※この作品はR-18です。

ラストストロ〜希望なき異世界へ〜   作:来鹿鈴鹿

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第1話

「糞食らえだ」

 

そう言いながら自分のしたためた57000文字を消していく。

消えていく文字列が、男の網膜に焼き付き、心の内側を腐らせて行くような、薄ら寒い感覚があった。

男が35時間書いて仕上げたソレは、ものの数分で白紙に変わる。

いいようもない、虚脱感を感じつつ電源を落とせば、ディスプレイに冴えない男の顔が浮かんだ。

 

キーボード横に積まれたエナジードリンクは、既に30本を有に超え、鼻につく厭な匂いを発し始めていた。

男は何本かの缶を揺すり、まだ中身の入っていた何日前に空けたかも解らぬそれを呷る。

 

甘い、炭酸の抜けた泥の味がした。

 

視線を向けると、デジタル時計が04:11の文字を刻んでいる。

今から寝れば睡眠時間は2時間と30分。

ギリギリ仕事には間に合うが、睡眠時間は全く足りていない。

それでも、ベッドに倒れ目を瞑るよう努めた。

 

男の仕事はルート配送。

顧客の家を巡り、小さな部品の入った荷物を届ける。

普通自動車免許さえあれば誰でも出来る仕事で、少なくとも彼にとってやりがいを感じるものではなかった。

だからか……仕事に集中できず、5年目を迎える今でさえ微々たる昇給すらない。

存外、上司は男の仕事ぶりをよく見ていたのである。

 

先程口にしたカフェインのせいか、それとも数日前に医者から診断された病の影響か、心臓が跳ねるようで、全く眠さを感じない。不安だけが脳に溢れ、途端に強い吐き気を覚えた。

 

なにかしなければならない。

漠然とした焦燥感にかられ、男はまたパソコンに向き直る。

ディスプレイに浮かぶ男は、泣きそうな表情でパソコンの電源を入れた。

 

わかっている。

こんなことしている暇があるなら寝たほうがいい。

たとえ自分に才能がなくても、今の状態で書くより、寝てリフレッシュして、一度執筆から離れたほうがよい。その方がマシなものが書ける……筈だ。

 

男は慣れた手付きで、もう何千回も何万回も行っているコマンドを入力し、白紙のテキストファイルを開いた。

そして、恐ろしく早いタイプ速度で文字を刻み込んでいく。

 

今回は、あれを使おう。

まえにボツにしたあれはどうだ?

この前の受けなかったヤツを使い回すか。

脳内で物語の構成を考え、出力していく。

アイデアを練り上げ、1つのストーリーを紡ぐ。

それは、この男にとって唯一誇れる……

 

 

「……君は、何が書きたいの?」

「この物語の意味は何?」

 

男の手が止まる。

昔、共同創作者に言われた言葉が、胸の奥に深く刺さった。

 

マウスカーソルを動かしSNSを開く。

自分のペンネームで検索をかけると、もう数ヶ月前にあげた作品の評価しか表示されていない。

何度も見たそれを、男は再度読み直す。

作品に対するモチベーションを取り戻すための時間。

指は重く、思考は鈍い、そしてなにより心が軋む。

 

しかし、男は言い聞かせる、俺にはこれしかない。

下らない自己暗示、下らない、ああ下だらない。

だが、こんな自慰行為でもしないよりはマシだ。

 

開き治ってテキストへ向う…

 

ソコには無数の意味不明な文字列が羅列され、淡く輝きを放っていた。

目を擦るが、見間違えではない……ならば、夢か幻覚か?

とにかく、こんなもの早く消さなくては。

バックスペースキーを長押しにする。

そして、ボトリとナニカ奇妙な音が響く。

視線を向ければ、男の右腕が落ち、キーボードを長押しにし続けていた。

 

「……はぁ???!?」

 

間抜けな声が出るが、男の身体は消える文字列と同じ速度で消失していく。

男は鈍い頭でやっとこさ恐怖を覚え、自身から離脱した腕に左手を伸ばす、しかしその両の手にはもう指はなく、上手く掴めない。

 

「ちょ、まっ…」

 

なんとも間抜けな言葉が響き、たった数分で男の身体は、消えて無くなった。

 

男の消えた部屋に、白紙のテキストが表示されたパソコンだけが残された。

カーソルがひとりでに動き文字を刻む。

 

 

『ようこそ消えるべき世界へ』

 

 




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