ジメジメとした梅雨が終わり、カラッと空が晴れやかになる季節。
夏。…いや夏休み!!はまだなんだけど。
サマランに海!祭りに花火!そしてフェス!俺にとっちゃ最高すぎる季節。
何だけど。
「え!?ライブ無くなるんすか!?!」
「無くなるってか、出す気ない。」
一番の楽しみでもあった4人での結束バンドの初ライブが見れ無くなる…なんて。正確にいえば出れないなんて…曲できてるし良いじゃん!
「星歌ちゃんいーじゃん!!曲も良いし!お金もあるじゃないっすか!」
「実力的な問題だ。出たいならまずオーディションな」
「……それはそう」
ちっくしょ…反論も何もできねぇ。そりゃそうだよ。実力大事だよ。くっ…俺に有名なプロデューサーみたいな力があればゴリ押せるのに…。
「この前はそんなことなかったじゃん」
ちょっとムッとなって一歩前に踏み出す虹夏先輩。可愛い。身内にはこんな感じなんかな。俺ももうちょい仲良くなりてーな。
「あれはお前の思い出作りの為に特別にな。あのときのライブみたいなクオリティだったら出さないから、一生仲間内で楽しく放課後やっとけよ」
めちゃくちゃ突っぱねるような発言をするけど優しさで詰まったんだろーな。
なんで誤解生みそうな発言ばっかすんだこの人。ツン強めって誤解されがち。
「三十路なのにいまだにぬいぐるみ抱かないとねられないくせにー!」
「まだ29だ!」
え、29歳なん?!!てかぬいぐるみ抱かないとねれないの!?やば、普通なら引くけど…てか普通に引いてるけど、寝てる姿は絶対かわいいんだろうな。
…でも29か…。うん……。いや…うん。
「……29で、ぬいぐるみ」
「田中テメェ、こっち来い。」
「……ははっ、虹夏先輩待ってーー!!」
ぶっ飛ばされる予感がしたので俺は虹夏先輩を追いかけてその場を立ち去る。危ねぇ。殺されるとこやった。
「…お姉ちゃんのばーかばーか!」
「…まぁほら…星歌ちゃんなりの優しさじゃないっすか?」
「…………分かってる…」
「仲いいっすもんね、2人。けど…バンドとして成長はしてると思うしオーディションも合格できますよ。」
「…んー…!!湊くんは優しいなぁ。」
「いい人そうランキング一位なんでね」
「それってどうでもいい人って奴じゃない?」
「……言わんといてください…」
ロインとかでは話してるけど、案外こうして直接2人で喋るのは初めてかもしれない。ドカドカとドラむの練習をしてる虹夏先輩を俺が座ってぼーっとしてる。
虹夏先輩にとっては練習中の暇つぶし感覚の会話だろうけど、こう言ったのんびりとした空気は結構好きだ。何も考えなくていいしな。虹夏先輩ギャップでカッケェーくらいしか出てこん。
「………まぁ、湊くんは…そんなことなさそうだけど……顔かっこいいし…たまにタバコ臭いから…そこら辺気をつければ…もっとモテちゃうね」
「えーそうっすかねー?虹夏先輩もカッコいいすよ。普段の可愛い感じとは違ってドラム叩いてる姿のギャップえぐい」
「……かーっ!…そうやって誰にでも素直に言うの良くないよ?」
「…ははー…俺はクズですけど思ったことは正直に言うんですよ」
「…うわ、そうやって女の子たぶらかしてるんだー」
「…俺は常に愛を求めてるのでね!」
胸に手を当て冗談混じりでそう言うと虹夏先輩はだまってしまった。え、なんかまずいこと言ったか?…練習に集中し始めただけか。
「………そっか…………」
「…はい……?」
「………私さ、小さい頃に母親亡くして父親はいつも家にいないから、お姉ちゃんだけが家族だったんだ…」
「………似てますね、俺と」
「…少しね……でも私にはお姉ちゃんがいたから。バンド始めたお姉ちゃんが寂しがる私をライブハウスに連れてってくれて…キラキラして幸せで」
似た境遇。けれどそこには大きな違いがある。虹夏先輩には、側に寄り添ってくれる人が1人いたこと。血の繋がった姉が…家族がいたこと。
俺にはアニキがいたけど……まぁあの人なりに寄り添ってはくれてんのかな。
「そんな私を見てたからお姉ちゃんはバンド辞めてライブハウスを始めたんだ…ここ…スターリーは私のために作ってくれた場所なの」
「良かったっすね…それじゃ…!…バンドで有名になって恩返ししないと」
「……っ…!うんっ…!それが私の夢…!お姉ちゃんの分まで人気のあるバンドになってスターリーを大きくするの!」
「……少し羨ましいっすね…俺にはそーゆー夢みたいなものないから」
「…湊くんもきっと見つかるよ…!…でも夢とかって…色んなことが落ち着いて安定してから見つかるものだと思うんだ…だからね?」
言葉を止めて、虹夏先輩はこちらに来る。何だ?と思っていると耳元まで顔を近づけてきて、先ほど止めた言葉の続きを言い放つ。
「寂しかったら…私に言ってね…?」
思わずドキリとしてしまう。…え何?俺乙女?こんなんでドキッとするもん?少女漫画とか読んでドキドキするけどさ…ここはいっちょカウンターで。誤魔化そう。
「………虹夏、からかうなよ」
「……ちょ、今のは湊くんが照れる流れでしょー!!」
「いやもう、露骨すぎるでしょ…虹夏怖い……帰ろ」
「ちょ、待って!嘘嘘嘘!ごめんってー!」
「ははっうっそー!」
「…っ!先輩からかうなー!!」
「ごめん…ははっ!ごめんって!」
何とか…誤魔化せた俺だが心情は穏やかではなかった。俺って歳上好きなのかなー。いや…でもひとりは別に歳上じゃねぇしな…。はぁ、虹夏は世の男子を勘違いさせる系女子だ。同じ学校の人。ドンマイ!
「と、言うわけでライブには出られないらしい!」
「え!?ライブに出られない!?」
俺と似たような反応をするのはへたっぴsの1人喜多郁代である。へたっぴsとは結束バンド内の楽器の上手さがドベの奴らのことだり郁代とひとり…。ひとりはまぁ個人だとすごくてチームだとダメみたいな奴。足速いけど、体育祭のムカデ競争とかで突っ走って皆転ばせちゃう〜。みたいな奴。
いや微妙な例えだな…なんだろな。
「正確には明日のオーディションで決めるって…」
「なんだ良かったぁ」
「俺も見に行くぜーい…ついでにきくりも」
「…、合格したら出演できるんですよね!」
「あはは、そうだねー」
虹夏の笑顔が張り付いているように見える。あれは郁代とひとりが不安の要因なんだよ!って思ってる顔だ!俺には分かる。でもしょーみ大丈夫でしょ。何とかなるべ。
「明日のパートはオケ流しとくからアテフリの練習だけしといて」
「リョウせん…この2人そんなやばいの……?」
聞いてる限り口パク見たいな感じにするってことか!?この2人そんなやばいん?え、まじか。しょーみとかわんちゃんとか何もなくダメダメなのか…。
「大丈夫…今回だけ」
「それフォローになってねぇよ」
リョウせんと小競り合いをしてると郁代は難しい顔をしてこちらを見る…それから頭振ってリセットするが…今度はひとりを見て難しい顔をする…。
「郁代…?なんか気になることあった?」
俺は気になったので彼女の側までいき、小声で聞いてみた。
「前、学校で聞いた時は私でも上手いって思ったのに…ここでは私と同レベルだから……」
「ぼっちでチームプレーに慣れてねぇんだよ。これから慣れたら化けるんじゃね?」
「…そういうことね……」
納得した郁代を横目にイソスタのストーリー消化をしてるとふと疑問に思った。
俺ここにいて良いのだろうかと。いやもう皆とは仲良いだろうけど…俺バンドメンバーじゃねぇしな。そもそも音楽もあんま分かんねーし楽器とかよりも身体動かしたりする方が好きなんよな…。バスケとかサッカーとか…えろい事とか、えろい事とかえろい事とか…。えろい事ばっかだな。
てか…正直男子1人は気まずい。
「…まぁお姉ちゃんも!リョウ並に上手くなれってことじゃなくてバンドらしくなってるのかどうかが見たいんじゃないかな」
「バンドらしく…」
「じゃあ飲酒、喫煙、女遊び、そして髪型をきのこにするべき。」
「イメージがこてこてすきるよ!!あと湊くんのこと指差さない!」
「……」
「……」
「……」
あーーーーー!!気まずい。気まずい気まずい!なんだそのバンドのイメージ。全てに当てはまるじゃん。え、俺ってもしかしてバンドマンだった?俺自身がバンドらしさを体現してた?
……なんて冗談は置いておいて、郁代とひとりはこちらをじーっと見ないでほしい。普通に気まずい…いやマジで。あと何でカツラ被ってきのこヘアーにしてんだよ。
「…あ、私と遊んでくれる女の人がいません……」
「下北のビレバン前にギター背負って気だるそうにしとけば寄ってくる。この前湊にやらせたら8人くらい寄ってきた。」
「皆いい子でしたよ。でも調子乗って買い物付き合ったら財布の中の金ぶっ飛んだ。」
「何してるのよ……」
「湊くん……」
「「しょうがないから私が…」」
「……あ、喜多さん…私が湊くんに出しますよ…?」
「…ううん、大丈夫よ!後藤さんは…お金は自分のために使って?」
「……うへ…」
「…。ふふふ」
やめて俺のためにー…なんて口が裂けても言えないけど…やっぱこれまずいよな。俺離れるべきじゃね?どうしたって問題起こるだろこのままじゃ。
「…やっぱりぼっちちゃん変わってるね」
変なこと考えてる俺に虹夏先輩は近寄ってきて、牽制し合う2人を見ながら俺に話しかけてきた。
「まぁ、変人って言われると首を縦に振るしかないくらいには変人だし」
「そっちじゃなくて、成長してるって話の変わってるだよ!」
「あぁ、そっち…確かに結構流暢に喋れたり…人の目見れたり最初よりはマシになってるかもな」
「湊くんのおかげかもね…!」
「そう…?……そうかも」
「そこはそんな事ないっすよーでしょ!」
だからこそ。
だからこそ俺は離れるべき……。
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オーディション当日。
私の視界は良好だ。周りには結束バンドの皆。目の前には店長と…何故か湊くんにくっついてるきくりさんと……私を見てくれる湊くん。
最近考えてた。何のためにバンドしてるのか。
最初は人気になってチヤホヤされたいなんて思ってたけど…。今はそんなことなくて…いやできればチヤホヤされたいんだけど……それよりも湊くんといたい…湊くんに会いたいって気持ちの方が大きくて…。
私が湊くんと出会えたのは。このバンドがあったから。虹夏ちゃんがこのバンドに誘ってくれたから。
どこまでの完璧で、高いところにいる湊くんの隣に立てるように…。
私なんかをバンドに入れてくれた皆と…人気者になってバンドをしていたい。
それが私の中で変わったこと!
だからこんなオーディションなんかで落ちるわけにはいかないっ!
言葉の代わりに音を出す。想いを乗せて掻き鳴らす。
「……」
「…みなくん…すごいの見つけたね。」
私を見て…湊くん
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「いいよ、合格。」
星歌ちゃんの声で結束バンドが合格したことが分かる。分かるのに俺はその場から動けなかった。
「ぼっちちゃ〜〜んすごいね〜!」
きくりもぼっちの方へと駆け寄っていく。才能を見つけた見たいな…そんな感じだろう。
「…ぼっちちゃん…あの演奏…」
「おええええ…!」
「ってあー!!ちょいちょいちょい!!………気のせいか……み、湊くん手伝ってー!」
「……湊くん…?ぁ、後藤さん…汚しちゃうわよ」
「ライブハウスで吐くなんて…ロックだね、ぼっち」
目の前で面白いことが起こってるのに動けなかった。
「……」
…鼓動が激しい。…初めて彼女のライブを見た時は面白さが100%で演奏なんて聞いてなかった。
でも今は演奏しか聞こえなかった。
よく分からないけど音で訴える…みたいな。そんな感じの迫力があった。
「ふぅ…………ぁ、湊くん…」
「…………」
「み、湊くん…!!!!どう…だった?」
「……ぉわ…っ!?ひとり…っ」
いつの間にか目の前に来てたひとりに俺は驚いてしまって、思わず立ち上がる。
するとひとりが演奏してる時よりもちっちゃく見えた。
当たり前だ。俺よりも20センチ…以上もちっさいんだから…。
「お、おう……良かったわ…」
何だこれ…。心臓がうるさい。
熱が身体中に広がっていくようなそんな感覚…。
いやもう自覚…がないなんて言えない。初めてだ。ここまで心が大きく揺さぶられたのは…。
だとすればこれはきっと。
「………本番もちゃんと見てるわ」
「……うんっ…!」
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ギャップで萌えすぎたかな。