朝、早起きして家を出る。
早朝の冷たい空気を肺に詰め込んで、頑張って走って千景を見つけた。
彼女はランドセルを背負い、無言で歩道を歩いていた。
部活動をしている訳でもないのに異常に早いのは、やはり家庭環境によるものだろう。父親か母親か、流石に家庭内にまで干渉するのはどうかと思い控えているが、酷くなるなら家の力を使っても良いかもしれない。
声を掛けるか悩んだ僕は無言で彼女の挙動を見守る。声を掛ける事はいつでもできるが観察はそうでもない。特に登下校中などは希少だ。
一人だからこそ、無防備な姿を見ることができるのだから。
なので、忍び足で千景を追い掛ける。
追い掛けるだけなのだからストーカーではない筈だ。問題はない。
「……」
途中、千景の目がある建物を見た。
その視線を追うと村の公共のプールがあった。
周囲をフェンスで囲まれた屋根のないプールは清掃もされてなく苔が生えて汚れている。
「……」
それを見て溜息を吐く千景。
その姿に去年の夏の出来事を僕は思い出した。
◇
村の学校にプールはない。
だから通常の体育で水泳の授業は無い筈だが、村にある公共のプール施設を借りる事で水泳の授業が行われている。
屋根のないプールに更衣室と最低限の設備。
村の大人たちは基本的に使わない。遠出してより良い施設を金銭を払って使えば良いからだ。
代わりに学校の生徒が奉仕活動として毎年清掃して、お礼としてプール施設を使わせて貰い授業を受ける事が、いつからか村の行事扱いとなっていた。
監視する大人は事なかれ主義の教師一人だ。
救急車を呼ぶような事態にさえならなければ大抵の事は黙認する。隙あらばノートパソコンで自分の仕事を行うが、生徒はそれを誰にもチクらない。
なぜなら最初の二十分だけ軽い運動と少し泳いだら残りの時間は自由時間にしてくれるからだ。
幼い少年少女もその甘い汁を知っている以上、硬く口を閉ざしている。
そういった事情で、自由時間が始まると生徒は歓喜の産声を上げビート板を奪い合う。
男子はビート版を並べて水上歩行の訓練をしていた。忍者を目指しているらしい。
僅かに興味はあったが、僕にとって大事な方に目を向ける。即ち肌色広がる方へ。
プール授業では女子は指定のスクール水着の着用が決まっている。
様々な水着姿を見れず残念だが、同時に密着した紺色の生地が彼女たちの身体的特徴を露わにする。普段の私服では分からなかったが、意外と育った双丘や、肉付きの良さが一目で分かる。
そんな肌色空間の中での自由時間は千景を探す事から始まる。
「……」
見つけた。
千景は無言で周囲の女子に紛れるように水面を歩行していた。
体力消費を抑える為か泳ぐこともない彼女の慎ましい胸元に目を向けていると、背後の水面に潜水する人影を見つける。
水泳部だろうか、深く静かに潜行する彼女は千景の背後でザバリと立ち上がると、
「はい、注目────!!」
と、言って千景のスクール水着の肩紐を掴んで一息にずり下ろした。
露わになる慎ましい乳房。
発達途上ながら白く形の良い乳肉に、寒さによるものかツンと尖ったピンクの乳首。
無理矢理スクール水着をずり下ろされた反動で僅かに揺れた胸元を僕はジックリと見た。
「い、やああああァッッ──!!」
水着だからいつもの悪戯は無い。
そう油断していた彼女は心の準備もなく自らの乳房を周囲に晒してしまった。
「アッ! ……!! っ!」
緊張と混乱を混ぜた形相で、必死に水着を直す姿はたまらない。
その場で着直そうとして、腕の隙間から乳首が何度も見えていた。中々直すことができず僕は彼女の羞恥で涙目になる姿を間近で見ることができた。
最後は諦めて、胸元を腕で隠し、更衣室に走っていく姿が印象的だった。
可哀そうでもあり、興奮と衝撃が脳裏に沁みついている。
おかげですぐに思い出すことができた。
今年の夏も、千景のスクール水着姿を見る事ができると思うと楽しみだった。
◇
「……花本くん?」
「ああ、郡様」
「様付けは止めて……最近他の子たちも真似を始めてるから……。その、さっきから後ろにいたけど、どうかしたの?」
過去に想いを馳せると千景に見つかってしまった。
訝し気な眼差しを見せる彼女に言い訳をしながら、なんだかんだで一緒に登校する事ができた。
その日は体育の授業があった。水泳ではない、普通の授業だ。
教室で着替えて、体育館で女子を待つ。やがて体操着を着用した少女たちに僕は目を向けた。
転校してきて数年。彼女達の体操着姿には興味はない。唯一見るのは千景だけだ。
地味な長袖長ズボンと長い黒髪。
私服ではない体操着姿は新鮮さがあった。
そんな彼女含めた女子たちに不穏な影があった。
「きゃあ!」
少女の悲鳴が上がる。
僕が目を向けると、一人の少女が長ズボンをずり下ろされていた。
ノリ子だった。
黒とピンクの可愛らしい柄物のショーツがクラスメイトに晒されるのは彼女でも堪えるようだ。
「黒パンじゃん!」
「も〜、ちょっと〜」
同性に茶化されて顔を赤らめるノリ子。
その一連の流れに、千景は険しい顔を見せた。
「……また」
千景の懸念は分かる。
彼女が息を潜めている間も、次々に女子の長ズボンがずり降ろされているのだ。
その順番に法則性はない……訳ではなく顔の良さ、スタイル、彼氏の有無、カーストなど、女子世界での明確な優先度があると教えて貰った。
そして悪戯が決行される時、千景はほぼ毎回被害を受けていた。
「……」
千景は息を殺す。女子の背後に潜み影となり、更にはズボンの紐を強く結ぶ。
そんな彼女の姿を僕はキッチリと見ていた。
必ずその時が来る。
日々の悪戯で洗練された少女たちの腕に不可能など無いと信じて。
──凄いことが起きますように。
具体的にはどうとかは考えてない。
ただ漠然と神頼みをして、恐らく神は見ていたのだろう。
「はい、授業始めるぞ~、ん?」
遅れて体育教師が来て、千景の顔色が明るくなる。
女子たちの悪戯は終わり、整列する。
「それじゃあ二人組になっていつもの運動からしていてくれ。先生はちょっと遅れてくるから」
授業が始まり体育教師が告げた。
教材を忘れたのだろう、すぐに体育館から出て行った。
同時に千景は再び険しい顔色を浮かべる。
──二人一組になって運動する。
その言葉の残酷さは異常だ。
僕は問題なく二人一組になれる。大半のクラスメイトは普段の交流がある分、組むのは速い。
しかし、残念ながらあぶれる者もいる。
「…………」
千景だ。クール系黒髪美少女には友達はいなかった。
周囲の女子とは話す事はあっても友人と呼べる者はいない。それが郡千景だった。
ポツンと佇む姿は同情を誘う。
同性ならば助けられただろうに……。
以前までなら最終的に先生と二人で行うことになったか、隅で一人のままだったかもしれない。
「郡さん、やりましょー」
「え、ええ」
にこやかに笑みを見せる女子に、千景は頷く。僅かながらホッとした表情なのは一人にはならなかったことと、相手が普段悪戯するタイプの女子では無かったからだ。
つまり無害な女子、草食女子と千景は認識した。
千景の警戒が緩む。
くるりと背中を向ける。
互いに背中を合わせて相手を担ぎ合う体操。
先に千景が少女を担ぎ上げ、交代する。
そして、千景の脚が床から離れ、千景の身体が三十度ほど傾いた時、無言の少女が走って来た。
確か陸上部に所属していた女子だ。
走るのが好きだから、ラン子と心の中で名付けていた。
ラン子は担ぎ上げられた千景の長ズボンを掴むと一息にずり下ろした。
「ハァッ……!!」
躊躇いはない、一瞬の犯行だった。
「────」
千景は何も反応できなかった。
僕も無言のまま、ただ静かに目を見開く。
いつもの悪戯にしてはシンとした静寂が広がっていた。
露出した色白の肌。日焼けもしていない乙女の細い太腿が眩しい。
膝下までずり下ろしたラン子の手には長ズボンと白のショーツ。硬く結んだ紐の防御を貫こうと強く掴んだウエスト部分はズボンの中のショーツも含んでいたようだ。
視線を上に向ける。
太腿の付け根、千景の秘所が露わになっていた。
彼女が、いや女子が最も晒したくない女の花園。
鼠径部には黒の陰毛が生えていた。
薄くも乱雑に生えた茂みは、彼女の秘裂を隠せない。千景は恥毛が生えているという事実はこれからクラスメイトたちに広がっていく未来が容易に想像できた。
視線は陰毛の下に生えた女の恥部へ。
ナイフで切ったような一本筋はネットの画像と違い、白く柔らかそうで綺麗だった。
僅かに開いた陰唇からはピンク色の襞が覗き、千景に女の生々しさを抱かせる。
恐らく両親にしか晒してない恥部。
それがクラスメイトに、異性もいる前で晒された時、千景は困惑と思考が止まったように固まっていた。これから始まる羞恥の波の前に千景の認識が遅れているようだった。
「……ぁ」
その時間で、男子生徒の目には焼き付いただろう。僕の眼球にも焼き付いている。
加速する脳は、ここまでの出来事をスローモーションで映していた。
時が止まれば良いのに。強く思った。
「ギッ……! きゃあぁぁぁあああッッ……!!!」
数秒遅れた千景の反応は予想通りだった。同時に悪手だった。
状況を理解すると、かあああっと顔を赤くする千景。悲鳴に釣られて見ていなかったクラスメイトが何事かと振り返り目を丸くする。彼らは口々に話し出す。
「うわっ、郡って生えてるんだ」
「大人じゃん!」
「えー女子ってあんなんなんだ! お前らもあんな感じなの?」
「ちょっと男子ー、あっ、私は違うけどあの子はもっと生えてたわよ」
「郡様の綺麗じゃん……」
「胸小さいのに毛はしっかり生えてるんだな」
「お前最低だな、……トイレ行ってこよ」
子供というのは遠慮もデリカシーもない。
見た物をそのまま口にして、素直に感想を告げる。
何気ない言葉が担ぎ上げられた千景の赤面を色濃くする。
「は、離して! 早く!」
千景の悲鳴混ざりの指示に草食女子は答えない。
背中合わせで腕を組み千景を担ぎ上げた彼女に惨状は見えていなかった。
寧ろ急な命令口調と暴れる千景に、小さな悪戯心を抱いたのだろう。力を入れて地面に顔を近づけるように千景を持ち上げた。
必然的に千景の露出した恥部がより見やすくなる。
「イヤッ! ヤダッ! 見ないでッ!!」
咄嗟に両足をバタつかせる千景。
足首から長ズボンが落ち、辛うじてショーツを引っ掛けると暴れる事の虚しさが分かったのだろう。足を動かすのを止めると腕を動かして抵抗を強める。
「あっ……くっ、早く……離して……」
哀れな少女は自らの恥丘を隠す事もできない。
クラスメイト全員の視線を受けつつも、腕では隠す事も叶わない。必死に内腿を閉じて、膝を曲げて恥部を隠そうとする。だが今度は尻が丸見えの姿に加虐心をくすぐる。
「~~~~ッッ!!」
太腿をくねらせ全力で拘束を解こうとする千景が開放されたのは数秒後だった。
クラスメイトに恥部を視姦され、涙を瞳に溜める彼女は下着と長ズボンを穿き直す。
せめて人のいない場所まで逃げるかすればとも思ったが、混乱しているのだろう千景は背中を向けて尻を見せて急いで穿き直した。
恥部よりはマシと判断したのだろう。尻肉は叩きたくなるほどに揺れていた。
「……っ」
その後、草食少女の密林やラン子の無毛の大地が晒されたが、僕の眼中には千景しかなかった。
無性にドキドキしていた。
胸中を漂う言葉にできない感情、その名前を僕は知りたかった。
もっとジックリと千景の恥部や恥毛、その奥を見れたら分かったのだろうか。
千景は真面目だった。どこにも逃げずに必死に冷静さを装う千景の横顔を見る。彼女を見ていると鼓動の高鳴りと屹立する自らの物を押さえるのに必死だった。
「郡様……大人なんですね。僕もなんですよ。お揃いですね」
「……うるさい」
思わず声を掛けてしまった。
無言の涙目で睨まれ、ぶるりと身体が震えた。
「せんせー、トイレ行ってきまーす!」
きっと明日も同じ一日が始まる。
千景を辱める一日が。
──そう思っていた数日後だった。
白い化け物が世界中を襲ったというニュースを見た。
同時に僕の転校が家の方針で決まった。