漫画家志望の俺に義理の母と妹が出来たんだが、妹から一緒に漫画を描きたいと持ち掛けられた件 作:チャンドラ=グプタ
「和馬君。ほら、そろそろ起きて!」
「ん……」
誰かに身体を揺すられ、ゆっくりと目を開けると真美さんの顔が映った。
真美さん。わざわざ起こしに来てくれたのか……
視線を下すと、何やら真美さんの様子がおかしいことに気づいた。
「ま、真美さん! どうして服着てないんですか!?」
なんと真美さんは服を着ておらず、全裸であった。
昨日、脱衣所で覗き見たのと同じか、それ以上に綺麗な裸体である。
愚息は喜びを表現するかのように、一瞬にしてムクムクと膨張する。
「ふふ。こうした方が和馬君、喜ぶんじゃないかと思って。違う?」
「い、いや。それは、その……」
「昨日、和馬君が覗いてたの知ってたわよ。そんなに私のおっぱいが気になる?」
覗いていたこと、真美さんにバレていたのか。
真美さんは豊満に実る二つの果実を俺の顔面に近づけてきた。
それはものすごく柔らかくて、大きくて美味しそうだった。
「はい、物凄く気になります……」
正直に白状すると、真美さんは妖艶に微笑んだ。
「そう。なら……触っても良いわよ」
「い、いいんですか!?」
「ええ。和馬君の好きにして」
やった! 真美さんから直々に触っても良いと言われた。
俺はベッドから上体を起こし、真美さんのおっぱいに両手を伸ばした。
――むにゅっ。
ついにおっぱいが手に触れる。
欲望に身を任せて、おっぱいを揉みしだいた。
「あん……! 和馬君の揉み方、すっごくヤらしいわね」
すごい……めっちゃ柔らかい……
少し力を込めただけで、指先が乳肉に沈んでいく。
ずっと揉んでいられるくらいに気持ち良い感触であった。
まさに男を惑わす禁断の果実。
おっぱいを揉むのに夢中になっていると、真美さんがそっと俺の耳元に唇を近づけてきた。
「和馬君。エッチ…………しましょうか」
身体がゾクゾクし、全身に鳥肌が立つ。
「真美さん…………はっ!」
そこで俺は目が覚めた。
枕元に置いてあるスマホからけたたましいアラーム音が鳴っている。
さっきまで俺が見ていたのは夢で、実際は真美さんのおっぱいではなく布団を揉んでいた。
「な、なんつー夢を見てんだ、俺は……」
俺は虚しさを感じつつ、スマホのアラーム音を止めた。
自分の節操のなさに呆れてくる。
愚息は勃起こそしているものの、夢精はしていない。
もしも、あのまま夢を見続けていたら……真美さんとエッチするところまでいっていたのだろうか。
俺はベッドから起き上がり、部屋を出て一階へと降りる。
リビングに入ると、テーブルに並べられている料理から美味しそうな匂いがした。
真美さんはパジャマ姿であり、ソファーに座って朝のニュース番組を見ていた。
結衣の姿は見当たらないが、まだ部屋で寝ているのだろうか。
「おはよう。和馬君。昨日はきちんと眠れた?」
「はい。よく眠れました」
先ほど見た夢を思い出してしまって、真美さんと上手く目を合わせることが出来ない。
こんな綺麗な人とひとつ屋根の下で暮らしていて、果たして俺は性欲という名の魔物を抑え込むことが出来るのだろうか。
「それは良かった。それと……ごめんねさいね。朝ごはん、昨日の残り物で。他にも食材を買うようメモに書いておけば良かったわね。うっかりしてたわ」
「あ、いえ。全然、大丈夫です。朝ごはん、いただきますね」
俺はテーブルの椅子に座り、朝食を食べることにした。
真美さんが作ってくれたカレーは一晩寝かせたせいか、昨日よりもコクが深くて美味しかった。
朝食を食べ終えた後、学校に行く準備をした。
ちなみに真美さんによると、結衣は明日から登校するとのことだった。
「それじゃ、真美さん。行ってきます」
「うん! 気を付けてね、和馬君。行ってらっしゃい」
真美さんが手を振って、俺を見送ってくれた。
学校までは家から歩いて大体二十分ほどで到着する。
一軒家が立ち並ぶ住宅街を通り抜けて、海沿いを歩いていると、冷たい潮風が顔を撫でた。
磯の独特な香りが鼻孔を突き抜ける。
前方から工業地帯から昇る煙が目に入った。
この辺りは夜景スポットとして有名で、俺も漫画で煮詰まった時によく散歩に来る。
夜景を目的にやって来たイチャついているカップルを見ると、リア充への怒りからか創作意欲が湧いてくるのである。
線路を渡ろうとした時、踏切の警報機が鳴り響き、俺はその場で立ち止まった。
警報機が鳴り終わると、遮断機が下りてくる。
やがて、電車が『ガタン、ゴトン』と音を鳴らしながら俺の前を通り過ぎ、遮断機がゆっくりと上がっていった。
線路を渡ろうとした瞬間、背後から
「おはよー!」
「いっッてっ!」
背後から誰かにバシッと強く肩を叩かれた。結構、痛い。
背中を叩いてきたのが誰であるか、安易に想像はつく。
振り返ると、犯人はやはり
「おはよう……ってか、もう少し手加減しろよ。痛いな」
「ごめん、ごめん。そんなに痛かった?」
夏帆は茶色いボブの髪先を弄りながら、ペロっと舌を出した。
夏帆とは幼稚園からの付き合いであり、家も近所であるため、こうして一緒に登校することが多い。
「まぁな。ふわぁ……それにしても眠い」
まだ眠気が取れない。
これは授業中、居眠りしないよう注意しなくてはならないな。
「和馬、また夜遅くまで漫画でも描いてたの?」
「まぁ……賞の締め切りも近いしな」
夏帆は俺が漫画を描いていることを知っている。
さらに夏帆には俺が描いた漫画も見せており、製作中の『ドラゴンズ・アドベンチャー』も先週、見てもらった。
「そっか……きゃ!」
夏帆が突然、悲鳴を上げた。
急に強く吹き上げた風が、夏帆の短いスカートを捲り上げたのである。
夏帆はすぐさまスカートを押さえたが、時すでに遅し。
「み、見たよね?」
「見たか、見てないかと言われると……見てしまったな」
スカートの中がモロに視界に入ってしまったため、正直に告げることにした。
ちなみに結衣が穿いていたのは、黄色を基調とした水玉のパンツであった。
真美さんのむっちりとした脚とは対照的に、筋肉が引き締まっている小麦色の脚は実に艶めかしいと思った。
「そっか。そっか。それで……目は覚めた?」
「ああ、もうばっちりにな」
夏帆は俺の脛を軽く蹴り、「和馬のスケベ!」と罵ってきた。
もっとも、夏帆とは長い付き合いである。
この程度でガチの喧嘩になるほど、浅い仲ではない。
「ねぇ、ところで今日、和馬の家に行っても良い?」
「へ!? いや、それはちょっと……」
「なんでー? 締め切り近いんでしょ。家事とか、色々と手伝ってあげようと思ったのに……」
俺が家に来ることをやんわりと断ると、夏帆は不機嫌そうに唇を尖らせた。
俺が一人暮らしをしていることもあって、夏帆には時々、家事を手伝ってもらっている。
漫画製作についても、ベタ塗りやホワイト修正、その他諸々とやってもらっていた。
「えっと、実はさ……」
俺は父さんが再婚したこと。
それに伴い、義母と義妹が出来たこと。
そして、昨日から義母と義妹と一緒に暮らしていることを夏帆に説明した。
夏帆は目をパチパチとさせながら、俺の説明を聞いていた。
「新しい母親と妹って……何それ、ラノベ!?」
ラノベというか、昨日の感じだと官能小説と言う方が適切だろう。
某小説サイト、ノク〇ーンノ〇ルズで掲載されてもおかしくないくらいの出来事である。
「信じられないかもしれないけど、本当の話なんだ。だから、今日は……」
「分かった! なら、新しいご家族の方に挨拶しに行くね!」
「え、どうしてそうなる?」
てっきり諦めると思っていたのに、夏帆は何故か家に来る気満々であった。
「そりゃあ、これからも和馬の家にお邪魔するなら、挨拶しないといけないじゃん。それとも……何か問題でもあるの?」
「い、いや……ない。けど、俺が漫画を描いていることは新しい母さんには内緒にしておいてくれよ」
「え、どうして?」
「父さん、俺が漫画家になるの、反対すると思うんだ。その新しい母さんが知ったら……多分、父さんに伝えると思う」
「そうなんだ……了解。そこのところは伏せて、上手くやってみせるよ」
学校には八時二十分前に到着し、違うクラスである夏帆とは廊下で別れ、自分の教室に入った。
必死に睡魔と戦いながら、何とか今日の授業を乗り越え、放課後を迎えた。
スマホを確認すると、夏帆からメッセージが届いていた。
――四時に校門で。
端的にそう書いてあり、俺は『りょーかい』と返信した。
約束の時間になり、校門に向かうと、夏帆がスマホを弄っているのが見えた。
夏帆は俺に気づいたようで、ヒラヒラと手を振った。
「和馬―。こっち、こっち!」
「悪い、待ったか?」
「ううん。私も今来たとこだよ。早く和馬の新しい家族に会いたいなー」
「分かった、分かった」
この時間は部活をしていない生徒や受験を控えた三年生が帰る時間帯である。
もしも俺がサッカーを続けていたら、放課後の大半をグラウンドで過ごすことになっているのだろう。
高校でサッカーを続けたいという思いもあったが、俺は漫画を選んだ。
その選択に後悔は無いが、ふとサッカーを続けていた場合の自分も見てみたいと思う時がある。
夏帆と話をしながら歩いていたせいもあって、いつもより家に着くのが少し遅くなってしまった。
俺は玄関前にあるインターホンを鳴らした。
「ただいまー。真美さん、居ますかー?」
扉に鍵は掛かっていない。
二人で玄関に入ると、真美さんが出迎えてくれた。
真美さんは白い無地の半袖シャツに、チェック柄のショートパンツというラフな格好をしていた。
肌面積が多い恰好で、何とも目のやり場に困る。
その上、半袖Tシャツを見事に真美さんの巨大な
「お帰りなさい。和馬君。あら、そちらの方は……もしかして、彼女さん?」
「ち、違いますよ! ただの友達です」
夏帆に視線を移すと、驚いているのか目を丸くしている。
さらに小さな声で「すごい、でかい……」と呟いた。
うん。まぁ、気持ちはよく分かる。
「は、初めまして。中村夏帆と言います。今日は突然、押しかけてしまってすみません」
「あらあら、気にしなくていいのよ。和馬君の友達っていうなら大歓迎よ。どうぞ、上がって」
「はい! お邪魔します」
俺達は靴を脱いで、家に上がった。
真美さんが紅茶とお菓子を用意してくれるとのことで、リビングのソファーに座って夏帆と待つことにした。
「和馬……美人なお母さんが出来て良かったね」
「そ、そうかな……」
「うん……てか最初、義姉かと思ったよ! 何あのおっぱい!? エロすぎでしょ」
おっさんみたいな感想だな。
とはいえ、エロすぎるという意見は俺も同感であった。
現に俺も今日、卑猥な夢を見てしまった。
「お待たせ―。二人とも、良かったらクッキーどうぞ」
真美さんが運んできたのは市松模様のクッキーであった。
その模様を見て、ふと大人気漫画の主人公が脳裏に浮かぶ。
さっきまで特段お腹は空いていなかったのだが、甘そうなクッキーの香りに空腹中枢が刺激されたのか、食欲が湧いてきた。
「すごい美味しそうですね! これ、真美さんが作ったんですか?」
俺が訊くと、真美さんは「ええ、まぁ」と答え、テーブルに紅茶を置いた。
「和馬君が帰ってくる前に作ってたの。多めに作っておいて良かったわ。二人とも遠慮せず、食べてね」
クッキーはまさに出来立てという感じで、外がサクサクしていた。
甘さ控えめの丁度良い味で、見事に紅茶とも合う。
夏帆も美味しそうにクッキーを食べていた。
「真美さん……これ、すごく美味しいです!」
「うふふ。ありがとう、夏帆ちゃん。これからも和馬君と仲良くしてあげてね!」
まぁ、夏帆と仲が悪くなるなんてことはまずないだろう。
長い付き合いであるが、一度だって大きな喧嘩はしたことがない。
「はい! あ、そういえば娘さんもいるんですよね。自分の部屋にいるんですか?」
「ええ。良かったら、呼んできましょうか?」
「はい! ぜひ、お願いします」
真美さんは結衣を呼びにリビングから出ていった。
「真美さん、本当、良いお母さんだね。料理も上手だし、エロい身体してるし……」
「ま、まぁな……」
結衣の言う通り、良い母親なのだろう。
問題は、俺が真美さんのことを性の対象として見てしまっていることだ。
「美人だからって、変なことしちゃダメだよ?」
「し、しねーよ! そんなこと……」
そう言ったものの、自信は無かった。
何とか理性を保って、この共同生活を過ごそうと心に誓った。
やがて、真美さんがリビングに戻ってきた。
しかし、結衣の姿は見当たらず、困ったような表情を浮かべている。
「ごめんなさい。二人とも……あの子、恥ずかしいから部屋から出たくないって」
結衣の性格上、こうなることもある程度は予想していた。
夏帆には悪いが、結衣と会うのはまた次の機会にした方が良さそうだな。
「そうですか……急にお邪魔しちゃいましたし、娘さんとはまたの機会に会いたいと思います」
「本当、ごめんなさいね。あと、和馬君。結衣がなんか部屋に来て欲しいって言ってたから……悪いけど、行ってきてもらえるかしら?」
「へ? わ、分かりました……」
真美さんに促され、俺は結衣の部屋の前まで向かった。
コン、コンと部屋の扉をノックする。
「結衣、いるか?」
俺が呼び掛けると扉が開き、結衣が顔を出した。
結衣は私服姿で、英語のロゴが入ったピンクのTシャツと、デニムのミニスカートを穿いていた。
「お、お兄さん……入って」
「う、うん……失礼します」
結衣の部屋に足を踏み入れる。
昨日まで殺風景だった部屋は見事に模様替えされており、ミニテーブルや机、本棚といった家具が置かれている。
さらにはアニメグッズのタペストリーや机の上にはフィギュアがいくつも置いてあり、オタク色の強い部屋と化している。
部屋にある赤いクッションを指差し、「座って」と俺に指示してきた。
俺がクッションの上に正座すると、結衣は腕を組み、不機嫌そうに俺を
「あの……結衣さん。もしかして、怒ってます?」
「お、怒っては……いない……だ、誰? あの綺麗な……人」
「結衣……夏帆のこと、見たのか?」
結衣は夏帆のことを『綺麗な人』と呼んだ。
実際、夏帆の見た目はかなり良い部類に入ると思う。
ずっと部屋に籠っていると思っていたが、俺達が家に上がるところを見ていたということになる。
「窓から……お兄さん達が……入るところ……見た」
「そうだったのか」
「あと……質問に……質問で……返さないで」
「わ、悪い……」
もしも結衣がジョ〇の世界の住人だったら、ぶち切れているところだった。
下手すれば結衣にス〇ンドで爆発されるところだったな。
「あの人……お兄さんが……漫画描いてること……知ってるの?」
「え、うん。知ってるけど……」
「そうなんだ……それじゃ、呼んできて」
「結衣、夏帆に会ってくれるのか?」
意外であった。てっきり、早く帰って欲しいと言い出すのかと思っていた。
「うん……漫画のことと、関係……ある」
「漫画と? よく分かんないけど、とりあえず結衣を呼んでくるよ」
俺は結衣を呼びにリビングに戻った。
当の夏帆は真美さんと談笑していた。
「真美さん、本当大きいですよね。羨ましいです。何カップなんですか?」
「えっとね…………あ、お帰りなさい、和馬君。結衣、怒ってなかった?」
ちっきしょう。聞きそびれてしまったじゃあねぇか……!
よし。後で結衣に訊いてみるか。
「まぁ……はい。夏帆、結衣が部屋に来て欲しいってさ」
「え、本当に!?」
「うん。一緒に来てくれるか?」
「もちろん!」
夏帆は軽い足取りで結衣の部屋へと繋がる階段を上った。
「いやー、妹ちゃんと会えるの楽しみ!」
「あの……おとなしい子だから、あんまりはしゃがないようにな……」
「はい、はーい!」
階段を上り切り、結衣の部屋の前まで移動する。
俺が扉をノックすると、すぐに結衣が開けてくれた。
「こんにちはー、妹さん!」
「こ、こんにちは……どうぞ、中に……」
俺達は中に入り、部屋に置いてあるクッションに腰を掛けた。
夏帆は部屋を見渡し、「すごい。フィギュアと漫画がいっぱい……」と呟いた。
一方、結衣は緊張しているのか、正座の状態で、脚をモジモジと動かしている。
「初めまして! 中村夏帆です。和馬とは幼稚園からの付き合いで、小さい頃からよく遊んでたんだ」
「は、初めまして……ゆ、結衣……です。えっと、夏帆さん……は、お兄さんが……漫画、描いていること……知ってるん……ですよね?」
結衣は昨日以上にたどたどしい口調であった。
恐らくだが、結衣は夏帆のような誰とでも仲良くなれる――いわゆる陽キャが苦手なんじゃないかと思った。
俺も基本的に陽キャは苦手ではあるが、幼い頃からの付き合いである夏帆は例外である。
「うん! 知ってるよ。漫画も読ませて貰ってるし。あと、ベタ塗りとか色々と手伝ったりもしてるよー!」
手伝いに関しては、本当にありがたいと思っている。
もしも賞を取ったら、一番に夏帆に伝えたいと考えていた。
「そう……なんです……か。じ、実は……お兄さん……と、一緒に……漫画……創ることに……なりまして……」
なんと結衣は俺と一緒に漫画を創ることを夏帆に打ち明けてしまった。
別に隠す必要もないのだが、何か狙いでもあるのだろうか。
「えー! そうなんだ。結衣ちゃんはどんな漫画を描くの?」
「まだ……描きかけ……です。か、完成したら……夏帆さんに……見て欲しい……です」
「いいの!? 見る、見るー!」
「あ、ありがとう……ございます……夏帆さんは……どんな漫画……好きなんですか……?」
「私はねー、斬撃の巨神とか、島須の狭間とか好きだよ!」
夏帆は漫画が詳しくない人でも知っているであろう、大人気漫画を挙げた。
俺や結衣とは違って、そこまで夏帆は漫画好きではない。
どちらかというと、テレビドラマの方を好んでよく見ている。
「島須の狭間……面白い……ですよね。アニメも……見てました……え、映画も……」
二人はお互いの好きな漫画について、語り始めた。
漫画の話をする結衣はとても楽しそうであった。
もしかすると漫画を創ることを打ち明けたのは、円滑にコミュニケーションを取るための結衣なりの配慮だったのかもしれない。
「結衣ちゃん。私が世界で一番好きな漫画は和馬の漫画なんだ! 応援してるから、頑張ってね」
「は、はい……頑張り……ます……」
「結衣…………ありがとうな」
夏帆の言葉に思わず胸が熱くなった。
夏帆は俺を応援してくれる数少ない人物。
もっと真剣に漫画製作に取り組もうと思った。
「お礼なんか良いって。それより二人の新作、早く読ませてね?」
「おう! 期待して待っててくれ。ところで二人とも……ちょっと公募に出す漫画、手伝ってくれないかな?」
賞に出す予定である『ドラゴンズ・アドベンチャー』の進捗が芳しくない。
何とか二人に手伝ってもらいたかった。
「あははは! もー、和馬らしいんだから。結衣ちゃんも手を貸してくれる?」
「はい……やり……ます」
「ありがとう、二人とも。恩に着るよ!」
二人を俺の部屋に案内し、漫画製作を手伝ってもらった。
夏帆にはベタやトーン貼りを担当してもらい、結衣には消しゴム掛けをお願いした。
二時間ほど作業し、気づけば外は暗くなっていた。
作業を中断し、玄関先まで夏帆の帰宅を見送ることにした。
「それじゃ、真美さん。今日はありがとうございました!」
「こちらこそ。また、遊びに来てね。ほら、結衣も挨拶しなさい」
「ま、また……来てくれると……嬉しい……です」
「ありがとう、結衣ちゃん! それじゃ和馬、また明日学校でね!」
「おう、またな」
夏帆の見送りが終わると、真美さんはキッチンで夕食を作り始めた。
俺は夕食が出来るまで自分の部屋で待っていようと思っていたのだが、結衣が部屋に来て欲しいと言ってきた。
部屋に入るなり、結衣は机の引き出しを開けた。
「お兄さん……今日……ネーム……出来た」
机の引き出しからピンク色のキャンパスノートを取り出した。
表紙には『ネーム』とマジックで書かれていた。
「え、もう!?」
昨日の今日でもうネームを描き上げたことに驚きであった。
ちなみにネームとは漫画の設計図のようなもので、コマ割りとセリフ、キャラクターの配置などを決める製作過程に当たる。
俺でもネームを完成させるのにそれなりの日数が掛かるため、結衣の創作スピードはかなりのモノであろう。
「うん。昨日、徹夜して描いた」
今になって気づいたが、結衣の目の下に薄っすらと隈が浮かんでいる。
「そ、そっか……頑張ったんだな。読んでも良いのか?」
「うん。感想、聞かせて」
俺は結衣からノートを受け取り、表紙を捲った。
1ページ目の上部には『ハーレム桃太郎』と、漫画のタイトルが書かれていた。