どきなさい!私は「お姉ちゃん」よッ!!Another 作:とろねぎ
次話への繋ぎです。
「むー...」
エリートオペレーターでもあり、エリートオペレーターギョクソウの妹兼恋人でもあるスズランは、悩んでいた。
彼女らしくない暗い顔をしていた。
「それで...妾の所にまで来てなんの用じゃ?スズラン」
二人きりの個室で、ワルファリンは多少の困惑と心配をしてスズランに質問をなげかける。
「...が...い...です。」
「なんと?スマンのぉ、最近少し耳が遠くって...」
「赤ちゃんが、欲しいです...」
「...誰と?いや、いいどうせギョクソウじゃろう。」
「...はい...」
「はあー...それで?今度は孕む男性器を生やす薬が欲しいと?」
「はいっ!」
「『はいっ!』じゃないわぁぁ!ここは産婦人科ではないわぁ!はあ、はあ...」
ビクッと驚いたスズランとは対照に、叫んでスッキリしたようでワルファリンはいくらかの錠剤が詰められたシートを二枚渡した。
「これは...なんですか?」
「こっちが例の生える薬、こっちが...排卵誘発剤じゃ。」
「っ!あ、まっ待ってくださいっ。こっちが...?」
「わかったわかった。裏に書いておいてやるから少しよこすのじゃ。」
「...あの...」
「なんじゃ?まだあるのか?」
「そうじゃなくて...前は、赤ちゃんは出来ないし、そんな薬作れないって...」
「...こっそり、の?近いうちにこんな話がされるのとは見越しておったわい。」
「...あっ、ありがとう、ございますっ!」
「ただし!」
大声にまたもやスズランは怯んだ。
「本当に子供を作るのか、それをあやつとしっかり話し合うのじゃぞ。いいか!?『しっかり』と、じゃぞ!?」
「は、はいっ!」
深くぺこりと頭を下げたスズランは扉を出る時にももう一度深く頭を下げて走り去っていった。
「感染者を親に持つ子供がどうなるか...あやつも知っておろう。」
静かになった個室で、長寿のブラッドブルートは独りごちた。
「んでまあ、リサの可愛さがちゃけぱねぇって感じでもうエモみ爆発、ウチまじテンアゲでマジやばい!...こうでしょ?最近の言葉って。」
「あっはっは、ウソっちそれもう古すぎ〜」
「ほんそれ。草生える」
ギョクソウの死語に塗れた発言をウタゲとアンブリエルは笑っていた。
「えぇ?最近のはずなんだけど...」
「最近って言っても何年前?って感じ。」
「...10年ぐらい前かしら?」
「いやいや(笑)やっぱ古いんじゃん。」
「嘘!?10年ってもう古い!?」
「なんかぁ、ウソっちって時々おばあちゃんみたいよね。」
「あ、分かる〜でも、そこが可愛いんだけどね〜」
「それなぁ〜...あれ?」
「どったの。」
「お、お姉ちゃんっ!」
談笑している三人のところにスズランが割り込んでくる。
「リサ?どうしたのそんなに急いで。」
「いっ、今いい!?」
「今?今は...あー...」
「ん、いいよ。行ってきちゃって。」
「そーそー、スズランちゃんに構ったげて、んじゃねー」
ゆるりとした物言いで譲る二人に感謝を述べてからスズランと向き合う。
「それで...お話って?」
「お部屋で...話したいです。」
「...あー、そっち系ね。それは...確かにここじゃ不味いわね。私の部屋行きましょうか。」
ごく自然に、きゅっと手を結んで歩き出す。
数分の移動中、ギョクソウはまた何かスズランが新しいものを発見したのだろうとでも思っていた。
部屋に着いて、スズランが二つの薬剤を見せてくるまでは。
「...まとめると、その二つがあったら子供を作れる、そういうこと...なのよね?」
「そうだよ!私、お姉ちゃんとの赤ちゃんが居たら、とっても嬉しいなって!」
尻尾を振りながら笑うスズランとは反対に、ギョクソウは少し思案していたのかいつもより暗い顔をしていた。
「...リサ。」
「うんっ」
「赤ちゃんだって、一つの命よ。それは分かってるのよね?」
快諾してくれるものだと思っていたスズランは、まさかの質問に酷く困惑する。
「もっ、もちろんだよ...?」
「なら良かった。あと一つ...感染者の子供は、生まれた時から感染者になる確率が急激に跳ね上がるの。」
「そう...なの...?」
「嘘つかないわよ。もしかしたら、最初からとてつもないハンデを抱えて生きていくことになるかもしれない子供を、あなたはちゃんと愛せるのよね?」
「...え?」
てっきり反対されるのかと思っていた。
小さな子供を誤魔化すように、マイナス面だけ教えて丸め込もうとしているのだとも思っていた。
しかし、今の一言は反対どころか...
「そりゃ、私だって欲しく無いわけじゃないけどさ...命を育てるってことにもっと責任を感じて欲しいの。」
ゆっくりと抱き締める。
いつもは落ち着いて安心させてくれる、ギョクソウの緩やかな鼓動の音も、今ばかりは少し早くそして力強かった。
「反対じゃないの...?」
「えぇ?そんなわけないわよ。私をなんだと思ってるわけ?もう...嬉しいに決まってるでしょ。」
「え、あ、良いの...?」
「あなたがしっかり覚悟することさえ出来たら。」
反対どころか大賛成だった。
「うん...少し、考えるね。」
「えぇ。」
素直なスズランは、目を閉じてギョクソウの胸に顔をうずめる。
そして考える。
妊娠中のこと、出産のこと、育児のこと
そして、子供がどれだけの症状の鉱石病を持っていて、例えば目が見えなかったり声が変だったり、体の一部が奇妙な形になっているかもしれないという想像。
それでも愛せるのか。
答えは、考えるまでもなかった。
「...うん...」
「大丈夫?」
「うんっ...私、赤ちゃんを産むの、頑張るね!」
それは、スズランなりの決意表明だったのだが...
「え゙」
「...えっ?」
虚をつかれたように間抜けな声を出した姉に思わず同じような声音で返してしまった。
疑問に思ったスズランが、胸から顔を出してギョクソウと目を合わせる。
「リサが...産むつもりだった?」
「?うん。」
「それは色々...不味いんじゃないかしら...ほら、リサはまだ体が小さいから、赤ちゃん出て来れないわよ。」
「...そうなの?」
「うん。あなたと赤ちゃん、両方危ないから。」
「なら...うん、諦めるね。」
「良かった...諦めてくれて...一応、帝王切開ってのもあるけど...」
「ていおー...せっかい?」
「お腹切り開いて赤ちゃん取り出すの。」
「うっ...で、でも!それでなら私は赤ちゃん産めるんだよね!?」
「でもダメ。」
「...なんで?」
「私が耐えられないから。」
「それってどういう...」
「リサの綺麗な可愛いお腹に刃を突き刺すなんてダメよ。何が嬉しくてあなたのお腹が切り裂かれるのを見ないといけないのよ。」
「...っ♡」
「なんか嬉しそうね。」
もう少し混みいるかと思われた二人の話し合いは、スズランが想像していたよりもかなりあっさりと終わった。
その後は、さっきのように抱き合いながら今後のことについて話して決めていった。
もちろん、子作りをする日のことも。