ。

 

 が、断じて自分たちは、反逆者ではあっても破壊者ではない。無闇に世界を危険に晒すつもりなどサラサラ無い。少なくとも、自分たちのほうから意図的には……。

 

 それが詭弁に成り得る程の危険性を有しているであろうことは、無論、オルビアたちも承知している。『歴史の本文(ポーネグリフ)』の探索、研究を禁じるにあたって、政府が掲げている最も大きな理由――『古代兵器』の復活。それを防ぐ為、という理由を。

 

 なるほど、それも確かに、事実ではあるのだろう――が、それ以外の「何か」もきっとある、というのが、オルビアを含めたオハラの学者たちの総意だった。

 

 であるならば、求めねばならない――オハラの学者として。

 

 例えそこにある真実が、どれだけ驚くべきものであったとしても。

 

 過去は、すべての人類のものなのだから。

 

 そして何より――ロビン。

 

 故郷(オハラ)に残してきた、幼い娘の「未来」の為にも――!

 

 ……とはいえ。

 

 当然、そんなことを訴えたところで、『世界政府』とその手足である『海軍』は納得しないだろう。自分たちの行いを知れば、問答無用で捕らえに来るであろうことは目に見えている。何なら、そういった過程をすっ飛ばして、()()()()()()()()()()()を採ってくる可能性のほうが高いくらいで――命懸けの旅だ。そういうことも十分にあり得るだろうと、オルビアにはわかっていた。他の33人の仲間たちも、当然。

 

 ……だからこそ、断腸の思いでまだ幼いひとり娘を故郷に置いてきたのだ。前述した危険性から一緒に連れて行くことなど論外だし、オハラの学者として、今は亡き夫を含めた、先人たちの意志を放棄することもできない――つまりは、自分だけが島には残れない、という理由で。

 

 また、自分たちのような人間の存在をよく思わない政府や海軍の存在を抜きにしても、海に出ることには相応の危険が伴う。

 

 何となれば、今の世は『大海賊時代』。とある理由から、世界各地を多くの海賊たちが荒らし回る苛烈な時代で――そのことをオルビアは、ある時立ち寄った島において、そこにある村を狙った海賊たちの襲撃に巻き込まれた際に、嫌と言うほど思い知ることになる。

 

 当然、こういったトラブルも起こり得ると予想していたオルビアたちは、自衛と村の防衛の為に、武器を取って応戦を試みたのだが、

 

「くっ……離しなさい!」

「安心しなあっ! ちゃんと優しくしてやるからよおっ!」

 

 先ほどまで手中にあった銃は奪われた上に海へと放られ――アレでは、上手く回収できたとしても、中の火薬が海水で駄目になったことで使えはしないだろう――船長と思われる、ひと際大きな体躯で、ひと際荒々しい外見の男によって組み伏せられ、馬乗りにされるオルビア。

 

 決して、必ず勝てるという自惚れがあった訳ではなかった。自分の本領はあくまでも古代の人々が残した歴史を研究、証明する為に発揮されるものであり、こうした戦闘については専門外だと、そういう自覚は確かにあったのだ。

 

 が、その一方で、先手を取れば何とかなるかもしれない、という希望的観測があったのも確かだった。何せ、オルビアたちが今いる島が属するは、『偉大なる航路(グランドライン)』と呼ばれる海域と、『赤い土の大陸(レッドライン)』という、世界を横切る程に長大且つ巨大な超大陸によって4つに分けられた海域――その内のひとつ、『西の海(ウエストブルー)』。

 

 有力――つまりは凶暴で強力な海賊は、既に、今の時代が始まる原因ともなった「とある秘宝」があるとされる『偉大なる航路(グランドライン)』へと入っていて、自分たちもそれに倣わない限りは、そう手強い海賊に遭遇することはないだろう、と。

 

 しかし、結果は無残。

 

 見込みが甘かったのは勿論だが、自身に馬乗りになっている大男が、まさかの「億越え」――政府から「億」以上の懸賞金を懸けられる程に危険視されている犯罪者たちの総称――だったこともあり、オルビアは殆ど何もできないまま制圧されてしまう。そして、もう少しすれば、自分の仲間たちは勿論、村の人々もきっと――オルビアは奥歯を噛み締めた。なんとかしなければ――そうは思っても、細く柔らかい彼女の身体では、大男の剛力に抗う術はなかった。

 

(かしら)ぁ! 本当に少しは加減して下さいよ! 後でおれたちも楽しみてぇんで!」

「うるせえ! だったらとっととやるべきことをやってきやがれ! 終わった時に壊れてなけりゃあ、()()させてやっからよお!」

「「ぎゃははははっ!」」

「……救いようのない下衆(げす)ね……!」

 

 これから本格的な略奪をする為に続々と上陸し始めた船員たち。その内のひとりに対して返された大男の台詞を受けて、オルビアは嫌悪に満ちた呟きを漏らした。当然、馬乗りになっている大男はそれに気付いたが、彼は一切堪えた様子もなく――それどころか、心底怖気(おぞけ)を覚えるような、ニタリとした粘着質な笑みを浮かべると、オルビアが着ていたロングコートをはぎ取り、更には、その下のTシャツさえも引き裂いて見せた。

 

 先ほどまでは衣服で覆われていた上半身の殆どが外気に晒され、それに舐め回すような視線を向けた大男の笑みが、更に凶悪で醜悪なものとなる。すんでのところで悲鳴を上げるのを堪えたオルビアだったが、肌が泡立つのを止めるのは不可能だった。誰か、誰か助けて――らしくもなくそう思ったが、そんな都合がよ過ぎることがそうそう起こる訳がないことを、彼女は知っていた……。

 

 ところが、

 

「つれねえこと言うなって! 大人しくしてりゃあ、命を取らないだけじゃなく、最高に気持ちよく――!?」

 

 大男の言葉が不自然に途切れた。一体? 羞恥と屈辱によって溢れた涙で滲んでいた視界を、何度かの瞬きによって改善させ、目を凝らす。

 

 いつの間にか、自分に馬乗りになっていた大男が消えていた。代わりに、ひとりの青年がすぐ近くに立っていた。一瞬、少年かとも思ったし、実際その顔立ちには、まだ多少の幼さが残っていたが――恐らくは10代後半から20代前半といったところだろう。オルビアはそう思った。そう思って――しかし、次の瞬間には、

 

 ――ズッッッッックン♡

 

「っ!?」

 

 己の下腹部。その奥にある、女にとって最重要とも言ってよい、次代の命を育む為の内臓器官――子宮が、突然、甘く強く疼いたのを受けて、オルビアは戸惑った。大いに戸惑った。と同時に、少年の顔から目を離せなくなった。

 

 また、先ほどから鼻腔を刺激している、とても()い匂いにも気づかない訳にはいかなかった。明らかに、少年のほうから漂っている。まるでフェロモンのような――いや、確かフェロモンというものに匂いは無かった筈だ――女を狂わせ、惹きつかせる、危険な香り。

 

 対する青年のほうは、そんな香りを漂わせているという自覚もないのか、大男に奪われ、放られたロングコートをオルビアに渡した時以外には、一切視線を向けず、それが少し寂しくもあったが――

 

(なんて……)

 

 なんて、美しい青年なのだろう。オルビアは本心からそう思った。彼女自身も、間違いなく整った顔立ちの持ち主で、実際、今までに言い寄って来た男もそれなりの数に上るが――そんな彼女をもってしても、眼前の青年の美しさは異常と言ってもよい程で、まるで神が手ずから作ったのではないかと、そう思わせる程の魅力と神秘性に溢れていた。

 

 すべてが美しかった。目鼻立ちも、立ち姿も――全てが。

 

 シミひとつない色白の肌。ルビーを連想させる、深く、透き通った紅で彩られた双眸。桜色の唇に、耳にかかる程度に切り揃えられた銀色の髪……。改めて、オルビアは息を呑んだ。自分の心臓の音がうるさい。もっともそれは、大男に犯されそうになった時からそうだったのだが――その根源にある感情は、全く正反対のものだった。恐怖と羞恥、絶望ではなく、歓喜と羨望。そして――期待。

 

「『討狼の足踏み(ヴィーガル・スタンプ)』」

「ぎゃあああああああっ!?」

 

 一体何に期待しているのか? それは当然――と、そんな自問自答をオルビアが胸中でしている間に、事態は収束していた。突然現れた青年が、謎の力でもって、あっという間に海賊たちを制圧したのだ。

 

 その際に、音なき鳴動だったり、青年の身体から立ち上った黄金のオーラだったり、色々と常識外れな現象が起きたりもしたが、オルビアにとってそれは、どうでもよいことだった。

 

 彼女はただ――忙しかった。堪えようのない熱い吐息を漏らしながら、自身を救ってくれた美青年に蕩けた視線を向けることに。そして――破かれずに済んだ下半身の衣服。それによって隠された股間部より溢れ出る、情欲の粘液。それを何とか押し(とど)めることに。

 

 ただただ、忙しかったのだ。

 

 そして――

 

 

  ◆          ◆

 

 

 ――ずっっっ、ちゅうううううううぅぅぅぅっ……!

 

「ああああああああぁぁぁぁぁぁぁっ♡」

 

 その日の夜、月明かりが照らす、人気のない海岸の草地の上で――全裸で仰向けになったオルビアは、自身に覆い被さるフレイの男根の侵入を嬉々として受け入れていた。

 

 昼間、同じ男とは思えぬ程に醜く、肥えていた大男には決して許さなかった行為だ。許さなかったというよりは、眼前の美しき青年のお陰で許さずに済んだというべきだろうが――当然、それに対するせめてものお礼というだけではない。オルビア自身が、そうさせたい程に強く――あまりにも強くフレイに惹かれたが故の結果でもある。

 

 無論、挿入を受け入れただけで「結果」と言うにはあまりにも早計だろうが――それでも尚、乳首をピンと立たせた豊かな胸に満ちる、言葉にできない程の充足感を、オルビアは感じずにはいられなかった。

 

 直前に、フレイが童貞であることは確認していて――これが、意外でなかったと言えば嘘になる。16歳という年齢だけを見ればそこまで不自然ではないが、これ程までに優秀な雄に、なぜどんな雌も(みさお)を捧げなかったのか? と――だからこそ、オルビアは嬉しかった。こんなにも逞しく、優しく、それでいて雄としての魅力に優れた男の「初めて」になれたという、その事実が。

 

 これから先、どれだけの時が経とうとも、フレイとこうした行為に及ぶまでに辿った過程を仔細に思い出すことは、きっとできないだろう――子宮口に亀頭をめり込ませた肉棒の存在に意識の殆どを奪われながらも、霞がかった意識のどこか片隅で、オルビアはそんなことを考えた。

 

 彼女がかろうじて覚えているのは、昼間、間一髪のところで自身の貞操を守ってくれたフレイをひと目見ただけで心を奪われたこと。そして、その後村人たちが開いた感謝の宴の席で、真っ先に彼の隣の席を確保しながらも、どうにかして彼と交わることはできないだろうか? 交わりたい――交わらなければ、何としても! と、浅まし過ぎる思考に囚われながら、今までに覚えがない程に知恵と知識を総動員させたことぐらいである。

 

 今は亡き夫に対する罪悪感が全くないのかと問われれば嘘になるが――それは、オルビアにとってはまったくの些事(さじ)だった。少なくとも、イングナル・フレイという存在を知った後の彼女からすれば……。

 

 年齢も過去も立場も関係ない。この、詳しく比較するまでもなく、世界で――否、歴史上の観点から見ても美しく魅力的な雄に股を開き、種を受け入れることは、全ての(おんな)にとっての本懐であり使命であると、そう思ったからだ。

 

 いくらフレイが魅力的な雄であろうと、こうした思考の流れが、世間一般の常識と照らし合わせても異常なものであることは、流石に自覚していたが――それに対する疑問が、オルビアの行動を抑制することは一切なかったし、彼女自身、させる気もなかった。フレイの身体から溢れるフェロモンのような「何か」、人の(ことわり)から外れた「何か」が、オルビアを狂わせていた。惑わしていたのだ。

 

 それを薄っすらと自覚しながらも、オルビアは止まらない。止められない――だからこそ、

 

 ――びゅうううううううぅぅっ! どびゅっ! どびゅどびゅどびゅうううううううううっ!

 

「はぁんっ♡」

 

 童貞であるが故だろう――前後運動に移るまでもなく、挿入しただけで撃ち出された大量の濁液を、オルビアは抵抗するどころか、心からの歓喜の笑みと共に受け入れた。

 

 甘い――オルビアはそう思った。人体の構造上、子宮内に味覚を感じる器官など存在する筈もないが、オルビアは確かにそう思い、そう感じた。

 

 まるで子宮が彼女の口の役割を任されたかのように、ドーナツ状の輪っかがフレイの鈴口部をハムハムと咥え込み、そこから現在も撃ち出され続けている生殖液をゴクゴクと嚥下している。そして内部に侵入したそれらが子供部屋の壁を叩く度に、オルビアの全身が小さく跳ねた。

 

 とてつもない幸福だった。イングナル・フレイが初めて性器を挿入した女になれたというだけでも望外の喜びだというのに、その上射精まで――正に、恐悦至極。至高の体験。

 

「ああ……こんなに……♡ 相変わらず、凄い量……♡」

 

 直前に受けた口内への射精を思い出しながら、オルビアはそう言った。そんな彼女に再び欲情したのか――ずちゅんっ! と、突き込みを再開させるフレイ。不意打ちを受けて、ああんっ♡ と喘ぎ声を上げるオルビア。

 

 彼女は喜んだ。自身の身体が、彼に複数回の射精をさせるに値する程の魅力を備えているらしいという事実。それが、たまらなく嬉しかった。

 

「あ、ああっ♡ すご、凄いっ♡ 2回も、出したのに、あんっ♡ こんなっ♡ うううぅんっ♡」

 

 そこからのフレイは突き込みは、凄まじいのひと言だった。何か、特別な技術(ちから)でも使っているのか? そう思う程の性技の成長速度だった。

 

 ひと突き毎に、その角度や深さがどんどん的確になってゆき、合間に挟まれるうなじや乳房への愛撫も、まさに絶妙と言う他ない。学習していると言うよりは、まるで、今まで忘れていた女の(よろこ)ばせ方を思い出しているかのような覚えの良さで――だからこそオルビアは、

 

「えっ……えっ!? 嘘、急に、こんな、あん♡ 駄目ぇ♡ どうして♡ 突然♡ す、すごいの、おぉぉんっ♡」

 

 なんとも浅ましい喘ぎ方だった。普段の怜悧で冷静な彼女を知る仲間などが見れば、きっと瞠目するだろう。そうした自覚を抱きつつも、しかしオルビアはそんな自身の反応を止められる自信も止めるつもりもなくて――その結果、

 

 ――どっっっびゅうううううううううっ! どびゅどびゅどびゅううううううううっ! びゅるるるるるるるるっ! どびゅるりどびゅりっ! どくどくどくどくどくううううううぅぅぅっ! どびゅっ!

 

「……ぷはっ! あ、あああああああああああああぁぁぁぁんっ♡ イックううううううううぅぅぅぅぅぅんっ♡」

 

 一度、絶頂させられた上でのまんぐり返し、からの、舌を絡ませながらの種付けプレス。順当の射精。それを受けて、思わず口を離したオルビアの喉奥から、今までの人生で覚えがない程の嬌声が迸った。

 

 とてつもない快感、幸福感だった。気持ちいい! きもちいい! キモチイイっ! 死ぬほどに――死ぬ、死んじゃう、気持ちよ過ぎて死んじゃう。死んだ? いや生きている。生きて、眼前にいる史上最高の雄の繁殖汁を、自分の子宮が受け入れている。注いで貰っている。こんな幸せで光栄なことがこの世にあるなんて! なんという僥倖(ぎょうこう)――火花が弾ける脳内で、そんな考えを巡らせる程に。

 

「……教えてあげる、って……私のほうが言ったのに……♡」

 

 永遠にも思える程に長い――実際には数分だろうが――射精を受け止めた後で、全身を弛緩させながらも、オルビアが言った。

 

「……私のほうが、逆に教え込まれちゃったわね♡ あなたが、とんでもなく優秀な雄だってこと♡ ……ありがとう、こんなに『幸せ』を感じたのは、随分と久しぶりだわ――あんっ♡ ……えっ!? う、嘘……!?」

 

 不意に、膣内に納まったままのフレイの肉棒が硬度と長さを取り戻したのを受けて、オルビアは戸惑った。まさか――これだけの量の射精を、3回も繰り返したというのに?

 

「……すいません、オルビアさん。おれ、まだ……」

 

 そのまさかだった。しかし、戸惑いは一瞬。求めてくれる限りは、こちらとしても望むところだ――そう思い、慈愛に満ちた笑みを浮かべたオルビアは、

 

「……あ、あん♡ いいわ♡ ふぅん♡ 元々は、私が、教えるって、あぁん♡ 言い出したんだし……♡ おっ♡ でも、そのかわり……」

「……?」

「……()()、は♡ あっ♡ いらないわ♡ ……『オルビア』って、呼んでくれる?」

「――っ! ああっ、オルビア!」

「はああぁんっ♡」

 

 

  ◆          ◆

 

 その後、一体どれ程の行為を重ねただろう? 当然のように、オルビアは数えていなかった――数えきれなかった、という方が正しいだろう。それ程の射精を、彼女は受け止めた。受け止めて見せたのだ。子宮で、胸の谷間で、口で、手の平で――その他、あらゆる部位を使って、一切拒絶することなく。

 

 結局、ふたりの交わりは朝日が顔を見せるまで続き、その結果オルビアは、理性を失い、蕩け切った表情を浮かべながら仰向けになり、全身を欲望の粘液でデコレーションされた上で、腹部を妊婦のように膨らませながら、股間部から溢れた精液によって白い水溜まりを形成するに至ったのだが――当然、それを彼女が苦に思うことはなく、どころか、その口元には笑みさえ浮かんでいた。間違いなく、人生最高の1日だった。

 

 しかも、どういう訳か、思ったほど疲れが溜まっていない。ぼんやりとした思考は疲労ではなく快楽によるもので、肉体のほうに関しては、むしろ7、8時間の睡眠をとった後のような活力さえ感じられた。これは不思議千万だったが、きっと、原因はフレイのほうにあるに違いない、とオルビアは思った。少なくとも昔、先立った夫と(ロビン)を作った際には、こうした感覚は抱けなかった。

 

 初めてその姿を目にし、言葉では表せないような蠱惑的な匂いを嗅ぎ取った時から薄々感じてはいたが――やはり、この青年には、特別な「(なにか)」があるのだ。ここに至って、オルビアはそのように確信していた。生まれつきのものかどうかまではわからないが、とにかく、あらゆる(おんな)を惑わし、モノにするような超常の力が、目前の美青年の身に宿っているに違いない、と。

 

 全身に付着した雄汁からフレイの「愛」を感じ取り、にへらとした笑みをつつ、膣口を浅ましくヒクヒクとさせながらオルビアはそう思って――しかし、時間が経つにつれて、そういった幸せな感情に陰りが見え始めた。現実を直視する必要が出てきたのだ。

 

 なんといってもオルビアは、オハラより出発した『歴史の本文(ポーネグリフ)』の探索チームの一員で、しかもその内容が、この世を牛耳る「世界政府」が禁忌(タブー)と定めているのだから――まさか、そういった事情を聞かせてもいない彼を連れて行く訳にもいくまい。

 

 亡き夫や、他の仲間たちに対する後ろめたさがない訳でもなくて、先の交わり以降も、オルビアは何度も時間を見つけてはフレイと情を交わしていたし、その最中には、叩きつけられている快楽に夢中になって忘れることができたが――事後の心地よさに身を浸している時などは、やはりそういった罪悪感が胸の内をチクチクと刺した。

 

 自前の避妊薬――「このような時代」では、「いざという時」に備えて、海に出る女性にとっては必需品だ――のお陰で、妊娠の心配はないと信じたいが、何せ、あれだけの粘度と量……。未だ正体が掴めない、女を虜にする――と思われる、フレイの謎の力。それによってつけられたと思われる、ハートマークを基調とした謎の紋様。

 

 ある時、チームで取った宿の一室でベッドに腰かけつつ、それがある下腹部を撫でながら、オルビアは思った。不可解で気がかりな点は多い。いつ、「後戻りができない状態」になるかわからない。そして、時間が経てば経つ程、行為を重ねれば重ねる程に、その可能性は高まっていく。

 

 なんとか我慢すればいい、という至極真っ当な解決策も候補にはあったが、それが非常に困難なものであることを、オルビアは嫌と言うほど思い知っていた。

 

 あれほどに美しく、強い雄に、あれだけの性技と精力――まともな女ならば中毒だ。一度味わってしまえばそれを断つことは至難の業で、事実、夜の帳が下りる度に、オルビアの身体は、本人の理性を無視するかのようにフレイの下へと足を運ぶのだった。

 

 往々にして、本能は理性に勝る――それが、人類どころか、生物としての本懐、繁殖へと繋がる行為ならば尚のこと。いずれは、かろうじて残った理性が、そういった雌の本能によってかき消される日も遠くない。

 

 ひとりだけの時間、冷静に物事を考えられる時間ができる度に、オルビアはそう思って――ついに、彼女は決断した。島に滞在して1週間後のことだった。

 

「今すぐ、()ちましょう」

 

 時刻は昼間。村の酒場で定期的に開いているチーム全員での情報整理の場において、オルビアはそう言った。仲間たち全員の目が彼女に向いた。

 

「私たちの研究の内容上、同じ場所にいつまでも留まるのは危険だわ。ポー……「例のアレ」に関する手がかりも十分集まったし、島を出るなら早いほうがいいと思うの」

 

 できるだけ淡々とした口調で、オルビアはそう言った。しかし、無駄な努力だった。彼女の本音を察したらしい、仲の良い女性メンバーの何人かがチラリで横目で意味ありげな視線を交わすのを、オルビアは見た。

 

 当たり前と言えばそうだが、フレイとの関係について、仲間内の何人か――少なくとも、女性メンバー全員には悟られていたし、オルビアもそれは承知していた。暇を見つけては貪り合っていたと言ってもよい程だから、そうでないほうが不自然だ。何人かの鈍い男性メンバーなどは、まだ気づいていない可能性もある、と信じたいが……。

 

「……いいの? オルビア」

 

 短く、簡潔な問いだった。そこに含まれた意味をオルビアは敏感に察知したし、名言しなかった女性メンバーの気遣いを有難くも思ったが、彼女は敢えてとぼけることにした。

 

「勿論よ。それとも何か、まだこの島に留まらなきゃいけない理由でもあるの?」

 

 きっぱりとした口調で、オルビアが言った。そこに、自分なりの決意を込めたつもりだった。明らかにそれを察したらしい件の女性メンバーたちは、以降は、余計な疑問は挟まなかった。

 

 昼日中ではなく、フレイが寝入った後の夜間にこっそり出航するという方法もない訳ではなかったが、難易度が高かった。というのも、実を言うとオルビアは、彼が寝ているのを見たことがなかった。

 

 信じられないことだが本当のことで、初日の交わり以降も、オルビアは毎晩彼との情交に励んでいるのだが、彼のほうが先にダウンしたことは一度もない。恐るべき精力、信じられない体力で――しかも、前述したように、何故か彼との交わりで、オルビアは疲労らしい疲労を感じたことはなく、フレイのほうもそうに違いない、という確信があった。

 

 これもまた、正体がわからぬフレイの謎の力の一端だろうか? 彼自身も知らないらしいその詳細をオルビアが把握できる筈もないが、少なくとも、彼との生殖行為が、下手な睡眠以上の疲労回復効果をもたらすことは確かだった。普通は逆だ。

 

 普通に事情を話して分かって貰えばいい? もっともな指摘だが、それが不可能であることを、オルビアは確信していた。確信してしまう程に、自身の身体がフレイの魅力と性技を前に、とうの昔に陥落していることを自覚していたのだ。

 

 だから、面と向かって引き留められたり、どんなに危険でも構わないから自分も連れて行ってくれなどと懇願されたら、きっと自分は断れない。今なお彼を求めている雌の本能、身体の疼きが、賢明な理性を凌駕してしまうに違いないと、そう思って。

 

 しかし、オルビアはチャンスを得た。島に滞在し始めて――つまり、フレイと関係を持ち始めて約1週間。2度目の海賊の襲撃があったのだ。

 

 当然、初日に島を襲ってきたのとは別の海賊だが、一番の大きな違いは、複数ではなく単独での襲撃だったことだろう。そういう賞金首も珍しくはなく、逆に言うとそれは、手下などが必要ない程の実力の持ち主、という見方もできたが――どうであれ、億越えを一蹴する程の実力を有するフレイが負けることはあり得なかったし、実際負けなかった。

 

 瞬殺し――気絶させただけだが――拘束した後で、村長から借りた小型船へと乗せ、最寄りの海軍支部に向けてフレイが出航したのが、ほんの数分前。

 

 彼ならば、「月歩」という、宙を駆ける常識外れの体術(初めて()()を目の当たりにした時には、大いに驚いたものだ)で、もっと手っ取り早く連れて行くこともできたかもしれないが――恐らくは、目を覚ました賞金首が、空中で暴れ回る危険性を考慮したのだろう。

 

 村民たちの心情を考慮すれば、海軍が到着するのを何時間も待つのもよくない。前回のように大人数の場合はやむなしだが――凶悪な賞金首の身柄を村に置いて恐がらせるぐらいなら、こちらからさっさと出向いたほうが、村民たちも落ち着けようというものだ。

 

 そうした理由もあって、フレイは船での搬送という手段を選んだ。最寄りの海軍支部とはいえ、それでも、往復で4、5時間はかかる。そのように村長から聞いたオルビアは、今しかないと思った。その後、ちょうど予定されていた情報整理の場において先の提案、説得をし、それから30分もしない内には、荷物を纏めたチーム全員で船に乗り込み、出航することができた。

 

 次の目的地をメンバーたちと話し合ったオルビアが甲板に出た時には、フレイとの思い出が詰まった島は、既に豆粒ほどに小さく見えるぐらい遠くに離れていた。いや、離れているのはこっちの方だが……。

 

 甲板に設けられた柵に両腕を置きながら、オルビアはグッと唇を噛んだ。胸がチクチクと痛んだ――島で荷物を纏め始めた時からずっとだ。1週間、あれほど愛し合った男に何の事情も説明もせずに黙って出ていくという、それを原因とする罪悪感が痛みの正体だった。

 

 日が沈み始める頃には、懸賞金を受け取ったフレイが島に戻ってくるだろう。そして彼は気付くだろう。愛した女とその仲間たちが、何故か自分に黙って姿を消していることに……。更には、自分が利用している宿屋の一室に置かれた、一通の手紙の存在に……。言うまでもなく、それはオルビアが書き残していったもので、そこには、次のようなことを記しておいた。

 

『フレイへ。

 

 あなたがこの手紙を読んでいる頃には、私は既に、仲間たちと共に島を出ているでしょう。まずは、そのことを謝らせてください。その上で、決してあなたを嫌いになった訳ではないということを強調させて下さい。あなたには何の落ち度もありません。すべては私の都合。私の我が儘です。

 

 私がとある島から来た考古学の研究チームの一員であることは既に話しましたが、実はその内容は、政府が大々的に禁忌(タブー)として定めているものなのです。これを知ったあなたがどういった反応をするかは想像するしかありませんが、もしもそれでも構わないとしてあなたがついてくれば、それは私たちの我が儘の為に人生を捨てるのとほぼ同じで、とても受け入れられるものではありません。

 

 こういったことを手紙に書き残すこと自体が、既に大きなリスクになる程の研究内容です。だからこそ、この手紙の存在そのものが、あなたへの誠意だと捉えて下さい。私があなたを嫌った訳ではないという証拠だと。

 

 繰り返しますが、本当にごめんなさい。私は、あなたを愛しています。今も、これからも。だからこそ距離を置くのだと、置かなければならないのだと、理解してくれると幸いです。

 

 例え理解できずとも、どうか、私を探したりはしないで下さい。ここまで読んでも、あなたがまだ私を愛してくれているというならば、尚のことです。仮に首尾よく見つけられたとしても、私があなたの気持ちに応えることは、もう2度とありません。私もあなたを愛しているから、あなたに、私たちと心中して欲しくないからと、そう思っているからです。

 

 あなたは私が出会った中で、一番美しく、素敵で、強い男性です。これから先、私以外にも、あなたは愛してくれる女性はたくさん現れるでしょう。どうか、その内の誰かと、もしくは、その人たちと幸せになって下さい。

 

 私はあなたを忘れませんが、あなたは、私を忘れてくれても構いません。それを私が恨むこともありません。こちらから誘っておいてこのように一方的な形で振ったのだから、それが当然だとも思います。

 

 あなたの「幸せな未来」を、心から願っています。

 

 オルビアより』

 

 手紙を綴る際、できる限り事務的に、できる限り他人行儀な文体で書くようオルビアは心がけたが、無駄な努力だった。羽ペンを動かしている間、彼女の目から溢れる涙が止まることはなく――それは、今もそうだった。

 

 ……考えまい。夫を亡くし、その無念を晴らす為に海を出て、女としての生きがいも、同時に捨てたつもりだったにも関わらず、そんな自分を愛してくれた(フレイ)との、今日に至るまでの蜜月の日々など、決して思い出すまい……。

 

 完全に日が落ち、島が見えなくなった後も、オルビアは柵に手を置いたまま涙を流し続けた。船内で休んだらどうかと、そのように仲間が声をかけてくることは一切なかった。自分に気を遣ってくれたのだろう。そのことが、オルビアには嬉しかった。

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