※この作品はR-18です。

豊穣の王   作:イロゴト柿

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第6話『歓楽街の女王』

 時刻は深夜。場所は、『西の海(ウエストブルー)』の大国、『マジワ・レーヤ王国』――そこにある歓楽街で一番大きな娼館、その中でも特に金払いが良い選ばれた人間しか入れないVIPルーム。

 

 明らかに大人数での「使用」を目的とした超大型のベッドと、その周囲を彩る見るからに高価そうな調度品の数々が特徴的なその一室において、イングナル・フレイは、仰向けになって足を広げている美女の蜜壺に向かって、一心不乱に腰を打ちつけていた。

 

 ――どちゅんっ! どちゅんっ! どどじゅちゅっ! ずぶちゅっ! どちゅどちゅどちゅどちゅっ! どっちゅんっ!

 

「あっ♡ あっ♡ あっ♡ ああああぁぁぁぁんっ♡ フレイ、様あああああぁぁぁっ♡ 相変わらず♡ おっ、ほぉ……♡ 凄い、のおおおおおおぉぉぉぉほおおおおおおぉぉんっ♡」

 

 言うまでもなく、女は娼婦だった。娼館の一室で抱かれているとなれば、それが当然だ。そして、現在、フレイと同じ空間にいる娼婦は彼女だけではなく――同じベッド上の各所に数人、それより外側の床下を含めた周囲のあちこちには更に多くの全裸の娼婦たちが横たわっており、全員が股の間から湯気立つ粘性の白濁液を溢れさせながら、同じく白濁に塗れた全身を快楽によってピクピクと震わせていた。

 

「…………」

 

 しかし、フレイの表情に達成感らしきものはなかった。激しい前後運動によって頬に多少の赤味が差しているものの、それだけだ。

 

 その瞳には一切の熱がなく、どことなく虚ろで、まるで単純作業に従事する職人のようなそれだった。あるいは、心に溜まった何かしらのモヤモヤを、目前に女性に対して吐き出し、叩きつけているようにも見えて――実際、その通りだった。

 

 たった1通の置き手紙だけを残して、一時期は心身を深く繋がらせたニコ・オルビアが唐突に姿を消してから約4年。その間、フレイは殆ど毎日、()()()()過ごしてきた。

 

 天性の肉体と戦闘技術に物を言わせて高額の懸賞金を懸けられた賞金首たちを捕らえては、それによって得た金で女を買い漁る日々――しかも、ひとりだけの女で済ませることはほぼない。

 

 こういった生活を送るようになってから早々に自身の絶倫、および性豪ぶりを自覚することになったフレイは、一度に多くの娼婦を纏めて買うのが常となった。それだけの蓄えがあったし、それだけの稼ぎを得るだけの実力が、彼にはあって――お陰様で、賞金首や娼婦たちの間では、すっかり有名人だ。

 

 前者からは、決して会ってはいけない要注意人物として、後者からは、大量の金と、極上の快楽をもたらしてくれる上客として。……別に、フレイ自身がそうなりたかった訳では、断じてないのだが。まあ結果として、だ。

 

 背中の「天駆ける竜の蹄(コンプレックス)」についても、対策を施した。流石に毎回、何故上だけ服を脱がないのか? と娼婦から問われるのが煩わしくなったからだ。

 

 その解決策が上から別の紋様を焼き押すというもので、シンプルだが、効果的だった。フレイと同じ悩みを抱える「元奴隷」は、実はそれなりに存在するらしく、そういった者たちの為のビジネスを展開している者も、同様に存在した。

 

 その心根にあるのは、同情か打算か――無論、とにかく忌まわしい焼き印をどうにかしたいだけのフレイのような元奴隷たちにしてみれば、その真相はどうでもよくて、いずれにせよ、旅の途中でそうした人間たちの内のひとりと知り合えたフレイは、喜んで「重ね焼き」を申し込んだ。

 

 言うまでもなく、熱した鉄を背中に押しつけられるという体験を、何度も味わいたいという人間はいない――が、フレイたちのような人間にとっては、必要な痛み、必要な対価だった。そうした一時の苦しみを耐えてでも、背中の劣等感の証をどうにかしたかったという――そういう話で、現在のフレイの背中には、「竜の蹄」ではなく、「太陽」の焼き印があった。

 

 追加の料金を払えば、オプションとして印のデザインを多少はいじれるらしいが(焼き(ごて)の形を自在に変えられる筈もない為、当然限度はある)、特にこだわりがなかったフレイは、無難に、任せた相手のオススメらしい太陽のマークを選んだ。後に、フレイの背に重ねて焼き押されたこの紋様が、ある特定の種族の者たちにとって特別な意味を持つようになるのだが――それはさておき、

 

 ――どぐちゅっ! ずちゅっ! どちゅどちゅどちゅどぶちゅっ! ずぶんっ! ずぶどちゅどっちゅんっ!

 

「ひいいいいぃぃぃぃあああああぁぁぁあああああっ♡ イっちゃう♡ まだイキたくないのにぃっ♡ もっと、もっと愛されていたいのにぃっ♡ また♡ 一方的に♡ イカされちゃうのおおおおおぉぉぉっ♡」

 

 相変わらずフレイの突き込みは、相手の状態を考慮しているとは思えない、一方的なもので、しかし――最早無意識下で女を喘がせるだけの経験と技術を身に着けてしまったのか、はたまたそれ以外の理由か――相手の女は、今こそが人生最高の時と言わんばかりの歓喜の表情を浮かべながら、全身を慄かせて喘ぐことに、一切の余念がなかった。

 

 更に言えばこの女は、ただの一介の娼婦という訳ではなく――打突と同時にバルンバルンッ! と激しく揺れ動く巨乳も、フレイの両手で固定されたくびれた腰も、それとは対照的に豊かに実った桃尻も、全てが見事と言う他なく、事実彼女は、娼館の中でも特に人気の「商品」だった。

 

 周りでビクビクと痙攣している女たちにしても半分以上が人気商品(それ)で――そんな彼女たちを一度に抱き潰し、しかもそんな生活を4年近くも続けているというのだから、フレイの財力と、それを維持する賞金稼ぎとしての戦闘力、そして精力についてもまた、見事と言う他ない。

 

 ……もっとも、厳密には彼女たちは抱き潰された訳ではない――()()()はいないのだ。

 

 身体を横たえ、ビクビクと痙攣させている大半の理由は疲労ではなく快楽によるもので、オルビアと初めて情を交わした際に明らかになったフレイの謎の力は、ここでも遺憾なく発揮されていた。

 

 まるで、注ぎ込んだ精液が、そのまま女たちの体力に変換されているかのようで――そんな女たちの下腹部には、一様にして、ハートマークを基調とした謎の紋様が浮かんでいた。これもまた、フレイ自身も詳細には把握していない、彼の謎の力によるものだった。

 

 恐らくは、奴隷時代に飼い主の天竜人から無理矢理食べさせられた「悪魔の実」が原因なのだろうと、当たりをつけてはいたが――精々がそれぐらいしかわかっておらず、それでいてフレイは、時々疑問に思うことはあっても、何が何でもそれを明らかにしようという気持ちは全くと言っていい程なかった。慣れてしまったのだ。

 

 摩訶不思議な現象ではあるが、別に何か害がある訳でもないし――それは、紋様をつけられた女たちにしても同様らしく、最初の頃は当然驚いていたものの、今となってはすっかり慣れてしまい、中には、フレイ様の所有物としての証をつけて貰えたようで光栄です、と真顔で喜ぶ娼婦もいた。よくもまあ、そこまで順応できるものだ(自分もだが)。

 

 そんなこんなで、実はまだまだ体力に余裕がある娼婦たち――その内の、快楽の海から何とか復帰を果たした雌が3匹ほどいて、彼女たちは、容赦ない腰打ちによって同僚を喘がせている上客(フレイ)へと這い寄り、しなだれかかると、

 

「ああぁん……♡ フレイ様ぁ……♡ 先輩にばっかり構ってないで、早く、私にもぉ……♡」

「ちょっと、抜け駆けは禁止よ……♡ 貴女はもう、3回も膣内(なか)に出して貰ったじゃない……♡ 私なんか、まだ1回だけなんだから……♡」

「私たち、もっとも~っと♡ 子宮の中に♡ ドピュドピュ♡ 種付けされたくてたまらないんです♡ ねえ、フレイ様ぁ……♡」

「あっ♡ あっ♡ あっ♡ こ、こらぁっ♡ 邪魔よ、貴女たち♡ 今は、私が、はううぅんっ♡ 寵愛を受けて♡ ひいぃっ♡ これ、すっごぉ……♡」

 

 優れたスタイルと容姿を誇る美女という括りでは同じだが、それぞれ微妙にタイプが異なる魅力的過ぎる雌たちの淫靡(いんび)な誘惑を受けるフレイ。

 

 しかも、両側と背後から――乳房や唇、指先などによる催促愛撫を受けながら、というオマケつきだ。世の男たちが見れば、血涙を流しながら羨むことは間違いないと言える程のシチュエーションで――しかし、相変わらずフレイは奇妙に無表情だった。

 

 無表情で、代わりに、腰打ちを見舞わせていた女性の腰を掴んでいた両手、その指先を、左右に(はべ)ってきた娼婦たちの蜜壺の中へと差し込んではクチュクチュと掻き回し、背後から首筋に舌を這わせてきた者に対しては、それに自らの舌を絡ませることで応えた。

 

 それだけで、ただでさえ蕩け切っていた女たちの瞳は一段と(うる)み、全身をビクビクと震わせた――どんな些細な形であれ、フレイから反応を返されるだけでも至高の幸福だとでも言わんばかりに。人気商品なだけあって、普段は彼女たちのほうが、男を喘がせ、絞り取る立場であるにも関わらず、だ。

 

 「フレイ様」という、統一した呼び方にしてもそうだ。無論個人差はあるだろうが、基本的に娼婦という存在は、客に対してそこまで極端に下に出たりはしないし、むしろ、高圧的な態度で接することを常とする者も、それなりにいて――そういう「プレイ」を好む客もいる、という話だ――実際、今夜フレイが抱いた娼婦たちの中にも、何人かはそういう類の者がいたし、最初の内は、そのように接していた。具体的には、

 

 ――アンタが、噂の色男かい?

 ――アタシみたいないい女を抱けることを幸運に思いな。

 ――今までは大した女を抱いてこなかったんだろう? 今夜、アタシがアンタに「本物」ってヤツを教えてやるよ。

 

 ……大体がこんな感じで、しかし、そういった娼婦たちも一度フレイに抱かれれば形無しだった。彼のほうから頼んだ訳ではないというのに、勝手に「様」づけで敬い始めたのだ。

 

 イングナル・フレイ。

 かの「超雄」の前ではどんなに優れた雌でも股を開き、種を受け入れるだけの存在に成り下がる――自分たちのほうから、嬉々として。

 

 そして――フレイは、先ほどから自身の腰の奥でグツグツと煮えたぎっていた何かの熱が、少しずつ陰茎の根本のほうへと移動していることに気づいた。

 

 そろそろ頃合いかと、そう思って――剛直の竿部分が何かを溜め込んでいるかのようにグググッ……! と膨れ、先端部がピクピクと震え始めた。それを膣内に収めている娼婦のほうも、明らかにそうした変化に気づいたらしく――彼女は、他の娼婦が密着している関係で殆ど隙間がないはずの、フレイと同僚の身体の間に、しかし器用に両足を通して、そのまま目前の超雄の腰をガッチリとホールドして見せると、

 

「あああぁぁぁああっ♡ 来るっ♡ 来るんですねっ♡ いいですっ♡ 出してくださいっ♡ 事前に避妊薬を♡ 飲んでなかったら♡ 今頃は確実に孕んでる筈の♡ いつもの特濃大量子種汁っ♡ 一切の遠慮なく♡ この店ナンバーワンの娼婦である私の中に♡ 遠慮なく♡ まき散らして下さ――」

 

 ――ずどちゅんっ!!

 

「――おぉっ♡」

 

 ひと際強い勃起肉の打突を受けた娼婦の背が反り返り、大きく開いた口の中から、赤い舌がピンと伸ばされた。

 

 豊かな双乳も、当然連鎖的に跳ね上がり、その先端にある桃色の媚突(びとつ)から、唾液か汗か愛液か、とにかく淫らな理由で生成されたに決まっている透明な液体が、宙へと飛散した。

 

 戦慄く膣壁。卵巣もろとも歓喜でプルプルと震える子宮。その入り口が、深く――深く打ちこまれた男根の先端をパクッ……♡ と愛おし気に咥えては、チュムチュム♡ と最後の甘々な催促をしてきて――引き金としては、それで十分だった。フレイは一切の我慢をせず、グッと歯を食いしばると、火を点けたようになっている亀頭部分の熱を、一気に解放した。

 

 ――どぼぼぼぼぼぼぼっ! どぶびゅばあああああああっ! どぶんっ! どぶんっ! どぷどぷどぷどぷどぷどっぷんっ! どびゅるるるるっ! どびゅうううううううっ!

 

「ひいいいいいいいいぃぃぃぃぃぃあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ♡」

 

 濃度、量、勢い、全てにおいて常識的な値を遥かに凌駕する生殖汁が――それまでに、既に何度か膣内射精(なかだし)を決めていたこともあって――あっという間にガクガクと肢体を震わせて絶頂している雌の子壺を蹂躙、征服すると、入り切らなかった精液が結合部より溢れ、その下に白濁の泉を形成した。……かと思うと、

 

「ああっ♡ フレイ様の精液よ♡ 勿体ないわ♡」

 

 左右でフレイの両指による膣内愛撫を受けていたふたりの娼婦が、即座に反応した。相変わらずフレイの指先によって熱くぬかるんだ媚肉の内側をクチュクチュと弄ばれ、それだけで肢体を快楽と幸福で断続的に震わせながらも、器用に上半身を倒してはフレイと彼の射精を受け止めた娼婦の結合部へと顔を近づけ、そこより溢れた決して少なくはない精液――彼女たちに言わせれば、一滴たりとも女体とは別の場所に吐き捨てられてはならない貴重な「聖液」――を、ジュルジュルと舐め取っていく。

 

 浅ましく、水を飲む犬のように。流石にスペースがない為、背後から舌吸いをしていた娼婦は参加しなかったが、できればそうしたいという欲はあったのだろう。口内の舌の動きが明らかに激しいものとなり、仕方なく、フレイはそれに応えてやった。両側にいるふたりの娼婦への指先愛撫も、より激しく、巧みなものへと変えて――結果、ほんの数秒もしない内に、射精を受け止めた娼婦以外の3人の美女も、漏れなく甲高い声を上げて絶頂することとなった。

 

 ジュポンっ……! と、精液と愛液による淫らな塗装が施された陰茎をフレイが引き抜いた頃には、彼に纏わりついていた4人の娼婦は、漏れなく荒い息を吐いて豊かな胸を上下させながら、支配者たる美青年を囲むようにその場で横たわっていて――しかし相変わらず、フレイの顔に達成感はなかった。たった今何度目かの絶頂を与えてやった娼婦たちを含めた、室内のあちこちで身体をグッタリさせている雌たちとは違って――どことなく虚しそうな、悲しそうな、そんな表情をしていて、

 

「……くっそ……!」

 

 蚊の鳴くような声で毒づくと、身体の向きを180度変えて、先ほどまで相手をしていた雌たちの中で、唯一膣内への快楽を与えていなかった――口を絡ませ合っていた娼婦の肉(ひだ)の中へと、萎える気配のない勃起肉を無造作に挿入。

 

 快楽の海に沈んでいた娼婦が歓喜と驚愕の声を上げた頃には既に、先ほどまでの交合を再開させたかのような鬼ピストンを始めていて――誰がどう見ても、相手の事情や状態を一切考慮しない、一方的で無遠慮とも言えるセックスだった。

 

 突き込まれた女の顔には、僥倖(ぎょうこう)と言わんばかりの笑みが浮かんでいるものの、それは天性の逸物及び性技と精力、そして(恐らくは)悪魔の実の恩恵を受けているフレイが下手人であるからであって、どう考えても褒められた行いではないし、彼自身もそれは自覚していていた。自覚していながらも尚、そうせざるを得なかったのだ。

 

 そうすることでしか、4年前から胸中を支配している喪失感を、多少なりとも和らげることができなくて――だからこそイングナル・フレイは、今日も女を抱く。並の男たちでは手が出せないような、垂涎(すいぜん)ものの美娼婦たちを抱き通し、快楽の海へと沈めていって――それでも、彼が真の満足を得ることは決してない。性的にも、心情的にも――オルビアを抱いた時のような充足感を得ることは、決して。

 

 ずっとそうなのだ。4年前、オルビアが姿を消した時からずっと――彼女が置いていった手紙を読んだ時からずっと。

 

 イングナル・フレイが、ニコ・オルビアに対して覚えたような「幸せ」を感じたことは、一度もなかった。

 

 

  ◆          ◆

 

 

 始めの内は、フレイも、何とかしてオルビアのことを忘れようと努力していた――オルビア自身が、そのことを望んでいたからだ。自分は訳アリの人間だから一緒にはなれない。だからどうかこれまでのことは忘れて、別の女性と幸せになって欲しい――そのようなことが、彼女と何度も利用した宿屋の一室に残された手紙に、記されていたからだ。

 

 その為の手段として彼が利用したのが――現実逃避とも言うが――娼館であり、そこで働く娼婦たちだった。賞金稼ぎとして各地を転々としていたフレイは、当然そういった建物の存在も、それらがある場所も把握しており――天より与えられた優れた容姿と性技、底なしの精力と、異常なまでの金払いの良さで、たちまちフレイは、あらゆる娼館の上顧客となった。

 

 やがては、フレイが毎晩姿を見せる度に、各店の娼婦たちが、その腕を引いて彼を取り合うようになって――毎回そのような騒ぎを起こされては流石に困るということで、今となっては、一番大きな娼館の一番広くて豪華な部屋で、各店のトップクラスの娼婦たちを纏めて抱くのが常となっていた。本来はあり得ないことらしいが、フレイの知らぬところで、いつの間にかそうしてよいという許可が各店のオーナたちから下りていたらしい。それだけ、自分の金払いの良さを評価してくれたということだろうか? とフレイは訝しんだ。無論、実際の事情がどうなのかはわかる筈もないが……。

 

 また、娼婦を買う際、フレイはできるだけランクが高い店の、ランクが高い女を買うことにしていた。そうした店のそうした女ほど、妊娠に対するリスク回避を徹底しているからだ。もしも万が一「できた」場合には責任を取る覚悟がフレイにはあったが、その必要をなくす為の努力は怠るべきではない、とも思っていた。仮に誰かを妊娠させてその女と添い遂げることになった場合、それが、オルビアとの永遠の別離を決定的なものにしてしまうような気がして――それを、フレイは恐れた。何よりも、だ。

 

 娼館――それが乱立する色町を要する(くに)はいくつかあるが、その中でもフレイは、ほんの数週間ほど前から、『マジワ・レーヤ王国』を中心とした一帯の海域を、主な行動範囲としていた。

 

 理由は、『マジワ・レーヤ王国』こそが、『西の海(ウエストブルー)』でも随一の規模の色町を抱える大国だったからだ。そして色町というのは、その特性上、あらゆる情報の坩堝(るつぼ)となっていて――無論、全てが真実な訳もないだろうが――その点に、フレイは一筋の希望を見出していた。もしかしたら、何かのきっかけでオルビアと再会する為の情報を得られるかもしれない、という希望だ。

 

 仮にそれを得られたところで――それを(もと)に再会したところで、他ならぬ彼女自身が、「どうか、私を探したりはしないで下さい」「仮に首尾よく見つけられたとしても、私があなたの気持ちに応えることは、もう2度とありません」などと、例の置き手紙に書き記していった以上は、あまり意味がないとわかってはいたが――それでもフレイは、彼女との再会を望まずにはいられなかった。

 

 再会し、お互いの顔をちゃんと見た上で、実際に言葉を交わしたかった。手紙ではなく、彼女自身の口から、答えを聞きたかったのだ。例えその結果、手紙に記されていた内容と変わらない答えが返ってきたとしても――冷静に考えて、そうなる可能性のほうが極めて高いと、心のどこかでわかってはいても、だ。

 

 が、無駄だった。4年間、オルビアに繋がるような情報を、フレイが得られたことは一度もなくて――よくよく考えればそれが当然だ、とフレイは思った。

 

 彼女がフレイに別れを告げた最大の理由が、彼女および、彼女を含めたチームの研究内容が、世界的に禁じられているものだからであり、ならば彼女たちがリスクを減らす為に、そうとは悟られぬよう慎重に行動するのは必然で――だからこそ、噂程度の情報さえ、色町のような場所にも流れてこないのだろうと、そう思った。

 

 薄々予感していたことではあるが――先述したように――案の定、どれだけの数の美しい女をどれだけの回数抱こうとも、フレイが、オルビアとのまぐわいで感じた程の「幸せ」を覚えたことは、一度としてなかった。この4年間ずっとだ。

 

 それでも、女を抱いている時――彼女らを蹂躙し、屈服させ、身体のあらゆる箇所に精を吐き出しているその時だけは、幸せとまでは言わずとも、ほんの少しだけ、胸中の喪失感を(やわ)らげることができた。

 

 それだけを理由に、フレイは現在も毎晩の娼館通いを繰り返していて――しかし、その日の彼は違っていた。その日の夜遅く、彼の姿はいつもの高級娼館の一室ではなく、とある一軒の酒場にあった。先の淫らな饗宴から数日後のことだ。

 

(虚しい……)

 

 明る過ぎない照明と、部屋の隅に置かれたグランドピアノより奏でられる主張し過ぎない演奏が、レトロで落ち着いた雰囲気を形成している酒場のカウンター席の一番端。すぐ左側が壁のその場所でひとり寂しく酒を煽りながら、フレイはそう思った。

 

 先に述べたように、女を抱いている時だけは、オルビアとの別離によって胸中に生じた寂寥感(せきりょうかん)を忘れることができる――それは嘘ではない。嘘ではないが、だからこそ、行為の後に感じる、「おれは一体何をやっているんだ」という感情――虚しさは、日を追う毎に強くなっていった。オルビアと過ごしたかつての一週間。最も「幸せ」を感じたのが彼女と情を交わしている時だったから、その落差もあるのだろう。

 

 女は好きだし、女を抱くのはもっと好きだ。4年間もそれで夜を過ごす生活を送って来たのだから、それについては間違いないし否定のしようもない――が、やはりオルビアと抱いた時とは違う。それも確かなことだった。

 

 具体的に何がどう違うのかと問われたら正直答えには窮してしまうが、とにかく違うのだ。理屈ではない。容姿やスタイルについては、普段から抱いている高級娼婦たちの中にも、オルビアと並ぶ者は何人かいたし、性の経験値や技量については、流石専門家なだけあって、明らかに勝っている者がそれなりにいた――が。

 

 それでもやっぱり、オルビアとは違う。とにかく違うのだ。あのスベスベとした褐色の肌の感触、積み重ねた年齢が成せる芳醇な色香、黒曜石のような綺麗な瞳、滑らかな白い長髪、メロンが如き大きさを誇る乳房に、何人でも子供を産み落とせそうな豊かな臀部、自信の欲望の権化を優しく受け入れ、扱き、舐め回してもてなしてくれる極上の肉壺。

 

 そして――互いの心が完全に通じ合っているかのような連帯感と充足感。既に4年の月日が経つというのに、その内のどれかひとつを思い出すだけでも、未だにフレイの逸物は硬度と体積を増し、飢えた獣のように鎌首をもたげてしまうというのだから手に負えない。

 

 空になったグラスを置きながら、フレイはため息をついた。既にボトルも何本か空け、相当量の酒を飲んでいたが、彼の頬に赤味は確認できず、酔っている気配は全くなかった。

 

 できれば、酔うことによって今だけでも悩みから解放されたいのだが――どうやら、自身の肉体は、その強度に覇気の扱いや戦闘技術、および性技の巧みさだけではなく、アルコールに対する耐性も中々のものらしい。

 

 もしもこれも才能だというのならば、今だけは、フレイとしてはそれを呪わずにはいられなかった。なんでもいい。この際、どんな方法でもいいし、ほんの少しの時間でもいいから、オルビアとのあの日々を忘れることはできないだろうか? いつものように娼婦をまとめ買いする以外の方法で……。

 

 自己嫌悪に陥りつつそんなことを考えながら、段々迷惑そうな表情を見せ始めた筋骨隆々の中年男の店主に、新たなボトルを注文しようとして、

 

「――お隣、いいかしら?」

 

 すぐ近くから、女の声が聞こえた。それと同時に――ビキビキビキィッ! と硬度を上げながら、フレイの逸物が肥大する。それ程の色香が、隣に立つ女性から漂ってきていて――だからこそ、顔を向けては駄目だ、とフレイは瞬時に、直感的に判断した。

 

 顔を向けて、女の姿を視界に捉えたら最後、周りの目も(はばか)らずにその場で押し倒してしまうのではないかと、殆ど本気でそう思ったからだ。返事もしてはいけない、とも。そうすれば、気分を害したこの謎の女性は、さっさと自分から離れてくれるかもしれないし――と、そう思って。

 

 しかし、残念ながらそうはならなかった。内心動揺しまくって、既に空になった筈のグラスを口につけて傾けているフレイの沈黙を肯定だと思ってしまったらしい女性が、フレイのすぐ隣、右側の席に腰を下ろした。それを、フレイは気配と音で察した。

 

 相変わらず視線は向けないようにしていたし、さりげなく女性から距離を取ろうとしたが、先に述べた通り、フレイが座っている席が、店の片隅、すぐ左側が壁のカウンター席である以上、それは殆ど無駄な抵抗と言ってよかった。

 

 フレイは眉をしかめ、コトリとテーブルに置いた自身の空のグラスに入っているボールアイスに、並々ならぬ興味関心を示すような何かを見つけようとしたが、これも相当に難しく――そんなフレイの思考に、女の声が割り込んできた。

 

「この人が空けたのと同じ物を、ボトルで」

 

 数秒もしない内に、『JEREZ(ヘレス)』という文字が記されているラベルが巻かれたボトルが置かれ、一緒に置かれた自身のグラスと――何故か、フレイのグラスにも並々と酒を注ぐ謎の女性。フレイはため息をついた――事情はまったく知らないが、この女性の目的が酒ではなく、自分であることは明白だった。

 

 ……が、だからどうという訳でもない。グラスの中で波打ちながら体積を増やしていく液体に冷たい視線を注ぎながら、フレイはこう言った。

 

「どこの誰かも用件も知らないけど、今日は勘弁してくれないか。ひとりでいたい気分なんだ」

 

 できるだけぶっきらぼうで、迷惑そうな声色を心がけたが、成果があったとは言えなかった。少なくとも、次に発せられた女の台詞には、動揺や失望の色は全くなかった。

 

「そんな(こく)なこと言わないで……? こんなに魅力的な雄を目の前にして、何もせずに消えろだなんて……いくらなんでも厳し過ぎるわ……」

 

 初対面の男を「雄」呼ばわりかよ、犬や猫じゃあるまいし――フレイはキュッと唇を噛んだ。が、相変わらず女は一顧だにしない様子で、

 

「どこの誰かわからないなら、まずはそこの紹介から始めましょうか――私の名前は『ステューシー』。この国の色町全体の実質的な責任者よ。『歓楽街の女王』、とも呼ばれているわ」

 

 思わず、フレイは顔を隣へ向けた。先の台詞に強い関心を持った訳ではない――それと同時に、女のスベスベとした細くて白い指が、フレイの右太腿を撫で回してきたのだ。

 

 ジーンズを通して、直接素肌を極上の羽毛で出来た何かで愛撫されたかのような感触を唐突に味わされたフレイは、小さく息を呑むと同時に、半ば反射的に女性のほうへと顔を向けて――更に大きく息を呑んだ。

 

 薄々予感してはいたが、予想以上の美貌と、想像以上の色香だった。ふわふわとしたショートの金髪の上から一輪の赤い薔薇の飾りをつけた白い帽子を被り、赤のワンピースと白いケープというコーディネートに身を包んだその女性は、足を組んだ状態で、わずかにずらしたサングラスの奥から、青い瞳をフレイの顔へと向けていて――それに自身の視線を絡めた瞬間、フレイは、金縛りにあったかのような錯覚を覚えた。

 

 この4年間、ほぼ毎日のように卓越した美貌を持つ娼婦たちを抱いてきた彼をもってしても衝撃を受ける程の「妖艶」さ。きめ細やかな白い肌に、服の上からでも相当な存在感を主張している豊かな乳房は、ワンピースのアームホールが一般的なそれより相当広いこともあって横の部分がはみ出しており、そこまで大胆な露出でないにも関わらず、それが逆に何ともエロチックだった。唇に塗られた紅いルージュも悪くない。今すぐ立ち上がって、その柔らかく蠱惑的な部位に自らの怒張を押し込みたい気持ちを、フレイはすんでのところで堪えた。

 

「単刀直入に言うわね。私を抱いてくれない?」

「……いきなり過ぎないか?」

「あら、余計な前置きをする必要があるの?」

 

 ステューシーはクスリと笑った。もう酔っているのだろうか? 頬が赤く、呼気も僅かに荒くなっているような気がした。気のせいかもしれないが……。

 

「理由は?」

「理由?」

 

 フレイの簡潔な問いに、何故そんなことを聞くのか、とばかりに反芻するステューシー。

 

「言ったでしょう? あなたのような魅力的な雄を前にして、何もせずにはいられないって――まあ、あえてもう少し詳しく説明するなら、流石に気になったからよ。数週間前から、私の縄張りで働いている自慢の娘たちを何人も手籠めにする、若い男の噂……。羽振りがいい上に、夜明けまで励んでも一切衰えを見せない程の絶倫振り。……ああ、ねえ、本当にわからない? 私だって、この国の色町の責任者である前に、ひとりの女――いえ、一匹の雌。そんな噂を聞いたら、自分の身体で確かめずにはいられないのよ。……どうか、お願い。特にこの後の予定がないなら、ね?」

 

 ステューシーは一気にこれだけのことを言って、ただでさえ近かったフレイとの距離を更に詰めてきた。フレイはわずかに身体を反らしたものの、席を立つことはしなかった――今度は気のせいではない。アルコールが原因かはわからないが、間違いなくステューシーの頬は紅潮していたし、呼吸も荒かった。少なくとも、興奮しているのは本当らしい。

 

「…………」

 

 フレイは僅かに黙った。が、彼の中で既に結論は出ていた。ややあってフレイは、わずかな間、グラスを揺らして中のボールアイスを弄んで見せると、そのままグイっとキンキンに冷えた琥珀色の液体を飲み干して――空になったグラスをテーブルに置きながら、次のように言った。

 

「……案内してくれ」

 

 短い要求だった。正直言うと、ギンギンに怒張し、ジーンズを膨張させる股間部からの訴えを受け続けたことで、彼も我慢の限界だった。

 

 4年間も、女を漁り続けたことで、自分もすっかり女狂いになってしまったらしい。つい先ほどまでは、一旦女漁りも控えるべきかと考えていたのに……。自身への失望と諦観。そして隣の雌を貪ることによって得られる快感に否定しようのない期待感を覚えながら、フレイは席を立った。「釣りはいい」と告げながら、テーブルに代金を置いた上で――ステューシーも続いた。

 

 腰を上げると同時に、フレイの細くも引き締まった腕を、自身の豊満なふたつの肉饅頭で包み込むようにして抱き寄せながら――早く出番を寄こせと訴え続けている逸物が、トランクスの内側でビクンと跳ねた――ステューシーは、

 

「あなたもよく使っている、一番いい部屋をとってあるわ……♡ そこで楽しみましょう……♡」

 

 異論などある筈もなく、バーの扉を開けてから20分も経たない内に、ふたりの姿は、ステューシーが言った通り、フレイにとってももはや馴染み深い一室となった、国でもっとも大きくもっとも多くの娼婦を抱える娼館。そのVIPエリアにあって――足を踏み入れると同時に、フレイは目を剥いた。そこでは、少なく見積もっても、40は下らないであろう程の、煽情的なランジェリー姿の娼婦たちが待ち構えていて――フレイの姿を見るや否や、彼女たちはワッと歓声を上げた。

 

「ああ、フレイ様!」

「フレイ様よ! 本当に来てくれたわ!」

「フレイ様! 余計は前置きは無用です! 早速私に――」

「あっ、コラ! 抜け駆けするんじゃないわよ!」

 

 フレイが目を白黒させている内に、何人かの娼婦が彼へと駆け寄ってきた。が、それとほとんど同時に、ステューシーのヒールのついた靴が、ドンッ! と床を打ち鳴らして――たったそれだけで、娼婦たちの動きがピタリと止まった。

 

 どうやら、『歓楽街の女王』という異名は嘘ではなく、伊達でもないらしい。大きな音を聞いて、フレイも冷静になれた。そして、改めて娼婦たちを見た。3分の2ほどは、自分が日常的に抱いている見知った高級娼婦だった。例のハート形の紋様が腹部にあるのだから、まず間違いない。しかしそうではない初見の娼婦も何人かいて――これは一体どういうことなのかと、そんな意味を込めた視線を、フレイはステューシーに向けた。それを受けた妖艶なる夜の女王は、すぐに答えた。

 

「……ごめんなさいね? 騙すつもりはなかったのだけど……。どうしても、噂の真偽を――特に、夜明けまで励んでも一切衰えない、っていう絶倫振りを、この目で確かめたくてね……。急な頼みだったにも関わらず、皆一様に快諾してくれたわ……。貴方に抱かれたことがないにも関わらず、私と同じように、噂を聞いて興味を持ってくれた娘たちも……。これだけでも十分噂の信憑性を裏付けてるけど……。どうせなら、このまま見せてくれない? 例の底なしの精力を……。どの道、噂が本当なら、私ひとりだけじゃ満足できないでしょうし、ね……?」

 

 フレイはため息をついた。恐らく、これには何か「裏」がある――『見聞色』でステューシーの「声」を聴くまでもなく、フレイはそのことを察していた。

 

 が、あえて追求しようとも思わなかった。素直に答えてくれるとも思えないし、少なくとも、目前にいる集められた娼婦たちは何も知らないように見える。純粋に自分に抱かれる為に――あるいは、自分に関する噂を確かめる為にステューシーの提案に乗った筈だ。

 

 まずはいっぱしの男として、眼前の雌たちの情欲に応えること。ステューシーへの追及は、それからでも遅くない。フレイはそう思った。そう思って――「分かったよ」――短くそう言うと、テキパキとした動作で服を脱ぎ、あっという間に全裸になった。

 

 途端に、女たちからひと際大きな歓声が上がり、ステューシーが驚きで目を剥いたのが、フレイには気配でわかった。バーで彼女に出会った時から散々焦らされていた彼の逸物は限界まで怒張し、カウパー液を溢れさせた真っ赤な先端部が、天を突かんばかりに反り返っていた。

 

「余計な前置きは無用っていうのは、こっちにしても同じだ」

 

 一切物怖じしない様子で、フレイは言った。

 

「――()()

 

 簡潔な要求だったが、娼婦たちにはそれで十分だった。今度はステューシーも止めなかった。それどころか、腰を抜かしてしまったらしい彼女は、口を半開きにして荒い息を漏らしつつ、顔を赤く茹で上がらせながらその場でへたり込んでいて――そこで大人しく待ってろ。視界の端でそんな彼女の姿を見やりながらそう思ったフレイは、鍛え抜かれた裸体を一切隠そうともせず、悠然と手を広げて見せて――そんな彼の下へ、待ってましたとばかりに発情しきった娼婦たちが殺到した。

 

 数多の女の喘ぎ声と、水気を伴った反発音が室内に響き渡るまで、そう時間はかからなかった。




 やめて! 妙な力を持つフレイが「その気」になってハメたりしたら、どんな女であろうと魂まで屈服されちゃう! お願い! 堕ちないでステューシー! アンタ程の女が堕ちちゃったら、他に一体どんな女ならフレイに抗えると言うの!? 精神力(ライフ)はまだ残ってる! ここを耐えればまだチャンスはまだあるんだから!

 次回、「ステューシー、堕つ」

 濡れ場(デュエル)、スタンバイ!
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