一目惚れだった。
「花本■■くんって言うんでしょ?」
長く艶のある黒髪。
赤い瞳と、やや青ざめた色白の肌。
「どう、して」
初対面だった。初対面の筈だった。
「私も、その……名前を間違われる事が多いから。あっ、ち、違った?」
「……いや、合っているよ。ありがとう」
「あ、う、うん」
名前を間違えられなかった。
ただそれだけ。だが、他の人にとっては小さい事でも、僕にとっては大きかった。
恥ずかしがりながら微笑を見せる彼女の姿は、今でも脳裏に焼き付いている。
あの瞬間、灰色だった世界に色が付いて、彼女は輝いて見えた。
僕の名前を間違う人はとても多い。
親族以外は誰もが間違えて、きっとこの先の人生で誰も僕の名前を正しく呼ばないんだろうなって思っていた時だった。
彼女は、郡千景は僕の名前を呼んでくれた。
小学生の低学年の頃の思い出だ。
同じクラスで、転校して来た僕と千景の出会い。
それはまだ、彼女の母親が不倫をしていなかった頃の話だ。
今では、あの時の笑みを千景が見せる事は無くなった。
だから──、
「キョンチー!」
「ん?」
僕は両親の仕事の都合で一時期村の外にいた。戻って来た僕は村での発言力が強い祖父の実家に住んだ。そういった都合で周囲はへりくだり、村に馴染むのは早かった。
村社会とはそういう物なのだ。
「こいつのでっかいんだぜー!」
僕に付けられた渾名は……性器の大きさから取られている。最初はバカなガキが思いつく『ちんこマン』から始まり、色々と大人の都合で『キョンチー』となった。
男子生徒に知性を期待する事はできない。基本的に猿と思った方が良い。
猿に言葉は通じない。だから僕は家の力を使い、猿の調教師である親を経由して理解して貰った。結果として先生を含めたクラス中に僕の性器の大きさと家の凄さが知れ渡った。
そんな僕と猿たちだが、今ではすっかり仲良しだ。
「キョンチー、またネクラを見てるー! 絶対好きだろー!」
「好きだよ。それと、前にも言ったけどネクラは止めろ。……郡『さん』か『様』を付けろ」
「ヒィ!」
人よりも早熟な僕は、戻って来てすぐに村での立ち回りを覚えた。
力を持つ祖父を中心に跡継ぎとして気に入られた。
発言力の強い家の生まれであり、村の連中はそういった強い連中の意見には逆らえない。虎の威を借りる狐状態だったが色々と便利だった。
──例えば、不倫した千景の母親の醜聞、それにより発生する村の悪感情を、子供を除いた大人のみに向けさせるとか。
簡単では無かった。
閉鎖された村での出来事などすぐに広まる。
恥知らずが、と村の住人が蔑まない事は絶対にできない。
だから、あくまでも不倫した屑の両親は、不倫の為に娘すら利用していたという情報に捻じ曲げて、村民からの憐れみの対象になるように仕向けた。子供に罪は無いと。
他にもできることは祖父にお願いして、色々と行った。
「大変だったけどね」
「何が?」
「何でもないよ。あと阿婆擦れの子とか、淫乱女とかも呼んだら可哀そうだろ?」
「う、うん。キョンチー」
意味は分かっていないクラスメイトたちの思考力は低いが都合が良い。
僕は顔と家柄が良いらしいから、大抵の女子たちは理解度が高く、僕に従ってくれる。
「ありがと」
「う、うん……ッ」
クラスメイトの女子が一人顔を赤らめる。
これが黒髪ロングでもっと可愛ければ僕も嬉しくなったのだろうか。
僕はこのクラスの王様になっていた。
井の中の蛙、大海を知らない王様だが、村で動くには十分だ。
僕の話はもう良いだろう。
大人の罪は全て大人の物。それを理解しているのは大人だけだ。
千景の両親に関しては自業自得だ。
だが子供は違う。
大人の悪感情を読み取って、この子には何をしても良いのだと勘違いする。
暴力とか。服を破くとか。階段から付き飛ばすとか。
教科書を隠したり、机に傷をつけたり、そんな物は最低だ。
痛いのも苦しいのも嫌だ。そんな現場を見たら僕が嫌な気分になる。
無邪気な子供にはイジメという概念が理解できないのかもしれない。
千景の両親を大人が虐めているのだから、その子供を子供は虐めて良いのだ、という公式が子供の頭の中にはできる。
それは猿の脳では善悪の判断もつかず、何を言っても理解できないからだ。
だから、その公式の答えが少しだけ変わるように仕向けた。
僕は千景に目を向ける。
彼女の長い黒髪は光沢を帯びて輝いている。
このクラス、否、学校で彼女以上に美しい存在はいない。
何かを悟ったのか、先ほど話していたクラスメイトが僕の隣で壁に背中を預ける。
教室の出入り口近くの壁だ。
これから始まるショー、ここがベストポイントだと嗅ぎ取ったのか。
他にも本を手にするも視線は千景に向ける少年、雑談をしながらも目線だけを器用に千景に向ける少年。猿の中でも比較的頭が動く彼らは既に分かっているのだ。
僕といる事で得られる甘い汁を。
チャイムが鳴る。学校の朝の時間だ。
誰よりも学校に来る時間が早い千景は、家の中では居場所が無いのだろう。流石にゲームは学校に持って来られないからか、図書館で借りた本を読んでいた。
それは僕が来ても、他の人が来ても変わらない。黙々と静かにページを捲る。
文学少女とは彼女の事を指すのだろう。間違いない。
その端正な横顔は幼いながらも、可愛らしい。舐めたくなる。
将来、間違いなく美人になるだろう、その片鱗が伺えた。
クラスの女子たちも読書の邪魔はしない。あるタイミングを除いて。
「……」
小さな吐息を僕の耳が見逃さなかった。
本を閉じて、硬い木の椅子を引きずり、千景が立ち上がる。
学校の朝の会、ホームルームまでは時間がある。
トイレだろうか。千景がどこへ向かう途中だろうが、それは叶わない。
長い黒髪を揺らして歩く千景。
大和撫子と呼ぶに相応しい彼女だが、その背後に近寄る一人の女子。
クラスメイトの一人だ。
有象無象の一人、あまり記憶にないがその存在感の無さゆえに、忍者と渾名を付けている。忍者少女は音も気配もなく、しかし男たちの期待を背負って千景の背後を取る。
彼女は僕と女子グループに目配せした。
僕の学校は私服での登校だ。
名門の学校でもない、村にある学校に制服なんて物はない。
教室の出入り口付近で腕を組み壁に背中を預ける僕の目の前に千景は近づいてくる。
この日、彼女は私服のスカートだった。
背後から近づく忍者少女は躊躇いなく、しかし豪快にスカートの前面を掴み、捲り上げた。
──純白のパンツが露わになった。
「え? ……きゃあああっっ!!」
悲鳴を上げる千景に、彼女はお構いなしだった。
ショーツ丸見え状態。黒のリボンと白色の生地。当然ながら僕以外の男たちの視線も集め、千景の顔は羞恥で朱色に染まっていた。
普段から物静かな彼女の悲鳴は高く、耳に良く残る。
「いやっ! はなっ……してっ!」
暴れる千景だが、スカートは解放されない。
細く白い太腿は付け根まで良く見える。顔を赤くして必死に抵抗する千景だが、忍者少女は何かの運動をしていたのか、非力な彼女では叶わなかった。
脚を動かして、白い生地に皺が寄り、薄っすらと筋のような物が見える。
自分の視力の良さに、生んでくれた両親に感謝した。
「ごめんっ、ごめんねー、郡さん」
散々、ショーツを晒した上で彼女は千景を解放する。
へなへなと崩れ落ちる千景は俯いて涙目を見せる。
思春期の少女が異性に下着を見られる。
それはいったいどんな心境なのだろうか。
恥ずかしそうにしている表情は、僕の鼓動を高鳴らせる。
そんな中、千景のスカートを捲った忍者少女に近寄る少女たち。
「あー、忍。郡さんを泣かせた~」
「いーけないんだ、いけないんだ! せんせーに言ってやろ!」
「ちょっと~」
千景だけ捲られるならば、それはイジメだろう。
辱めたのならば、自らも辱められる覚悟を持てとばかりに少女が集う。
千景のみが弄られるという可能性を減らすように、お調子者の女子でノリの良い少女たちは忍者少女を羽交い絞めすると、僕をチラリと見る。
そして、彼女の履いていたスカートを大きく捲り上げる。
「郡さんの仇~」
「いやあああっっ!!」
可愛らしいハートのマークが付いたショーツだった。
クラス内に見せつけ、特に男子の目線を集中的に集めていた。
──だが、僕にとって有象無象のショーツなど、ほぼどうでも良い物だった。
「……」
男子たちの中で唯一千景に目を向ける。
忍者少女の犠牲の中で、逃げるように教室を出る千景。
ちょうど僕の横を過ぎる時の羞恥の表情は、たまらなく、美しく、愛おしい。
「……大丈夫?」
話しかけると、涙に濡れた千景が顔を背ける。
恥ずかしそうに俯き、決して僕と視線を合わせようとしない彼女。
少し悲しかったがそれで良かった。
その姿に、気持ち悪い程に笑みが浮かんでいたから。
「……っ、別に……たいしたこと……ないわ」
既に何度かスカート捲りをされているのに、未だに慣れないようだ。
先週も、その前の週もされているが羞恥心は消えていないようで安心した。
去っていく彼女を追いかけたい気持ちを堪え、隠し撮りした携帯端末を手に取る。
千景のあられもない一部始終がバッチリ映っていた。
「本当に、可愛いなぁ」
男子にとっては女子二人のショーツを楽しむ事ができた。
女子は僕の機嫌を損ねず、千景以外も辱める事でヘイトを減らし、表面上は不和も少なく、千景とも仲良くできている。実際に授業中に何かをしている事も無い。
教師も上からの圧力と子供たちの仲の良い態度に差別的な言葉も発しない。
千景は虐められない。
実に平和ではないだろうか。
誰もが得をしている。
イジメという答えに絶対に繋がる方程式ならば、その答えを少しだけ書き換えれば良い。
村の地位でも、顔の良さでも、なんでも使って。
身体に傷はつかない。
教科書も捨てられず、服を破られ捨てられる事もない。僕がいる限りは。
この村で、これ以上の良い方法は見つからない。
誰も彼女を助けなかったから、僕が助ける。
「だから、仕方ないよね」
助けてあげるから、恥ずかしがる姿を、もっと見せて。
耳を切られたり身体にも物にも傷はつかないから原作よりはマイルドなんだ。
何があっても身体にだけは傷がつかないんだ。