ステューシーの策謀に端を発した、後にイングナル・フレイの武勇伝(?)のひとつとして、後世に語り継がれることになる『マジワ・レーヤの大ハーレム』は三日三晩続き、しかもその際には、ステューシーが事前に集めた女たちだけではなく、様子を見に来たり事態の収束の為にやって来た娼婦たちまでもが次々と発情。
度重なる性行為によって極めて濃密なものとなったフレイのフェロモン。それにヤられてしまった彼女たちは、彼を中心とした色欲の大渦に巻き込まれることになり、やがては当然の帰結として、如何にそれなりの広さを誇るVIPルームと言えど手狭に感じられる程の規模となったハーレムプレイは、廊下や大広間といった娼館のあちこちで行われこととなった(途中からはフレイも
行われることとなって――館内のあちこちに、頭の
とはいえ、それでもやはりヤリ過ぎた。女に対しては無双とも言える魅力を持つフレイではあったが、逆に男に対してはそこまでの効力は見込めない。
いや、
そんなこんなで、問題を解決する為に驚く程の団結力を見せた、各娼館の支配人の男たち。彼らによって娼館から叩き出され、何ならマジワ・レーヤの色町への出入りそのものをしばらくの間禁止されてしまったフレイは――
抱き通した娼婦たち全員が自分について行きたがるであろうことは容易に想像がついた為(他の国で抱いた娼婦たちも殆どがそうだった)、自身が与えた快楽に彼女たちがヤられてロクに身体を動かせない状態でいる内に、本当に殆ど夜逃げするような形での出航となったが――万事フレイの思い通りという訳にはいかなかった。彼の予想を超えて、彼との同行を実現させた女がいたのだ。
それが、今回の事件(?)の発起人とも言える――そうだ、おれは悪くない。そもそも誘ってきたアイツが悪いんだ、とフレイは自分に言い聞かせた――ステューシーだった。今回の一件で抱いた娼婦たちの中でも(もしかしたら彼女は娼婦ではないのかもしれないが)、唯一最後まで明瞭な意識を保ち、もっとも多くフレイに抱かれ、もっとも多くの子種を子宮に受け止めて見せた女傑だ。
時刻は夜の8時過ぎ。支配人たちに追い出された直後、そのままの流れで、そこまで多くない荷物を持って、港に泊めていた中型船――少し前に
月明かりを照らす海面を背景にした彼女の姿はゾッとするほど幻想的で蠱惑的だったが、だからと言ってフレイは、なあなあで流れに身を任せたりはしなかった。
もう貴方なしでは生きられない身体にされちゃったから、どうか私も連れていって欲しい。自分の姿を認めるなり、ステューシーはそう言ったが――正直、聞き飽きた文句だった。それまでの立場を捨てて自分についてこようとした今までの娼婦たち全員の台詞が、大体そんな感じだった――ので、フレイのほうも、(ややウンザリしながら)定番の文句を返すことにした。「断る。女は好きだし抱くのはもっと好きだけど、船旅だけはひとりのほうが性に合ってるんだ」――と。
無論、真実は違う。これまでに抱いた
何の因果関係もない非科学的な思考であることは重々承知していたが、フレイは本気でそう思っていた。そう思っていたので、今回も断った。ステューシーの同行を。彼女の決意と決断を、否定した。
……というよりは、断ろうとした、というのが正確かもしれない。つまり? そう――結局は、彼女の同行を認めたのだ。その瑞々しい紅いルージュが塗られた唇から紡がれた諸々の説明を受けて、フレイはそのように考え直した。それが最善だと。
ステューシーが、『歓楽街の女王』以外にも、
少し前に、
事前にそのことをなんとなく察しつつ、後で追求しようとも思いながらも、結局は有耶無耶になってしまったが――正直、
なんだったら、ステューシーも知らないようだった。どうも、(驚くべきことに)CPでは、詳細や意図が知らされないままの任務の従事は珍しくもなんともないとのことらしいが――何故、自分がそのような任務を言い渡されたのか? 何故、世界政府が、フレイの存在に興味を持ち、引き抜きを行おうとしているのか? ということを、ステューシーは全く知らされていなかったらしくて――フレイは大いに困惑した。先のふたつの疑問もそうだが、その手段としてハニートラップを選択したのも疑問だった。
腕が立つ人間が欲しいというのなら、何故普通にそう言って勧誘しようとしないのか? こうした謀略についてはズブの素人だと自覚しているフレイではあったが、そういった真っ当なやり方が上手くいかなかった後でも、貴重な女スパイを使っての篭絡という手段を用いるのは遅くはないだろう? と。
どれだけ考えても答えは出ない。答えは出なくて――だからこそフレイは、渋々ながらも、ステューシーの同行を許した。どう考えてもそれが、政府の追っ手から逃れる為の最善手だったからだ。元CPである彼女の協力を得られれば、これからする逃避行は間違いなく多少は容易なものになる筈で――そして当然のように、ふたりの船旅は非常に淫らで
有り体に言うと、ヤりまくった。周りに人目がない船上というメリットを最大限に活用して。
元々はそういった行為で骨抜きにされたが故に、ステューシーは同行を嘆願したのだからそうなるのは必然で、フレイ自身も、「女は好きだし抱くのはもっと好きだ」という前言に違わず、渋々と――そう、あくまでも渋々とだ。別に、彼女の垂涎モノの肢体を、自分だけが思う存分に貪れるシチュエーションを嬉々として受け入れた訳ではない。ないったらない――彼女を抱きに抱く生活を受け入れ、それでもやはり、避妊薬の服用は徹底させた。
ステューシーは不満そうだったが、事情を説明することで何とか――本当に、何とかわかって貰えた。当たり前と言えばそうだが、自分に惚れ込んだ彼女にとって、実は他に好きな女がいてしかもまだ諦めることができなくて、だから妊娠のリスクはできるだけ排除したい、という主張は、まったくもって面白いモノではないらしく――それでも、同意のない、文字通りの「種付け」を
また、その魅力的に過ぎる肢体を好きにできること以外のメリットがない訳ではなかった。当然だが、世界政府がフレイの身柄を諦めた訳でもなければ、その理由も明らかになった訳ではなくて――だからこそ、ここでステューシーの有用性が際立った。
まず彼女は、
どう考えても時間稼ぎにしかならないだろうが、それでも良いとフレイたちは考えていた。今の生活を失うことが全く惜しくないと言えば流石に嘘になるが、同時に、元逃亡奴隷という経歴の関係上、心のどこかでは覚悟していた展開でもあった。それが今回いよいよ現実のものとなったというだけで、自分に心身を捧げる覚悟を持つ仲間ができたことを考慮すれば、プラマイゼロでそう悲観する程の状況ではない、とも。
実際、ステューシーは有能だった。流石は元CPの人間だけあって、
そこに彼の「見聞色」が合わさることでふたりの逃避行は万全なものとなり、お陰様で、流石にステューシーの報告内容を不審に思ったらしい政府が差し向けた追加の諜報員たちとは、顔を合わせることさえなかった。そうなる前に毎回姿を消していたからだ。
相手からすれば、煙を追っているようなものだろう。勿論見返りは昼夜問わずのまぐわいと、その果ての大量
新たな事実とは簡単に言うと、「フレイの精を胎内に蓄えれば蓄えるほど
まあぶっちゃけた話が、単に互いにとって気持ちいい、気持ちよ過ぎる行為だからヤりまくっていたという、それだけの理由でしかないのだが――それでも、フレイがオルビアのことを忘れることはなかった。
決して忘れることはなかったが――しかし、彼女との再会を求めて、その情報を得る為に各地を放浪する旅を始めてから、既に5年。元諜報員のステューシーの協力(恋のライバルの捜索ということで非常に渋られはしたが、より激しく濃密な「
これまでの5年間、決して考えないようにしてきた可能性で、それは即ち、既にオルビアとその仲間たちは、どこか自分の知らない所で、その生涯を終えてしまっているのではないのか? というものだった。
なんといっても、彼女自身が――手紙の中で、だが――自分たちの研究内容が世界政府によって禁じられているものだと認めていたものだから、これは決して大袈裟でもなければ悲観的でもなかった。自分が同じように政府の人間から追われる立場になって、フレイは改めてその可能性を危惧した。
自分は同行者がステューシーだけであることと、元CPである彼女の惜しみない協力のお陰で、難なく追っ手を撒くことができてはいるが――オルビアたちは? フレイが思い出せる限りでは、仲間は30人以上いたし、それでは自分たちのような軽快なフットワークも望めまい。
無論、そういった研究をしている関係上、そもそも政府に悟られないような立ち回りを彼女たちがしていて、それが今も続いているというのならば話は別だが――流石にその考えは都合が良過ぎるだろう、とフレイは思っていた。
ステューシーに聞いたところ、CPだった頃にそういった話――オルビアたちのような違法な研究に従事している者たちの存在――を聞いたことはないらしいが、だからといって安心はできないというのが、ふたりの共通した見解だった。前述したように、CPはその任務の特性上、仲間内での情報の共有が意図的に制限されているからだ。ステューシーがフレイを手籠めにしようとしていた一方で、別の人間、もしくはチームがオルビアを追い回している可能性は、十分にあった。
決断の時が迫っていた。フレイは苦悩した。ステューシーはオルビアとは違う。ステューシーではオルビアの代わりにはならない。断じて彼女の前でそれを言葉にしたりはしないがやっぱりそれは揺るぎのない事実で、しかし一方で、ステューシーが極めて献身的に、フレイに寄り添ってくれていることも確かだった。
その心身を捧げながら、別の女の足取りを追う自分に対して――少なくとも口に出しては――決して批難せず、どころか、率先して情報の収集にも協力してくれた。政府の追っ手から逃れる為の知恵を授けるのと並行しながらも、だ。
前者についての結果は芳しいものではなかったが、かと言って、そうした一連の力添えを軽視するフレイではなかった。これ以上、オルビアの足取りを追うことは、ステューシーに対する不義理に当たり、いい加減そろそろ諦める必要がある――と、そう思い始めた時だった。
ある時フレイは、1枚の手配書と、定期的に購読している新聞の一面を目にして、衝撃を受けた。手配書にはなんとオルビアの写真と名前に、7900万ベリーという金額。更には、(「手配書」である以上は当然だが)「DEAD OR ALIVE」――「生死問わず」の文字。
そして、もう一方の新聞の一面。そこには、次のように記されていた。
――「違法な研究をしていた疑いのある『オハラ』の考古学者が脱獄。故郷への帰還が目的か。政府、異例の高額初頭手配へ」
◆ ◆
一方――それから数時間後のオハラ。「考古学の聖地」とも呼ばれるその場所では、イングナル・フレイの予想通り――否、それ以上の事態として、島そのものが、海軍の艦隊による一斉砲撃を受けていた。その攻撃の激しさは、まるで、島そのものをこの世から消し去らんとしているかのようで――実際、その通りだった。『バスターコール』とは、そういうものなのだ。
『バスターコール』。
5人の『中将』と10隻の軍艦という、国家戦争クラスの戦力による無差別殲滅攻撃を第一とした、海軍本部が定めた作戦行動のひとつ。
3人しかいない『大将』とただひとりの『元帥』のみが発令権限を持っているという関係上、それが実際に起こることは稀だが――だからこそ、
現に、数時間前は至って平和そのものだったオハラも、今となってはその面影もない――永遠に続くのではないかと思われる程の砲撃の嵐。島全体から上がる火の手に、天へと立ち上る黒煙。爆発音の合間を縫って空気に響き渡る悲鳴と倒壊の音。
まるで太古より人々を苦しめてきた災害を、無理矢理人の手で再現しようとしているかのような地獄の所業。海軍や政府の役人たちにも、彼らなりの『正義』と『主張』があるのだろうが――そうやって納得できる人間などまずいない。それが、殲滅対象となった場所で長年暮らしてきた人間ともなれば尚のことだ。例えばそう――現在、海岸線を走っているひとりの少女のように。
(どうして……!)
どうして――こんなことに? 少し前から、少女の胸中にはその言葉しかなかった。それでいて、納得のいく答えは一向に浮かばなかったし、心のどこかでは、浮かんだところで何かが好転する訳ではないとわかってもいた。今の彼女にとっては、同じ場所に長い時間留まってはいけないというのが唯一確信が持てることだった。……だからといって、どこに向かえばいいのかを知っている訳でもないのだが。
ニコ・ロビン。
それが、少女の名前だった。肩口で切り揃えられたストレートの黒髪とアーモンド形の瞳、スッと通った鼻筋と黒いワンピースが特徴的な彼女は、わずか8歳という幼さにして考古学の博士号の獲得に成功した才女でもあるが――残念ながら、それらの知識も、海軍本部による殲滅行為という非情な現実の前では、大して役に立たなかった。
いやむしろ、それが足枷になっていると言ってもよかった。なんとなれば、この地獄絵図が作られることとなった理由こそが正に、「それ」を生業とした者たち――ロビンも大好きな、大勢の大人の考古学者たち。彼らの存在と研究記録を抹消する為、というものだったからだ。
――ムハハハハ……! さぁて、「オハラ」の学者たちよ……! たった今! ここに! 貴様らの「死罪」が確定した! まったくもって残念! 世界が誇る考古学者の集団が、今日という日をもって一同に命を落とすことになるとはな!
縦縞のロングコートに黒スーツという如何にも役人然とした長身の男が、そんな台詞を声高に宣言したのが、ほんの数十分前。
男曰く、学者たちの目的は、研究の果てに強力な古代の兵器を復活させ、世界に殺戮と混乱をもたらすことだ、とのことらしいが――賭けてもいい、断じて違う。仮に「古代兵器」とやらが実在していたとしても、それを使ってどうこうしようだなんて、そんなことを皆が企んでいる訳がない――ロビンに言わせれば考えるまでもない、冗談にもならない
決して、良い思い出が詰まった場所という訳ではなかった。むしろ、辛く苦しいことのほうが多かった。気づいた時には父はおらず――聞いたところによれば、海難事故によって亡くなったらしい――島が誇る考古学者のひとりであった母親のほうも、ロビンが2歳の頃に、『空白の100年』と呼ばれる、誰も詳細を知らない歴史を調べる為の旅に出てしまった。他の30人前後の仲間たちと共に……。
それ以降ロビンは、母の弟の家に引き取られて育てられることになったが、そこでの生活はお世辞にも快適で温かみのあるものとは言えなかった。
叔父の妻は酷く意地悪な人間で、とにかくことある毎にロビンを疫病神のように邪険に扱った。母がいなくなった悲しみに耐え切れなかった当初のロビンはしょっちゅう大泣きし、その度に
服も食事も寝る場所も明らかに制限され、ちょっとでも欲張り――と叔母が判断するような所作をすれば、「
やがてロビンは、あまり感情を表に出さなくなった。出したところでより邪険に扱われるだけだと学んだからだ。家の外も快適とは言えなかった。表情の変化に乏しく、更には、詳細のわからない「
悲しかったし――辛かった。どうしようもなく。
それでも、味方が皆無な訳ではなかった。島のシンボルでもある研究所を兼ねた巨大樹、『全知の樹』で活動している大勢の考古学者たちがそれで、
それが堪らなく嬉しくて、彼らといる時間を増やす為に――彼らの仲間になる為に、ロビンは勉強に勉強を重ね、考古学者となった。
もっとも、それ自体は祝福されても、『空白の100年』や、『
だが、恐らくは背伸びしたがりの全ての子供たちがそうであるように、どのような理由であれ、「子供だから」という主張を素直に受け入れられる子供は滅多といない。8歳という幼さで博士号を取得する程の才女であるロビンもその口で――恐らくは、そういった諸々の不満が、「あの時」の発言のきっかけとなったのだろう。
いや、失言と言うべきか――件の政府役人による「死罪宣告」の後、かの者たちに連行されようとしている女性が、正に自分の母、オルビアであるのではと予想したロビンは、激情に流されるままに、言ってはならないことを次々と言ってしまったのだ。即ち、
――もしかして……お母さん、ですか……?
――私の……お母さん、なんですか……?
――覚えてませんか!? ロビンです……! あれから随分大きくなったけど……覚えてませんか!? わかりませんか!?
――お母さんがいなくなって……寂しくて……。「次」があれば、今度こそは離れ離れになりたくないと思ったから……。だから……!
――私! 一生懸命勉強して、考古学者になったんです! お母さんと一緒に暮らしたいんです! 『
――『
間違いなく、失言だった。役人や海兵たちは、まさに
口走ってしまって――その代償は、あまりにも大きかった。例えそれが8歳の少女であろうとも、「条件」さえ満たせば問答無用で排除対象になり得るからこその『バスターコール』だ。
そうでなくとも、奇妙な
どうして――と、最早何度目かもわからない、同様の単語を頭の中で巡らせるロビン。巡らせながらも、彼女は海岸を駆ける足を止めなかった。涙も止まらなかったが――直前に言われた、最近「友達」になった『サウロ』という巨人族が
――泣くなロビン、誇れ! お前の母ちゃんは……オハラの学者たちは、立派だでよ!
――だから、お前が語り継げ! ロビン! 「世界」と戦った母ちゃんたちのことを!
――ワシは一緒には行けねえ……! 捕まった……! だからお前だけでも……!
――走れ! 島から出るんだで! ワシのイカダで……! でないと命はねえ……!
――ええか? ロビン……今はひとりだけどもよ……! いつか必ず、「誰か」に会えるでよ!
――言ったろ? 世界は広いんだで!? だから……どこかにきっと、お前を守ってくれる「誰か」はいる!
――この世に生まれてずっとひとりぼっちなんてことは……絶対にないんだで!!
……その言葉だけを頼りに。その言葉だけを原動力に。
走って、走って、とにかく走って――そして、
「あっ……!」
思わず、足を止めた。耐えがたい恐怖が込み上がってきた。念願の人気のない海岸。海軍や政府の船からも見えないようなその場所に、しかし、ひとりの長身の男が待ち構えていたからだ。バンダナ、ロングコート、その下のスーツに至るまですべてを黒で統一した、長身でサングラスをかけた男――つい数分ほど前に、友人のサウロを
彼も、自分と同じ『能力者』に違いない、とロビンは思った。『悪魔の実』という果実を口にしたことで超常的な能力を手にした人間のことだが――その中でも間違いなく上澄みに違いない、熟達の実力者が自分を待っていたという事実は、幼い少女に更なる絶望を与える理由としては十分過ぎた。
が、奇妙なことに、切り株に座り込んでいるその男――確か、サウロからは『クザン』と呼ばれていた――からは、敵対心といったものを感じなかった。それどころか、
「――お前を、この島から逃がすことにした」
男はそう言った。彼の傍にある海面には、一隻の小舟が浮かんでいた。ロビンは戸惑った。
「サウロが守った『種』が、一体どういう人間に育つのか? それを確かめる為に……」
男の視線がロビンにチラリと向けられた――ような気がした。サングラスのせいで今いちわかりにくかったが……。いずれにせよ、そう思ったロビンの身体がビクリと震えたのは確かだった。
「お前が誰を恨もうとお前の勝手だが……。今は、命があっただけよかったと思え。……と、同時に……いいか? 覚えとけよ? おれは、決してお前の味方って訳じゃねえ……。これから先、サウロの献身を無駄にするような人間に、お前が育ったと判断した時には――いの一番にお前をとっ捕まえに行く『敵』だ……!」
「……ま、まだ島に……お母さんが……! クローバー博士や、他の皆も……」
「誰も助かりゃしねえよ――見ろ」
しゃくり上げながらロビンが言ったが、クザンの返答はにべもなかった。にべもなくて――ゆっくりと立ち上がりながら、ロビンの背後のずっと向こう側にある何かを、顎で示した。ロビンは反射的に振り返り――改めて全身を震え上がらせた。業火に包まれた『全知の樹』が――樹齢5000年を誇る巨木が、まるで枯れ木で造った城のように、バキバキと崩れていく。それによって、まだ中にいるに違いない、貯蔵された
「お……母、さん……」
ガチガチと奥歯を恐怖で鳴らしながら、それでもロビンは必死で言葉を紡いだ。そして、叫んだ。それでどうにかなると思った訳ではなかったが、そうせずにいることなど無理な話だった……。
「お母さあああああぁぁぁぁぁんっ!」
が。
しかし。
変化は、唐突に訪れた――上空から、巨大な金色の雫のようなものが、猛烈な速度を伴って『全知の樹』の根本の辺りに落ちた。かと思うと、そこから太く長い触手、あるいは
それを見たクザンとロビンが瞠目すると同時に、次なる変化――落雷を思わせる強烈な衝撃が大気を震わせ、島全体を覆っていた火の殆どがフッと消えた。と同時に黒い
全てが驚天動地。埒外の出来事で――ロビンは安堵よりも先に、大いに混乱した。クザンも言葉を失っているようだった。
そして――そんなロビンの正面に、(何故か)上空から降ってきたひとりの男が、殆ど音もなく着地した。息を呑む程に整った顔立ちと銀色の髪、紅の瞳が特徴的なその青年は、戸惑いの連続で満足に状況を把握することもできないロビンの頭に、ポンと優しく手を乗せると――とても温かい手だった。ロビンは、頭に置かれたその手から、とても心地よい「何か」が体内を巡って、それまで胸中を支配していた「恐怖」や「不安」といったものが、溶けるようになくなっていくのを感じた――こう言った。
「……もしかして、君がロビンかな? オルビアのひとり娘……。なんとか、間に合ってよかった……」
心地よい声だった。同時に、どこか蠱惑的でもあった。ここまで走りに走り続けてきたことで高まっていた体温が、まったく別の理由で急激に更に高まっていくのを、ロビンはハッキリと感じ取った。優しくて温かい手、良い匂い、心地よい
「もう大丈夫だ。君も、君のお母さんも、その仲間も、
だから――
「――後は、任せてくれ。必ず護る」
◆ ◆
本当の意味で神に愛されし男。
イングナル・フレイ、参戦――!